歌舞伎

歌舞伎「菅原伝授手習鑑」

秀山祭九月大歌舞伎 昼の部Aプロ 2025年9月

凄い舞台に出くわしてしまった。言わずと知れた丸本の三大名作、通し狂言「菅原伝授手習鑑」。吉右衛門ゆかりだと夜の「寺子屋」なんだろうけど、ここは御年81歳、15代目片岡仁左衛門の極め付け菅丞相を、と歌舞伎座へ。
まあ2010年、2015年にも観たしな、と思っていたら、ひときわ神々しく、そして幕切れの花道の引っ込みで頬にまさかの涙。歌舞伎役者が泣くのはあくまで演技、といった聞きかじりを超越した名優の存在感。花道すぐ脇、下手側のいい席だったこともあって圧倒されました~ ほかのキャストもオールスターで、舞台ならでは一期一会の感動を味わう。1万8000円、休憩2回で4時間半。

明るく長閑な「加茂堤」で中村歌昇の桜丸、妻・八重の坂東新悟が笑わせたあと、休憩を挟んで「筆法伝授」。学問所の場で御簾があがり、しずしずと仁左衛門が登場。Bプロでは菅丞相を演じている松本幸四郎が、「伝授は伝授、勘当は勘当」で畏れ、嘆く。悲運を悟って源蔵を巻き込むまいとする菅丞相。まさに伝授を目撃する思い。
門外の場で中村橋之助の梅王丸がきびきびと一子・菅秀才(中村秀之介)を救いだす。御台所・園生の前に心優しい中村雀右衛門、源蔵妻・戸浪に中村時蔵、敵側の三善清行にきびきび坂東亀蔵。源蔵を邪魔する下世話な希世の市村橘太郎が、コミカルでいいアクセントだ。

長めの休憩のあと、いよいよ「道明寺」。丞相暗殺を企む偽の迎えに、人形が身代わりとなるシーンで、仁左衛門は瞬きしないどころか、全く足下を見ずに段を降りていく。どれだけ鍛錬し続けているのか。生身の俳優が見せる奇跡。そして本物の迎えがきて養女・苅屋姫(尾上左近)との別れでは、目を合わさずに肚(はら)で哀切を表現、としつつ静かに涙。知人によると初日から涙だったそうです。
苅屋姫は浅はかにも斎世親王と駆け落ちし、菅丞相左遷を招いたことで自らを責めている。すでに姉・立田の前(安定の片岡孝太郎)はこともあろうに敵側となった夫・宿禰太郎(尾上松緑)の手にかかり、この先も菅丞相ひとりのためにいくつもの死が待つ運命を思わずにいられない。
弱冠19歳の左近がなかなかの姫さまぶりをみせ、父の松緑は憎々しいけど、出てくると歌舞伎らしさが増す感じ。三婆に数えられる気丈な伯母・覚寿の中村魁春は意外にも初役だそうで、歌右衛門も演じていないとか。化粧は年配のほうが合っているかな。奴宅内の中村芝翫がコミカルにひと息つかせ、判官代輝国の尾上菊五郎はあくまでりりしく。さらに敵側・土師兵衛に中村歌六と贅沢でした。

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歌舞伎「大森彦七」「船弁慶」「高時」「紅葉狩」

七月大歌舞伎 昼の部 2025年7月

團十郎を座頭に、新歌舞伎十八番の四演目を一挙上演する意欲的な企画に足を運んだ。七世團十郎が構想、「劇聖」九世が完成させたという新十八番は、写実的な「活歴」とか能由来の舞踊とか、成田屋得意の荒唐無稽な荒事などとはまた違う。明治期に、時代の変化で消えかねなかった歌舞伎というエンタメを、生きながらえさせた工夫だったのかな。團十郎の鮮やかな変化2題と、シュールな「高時」が印象的だった。なかなかよく入った歌舞伎座、前のほう中央の良い席で2万円。休憩3回でたっぷり4時間。

 「大森彦七」はあの福地桜痴作、明治30(1897)年初演の活歴物だ。常磐津と竹本による舞踊劇でもあり、石川耕士補綴版で26年ぶりの上演とか。舞台は南北朝時代の松山街道。楠木正成の息女・千早姫(友右衛門の次男・大谷廣松が児太郞代役でひたむきに)が鬼の面をつけ、父を自害の追い込んだ大森彦七(市川右團次)を狙う。度量が大きい彦七は姫に正成の菊水の宝剣を返して逃がし、狂乱を装って追手を誤魔化す。
狂乱の体の舞踊、特にラストは馬も踊り、彦七が馬にまたがったまま花道を引っ込むのが爽快。右團次さんは武士らしいけど、ちょっとセリフが聞き取りづらいかな。

