歌舞伎

加賀見山再岩藤

八月花形大歌舞伎 第一部 加賀見山再(ごにちの)岩藤  2021年8月

幸四郎や勘九郎が軸の花形公演で、第一部は澤瀉屋の一座。黙阿弥作、猿翁が練り上げた4時間の人気作を、石川耕士が 「岩藤怪異篇」として、休憩を挟み2時間に圧縮した。
猿之助の6役早替り&宙乗りと、ケレンを詰め込んでテンポが良い。コロナ感染から復帰2日目のせいか、「黒塚」とかと比べると淡泊だったけど。歌舞伎座前のほう、やや上手寄りのいい席で1万5000円。

浅葱幕が振り落とされると序幕、華やかな大乗寺花見の場から、早替りの連打を楽しむ。殿様・多賀大領(猿之助)は側室・小柳の方(笑也)に夢中で、忠臣・安田帯刀(男女蔵)の進言を退けるし、御台・梅の方(猿之助)には会いもしない。一方、いかにも国崩しの黒幕・望月弾正(猿之助)が、忠臣サイドの又助(きびきびと己之助)をたぶらかす。悪役・蟹江兄弟の亀鶴と鷹之資、特に鷹之資の声が通って気持ちいい。
浅野川川端の場で、欺された又助が、駕籠の梅の方を殺しちゃう悲劇。舞台がぐっと暗くなり、八丁畷馬捨場へ。お家の奥を取り仕切る中老尾上(雀右衛門)が、かつての仇・岩藤の菩提を弔っていると、あら不思議。土手に散らばった白骨が集まって、岩藤の亡霊(猿之助)となり、復讐を宣言する。「骨寄せ」ですね。猿之助がさすがの怪しさで、ムーンウォークみたいな動きも大受け。雀右衛門さんは、召使い時代の黄八丈姿でも上品です。
弾正らがからんで重宝・朝日の弥陀の尊像を取り合う「だんまり」があり、いったん幕がひかれて、なんとスッポンから登場の大薩摩に拍手。一転、明るい花の山の場で、在りし日の局姿になった岩藤の亡霊が、客席を見渡し、上手から下手へ悠々と宙乗り。スターだなあ。

休憩後の二幕目は、多賀家奥殿草履打ちの場。尾上(局姿だと貫禄)が、病に伏せる殿様の妹・花園姫(男女蔵長男の男寅がなかなか可憐)を励ましていると、弾正が来訪。すると館全体が鳴動して荒れ果てた様子に変じ、弾正に乗り移った岩藤(途中から女性の声になる工夫)が現れて、尾上を草履で散々に打ちすえちゃう。怖いよー。尾上は取り戻した尊像でなんとか撃退する。
続く大詰・下館茶室の場でお約束、あれよあれよの展開に。又助が梅の方殺害の責任をとって切腹。その最後の言葉で、実は生き別れた妹と判明した柳の方は、弾正の悪事に荷担してきたことを悔い、健気にも弾正と差し違える。
下館奥庭の場で、改心した大領から鬼子母神の尊像を突きつけられると、岩藤の霊もあっけなく骸骨に戻って、バラバラに崩れ落ちる。悪者は退治され、尾上、元気になった花園姫、局浦風(笑三郎)、帯刀、重宝を取り戻した忠臣・求女(門之助)が勢揃いして、大団円となりました。局でちょこっと登場の寿猿さん、なんと91歳に拍手。最後は全員でご挨拶。
登場人物が多くて、正直追いつけないところもあったけど、盛りだくさんの趣向をエンジョイしました~ 初日から猿之助休演で、代打ちした己之助も好評でしたね。偉い!
売店でまた大島紬のマスクを調達しました~

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桜姫東文章 下の巻

六月大歌舞伎 第二部 桜姫東文章・下の巻 2021年6月

四月の上の巻に続いて、即日完売、令和演劇の「事件」を見届ける。上の巻の可憐なお姫様から、なんと下級女郎にまで身を落とした桜姫=玉さまの振り幅の大きい魅力が全開だ。歌舞伎座中央のいい席で1万5000円。休憩を挟んで2時間半。

