歌舞伎

團菊祭「壽曽我対面」「伽蘿先代萩」「四変化弥生の花浅草祭」

團菊祭五月大歌舞伎  2017年5月

当代菊五郎の父・七世尾上梅幸の二十三回忌、そして菊五郎劇団の柱だった十七世市村羽左衛門の十七回忌追善と銘打った團菊祭・夜の部。次代を担う2人、尾上菊之助の切ない政岡と、市川海老蔵の凄み炸裂・仁木弾正が頼もしい! 1階中央のいい席で1万8000円。休憩3回を挟み4時間半。

まずは祝い幕を開けて「壽曽我対面」から。羽左衛門の長男で長老・坂東楽善、その息子たちで彦三郎、亀蔵の襲名&新・彦三郎の長男・亀三郎の初舞台と、一家揃い踏みのお披露目だ。紅白の梅が咲くセットで、後半は奥の襖を開けて雄大な富士山も。
なんと初役という工藤祐経の尾上菊五郎は、武将というより親分だけど、さすがに悠然としつつ、リアルさがある。亀蔵、しゅっとした尾上松也、萬次郎の長男・竹松らの家来たち、ちょっとお年の楽善ら大名たち、さらに楽善の弟・市村萬次郎、綺麗な梅枝(時蔵の長男)のド派手な傾城たちが居並ぶなか、上品な中村時蔵と勇ましい彦三郎の曽我兄弟が登場する。彦三郎の大音量は迫力だけど、ちょっとバランス悪いかな。重宝友切丸を持参する楽善の末の弟・河原崎権十郎に手を引かれ、ちっちゃい亀三郎が出てくると、可愛くて大拍手。狂言のあと、そのままお楽しみの口上へ。坂東家の実直さがいい感じです。

食事休憩の後、眼目の「伽蘿先代萩」。前半の序幕第一場・足利家奥殿の場は菊之助が奮闘する。ふっくらとして、声が通って上品。2013年に観た藤十郎さんに比べると、凄まじさは薄いけれど、その分、大詰めの悲しみが率直に胸に迫り、思わず涙… 栄御前の中村魁春は迂闊さが滲み、八汐は嫌味のない中村歌六。沖の井の梅枝と、松島の尾上右近が控えめながら綺麗だ。
第二場・足利家床下の場で、きびきび男之助・尾上松緑の手を逃れた鼠が、すっぽんで仁木弾正に変身する。スモークと手燭の灯りのなか、口をきかずに妖しく笑い、悠々と花道を引きあげる海老蔵。スケールが大きくて格好いい。
短い休憩を挟んで、二幕目問註所対決の場は実録風に。実直な渡辺・片岡市蔵、山中・大谷廣松(友右衛門の次男)、民部・市川右團次(初の團菊祭!)らが仁木を告発するものの、一味の管領・大谷友右衛門は相手にしない。そこへ細川勝元・中村梅玉が駆けつけ、「虎の威を借る狐」などの名調子で裁く。いつもながら古風でいいなあ。印に引目を入れる、というのは、知らなかったです。
そしていよいよ大詰・問註所詰所刃傷の場。なんといっても花道から登場する海老蔵の、追い詰められ、我を失ったさまが怖過ぎ~ これでもかと渡辺を押さえつける所作、あわやというところで討たれちゃって、手足を大きく広げたまま運び上げられる…と、見どころ満載だ。特にワルが敗北したときに漂わす哀切には、この人ならではの魅力がある。勝元がすべてをおさめて大団円でした。

最後は長尺の舞踊「四変化弥生の花浅草祭」を、松緑、新・亀蔵コンビが溌剌と。山車の人形が踊り出す趣向で、まず舞台下手の常磐津をバックにして、晴れやかに「神功皇后と武内宿禰」。古事記の時代の皇后と相撲の元祖による戦物語。上手から清元が登場すると一転、庶民的な宮古川(隅田川)の漁師による季節ものの「三社祭」へ。黒雲が降りてきて、面が面白い悪玉善玉。再び常磐津となって、浮かれた「通人・野暮大尽」。幕前のお楽しみ大薩摩で盛り上がり、ラストは一面の雪景色。舞台奥に長唄囃子が並んで、厳かな「石橋」だ。勇壮な獅子の毛振りで打ち出しとなりました。期待の亀蔵が清廉。ただ外連味では松緑に一日の長があるかな。

昼の部、菊五郎の孫(寺嶋しのぶの長男)、眞秀(まほろ)くんの初お目見えでも話題の公演。変化に富んでいて面白かった~

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歌舞伎「猿若江戸の初櫓」「大商蛭子島」「四千両小判梅葉」「扇獅子」