ランチ休憩のあとから三作は河竹黙阿弥作で、まず「船弁慶」。後方に長唄連中がずらりと並ぶ松羽目物で、能では2008年に観たもの。緩急のある構成に引き込まれる。團十郎が前シテ・静御前と後シテ・平知盛で存在感を発揮、特に静御前の能面風という白い化粧と金の烏帽子、色鮮やかな唐織の壺折が華やかで、客席からふうっと溜息が漏れる。
お馴染み大物浦。義経(りりしく中村虎之介、扇雀の息子で27歳)、弁慶(大活躍の右團次)と家臣(市川九團次、廣松、中村歌之助、研修出身の市川新十郎)が船出を待っており、都へ返される静が辛さを堪えて静かに「都名所」を舞い、烏帽子がことっと落ちる演出。続いて舟長(中村梅玉)と舟人(坂東巳之助、次男の中村福之助)が登場、間狂言風に船出を祝う「住吉踊り」をきびきびと。達者な動きに気分が変わって、いい。
武庫山からの風が吹き付けると演奏が激しくなり、いよいよ白い波模様の衣装、青い隈取りが恐ろしい知盛の霊が現われ、一行に襲いかかる。「其時義経少しも騒がず」、弁慶が数珠を摺って撃退。ラストは「幕外」となり、知盛が渦潮にのまれて廻りながら花道を引っ込む。切なくもダイナミック。九世の薫陶をうけ、六代目尾上菊五郎が磨き上げた演出なんですねえ。

休憩を挟んで「高時」。鎌倉14代、最後の執権・北条高時(巳之助)の横暴さ、愚かさを、竹本にのせて描くダークファンタジーだ。滅びゆく権力の虚しさ。
まず北条家門前で浪人・安達三郎(福之助)が高時の愛犬(名演)を打ちすえて縄にかかる導入があり、奥殿内へ。幕開け、出家姿の高時が横向きで、どんより柱に寄りかかっている珍しい演出だ。民を顧みず遊興に耽り、それでも楽しめない厭世感。愛妾(代役で市川笑三郎)相手に飲んだくれていて、三郎は死罪だとあっさり。家臣に「御当家二代の御命日」なのにと諭されて扇子を取り落とし、なんとか思いとどまる。
大薩摩が入って後半、がらりと雰囲気が変わって明かりが消え、不穏な雷鳴と稲妻。綱につかまって天狗8人が乱入し、ぴょんぴょんジャンプしちゃってアクロバティックだ。高時はすっかり誑かされ、田楽法師が来たと喜んで必死に舞い、宙づりにされたり逆立ちで持ち上げられたり、ヘロヘロ。舞の名手がぎこちなく踊るのも難しいだろうなあ。ラストは我に返り、長刀を抱えて悔しげに虚空を睨む。いやはや。

仕上げは一転、舞台いっぱいの紅葉が華やかな「紅葉狩」で理屈抜きに楽しむ。2008年に初めての南座で、玉三郎の前年初演作「信濃路紅葉鬼揃」(毛振り付!)に圧倒されたのが懐かしい。能を下敷きにした明治の作品のバリエーションだったんですね。團十郎が更科姫、実は戸隠山の鬼女。上手下手にシンプルな見台の常磐津と長唄、上方の御簾に房付見台の竹本と、三方掛け合いで贅沢だ。
前半は平維茂(貫禄の松本幸四郎)と家臣(廣松、愛嬌のある虎之介)が散策の途中、幔幕を張り巡らせた更科姫の一行に誘われる。團十郎の赤姫、やっぱり大柄で目立つなあ。呑気な家臣たちが明るく踊り、勧められるまま呑んだくれちゃう。姫は局(豪華代役の中村雀右衛門が重厚)との連舞や、曲芸的な二枚扇(頑張りました!)を披露。維茂も寝入ったのを見届け、恐ろしい本性を垣間見せるのがホラー的だ。
山神(市川新之助12歳が達者)が足拍子も軽やかに姫の正体を警告し、維茂が目覚めたところへ、鬼女が襲いかかる。鬼の逆立った茶髪、隈取り、キンキラのぶっ返りと、激しい立ち回りが派手。名刀・小烏丸に押され、巨大な松の枝に乗って、きまりました~

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團菊祭「義経腰越状」口上「弁天娘女男白浪」

團菊祭五月大歌舞伎 夜の部 2025年5月

八代目尾上菊五郎、六代目菊之助襲名披露のめでたい芝居を楽しむ。江戸情緒の定番・弁天小僧はもちろん、平均年齢11歳の可愛い勢揃いやら、松緑ゆかりの珍しい演目やらが楽しい。歌舞伎座1階、前の方のいい席で2万3000円。休憩3回でたっぷり4時間強。

