歌舞伎

團菊祭「暫」「土蜘」

團菊祭五月大歌舞伎 第二部 2022年5月

3年ぶりの團菊祭。團はいろいろプライベートでお騒がせのようだけど、菊之助と並びやっぱりスターは華があって、歌舞伎らしくていいなあ。まだまだコロナモードの歌舞伎座、中央前の方の良い席で1万6000円。休憩1回で2時間半。

まずは荒事中の荒事、祝祭感満載の「歌舞伎十八番の内・暫」をテンポ良く。なんと2010年新橋で、パパ團十郎で観て以来だ。鶴ヶ岡八幡宮にずらり並んだウケ武衡の左團次、腹出しの男女蔵(左團次の息子さん)、右團次ら、鯰坊主の又五郎、女鯰の孝太郎(はまり役!)が、問答無用の華やかさ。ド派手衣装で花道に登場のスーパーヒーロー景政の海老蔵は、「久しぶりの歌舞伎座」(10カ月ぶり!)「オリンピック開会式で見せた家の芸」等々笑わせつつ、ツラネも順調。声がパパに似てきたなあ。からむ鯰兄妹を「ふん」と全く相手にしないのが、実に愛らしい。
舞台中央へ進み、上手の大薩摩にのって、元気いっぱい元禄見得の睨み等々で、上品な錦之助、児太郎ら太刀下を救い、仕丁をやっつけ、幕外から「やっとことっちゃうんとこな」で悠々と六方。ああ楽しい。左團次さんの金冠白衣がゆらゆらするのは気になったけど。ちょい役で源氏の重宝をもってくる小金丸は松嶋屋の孫・千之助。

休憩のあとはがらり重厚な松羽目もの。長唄囃子連中がずらりと並び、「新古典劇十種の内・土蜘」。こちらは2013年歌舞伎座開場時に、パパ菊五郎で観て以来です。前半は病床の頼光・菊五郎を平井保昌・又五郎(大活躍)が見舞い、胡蝶・時蔵が悠然と紅葉風景を舞う。
あえて暗い花道から登場する智籌(ちゆう)・菊之助が超不気味。頼光との明王問答のあと、太刀持音若・丑之助(お孫ちゃん、ますます上手)に怪しまれちゃって、二畳台で数珠をくわえる畜生口の見得、千筋の糸を投げ投げ花道へ。引っ込みも怖いぞ!
間狂言「石神」は、番卒の萬太郎が滑稽でチャーミング。石神に化け、巫子の梅枝に抱えられちゃう小姓の小川大晴(萬屋のお孫ちゃん、三代共演は意外に初とのこと)もめちゃ可愛い。
後半は大薩摩をバックに、まず花道から格好良く、保昌と四天王の歌昇、種之助(声がいい)らが登場。古墳にみたてた作り物を破って登場の後ジテ土蜘の菊之助と、舞台いっぱいの大立ち回りを悠然と。どこか哀しみもたたえて、見応えがあった。

亡くなった名優の写真に、吉右衛門さんが加わっていて悲しい。一方で今月は三部、弁天小僧の尾上右近が話題。世代交代、頑張ってほしいです…

Img_0811 Img_0812 Img_0818

 

近江源氏先陣館

第327回令和4年3月歌舞伎公演 近江源氏先陣館「盛綱陣屋」 2022年3月

歌舞伎名作入門と銘打った「盛綱陣屋」は、タイトロールの菊之助が初役で。昨年11月に亡くなった岳父・吉右衛門の書き込みがある台本を手がかりにしたそうで、きめ細かい感情表現が、くっきりと知的だ。大健闘の息子・尾上丑之助(まだ9つ!)ほかキャストが揃って、見応えがあった。国立劇場大劇場の前の方いい席で8000円。解説を含め2時間半。

近松半二の義太夫狂言は、大坂冬の陣で敵味方に分かれた真田信之・幸村兄弟の悲劇を、鎌倉時代の佐々木盛綱・高綱兄弟に移したもの。まず中村萬太郎がご案内を務め、複雑な人間関係を大河ドラマ「真田丸」のテーマに乗せて明朗に解説してくれて、わかりやすい。ドラマでは大泉洋と堺雅人だったなあ。

