歌舞伎

浅草歌舞伎「十種香」「源氏店」「どんつく」「熊谷陣屋」「流星」「魚屋宗五郎」

新春浅草歌舞伎  2024年1月

初歌舞伎は、尾上松也ら7人が10年の節目で卒業するという浅草歌舞伎。松也、中村米吉ら古典の大役にチャレンジする俳優陣の、若々しさに未来を感じて気分が明るくなる。観客の若め、着物姿や女性ひとり客も目立つ浅草公会堂で、各部9500円。

第1部は米吉が、時代と世話とで大奮闘。可愛いイメージだったけど、いい感じで貫禄が出てきたのが発見でした。中央あたりの良い席、休憩3回を挟んで3時間半。
まず中村歌昇がお年玉年始ご挨拶で、曲芸の難しさを力説してから、竹本の浄瑠璃で、文楽で2回観た「本朝廿四孝」の十種香の1幕。花作り簑作に化けているはずが、なぜか裃姿の武田勝頼(端正な中村橋之助)を挟んで、上手座敷に恋しい婚約者・勝頼の絵姿に見入る可憐な「赤姫」八重垣姫(米吉)、下手座敷に渋い黒の着物で敵に潜入中の濡衣(坂東新悟)と、重厚な様式美だ。勝頼は本物だと知った八重垣姫が、「柱巻き」などの振りで情熱的にかき口説く。前髪の貴公子・勝頼と寄り添う姿もきれい。橋之助は格好良いので、もうちょっと存在感がほしいな。
後半は非情な父・謙信(歌昇)が登場して、勝頼を塩尻へ使いに出し、討手ふたりに後を追わせちゃう。どうする八重垣姫、というところで幕。

休憩を挟んで「与話情浮名横櫛」から源氏店の1幕。2015年の玉三郎・海老蔵、昨年のニザタマが目に焼き付いている演目だから、どうかな、と思っていたけれど、お富の米吉がなかなか粋で世話物らしい伝法さがあって、引き込まれた。対する与三郎の中村隼人は、格好つけているのは悪くないし、片岡仁左衛門に教わったという形は見栄えするんだけど、なぜか肝心の色気がない。んー、残念。
蝙蝠の安五郎の松也が秀逸。下世話な小悪党の難しい役だけど、崩れすぎていない。コメディリリーフ番頭藤八の市村橘太郎も同様で、全体が上質な印象に。終盤、多左衛門の中村歌六パパが出てくるとぐっと歌舞伎らしい空気になるのも、面白かった。

1部の〆はお目当ての「神楽歌雲井曲毬」、通称どんつく。常磐津にのった風俗舞踊で、太神楽がテーマだけに初春らしくめでたい。荷持どんつくの坂東巳之助の、足の運びからして抜きん出て格好いいのが、三津五郎譲りでさすが! 亀戸天神が舞台だけど、今回のために浅草寺の背景を新調したそうで、気合い十分だ。
まず田舎者どんつくと太神楽の親方(歌昇)、太鼓打(中村種之助)が賑やかに鹿島踊。続いて田舎侍(松也)、若旦那(橋之助)、子守(中村莟玉)も踊り、白酒売(新悟)が言い立て。歌昇の曲芸・籠毬は失敗が多く、ちょっと残念。
どんつくのリードで一同「其様ええなら、おんらもええ」と声を合わせ、だんだん速くなるところが楽しい。実は先日習っただけに、一緒にくちずさみたくなっちゃう。芸者と大工(隼人)の艶、どんつくの滑稽なおかめから、最後はどんつくと親方の黒赤尽くしで軽やかでした~

日を改めて第2部を鑑賞。松也の頼もしさを実感した。休憩3回で4時間。
この日の年始ご挨拶は、中村種之助が上手に。そして幕開けは「一谷嫩軍記」から熊谷陣屋1幕。2012年先代團十郎の名演にはじまり、吉右衛門、芝翫、幸四郎、仁左衛門と観てきた演目だ。初役の歌昇は、亡き吉右衛門譲りの幸四郎から習ったとのこと。花道の出、竹本にのった「物語」、「制札の見得」と武張った感じは頑張っていたけど、大薩摩が入っての幕切れは、涙が先にたって虚無感、余韻が物足りないかな。10年、20年かけて磨いていくのでしょう。
妻相模の新悟、藤の方の莟玉、義経の巳之助(大河ドラマの円融天皇だものなあ)も健闘。後半でやはり、弥陀六実は宗清の歌六パパが出てくると、一気に舞台が締まる。