幕開けの「義経腰越状 五斗三番叟」は義太夫狂言で、二世松緑が得意としたとか。義経(=豊臣秀頼)が頼朝(=徳川家康)に拒絶され、こともあろうに遊興三昧、という設定。なんとかしようと忠臣・泉三郎(=真田幸村)から軍師に推挙された五斗兵衛(=後藤又兵衛)が主役なんだけど、時代物らしからぬ飄々としたキャラでユニークだ。
冒頭、雀踊り(「べらぼう」で吉原のダンスバトルに出てきました)の群衆にまぎれて現われた家臣・亀井六郎(尾上左近)が、義経に諫言するけど追い返される。そこで五斗(尾上松緑)が登場。周りは大時代な武将なのに、ひとり顔も装束もいたって普通。しかも、おどおどして頼りない。裏切り者の錦戸太郎(坂東亀蔵)、伊達次郎(赤面の種之助)兄弟から好きな酒を勧められ、「かかに止められている」とか言って固辞するものの、結局ぐいぐい呑んじゃう。「滝呑み」なんかも披露してぐでんぐでん、もちろん義経との対面は台無しだ。なんともコミカル。
ところが、へのへのもへじ顔の竹田奴たちが、奇声をあげピョンピョン跳ねながら追い払いにくると、とたんに大暴れ。悠々と三番叟を舞い、凧揚げ、紙相撲などで奴をあしらっちゃう。最後は奴たちを馬にして悠々と引き上げる。大らかでした!

お楽しみ口上は七代目菊五郎が披露し、梅玉さんを筆頭に、ひとり柿渋色の裃の團十郎が楽屋話で笑わせ、松緑、噛んで含めるような玉三郎、大御所楽善さんという顔ぶれ。やっぱり團十郎は華があるなあ。

メーンは待ってました「弁天娘女男白浪」。言わずと知れた五世菊五郎初演の、音羽屋代々の当たり役。序幕の浜松屋見世先、八代目の弁天がちょっと真面目でテンポが速めなのは、この人らしい。南郷力丸の松也が格好よく、日本駄右衛門の團十郎も堂々。鳶頭の松緑、主人・幸兵衛の歌六と初役が多い。
続く稲瀬川勢揃いが傑作で、子供世代の御曹司たち五人がうち揃い、微笑ましいやら頼もしいやら。弁天にきりっと菊之助、忠信利平に亀三郎、赤星十三郎にちっちゃな梅枝、南郷力丸にぐんぐん背が伸びる眞秀、日本駄右衛門に端正な新之助。
二幕目は大人世代に戻ってアクションに次ぐアクションだ。極楽寺屋根立腹の場で弁天が大立廻りの末に最期をとげ、ダイナミックな「がんどう返し」。極楽寺山門の場で日本駄右衛門が追手を蹴散らし、滑川土橋の場でついに七代目が青砥左衛門藤綱として悠々と登場。八代目と並んで、川に落とした十銭を拾うエピソードののち、最後はセット上方の日本駄右衛門に情けを示して華やかに幕。

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歌舞伎「彦山権現誓助剣」「春興鏡獅子」「無筆の出世」

四月大歌舞伎 夜の部  2025年4月

講談師の登場が話題の夜の部に足を運んだところ、それも面白かったけど、なんといても尾上右近の舞踊に引き込まれた。歌舞伎の継承に期待が持てる気分。変化に富んだ演目の並びもよかった。歌舞伎座、前のほう中央のいい席で1万8千円。休憩2回で3時間半。

まずは定番の「彦山権現誓助剣」から杉坂墓所と毛谷村。2009年の吉右衛門、2020年の仁左衛門ときて、今年お正月には菊五郎襲名を控えた菊之助で観たヒーロー六助だが、今回は幸四郎の偶数日(奇数日は仁左衛門)をチョイス。初役の際、吉右衛門さんに教わったとかで、剛直さがなかなか。得な女武道のお園で片岡孝太郎がはまっていた。敵役の微塵弾正に中村歌六、母お幸は人間国宝・中村東蔵、孫の弥三松は可愛い中村秀之介(歌昇の息子、7才)。

お弁当休憩の後、「春興鏡獅子」を意外に初めて拝見。こちらも人気の石橋物の長唄所作事だ。9世市川團十郎が依頼して、福地桜痴作、三世杵屋正治郎作曲で明治26(1893)年に初演、後に新歌舞伎十八番に加わった。小姓弥生と獅子の精は6代目尾上菊五郎の当たり役。ひ孫にあたる今年32才の尾上右近は幼いときから映像を見て憧れ、自主公演で研鑽を重ねて本興行初役を射止めたという。
舞台は江戸城の大奥。新年の「お鏡曳き」の余興で弥生が踊る。「牡丹の花びらのように」だそうで、川崎音頭の手踊りから茶袱紗や塗扇、二枚扇を使って、また時鳥を目で追う振りなどが可憐。獅子頭を手にすると魂が宿って蝶と戯れはじめ、いったん花道を引っ込む。
胡蝶の精でともに12才の坂東亀三郎(彦三郎の息子、市村羽左衛門のひ孫)と尾上眞秀が登場。杵屋勝四郎(唄)・巳太郎(三味線)以下の長唄にのり、バチを使う鞨鼓や鈴太鼓で可愛く花に戯れる。迫力ある大薩摩で雰囲気が一転、お能同様に囃子方の激しい乱序となり、花道から獅子の精が登場して勇壮な狂いをみせる。深山ではなく、将軍家の眼前に現われた千代田城の獅子だ。毛振りをただ振り回すのではなく、勢いのなかで表情をかえてみせるのが凄い。細部まで探究しているさまが伝わる。歌舞伎座上演を飛び級と受け止め、手獅子と弥生の衣装を新調したとか。その気合いやよし。 