まず舞台番・千次郎が上の巻の粗筋を紹介して、序幕・岩淵庵室の場から。荒れた庵室、青とかげの毒、墓堀り、幽霊…と、コミカルとグロテスクが入り交じって、いよいよ大南北らしい。落ちぶれた残月(歌六)・長浦(吉弥)が清玄(仁左衛門)を襲う。鮮やかな早変わりで現れたワルの権助(仁左衛門)が、残月らを叩き出す。傘一本もって引っ込む歌六さんが可笑しい。後半は桜姫が、凄惨なもみ合いの末に清玄を殺し、亡霊の怨念で権助が醜く面変わりすると、いよいよ覚悟を決める。

休憩後の二幕目・山の宿町権助住居の場では、人気女郎・風鈴お姫となった美しい桜姫と、大家におさまった権助が並んで寝転がるシーンの、なんともチャーミングなこと。江戸の退廃、ここにきわまれり。すっかり腹の据わった桜姫は、お嬢さま言葉が交じった緩急自在の啖呵で幽霊とわたりあい、さらには父弟の仇とわかった権助を討っちゃう、あれよあれよの展開。めちゃくちゃだけど痛快だなあ。

大詰・浅草雷門の場は一転、三社祭に浮き立つシーン。家宝を取り戻した桜姫があっけらかんとお姫様に戻り、ニザさまが、まさかの立派な捌き役・大友常陸之助に変じて、めでたしめでたし。都合よすぎる大団円がまた歌舞伎の醍醐味です。あー、面白かった。

 

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夏祭浪花鑑

渋谷・コクーン歌舞伎第十七弾「夏祭浪花鑑」  2021年5月

2008年に勘三郎・橋之助で観て、パトカー登場の疾走が鮮烈だった名作。次世代による継承が嬉しく、特に松也の柔軟さが光ってた。串田和美演出・美術は時節を踏まえ、ヤンキーたちのやぶれかぶれを残しつつ、冒頭とラストに舞台裏の厳粛なお祓いを見せる工夫。中村屋ファンの温かさが漂うシアターコクーン、1階中ほどやや下手寄りのいい席で。休憩なしの2時間強。

セットの出し入れでスピーディーに場面を展開。序幕の発端よりお鯛茶屋の場は、舞台番(笹野高史)がトントンと説明して、続く住吉鳥居前の場で、団七(勘九郎)と運命の出会いとなる一寸徳兵衛(松也)がいなせだ。団七女房のお梶(七之助)がいまや貫禄で、息子市松(長三郎)もかなり達者。
釣船三婦内の場では松也が徳兵衛女房・お辰に変身して大活躍。三婦も若返って片岡亀蔵に。長町裏の場は泥を避け、たくさんの本火の紙燭、燃え上がる面明かりを自在に使って、勘九郎と絶品・笹野の義平次が熱演する。一転、祭りの高揚に至る鮮やかは変わらない。

今回はむしろ地味な二幕目、九郎兵衛内の場の徳兵衛、団七、お梶の味わいが際立つ。侠客たちが、まあ短慮なりに精一杯、互いを思い合う。残暑の夕刻、斜めの照明の気だるい陰影が、不安と哀愁を醸して効果的だ。照明は斎藤茂男。続く屋根の場からは、和太鼓も駆使した怒涛の逃走劇で、勘九郎が身体能力を発揮。他に大迷惑の磯之丞の虎之介に存在感があり、琴浦の鶴松と可愛いコンビ。

開幕前から江戸気分とか、舞台と客席が一体になるコクーンらしさは封印されたけど、面白かったです!

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桜姫東文章 上の巻

四月大歌舞伎 第三部 桜姫東文章・上の巻  2021年4月

鬼才・四世鶴屋南北のおどろおどろしい因果話を、36年ぶりで話題のニザタマで。現代劇アレンジでは2度観ている演目だけど、本家歌舞伎は初だ。ただごとでない退廃と妖しさ、初演時はどんなに衝撃だったろう。美しい人間国宝2人が、70年代の伝説に挑む心意気。時代の節目を目撃する思いです。歌舞伎座前の方中央のいい席で1万5000円。緊急事態発令で少し繰り上げスタート、休憩を挟んで2時間15分。