江戸歌舞伎三百九十年 猿若祭二月大歌舞伎 昼の部  2017年2月

夜の部の中村勘太郎、長三郎兄弟初舞台が話題の歌舞伎座。そちらはテレビドキュメンタリーで観ることにして、あえて昼の部に足を運んでみた。東京マラソンとかちあった千秋楽は、前の方に空席があったけど、江戸歌舞伎の歴史を感じる珍しい演目が並んで面白かった。歌舞伎座中央前の方のいい席で1万8000円。休憩3回を挟み5時間弱。

幕開けは1987年江戸歌舞伎360年記念の猿若祭時に初演した、田中青滋作の長唄・筝曲舞踊「猿若江戸の初櫓(はつやぐら)」。寛永元年(1624年)、中橋(現在の日本橋人形町3丁目)に勘三郎が猿若座を創設したエピソードを描いた、めでたいフィクションだ。
新年に上方からくだってきた猿若(勘九郎)と阿国(七之助)が、木材商・福富屋(鴈治郎)を助けて荷車を曳く。感心した奉行・板倉(彌十郎)が所領に芝居小屋を建てることを赦し、福富屋が援助することに。喜んで、まず阿国が厳粛に、続いて朱色の綱紐を巻いた猿若が軽妙に踊る。
朱色を基調に、銀杏をくわえた鶴の紋の櫓が登場して、華やか。同時に勘九郎持ち前の愛嬌とリズム感に、江戸歌舞伎開祖のプライド、さらには一座の者やスポンサーを上手にのせちゃうプロデューサーとしての魅力が重なって、実に感慨深い。若手の児太郎、橋之助や鶴松が参加。

早めのランチ休憩の後、「大商蛭子島(おおあきないひるがこじま)」。洒落本や俳句といった文化が花開いた天明4年(1784年)、中村座顔見世で初演し、1962年に復活したという、古風でおおらかな狂言だ。国立劇場での上演を挟んで今回がなんと48年ぶり。
源平の設定だけど、第一場・正木幸左衛門内の場の前半は、まるきり江戸庶民のエロチックコメディ。伊豆に配流中の頼朝(松緑)は手習の師匠に化け、やたらと弟子(芝のぶら)にちょっかいを出す。頼朝を慕う北条時政の娘・政子(七之助)とお付きの清滝(児太郎)が訪れ、頼朝との濡れ場へ。妻・辰姫(時蔵)は時政のバックアップを受けるため身を引くが、長唄「黒髪」にのせて切ない嫉妬を語る。小道具で父・義朝の髑髏や北条の宝・三鱗が登場。
後半から時代に転じ、文覚上人(目つきが巧い勘九郎)が後白河院の平家追討の院宣を届け、ぶっ返りで白紫衣装となった頼朝も決起を表明。下男に化けていた敵方武将(亀寿)や、義朝の仇(團蔵)を討つ。
続く第二場・源氏旗揚げの場で、雄大な富士をバックに、源氏の白旗を掲げて出陣していく。幕切れは巨大な朝日までのぼってまたまためでたい。若手は男女蔵の長男・男寅や福之助らが参加。

休憩を挟んで、黙阿弥晩年、明治18年(1885年)の初演作「四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)」。安政2年(1855年)に起きた御金蔵破りを素材に、牢の風習などをリアルに描き、現代劇への橋渡しに位置する。菊五郎、梅玉の古風な存在感が大きい。
序幕第一場・四谷見附外の場は夜のお堀端。おでん屋台の亭主でスケールの大きい富蔵(菊五郎)が、小悪党の藤十郎(梅玉)を御金蔵破りに誘う。第二場・牛込寺門前藤岡内の場で2人は緊迫しつつも、盗んだ金を床下に埋めることにする。二幕目・中仙道熊谷土手の場は雪のなか、捕われて唐丸籠で江戸へ向かう富蔵が、女房(時蔵)、舅(東蔵)、幼い娘と別れる愁嘆場。
三幕目第一場・伝馬町西大牢の場でも富蔵が大物ぶりを発揮。蔓と呼ばれる金品の扱いや、きめ板の仕置き、紙で作った数珠などのしきたり、重ねた畳に座る牢名主(左團次)、隅の隠居(歌六)、囚人たち(亀三郎、亀寿)、新入り(松緑、菊之助)らの生態が描かれる。ユニークだなあ。第二場・牢屋敷言渡しの場で、役人(秀調、松江)が重々しく刑を告げ、囚人たちの題目をバックに菱形の縄を受けた富蔵、藤十郎が、遠くをみる立ち姿で幕となりました。

短い休憩の後、打ち出しは明るく清元舞踊「扇獅子」。鳶頭・梅玉と芸者・雀右衛門がいなせに日本橋の四季を描く。獅子頭に見立てた扇、橋と鮮やかな牡丹の屋台というド派手なセットが楽しかったです。

