演劇

江戸は燃えているか

江戸は燃えているか  2018年3月

作・演出三谷幸喜。江戸無血開城を題材に、休憩を挟んだ3時間強をドタバタに徹し、初登場の新橋演舞場でシチュエーションコメディを、という作家の覚悟がみなぎる。中央前の方のいい席で1万3000円。製作松竹、企画製作パルコ。

時は慶応4(1868年)年3月。歴史的会談に先立って地ならしのため、新政府軍の西郷吉之助(藤本隆宏、使用人デクと2役)本人が密かに、幕府の軍事取扱・勝海舟(中村獅童)の屋敷に乗り込んでくる。勝の娘ゆめ(松岡茉優)と義弟の村上俊五郎(田中圭)は、なんとしても無益な抗戦を避け、江戸を壊滅から救いたい。甘えん坊で臆病なくせに喧嘩っ早い勝に任せてはおけないと、一計を案じ、庭師・平次(松岡昌宏)を身代わりにたてちゃう。
どだい無茶でありえない設定。お約束の苦しい辻褄合わせや、会ってはならない2人が会いそうで会わないハラハラ、見当違いで突発的な恋が交錯し、後半は西郷の偽物まで登場して徹頭徹尾笑わせる。

昨年の肺腺がんから復活した獅童がハイテンションで暴れまくり、終盤ではアドリブ連発で俳優陣まで吹かせちゃう。対する松岡、田中に色気があって、いい。元浪士組という設定の田中は、大詰めでちょっとチャンバラも(殺陣指導は新感線の前田悟)。
勝を補佐する山岡鉄太郎(鉄舟先生!)の飯尾和樹(ドラマ「アンナチュラル」でも活躍)、西郷の家来・中村半次郎(桐野利秋)の吉田ボイスが、なかなかとぼけた喜劇役者ぶり。勝の妻・八木亜希子はなんと初舞台で、ゲラなところがチャーミング。女中頭の高田聖子が、要所の押さえ役を一手に引き受けて、さすがの貫禄です。

理屈はないけど、三谷さんの「大河ドラマ愛」が感じられ、冒頭で松岡が語る江戸の風景への愛着に、詩情が漂う。勝の妹・順の妃海風(ひなみ・ふう、元宝塚娘役)がリードする劇中歌で、江戸は世界に冠たる百万都市だったけど、当時の住民はそんなことは知らない、という歌詞が印象的だ。歴史的事件に遭遇していても、当事者はどれほど歴史的かは知らず、ただ眼の前の窮地を切り抜けようともがく。滑稽で、愛おしい。時代考証は山村竜也。

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隣の芝生も。

MONO「隣の芝生も。」  2018年3月

時ならぬ春の雪のなか、京都をベースにする劇団の公演を初見。土田英生作・演出で、軽妙な会話のなかに、誰でも少しは裏があることを漂わせる。幅広い観客が集まった、こちらも初めての座・高円寺1。受付で席が決まる方式で、下手中段になって4200円。休憩なしの2時間。

ある貸しビルにある2部屋を、回り舞台で交互に見せる(美術は柴田隆弘)。心優しい元ヤクザの探偵4人組が、事務所の隣でスタンプショップを営む女性の人探しを手伝う。そのうち、自分たちが足を洗う契機になった事件の真相に気づいていく。
登場人物たちの不器用さ、互いを思いやるさまが温かく、可愛らしい。出だしは口調がちょっと馴染めなかったけど、徐々に笑いがツボにはまっていって、安心して拝見。品よくまとまっているだけに、ヒリヒリ感は薄いかな。

メーンのキャストは皆さんベテランで、安定感がある。妙な方言を使うヘナチョコ元組長の尾方宣久が、学生の頃から人の気持ちがわからなくて、という切なさで舞台を牽引。ビルオーナー「親父さん」の娘でしっかり者、高橋明日香との、そこはかとない恋が泣かせます。
放浪癖があり、事件の鍵を握る兄の大村わたる(柿喰う客、青年団)が、マッシュルームカットと掴みどころのなさで突出。木ノ下歌舞伎にも出てるんですねえ。元ヤクザの下っ端、金替康博が心優しくていい味。
ほかに惚れっぽいほうの兄貴分、水沼健は脚本・演出や大学准教授の顔もあり、説明好きの兄貴分、奥村泰彦は舞台美術でも活躍と、キャリアがある。土田英生は、金替の幼馴染のスカジャンヤクザで出演。ロンドン留学を経て映画・ドラマの脚本も手がけているとのこと。カーテンコールでは劇団結成30周年、という挨拶もありました。

