歌舞伎

四月大歌舞伎「与話情浮名横櫛」「連獅子」

鳳凰祭四月大歌舞伎 夜の部 2023年4月

歌舞伎座新開場十周年と銘打った公演。毎公演一世一代の感がある、貴重な40年来のニザタマコンビ「切られ与三」に、初歌舞伎座の知人夫妻と足を運ぶ。2022年に延期となり、なんと今回は直前の3日間、御年79歳の人間国宝・片岡仁左衛門が体調不良で中止しただけに、登場シーンから盛り上がりがひとしお。お着物、外人さん、アーティストっぽいかた等々で賑わう1F中央前の方、良い席で1万8000円。休憩2回で3時間半。

眼目の「与話情浮名横櫛」は木更津海岸見染の場から。お江戸育ちのお富・坂東玉三郎の貫禄、そして与三郎・仁左衛門の軽やかな若旦那ぶりが盤石だ。2015年に観た市川海老蔵(当時)は、ちょっと無理してたもんなあ。
ニザ様、「やっとお上からお許しがでて」と客席に降りて(コロナ禍以来初らしい)、ぐるりと歩いちゃって大拍手。実子に跡取りを譲ろうと、わざと放蕩している気の良さがにじむ。そして運命の出会い! じっと無言で見つめ合ってからの練り上げられた流れ、タマ様の「いい景色だねえ」がまさに、と思える。潮干狩りの浮き立つ空気や、幇間(市村橘太郎)、鳶頭(代役で坂東亀蔵がきびきび)のいかにもな造形も楽しい。
一転暗くなって、上演は珍しいという赤間源左衛門別荘の場。やや身も蓋もない展開ながら、シルエットになった二人の年齢を感じさせない色っぽさ。この場を出してドラマとして盛り上げようという心意気が感じられる。
休憩を挟んでいよいよ源氏店の場。タマ様の粋な落ち着きぶり、対するニザ様のほうは、タカリのくせに育ちの良さがのぞく拗ねた感じがさすが。音楽的なセリフ回しが見事だ。なんでも細い足を、コンプレックスからトレードマークにしようと思った演目とか。滑稽な藤八(片岡松之助)がいいバランスだ。
左團次さん休演で多左衛門に回った河原崎権十郎も、大店の番頭にはまっていて立派。チンピラ蝙蝠安の片岡市蔵はちょっと卑屈過ぎたかな。

長めの休憩の後、本興行では初という尾上松緑、左近親子の「連獅子」。これがなかなかの見物でした。17歳左近ちゃんの必死さ、指先にこめた力。松緑の家族というと、どうしても複雑な心情を連想しちゃうんだけど、そんなことは関係ないラストの毛振りパワー! 客席も途切れなく拍手を送ってた。そういえば2018年、当時13歳のいっぱいいっぱいの染五郎にも感動したなあ。
加えて間狂言「宗論」の権十郎、板東亀蔵にメリハリと品があって大満足。杵屋勝四郎以下の長唄陣、笛や太鼓も何故かイケメン揃いでした。

大向こうがようやっと全面解禁となり、十周年記念緞帳の東山魁夷「夜明けの潮」の青緑も爽やか。地下を含め、お土産もいろいろ新調されていて、芝居見物を満喫しました~

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2022喝采づくし

いろいろあった2022年。エンタメを振り返ると、やっぱり特筆すべきはコンサートで、ドームを巨大ディスコに変えたブルーノ・マーズ、そして年末のピアノ一台の矢野顕子。全く違うジャンルだけど、どちらもライブのグルーブを存分に味わいました。

そしてようやく実現した、團十郎襲名の「助六」。いろいろ批判はあっても、この人ならではの祝祭感が嬉しかった。ほかに歌舞伎では「碇知盛」の菊之助、梅枝が頼もしく感じられ、初代国立劇場さよなら公演がスタートした文楽「奥州安達原」は玉男、勘十郎、玉助らが揃って充実してた。

