歌舞伎

高砂会「鴛鴦襖恋睦」「建礼門院」

第3回高砂会 2026年8月

知人主催の集まりで、人間国宝・4代目中村梅玉一門の勉強会へ。歌舞伎座などでは支える立場の弟子たちが、25年祭となる大旦那、6世中村歌右衛門ゆかりの演目を披露する。2日間、3公演にわたる大役、さぞプレッシャーだと思うけど堂々たるもの。観客は応援モードだし。
物販コーナーに中村莟玉が立ち、写真撮影に応じるサービスは勉強会ならではのお楽しみだ。振付・指導は藤間宗家の勘祖、勘十郎。日本橋公会堂(日本橋劇場)の2列目といういい席で8000円。休憩を挟んで3時間弱。

「鴛鴦襖恋睦(おしのふすま こいのむつごと)」、通称おしどりは歌右衛門が、1954年の自主公演で復活した演目とのこと。古風ななかにも、羽ばたく振りやヒラヒラ羽根へのぶっかえりが楽しい。前半「相撲の場」は3人が舞台中央からせり上がり、ゆったりと長唄舞踊。遊女喜瀬川(梅寿が柔らかく)を争い、二枚目の河津三郎(2023年入門の梅大)と赤っ面の荒若衆・股野五郎(2025年に名題昇進の梅秋)が相撲をとる。負けた股野が鴛鴦を狩って、河津に血の毒をもる計略を語り、後半「鴛鴦の場」では常磐津にのせ、狩られた鴛鴦夫婦の精(梅大、梅寿)が現れて股野を翻弄する。
続いて中村梅玉、莟玉が挨拶。梅玉が「傘寿って言うなよ」と笑わせ、今回の演目への思い、関係者への感謝などを洒脱、丁寧に。

休憩を挟んで、「平家物語 建礼門院」から洛北大原寂光院。新国劇「王将」で知られる北条秀司作の新歌舞伎だ。1969年に歌右衛門の建礼門院徳子、2世中村鴈治郎の後白河法皇で初演し、8世福助時代の梅玉は高倉帝で出演したとか。今回はなんと31年ぶりの上演で、川崎哲男(元松竹常務で東京交響楽団理事長の岡崎哲也)が演出。難しい会話劇だけど、セリフがわかりやすくて引き込まれた。
舞台は山奥の寂光院。幕が開くと、おぼろに花が咲き乱れる書割(新制作!)が美しい。壇ノ浦の合戦後、心ならずも生きのびた建礼門院(梅乃)が隠棲するところへ突然、舅の後白河法皇(梅蔵)が訪ねてくる。
法王は源平の戦乱をあおったものの権力を掌握できず、深く悔いて門院に詫びる。門院は激しく反発するが、やがて法王を赦し、すがすがしい表情に。平清盛の娘に生まれ、高倉帝に嫁いで栄華を極めたお嬢様が、平家滅亡の辛酸をなめ、我が子・安徳帝を死なす悲劇をへて、恩讐を超えていく…

1995年に歌右衛門と島田正吾が上演した際、1964年生まれの梅蔵は舞台上で花びらを散らしながら、感動していたという。粘り強い芸の継承に感嘆。ちょっとしたハプニングをものともせず。右京太夫に中村魁春門下の春江が助演し、阿波内侍に梅寿。附け打ちで山崎徹、長唄三味線に鳥羽屋里松の姿も。カーテンコールでは俳優全員で挨拶となりました。

客席には歌右衛門の芸養子で、人間国宝の中村東蔵さんや一中節宗家・都一中さんもいらして、華やかでした~
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歌舞伎「末広がり」「時今也桔梗旗揚」「御浜御殿綱豊卿」

七月大歌舞伎 昼の部Aプロ 2026年7月

また素晴らしい舞台を拝見しました。片岡仁左衛門が46年演じてきた綱豊卿で、情を踏まえつつ、一段高い視座で秩序を目指す大人物を存分に。この上品さ、格好良さ。松本幸四郎も初の大役・光秀、仁左衛門に相対する助右衛門と、大奮闘で頼もしい。歌舞伎座、なんと1階3列ほぼ中央のいい席で2万円。休憩2回を挟んでたっぷり4時間半。今観ることができて、歌舞伎友達に感謝感謝。