25分の休憩を挟み、本編はいきなり盛綱と和田兵衛(中村又五郎が豪胆に)の問答「詰め開き」が緊迫。盛綱が弟・高綱に忠義を貫かせるため、母・微妙(我當門下の上村吉弥が三婆を柔らかく)に頼んで、生け捕った高綱の一子・小四郎に切腹させようとするシーンは、残酷な話なのにどこか母に甘える感じが面白い。
高綱の妻・篝火(中村梅枝がきりり)と盛綱の妻・早瀬(評判の中村莟玉が可愛め)の並列技法シーンは、矢文の応酬が魔法のよう。微妙と生き延びようとする小四郎(丑之助が可愛い!)の辛いやりとりに続いて、陣鐘太鼓が鳴ってからは怒濤の展開だ。
暴れの注進・信楽太郎(中村萬太郎)、道化の注進・伊吹藤太(中村種之助がうまい)がテンポ良く高綱討ち死を知らせ、曲者・北条時政(復帰の片岡亀蔵が堂々)が登場して、いよいよ首実検へ。唐突に切腹する小四郎が我慢の演技。贋首を成立させるまさかの大芝居と気づき、決断するまでの盛綱の無言の演技に引き込まれる。ずっと座ってる小三郎の小川大晴くん(梅枝の息子)も、まだ7つなのに頑張りました!
時政が去ってからはお決まり愁嘆場と思いきや、鎧櫃のトリックまであってびっくり。出入りの多い奥の浄瑠璃は、吉右衛門さんとも縁が深かったという人間国宝の竹本葵太夫。聴きやすかったです。

国立演芸場の演芸資料展示室「講談の歴史」に寄りました。

Img_8791_20220319224701 Img_8789

 

2021喝采づくし

マスク着用、かけ声禁止は続くものの、関係者の熱意でステージがかなり復活した2021年。素晴らしい作品に出会えました。

個人的な白眉は、思い切って長野まで遠征しちゃったOfficial髭男dismのコンサート。期待通りの王道ロックバンドらしさに、蜷川さん風に言えば「売れている」者独特の勢いが加わって、ピュアな高揚感を満喫! 私はやっぱり配信よりライブだなあ、と実感。対照的に、名曲を誠実に、余裕たっぷりに聴かせる桑田佳祐コンサートも気持ちよかった。

並んで特筆すべきは、野田秀樹「フェイクスピア」かな。仮想体験の浅薄を撃つパワー溢れるメッセージが、高橋一生の抜群の説得力、そして演劇ならではの意表を突く身体表現を伴って、ストレートに胸に迫った。演劇ではほかにも、ケラさんの不条理劇「砂の女」が、まさに観ていて息が詰まっちゃう希有な体験だったし、栗山民也「母と暮らせば」は富田靖子演じる母に、問答無用で泣いた~ 岩松了さん「いのち知らず」、上村聡史「斬られの仙太」、渡辺謙の「ピサロ」…も記憶に残る。

古典に目を転じると吉右衛門、小三治の訃報という喪失感は大きい。けれど、だからこそ、今観るべき名演がたくさん。なかでも仁左衛門・玉三郎は語り継がれる話題作「桜姫」2カ月通しの衰えを見せない色気もさることながら、「土手のお六・鬼門の喜兵衛」をたっぷり演じた直後の一転、他愛ない「神田祭」の呼吸に目を見張った。
落語は喬太郎の、トスカに先立つ圓朝作「錦の舞衣」、さん喬渾身の長講「塩原多助一代記」で、ともに語りの高みを堪能。まさかの権太楼・さん喬リレー「文七元結」がご馳走でしたね~
文楽界はめでたくも勘十郎がついに人間国宝に! 与兵衛が格好よかった「引窓」は、私としては勘十郎さん仲良しの吉右衛門ゆかりのイメージがある演目で、今となっては二重に感慨深い。玉助さんが松王丸、師直でスケールの大きさを見せつけ、ますます楽しみ。

オペラ、ミュージカルは依然として来日が少ないので、物足りなさが否めない。それでも新国立劇場のオペラ「カルメン」「マイスタージンガー」は日本人キャストも高水準、演出にも工夫があって充実してた。ミュージカル「パレード」の舞台を埋め尽くす紙吹雪も鮮烈でしたね。
2022年、引き続きいい舞台を楽しんで、心豊かに過ごしたいです!