続く「流星」は、種之助がひとりで務める黙阿弥作詞の清元舞踊。リズミカルで巧いし、なんとも愛嬌があっていい! 流星が牽牛と織女に、雷夫婦の喧嘩を報告する、というそれだけなんだけど、なんと端唄にかぶれた亭主、威勢良く鳴らせという女房のいさかいがヒートアップし、子供の雷が止めに入り、隣の婆雷まで闖入するさまを、面を付け替え付け替え踊り分けて、思わず笑っちゃう。

最後は黙阿弥作「新皿屋舗月雨暈」から魚屋宗五郎を2幕で。2016年に芝翫襲名直前のパパ橋之助で観た、生世話ものだ。宗五郎の善人ぶりが寅さん的な愛おしさで、松也がうまく造形。妹お蔦の死に沈んでいたが、同僚のおなぎ(米吉)から、お家騒動に巻き込まれた非道な経緯を聞いて怒り心頭、禁酒の誓いを破ってどんどん酩酊しちゃう。あげく酒樽で格子を壊し、花道で見得を切るあたりが痛快だ。
後半は泥酔して磯部の屋敷に乗り込み、岩上(悪役もいける巳之助)相手に大暴れ。家老(歌昇)に「酔って言うんじゃございませんが」と台詞を聞かせる。終盤、酔いから醒めたらすっかり恐縮して、殿様(隼人)に詫びられて納得しちゃう展開はあんまりだと思うけど… 女房おはまの新悟が、典型的な世話女房ぶりでなかなかの安定感。もうちょっと背が低かったらバランスがいいのになあ。

ロビーの一角に気取ったフォトスポットを設けたり、終演後に皆で並んで、能登半島地震への寄付を募ったり、花形らしくて良かったです!

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流白浪燦星

流白浪燦星(ルパン三世) 2024年1月

 歌舞伎好きからよかったと聞き、新作歌舞伎「流白浪燦星」を配信で鑑賞。おなじみモンキー・パンチ「ルパン三世」を、戸部和久のオリジナル脚本・演出で。戸部氏は2019年「風の谷のナウシカ」が良かった、歌舞伎脚本・演出の戸部銀作の息子さんですね。ナウシカ同様、原作へのオマージュと「楼門五三桐」「青砥稿花紅彩画(白波五人男)」など歌舞伎の名場面をうまくミックスしていて、楽しめる。原作の無常観とかハードボイルド感とか、もうちょっと大人っぽさが欲しいとは思ったけど。2023年12月23日、新橋演舞場での公演。休憩2回を挟み3時間半。4220円。

時は安土桃山時代。御所から「卑弥呼の金印」入手のカギとなる宝刀「雄龍丸」を盗み出した大泥棒・流白浪燦星(片岡愛之助)と次元大介(なんと市川笑三郎)が、対となる「雌龍丸」を持つ初代・石川五右衛門(尾上松也)に対決を挑む。のっけから南禅寺山門の「絶景かな」の名シーン!  大川端風の峰不二子(市川笑也)、さらに因縁の銭形刑部(市川中車)が登場して、お馴染みの追かけっこに。
金印の超常パワーが欲しい太閤・真柴久吉(いまだに北条時政をからかわれる坂東彌十郎)と近習・長須登美衛門(中村鷹之資がりりしく)、そしてカラクリ人形で大金持ちとなった唐句麗屋銀座衛門(安定の市川猿弥)も刀を狙う。牢名主九十三郎(現役最高齢93才の市川寿猿さん!「四千両」ですね)の手助けで、つかまっていた五右衛門を釜茹での刑から救い出した流白浪は、五右衛門なじみの傾城・糸星太夫(尾上右近、実は長須の姉)が金印をつかさどる「饒速日(ニギハヤヒ)一族」の生まれ変わりと知って…。

早替り、登場人物そろってのだんまり、「籠釣瓶」オマージュの豪華な花魁道中、天下一の大泥棒の名をかけた流白浪と五右衛門の本水を使ったバシャバシャ立廻り、さらに幕切れは格好良く五人男から稲瀬川勢揃いのツラネ。もちろん盆やセリも駆使して、歌舞伎ならではの演出が盛りだくさんだ。お馴染みルパン主題歌とかを和楽器で聴かせるのも楽しい。なんやかんやで斬鉄剣の誕生秘話というおまけも。