幕開けは狂言を題材にしたおおらかな松羽目もの「末広がり」。太郎冠者(中村隼人)が末広がりを扇のことと知らず、古傘を買い、しかも酔っ払って戻ってくる。大名(市川染五郎)が怒るので、機嫌をとろうと「傘をさすなら春日山」、続いて小舞を舞う。つられて大名も踊り出しちゃって、扇尽くしの連れ舞い、さらには大神楽の曲芸が飛び出し、楽しい1幕だ。染五郎は上品、隼人もはつらつ。後見は高麗屋の松本幸蔵と錦之助一門の中村隼之助。

休憩を挟んで鶴屋南北作「時今也桔梗旗揚」から本能寺馬盥の場、愛宕山連歌の場。2012年に決定版の中村吉右衛門、2016年にも尾上松緑の光秀で観た演目だ。今回は幸四郎が丁寧に、高麗屋、播磨屋の当たり役を継承する。満座のなかで妻・皐月(重厚な中村扇雀)の切髪を突きつけられる衝撃、ひとりになって無言のうちに謀反を決意する悲壮。大詰めでは闇に浮かぶ白装束の不気味さから一転、挙兵へと刀をかかげた見得で拍手。幸四郎さんの持ち味としては天下を狙う反逆者というより、いい人キャラだと思うけど、だからこそ説得力がある。
光秀を追い詰めるキーマン春永(信長)は尾上松也。おりしもタイミングがシンクロした大河ドラマ「豊臣兄弟」では、かつて弟の裏切りにあった信長のトラウマを描いていたけど、この日はひたすらパワハラ上司だ。それにしては憎々しさがちょっと軽めだったかな。大詰めで光秀に従う四王天但馬守がご馳走の市川團十郎で、出てきただけで舞台がぱあっと錦絵になるのがさすが。ほかに光秀妹・桔梗に中村米吉、森蘭丸に染五郎、光秀家臣・安田作兵衛に中村錦之助。けっこう目立つ力丸は研修出身で、扇雀門下の中村かなめ、腰元に中村梅乃さんを発見。

休憩のあと「元禄忠臣蔵」から「御浜御殿綱豊卿」。セリフ劇で、南北のあとだと地味かな、と思ったら大間違い。初めて観たけど、緻密な心理戦で全くだれない。真山青果作、昭和初期の1940年初演の新歌舞伎で、まず戯曲の綱豊の造形が、複雑でスケールが大きくて魅力的だ。のちに6代将軍家宣になる人物で、知的かつ洒脱。心情としては浅野家再興を願いながらも、道義を重視し、先代となる将軍綱吉と側用人柳沢吉保による裁断の誤りをただそうとする。そんな人物を仁左衛門が風格たっぷり、クリアに演じて素晴らしい。
第1幕・御浜御殿松の茶屋は現在の浜離宮での「お浜遊び」で、お伊勢参りに分したおいぬ某(中村陽喜、獅童の長男で9歳)が、綱豊にご報謝をねだって可愛い。
第2幕は御浜御殿綱豊卿御座の間から。アドバイザーの新井勘解由(白石、中村歌六がゆったりと)相手に綱豊が考えを明かす。正妻を通じて近衛関白家から浅野家再興の口添えを頼まれたけど、それより先に仇討ちを成就させたい… 将軍後継と警戒されるのが迷惑で、政治から距離をおく自分と、京都で放蕩している大石内蔵助の心理を重ねるくだりが、また深い。
続く御浜御殿入側お廊下で、招待客・上野介の顔を確かめようと、富森助右衛門(幸四郎)がもぐり込んでくる。隙見(見物)だけのつもりが、思いがけず綱豊に呼び出されちゃって、セットが御座の間に戻り、見どころの緊迫した台詞の応酬となる。綱豊はあの手この手で仇討ちする気があるのかを探ろうとし、助右衛門はとぼけながらも表情で訴える。幸四郎は不器用、一途なだけでなく、武士らしい気骨がにじんでいい。
大詰めは一転、非日常の空気となる御浜御殿能舞台の背面。ドラマチックで憎い演出だ。助右衛門が上野介を討ってしまおうと、槍を構えるところへ、煌びやかに鈴が鳴らして能装束の綱豊が登場。立ち回りの末、闇討ちでなく立派な討ち入りを、と諭して、端然と舞台へ向かう。身分の低い相手も水平に見つつ、威厳を示す。仁左衛門さん、所作も視線も美しい!しかも設定が能「望月」。シテ友房が主君の仇を討つため、仇に酒を飲ませ獅子の舞で油断させるシーンなんですねえ。
御祐筆・江島の片岡孝太郎が安定。助右衛門の妹で、綱豊の寵愛を受ける中臈お喜世(後の将軍家継の生母)の中村莟玉が、相変わらずの可愛さでした~ 