発端「江ノ島稚児ヶ淵の場」は暗くて幻想的。僧侶清玄(仁左衛門)は白菊丸(玉三郎)と心中をはかって生き残り、香箱が残される。
序幕第一場「新清水の場」は一転、舞台いっぱい極彩色の「花見」。17年後の長谷寺で、出家を望む吉田家息女・桜姫(玉三郎)の手から香箱の蓋が現れ、紫衣装の清玄阿闍梨は白菊丸の生まれ変わりと、因果におののく。
そこから悪党・釣鐘権助(仁左衛門)に替わっての、とりすました聖から色気たっぷり俗への落差が見事。悪五郎(鴈治郎が体型、声ともべりべりと規格外)の手下の権助は、吉田家から重宝・都鳥の一巻を強奪したばかりか、立ち聞きした端女を平然と切り捨てる。仁左衛門さん、2月の喜兵衛に続いて若いです! 姫の弟・松若の千之助が、なかなか凛々しくて嬉しい。
そしていよいよ第二場「桜谷草庵の場」。実は桜姫は、自分を襲った賊を忘れられず、密かに子まで産んでいた。その権助と再会し、楚々としたお嬢さまがいきなり誘惑しだすシーンが、びっくりの濃厚さ。役者だなあ。顔も知らずに彫り物で気づいて、お揃いのタトゥーを披露しちゃう飛躍も凄まじい。僧残月(歌六)と局長浦(我當の門人・上村吉弥)が超下世話なワルを発揮、桜姫と巻き込まれた清玄が不義の罪を負う。

休憩を挟んで二幕目「稲瀬川の場」では晒し者になった清玄が、数珠を切って桜姫に迫るものの拒まれちゃう。高貴な僧が押し隠していた妄執の、なんと深いことか。あげく悪五郎一派と争って川に落ち、姫の片袖と赤ん坊を抱いて花道を彷徨っていく。
続く「三囲の場」では薄暗い雨の夜。鳥居・石段の前で、ともに落ちぶれた清玄と桜姫がすれ違う。破れ傘に書かれた恋歌がなんともわびしかった。

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歌舞伎「熊谷陣屋」「直侍」

三月大歌舞伎 第二部  2021年3月

二月に続いてベテランの至芸を堪能。休憩を挟んで2演目3時間で、久々にたっぷり感も味わう。感染対策中の歌舞伎座、前の方中央のいい席で1万5000円。

まず「一谷嫩軍記 熊谷陣屋」。昨夏の再会場から90分は1幕最長だそうです。2012年団十郎の名演のほか吉右衛門、芝翫、幸四郎と観てきて、今回は歌舞伎座で16年ぶりとなる仁左衛門。独特の品があって細やかで、殺伐とした戦場の武将というより、義経(錦之助が堂々)の大局を踏まえた「理」を慕い、「正解」を選ぶ智将の印象。だからこそ犠牲にした「情」の痛手が大きく、深い虚しさから栄光を捨てるということか。
相模(孝太郎)に首を直接手渡すシーンに、美しい桜たる息子に対する夫婦の思いが、また去り際、義経から首を見せて声をかけられ恐れ入るシーンに、虚しさを共有する主従の思いが垣間見える。花道の「十六年は一昔」のあと、幕がひかれて三味線が登場。遠い戦場の音に一瞬放心、身も世もなく泣き崩れて、トボトボと去っていく。哀しいなあ。
孝太郎は声が太く、役に合っている。衣装は熊谷、相模とも金糸が多くきらびやか、扇も金と赤が鮮やかで、一つひとつの見得がまさに錦絵だ。藤の方に門之助、弥陀六に安定の歌六、堤軍次に坂東亀蔵。昨年末の南座、コロナで仁左衛門さんらを代打ちした面々でもあります。

休憩の後はがらっと世話に転じて「雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)直侍」。こちらは2017年以来2度目に観る菊五郎。初役から36年だそうで、隙なしだ。下駄にくっつく雪に凍える風情がある。蕎麦の注文とかの端切れの良さ、はらりと傘を開く格好良さとか、火鉢をまたいじゃう愛嬌とか、小悪党の粋がいちいち嬉しい。飄々とした按摩の東蔵もますます絶品だなあ。暗闇の丑松は團蔵。
後半、大口屋寮のシーンでは余所事浄瑠璃の清元「忍遭春雪解(しのびあうはるのゆきどけ)」にのり、三千歳(貫禄の時蔵)とのやりとりに、さらさらと艶がある。満足。

幸四郎が鬼平映画に主演の発表があり、ちょうど第三部で吉右衛門と共演中なんて話題もある公演でした。

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歌舞伎「於染久松色読販」「神田祭」

二月大歌舞伎  2021年2月

3部制の第三部が17世勘三郎33回忌追善だったけど、今回は第二部へ。40年来の黄金コンビ「ニザタマ」の姿の良さ、粋を堪能する。花道で頬を寄せ合う楽しげな雰囲気は、当世随一かなあ。2席ずつの間に1席空きぐらいの歌舞伎座、前の方やや上手寄りで1万5000円。休憩を挟んで2時間弱と、コンパクトながら大満足だ。