役者陣は愛之助が真っ赤な羽織に「ふーじこちゃーん」とノリノリで、軽薄な感じがぴったり。松也に色気があり、やけに格好つけるところ、右近とのからみもいい。これから歌舞伎の中心を担う役者として期待! 2幕目冒頭で演目を解説する親切な通人は、まさかの緑のマモー姿で衝撃。堂に入った片岡千壽さん、秀太郎さんのお弟子さんなんですね~ 寿猿さんがお元気で、次元に「むしりが似合うじゃねえか」と言ったりするのはめでたいけど、五右エ門役者の思い出は澤瀉屋の現状を思うとちょっと複雑。

深読みするとニギハヤヒは古代、神武の大和朝廷に破れた出雲系王権を思わせる。歌舞伎の五右衛門はもともと、秀吉の明出兵で戦死した宋素卿の遺児というトンデモ設定だし、アウトロー視点が歌舞伎とルパンの世界観を結びつけているんだなあ。一方、猿弥さんのロボット長者ぶりや、報復の連鎖を絶ち、朝鮮出兵を終結させるというテーマは現代的で、作り込んでいます。金印に至る設定が難解で、観ていて集中力が途切れちゃったのは残念だったけど。

ちなみに配信の仕組みはわかりにくく、かなりイライラした。決して安くないのだし、使い勝手の改善を強く希望。利用したのは歌舞伎オンデマンド連携の配信プラットフォーム「MIRAIL(ミレール)」。ほかにHuluも。

「妹背山婦女庭訓」

10月歌舞伎公演 通し狂言「妹背山婦女庭訓」 第二部  2023年10月

初代国立劇場さよなら特別公演のラストは、エキセントリックなキャラばかり(プログラムの大島真寿美さんの解説より)の大定番「妹背山婦女庭訓」の後半。揃い踏みの大詰めに、これまでの感謝と新生国立劇場に向けた期待がこもって感慨深かった。それだけに御大・菊五郎さんの休演が残念だったけど。本館大劇場のやや後ろ上手寄りで1万4000円。休憩2回を挟み3時間半。

序幕は布留の社頭の場「道行恋苧環」で、日本画のような舞踊から後半、子供っぽい恋のバタバタが笑いを誘う。近松半二ものとして、軽快な竹本連中の安定ぶりが嬉しい。季節らしい紅葉のセットに、俳優陣は次代を背負うメンバーが揃う。橘姫の米吉が以前よりほっそりした感じで、優しくて、いい赤姫ぶり。モテモテ求女(実ハ藤原淡海)の梅枝はノーブルで謎めいているけど、やっぱり女方のほうが光るな。セットが明るくなって、元女を追いかけるお三輪の菊之助登場。この2人と並ぶと、ちょっと貫禄が多めか。

休憩でお弁当をつつき、いよいよお三輪の悲劇となる二幕目・三笠山御殿の場。入鹿の歌六は声に張りがあって、怪物というより生き生きした造形が面白い。鱶七(実ハ金輪五郎)の芝翫は金襴の武将姿に転じ、長袴を引き裂いてかついで引っ込んじゃったり、相変わらず芝居ならではの奇想が、おおらかでいい。謎の登場人物、豆腐買おむらの時蔵が余裕たっぷりだ。玄蕃に彦三郎、弥藤太は萬太郎。
短い休憩を挟んで大詰・三笠山奥殿の場。十握の宝剣が龍に変じるところがちょっとチープだけど、最後はまた紅葉いっぱいの入鹿誅伐の場となって、アクロバティックな立ち回りが痛快だ。菊之助による采女(うねめ)局の八咫鏡が威力を発揮し、代役・時蔵の鎌足が焼鎌をふるってあれよあれよ。上演は稀だけど、入鹿のラスボスぶり、物語がいきなり大状況に転じる「セカイ系」のストーリーは現代的です(再び大島真寿美)。大判事は権十郎。芝翫が劇場の未来への期待を語って、大団円となりました。