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「扇獅子」

シネマ歌舞伎「女殺油地獄」

シネマ歌舞伎「女殺油地獄」 2017年2月

文楽に続いて、近松シリーズの名作世話物「女殺油地獄」を、2009年6月歌舞伎座さよなら公演のシネマ版で。当たり役・仁左衛門「一世一代」だ。よく入った東劇のやや後ろのほう、通路沿いの見やすい席で2100円。休憩無しの2時間弱。

リアルでは2011年に染五郎・亀治郎(猿之助)で観た演目だが、やはり関西弁が自然だといいなあ。冒頭、徳庵寺堤の場から、野崎参り途中で喧嘩沙汰を引き起こす与兵衛のちゃらんぽらんさ、見栄っ張り、そして弱々しさが魅力的だ。対するお吉は孝太郎、娘お光は千之助という親子三代共演。
公演当時のインタビューを読むと、仁左衛門はお吉とは恋愛感情はない、「家族同様の近所のお姉ちゃん」としており、孝太郎の色っぽ過ぎない感じがはまっている。豊島屋主人の梅玉が安定感。ほかに通りかかる侍で、坂東弥十郎・新悟親子。

続く河内屋内の場から豊島屋油店の場の前半は、追い詰められて暴れる与兵衛の未熟さと、父・歌六、母・秀太郎(芸者小菊と2役)との愁嘆場を描く。妹は梅枝。
後半でいよいよ殺しの心理劇となる。スクリーンで表情を確かめられるので、お吉からなんとか金をせしめようとする小狡さ、後先考えない暴走、快楽、そして激しい恐怖と、与兵衛の変化に見応えがある。これは文楽ともまた違う醍醐味。振付としては凄惨というより、アクロバティックな様式美で、若さが前面に出る。三味線の効果音がなんともクールだ。なんとか継承してほしいなあ。

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歌舞伎「義賢最期」「口上」「錣引」「黒塚」

寿新春大歌舞伎 夜の部  2017年1月

2017年の観劇始めは新橋演舞場で、市川右近改め三代目市川右團次襲名披露に足を運んだ。同時に息子タケル君が二代目市川右近として初舞台。めでたさとともに、スターの海老蔵、猿之助競演で見ごたえある演目が並び、休憩3回を挟む5時間をちっとも長く感じなかった。花道手前、中央あたりのいい席で1万8000円。

まず「源平布引滝」から「義賢最期」。2008年に文楽「義賢館」を観ており、1965年に当代仁左衛門が復活したという歌舞伎バージョンにも興味があった。とにかく主役・木曽義賢の海老蔵が格好いい!
前半は平治の乱で敗れ、病と称して引きこもっている設定で、情熱を押し殺す。配下の折平(中車)が、実は源氏一族・多田行綱と見抜いて一転、手水鉢の角を割り、白旗を示して源氏再興を力強く宣言。平家方の使者に兄・義朝の髑髏を踏むよう迫られてると怒りを爆発させる。
討ち死を覚悟してからは、娘(可愛い米吉)、妻(右之助、お腹の子がのちの義仲)を逃がすシーンで、花道での別れが切ない。観る側はどうしてもプライベートの苦労も思ってしまうし、胸に迫りました~ そしてラストは礼服・素襖大紋での激しい立ち回りとなり、戸板倒し、階段に倒れ込む仏倒しをアクロバティックに演じ、カタルシスがありました!

25分の休憩後、口上。祝い幕は慶応三田会から。梅玉が優しく披露役を務め、猿之助、男女蔵、二代目右團次につながる右之助、「なんでそんなに元気なの」と海老蔵、門之助、中車、そして澤瀉屋の門人から高嶋屋となった右團次本人、6歳の新・右近ちゃんもしっかり挨拶して、可愛い!
「襲名披露特別御膳」の食事休憩を挟んで、右團次主演「錣引」から摂州摩耶山の場。源平合戦の逸話を題材にした黙阿弥の作だ。三升の提灯が並び、歌舞伎らしい様式美が楽しい。
まず極彩色の摩耶山天上寺に平家の人々が祈禱に訪れる。可憐な伏屋姫(米吉大活躍)が源氏がたと揉み合って、重宝・八声の名鏡を崖下に落としてしまう。
大ゼリがドーンと上がって崖下。順礼・実は景清(はつらつ新・右團次)と虚無僧・実は三保谷四郎(古風さがいい梅玉)が腹を探り合う。そして背景が開け、いかめしい姿に転じた景清に、緋縅の鎧姿の三保谷が一騎打ちを仕掛け、景清が三保谷の兜の錣を引きちぎる名場面へ。互いに怪力を認めて、幕切れはお約束、戦場での再会を約して別れる。実におおらかな1幕。