Bプロの綱豊卿は松也・隼人。ロビーには福地桜痴ゆかりの品の展示も。
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スーパー歌舞伎「もののけ姫」

スーパー歌舞伎「もののけ姫」 2026年7月

三世市川猿之助がスーパー歌舞伎を創始して40年。孫の市川團子22歳が頼もしく継承し、新たな名作となった。2019年「風の谷のナウシカ」もよかった丹羽圭子、戸部和久コンビの脚本は、予想以上に1997年公開の原作に忠実。文明が抱える罪、異なる種同士の逃れがたい衝突や差別、それでも恨みの克服を強く願い、身をていして「ともに生きよう」と訴えていくこと… 宮崎駿が提示した哲学的なテーマを緊張感をもって描き、休憩を挟んで3時間半強が長くない。新橋演舞場、前の方中央のいい席で1万7000円。歌舞伎友達に感謝!

アシタカ(團子)はタタリ神を倒した呪いでエミシ村を追われ、相棒ヤックルと西に向かう。文明の象徴であるタタラ場を率いるエボシ御前(中村時蔵)と、野生の神モロの君(市川笑三郎)、もののけ姫サン(中村壱太郎)の戦いに巻き込まれ、重症を負うが、森のシシ神(團子が2役)に救われて、森と人がともに生きる道を目指そうとする。しかしタタラ場を襲う鎮西の乙事主(市川中車)や、シシ神の首を侍に差し出して生き残ろうとするエボシ御前、ジコ坊(市川猿弥)らが入り乱れて…

横内謙介の上演台本・演出は必要以上に映像に頼らず、幻想的な森、活力あふれるタタラ場から、大詰めシシ神=ディダラボッチの秀逸な造形まで、スピーディーで、センスが光る。俳優2人で奮闘する馬など伝統技法を生かしつつ、久石譲のオリジナルを生かした現代的な音楽、歌舞伎外から俳優を招くアクロバットといった、歌舞伎を超える見せ方に引き込まれる。立師は市川猿四郎、美術は金井勇一郎、煌びやかな衣装は桜井久美。最後は客席も、大量のキラキラと葉っぱの紙吹雪に埋もれました~

長身の團子がシシ神の宙乗りまで、伸びやかに躍動し、時蔵が凜とクールではまり役。壱太郎は原作の野性味には欠けるものの、丁寧な演技でぶっきらぼうなセリフに持ち前の情感を醸しだす。曲者の猿弥、重厚な笑三郎(アニメでは美輪明宏だものなあ)はじめ澤瀉屋一門が盤石で、甲六・トキ夫婦に市川青虎、笑也、ゴンザは門之助。猩々の翁でなんと96歳の寿猿さんもお元気! 格好良い猿紫は早替りの吹き替えだったのかな。コダマの子役たちがめちゃくちゃ可愛かった。

猿翁没後、初めての新作スーパー歌舞伎。團子は大河ドラマで森蘭丸も演じたばかり。これから楽しみ〜 壱太郎さんから劇中に登場するビーフジャーキーのおすそ分けも。感謝!

 

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團菊祭「鬼一法眼三略巻」「助六由縁江戸桜」

團菊祭五月大歌舞伎 夜の部 2026年5月

初代の孫・尾上左近改め三代目尾上辰之助襲名のめでたい舞台。24年振り名跡復活の祝幕は、昨年4月に「無筆の出世」での共演を観た講談師・神田松鯉が贈ったもので、「青龍」が若々しい。今回は河東節「十寸見(ますみ)会」メンバーのおかげで最高の下手桟敷席で、ド派手な団菊「助六」も堪能。歌舞伎の今と明日を感じる。40分の休憩1回を挟んで4時間でも長くない。2万円。

まず襲名披露狂言で、時代物浄瑠璃「菊畑」。源氏方の奴・智恵内(尾上松緑)と、 実は御曹司牛若丸の虎蔵(新・辰之助)が正体を隠し、平家方についている鬼一法眼(坂東彦三郎)から兵法書「六韜三略(りくとうさんりゃく)=虎の巻」を奪おうとする。後段の「一條大蔵譚」に比べてあまりかからない場面なのは、兄弟の腹の探り合いが複雑なせいか。明るい菊の花壇や主役主従の色気、「勧進帳」を踏まえた折檻のくだりなど見所が多いのになあ。
正体を知りながら虎蔵を思って突っ走る皆鶴姫に、赤姫らしい中村時蔵、敵役の笠原湛海に、辰之助を生まれた頃から知っているという坂東亀蔵が出て、
劇中で揃って口上となり拍手。辰之助は二十歳にしては線が細すぎる気もするけど、芝居心がある印象だ。ガンバレ。2019年の中村莟玉襲名もこの演目だったんですねえ。