偶然にも隣に座ったお年寄が、国立劇場の設計・監修に当たったかた、御年93歳!で、「閉場前に観ておきたくてね」と。花道の位置、全自動の回り舞台・スッポンに抵抗した旧世代俳優とのバトルなど、楽しく思い出を聴かせて頂きました~
プログラムには役者たちが、国立劇場への思いを綴った色紙を寄せていて、どれも個性的で面白い。東蔵の「企画の若々しさ」とか、9月に亡くなった猿翁のどでかい「感謝」とか、右近のお茶目なびゃんびゃん麺(56画)や七之助の「バイバイ」とか、丑之助(菊之助の息子)の几帳面な安徳帝の絵、対照的に眞秀(寺島しのぶの息子)の不思議な赤い草木の絵とか。

思えば、個人的には2003年の志の輔さんから始まり、文楽鑑賞でずいぶん通った劇場です。軸は住太夫さん、簑助さんから最近は玉助さんになりました。歌舞伎ではなんといっても2012年、先代團十郎の熊谷が忘れられないし、2016年開場50年の3ヵ月連続忠臣蔵通しが見応えたっぷりだった。2019年に菊五郎さんの正月公演初日を体験して、格好良い吹き抜けのロビーで、めでたい鏡開きを見物したのは、文句なしに楽しかったなあ。この年は菊之助&梅枝の関扉も良かったし、2020年コロナ初期の大変な状況で、文珍さんを聴いたのも、今となっては懐かしい… ずいぶん先になりそうだけど、新開場を楽しみに。それまで厳しいだろうけど、伝統芸能を応援するぞ~

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四月大歌舞伎「与話情浮名横櫛」「連獅子」

鳳凰祭四月大歌舞伎 夜の部 2023年4月

歌舞伎座新開場十周年と銘打った公演。毎公演一世一代の感がある、貴重な40年来のニザタマコンビ「切られ与三」に、初歌舞伎座の知人夫妻と足を運ぶ。2022年に延期となり、なんと今回は直前の3日間、御年79歳の人間国宝・片岡仁左衛門が体調不良で中止しただけに、登場シーンから盛り上がりがひとしお。お着物、外人さん、アーティストっぽいかた等々で賑わう1F中央前の方、良い席で1万8000円。休憩2回で3時間半。

眼目の「与話情浮名横櫛」は木更津海岸見染の場から。お江戸育ちのお富・坂東玉三郎の貫禄、そして与三郎・仁左衛門の軽やかな若旦那ぶりが盤石だ。2015年に観た市川海老蔵(当時)は、ちょっと無理してたもんなあ。
ニザ様、「やっとお上からお許しがでて」と客席に降りて(コロナ禍以来初らしい)、ぐるりと歩いちゃって大拍手。実子に跡取りを譲ろうと、わざと放蕩している気の良さがにじむ。そして運命の出会い! じっと無言で見つめ合ってからの練り上げられた流れ、タマ様の「いい景色だねえ」がまさに、と思える。潮干狩りの浮き立つ空気や、幇間(市村橘太郎)、鳶頭(代役で坂東亀蔵がきびきび)のいかにもな造形も楽しい。
一転暗くなって、上演は珍しいという赤間源左衛門別荘の場。やや身も蓋もない展開ながら、シルエットになった二人の年齢を感じさせない色っぽさ。この場を出してドラマとして盛り上げようという心意気が感じられる。
休憩を挟んでいよいよ源氏店の場。タマ様の粋な落ち着きぶり、対するニザ様のほうは、タカリのくせに育ちの良さがのぞく拗ねた感じがさすが。音楽的なセリフ回しが見事だ。なんでも細い足を、コンプレックスからトレードマークにしようと思った演目とか。滑稽な藤八(片岡松之助)がいいバランスだ。
左團次さん休演で多左衛門に回った河原崎権十郎も、大店の番頭にはまっていて立派。チンピラ蝙蝠安の片岡市蔵はちょっと卑屈過ぎたかな。

長めの休憩の後、本興行では初という尾上松緑、左近親子の「連獅子」。これがなかなかの見物でした。17歳左近ちゃんの必死さ、指先にこめた力。松緑の家族というと、どうしても複雑な心情を連想しちゃうんだけど、そんなことは関係ないラストの毛振りパワー! 客席も途切れなく拍手を送ってた。そういえば2018年、当時13歳のいっぱいいっぱいの染五郎にも感動したなあ。
加えて間狂言「宗論」の権十郎、板東亀蔵にメリハリと品があって大満足。杵屋勝四郎以下の長唄陣、笛や太鼓も何故かイケメン揃いでした。