オペラは新国立劇場で意欲作が多く、なかでもバロック初体験のグルック「オルフェオとエウリディーチェ」の、音楽、演出両方の端正さが忘れがたい。ともに読み替え演出のドビュッシー「ペレアスとメリザンド」、ヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」も洒落ていた。問題作「ボリス・ゴドゥノフ」は衝撃すぎたけど… クラシックの来日ではエリーナ・ガランチャの「カルメン」が格好良かった。

演劇は野田秀樹「パンドラの鐘」、トム・ストッパード「レオポルトシュタット」が、それぞれ今の国際情勢に通じるメッセージ性で突出していた。井上ひさし「紙屋町さくらホテル」やケラ「世界は笑う」の「表現すること」への情熱や、ともに2人芝居だった温かい「ハイゼンブルク」と不条理をねじ伏せる「建築家とアッシリア皇帝」、そして相変わらずひりつく会話劇の岩松了「クランク・イン!」などが心に残った。

語り芸のほうでは期せずして、喬太郎と三三で「品川心中」を聴き比べ。どちらも高水準。一之輔の脱力も引き続きいい。講談の春陽「津山の鬼吹雪」も聴きごたえがあった。

これからも、のんびりエンタメを楽しめる日々でありますよう。

十二月大歌舞伎「口上」「團十郎娘」「助六」

十三代目市川團十郎白猿襲名披露 十二月大歌舞伎 夜の部  2022年12月

11月に続いて襲名披露の「助六」。團十郎・玉三郎の華と、荒事の古風を堪能する。11月の感動はちょっと薄れたけど。三升一色の歌舞伎座、中央前の方の良い席で2万3000円。休憩2回で4時間弱。

飯田グループの牡丹の祝い幕から襲名披露「口上」。柿色裃勢揃いです。同世代の幸四郎、猿之助が同志の激励らしくていい。白鴎が病気休演で紹介役は左團次となり、菊五郎、仁左衛門の大御所が並んだという11月に比べると、男女蔵、高麗蔵ら一門はどうしても主役に遠慮するのが物足りないものの、にらみを拝めて満足。黙っている後列に、染五郎や中車の顔も。

25分の休憩を挟んで長唄舞踊「團十郎娘」。琵琶湖畔で怪力少女・お兼(ぼたん)が活躍する。長女登場に驚いたけど、11代目襲名で3代目翠扇(新派で活躍した11代の従姉妹)が踊ってるんですねえ。まず4人の漁師で種之助、鶴松が愛嬌を発揮。右團次らとお兼の怪力を試そうと企むところで、お兼のクドキ。後半の立ち回りで新体操みたいに長い白晒を操っちゃうし(布晒し)、漁師たちはブレイクダンスみたいだし、溌剌としてた。

35分の幕間のあと、いよいよ「助六由縁江戸桜」。2010年に先代團十郎以下のオールスター、2013年には海老蔵を福助・吉右衛門・三津五郎らが盛り立てたのが懐かしい。新團十郎にも派手さ、馬鹿馬鹿しさで、どんどん突き抜けていってほしいものです。
幸四郎の口上、加東節十寸見會連中に続いて揚巻・玉三郎の出がさすがの風格。悪態はまあ、抑えめだったかな。白玉・菊之助も堂々、意休の彌十郎に存在感があっていい。
助六はたっぷりの「出端」「ツラネ」から、意休を「時政似の」と呼んで笑いをとる。福山かつぎは巳之助できびきび。くわんぺら門兵衛の左團次がさすがにもう辛いなあ。白酒売・勘九郎がなんとも優しく、通人・猿之助はちょっと皮肉も効かせて笑わせる。児太郞はまだ傾城なんですねえ。
「助六」だけ再見できた月後半には、大詰めで玉三郎が母・満江に回り、團十郎と、揚巻を託された七之助が見送るシーンに継承を感じてジンとする。白玉は梅枝、意休が代演で松緑でした。あー、楽しかった。

ユニクロ提供の銀座で親子ゴジラが暴れている祝い幕は、なんと「シン・ゴジラ」の樋口真嗣監督のデザインで、格好良かった! おやつの人形焼き、30個に1個の隈取りは当たりませんでした~