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岸 リトラル

岸 リトラル  2018年3月

2017年の「炎 アンサンディ」再演が衝撃的だったレバノン出身ワジディ・ムワワド作、藤井慎太郎訳、上村聡史演出の組み合わせ。最終日に滑り込む。父親探しの旅と別れの、過酷で観念的な戯曲を肉体で見せる力作だ。シアタートラムの上手端、中段で6800円。

モントリオールに住む青年ウィルフリード(文学座で上村と同期の亀田佳明)はある夜、物心つく前に別れた父イスマイル(岡本健一)の訃報を受け取る。親戚たちから家族の墓地に葬ることを拒否され、呆然としていると、遺品の赤いスーツケースから投函されなかったウィル宛の手紙が大量に出てくる。
果たして父は何を思い、孤独に死んでいったのか。ウィルは埋葬の地を求め、遺体を背負って中東の祖国をさすらう。道中で合流していく男女は、内戦による深い傷を語っていく。歌う女シモーヌ(中嶋朋子)、父を殺めて銃を手放せないアメ(小柳友)、眼前で父母をなぶり殺され、ピエロを演じるサベ(文学座の佐川和正)、親に捨てられたピュアなマシ(ジュノン出身の鈴木勝大)、そして犠牲者たちを記憶しておこうと、かろうじて焼け残った電話帳を抱えて歩くジョゼフィーヌ(文学座の栗田桃子)。なんという底なしの人の残虐さ。やがて一行は広々した海岸にたどり着く…

「約束の血4部作」の1作目。全編ウィルの妄想のようで、荒唐無稽な飛躍も多い。謎解き要素に引き込まれた「炎」と違って、正直、休憩を挟んで3時間半を長く感じる。ギリシャ悲劇やアーサー王、ドストエフスキーを知っていたら入り込めるのかな。もっとも1997年初演初演は5時間半だったらしいけど。

もう勘弁、と言いたくなるグロテスクなエピソードが畳み掛けられるなか、俳優陣は笑いも交えて、熱演に次ぐ熱演だ。このエネルギーは凄い。亀田は冒頭から泡だらけで虚無的。出づっぱりで膨大なセリフを叫びまくり、世界を知って成長していく。
死者である岡本がなかなか緩急自在。どんどん黒ずんでいくあたりは滑稽味を漂わせ、終盤にはキリストの姿で青い絵の具を塗りたくられ、「彼岸」に寄せる命の輝きのよう。生前は悲惨な体験から逃避した人だけど、死して普遍的な父となり、残された子供たちを朗々と励ます。
中嶋が安定の透明感だ。岡本との力強い2重唱も染みる。空想の騎士を演じる大谷亮介が、軽妙なかき回し役。栗田のピュアさが際立ち、実直な佐川や鈴木もチャーミングだ。

舞台はシンプルで、左右の2枚の壁が奥に向かって狭まるスタイル。風に飛び散る手紙、鈍く光るビニールの天幕や、大詰めで床を外して海辺に転じるのが面白く、ライティングの変化が緻密だ。美術の長田佳代子、照明の沢田祐二も「炎」と同じ。
カーテンコールには上村も登壇。客席には佐野岳さんらしき姿も。

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木ノ下歌舞伎 勧進帳

木ノ下歌舞伎「勧進帳」  2018年3月

春らしくなってきた週末、古典が題材の「ミクスチャープレイ」で評判の木ノ下歌舞伎を初鑑賞した。監修・補綴は木ノ下裕一、演出・美術が杉原邦生。人の心の内にある「境界」の悲しさが印象的だ。現代語を使い、ラップやダンスを織り交ぜつつも、様式美をベースにした抑制が巧い。演劇好き男女が集まった感じのKAAT神奈川芸術劇場大スタジオ、整理番号方式の全席自由で、前の方を選んで3500円。休憩無しの1時間半。

2010年初演、2016年のリクリエーション版で文化庁芸術祭新人賞を受けた演目。シンプルな細長のステージを客席が両側から挟み、ガードマン風装束の義経一行と富樫警備隊が対峙する。
見どころの「山伏問答」や「延年の舞」を生かしているが、歌舞伎では比較的静かに長唄を聴く「判官御手を取り給い」のシーンをクローズアップ。向き合う義経(高山のえみ)と弁慶(リー5世)の間に、照明で斜めの「境界線」を引き、思い合っていても決して近づけないことの切なさを浮かび上がらせる。大詰めで、義経が客席通路の階段を上がっていき、遠い目で弁慶を振り返るシーンも印象的。