休憩で届けてもらったお弁当を頂き、いよいよ祝祭感満載の「助六」。先代の市川團十郎から何度か観たけど、十三代目の助六と八代目尾上菊五郎の揚巻という当代随一の顔合わせは初めてだ。13歳・市川新之助の口上からわくわく。ケタ違いにパワフルで、あっけらかんとお茶目な江戸情緒を満喫する。
助六の出端は期待通りの伊達男ぶり。今回はイヤホンガイドを借りたので、江戸紫の蛇ノ目傘には團十郎家の替紋「杏葉(ききょう)牡丹」がついていて、必ず紋が上に来るように回す、という解説に感心したり。対する菊五郎は女形本職の玉三郎に比べると凜として、そこがまたゴージャス。
野暮だけど大物の髭の意休は市川男女蔵、妹分の白玉も時蔵と、それぞれ代替わり。くわんぺら門兵衛の松緑が、いなせな福山かつぎの辰之助にからんじゃうのはご愛敬だ。注目は通人・里暁の尾上右近。股くぐりでなんと得意の海老反りを披露するわ、引っ込みでは連獅子での団菊との縁や「右近左近だったよしみ」とお祝いを語るわ、やりたい放題でテンポがいい。先日まで大河ドラマで難しい足利義昭を演じていたし、なかなか曲者になってきたなあ。白酒売で愛嬌ある中村梅玉、満江で中村雀右衛門が締める。

プログラムにはプロデューサー織田紘二が一文を寄せている。男気ある芸風で人気を博した初代から、40歳で早世する1カ月前に「オリちゃん、友だちだよな」と言われたという回顧が感慨深い。
この日は歌舞伎座建て替えを手掛けた清水建設の首脳陣が河東節登場とあって、客席にはビジネスマンが多い印象。知人に見つかっちゃってました~
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流白浪燦星 碧翠の麗城

流白浪燦星 碧翠の麗城 2026年3月

お誘いがあり、思いかけずルパン歌舞伎の第2弾へ。タイトロール片岡愛之助のサービス精神が横溢し、幻想的な2人宙乗りやら、客席の練り歩きやらで楽しませる。前作では主役と拮抗した尾上松也が不在とあって、特に終盤はヒロイン中村米吉の、現代劇かと思うような女優ぶりが際だった印象。芯の強さを感じさせ、可愛い姫から脱皮しつつある。
ストーリーは宮崎駿監督「カリオストロの城」に対するリスペクトが大きかった分、歌舞伎ならではの表現は物足りなかったかな。前作はいきなり「五三桐」だったもんなあ… 脚本・演出はお馴染み戸部和久。新橋演舞場の夜の部、下手寄りの席で花道が近く、お得でした。休憩2回で3時間半。

冒頭は華やかな鎌倉初瀬寺での花見。家督を継ぐため還俗した瀬織姫(米吉)とお布施を狙う流白浪(愛之助)が運命的に出会い、ともに瀧津弾正(中村錦之助)がお家乗っ取りを企む諏訪へと乗り込んでいく。流白浪は山奥の城に眠るという秘宝を、そして姫は与えられた境遇からの自由を求めて…
五エ門は愛之助が2役早替りで演じ、ほかは峰不二子に市川笑也、次元大介は市川笑三郎、銭形刑部は市川中車と、前作に続いての安定した布陣だ。弾正の悪事を教えてくれる正之助を市川猿弥が手堅く。諏訪の花屋久松で市川寿猿が元気に登場し、片岡千寿もストーリーを解説する緑色の萬望軒(マモー、もしくはマモちゃん)と偽次元で活躍してました。
大詰めスペクタクルシーンでは、アクロバット10人が連なって大百足を表現して面白かった。観たことないけど「陰陽師」のパロディーとのこと。お楽しみの練り歩きでは、なんと観劇中のルパン声優・栗田貫一さん、クールな若者の中村歌之助君をいじっちゃうし、カーテンコールはハッシュタグのパネルをバックに撮影もSNS発信も歓迎。劇場内外にフォトスポットも豊富で、工夫してました~
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浅草歌舞伎「傾城反魂香」「男女道成寺」