 

加賀見山再岩藤

八月花形大歌舞伎 第一部 加賀見山再(ごにちの)岩藤  2021年8月

幸四郎や勘九郎が軸の花形公演で、第一部は澤瀉屋の一座。黙阿弥作、猿翁が練り上げた4時間の人気作を、石川耕士が 「岩藤怪異篇」として、休憩を挟み2時間に圧縮した。
猿之助の6役早替り&宙乗りと、ケレンを詰め込んでテンポが良い。コロナ感染から復帰2日目のせいか、「黒塚」とかと比べると淡泊だったけど。歌舞伎座前のほう、やや上手寄りのいい席で1万5000円。

浅葱幕が振り落とされると序幕、華やかな大乗寺花見の場から、早替りの連打を楽しむ。殿様・多賀大領(猿之助)は側室・小柳の方(笑也)に夢中で、忠臣・安田帯刀(男女蔵)の進言を退けるし、御台・梅の方(猿之助)には会いもしない。一方、いかにも国崩しの黒幕・望月弾正(猿之助)が、忠臣サイドの又助(きびきびと己之助)をたぶらかす。悪役・蟹江兄弟の亀鶴と鷹之資、特に鷹之資の声が通って気持ちいい。
浅野川川端の場で、欺された又助が、駕籠の梅の方を殺しちゃう悲劇。舞台がぐっと暗くなり、八丁畷馬捨場へ。お家の奥を取り仕切る中老尾上(雀右衛門)が、かつての仇・岩藤の菩提を弔っていると、あら不思議。土手に散らばった白骨が集まって、岩藤の亡霊(猿之助)となり、復讐を宣言する。「骨寄せ」ですね。猿之助がさすがの怪しさで、ムーンウォークみたいな動きも大受け。雀右衛門さんは、召使い時代の黄八丈姿でも上品です。
弾正らがからんで重宝・朝日の弥陀の尊像を取り合う「だんまり」があり、いったん幕がひかれて、なんとスッポンから登場の大薩摩に拍手。一転、明るい花の山の場で、在りし日の局姿になった岩藤の亡霊が、客席を見渡し、上手から下手へ悠々と宙乗り。スターだなあ。

休憩後の二幕目は、多賀家奥殿草履打ちの場。尾上(局姿だと貫禄)が、病に伏せる殿様の妹・花園姫(男女蔵長男の男寅がなかなか可憐)を励ましていると、弾正が来訪。すると館全体が鳴動して荒れ果てた様子に変じ、弾正に乗り移った岩藤(途中から女性の声になる工夫)が現れて、尾上を草履で散々に打ちすえちゃう。怖いよー。尾上は取り戻した尊像でなんとか撃退する。
続く大詰・下館茶室の場でお約束、あれよあれよの展開に。又助が梅の方殺害の責任をとって切腹。その最後の言葉で、実は生き別れた妹と判明した柳の方は、弾正の悪事に荷担してきたことを悔い、健気にも弾正と差し違える。
下館奥庭の場で、改心した大領から鬼子母神の尊像を突きつけられると、岩藤の霊もあっけなく骸骨に戻って、バラバラに崩れ落ちる。悪者は退治され、尾上、元気になった花園姫、局浦風(笑三郎)、帯刀、重宝を取り戻した忠臣・求女(門之助)が勢揃いして、大団円となりました。局でちょこっと登場の寿猿さん、なんと91歳に拍手。最後は全員でご挨拶。
登場人物が多くて、正直追いつけないところもあったけど、盛りだくさんの趣向をエンジョイしました~ 初日から猿之助休演で、代打ちした己之助も好評でしたね。偉い!
売店でまた大島紬のマスクを調達しました~