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團十郎襲名披露大歌舞「祝成田櫓賑」「外郎売」「勧進帳」

市川海老蔵改め十三代目市川團十郎白猿襲名披露 十一月吉例顔見世大歌舞 八代目市川新之助初舞台  2022年11月

大名跡復活を祝う公演の、昼の部に足を運んだ。お着物が目立つ大入のロビーの華やぎ、まがりなりにも復活した大向こう、そして座席でお弁当をつつくのも楽しい。新團十郎に対して多々批判はきくものの、これでなくちゃと思える華があるのは確か。9歳の新之助が初舞台で、達者な長台詞をきかせるのも語り草になりそう。歌舞伎座中央のいい席で2万3000円。休憩2回をはさみ3時間半。

「祝成田櫓賑(いわうなりたこびきのにぎわい)」は常磐津による「芝居前」と呼ばれる祝祭の舞踊。成田山新勝寺の東京別院である深川不動尊で鳶の者、手古舞(萬太郎、種之助、鷹之資、莟玉ら)がきびきび「雀踊り」を披露。鳶頭と芸者(鴈治郎、錦之助、孝太郎、梅枝)が加わって、兄貴分(梅玉)と恋仲の芸者(時蔵)がしっとり馴れ初めを語り、ひょっとこやおかめの賑やかな舞踊。そこへ町役人(寿猿)と若い者が兄貴分を呼びに来る。御年92歳の寿猿さんに拍手!
木挽町芝居前に変わって瓦版売の言立ての後、芝居茶屋の者(楽善、福助!、錦吾ら)が居並ぶなか鳶の者が軽快に獅子舞。そこへ男伊達、女伊達、すなわち侠客たち(権十郎、右團次、廣松ら)が花道にすらりと並び、祝儀のツラネが気分を盛り上げる。そろって手締めとなりました。

休憩にお弁当をすませ、お楽しみ大薩摩連中の「外郎売」。新之助がタイトロールを務める。柱に役者の看板がかかる古風な荒事味、言葉による悪霊鎮めは江戸歌舞伎ならでは。2009年に病から復活した十二代目で観たのが懐かしい。
とにかく工藤祐経で、御大・菊五郎が問答無用の大物感を示す。大磯の郭での休憩シーンで、居並ぶお馴染み鎌倉関係者(左團次、雀右衛門ら)、傾城(魁春、孝太郎、児太郎ら)も豪華メンバーだ。そこへ外郎売が現れて、故事来歴や効能を言い立てる。体は小さいけれど堂々としていて、不安を感じさせないのが凄い。さらに蘇我五郎の正体を明かしての「対面」、工藤が絵図を与える度量を示して拍手。

休憩の後はいよいよ長唄連中の「勧進帳」。襲名では2018年南座の幸四郎が、いっぱいいっぱいの弁慶で印象的だったけど、今回は富樫に回って誠実、果敢に。対する新團十郎はとにかくきびきびと格好が良く、心配されがちな発声もスケール感があっていい。お酒が入ってからの稚気は抜群で、ラスト幕外での感謝の礼と飛び六方まで、独特のオーラを放ちます。義経の猿之助はちょっと曲者感がでちゃうものの、この3人の世代が中核なんだなあ、と感慨深い。義経一行には巳之助、染五郎、左近(松緑の長男)、市蔵。後見で75歳、成田屋最古参の齊入がしっかり支えるのも、ちょっと涙ものでした。

襲名ならではといえば、なんと村上隆の祝い幕が素晴らしかった。巨大な三升の長素襖はじめ、所狭しと成田屋家の芸のヒーローたちが躍動し、鮮やかな色彩、そして目力が大迫力。三池崇史の依頼だったとか。めでたい焼きも復活して、楽しかったです!