新春浅草歌舞伎 第2部  2026年1月

観劇会に参加して、昨年から中村橋之助が座頭となり新鮮な花形公演へ。浅草寺にお参りしてから浅草公会堂に着くと、なんと当日になって、2月に襲名を控えた中村鶴松が理由不明のまま休演。急きょ中村莟玉が代役に立ち、第一部「藤娘」から第二部まで三演目出ずっぱりに。しかも初役の「吃又」おとくを立派に演じて、のちのち語り草になりそうな観劇となりました~ 中段やや上手寄りで9500円。休憩を挟んで三時間強。

急きょもろもろ確認があったからか、開場は遅れ気味。そんな緊張感もなんのその、お年玉年始ご挨拶の尾上近はゲラとのことで、いきなり笑っちゃったけれど、「床山さんまで一丸となって」と。
そして「傾城反魂香」。何回か観たなかでも、2012年平成中村座の片岡仁左衛門・中村勘三郎コンビの仲睦まじさが印象に残る演目だ。おとくは又平との対比で立て板に水を求められる役。莟玉はとてもぶっつけとは思えない安定感で大拍手! 修理之助の経験があるといっても出番は中盤までだし、つくづく歌舞伎役者恐るべし。造形はしっかり者というより、持ち前の可愛さが前面に出て、それもいい個性だった。対する又平の橋之助も誠実、生真面目な雰囲気が合っている。復活した中村橋吾が老け役・土佐将監を務めたのも嬉しい。

長めの休憩の後は「男女(めおと)道成寺」。映画「国宝」の「二人道成寺」同様、娘道成寺の書き替え作品で、舞台後方の長唄に加えて、下手の常磐津との掛け合いがひときわ華やかだ。
5月に辰之助襲名を控えた期待の左近は白拍子で登場するものの、「この辺りに住む」狂言師と露見。金の烏帽子がうまく落ちないアクシデントもありつつ、舞台袖に連行されるさまがコミカルだ。線の細さは否めないものの、もう一人の白拍子、莟玉ときびきび踊って美しい。
鮮やかな引き抜きを挟みつつ、羽根つき、毬つき、花笠、手ぬぐいと展開し、強力の橋之助、市川染五郎が花道から手ぬぐい捲きのサービス。この日もうひとつのびっくりで、なんと染五郎のサイドスローの直球をキャッチ! うきうきが最高潮となるなか、羯鼓(かっこ)、鈴太鼓から鐘の上できまって、幕となりました~ 

話題満載で歌舞伎好きの面々との懇親会も大盛り上がり。手ぬぐいは左近、莟玉連名の記念すべきお宝でした! ちなみに第一部で鶴松が予定していた「相生獅子」は、この日は中止で払い戻し対象となり、翌公演からは市川男寅が代演。
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歌舞伎「女暫」「鬼次拍子舞」「女殺油地獄」

寿新春大歌舞伎  2026年1月

2026年芝居始めは歌舞伎座、夜の部へ。浮き立つお正月気分はやっぱり歌舞伎座ならでは。中村七之助、松本幸四郎が健闘して嬉しい。ロビーで浄瑠璃の師匠にばったり、新年のご挨拶をしたり。前のほう中央のいい席で2万円。休憩2回で4時間強。

祝祭感あふれる北野天満宮社頭の「女暫」から。2015年に坂東玉三郎で観て以来だ。義仲愛妾の巴御前は颯爽と七之助。特徴ある声がよく目立って、役に合っている。ド派手な扮装、素の役者になっちゃう女鯰(坂東新悟)や、ラスト幕外で六方を教える舞台番(ご馳走で幸四郎)とのコミカルなやりとりが大らかで、文句なく痛快だ。15年ではそれぞれ七之助、中村吉右衛門だったんだなあ。
敵方は国崩し・頼朝弟の範頼にどっしり中村芝翫、雲斎に坂東巳之助、赤っ面腹出し成田五郎に大きく坂東亀蔵。いいもん方は義高にノーブル中村錦之助、紅梅姫に市川笑也、木曽公綱に中村松江。茶後見をなんと市川寿猿95歳!が危なげなく。大薩摩連中の三味線でまたまた鳥羽屋里松。

短い休憩の後は古風な長唄舞踊「鬼次拍子舞」。拍子舞とはリズムに合わせて、唄うように台詞をいいながら踊るものとか。尾上松緑、ベテラン中村萬壽が安定。
舞台は洛北の森で一面の紅葉が綺麗。山樵(やまがつ)に姿をやつした加茂明神帰りの平家の武将・長田太郎兼光と、敦盛遺愛の青葉の笛(須磨寺に実在!)を探る白拍子が、虫尽くしや手踊りを繰り広げ、ラストはぶっ返りで華やかでした。