短い休憩を挟んで「無筆の出世」は、講談の人間国宝・神田松鯉(伯山の師匠)の口演を竹柴潤一が脚色した新作。名も無い庶民・治助(尾上松緑)が無筆である負い目のバネに、努力と「仇を恩で返す」生き方で幕府の要職にまで出世するサクセスストーリー。松緑が取り組む講談シリーズ第三弾だ。実直さが松緑にぴったりだし、場面ごとに紗幕前で松鯉本人が導入していく新しい演出が面白い。
幕開けは夏の隅田川。治助が主人の手紙を川に落とし、紺屋職人の久蔵(坂東亀蔵がきっぷよく)が乾かしてくれる。その折、内容を目にした大徳寺の住職・日栄(播磨屋の中村吉之丞が安定)が「手紙を届けたら試し切りにされる」とんでもない内容だと教えて、治助を寺男にする。時は移り紅葉の季節。日栄の碁仲間、祐筆の夏目左内(市川中車)が気の利く治助を気に入って中間に雇いいれる。そして冬。夜な夜な砂箱で必死に字を学ぶ治助の努力に感じいって、左内自ら字や学問を教えるようになる感動のシーン。妻の藤(市川笑三郎)もこれを励ます。
それから30年。四書五経を習得した治助は侍になり、左内の跡を継いで祐筆、ついには勘定方奉行にまで出世しちゃう。とある春の日、屋敷の花見にかつての主人・佐々与左衛門(中村鴈治郎)を招く。すると床の間に因縁の手紙が! 与左衛門は動揺、酔っ払っていたとはいえ酷いことをしたと詫び、切腹しかかるが…
もとは松鯉が古書店で12世田辺南鶴の速記本をみつけ、復活した演目とか。大詰め、与左衛門が生きてきた長い後悔の人生と、二人の関係性は単なる美談に終わらせず、もっと深める余地がありそう。講談師が一月通して歌舞伎座に出るのは初だそうで、講談ファンでもある私としては定番化に期待します~

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南座「伊勢音頭恋寝刃」「於染久松色讀販」

三月花形歌舞伎 午後の部  2025年3月

若手中心の春の南座、桜プログラムに足を運んだ。入口でお楽しみ袋をもらったら、中身は俳優のフィギュアカード。冒頭には「憚りながら手引き口上」があり、この日は中村福之助。ここだけは写真撮影もOKで、ファンサービスが頼もしい。舞台はいまや中堅として成駒屋を引っ張る中村壱太郎、そして南座花形は3年ぶりという中村米吉が存在感を発揮していた。1F中央あたりの良い席で1万2000円。休憩1回で3時間弱。

まず片岡仁左衛門監修の「伊勢音頭恋寝刃」。文楽で2回ほど観た刃傷ものだ。実際の事件からわずか3日で書き上げたという勢いがある。伊勢古市油屋店先の場では遊郭の中居・万野(壱太郎)が、御師・福岡貢(南座花形は初参加の中村虎之介、上方の「ぴんとこな」をチャーミングに)に満座の中で恥をかかせる。壱太郎が年増の艶と憎たらしいいけずさを存分に。恋人・油屋お紺(米吉が期待通り可愛く)は胡弓にのせて、哀しい愛想づかしを聞かせる。
続く油屋奥庭の場で、激昂した貢が次々に人を斬り捨てちゃう。虎之介が健闘。もう少し凄みが欲しいけど。ほか、貢の家来筋・喜助で中村福之助が頑張り、横恋慕する油屋お鹿に茶目っ気たっぷり市川猿弥(ちょっと目立ち過ぎ?)、名刀を狙う岩次に市川青虎。

休憩後は「於染久松色讀販 お染の五役」。壱太郎オンステージで、竹本と常磐津にのって五役を早替りで見せる。女形の大役「お染の七役」のうち、大切の道行を独立させた舞踊だ。松プログラムでは鬼門の喜兵衛(敵役)になるところを、この日は雷で。物語としてはお染久松の心中物で、文楽「新版歌祭文」は3回観ているし、悪党・土手のお六たちに焦点を絞ったニザタマバージョンの歌舞伎も観たけれど、この日は舞踊の華やかさ、ケレンを楽しむ。
浅草・質店油屋の娘・お染(壱太郎、町娘)が横恋慕する番頭に連れ去られ、恋仲の丁稚・久松(同、若衆)が追う。菜の花咲き乱れる隅田川のほとりでは久松の許嫁・お光(同、田舎娘)がさまよう。「見渡せば のどかなる世の景色かな」で、なぜか雷(同、道化)が下界に転落。ラストは久松の家来筋、土手のお六(悪婆)が再会したお染と久松を捕手から逃がす。
この人はやっぱりお六に迫力があって、いいなあ。ほか、お光を介抱する猿回しに虎之助、米吉。