大向こうがようやっと全面解禁となり、十周年記念緞帳の東山魁夷「夜明けの潮」の青緑も爽やか。地下を含め、お土産もいろいろ新調されていて、芝居見物を満喫しました~

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2022喝采づくし

いろいろあった2022年。エンタメを振り返ると、やっぱり特筆すべきはコンサートで、ドームを巨大ディスコに変えたブルーノ・マーズ、そして年末のピアノ一台の矢野顕子。全く違うジャンルだけど、どちらもライブのグルーブを存分に味わいました。

そしてようやく実現した、團十郎襲名の「助六」。いろいろ批判はあっても、この人ならではの祝祭感が嬉しかった。ほかに歌舞伎では「碇知盛」の菊之助、梅枝が頼もしく感じられ、初代国立劇場さよなら公演がスタートした文楽「奥州安達原」は玉男、勘十郎、玉助らが揃って充実してた。

オペラは新国立劇場で意欲作が多く、なかでもバロック初体験のグルック「オルフェオとエウリディーチェ」の、音楽、演出両方の端正さが忘れがたい。ともに読み替え演出のドビュッシー「ペレアスとメリザンド」、ヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」も洒落ていた。問題作「ボリス・ゴドゥノフ」は衝撃すぎたけど… クラシックの来日ではエリーナ・ガランチャの「カルメン」が格好良かった。

演劇は野田秀樹「パンドラの鐘」、トム・ストッパード「レオポルトシュタット」が、それぞれ今の国際情勢に通じるメッセージ性で突出していた。井上ひさし「紙屋町さくらホテル」やケラ「世界は笑う」の「表現すること」への情熱や、ともに2人芝居だった温かい「ハイゼンブルク」と不条理をねじ伏せる「建築家とアッシリア皇帝」、そして相変わらずひりつく会話劇の岩松了「クランク・イン!」などが心に残った。

語り芸のほうでは期せずして、喬太郎と三三で「品川心中」を聴き比べ。どちらも高水準。一之輔の脱力も引き続きいい。講談の春陽「津山の鬼吹雪」も聴きごたえがあった。

これからも、のんびりエンタメを楽しめる日々でありますよう。

十二月大歌舞伎「口上」「團十郎娘」「助六」

十三代目市川團十郎白猿襲名披露 十二月大歌舞伎 夜の部  2022年12月

11月に続いて襲名披露の「助六」。團十郎・玉三郎の華と、荒事の古風を堪能する。11月の感動はちょっと薄れたけど。三升一色の歌舞伎座、中央前の方の良い席で2万3000円。休憩2回で4時間弱。

飯田グループの牡丹の祝い幕から襲名披露「口上」。柿色裃勢揃いです。同世代の幸四郎、猿之助が同志の激励らしくていい。白鴎が病気休演で紹介役は左團次となり、菊五郎、仁左衛門の大御所が並んだという11月に比べると、男女蔵、高麗蔵ら一門はどうしても主役に遠慮するのが物足りないものの、にらみを拝めて満足。黙っている後列に、染五郎や中車の顔も。

25分の休憩を挟んで長唄舞踊「團十郎娘」。琵琶湖畔で怪力少女・お兼(ぼたん)が活躍する。長女登場に驚いたけど、11代目襲名で3代目翠扇(新派で活躍した11代の従姉妹)が踊ってるんですねえ。まず4人の漁師で種之助、鶴松が愛嬌を発揮。右團次らとお兼の怪力を試そうと企むところで、お兼のクドキ。後半の立ち回りで新体操みたいに長い白晒を操っちゃうし(布晒し)、漁師たちはブレイクダンスみたいだし、溌剌としてた。

35分の幕間のあと、いよいよ「助六由縁江戸桜」。2010年に先代團十郎以下のオールスター、2013年には海老蔵を福助・吉右衛門・三津五郎らが盛り立てたのが懐かしい。新團十郎にも派手さ、馬鹿馬鹿しさで、どんどん突き抜けていってほしいものです。
幸四郎の口上、加東節十寸見會連中に続いて揚巻・玉三郎の出がさすがの風格。悪態はまあ、抑えめだったかな。白玉・菊之助も堂々、意休の彌十郎に存在感があっていい。
助六はたっぷりの「出端」「ツラネ」から、意休を「時政似の」と呼んで笑いをとる。福山かつぎは巳之助できびきび。くわんぺら門兵衛の左團次がさすがにもう辛いなあ。白酒売・勘九郎がなんとも優しく、通人・猿之助はちょっと皮肉も効かせて笑わせる。児太郞はまだ傾城なんですねえ。
「助六」だけ再見できた月後半には、大詰めで玉三郎が母・満江に回り、團十郎と、揚巻を託された七之助が見送るシーンに継承を感じてジンとする。白玉は梅枝、意休が代演で松緑でした。あー、楽しかった。