休憩でお弁当をつつき、3演目目は雰囲気が一変して、近松の竹本名作「女殺油地獄」。今回は幸四郎が与兵衛のAプロで。2011年の染五郎時代に片岡仁左右衛門直伝で観て以来。2009年にシネマ歌舞伎で観た、前歌舞伎座さよなら公演の凄みある仁左衛門とはタイプが違うけれど、甘えん坊、見栄っ張りで短慮のダメぶり、怪しい目つき、かつ、いっぱいいっぱいな感じに磨きがかかった。
つくづく気の毒なお吉のAプロは、こちらも片岡孝太郎直伝の新悟。年をとるにつれ長身・細さが気にならなくなり、世話焼きの隣のおばちゃんの造形がいい。客席が慣れていないのか凄惨なシーンに息をのんでしまったけど、見せ場の海老反りでも健闘。母おさわにはベテラン中村梅花(七代目芝翫の部屋子)、妹おかちに澤村宗之助(九代目澤村宗十郎の部屋子)、実直な隣の七左衛門に錦之助。複雑な父・徳兵衛の中村歌六はもちろん巧いけど、最近ちょっと声が辛い。通りかかる小栗錦左衛門で松本白鵬(この演目は初!)がなんと駕籠のままスライド。残念ながら8日以降は休演となりました… 2011年のお吉は猿之助(当時亀治郎)だったんだなあ。
今の中核を感じる、なかなか充実の初春でした~
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2025年喝采づくし

2025年も素晴らしいライブパフォーマンスにたくさん出会えました。
なかでも頭抜けて凄いものを観た!聴いた!と圧倒されたのは、期せずして対照的なふたつ。クラシックの20代ふたり、クラウス・マケラ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団+アレクサンドル・カントロフ。そして御年81歳、「菅原伝授手習鑑」の15代目片岡仁左衛門による菅丞相。いや~、圧巻でした。

ジャンル別の演劇では、重厚なワジディ・ムワワド作・上村聡史演出「みんな鳥になって」の現代性、岩松了のスタイリッシュな「私を探さないで」での河合優実、蓬莱竜太「おどる夫婦」でのダンスが印象的だった。節目にもいろいろ立ち会えて、本公演に区切りをつけたイキウメ「ずれる」、大がかりな仕掛けは集大成としたケラリーノ・サンドロヴィッチ「最後のドン・キホーテ」、郷愁に終わらなかった東京サンシャインボーイズ復活公演「蒙古が襲来」がそれぞれ持ち味を発揮。ミュージカルでは閉場となる帝国劇場の「レ・ミゼラブル」ファイナルウイークも。
これからが楽しみなのは横山拓也「はぐらかしたり、もてなしたり」、加藤拓也「ここが海」。翻訳ものでは熊林弘高演出の古典的喜劇「陽気な幽霊」、サイモン・スティーブンス作・上村聡史演出の不穏過ぎる「スリー・キングダムズ」もよかった。

古典ではなんと言っても歌舞伎が、映画「国宝」で盛り上がって幸福な1年でしたね。ニザ様以外にも大イベント八代目尾上菊五郎・六代目菊之助襲名披露の極付「弁天娘」、南座に遠征した中村壱太郎「お染の五役」、次世代で鷹之資・染五郎の「棒しばり」や尾上右近の「春興鏡獅子」に拍手。中村莟玉、2026年に辰之助襲名を控える尾上左近も目立っていて期待大です。
文楽は人間国宝に加えてめでたく日本芸術院会員となった桐竹勘十郎が碇知盛、玉助が源九郎狐を遣った「義経千本桜」が素晴らしく、歌舞伎、テレビドラマでもフル回転した三谷幸喜の「人形ぎらい」も楽しかった。引き続き1年を通して、浄瑠璃の都一中さんにいろいろ教えて頂きました。
そして落語はさん喬「雪の瀬川」の粋と鮮やかさ、喬太郎「お若伊之助」の語り力。白談春はさすがに還暦目前で肩の力が抜けてきたかな。講談の春陽は落語から移した「御神酒徳利」にチャレンジ。どんどん格好良くなるなあ。

クラシックに目を転じると、オペラで加藤浩子さんのほろ酔いトークイベント立ち上げを手伝った、記念すべき年となりました。関係者の素顔、いろんな裏話を聴くのと並行して、舞台では「セビリアの理髪師」で世界のメゾ脇園彩、「ラ・ボエーム」でルチアーノ・ガンチを堪能。コンサートではマケラのほかにも、83歳リッカルド・ムーティ指揮・東京春祭オーケストラの圧倒的なイタリア魂に引き込まれ、リサイタルでリセット・オロペサ、”キング・オブ・ハイC” ハビエル・カマレナも聴けて満足。