「於染久松色読販売(うきなのよみうり)」は質店・油屋の娘おそめと丁稚・久松の心中もので、早替りの「お染の七役」で知られるけど、この日は「土手のお六・鬼門の喜兵衛」と銘打ち、脇筋の悪党夫婦に焦点をあてる。陰惨だけど笑いもたっぷりで、文化文政時代、爛熟した庶民文化を描いた四世鶴屋南北の面目躍如であり、1975年「桜姫」であたりをとったニザタマの悪の美が際立つ。
序幕・柳島妙見の場は発端となる、押上・放性寺の門前を抜粋で。実直な嫁菜売・久作(中村吉之丞、吉右衛門の部屋子→先代吉之丞の芸養子)が油屋番頭・善六(片岡千次郎、上方歌舞伎塾出身)ともめて額に傷を負う。通りかかった薬種屋の旦那・清兵衛(河原崎権十郎)が止めに入り、久作に袷と膏薬代を渡す。脇の油屋太郎七・坂東彦三郎が堂々と主人らしく、宝刀の折紙を盗んだワルの千次郎と、言いくるめられて河豚を食べに行く丁稚九太の上村吉太朗(我當の部屋子)の三枚目ぶりが達者だ。
続く小梅莨屋の場が出色。セットは粗末で暗いお六の家。複雑な背景はすっ飛ばして、「馬の尻尾」姿の悪婆・お六の坂東玉三郎の退廃美、そして死骸に細工しちゃう喜兵衛・片岡仁左衛門の凄みと色気に目を奪われる。浮世絵そのものです。ストーリーも奇抜で、河豚にあたった男の早桶、久作の袷、さらに髪結(芝翫の次男・中村福之助がはきはき)の道具…を「あいよ、置いときな」と次々預かり、これが悪だくみの道具立てになっていく。
第二幕は照明が明るくなって、瓦町油屋の場。お六と喜兵衛が駕籠で死骸を持ち込み、久作は弟、昨日の傷が元で亡くなった、百両よこせと強請る。伝法でどこか投げやりな啖呵が痛快だ。居合わせた清兵衛が怪しみ、なんと死骸に灸をすえ始める。丁稚の長太(ニコニコ寺嶋眞秀)をまじえて、しのぶさんの躾がいい、手指消毒で笑わせる。そこへ死んだはずの久作が現れ、死骸も息を吹き返して九太と判明。夫婦はきまり悪げに退散、なんと駕籠をかついで花道を引っ込む。とんでもない悪党なのに、愛嬌たっぷりでバカバカしいのがいい。

休憩を挟んで「神田祭」は清元の舞踊で、江戸の華・鳶頭の遊びを芸者がなじる。他愛ない夫婦喧嘩と仲直りがチャーミング。
山王祭と並んで、祭礼の行列が江戸城内に入った天下祭だそうで、セットはスカッと広々した江戸の町並みに赤い提灯が下がり、下手後方の高台にお社とのぼりが見える。鳶頭の仁左衛門はほろ酔い加減、追っかけ五枚銀杏首抜きに、獅子文様の袴、片肌脱ぎの真っ赤な襦袢、牡丹の扇子と派手派手です。対する芸者の玉三郎は、黒紋付に波の裾模様、縁だけ赤い天紅の扇子が艷やか。
華やかな手踊り、クドキ、そして江戸の流行歌という投げ節、木遣り。威勢のいい若い衆をあしらい、二人仲良く町へ繰り出していく。浮世の憂さを忘れました!
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2020喝采づくし

2020年はコロナ禍でエンタメが激減したけれど、振り返ると例年の半分くらいは鑑賞できていて、関係者の努力に感謝。

なんといっても今となっては夢のようだった、1月のQUEEN+ADAM LAMBERT THE RHAPSODY TOUR! お馴染みのキャッチーな楽曲、演出もキンキラで文句なしに樂しかった~