Img_7044 Img_7042 Img_7081

 

 

桜姫東文章 下の巻

六月大歌舞伎 第二部 桜姫東文章・下の巻 2021年6月

四月の上の巻に続いて、即日完売、令和演劇の「事件」を見届ける。上の巻の可憐なお姫様から、なんと下級女郎にまで身を落とした桜姫=玉さまの振り幅の大きい魅力が全開だ。歌舞伎座中央のいい席で1万5000円。休憩を挟んで2時間半。

まず舞台番・千次郎が上の巻の粗筋を紹介して、序幕・岩淵庵室の場から。荒れた庵室、青とかげの毒、墓堀り、幽霊…と、コミカルとグロテスクが入り交じって、いよいよ大南北らしい。落ちぶれた残月(歌六)・長浦(吉弥)が清玄(仁左衛門)を襲う。鮮やかな早変わりで現れたワルの権助(仁左衛門)が、残月らを叩き出す。傘一本もって引っ込む歌六さんが可笑しい。後半は桜姫が、凄惨なもみ合いの末に清玄を殺し、亡霊の怨念で権助が醜く面変わりすると、いよいよ覚悟を決める。

休憩後の二幕目・山の宿町権助住居の場では、人気女郎・風鈴お姫となった美しい桜姫と、大家におさまった権助が並んで寝転がるシーンの、なんともチャーミングなこと。江戸の退廃、ここにきわまれり。すっかり腹の据わった桜姫は、お嬢さま言葉が交じった緩急自在の啖呵で幽霊とわたりあい、さらには父弟の仇とわかった権助を討っちゃう、あれよあれよの展開。めちゃくちゃだけど痛快だなあ。

大詰・浅草雷門の場は一転、三社祭に浮き立つシーン。家宝を取り戻した桜姫があっけらかんとお姫様に戻り、ニザさまが、まさかの立派な捌き役・大友常陸之助に変じて、めでたしめでたし。都合よすぎる大団円がまた歌舞伎の醍醐味です。あー、面白かった。

 

20210606-007 20210606-009 20210606-005

夏祭浪花鑑

渋谷・コクーン歌舞伎第十七弾「夏祭浪花鑑」  2021年5月

2008年に勘三郎・橋之助で観て、パトカー登場の疾走が鮮烈だった名作。次世代による継承が嬉しく、特に松也の柔軟さが光ってた。串田和美演出・美術は時節を踏まえ、ヤンキーたちのやぶれかぶれを残しつつ、冒頭とラストに舞台裏の厳粛なお祓いを見せる工夫。中村屋ファンの温かさが漂うシアターコクーン、1階中ほどやや下手寄りのいい席で。休憩なしの2時間強。

セットの出し入れでスピーディーに場面を展開。序幕の発端よりお鯛茶屋の場は、舞台番(笹野高史)がトントンと説明して、続く住吉鳥居前の場で、団七(勘九郎)と運命の出会いとなる一寸徳兵衛(松也)がいなせだ。団七女房のお梶(七之助)がいまや貫禄で、息子市松(長三郎)もかなり達者。
釣船三婦内の場では松也が徳兵衛女房・お辰に変身して大活躍。三婦も若返って片岡亀蔵に。長町裏の場は泥を避け、たくさんの本火の紙燭、燃え上がる面明かりを自在に使って、勘九郎と絶品・笹野の義平次が熱演する。一転、祭りの高揚に至る鮮やかは変わらない。

今回はむしろ地味な二幕目、九郎兵衛内の場の徳兵衛、団七、お梶の味わいが際立つ。侠客たちが、まあ短慮なりに精一杯、互いを思い合う。残暑の夕刻、斜めの照明の気だるい陰影が、不安と哀愁を醸して効果的だ。照明は斎藤茂男。続く屋根の場からは、和太鼓も駆使した怒涛の逃走劇で、勘九郎が身体能力を発揮。他に大迷惑の磯之丞の虎之介に存在感があり、琴浦の鶴松と可愛いコンビ。

開幕前から江戸気分とか、舞台と客席が一体になるコクーンらしさは封印されたけど、面白かったです!