幕間後のラストは2015年にも観た、猿之助の極付「黒塚」。奥州安達ケ原の闇に浮かぶ老女岩手の影が怪しい。糸繰り唄の切なさ、芒の原で長唄囃子と琴にのった童心の舞踊の何とも言えない切なさ。三味線の格好いいソロを挟んで、いよいよ鬼女の本性を現し、立ち回りから花道での仏倒れ! まさに猿之助オンステージだ。
前回は勘九郎だった阿闍梨祐慶は、右團次でスケール感があり、強力・猿弥は程よくコミカル。山伏で門之助、中車。充実した、いいお正月でした。

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仮名手本忠臣蔵

12月歌舞伎公演 通し狂言 仮名手本忠臣蔵 第三部  2016年12月

国立劇場開場50周年記念、3カ月連続完全通し上演の最終月。文楽バージョンも観て、堂々の完結だ。国立劇場大劇場中ほど、花道の下手側脇で1万円。休憩3回を挟み5時間。

まず八段目・道行旅路の嫁入はプログラムの詞章を読みながら。原作にそって2人旅のシンプルな演出。花道から戸無瀬(古風な魁春が六代目歌右衛門の当たり役で、立女形の大役を継承)と小浪(なんと歌舞伎座と掛け持ちの児太郎、ちょっとオーラ不足かな)が登場し、風景が富士山から琵琶湖へと移り変わっていく。この明るさが、続く母娘の行動に説得力を加えるんだなあ。プログラムのコメントで、児太郎が「菊之助に教わる」というのがなんだか感慨深い。

ランチ休憩のあとぐっと重厚に九段目・山科閑居の場。歌舞伎では30年ぶりという「雪転(こか)し」からだ。由良之助(悠然と梅玉)の花街帰りの少し崩れた雰囲気や、段切りへの伏線がよくわかる。
訪ねてくる戸無瀬は、供に太刀の箱を持たせていて勇ましい。お石に抜擢された研修生出身・笑也が、抑えた演技、声もりんとして見事な造形。虚無僧姿の尺八でさんざんひっぱってから、本蔵(幸四郎が当代最多の5回目)が正体をあらわす。由良之助との古風なやり取りをへて、奥の障子を開けると雪でつくった五輪塔が目に鮮やか。雨戸を外す工夫を力弥(年配だけど雰囲気が合っている錦之助)が披露する。刃傷の場での行動を後悔する本蔵の苦悩が鮮烈だった文楽バージョンに比べ、今回は2家族それぞれの悲劇の構図がくっきりする印象。

20分の休憩後、こちらも上演機会が少ない十段目・天川屋義平内の場。義平の歌六が勢いよく躍動する。捕手たち、実は義士は大鷲文吾の松江ら。女房お園(高麗蔵)も登場。

短い休憩を挟んで、いよいよ十一段目。高家表門討入りの場からは、明治以降の写実的な立ち回りとなり、歌舞伎ならではのスペクタクルだ。まず黒雁木の火事装束で勢ぞろいするのが、いかにも忠臣蔵。初めて観る高家広間の場は、力弥(可愛い米吉)が師直の息子・師泰(男女蔵)と、続いて矢間重太郎(長い槍が似合う隼人)が幼い茶坊主(松江の長男、16歳の玉太郎)と対決する。
続く高家奥庭泉水の場、高家側の小林平八郎で、贅沢に松緑が登場する。竹森喜多八(声のいい亀寿)と激しいチャンバラを繰り広げて、見ごたえたっぷり。ついに高家柴部屋本懐焼香の場に至り、寺岡平右衛門(錦之助が2役で)が義弟・勘平の縞の財布を供える。勝鬨の声で拍手! ほかに若手で千崎弥五郎(種之助)、赤垣源蔵(左團次の孫、男女蔵の長男の割に小柄な男寅)、佐藤与茂七(梅丸)らが健闘し、高家側の和久半太夫は似合いの亀蔵。
一転して視界が開ける花水橋引揚げの場は、若狭之助(初役!の左團次)がしっかり締めくくる。長丁場を完走して、観る側も達成感がありました!