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義経千本桜

通し狂言 義経千本桜  2022年10月

初代国立劇場さよなら公演、歌舞伎の幕開けは菊之助が立役として、名優の条件とされる三役にチャレンジする通し狂言「義経千本桜」。2020年3月に中止になった企画のリベンジ、ニンでは狐かと思ったけど、若いうちかも、とAプロ「碇知盛」に足を運んだ。菊之助さん、やっぱり声がよくて二枚目で、主役感満載。スケールアップした感じの梅枝、彦三郎と2029年再オープン後を支えるだろう40代、30代も躍動して、見応えがあった~ 大劇場の前の方で1万2000円。休憩1回を挟み3時間半。

開幕で客電を落とし、菊之助さんが短く物語を解説する映像が流れて親切だ。義経は大河ドラマ前半で活躍してたし、期待が高まる。
舞台は二段目、梅満開の伏見稲荷鳥居前の場から。「火焔隈」の源九郎狐(菊之助)が静御前(大人っぽくなった感じの米吉)を守って生き生きと立ち回り、お楽しみ「狐六方」で引っ込む。声の通る彦三郎の弁慶にやんちゃ感があり、錦之助の義経はお人形のよう。

休憩を挟んで渡海屋の場。船宿の主人夫婦という世話っぽい「やつし」があるから、後半の悲劇が際立つ。菊之助がいなせな渡海屋銀平から知盛に転じたときの、全身キラキラ銀箔をあしらった白装束に拍手。幽霊にみせてるのだから悲壮なんだけど、いよいよという覚悟があって、むしろ清々しい。
続いて怒濤の大物浦の場。梅枝の女房お柳も十二単に衣装替えして、乳人・典侍の局に。梅枝はなんだか丸くなった感じで、貫禄がでてきて良い。衝撃的な自害のシーンが妙に色っぽく、敵に帝を託してというより、仮そめにも夫だった知盛への思いが強く感じられて、ぐっときちゃった。娘お安=安徳帝の丑の助くん、事態を急展させる大事なセリフ「仇に思うな」が立派で、楽しみ。輿に乗って権威を示す演出。
大詰めの入水シーンでは、知盛が背負う碇が本当に重そうで、観ているほうも力が入る。権力に奢った一族の業を背負うと同時に、リアル40代の若さをふまえて観るからか。ラスト幕外で、弁慶が吹く法螺貝の哀愁。  

思えば2009年歌舞伎座さよなら公演で、亡くなった吉右衛門に玉三郎という重厚コンビで堪能した演目だ。それを娘婿が受け継いていくという古典らしい現場に立ち会って、感慨深かった。行儀良すぎとの声もあるけれど、これからこれから。そしてロビーでは複数の知人にばったり。観劇の日常が戻ってきたと、こちらも感慨…

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團菊祭「暫」「土蜘」

團菊祭五月大歌舞伎 第二部 2022年5月

3年ぶりの團菊祭。團・海老蔵は2年半延期していた襲名を年末に控えて、いろいろプライベートでお騒がせのようだけど、菊之助と並びやっぱりスターは華があって、歌舞伎らしくていいなあ。まだまだコロナモードの歌舞伎座、中央前の方の良い席で1万6000円。休憩1回で2時間半。

まずは荒事中の荒事、祝祭感満載の「歌舞伎十八番の内・暫」をテンポ良く。なんと2010年新橋で、パパ團十郎で観て以来だ。鶴ヶ岡八幡宮にずらり並んだウケ武衡の左團次、腹出しの男女蔵(左團次の息子さん)、右團次ら、鯰坊主の又五郎、女鯰の孝太郎(はまり役!)が、問答無用の華やかさ。ド派手衣装で花道に登場するスーパーヒーロー景政の海老蔵は、「久しぶりの歌舞伎座」(10カ月ぶり!)「オリンピック開会式で見せた家の芸」等々笑わせつつ、ツラネも順調。声がパパに似てきたなあ。からむ鯰兄妹を「ふん」と全く相手にしないのが、実に愛らしい。
舞台中央へ進み、上手の大薩摩にのって、元気いっぱい元禄見得の睨み等々で、上品な錦之助、児太郎ら太刀下を救い、仕丁をやっつけ、幕外では「やっとことっちゃうんとこな」で悠々と六方。ああ楽しい。左團次さんの金冠白衣がゆらゆらするのは気になったけど。ちょい役で源氏の重宝をもってくる小金丸は、松嶋屋の孫・千之助。