ユニクロ提供の銀座で親子ゴジラが暴れている祝い幕は、なんと「シン・ゴジラ」の樋口真嗣監督のデザインで、格好良かった! おやつの人形焼き、30個に1個の隈取りは当たりませんでした~

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團十郎襲名披露大歌舞「祝成田櫓賑」「外郎売」「勧進帳」

市川海老蔵改め十三代目市川團十郎白猿襲名披露 十一月吉例顔見世大歌舞 八代目市川新之助初舞台  2022年11月

大名跡復活を祝う公演の、昼の部に足を運んだ。お着物が目立つ大入のロビーの華やぎ、まがりなりにも復活した大向こう、そして座席でお弁当をつつくのも楽しい。新團十郎に対して多々批判はきくものの、これでなくちゃと思える華があるのは確か。9歳の新之助が初舞台で、達者な長台詞をきかせるのも語り草になりそう。歌舞伎座中央のいい席で2万3000円。休憩2回をはさみ3時間半。

「祝成田櫓賑(いわうなりたこびきのにぎわい)」は常磐津による「芝居前」と呼ばれる祝祭の舞踊。成田山新勝寺の東京別院である深川不動尊で鳶の者、手古舞(萬太郎、種之助、鷹之資、莟玉ら)がきびきび「雀踊り」を披露。鳶頭と芸者(鴈治郎、錦之助、孝太郎、梅枝)が加わって、兄貴分(梅玉)と恋仲の芸者(時蔵)がしっとり馴れ初めを語り、ひょっとこやおかめの賑やかな舞踊。そこへ町役人(寿猿)と若い者が兄貴分を呼びに来る。御年92歳の寿猿さんに拍手!
木挽町芝居前に変わって瓦版売の言立ての後、芝居茶屋の者(楽善、福助!、錦吾ら)が居並ぶなか鳶の者が軽快に獅子舞。そこへ男伊達、女伊達、すなわち侠客たち(権十郎、右團次、廣松ら)が花道にすらりと並び、祝儀のツラネが気分を盛り上げる。そろって手締めとなりました。

休憩にお弁当をすませ、お楽しみ大薩摩連中の「外郎売」。新之助がタイトロールを務める。柱に役者の看板がかかる古風な荒事味、言葉による悪霊鎮めは江戸歌舞伎ならでは。2009年に病から復活した十二代目で観たのが懐かしい。
とにかく工藤祐経で、御大・菊五郎が問答無用の大物感を示す。大磯の郭での休憩シーンで、居並ぶお馴染み鎌倉関係者(左團次、雀右衛門ら)、傾城(魁春、孝太郎、児太郎ら)も豪華メンバーだ。そこへ外郎売が現れて、故事来歴や効能を言い立てる。体は小さいけれど堂々としていて、不安を感じさせないのが凄い。さらに蘇我五郎の正体を明かしての「対面」、工藤が絵図を与える度量を示して拍手。

休憩の後はいよいよ長唄連中の「勧進帳」。襲名では2018年南座の幸四郎が、いっぱいいっぱいの弁慶で印象的だったけど、今回は富樫に回って誠実、果敢に。対する新團十郎はとにかくきびきびと格好が良く、心配されがちな発声もスケール感があっていい。お酒が入ってからの稚気は抜群で、ラスト幕外での感謝の礼と飛び六方まで、独特のオーラを放ちます。義経の猿之助はちょっと曲者感がでちゃうものの、この3人の世代が中核なんだなあ、と感慨深い。義経一行には巳之助、染五郎、左近(松緑の長男)、市蔵。後見で75歳、成田屋最古参の齊入がしっかり支えるのも、ちょっと涙ものでした。

襲名ならではといえば、なんと村上隆の祝い幕が素晴らしかった。巨大な三升の長素襖はじめ、所狭しと成田屋家の芸のヒーローたちが躍動し、鮮やかな色彩、そして目力が大迫力。三池崇史の依頼だったとか。めでたい焼きも復活して、楽しかったです!