20210523-001 20210523-003 20210523-006 20210523-012

桜姫東文章 上の巻

四月大歌舞伎 第三部 桜姫東文章・上の巻  2021年4月

鬼才・四世鶴屋南北のおどろおどろしい因果話を、36年ぶりで話題のニザタマで。現代劇アレンジでは2度観ている演目だけど、本家歌舞伎は初だ。ただごとでない退廃と妖しさ、初演時はどんなに衝撃だったろう。美しい人間国宝2人が、70年代の伝説に挑む心意気。時代の節目を目撃する思いです。歌舞伎座前の方中央のいい席で1万5000円。緊急事態発令で少し繰り上げスタート、休憩を挟んで2時間15分。

発端「江ノ島稚児ヶ淵の場」は暗くて幻想的。僧侶清玄(仁左衛門)は白菊丸(玉三郎)と心中をはかって生き残り、香箱が残される。
序幕第一場「新清水の場」は一転、舞台いっぱい極彩色の「花見」。17年後の長谷寺で、出家を望む吉田家息女・桜姫(玉三郎)の手から香箱の蓋が現れ、紫衣装の清玄阿闍梨は白菊丸の生まれ変わりと、因果におののく。
そこから悪党・釣鐘権助(仁左衛門)に替わっての、とりすました聖から色気たっぷり俗への落差が見事。悪五郎(鴈治郎が体型、声ともべりべりと規格外)の手下の権助は、吉田家から重宝・都鳥の一巻を強奪したばかりか、立ち聞きした端女を平然と切り捨てる。仁左衛門さん、2月の喜兵衛に続いて若いです! 姫の弟・松若の千之助が、なかなか凛々しくて嬉しい。
そしていよいよ第二場「桜谷草庵の場」。実は桜姫は、自分を襲った賊を忘れられず、密かに子まで産んでいた。その権助と再会し、楚々としたお嬢さまがいきなり誘惑しだすシーンが、びっくりの濃厚さ。役者だなあ。顔も知らずに彫り物で気づいて、お揃いのタトゥーを披露しちゃう飛躍も凄まじい。僧残月(歌六)と局長浦(我當の門人・上村吉弥)が超下世話なワルを発揮、桜姫と巻き込まれた清玄が不義の罪を負う。

休憩を挟んで二幕目「稲瀬川の場」では晒し者になった清玄が、数珠を切って桜姫に迫るものの拒まれちゃう。高貴な僧が押し隠していた妄執の、なんと深いことか。あげく悪五郎一派と争って川に落ち、姫の片袖と赤ん坊を抱いて花道を彷徨っていく。
続く「三囲の場」では薄暗い雨の夜。鳥居・石段の前で、ともに落ちぶれた清玄と桜姫がすれ違う。破れ傘に書かれた恋歌がなんともわびしかった。

20210418-014 20210418-011

歌舞伎「熊谷陣屋」「直侍」

三月大歌舞伎 第二部  2021年3月

二月に続いてベテランの至芸を堪能。休憩を挟んで2演目3時間で、久々にたっぷり感も味わう。感染対策中の歌舞伎座、前の方中央のいい席で1万5000円。

まず「一谷嫩軍記 熊谷陣屋」。昨夏の再会場から90分は1幕最長だそうです。2012年団十郎の名演のほか吉右衛門、芝翫、幸四郎と観てきて、今回は歌舞伎座で16年ぶりとなる仁左衛門。独特の品があって細やかで、殺伐とした戦場の武将というより、義経(錦之助が堂々)の大局を踏まえた「理」を慕い、「正解」を選ぶ智将の印象。だからこそ犠牲にした「情」の痛手が大きく、深い虚しさから栄光を捨てるということか。
相模(孝太郎)に首を直接手渡すシーンに、美しい桜たる息子に対する夫婦の思いが、また去り際、義経から首を見せて声をかけられ恐れ入るシーンに、虚しさを共有する主従の思いが垣間見える。花道の「十六年は一昔」のあと、幕がひかれて三味線が登場。遠い戦場の音に一瞬放心、身も世もなく泣き崩れて、トボトボと去っていく。哀しいなあ。
孝太郎は声が太く、役に合っている。衣装は熊谷、相模とも金糸が多くきらびやか、扇も金と赤が鮮やかで、一つひとつの見得がまさに錦絵だ。藤の方に門之助、弥陀六に安定の歌六、堤軍次に坂東亀蔵。昨年末の南座、コロナで仁左衛門さんらを代打ちした面々でもあります。