休憩のあとはがらり変わって、重厚な松羽目もの。長唄囃子連中がずらりと並ぶ「新古典劇十種の内・土蜘」。こちらは2013年歌舞伎座開場時に、パパ菊五郎で観て以来です。前半は病床の頼光・菊五郎を平井保昌・又五郎(大活躍)が見舞い、胡蝶・時蔵が悠然と紅葉風景を舞う。
あえて暗い花道から登場する智籌(ちゆう)・菊之助が超不気味。頼光との明王問答のあと、太刀持音若・丑之助(お孫ちゃん、ますます上手!)に怪しまれちゃって、二畳台で数珠をくわえる畜生口の見得、千筋の糸を投げ投げ花道へ。引っ込みも怖いぞ!
間狂言「石神」は、番卒の萬太郎が滑稽でチャーミング。石神に化け、巫子の梅枝に抱えられちゃう小姓の小川大晴(萬屋のお孫ちゃん、三代共演は意外に初とのこと)もめちゃ可愛い。
後半は大薩摩をバックに、まず花道から格好良く、保昌と四天王の歌昇、種之助(相変わらず声がいい)らが登場。古墳にみたてた作り物を破って登場する後ジテ土蜘の菊之助と、舞台いっぱいの大立ち回りを悠然と。どこか哀しみもたたえて、見応えがあった。

ロビーには亡くなった名優の写真に、吉右衛門さんが加わっていて悲しい。一方で今月は三部、弁天小僧の尾上右近が話題とか。世代交代、頑張ってほしいです…

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近江源氏先陣館

第327回令和4年3月歌舞伎公演 近江源氏先陣館「盛綱陣屋」 2022年3月

歌舞伎名作入門と銘打った「盛綱陣屋」は、タイトロールの菊之助が初役で。昨年11月に亡くなった岳父・吉右衛門の書き込みがある台本を手がかりにしたそうで、きめ細かい感情表現が、くっきりと知的だ。大健闘の息子・尾上丑之助(まだ9つ!)ほかキャストが揃って、見応えがあった。国立劇場大劇場の前の方いい席で8000円。解説を含め2時間半。

近松半二の義太夫狂言は、大坂冬の陣で敵味方に分かれた真田信之・幸村兄弟の悲劇を、鎌倉時代の佐々木盛綱・高綱兄弟に移したもの。まず中村萬太郎がご案内を務め、複雑な人間関係を大河ドラマ「真田丸」のテーマに乗せて明朗に解説してくれて、わかりやすい。ドラマでは大泉洋と堺雅人だったなあ。

25分の休憩を挟み、本編はいきなり盛綱と和田兵衛(中村又五郎が豪胆に)の問答「詰め開き」が緊迫。盛綱が弟・高綱に忠義を貫かせるため、母・微妙(我當門下の上村吉弥が三婆を柔らかく)に頼んで、生け捕った高綱の一子・小四郎に切腹させようとするシーンは、残酷な話なのにどこか母に甘える感じが面白い。
高綱の妻・篝火(中村梅枝がきりり)と盛綱の妻・早瀬(評判の中村莟玉が可愛め)の並列技法シーンは、矢文の応酬が魔法のよう。微妙と生き延びようとする小四郎(丑之助が可愛い!)の辛いやりとりに続いて、陣鐘太鼓が鳴ってからは怒濤の展開だ。
暴れの注進・信楽太郎(中村萬太郎)、道化の注進・伊吹藤太(中村種之助がうまい)がテンポ良く高綱討ち死を知らせ、曲者・北条時政(復帰の片岡亀蔵が堂々)が登場して、いよいよ首実検へ。唐突に切腹する小四郎が我慢の演技。贋首を成立させるまさかの大芝居と気づき、決断するまでの盛綱の無言の演技に引き込まれる。ずっと座ってる小三郎の小川大晴くん(梅枝の息子)も、まだ7つなのに頑張りました!
時政が去ってからはお決まり愁嘆場と思いきや、鎧櫃のトリックまであってびっくり。出入りの多い奥の浄瑠璃は、吉右衛門さんとも縁が深かったという人間国宝の竹本葵太夫。聴きやすかったです。