世界が一転したコロナ後は、伝統芸能の災厄を鎮めるという要素が、胸に響いた。特に歌舞伎の、再開後初だった8月猿之助「吉野山」や、年末の玉三郎&菊之助「日本振袖始 」のケレン。ベテランの健在もことのほか嬉しく、仁左衛門「石切梶原」の茶目っ気、吉右衛門「俊寛」の虚無を堪能した。ベテランといえば11月の狂言「法師ケ母」で、90歳近い万作さんの鍛錬に脱帽。「茸」も面白かったし。
文楽は2月の勧進帳で玉助さん初役の富樫、9月にはハッピーエンドの「壺坂観音霊験記」が楽しかったな。
落語は三三の説得力ある「柳田格之進」、正蔵さんのダークサイド「藁人形」、志の輔の爆笑「茶の湯」など。

演劇では、再開間もない7月の「殺意 ストリップショウ」の鈴木杏が、人間の滑稽さをえぐり出す一人芝居をピュアに演じきって圧巻だった。10月には鵜山仁演出のシェイクスピア史劇最終作「リチャード二世」で、岡本健一が描く人間の愚かさに引き込まれた。
対照的に、三谷幸喜「23階の笑い」は笑いと哀愁に徹して、喜劇人の心意気がひしひし。ケラリーノ・サンドロヴィッチ&緒川たまき「ベイジルタウンの女神」も、変わらないお洒落なケラ節が染みた。
大好きな岩松了さんの2人朗読劇「そして春になった」、安定の前川知大「迷子の時間」なども秀作。なんだか劇作家・長田育恵に縁があり、「ゲルニカ」「幸福論~隅田川」が印象的だった。

一方、海外からの歌手・オケが壊滅したオペラは、すっかりお預けに。滑り込みで2月の来日ミュージカル「CHESS」は、大人っぽくて良かった。 
番外編として、コロナ禍ならではの配信へのチャレンジもいろいろと。4月の一之輔10日連続生配信では、「団子屋政談」「笠碁」など、巧さと同時に、持ち前の愛らしさや寄席を維持したい思いが伝わっていた。5月のStayHomeWeek最終日には、三谷幸喜の名作「12人の優しい日本人」の読み合わせで、会議の戯曲を会議ツールで見せるという、この時期ならではのセンスが光ってた。
2021年の復活を祈って…

「日本振袖始 大蛇退治」

十二月大歌舞伎 第四部 2020年12月

再開後は映像主体の演目だった玉三郎が通常出演と聞き、「日本振袖始 大蛇退治」に駆けつける。玉三郎、菊之助が役者らしさを発揮、舞踊のフォーメーションも見事で、休憩なしの1時間弱があっという間だ。やはり入りの良い歌舞伎座1F上手はし、前の方で8000円。

近松の時代物浄瑠璃を1971年、6世歌右衛門が舞踊として復活させ、1998年に玉三郎が新たな構成に仕立てたそうです。以来上演は数えるほどで、私も初見で堪能。
岩長姫、実は八岐大蛇が棲まう出雲の森。謡いがかりの義太夫で美女・稲田姫(梅枝)が登場、生贄にされる運命を嘆く。恋人・素戔嗚尊(凛々しい菊之助)は羽々斬(はばぎり)の名剣をもたせる。すっぽんから真っ赤な衣装で岩長姫(玉三郎)がせり上がり、大拍手。謡曲「猩猩」を踏まえた浄瑠璃にのって八つの瓶を呑み干し、月の光のした存分に踊り、稲田姫を呑んで姿を消す。今回は妖気よりも、扇の表現など色気が勝っていて、楽しそうな感じが印象的。

格好いい大薩摩を挟んで、後半は神力無双の素戔と大蛇との立ち回りだ。玉さまは角に毒々しい隈取、金と黒の鱗模様の衣装に変身。八頭八尾の怪物とあって、7人もの分身役が揃いの出で立ちで、固まってエビ反ったり、長く伸びてのたうったり、一糸乱れぬ舞踊を繰り広げる。いやー、「鬼滅」もびっくりの大迫力だ。おどろおどろして美しくて、どこか虚無的。ついに稲田姫が名剣で大蛇の腹を裂き、十握(とつか)の宝剣も携えて戻り、玉さまが岩の、そのまた上の段に登って幕となりました。
孝太郎のコロナ感染で一時、玉さまの休演があったけど、無事復帰。邪気を払う芸の力。面白かった!
 