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仮名手本忠臣蔵 第二部

11月歌舞伎公演 通し狂言 仮名手本忠臣蔵 第二部

50周年記念の3カ月連続、全段完全通しのふた月目。国立劇場歌舞伎公演としても300回の節目を迎えるそうだ。今月はよく上演される見どころ満載の段を、尾上菊五郎、中村吉右衛門というそれぞれ極めつけの主演で堪能した。大劇場の花道すぐ横、上手側の面白い席で1万円。休憩2回を挟み5時間強。

まず浄瑠璃・道行旅路の花聟(はなむこ)、通称「落人」。先月に観た珍しい三段目「裏門」を、清元の舞踏劇にしたものだ。浅葱幕が落ちると遠くに富士を望む戸塚。桜と菜の花が華やか。花道から勘平(中村錦之助)とおかる(尾上菊之助)が登場。若々しくて「ご両人!」の声がかかる。菊之助は綺麗だけどちょっと骨太で、勘平を引っ張る感じか。滑稽な鷺坂坂内(坂東亀三郎、来春に彦三郎襲名予定)が手堅い。浄瑠璃は清元延寿太夫ら。

ランチ休憩の後は照明が暗くなって、五段目・山崎街道鉄砲渡しの場。雨宿りする勘平(菊五郎)が笠を上げ、一気に視線を集める。千崎弥五郎は河原崎権十郎(現・彦三郎の弟)。同・二つ玉の場で稲叢(いなむら)から白い手を伸ばし、怪しく斧定九郎(尾上松緑)が現れる。細身で危うい持ち味が、色悪というよりシンプルなワルで、なかなか。盛んに「弁慶橋」の声がかかる。勘平は火縄をくるくる回したり、暗闇で手探りしたり忙しい。
舞台が回って、六段目・与市兵衛内勘平腹切の場は世話に傾き、緻密な音羽屋型をじっくりと。しでかしてしまった者の、じりじりする焦り、どうしようもない悲哀は普遍的テーマだなあ、と改めて思う。
前半は爽やかな浅葱色の紋服に着替えた勘平が、祇園へ向かうおかるとの涙の別れ、与市兵衛の死を知って煙管を取り落とす動揺をくっきりと。歌舞伎座のさよなら公演、新開場公演でも観たけど、現実にはおじいちゃんなのにロマンチックなのが不思議。おかや(中村東蔵が田舎っぽさを巧く)や二人侍(重々しい中村歌六の原郷右衛門、権十郎)に責められ、ついに切腹してからは怒涛の展開だ。気の毒だなあ。一文字屋お才は中村魁春。

休憩後は一転して華やかに、七段目・祇園一力茶屋の場。さっと背景が開いてからの夜の色街が美しい。由良之助(吉右衛門)が廓遊びにふける色気と、その裏で着々と敵討ちを準備する深謀遠慮という複雑な2面を存分に。こちらも観るのは、歌舞伎座新開場公演以来だ。
「花に遊ばば」と「騒ぎ」の唄で幕が開き、斧九太夫(嵐橘三郎、富十郎の門人で今月幹部昇進)と坂内の入り込みから。三人侍(声が通る亀三郎が2役で赤垣源蔵、ほかに坂東亀寿、中村隼人)が鎌倉出立を迫るが、由良之助は取り合わない。力弥(小柄で可愛い中村種之助)が顔世御前の密書を届ける緊迫のシーンで、戸が外れるハプニングがあったけど、悠々としてさすがです。
五輪の見立てなどお遊びがあって、おかる(中村雀右衛門、いじらしいけど、やや色気不足か)が登場し、由良之助が軒先の釣り灯籠で密書を読む立体的なシーンから、後半は平右衛門(中村又五郎が初役で)が躍動する。吉右衛門は大詰めの九太夫折檻あたり、さすがに朗々とはいかないけれど、説得力十分。「大播磨」の声がかかる。これをどなたが継承していくのかなあ…

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シネマ歌舞伎 ワンピース

シネマ歌舞伎「スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース」  2016年10月

昨年話題をまいた市川猿之助演出による国民的マンガの歌舞伎化を、シネマバージョンで。仲間、冒険という超シンプルなジャンプテイストに、土砂降りの本水、客席総立ちの宙乗りなどケレンをてんこ盛りに。劇団扉座(六角精児ら、かつては高橋一生もいたらしい)の横内健介が脚本・共同演出だそうです。よく入った新宿ピカデリーで2100円。2015年11月新橋演舞場での3時半の公演を、大胆に編集して休憩無し約2時間。

お話はルフィ(子供っぽさが似合う猿之助)はじめとする海賊一味と、海軍との闘い。新感線ばりのキンキラ衣装にプロジェクションマッピングでチャンバラをたたみかける。映像ならではのズームやスローモーションも効果的だ。兄と慕うエース(福士誠治が堂々の二枚目ぶり)の救出劇を軸としつつ、中盤は猿之助好みなのか、「キンキーブーツ」みたいなゲイのショーがたっぷり。ボン・クレーの坂東巳之助がなかなかの怪演で、抜群のコメディセンスと切なさを発揮する。六方では大向こうもかかってましたねえ。
ゲイのイワンコフ、敵役センゴクと、なんでもござれの浅野和之がさすがに達者。「コペンハーゲン」で観た同じ役者とは思えません。中村屋における笹野高史の役回りか。要所を黒ひげなどの市川猿弥、そして重々しい白ひげの市川右近(先代猿之助の部屋子1号、2017年1月に市川右団次を襲名)が締める。気取ったサンジなどの中村隼人がはまっており、一門の春猿、笑也らも安定。

