落語

2025年喝采づくし

2025年も素晴らしいライブパフォーマンスにたくさん出会えました。
なかでも頭抜けて凄いものを観た!聴いた!と圧倒されたのは、ふたつ。クラシックの20代ふたり、クラウス・マケラ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団+アレクサンドル・カントロフ。そして御年81歳、「菅原伝授手習鑑」の15代目片岡仁左衛門による菅丞相。圧巻。

ジャンル別の演劇では、重厚なワジディ・ムワワド作・上村聡史演出「みんな鳥になって」、岩松了のスタイリッシュな「私を探さないで」での河合優実、蓬莱竜太「おどる夫婦」でのダンス。節目では本公演に区切りをつけたイキウメ「ずれる」、大がかりな仕掛けは集大成としたケラリーノ・サンドロヴィッチ「最後のドン・キホーテ」、郷愁に終わらない東京サンシャインボーイズ復活公演「蒙古が襲来」がそれぞれ持ち味を発揮。ミュージカルで閉場となる帝国劇場「レ・ミゼラブル」のファイナルウイークも。
これから楽しみなのは横山拓也「はぐらかしたり、もてなしたり」、加藤拓也「ここが海」。翻訳ものでは熊林弘高演出の古典的喜劇「陽気な幽霊」、サイモン・スティーブンス作・上村聡史演出の不穏過ぎる「スリー・キングダムズ」。

古典では歌舞伎が映画「国宝」で盛り上がった幸福な年でした。ニザ様以外にも大イベント八代目尾上菊五郎・六代目菊之助襲名披露の「弁天娘」、南座に遠征した中村壱太郎「お染の五役」、次世代で鷹之資・染五郎の「棒しばり」や尾上右近の「春興鏡獅子」。中村莟玉、2026年に辰之助襲名を控える尾上左近も目立っていて期待大。
文楽は人間国宝に加えて日本芸術院会員となった桐竹勘十郎が碇知盛、玉助が源九郎狐を遣った「義経千本桜」が大拍手で、歌舞伎、テレビでもフル回転の三谷幸喜「人形ぎらい」も。引き続き1年を通して、浄瑠璃の一中節が勉強になった。
落語はさん喬「雪の瀬川」の粋さ鮮やかさ、喬太郎「お若伊之助」の語り力。白談春はさすがに還暦目前で肩の力が抜けてきたかな。講談の春陽は落語から移した「御神酒徳利」にチャレンジ。どんどん格好良くなるなあ。

クラシックに目を転じると、オペラのほろ酔いイベント立ち上げを手伝った記念すべき年となりました。関係者の素顔、いろんな裏話と合わせて舞台では「セビリアの理髪師」で世界のメゾ・脇園彩、「ラ・ボエーム」でルチアーノ・ガンチを堪能。コンサートではマケラのほかにも、83歳リッカルド・ムーティ指揮・東京春祭オーケストラの圧倒的なイタリア魂に引き込まれ、リサイタルでリセット・オロペサ、”キング・オブ・ハイC” ハビエル・カマレナも聴けて満足。

ポップスではずっと聴きたかったファンクのCory Wongが文句なしに楽しく、星野源の6年ぶりツアー追加公演最終日に感動。貴重なサザンオールスターズ 、Official髭男ismのスタジアム、のりのりEARTH WIND&FIRE+NILE RODGERS&CHICも充実。
とても書き切れないよー。さあ2026年も元気に定番、新機軸を楽しむぞ~

談春「宮戸川」「棒鱈」「百川」

「白談春・黒談春」立川談春独演会  2025年9月

18年ぶりの企画で「黒」は落語通、「白」は初心者を狙ったとのこと。あまり意識せず、知人を誘って日程が合った2日目の「白」を聴く。もうすぐ還暦の談春が、自家薬籠中の演目をさらっと。聴衆も含め、肩の力が抜けてきた感じで楽しめた。意外にも談春さん2年ぶりという浅草公会堂、前のほう上手寄りで4500円。仲入を挟んで2時間。