ポップスではずっと聴きたかったファンクのCory Wongが文句なしに楽しく、星野源は奇跡的に6年ぶりツアー、追加公演最終日に行けて感動。貴重なサービス精神満載のサザンオールスターズ、Official髭男ismの爽快なスタジアム、相変わらずノリノリのEARTH WIND&FIRE+NILE RODGERS&CHICも充実していた。
ほかにもいろいろ、とても書き切れません。さあ、2026年も元気に定番、新機軸を楽しむぞ~

顔見世「醍醐の花見」「一條大蔵譚」「玉兎」「鷺娘」「平家女護島」

吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎 2025年12月

「国宝」で盛り上がった2025年の歌舞伎納めは、思い切って八代目菊五郎襲名披露の京都南座に遠征。前夜に上七軒で楽しく過ごした翌日、夜の部の口上と弁天小僧は5月歌舞伎座で観たので、舞踊目当てで昼の部へ。玉三郎を迎えた道成寺で注目された六代目菊之助が、評判通り頼もしく、次々世代への期待が膨らむ。一方、「俊寛」はあえてダブルキャストの仁左衛門ではなく勘九郎、「一條大蔵」も幸四郎で、いずれも屈折がある難しい演目を健闘し、伝承を見守る気分。2026年も楽しみだなあ。1階9列の良い席で2万6000円。休憩3回で5時間たっぷり。

幕開けは華やかに「醍醐の花見」。昨夜、偶然ご一緒した鳥羽屋里松さん登場の長唄舞踊だ。北政所(ねね、扇雀)、まつ(上村吉弥=片岡我當の部屋子)らが控えるところへ悠々と秀吉(鴈治郎)が登場、北政所より淀殿(孝太郎)を気にして笑いを誘う。加藤清正(虎之介=扇雀の長男)、福島正則(鷹之資)、曽呂利新左衛門(頓知がうまい噺家の始祖、新之介=我當の長男)を筆頭に、みなで舞う。鷹之資が群を抜く切れ味。

短い休憩を挟んで「一條大蔵譚」。2016年に亡き吉右衛門のニヒルな造形を堪能した演目だ。導入の檜垣茶屋の場に続き、大蔵館奥殿の場で忠義一途で詰め寄る鬼次郎(愛之助)・お京(壱太郎)夫妻を常盤御前(七之助)ががっつり受け止め、清盛に身を任せた真意を語る。ちょっと粋過ぎるかな。そこへ現われた一條大蔵(幸四郎)が敵役・八剣勘解由(やつるぎかげゆ、松本錦吾)を仕留め、竹本にのった語り、ぶっかえりで本性を現す。痛快というより底の知れない人間性の怖ろしさ、なお阿呆のフリは続くという孤独の深さがつくづく凄い話だ。幸四郎さん、頑張ってた。

休憩でお弁当をつつき、お楽しみの変化物2題は菊之助の清元「玉兎」から。巨大な中秋の名月にうかぶ子供のシルエットが、まず可愛い。飛び出すと赤い下がり、袖無し、鉢巻で餅つき職人の姿。「かちかち山」の老人、老婆や狸も踊り分ける。体幹がしっかりして視線に色気さえ漂い、とても12歳には見えません。楽しみ~
続いて菊五郎が、待ってました長唄「鷺娘」。実はリアルは2010年に若き七之助さんで観たくらい。三下りのしっとりした曲調にあわせ、たおやかな白無垢、引き抜きで可憐な赤い着物の町娘に変わって恋のクドキ、再び引き抜きでピンクに変わり傘尽くしを賑やかに。やがてぶっかえりで鷺の姿に戻り、のたうつセメ、絶望まで、さすが破綻のない流麗さでした。終幕の凄みはこれからかな。

短い休憩の後、近松原作の「平家女護島 俊寛」。なにせ主人公がうらぶれ、よたよたの流人で地味なんだけれど、2010年の勘三郎の汗まみれ熱演、2020年吉右衛門の虚無感は目に焼き付いている。勘九郎はキャラに暗さがあって、吉右衛門さんに近い印象。情理を備えた上司・丹左衛門(巳之助)が制止するのも聞かず、頑なな瀬尾(坂東彦三郎=楽善の長男、11月に火災で急死した片岡亀蔵の代役で)にとどめを刺しちゃう。「弘近の船」のセリフには、目の前の丹波少将(隼人)と海女の千鳥(丸顔が可愛く、クドキに激しさもある莟玉)の幸せを願うというより、自分が清盛に恨まれたせいで妻・東屋が無残に首を討たれ、尊厳のかけらもない人の世に対する絶望が強く滲む。断崖絶壁の幕切れの虚無感。なかなかでした!