なんと小6女子のRUANが歌う、北川悠仁の主題歌がとてもキャッチ―で、ディズニーみたいなミュージカル要素は子供も喜びそう。その実、白波五人男から碇知盛、ニヤリとさせる狐忠信、助六、まさかの先代萩まで、歌舞伎名場面のパロディも多用していて、歌舞伎のファン層をひろげるかも。
受けるエンタメをごちゃっと詰め込んで、さて、これからどう進化するか。成田屋、高麗屋、中村屋といろんな試みをしてるけど、やっぱり澤瀉屋のチャレンジ精神は半端ない。再演も注目。

歌舞伎「外郎売」「口上」「熊谷陣屋」「藤娘」

芸術祭十月大歌舞伎 夜の部 2016年10月

八代目中村芝翫、その息子たち四代目橋之助、三代目福之助、四代目歌之助のなんと4人同時襲名披露。実直な成駒屋を、皆で盛り上げよう、という雰囲気だ。歌舞伎座中央前のほうのいい席で1万9000円。休憩3回を挟み4時間弱。

幕開けは2009年に亡き団十郎で観た「歌舞伎十八番の内・外郎売」を、大薩摩連中をバックに松緑が演じる。設定はお馴染み、曽我ものの富士の巻狩。紅白の梅に彩られた雄大なセットと、登場人物のド派手なこしらえが問答無用で楽しい。工藤祐経の歌六が中央にドンと構え、大磯の虎の七之助が頼もしく、舞鶴の尾上右近も綺麗だ。ほかに滑稽な珍斎(吉之丞)、化粧坂少将(児太郎)、遊君喜瀬川(丸顔が可愛い梅丸)らがずらり。
花道に現れた外郎売が、問われて松緑と名乗っちゃたり、舞台中央で襲名のお祝いを述べたりと遊び心を披露してから、お楽しみの言い立て、ゆったりした立ち回り、対面。松緑さん、ハスキーで動きがキビキビしていいんだけど、もっとおおらかさが欲しいかな。

休憩後に口上。お約束藤十郎の紹介で、ベテラン勢は玉三郎、吉右衛門。菊五郎が「奥さんに怒られつつ」としっかり笑いをとり、我當さんは喋りは相当苦しいけど、後見を従えちゃんと座ってて偉い。ほかに雀右衛門、菊之助、松緑、歌六、又五郎が、芸から競馬まで先代の恩を語り、梅玉、魁春、東蔵が応援モード全開。七之助が「亡き祖父も父も、教え方は違えど魂で演じろ、という点では同じだった」としみじみさせ、児太郎が「父・福助も懸命にリハビリしている」と語って泣かせた~

食事休憩を挟んで、9月の文楽で通しを観た「一谷嫩軍記」から「熊谷陣屋」。歌舞伎ではこちらも亡き団十郎さんの名演が印象的だったけど、今回は芝翫型だそうで、熊谷の見得の形などがだいぶ違っていて、若々しい。
新・芝翫の熊谷が、まず花道で悲しみを表現。黒ビロードの綿入れに赤地錦の裃、赤っ面に芝翫筋で、力強い。たおやかな菊之助の藤の方に詰め寄られると、飛び上がって平伏しちゃう。「物語」では軍扇を掲げる豪快な平山見得で拍手。吉右衛門のビッグな義経が、歌昇、右近、副之助、歌之助を従えて登場。「首実検」では熊谷が制札をそのまま高く掲げるかたちに。はきはきした歌六の弥陀六が活躍し、大詰め、熊谷は有髪の僧形となって、幕を引かず全員が絵面におさまって世の無常を嘆く。
感慨は団十郎型のほうが強いけど、全体にリアルな印象。橋之助さん、一生懸命でした~ ほかに相模は魁春、家臣の堤軍次が橋之助。

短い休憩を入れて追出しは華麗に、9月夜の部に続いて玉三郎オンステージ。今回は「藤娘」だ。暗転からパッと照明がつくと、舞台いっぱいの松の大木に藤の花が咲き乱れ、中央に藤の枝と黒塗傘をもった娘がひとり。客席から思わずため息がもれる。左右に長唄囃子連中が控え、衣装を替えつつ、クドキ、ほろ酔いの藤音頭、派手めの有馬節と、力は入ってないんだけど、終始つややかでした。