プログラムの対談で、壱太郎がそれぞれ「学校」が違う、と言っていて興味深い。福之助は澤瀉屋のスーパー歌舞伎や玉三郎、虎之助は中村屋なんですねえ。みんな頑張れ!
ロビーには花形お約束の撮影スポットやメッセージボードも。開幕前にインバウンドのフードコートと化した錦市場を見学しました~
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歌舞伎「壇浦兜軍記」「江島生島」「人情噺文七元結」

猿若祭二月大歌舞伎 夜の部 2025年2月

お馴染み、かつ変化に富んだ演目が並んだ歌舞伎見物。華やぐ歌舞伎座、花道近くで1万8000円。休憩2回で、たっぷり4時間。

まず端正な京都堀川御所のセットで、「壇浦兜軍記」から極付・坂東玉三郎の阿古屋。観るのは2015年、18年に続き3回目だけれど、琴、三味線、胡弓の三曲、特に胡弓がレベルアップしている印象だ。恐るべし人間国宝。昨年末に桐竹勘十郎、鶴澤勘太郎で堪能した文楽版が、磨き抜かれたソロなのに対し、歌舞伎版は下手に竹本、さらに三味線「班女」のくだりでは上段に長唄が加わるいわば協奏曲で、スケールがある。もちろん阿古屋の衣装もド派手。花道からの出で、捕手の中村橋吾さんと並んで決まったり、岩永の脅しを高らかに笑い飛ばしたり、も格好良い。
生締めの捌き役・重忠の菊之助は、さすがノーブル。赤っ面の岩永は中村種之助で、人形振りもきびきびと、赤く飛び上がったりチャレンジしていた。

休憩は席で「ひらい」の穴子などお弁当をつつき、大正期の長谷川時雨による長唄舞踊「江島生島」をしっとりと。大奥の中﨟・江島とのスキャンダルで、三宅島に流された実在の人気役者・生島新五郎(二世團十郎を育てたことで知られる)を描く。まず照明を落として生島(菊之助)の夢のシーン。桜舞う春の夜に船を浮かべ、江島(中村七之助がたおやかに)と小鼓をうったり盃をかわしたり睦まじい。しかし物悲しい舟唄で江島は忽然と、すっぽんから姿を消す。
ぱあっと明るくなって後半は現実の岸辺。夢から覚めても心ここにあらずの生島を、海女(一転おきゃんな七之助と中村芝のぶら)がからかって少しコミカル。やがて雨が落ちてくるなか、小間物売の旅商人(きびきびと中村萬太郎)が持っていた小袖を江島に見立てたり。哀れで美しかった。

鯛焼きの休憩を挟んで、ラストは眼目の中村屋ゆかり、榎戸賢治脚色「人情噺文七元結」。2010年に亡き勘三郎で観た左官の長兵衛を、中村勘九郎が温かく。力強さと、ちょっと影のある感じが印象的だなあ。幕開き「長兵衛内」は七之助の、思い切りのいいコメディエンヌぶりが際立ち、極貧も息苦しくない。角海老手代・藤助は中村山左衛門。回り舞台で一転、豪奢な「吉原角海老内証」になると、女房お駒の中村萬壽がどっしりと、さすがの存在感を示す。小じょく・お豆の中村秀之介(歌昇の次男)が相変らず可愛く、女郎で70代の尾上梅之助も元気。お久・勘太郎の娘役は、ちと厳しいけれど。
そしていよいよ「本所大川端」で勘九郎が、行きつ戻りつ、決して格好いい善人ではない長兵衛の、心根の優しさを存分に。手代・文七の中村鶴松もリズミカルに、息の合ったところを見せる。落語にある和泉屋の面白いくだりは端折って、ラストは「元の長兵衛内」。派手な夫婦喧嘩のなか、文七を伴って礼に訪れる和泉屋清兵衛を、中村芝翫がますます貫禄で。振り袖姿のお久を連れ帰る鳶頭・伊兵衛に、ご馳走の尾上松緑。江戸っ子が似合う人です。家主は手堅く片岡市蔵。ハッピーエンドで幕となりました~

