團菊祭「義経腰越状」口上「弁天娘女男白浪」
團菊祭五月大歌舞伎 2025年5月
八代目尾上菊五郎、六代目菊之助襲名披露のめでたい芝居を楽しむ。江戸情緒の定番・弁天小僧はもちろん、平均年齢11歳の可愛い勢揃いやら、松緑ゆかりの珍しい演目やらが楽しい。歌舞伎座1階、前の方のいい席で2万3000円。休憩3回でたっぷり4時間強。
幕開けの「義経腰越状 五斗三番叟」は義太夫狂言で、二世松緑が得意としたとか。義経(=豊臣秀頼)が頼朝(=徳川家康)に拒絶され、こともあろうに遊興三昧、という設定。なんとかしようと忠臣・泉三郎(=真田幸村)から軍師に推挙された五斗兵衛(=後藤又兵衛)が主役なんだけど、時代物らしからぬ飄々としたキャラでユニークだ。
冒頭、雀踊り(「べらぼう」で吉原のダンスバトルに出てきました)の群衆にまぎれて現われた家臣・亀井六郎(尾上左近)が、義経に諫言するけど追い返される。そこで五斗(尾上松緑)が登場。周りは大時代な武将なのに、ひとり顔も装束もいたって普通。しかも、おどおどして頼りない。裏切り者の錦戸太郎(坂東亀蔵)、伊達次郎(赤面の種之助)兄弟から好きな酒を勧められ、「かかに止められている」とか言って固辞するものの、結局ぐいぐい呑んじゃう。「滝呑み」なんかも披露してぐでんぐでん、もちろん義経との対面は台無しだ。なんともコミカル。
ところが、へのへのもへじ顔の竹田奴たちが、奇声をあげピョンピョン跳ねながら追い払いにくると、とたんに大暴れ。悠々と三番叟を舞い、凧揚げ、紙相撲などで奴をあしらっちゃう。最後は奴たちを馬にして悠々と引き上げる。大らかでした!
お楽しみ口上は七代目菊五郎が披露し、梅玉さんを筆頭に、ひとり柿渋色の裃の團十郎が楽屋話で笑わせ、松緑、噛んで含めるような玉三郎、大御所楽善さんという顔ぶれ。やっぱり團十郎は華があるなあ。
メーンは待ってました「弁天娘女男白浪」。言わずと知れた五世菊五郎初演の、音羽屋代々の当たり役。序幕の浜松屋見世先、八代目の弁天がちょっと真面目でテンポが速めなのは、この人らしい。南郷力丸の松也が格好よく、日本駄右衛門の團十郎も堂々。鳶頭の松緑、主人・幸兵衛の歌六と初役が多い。
続く稲瀬川勢揃いが傑作で、子供世代の御曹司たち五人がうち揃い、微笑ましいやら頼もしいやら。弁天にきりっと菊之助、忠信利平に亀三郎、赤星十三郎にちっちゃな梅枝、南郷力丸にぐんぐん背が伸びる眞秀、日本駄右衛門に端正な新之助。
二幕目は大人世代に戻ってアクションに次ぐアクションだ。極楽寺屋根立腹の場で弁天が大立廻りの末に最期をとげ、ダイナミックな「がんどう返し」。極楽寺山門の場で日本駄右衛門が追手を蹴散らし、滑川土橋の場でついに七代目が青砥左衛門藤綱として悠々と登場。八代目と並んで、川に落とした十銭を拾うエピソードののち、最後はセット上方の日本駄右衛門に情けを示して華やかに幕。