客席には歌舞伎座ゆかりのベンチャー経営者らしき姿も。楽しかったです。

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仮名手本忠臣蔵 第一部

10月歌舞伎公演 通し狂言 仮名手本忠臣蔵 第一部

国立劇場開場50周年記念で3カ月にわたり、可能な場面すべてを網羅するという「完全」通し上演の1カ月め。実は初めて観る松の廊下の悲劇性、そして、じらしにじらして登場する由良之助のスケールを味わう。スターが活躍しない地味なシーンも含めて、貴重な名作伝承の現場だ。大劇場の中央上手寄りで1万円。休憩2回を挟んでたっぷり5時間強。

発端は若狭之助が主役、というのがまず発見だ。これが9段目加古川本蔵の、常識人の悲劇につながるんですね~ 外題は「本蔵」の間に「忠臣」が入っている、なんて読み解きもあるらしい。
まずコミカルな口上人形が出て「エヘン、エヘン」と、役人替名(やくにんかえな、配役)を語る、独特の演出が楽しい。声は頭取(名題下のベテラン)だそうです。そういえば海老蔵が「雷神(なるかみ)」で真似してた。さらに天王立下り羽(てんのうだちさがりは)という音楽、47回の柝をバックにゆっくりゆっくり幕がひかれ、大序・鶴ケ岡社頭兜改めの場。役者は首を垂れて「人形身」を演じ、七五三の鼓、東西声があってようやく順に動き出す。緊張マックスの第一声は足利直義(松江)。
銀杏が色づく八幡宮で、邪険な師直(左團次)に桃井若狭之助(若々しく錦之助)が激昂する。判官(梅玉)の妻・顔世御前の秀太郎がどっしり。直義の役者が江戸三座座主の家柄だと、石段の上で沓を履くとか、細かいしきたりがあるそうです。

ダイナミックな回り舞台の転換があり、二段目桃井館力弥使者の場。登城時刻を伝えに来た力弥(錦之助の長男・隼人)と許婚・小浪(歌六の長男・ぷっくり米吉)が初々しい。梅と桜に例えられるそうで、特に米吉が最高に可愛い! 後の悲劇が際立つ日常風景だ。夜となって松切りの場。金打(きんちょう)して若狭之助から師直を討つ決意を聞いた家老・本蔵(団蔵)は、松の枝を切って了解し、目覚まし時計をセットしておくと言ってから、急いでどこかへ出掛ける。

ランチ休憩の後、三段目・足利館門前の場。チャリ場「進物」で本蔵が師直家来の伴内(ベテラン橘太郎)に賄賂を渡し、「泥鰌踏み」で坂内がおかる(高麗蔵)に言い寄り、「文使い」で勘平(扇雀)とおかるが落ち合う。
きびきびと長い薄縁を転がして敷く舞台転換があり、山場の松の間刃傷の場。若狭之助に対し下手に出たうえ、顔世に返歌で冷たくされて不機嫌マックスの師直が、「鮒侍」などとさんざん判官を愚弄。ついに判官が斬りつけちゃう怒涛の展開だ。裏門の場では勘平・おかるが山崎へ落ちていく。このあたりも上演機会が少ないが、後の段の伏線となるシーンだ。

休憩を挟んで四段目は厳粛に、東京では41年ぶりという扇ケ谷塩治館花献上の場。腰元たちが活けた鎌倉山の桜の美しさが悲しい。家臣・斧九太夫、原郷右衛門の言い争いを、顔世が宥める。貫禄だ。
そしていよいよ「通さん場」判官切腹の場。上使の石堂(左團次が2役でうってかわり穏やかに)、薬師寺を迎え、すでに判官は死装束。
梅玉さん、上品で潔い。切腹に及んだその時、花道から由良之助(幸四郎)が駆けつけて、刀を託される。重いな~ 予習で読んだ丸谷才一「忠臣蔵とは何か」の、弔いの必然性にも納得。この短刀は力弥の役者が毎朝、判官役者の部屋で三宝にのせて受け取るとか、諸士たちは出番まで舞台上で正座して待つとか、つくづく特別なシーンなんですねえ。関係ないけど梅玉さんは終わってから、歌舞伎座夜の部の口上に駆けつけるとか。大変です。
髪を落とした顔世らが焼香し、亡骸が菩提所に送られると、家中の評議へ。籠城討死を主張する諸士(左團次の孫・男寅ら)を、
由良之助が「恨むべきはただ一人」と説得する。セリフ回しはどうにも独特だけど、さすがに朗々として、迫力満点だ。
大詰はダイナミックな表門城明渡しの場。「送り三重」をバックに、機構を生かして城のセットがぐんぐん後退。
幸四郎が存分に泣き、ラストは幕をひいて七三で見せてくれました。
そして物語は第2部へ続く…