一方の富樫(坂口涼太郎)がチャーミングだ。歌舞伎の新・白鸚や吉右衛門で観てきた富樫は、すべてお見通しの雰囲気だけど、今作ではしがない一公務員。義経一行の、命がけだからこそ明るく充実した姿に衝撃を受け、勢いで関を通しちゃう。その後、宴会に誘おうと、レジ袋を下げていくのが愛らしい。世の権力はびくともせず、着々と彼らを追い詰めていくさまに、やっちまったと思いながらも、なんとも言えない開放感で空を見上げる。いいなあ。

おかっぱの坂口が飄々として、とてもいい味。ニューハーフの高山も、すらりとした容姿と野太い声、腰を落とし、ゆったり進むハコビや涙を隠す所作で、高貴さを表現する。リーは大柄なのが弁慶らしいけど、たどたどしい関西弁でちょっと微妙かな。義経側の四天王と富樫側の番卒を、岡野康弘(Mrs.fictions)、亀島一徳(口口)、重岡漠(青年団)、大柿友哉(害獣芝居)の同じ4人が、交互にめまぐるしく演じて大活躍だ。音楽はTAICHI MASTER、振付に木皮成。
客席には今井朋彦さんの姿も。

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密やかな結晶

密やかな結晶  2018年2月

小川洋子のファンタジーを、鄭義信脚本・演出で。ミュージカル風で可愛らしかったけど、終盤のヒリヒリ感はいまひとつかな~ 主催・企画制作はホリプロ。東京芸術劇場プレイハウス、中ほどで9000円。休憩を挟み3時間弱。

「フォーゲット島」は鳥や香水といったモノ、それにまつわる記憶が徐々に「消滅」していく不思議な孤島。外見は若者の「おじいさん」(村上虹郎)と暮らす小説家の「わたし」(石原さとみ)は、禁じられた記憶を隠しもっており、担当編集者「R氏」(鈴木浩介)も「記憶保持者」だと知って、隠し部屋に匿う。いつしか2人に恋が芽生えるが、秘密警察(山内圭哉ら)の厳しい「記憶狩り」が迫り、わたしの存在も消滅の危機に…

「消滅」というテーマは舞台や小説でいろいろあるけど、問答無用で切ないなあ、と改めて思う。人を形作るのは、誰にも奪えない大切な人との記憶であり、形のない記憶を支えるのは物語。だからR氏は消え行くわたしを、小説を書くよう励まし続ける。もっとも主演2人は、大きな舞台では求心力が弱かった感じ。
村上は期待通り、どこか頼りない持ち味がいい。密かにわたしを慕うたどたどしい歌と、雨のなかで迷子のようになるシーンが染みる。何故若者の姿のままなのか、モヤモヤしちゃったのが残念だったけど。
飛び道具的な山内が、コミカルな存在感を発揮。関西弁で存分に笑わせ、鈴木との兄弟の再会で泣かせる。手下などの藤原季節、山口ジェームズ武、福山康平ら若手も歌にダンスに健闘。
わたしの洋風邸宅などは乙女チックで、2階建てのセットを回して場面を転換していく。ラストで舞い上がる、無数の真っ赤な花びらが美しい。美術は土岐研一。

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ヒッキー・ソトニデテミターノ

ハイバイ「ソトニデテミターノ」  2018年2月

作・演出岩井秀人。引きこもり経験を題材にした2003年「ヒッキー・カンクーントルネード」の続編を、2012年のプロデュース公演に続いて劇団で。「外に出る」ことがゴールにならない厳しい現実を、笑いをまぶして描く。東京芸術劇場シアターイースト、上手寄り前の方で4000円。休憩なしの2時間。

縁のついた四角い舞台に、ゴミゴミと家具や雑貨が並ぶさまが、引きこもり本人や家族の混沌を思わせる。暗転などを挟まずに、現在や過去、バラバラのエピソードをシームレスにつないでいくのが巧い。
引きこもり支援センターの黒木(チャン・リーメイ)と、アシスタントで元引きこもりの森(岩井)は、引きこもって10年の暴力的な鈴木(田村健太郎)や、28年近い完璧主義の斉藤(古舘寛治)をサポートしようとする。田村の母に能島瑞穂、父にお馴染み平原テツ、斉藤の父に猪股俊明。
鈴木の父がリストラにあい、初めて定められたレールに乗らず、自分で決めることの難しさに呆然とするシーンが重い。斉藤の悲劇があって、終始強気だった黒木も一気に混乱する。外にいる者が果たして、きちんと生きているといえるのだろうか?