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顔見世「蜘蛛の絲宿直噺」「身替座禅」

吉例顔見世大歌舞伎 第一部 第二部 2020年11月

人間国宝・藤十郎さんの悲報もあった11月。快晴の連休に歌舞伎座へ。引き続き感染対策で1幕ものの4部制で、飲食や掛け声禁止だけど、猿之助の衰えないキレと抜群のエンタメ力を楽しむ。リーフレット配布だった筋書、そして桟敷もひとりずつだけど復活してました。一部、二部それぞれ前の方中央のいい席で8000円。

一部「蜘蛛の絲宿直噺(およづめばなし)」は顔見世らしい派手さで、40分が本当にあっという間だ。源頼光の土蜘蛛退治を題材にした変化舞踊で、「市川猿之助五变化相勤め申し候」とうたい、早変わりが理屈抜きに見事。曲芸的スピードだけでなく、变化そのもののの落差もみせるところが頭脳派らしい。常磐津連中、長唄囃子連中と、演奏も分厚く。振付・藤間藤十郎。

そもそも頼光の臥せっているのが遊郭、という設定が面白い。女郎蜘蛛だもんなあ。冒頭は坂田金時(猿弥、赤っ面と張りのある声がぴったり)、碓井貞光(中村福之助、なかなか凛々しい)、それぞれの妻で安定コンビの八重菊(笑三郎)、桐の谷(笑也)が貞光を案じている。宿直の場なのに女房がいるのも、おおらか。セリフに魔物=コロナ退散の願いを散りばめていて、拍手が起きる。江戸の人々も同じような気持ちで観たのかも。
いよいよ濃茶をもって女童(猿之助)登場。さすがに可愛らしいとはいえないけど。続いて薬を飲ませるといって小姓・澤瀉(猿之助)が寝所に迫る。番頭新造(猿之助)は色っぽく、傾城・薄雲の文を持参。逃げる折いちいち糸を繰り出して、黒衣がっコンビネーションよく回収する。太鼓持(猿之助)に至って狐忠信ばりの軽業を披露。渡辺綱の鬼退治と、廓の達引を物語る。変化はいろんなパターンがあって、このへんが今回の工夫のようです。2017年の大怪我以来という欄間抜けも!
天井からでっかい蜘蛛が現れるうちに、前方のセットがはけて頼光(隼人)の寝所に。見舞いに来た絢爛豪華な薄雲(猿之助)が、やがての本性を表し、お約束のぶっかえり&立ち回り。ラストは盛大に千筋の糸を撒き散らし、天井からも下がって派手でした!

2時間のインターバルがあり、近所でランチしてから第二部「身替座禅」を1時間。狂言の極思習(ごくおもならい)「花子」をもとに、明治43(1910)年初演され、6世菊五郎が新古演劇十種のひとつにした。
大名・右京(菊五郎)は恋人・花子に会いたくてたまらず、持仏堂で座禅をすると偽り、太郎冠者(権十郎)に座禅衾(ざぜんぶすま)を被らせ、身替りにして屋敷を抜け出す。悪計はあえなく露見し、恐い奥方・玉の井(ゴツ過ぎの左團次)が座っているとも知らず、ほろ酔いで帰った右京は、常磐津連中、長唄囃子連中の掛け合いにのった仕方話で、のろけまくっちゃうから、さあ大変。
浮気男と嫉妬妻の、バカバカしくも愛情あるやり取りは菊五郎さんらしい。自粛の影響か、ノリは今ひとつだったかな。侍女の尾上右近、米吉が期待通り美しく、仕草も綺麗で贅沢でした。
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「俊寛」「毛谷村」「文売り」「三社祭」

11月歌舞伎公演 2020年11月

吉さま、ニザさまの2大巨頭が並ぶ、国立劇場大劇場の歌舞伎へ。席は引き続き市松だけど、レストランなどはかなり平常営業になっていた。第一部はお馴染み近松作「平家女護島 俊寛」で、円熟・吉右衛門の哲学的な演技を堪能する。中央後ろ寄りで7000円。30分の休憩を挟み2時間半。