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大歌舞伎「吉野川」「らくだ」「元禄花見踊」

秀山祭九月大歌舞伎 夜の部  2016年9月

飛び石連休の後半で、歌舞伎座の夜の部へ。吉右衛門、玉三郎のダブル人間国宝を楽しむ。昼の部に続き、大人っぽいお客さんが多い中央、前のほうで1万8000円。休憩2回で約4時間。

まず眼目の「妹背山婦女庭訓 吉野川」。近松半二作時代物の三段目だ。4月に大阪で文楽の通しを観るなど、予習は十分。そもそも国崩しの権力者・入鹿に見張られているシーン、と知って観ると、緊迫感が高まる。
若い2人はロミオとジュリエット的な暴走ではなく、また誰かの犠牲になるのでもなく、自ら信じる大義と恋に殉じる。その静かな決意が、親2人を時の権力との対決へ導く、深い宿命の物語なんですねえ。終始、非常にゆったりしたテンポだけど飽きさせません。

満開の桜に滝車、左右に竹本の床という、スケールの大きいしつらえは、ほぼ文楽と同じ。下手・妹山、金の屛風に雛人形の太宰屋敷は、つかの間のチャリだ。雛鳥(りりしい菊之助)の恋を応援しようと、腰元・桔梗(時蔵の長男・梅枝がたおやか)、小菊(次男・萬太郎)が川に恋文を流す。一方の上手・背山、一段高い銀屛風の大判事の館では、久我之助(染五郎)が経文を読みつつ、父の真意に思いを巡らす。柏の葉を流し返すけど、つれない感じなのは後段への伏線か。
そして両花道を、二本差しが似合う気丈な太宰の後室定高(玉三郎)と、かなり高齢のつくりで、とぼとぼ歩く大判事清澄(吉右衛門)が戻ってきて、客席=川を挟んで言葉をかわす。朗々として、さすがの存在感。入鹿に服従を迫られた苦悩と、真意を隠す感じがくっきり。特に定高の覚悟のほどが際立つ。
その後は怒涛の展開で、久我之助が帝への忠義から切腹。雛鳥も思いを貫くため、進んで死を受け入れちゃう。親同士があまりの衝撃に、パントマイムで状況を伝えあうシーンの切迫感から、びっくりの「雛流し」へ。首になっての嫁入りという凄惨なシーンなのに、琴を加え、哀切にしちゃう技が歌舞伎らしい。大判事が2人を讃える名セリフ「閻魔の庁を名乗って通れ」は、絞り出すようで、剛直かつ悲痛。今回初めて、初代直系の型だそうです。
有名な演目だけど役者が限られ、上演機会が少ないのも、ちょっと納得の舞台でした~

後半はがらり雰囲気が軽くなって、30分の休憩後に「眠駱駝物語 らくだ」。岡鬼太郎作で、1928年(昭和3年)に初演。鶴瓶さんで聴いた関西弁の落語が、登場人物全員のダメ人間ぶりで強烈だったので、歌舞伎版はさらっとした印象だ。
第一場駱駝住居の場は、もう弔いのしつらえがしてあり、長屋のおばさんが念仏を唱えている。半次の松緑は若々しい遊び人ぶりがお似合い。悲劇の若武者から冴えない紙屑買久六に180度転換した染五郎は、健闘だけど、笑いのセンスは今ひとつかな。
セットが回って、第二場家主佐兵衛内の場では佐兵衛(歌六)、女房おいく(人間国宝・東蔵)が安定の小ずるさぶり。駱駝の馬吉(亀寿)がかんかんのうを踊る。第三場元の駱駝内の場で、久六が酔っ払う。ラストは半次の妹おやすが駆け込んできて、母親の死を告げる。たれ目の米吉(歌六の長男)が相変わらず可愛いけど、オチはあまりすっきりしなかった。

25分の休憩の後は1878年(明治11年)初演の短い舞踊「元禄花見踊」で、玉三郎オンステージだ。なにしろしょっぱなから暗い舞台の中央、はらはら舞う桜の花びらの下、スポットライトを浴びてせり上がっちゃう。お見事。
ぱっと明るくなると後方に「二上り」の長唄囃子連中が並び、元禄風こしらえの男女が華やかに。元禄の男は亀三郎・亀寿兄弟が折り目正しく、歌昇が色っぽい。ほかにころっとした萬太郎、長身の隼人(錦之助の長男)ら。元禄の女は梅枝、種之助(歌昇の弟)、米吉、児太郎(福助の長男)、芝のぶら。
玉三郎が引き抜きの後、ラストに迫力ある黒地の着物に着替えて、格好良く打ち出しとなりました。

ロビーでは桐竹勘十郎さん、春風亭一之輔さんに遭遇! 

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