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近松心中物語

シス・カンパニー公演 近松心中物語  2018年2月

秋元松代作で1979年初演、蜷川スペクタクルの代表作(アートディレクター辻村ジュサブロー、美術朝倉摂、平幹二朗・太地喜和子主演!)に、いのうえひでのりがチャレンジ。新国立劇場中劇場、下手寄りやや前の方で9500円。休憩を挟んで2時間半。

お馴染み「冥途の飛脚」をベースにしつつ、マイナーな「緋縮緬卯月の紅葉」「跡追心中卯月の潤色」を織り交ぜた物語。堅物だった飛脚屋の養子・忠兵衛(堤真一)が、大阪新町の廓で見世物女郎・梅川(宮沢りえ)と宿命の恋に落ち、身請けを阻止しようと公金に手を付ける。
高い格子で回る無数の赤い風車や、群衆をのせて回る2階建てセットが印象的(美術は松井るみ)。伝説の舞台に挑んだ宮沢りえのさすがの女っぷり、セリフ回しの芯の強さが際立つ。堤も古風で、熱量が高い持ち味に、羽織落としなど歌舞伎の所作が合う。期待通り、奥行きのある舞台、降りしきる雪の中で最期をキメる。

しかし忠兵衛・梅川よりも、コミカルなもう一組の男女の成り行きが、胸に刺さった感じ。商売下手な道具屋の婿養子・与兵衛(池田成志)は、責めてばかりの姑(銀粉蝶)に対する反発から、幼馴染の与兵衛を応援して店のカネを使い込んじゃう。暑苦しいけど一途な女房・お亀(小池栄子)は、幼くも憧れの心中に突っ走って命を絶つ。ところが与兵衛は死にきれず、坊主となって彷徨う。
蜆川堤でのベタなドタバタ、落ちぶれても生きていく与兵衛の無様さが、現代人に通じるあわれさだ。2人とも達者だなあ。

シビアな敵役に徹した八右衛門に市川猿弥、世間を象徴するような忠兵衛の義母・妙閑に立石涼子、そして忠兵衛を応援する廓の主人(大阪ジメも)に小野武彦と、脇も盤石だ。群衆は文学座やナベプロ、日本舞踊など。

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三人姉妹はホントにモスクワに行きたがっているのか?

岩松了プロデュースvol.3 三人姉妹はホントにモスクワに行きたがっているのか?  2018年2月

大好きな岩松了さんが作・演出で、若手俳優たちと作るシリーズ第3弾。「カスケード」「宅悦とお岩」に続くバックステージものの群像劇だ。学園祭めいた下北沢駅前劇場、中央やや後ろ寄りで4200円。休憩無しの約2時間。

魅力的なタイトルが示すように、今回、若者たちはチェーホフ「三人姉妹」の稽古中。登場しない演出家の意図や配役を推測したり、インタビューを受ける仲間を羨んだり、いつもながら思い悩む姿が若者らしい。
プログラムの岩松さんのコメントによると、モスクワに帰りたいと思い続けている三人姉妹は、「今日的には難民たちの心情」。だんだんボロボロになっていく俳優たちの衣装が、難民のようで、また生きていくこと、演じることの厳しさも思わせ、なんだか切ない。

「鳥の名前」でみた井端珠里(オーリガ)が大人っぽく舞台を牽引。片山友希(イリーナ)とのダンス、椎名琴音の歌とウクレレがいい。森優作(アンドレイ)、福田周平(戯曲に登場しない市長プロトポーポフ)の個性が目を引く。高橋里恩(ヴェルシーニン)は長身が映え、2枚目の坂東龍汰(トゥーゼンパフ)はどこか現実感の薄さがはまっていた。
皆さん、これから活躍していくんだろうな~ 客席にはムロツヨシさんらしき姿も。

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黒蜥蜴

黒蜥蜴  2018年1月

江戸川乱歩原作、三島由紀夫による歌うように流麗な戯曲を、「ETERNAL CHIKAMATSU」などのデヴィッド・ルヴォーが演出する話題の舞台。2011年「猟銃」の印象が未だ強烈な中谷美紀が、宝塚チックなキラキラ衣装で「グロテスク・ビューティー」を演じきる。日生劇場、前の方下手端で1万2500円。休憩を挟んで3時間強。