国立演芸場の演芸資料展示室「講談の歴史」に寄りました。

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2021喝采づくし

マスク着用、かけ声禁止は続くものの、関係者の熱意でステージがかなり復活した2021年。素晴らしい作品に出会えました。

個人的な白眉は、思い切って長野まで遠征しちゃったOfficial髭男dismのコンサート。期待通りの王道ロックバンドらしさに、蜷川さん風に言えば「売れている」者独特の勢いが加わって、ピュアな高揚感を満喫! 私はやっぱり配信よりライブだなあ、と実感。対照的に、名曲を誠実に、余裕たっぷりに聴かせる桑田佳祐コンサートも気持ちよかった。

並んで特筆すべきは、野田秀樹「フェイクスピア」かな。仮想体験の浅薄を撃つパワー溢れるメッセージが、高橋一生の抜群の説得力、そして演劇ならではの意表を突く身体表現を伴って、ストレートに胸に迫った。演劇ではほかにも、ケラさんの不条理劇「砂の女」が、まさに観ていて息が詰まっちゃう希有な体験だったし、栗山民也「母と暮らせば」は富田靖子演じる母に、問答無用で泣いた~ 岩松了さん「いのち知らず」、上村聡史「斬られの仙太」、渡辺謙の「ピサロ」…も記憶に残る。

古典に目を転じると吉右衛門、小三治の訃報という喪失感は大きい。けれど、だからこそ、今観るべき名演がたくさん。なかでも仁左衛門・玉三郎は語り継がれる話題作「桜姫」2カ月通しの衰えを見せない色気もさることながら、「土手のお六・鬼門の喜兵衛」をたっぷり演じた直後の一転、他愛ない「神田祭」の呼吸に目を見張った。
落語は喬太郎の、トスカに先立つ圓朝作「錦の舞衣」、さん喬渾身の長講「塩原多助一代記」で、ともに語りの高みを堪能。まさかの権太楼・さん喬リレー「文七元結」がご馳走でしたね~
文楽界はめでたくも勘十郎がついに人間国宝に! 与兵衛が格好よかった「引窓」は、私としては勘十郎さん仲良しの吉右衛門ゆかりのイメージがある演目で、今となっては二重に感慨深い。玉助さんが松王丸、師直でスケールの大きさを見せつけ、ますます楽しみ。

オペラ、ミュージカルは依然として来日が少ないので、物足りなさが否めない。それでも新国立劇場のオペラ「カルメン」「マイスタージンガー」は日本人キャストも高水準、演出にも工夫があって充実してた。ミュージカル「パレード」の舞台を埋め尽くす紙吹雪も鮮烈でしたね。
2022年、引き続きいい舞台を楽しんで、心豊かに過ごしたいです!

 

加賀見山再岩藤

八月花形大歌舞伎 第一部 加賀見山再(ごにちの)岩藤  2021年8月

幸四郎や勘九郎が軸の花形公演で、第一部は澤瀉屋の一座。黙阿弥作、猿翁が練り上げた4時間の人気作を、石川耕士が 「岩藤怪異篇」として、休憩を挟み2時間に圧縮した。
猿之助の6役早替り&宙乗りと、ケレンを詰め込んでテンポが良い。コロナ感染から復帰2日目のせいか、「黒塚」とかと比べると淡泊だったけど。歌舞伎座前のほう、やや上手寄りのいい席で1万5000円。

浅葱幕が振り落とされると序幕、華やかな大乗寺花見の場から、早替りの連打を楽しむ。殿様・多賀大領(猿之助)は側室・小柳の方(笑也)に夢中で、忠臣・安田帯刀(男女蔵)の進言を退けるし、御台・梅の方(猿之助)には会いもしない。一方、いかにも国崩しの黒幕・望月弾正(猿之助)が、忠臣サイドの又助(きびきびと己之助)をたぶらかす。悪役・蟹江兄弟の亀鶴と鷹之資、特に鷹之資の声が通って気持ちいい。
浅野川川端の場で、欺された又助が、駕籠の梅の方を殺しちゃう悲劇。舞台がぐっと暗くなり、八丁畷馬捨場へ。お家の奥を取り仕切る中老尾上(雀右衛門)が、かつての仇・岩藤の菩提を弔っていると、あら不思議。土手に散らばった白骨が集まって、岩藤の亡霊(猿之助)となり、復讐を宣言する。「骨寄せ」ですね。猿之助がさすがの怪しさで、ムーンウォークみたいな動きも大受け。雀右衛門さんは、召使い時代の黄八丈姿でも上品です。
弾正らがからんで重宝・朝日の弥陀の尊像を取り合う「だんまり」があり、いったん幕がひかれて、なんとスッポンから登場の大薩摩に拍手。一転、明るい花の山の場で、在りし日の局姿になった岩藤の亡霊が、客席を見渡し、上手から下手へ悠々と宙乗り。スターだなあ。