お稲荷さんの「初午」にちなんで、売店の軒先などに面白い地口行灯。こういう季節感も歌舞伎の醍醐味。

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引窓

市川高麗蔵・中村松江引窓に挑む  2025年2月

中村芝翫監修で、「新たな歌舞伎への挑戦」と銘打った試みの第2回に参加。長唄・囃子方の大木竹美(杵屋栄津美)・大木梨恵(望月初寿恵)母娘が2023年、飯田橋に開設した古典芸能専用の鶴めいホール、2階含め40席という至近距離でのリーディング公演だ。休憩を挟んで2時間。ちょっと高めの8000円。

役者がこしらえ無し、座ったままで、名場面の複数人物を演じ分ける、いわば素歌舞伎の企画で、今回は中村松江が堅実に濡髪と与兵衛、市川高麗蔵(初代白鸚の部屋子)が端正に母とお早。近さもあり、息遣いやそれぞれの個性が感じられて面白い。こういう稽古が華やかな歌舞伎舞台につながるんだなあ。
素といっても、主催で合同会社京枡屋舞台の三枡清次郎が義太夫を務め、イヤホンガイドのおくだ健太郎が割と頻繁にナレーション(解説)を入れるので飽きません。背景スクリーンにはセットの写真。

休憩を挟んで短いフリートークでは、松江が芝翫に濡髪をみてもらった、演じる機会が少ないので緊張した、高麗蔵が中村東蔵に母を教わり、これは生活劇ときいた、等々。石井康幸撮影の格好良いポートレートや稽古風景の写真販売も。
せっかくなのでもっと役者、観客同士の交流の仕掛けがあったら良かったかな。

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歌舞伎「彦山権現誓助剣」

国立劇場新春歌舞伎公演 通し狂言「彦山権現誓助剣」  2025年1月

浅草と並んで初春気分が横溢する音羽屋一座の歌舞伎へ。初台の新国立劇場での開催となって2年目。初日は開演前に獅子舞付き! 舞台から降りてお客さんの頭を噛み、ご祝儀をもらう厄払いも。振る舞い酒など劇場全体が正月仕様だった国立劇場に比べると、だいぶ大人しいけれど、やっぱりウキウキする。
本編は明るい義太夫狂言で、こどもたちまで俳優各世代が集い、客席も巻き込んで大家族新年会の趣きだ。いよいよ菊五郎襲名を控える尾上菊之助はもちろん、敵役の坂東彦三郎らが安定。襲名間もない中村時蔵は美しく、コミカルな味もいける。終盤ではずらり並んだ次々代を担う御曹司たちがとにかく可愛くて、菊五郎じいじは目尻を下げっぱなし。めでたいなあ。花道が短くL字になっているのはびっくりの中劇場、前の方の上手寄りで1万4000円。休憩2回で4時間半。

演目は恒例の通しで 「彦山権現誓助剣(ひこさんごんげんちかいのすけだち)」。2009年に吉右衛門、2020年に仁左衛門で「毛谷村」を観た朗らかな作品を、発端から大詰めまでたっぷりと。秀吉の九州攻めを背景にした、痛快な仇討ちもので、なんといっても腕っ節が強く気が優しい六助のキャラが魅力的だ。天明6(1786)年に文楽で初演、妹背山以来のヒットとなったとか。
発端で新たに彦山権現山中の場が加わった。舞台は豊前・豊後・筑前にまたがる、のどかな霊山。八重垣流指南の吉岡一味斎(中村又五郎)が、親孝行で、侍が仕留めた鳥を逃がしちゃう六助(菊之助)の人柄を認め、剣術の奥義を授ける。
序幕の郡家場外の場は原作に無く、江戸時代中村座の台帳をもとに復活したそうです。周防の国、時は端午の節句。御前試合の負けを恨んだ京極内匠(彦三郎)が、一味斎を銃で闇討ちするシーンを見せる。続く一味斎屋敷の場で、娘・お園(時蔵)が一味斎の妻・お幸(上村吉弥)に、酔態を装う「シの字尽くし」で父の死を知らせる悲嘆。覚悟を試す上使・衣川弥三左衛門(河原崎権十郎)の槍を見事に留め、仇討ちのお墨付きを得る。女武道も、懐の深い上使も格好良いぞ。

短い休憩を挟んで二幕目は、舞台が暗くなり、光秀最期の地にちなむ小栗栖(おぐるす)瓢箪棚の場。変化に富んで面白い。まず惣嫁(そうか、上方の夜鷹)たちの軽妙さから一転して、忠臣・友平(中村萬太郎)が妹・お菊の最期を語って、無念の切腹。そして蛙が鳴くなか、内匠が怪しい父・光秀の亡霊(又五郎)から小田春永の名剣・蛙丸を授かるスペクタクル。さらには仇と知ったお園がなんと鎖鎌で打ちかかり、派手な立ち回りに。瓢箪がばらばら落ちたり、不安定な棚の上で渡り合ったり、ついには装置が崩れて時蔵がごろごろ!