休憩の後はがらっと世話に転じて「雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)直侍」。こちらは2017年以来2度目に観る菊五郎。初役から36年だそうで、隙なしだ。下駄にくっつく雪に凍える風情がある。蕎麦の注文とかの端切れの良さ、はらりと傘を開く格好良さとか、火鉢をまたいじゃう愛嬌とか、小悪党の粋がいちいち嬉しい。飄々とした按摩の東蔵もますます絶品だなあ。暗闇の丑松は團蔵。
後半、大口屋寮のシーンでは余所事浄瑠璃の清元「忍遭春雪解(しのびあうはるのゆきどけ)」にのり、三千歳(貫禄の時蔵)とのやりとりに、さらさらと艶がある。満足。

幸四郎が鬼平映画に主演の発表があり、ちょうど第三部で吉右衛門と共演中なんて話題もある公演でした。

20210313-012 20210313-011 20210313-014

 

歌舞伎「於染久松色読販」「神田祭」

二月大歌舞伎  2021年2月

3部制の第三部が17世勘三郎33回忌追善だったけど、今回は第二部へ。40年来の黄金コンビ「ニザタマ」の姿の良さ、粋を堪能する。花道で頬を寄せ合う楽しげな雰囲気は、当世随一かなあ。2席ずつの間に1席空きぐらいの歌舞伎座、前の方やや上手寄りで1万5000円。休憩を挟んで2時間弱と、コンパクトながら大満足だ。

「於染久松色読販売(うきなのよみうり)」は質店・油屋の娘おそめと丁稚・久松の心中もので、早替りの「お染の七役」で知られるけど、この日は「土手のお六・鬼門の喜兵衛」と銘打ち、脇筋の悪党夫婦に焦点をあてる。陰惨だけど笑いもたっぷりで、文化文政時代、爛熟した庶民文化を描いた四世鶴屋南北の面目躍如であり、1975年「桜姫」であたりをとったニザタマの悪の美が際立つ。
序幕・柳島妙見の場は発端となる、押上・放性寺の門前を抜粋で。実直な嫁菜売・久作(中村吉之丞、吉右衛門の部屋子→先代吉之丞の芸養子)が油屋番頭・善六(片岡千次郎、上方歌舞伎塾出身)ともめて額に傷を負う。通りかかった薬種屋の旦那・清兵衛(河原崎権十郎)が止めに入り、久作に袷と膏薬代を渡す。脇の油屋太郎七・坂東彦三郎が堂々と主人らしく、宝刀の折紙を盗んだワルの千次郎と、言いくるめられて河豚を食べに行く丁稚九太の上村吉太朗(我當の部屋子)の三枚目ぶりが達者だ。
続く小梅莨屋の場が出色。セットは粗末で暗いお六の家。複雑な背景はすっ飛ばして、「馬の尻尾」姿の悪婆・お六の坂東玉三郎の退廃美、そして死骸に細工しちゃう喜兵衛・片岡仁左衛門の凄みと色気に目を奪われる。浮世絵そのものです。ストーリーも奇抜で、河豚にあたった男の早桶、久作の袷、さらに髪結(芝翫の次男・中村福之助がはきはき)の道具…を「あいよ、置いときな」と次々預かり、これが悪だくみの道具立てになっていく。
第二幕は照明が明るくなって、瓦町油屋の場。お六と喜兵衛が駕籠で死骸を持ち込み、久作は弟、昨日の傷が元で亡くなった、百両よこせと強請る。伝法でどこか投げやりな啖呵が痛快だ。居合わせた清兵衛が怪しみ、なんと死骸に灸をすえ始める。丁稚の長太(ニコニコ寺嶋眞秀)をまじえて、しのぶさんの躾がいい、手指消毒で笑わせる。そこへ死んだはずの久作が現れ、死骸も息を吹き返して九太と判明。夫婦はきまり悪げに退散、なんと駕籠をかついで花道を引っ込む。とんでもない悪党なのに、愛嬌たっぷりでバカバカしいのがいい。