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義経千本桜

通し狂言 義経千本桜  2022年10月

初代国立劇場さよなら公演、歌舞伎の幕開けは菊之助が立役として、名優の条件とされる三役にチャレンジする通し狂言「義経千本桜」。2020年3月に中止になった企画のリベンジ、ニンでは狐かと思ったけど、若いうちかも、とAプロ「碇知盛」に足を運んだ。菊之助さん、やっぱり声がよくて二枚目で、主役感満載。スケールアップした感じの梅枝、彦三郎と2029年再オープン後を支えるだろう40代、30代も躍動して、見応えがあった~ 大劇場の前の方で1万2000円。休憩1回を挟み3時間半。

開幕で客電を落とし、菊之助さんが短く物語を解説する映像が流れて親切だ。義経は大河ドラマ前半で活躍してたし、期待が高まる。
舞台は二段目、梅満開の伏見稲荷鳥居前の場から。「火焔隈」の源九郎狐(菊之助)が静御前(大人っぽくなった感じの米吉)を守って生き生きと立ち回り、お楽しみ「狐六方」で引っ込む。声の通る彦三郎の弁慶にやんちゃ感があり、錦之助の義経はお人形のよう。

休憩を挟んで渡海屋の場。船宿の主人夫婦という世話っぽい「やつし」があるから、後半の悲劇が際立つ。菊之助がいなせな渡海屋銀平から知盛に転じたときの、全身キラキラ銀箔をあしらった白装束に拍手。幽霊にみせてるのだから悲壮なんだけど、いよいよという覚悟があって、むしろ清々しい。
続いて怒濤の大物浦の場。梅枝の女房お柳も十二単に衣装替えして、乳人・典侍の局に。梅枝はなんだか丸くなった感じで、貫禄がでてきて良い。衝撃的な自害のシーンが妙に色っぽく、敵に帝を託してというより、仮そめにも夫だった知盛への思いが強く感じられて、ぐっときちゃった。娘お安=安徳帝の丑の助くん、事態を急展させる大事なセリフ「仇に思うな」が立派で、楽しみ。輿に乗って権威を示す演出。
大詰めの入水シーンでは、知盛が背負う碇が本当に重そうで、観ているほうも力が入る。権力に奢った一族の業を背負うと同時に、リアル40代の若さをふまえて観るからか。ラスト幕外で、弁慶が吹く法螺貝の哀愁。  

思えば2009年歌舞伎座さよなら公演で、亡くなった吉右衛門に玉三郎という重厚コンビで堪能した演目だ。それを娘婿が受け継いていくという古典らしい現場に立ち会って、感慨深かった。行儀良すぎとの声もあるけれど、これからこれから。そしてロビーでは複数の知人にばったり。観劇の日常が戻ってきたと、こちらも感慨…

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團菊祭「暫」「土蜘」

團菊祭五月大歌舞伎 第二部 2022年5月

3年ぶりの團菊祭。團・海老蔵は2年半延期していた襲名を年末に控えて、いろいろプライベートでお騒がせのようだけど、菊之助と並びやっぱりスターは華があって、歌舞伎らしくていいなあ。まだまだコロナモードの歌舞伎座、中央前の方の良い席で1万6000円。休憩1回で2時間半。

まずは荒事中の荒事、祝祭感満載の「歌舞伎十八番の内・暫」をテンポ良く。なんと2010年新橋で、パパ團十郎で観て以来だ。鶴ヶ岡八幡宮にずらり並んだウケ武衡の左團次、腹出しの男女蔵(左團次の息子さん)、右團次ら、鯰坊主の又五郎、女鯰の孝太郎(はまり役!)が、問答無用の華やかさ。ド派手衣装で花道に登場するスーパーヒーロー景政の海老蔵は、「久しぶりの歌舞伎座」(10カ月ぶり!)「オリンピック開会式で見せた家の芸」等々笑わせつつ、ツラネも順調。声がパパに似てきたなあ。からむ鯰兄妹を「ふん」と全く相手にしないのが、実に愛らしい。
舞台中央へ進み、上手の大薩摩にのって、元気いっぱい元禄見得の睨み等々で、上品な錦之助、児太郎ら太刀下を救い、仕丁をやっつけ、幕外では「やっとことっちゃうんとこな」で悠々と六方。ああ楽しい。左團次さんの金冠白衣がゆらゆらするのは気になったけど。ちょい役で源氏の重宝をもってくる小金丸は、松嶋屋の孫・千之助。