長めの休憩のあとは、お馴染みの三幕目。杉坂墓所の場で六助が、微塵弾正と変名した内匠に八百長を約束。また偶然、内匠一味に追われる幼いお菊の子・弥三松(八の字眉が可愛く、8歳だけど達者な秀之介・歌昇の次男)を預かる。続く六助住家の場は上手に椿、下手に梅で清々しい。弾正に眉間を割られてもへいこらしてやり、懸命に玩具で弥三松をあやす六助、人が良すぎます。虚無僧姿で現れたお園が切々と苦難を語るクドキ、女武道としおらしさのミックスを生き生きと。後半、弾正の悪事を知った六助が怒りのあまり、庭石を踏んでめり込ませちゃって拍手~
大詰・久吉本陣の場は、ぱあっと視界が開けてお楽しみ。知勇兼備の大将・久吉(菊五郎)が、坂東楽善、萬太郎、市村竹松らを従えて堂々サポート。一行が本懐を遂げる。若武者(坂東亀三郎・彦三郎の長男、菊五郎襲名を控える尾上丑之助、背が伸びた尾上眞秀、中村梅枝、中村種太郎・歌昇の長男)が居並んで、お正月の手ぬぐいをまき、渡り台詞できまり、背景には朝日が輝く。これぞ大団円でした~

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浅草歌舞伎「春調娘七種」「絵本太功記」「棒しばり」

新春浅草歌舞伎 第2部 2025年1月

初芝居は若手の初々しさが嬉しい浅草公会堂へ。今年は10年ぶり、顔ぶれを20代に一新して、中村橋之助が座頭のチームに。昨年の熱気は隼人人気だったんだなあ、と振り返りつつ、愛嬌で突出する鷹之資、なかなかの曲者・左近をはじめ成長が楽しみになって満足。1F中ほど上手寄りで9500円。休憩2回で3時間半。

年始ご挨拶はきびきび中村鷹之資で、当日券で花道脇狙いの女性に手ぬぐいをプレゼント。橋之助が演目の見どころを短く解説してから、お正月らしく長唄舞踊「春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)」。曽我物の舞踊で最古だそうです。富士と紅白の梅がぱあっと華やか。
頼朝の家臣・工藤祐経を狙う五郎(尾上左近)、十郎(中村玉太郎)と、愛する義経が頼朝に追われている静御前(中村鶴松)という設定だ。仇討ちにはやる兄弟が「丹前振り」「相撲振り」から鼓の「打囃し」。七草を織り込んだ詞章にのって、静御前が「七草の合方」で千穐楽々万歳と祈り、七草をたたく。最近、個人的に注目している左近が、小柄ながらもまずまずの武者ぶり。鶴松はもはや余裕ですね。

休憩を挟んで、1部と役柄を入れ替えての連続上演が話題の時代物「絵本太功記」から、追い詰められる武智光秀一家がひたすら悲しい尼ヶ崎閑居の場、通称「太十」。2016年に文楽で観たけど、意外に歌舞伎では初でした。
本能寺の変から八日目。前半は初陣に向かう息子・十次郎(鶴松)を巡り、女3世代がそれぞれ愁嘆をたっぷりと。許嫁の初菊(左近)は泣く泣く鎧櫃を準備して三々九度。母・皐月(中村歌女之丞)、妻・操(中村莟玉)は討ち死に覚悟だけど、謀反の死に恥を避けたくて、と打ち明ける。悲痛。左近が舞踊から打って変わって、絵に描いたようなお姫様。ちょっと声が低いかな。ちらっと登場する長身の旅僧・実は真柴久吉の市川染五郎が、さすがノーブル。莟玉は派手な顔立ちが目立つなあ。
竹本が交代して後半は、蛙が鳴くなか、光秀(橋之助)が竹藪から登場、久吉と間違えてこともあろうに皐月を刺しちゃう。えーっ。皐月が苦しい息の下から謀反を責め、瀕死で戻った十次郎は敗北を報告。2人の死に、さすがの光秀も大泣きだ。と思ったら、陣太鼓の音でセットが転換。光秀は松の木に登って追手を見極め、最後のひと暴れを期すけれど、そこはお約束、颯爽と武将姿に転じた久吉、駆けつけた佐藤正清(鷹之資)と後日の決戦を約束して派手やかに幕となる。橋之助はスケールが大きくて頼もしいけど、さすがに光秀らしい凄みはまだまだ。ガンバレ!