休憩を挟んで「神田祭」は清元の舞踊で、江戸の華・鳶頭の遊びを芸者がなじる。他愛ない夫婦喧嘩と仲直りがチャーミング。
山王祭と並んで、祭礼の行列が江戸城内に入った天下祭だそうで、セットはスカッと広々した江戸の町並みに赤い提灯が下がり、下手後方の高台にお社とのぼりが見える。鳶頭の仁左衛門はほろ酔い加減、追っかけ五枚銀杏首抜きに、獅子文様の袴、片肌脱ぎの真っ赤な襦袢、牡丹の扇子と派手派手です。対する芸者の玉三郎は、黒紋付に波の裾模様、縁だけ赤い天紅の扇子が艷やか。
華やかな手踊り、クドキ、そして江戸の流行歌という投げ節、木遣り。威勢のいい若い衆をあしらい、二人仲良く町へ繰り出していく。浮世の憂さを忘れました!
20210220-002 20210220-005 20210220-001 20210220-072 Img_0006-1

 

 

2020喝采づくし

2020年はコロナ禍でエンタメが激減したけれど、振り返ると例年の半分くらいは鑑賞できていて、関係者の努力に感謝。

なんといっても今となっては夢のようだった、1月のQUEEN+ADAM LAMBERT THE RHAPSODY TOUR! お馴染みのキャッチーな楽曲、演出もキンキラで文句なしに樂しかった~

世界が一転したコロナ後は、伝統芸能の災厄を鎮めるという要素が、胸に響いた。特に歌舞伎の、再開後初だった8月猿之助「吉野山」や、年末の玉三郎&菊之助「日本振袖始 」のケレン。ベテランの健在もことのほか嬉しく、仁左衛門「石切梶原」の茶目っ気、吉右衛門「俊寛」の虚無を堪能した。ベテランといえば11月の狂言「法師ケ母」で、90歳近い万作さんの鍛錬に脱帽。「茸」も面白かったし。
文楽は2月の勧進帳で玉助さん初役の富樫、9月にはハッピーエンドの「壺坂観音霊験記」が楽しかったな。
落語は三三の説得力ある「柳田格之進」、正蔵さんのダークサイド「藁人形」、志の輔の爆笑「茶の湯」など。

演劇では、再開間もない7月の「殺意 ストリップショウ」の鈴木杏が、人間の滑稽さをえぐり出す一人芝居をピュアに演じきって圧巻だった。10月には鵜山仁演出のシェイクスピア史劇最終作「リチャード二世」で、岡本健一が描く人間の愚かさに引き込まれた。
対照的に、三谷幸喜「23階の笑い」は笑いと哀愁に徹して、喜劇人の心意気がひしひし。ケラリーノ・サンドロヴィッチ&緒川たまき「ベイジルタウンの女神」も、変わらないお洒落なケラ節が染みた。
大好きな岩松了さんの2人朗読劇「そして春になった」、安定の前川知大「迷子の時間」なども秀作。なんだか劇作家・長田育恵に縁があり、「ゲルニカ」「幸福論~隅田川」が印象的だった。

一方、海外からの歌手・オケが壊滅したオペラは、すっかりお預けに。滑り込みで2月の来日ミュージカル「CHESS」は、大人っぽくて良かった。 
番外編として、コロナ禍ならではの配信へのチャレンジもいろいろと。4月の一之輔10日連続生配信では、「団子屋政談」「笠碁」など、巧さと同時に、持ち前の愛らしさや寄席を維持したい思いが伝わっていた。5月のStayHomeWeek最終日には、三谷幸喜の名作「12人の優しい日本人」の読み合わせで、会議の戯曲を会議ツールで見せるという、この時期ならではのセンスが光ってた。
2021年の復活を祈って…

より以前の記事一覧