休憩のあとはがらり変わって、重厚な松羽目もの。長唄囃子連中がずらりと並ぶ「新古典劇十種の内・土蜘」。こちらは2013年歌舞伎座開場時に、パパ菊五郎で観て以来です。前半は病床の頼光・菊五郎を平井保昌・又五郎(大活躍)が見舞い、胡蝶・時蔵が悠然と紅葉風景を舞う。
あえて暗い花道から登場する智籌(ちゆう)・菊之助が超不気味。頼光との明王問答のあと、太刀持音若・丑之助(お孫ちゃん、ますます上手!)に怪しまれちゃって、二畳台で数珠をくわえる畜生口の見得、千筋の糸を投げ投げ花道へ。引っ込みも怖いぞ!
間狂言「石神」は、番卒の萬太郎が滑稽でチャーミング。石神に化け、巫子の梅枝に抱えられちゃう小姓の小川大晴(萬屋のお孫ちゃん、三代共演は意外に初とのこと)もめちゃ可愛い。
後半は大薩摩をバックに、まず花道から格好良く、保昌と四天王の歌昇、種之助(相変わらず声がいい)らが登場。古墳にみたてた作り物を破って登場する後ジテ土蜘の菊之助と、舞台いっぱいの大立ち回りを悠然と。どこか哀しみもたたえて、見応えがあった。

ロビーには亡くなった名優の写真に、吉右衛門さんが加わっていて悲しい。一方で今月は三部、弁天小僧の尾上右近が話題とか。世代交代、頑張ってほしいです…

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近江源氏先陣館

第327回令和4年3月歌舞伎公演 近江源氏先陣館「盛綱陣屋」 2022年3月

歌舞伎名作入門と銘打った「盛綱陣屋」は、タイトロールの菊之助が初役で。昨年11月に亡くなった岳父・吉右衛門の書き込みがある台本を手がかりにしたそうで、きめ細かい感情表現が、くっきりと知的だ。大健闘の息子・尾上丑之助(まだ9つ!)ほかキャストが揃って、見応えがあった。国立劇場大劇場の前の方いい席で8000円。解説を含め2時間半。

近松半二の義太夫狂言は、大坂冬の陣で敵味方に分かれた真田信之・幸村兄弟の悲劇を、鎌倉時代の佐々木盛綱・高綱兄弟に移したもの。まず中村萬太郎がご案内を務め、複雑な人間関係を大河ドラマ「真田丸」のテーマに乗せて明朗に解説してくれて、わかりやすい。ドラマでは大泉洋と堺雅人だったなあ。

25分の休憩を挟み、本編はいきなり盛綱と和田兵衛(中村又五郎が豪胆に)の問答「詰め開き」が緊迫。盛綱が弟・高綱に忠義を貫かせるため、母・微妙(我當門下の上村吉弥が三婆を柔らかく)に頼んで、生け捕った高綱の一子・小四郎に切腹させようとするシーンは、残酷な話なのにどこか母に甘える感じが面白い。
高綱の妻・篝火(中村梅枝がきりり)と盛綱の妻・早瀬(評判の中村莟玉が可愛め)の並列技法シーンは、矢文の応酬が魔法のよう。微妙と生き延びようとする小四郎(丑之助が可愛い!)の辛いやりとりに続いて、陣鐘太鼓が鳴ってからは怒濤の展開だ。
暴れの注進・信楽太郎(中村萬太郎)、道化の注進・伊吹藤太(中村種之助がうまい)がテンポ良く高綱討ち死を知らせ、曲者・北条時政(復帰の片岡亀蔵が堂々)が登場して、いよいよ首実検へ。唐突に切腹する小四郎が我慢の演技。贋首を成立させるまさかの大芝居と気づき、決断するまでの盛綱の無言の演技に引き込まれる。ずっと座ってる小三郎の小川大晴くん(梅枝の息子)も、まだ7つなのに頑張りました!
時政が去ってからはお決まり愁嘆場と思いきや、鎧櫃のトリックまであってびっくり。出入りの多い奥の浄瑠璃は、吉右衛門さんとも縁が深かったという人間国宝の竹本葵太夫。聴きやすかったです。

国立演芸場の演芸資料展示室「講談の歴史」に寄りました。

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