序幕は国立劇場が1967年に復活した「六波羅清盛館の場」で、俊寛の悲劇の背景がよくわかる。吉右衛門が清盛で登場、俊寛の妻・東屋(あずまや、菊之助)に一目惚れして側室になるよう命じる。憎々しいけど大物感はばっちり。東屋は激しく拒否、教経(家六)のアドバイスで自害しちゃう。従者の有王丸(きびきび歌昇)が乱入して、教経の従者・菊王丸(声のいい種之助)とやり合う爽やかなくだりがあり、教経が止めに入って有王丸に東屋の首を託す。非情な展開なんだけどテンポがよく、「常盤御前と一緒にするな」と言い放つ菊之助に、威厳があっていい。
休憩後は眼目の二幕目「鬼界ヶ島の場」。割にさらさらと運んで、必見は幕切れ、俊寛(吉右衛門)が遠ざかる赦免の船を、ひとり絶壁の先端で見送るシーンだ。亡き勘三郎さんで観たのが2010年。去っていく船に必死で叫ぶ勘三郎に比べ、吉右衛門は虚無の表情。妻の死を知らされ、圧倒的な孤独を自ら選びとった後の姿は、静謐で、だからこそ絶望と諦念が胸に迫って衝撃的だった。瀬尾(又五郎)に斬りかかる背景に、若い夫婦のための自己犠牲というより、妻の死があるというところで、「清盛館」の上演が生きる。
プログラムの解説を読むと、戦争の苦難をへた1946年に初代吉右衛門が演じ、幕切れの演出で、若く知的な歌舞伎ファンを開拓した演目であり、今また当代の工夫をリアルに観られるのは有り難い。瀬尾をやり込める丹左衛門の、きっぱりと上品な菊之助がまたいい。仲間の成経は錦之助、康頼は吉之丞と安定。千鳥の雀右衛門は可愛いけど、ころころ過ぎか。竹本葵太夫の浄瑠璃がいつになく聴きやすかったな。

1週間後に第二部へ。素朴で明るい「彦山権現誓助剣~毛谷村(けやむら)」だ。2009年に吉右衛門の歌舞伎で、また2012年に玉男&咲太夫の文楽で観た楽しい演目。気が優しくて力持ち、剣術の達人なのに騙されやすく、人間味あふれる主人公・六助で、先月の歌舞伎座に続いて仁左衛門の絶妙な軽み、可笑しみを楽しむ。
「豊前国彦山杉坂墓所の場」がつき、六助が微塵弾正(彌十郎)の母孝行(のフリ)にほだされて八百長を約束、また孤児・弥三松(梅枝の長男・小川大晴が超立派に初お目見得!実は六助の師匠の孫)を預かる経緯を見せる。
続けて眼目の「毛屋村六助住家の場」。弾正に額を割られてもニコニコしている気のいい六助に、笑いがもれる。旅の老婆お幸(悠然と東蔵、元気でなにより。実は師匠の後室)、虚無僧に化けた怪力・お園(孝太郎、実は師匠の娘)が現れ、六助が太鼓で弥三松をあやしながら、一方で斬りかかるお園に必死で経緯を説明したり、お園が一転、女らしい恥じらいをみせつつ臼を振り回しちゃったり、面白いシーンの連続だ。優しく牧歌的で、上方言葉がぴったり。孝太郎は女武道が合ってるなあ。
杣人(そまびと=きこり)斧右衛門(ほのぼの彦三郎)が母の死を嘆くのを聞くあたり、舞台中央に陣取る仁左衛門の姿の美しさに感心! ようやく弾正に騙されたこと、また弾正こそ憎い師匠の敵だと知って、ついに怒り爆発、庭石を踏み込んじゃう。メルヘンです。ラスト、お園が景季の箙(えびら)の梅にちなんで六助に梅の枝を贈ると、お幸が張り合って椿の枝を贈るのも微笑ましかった。

休憩を挟んでコンパクトに清元の舞踊2題。古風で艶やかな「文売り」は、梅に懸想文(恋文)を結んだ縁起物を売る女(梅枝)が、逢坂山の関での身の上話に、郭の痴話喧嘩を語りきかせる。梅枝は色気はまだイマイチな感じだけど、姿も声も端正で舞台に映える。詞章は近松「嫗山姥(こもちやまうば)」の遊女・八重桐にちなんでいるそうです。
続けて映像だけ観たことがある、中村屋ゆかりの軽妙な「三社祭」。浅草の観音信仰の始まりにちなんだ漁師ふたり(ころころ21歳の鷹之資、爽やか20歳の千之助)に、頭上の黒雲から善玉・悪玉がとりつく。面をつけての難しそうな時代物風「悪尽くし」、新内がかり、曲芸風「玉尽くし」などをハツラツと。若いおふたり、これからが楽しみです!
観劇のあと、第二部は孝太郎コロナ感染で休演になりました…

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