襲名のちょっとシュールな祝幕は、南座用に仏トランクメーカーMOYNAT(モワナ)が提供、グラフィックデザイナー永井一正と日本デザインセンターによる原画で、連獅子がモチーフとか。ロビーには師走の風物詩、ご贔屓からの竹馬がずらり。面白かったです!
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歌舞伎「當年祝春駒」「歌舞伎絶対続魂」

吉例顔見世大歌舞伎 夜の部  2025年11月

顔見世で、三谷幸喜作・演出の三谷かぶき三作目の初日に。ノンストップの笑いで歌舞伎俳優のコメディセンスを存分に引き出し、舞台人のほろ苦さ、心意気をみせる手腕はさすが。松本幸四郎、片岡愛之助、中村獅童という鉄板トリオはもちろん、次世代の中村莟玉、市川染五郎、中村鶴松、急きょ代役の橋之助らが生き生きして頼もしい。知人のおかげで10列中央の特等席で2万円、35分の幕間を挟んで3時間。

幕開けは長唄舞踊「当年祝春駒(あたるとしいわうはるこま)」を短く。正月興行大詰「対面」の前に付けた曲がベースだ。門付け芸人・春駒に身をやつした曽我十郎(中村橋之助)、五郎兄弟(元気に中村萬太郎)が、小林朝比奈(扇雀の息子の中村虎之介)の手引きで工藤館を訪れ、「めでたやめでたや 春の始の春駒なんぞは」と祐経(中村歌六)に踊りを披露。「女のよれる黒髪に」と大磯の虎(下げ髪の中村米吉が華やか)らのクドキに続き、「淡竹(はちく)の竹馬 先のけ先のけ」と賑やかに。

休憩後は「歌舞伎絶対続魂(ショウ・マスト・ゴー・オン)幕を閉めるな」。ベースは東京サンシャインボーイズが1991年に初演、数々のトラブルに見舞われながら「マクベス」をやり抜くバックステージ群像劇の傑作だ。ドラマ化、再演をへてコロナ禍の2022年には戯曲さながら、三谷が代演に次ぐ代演で乗り切り、テレビ中継での観劇でさえハラハラした。
歌舞伎版の設定は延享年間、伊勢の芝居小屋。座付作者・冬五郎(幸四郎)、頭取・三保右衛門(中村鴈治郎)、座元・半蔵(愛之助)らが忙しく準備する。演目は前年に大阪の人形浄瑠璃で大当たりをとった傑作「義経千本桜」の「四の切」。無断で歌舞伎化したら、よりによって原作者の竹田出雲(市川男女蔵)と弟子の半二(鶴松)が観に来ることに。しかも看板役者で忠信役・小平次(獅童)は泥酔、静御前のいせ菊(ごつ過ぎる坂東彌十郎が伸び伸びと)はアゴが外れていて、若手の赤福(中村歌之助)は自信喪失。そのうえ義経役のスター虎尾(染五郎)は馴染みの遊女(なかなか粋な坂東新悟)を出せとごり押し、いせ菊はキーとなる小道具の鼓を取り違え…
幸四郎の必死さ、愛之助のちゃらんぽらん、獅童の飛び道具ぶりが見事な当て書きだ。危機を救う五十鈴の苔玉に華があって素晴らしく、今回は意地悪な鶴松にも存在感。染五郎が見習い番吉との2役で大活躍だ。早替りで拍手を待つケレンがあればもっといいかも。
現代劇から骨つぎ玄福の浅野和之が期待通りの怪演で、真面目な大道具方の阿南健治とともに爆笑を誘う。飄々とした鴈治郎が歌舞伎らしい重しとなり、出番を削られたあやめの市川高麗蔵、そもそもお呼びでないベテラン琴左衛門の松本白鸚(座ったまま)が大物ながら役者の業を醸し出す。
バックステージものだけど、大詰めは回り舞台で表の劇中劇になだれ込み、さすがの爆発力。2025年のエンタメを代表する映画「国宝」の小ネタも散りばめ、大拍手でした~
開幕前にはホワイエを歩く三谷さんが観客から声をかけられ、客席にはサッカー日本代表監督の森保一さんの姿も。

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