休憩後の二幕目は、多賀家奥殿草履打ちの場。尾上(局姿だと貫禄)が、病に伏せる殿様の妹・花園姫(男女蔵長男の男寅がなかなか可憐)を励ましていると、弾正が来訪。すると館全体が鳴動して荒れ果てた様子に変じ、弾正に乗り移った岩藤(途中から女性の声になる工夫)が現れて、尾上を草履で散々に打ちすえちゃう。怖いよー。尾上は取り戻した尊像でなんとか撃退する。
続く大詰・下館茶室の場でお約束、あれよあれよの展開に。又助が梅の方殺害の責任をとって切腹。その最後の言葉で、実は生き別れた妹と判明した柳の方は、弾正の悪事に荷担してきたことを悔い、健気にも弾正と差し違える。
下館奥庭の場で、改心した大領から鬼子母神の尊像を突きつけられると、岩藤の霊もあっけなく骸骨に戻って、バラバラに崩れ落ちる。悪者は退治され、尾上、元気になった花園姫、局浦風(笑三郎)、帯刀、重宝を取り戻した忠臣・求女(門之助)が勢揃いして、大団円となりました。局でちょこっと登場の寿猿さん、なんと91歳に拍手。最後は全員でご挨拶。
登場人物が多くて、正直追いつけないところもあったけど、盛りだくさんの趣向をエンジョイしました~ 初日から猿之助休演で、代打ちした己之助も好評でしたね。偉い!
売店でまた大島紬のマスクを調達しました~

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桜姫東文章 下の巻

六月大歌舞伎 第二部 桜姫東文章・下の巻 2021年6月

四月の上の巻に続いて、即日完売、令和演劇の「事件」を見届ける。上の巻の可憐なお姫様から、なんと下級女郎にまで身を落とした桜姫=玉さまの振り幅の大きい魅力が全開だ。歌舞伎座中央のいい席で1万5000円。休憩を挟んで2時間半。

まず舞台番・千次郎が上の巻の粗筋を紹介して、序幕・岩淵庵室の場から。荒れた庵室、青とかげの毒、墓堀り、幽霊…と、コミカルとグロテスクが入り交じって、いよいよ大南北らしい。落ちぶれた残月(歌六)・長浦(吉弥)が清玄(仁左衛門)を襲う。鮮やかな早変わりで現れたワルの権助(仁左衛門)が、残月らを叩き出す。傘一本もって引っ込む歌六さんが可笑しい。後半は桜姫が、凄惨なもみ合いの末に清玄を殺し、亡霊の怨念で権助が醜く面変わりすると、いよいよ覚悟を決める。

休憩後の二幕目・山の宿町権助住居の場では、人気女郎・風鈴お姫となった美しい桜姫と、大家におさまった権助が並んで寝転がるシーンの、なんともチャーミングなこと。江戸の退廃、ここにきわまれり。すっかり腹の据わった桜姫は、お嬢さま言葉が交じった緩急自在の啖呵で幽霊とわたりあい、さらには父弟の仇とわかった権助を討っちゃう、あれよあれよの展開。めちゃくちゃだけど痛快だなあ。

大詰・浅草雷門の場は一転、三社祭に浮き立つシーン。家宝を取り戻した桜姫があっけらかんとお姫様に戻り、ニザさまが、まさかの立派な捌き役・大友常陸之助に変じて、めでたしめでたし。都合よすぎる大団円がまた歌舞伎の醍醐味です。あー、面白かった。

 

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