休憩後にお目当ての松羽目物「棒しばり」。勘三郎・三津五郎コンビの名演を映像で観たけれど、こちらも舞台では初。岡村柿紅作、五世杵屋巳太郎作曲で大正5(1916)年市村座初演の長唄舞踊で、狂言のわかりやすい笑い、高度な技量で文句なく浮き立つ。
お話はシンプル。酒好きの使用人に手を焼く大名(橋之助)が一計を案じ、次郎冠者(鷹之資)が「夜の棒」を披露する隙に手を縛り、笑っている太郎冠者(染五郎)も後ろ手にいましめて外出。2人は不自由なのに凝りもせず酒蔵に忍び込み、協力してまんまと呑んじゃう。酔っ払って上機嫌で踊っているところへ、大名が戻って大騒ぎ。
なんといっても鷹之資が、ユーモラスできびきびしていて抜群。大名相手に棒を振り回したり、器用に汐汲みを踊ったり、扇子を左手から右手に投げ渡したり、喝采です。頭大きめのバランスも、古風な演目にぴったりだ。対する染五郎はすらっとしているけど、よく稽古している感じだし、橋之助も堂々としていて歌舞伎らしい。面白かったです!

ここからまた十年かけて、スターが育っていくんだなあ。空いてきた浅草寺にお参りして、穏やかなお正月を満喫。

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狐花

八月納涼歌舞伎 第三部 2024年8月

真夏の一夜を怖い歌舞伎で、としゃれ込んで話題の新作「狐花(きつねばな)葉不見冥府路行(はもみずにあのゆおのみちゆき)」。京極夏彦初の書き下ろし脚本、今井豊茂演出・補綴。凄惨な事件の連鎖、怪異を生むのは観る者の心理で、怖いのは生きている人間のほう、という主題はわかる一方、全体に説明が多くて、まったりとした運び。舞台一面、毒々しい曼珠沙華は印象的だけど、ケレンなど歌舞伎らしさはなし。ここは演劇的な感興が欲しい。こうしてみると南北、黙阿弥の凄さがわかるような。歌舞伎座中ほどの花道手前で1万6000円。休憩を挟んで3時間強。

時代は江戸末期、百鬼夜行シリーズの憑き物落とし(陰陽師)中禅寺秋彦の曾祖父、中禪寺洲齋(じゅうさい、松本幸四郎)が探偵役だ。一幕目は発端で、25年前の神職・信田家への押し込み・放火と美人の奥方・美冬(市川笑三郎)の拉致シーン。そして曼珠沙華が闇に浮かぶ荼枳尼天(だきにてん、貴狐天皇)の荒れ社前で、清明紋の洲齋と狐面の男(中村七之助)が問答をかわす。んー、抽象的。
そして公共事業で財をなした、いかにも悪者の作事奉行・上月監物(中村勘九郎)の屋敷。曼珠沙華柄の小袖の男の出現に、家臣・的場佐平次(市川染五郎)と辰巳屋(片岡亀蔵)、近江屋(市川猿弥)が、かつての悪事の露見を恐れている。並行して、奥女中・お葉(七之助が2役)と近江屋の娘(坂東新悟)、辰巳屋の娘(扇雀の息子、中村虎之介)は、結託して殺したはずの浮気男・萩之介の亡霊におびえている。すると案の定、辰巳屋と近江屋に萩之介が現れ、錯乱した娘たちがそれぞれ父を殺めちゃう。いやはや。

お弁当休憩を挟んで、二幕目はさらに悲惨です。冒頭と同じ社前で、中禪寺がなんとか狐面の男を止めようとするシーンがあり、上月家へ。的場の依頼で一連の事件を探っていた中禪寺は、萩之介がお葉に化けて娘たちを操り、何らかの復讐をした、次の狙いは上月家だと指摘。監物は慌てず、警護のため娘・雪乃(米吉)を屋敷内の牢に入れる。
そこへ萩乃介登場。この牢は25年前、監物が辰巳屋らと美冬を閉じ込めた因縁の場所、自分は失意の美冬が産んだ雪乃の双子の兄で、放下師や陰間茶屋に売られてきて…と語り、共に監物への復讐を決意。とんでもないと的場が2人を討ったところへ、監物が到着して、いきなり不忠者!と的場を斬り捨てちゃう。あれれ。駆けつけた中禪寺は瀕死の萩之介に、実は兄だと明かして悲しみに暮れる…
後日、監物を訪ねた中禪寺は25年前の押し込みについて、美冬だけでなく信田家の隠し財産を手に入れて成り上がった、しかし生き残ったあなたはなんと孤独なことか、と告げて…

ロングヘアの幸四郎はちょっと斜に構えた感じが、すべてを心得ている憑き物落としらしく、最近めっきり線が太くなった染五郎も安定。年増っぽい新悟と、趣里を思わせる風貌の虎之介のびっくりの身勝手さ、対照的に辰巳屋番頭・中村橋之助の切なさがいい。勘九郎は悪の権化に徹していたけど、スケール感はもうひとつか。
私は観ていないんだけど、納涼でよくかかったコメディ弥次喜多シリーズは杉原邦生、戸部和久、猿之助と脚本・演出が充実してたんですねえ。舞台って難しい。幸四郎さんは名だたる芝居好きで、よくわかっているはず。足を運びやすい遅い時間の上演、空席があったのは天候のせいでしょう。ガンバレ。

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