宝石商・岩瀬(たかお鷹)が持つ「エヂプトの星」を狙う盗賊・黒蜥蜴(中谷)は、大阪中之島のホテルから令嬢・早苗(相楽樹)をさらう。名探偵・明智小五郎(井上芳雄)が阻止するものの、黒蜥蜴は岩瀬邸から再び早苗をソファに詰めて誘拐し、宝石との交換を要求。東京タワーでの受け渡しで、まんまと両方を奪い去り、逃走する船中で追ってきた明智を海に投げ込む。アジトに着き、宝石のほか怖ろしい美男美女の「コレクション」を見せる黒蜥蜴。令嬢もあわや、というところで変装していた明智が現れ、黒蜥蜴は自害する…

モラルを超えて究極の美を求める孤独な女賊と、犯罪に魅入られた探偵が運命的に惹かれ合うという、耽美と倒錯の三島ワールド。難解だけどイメージ豊か、きらびやかな比喩や、歌舞伎の割ゼリフ風などが耳に心地よい。
中谷が凛とした透明感で舞台を牽引。美しくも中性的な印象だ。美輪明宏や玉三郎が演じた役にチャレンジする姿勢もあっぱれ。ちょっと声が不調だったようだけど。対する井上もすらりとしていて、色気よりも悩めるハムレット風の造形。黒蜥蜴のしもべ雨宮役の成河と、実は替え玉で、とハスッパに転じちゃう相楽がコミカルで、いい対比だ。たかおの俗物ぶりに皮肉が効いている。

演出は青っぽい照明など、現実味が薄くて主演2人に焦点を絞った感じ。中谷のひたすらゴージャスな衣装が、乙女心をくすぐる。精緻な舞台転換と、黒蜥蜴に爬虫類のようにまとわりつくダンサー2人が面白い。ただいつもながらこの劇場は広すぎて、拡散するかなあ~ 美術は「謎の変奏曲」などお馴染みの伊藤雅子。衣装は前田文子。

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TERROR テロ

TERROR テロ    2018年1月

7万人の命を救うために、164人を犠牲にした男は有罪か無罪か? 決めるのは観客。ミステリー連作「犯罪」がとても良かったフェルディナント・フォン・シーラッハの、知的で緊張感ある法廷劇だ。酒寄進一訳、最近では「謎の変奏曲」が秀逸だった森新太郎の演出で。
パルコと兵庫県立芸術文化センターの共同製作で、演劇ファンが集まった感じの紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYA、上手寄りかなり前方で7800円。休憩2回を挟んで3時間。

観客は「参審員」として法廷に参加し、判断を迫られる。入り口でカードが配られ、2幕終了後に有罪、無罪の箱に投票、その評決に応じて終幕が変化する仕掛けだ。
ベルリンの刑事弁護士でもある作家が提示する設定は、実に重い。テロリストが民間機をジャックして、サッカー場への墜落を宣言。独断で機を撃墜し、大勢のサッカー観戦客を救う代わりに乗員乗客を死に追いやった空軍少佐コッホ(松下洸平)が殺人罪に問われる。観客に向かって、老獪な弁護士(橋爪功)はテロの脅威と、超法規的措置の必要を説き、対する検察官(神野三鈴)は厳然と、命を数で天秤にかけることの罪、人間の尊厳を主張する。
コッホの上司(堀部圭亮)に、暗黙の了承があったのか。サッカー場からの大規模避難や、被害者遺族(前田亜季)が叫ぶような乗員乗客によるテロリスト制圧という可能性はあったのか。
どれも、簡単に答えられるような問いではない。机と椅子数個のみのシンプルなセットで、今井朋彦の裁判長があくまで冷静に審議を進めるだけに、観る者の思考を追い込むような言葉のバトルが際立つ。美術は「足跡姫」などでお馴染み堀尾幸男。

初演の2015年はパリのシャルリー・エブド襲撃事件が、世界に大きな衝撃を与え、その後も各地で理不尽な事件が続いている。現実は厳しい。プログラムには18年1月6日現在の上演記録が掲載されており、それによると観客投票の61%が無罪。多数決の結果では、欧米や中東、オーストラリアの上演で無罪が多いのに対し、日本(2016年公演)や中国では有罪が目立つ。これはテロの不安との距離感なのか。この比率は今後、どうなっていくのか…

2013年からシーラッハの朗読を手がける橋爪が、さすがの練度。凛とした神野と、いい対照だ。抑制から感情の爆発に至る前田が熱演。
客席には山田洋次さんらしき姿も。

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