いつも通り前座無しで、まず「宮戸川」。押しの強いお花ちゃん、早合点の叔父さんとファンキーなお婆さんで爆笑。続いて何度も聴いている「棒鱈」。田舎侍の12カ月の唄が大らかで、気持ちよく笑わせる。
仲入を挟んで、こちらもお馴染みの「百川」。滑り出しは江戸っ子が田舎者を揶揄する演目の連続かなと、ちょっと気になったけれど、百兵衛さんの訛り、それをどんどん誤解する河岸の若いもんの粗忽さが愛すべき滑稽さ。あきれながらも、ズレをまるっと笑いで包んじゃう。落語っていいなあ。会場全体で記念撮影して、終演となりました~

知人と賑やかな浅草をぶらぶらし、噺に登場する通りを江戸古地図で見せてもらいつつ楽しく打ち上げ。

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落語「牛ほめ」「ちりとてちん」「大工調べ」「法事の茶」「お若伊之助」

特撰落語会 柳家喬太郎・柳家三三 二人会  2025年8月

熱心なファンでいっぱいの杉並公会堂で、恒例の日に3回の豪華二人会、その3回目に足を運んだ。前半は定番、後半はちょっと珍しい演目を2席ずつ。いつも安心して聴けるお二人です。中ほどの席で3900円。仲入を挟んで約2時間。

前座は小さんの孫弟子となる桂枝平が、メガネを外して「牛ほめ」を手堅く。
喬太郎の1席目は、師匠のさん喬などで何回か聴いている「ちりとてちん」。いつも聴いていて、笑いながらもウッてなる。続いて三三が「大工調べ」。お馴染み、棟梁のすかっとする啖呵に、「牛ほめ」をちらっと織り交ぜて巧い。

仲入後は三三から2席目は、初めて聴く「法事の茶」。男が隠居を訪ねると、インド土産の珍しい茶を出してくれる。焙じて湯を注ぐとあら不思議、茶碗の中に小さな梅の木がはえ、花が咲いて鶯が鳴く。感心して真似たら梅ではなく柳、その下に幽霊が現われちゃう。この幽霊が亡父に似ていて、ご隠居いわく「焙じ=法事が足りなかった」。お盆シーズンにぴったり。頭山みたいなファンタジーが目に浮かんで、ニコニコしちゃった。
トリは喬太郎で、圓朝の長編「お若伊之助(離魂病)」から第二話にあたる「一中節門付け」、第三話「品川発廿三時廿七分」。松本清張みたいなタイトルだけど、2023年に談春で聴いた、びっくりの異類婚姻譚が長編の第一話にあたり、今回はその続きだ。お若は双子を里子に出して出家していたが、一中節で門付けしていた伊之助と再会して焼けぼっくいに火が付き、駆け落ちを企てる。
伊之助の育ての親が住む神奈川宿まで、追っ手を恐れながらの逃避行。がぜんサスペンスになり、20時10分発の横浜方面行きに乗り遅れて、品川駅で火事に遭ってはぐれ、お若はごろつきの勘太につけ狙われるハメに。懸命に逃げたところで手を差し伸べた勘兵衛が、偶然にも勘太の親で… 道行でハラハラさせつつ、「ご都合主義でしょ、しょうがない、圓朝がつくったんだから」と笑いも。
さらに噺は続くんですねえ。いつもながら奇っ怪で因果な人の世。9月に全編ネタおろしの予定とか。喬太郎さん、古典発掘の力技でした~

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俺のミヤトガワ

俺のミヤトガワ 2025年4月

毎回お題を掲げて古典、新作を織り交ぜるらくご@座主催「俺の」シリーズに初参加。今回のテーマは「宮戸川」だ。聴いたことがないと思ったら、特に後半は後味が悪過ぎるため滅多にかからない演目だそうです。柳家三三が三遊亭白鳥との「両極端の会」で披露した新作が企画のきっかけ。個人的には三遊亭兼好がよかったかな。紀伊國屋ホール、後ろの方で4000円。仲入を挟み二時間強。

開口一番は兼好門下・三遊亭けろよんがはきはきと「桃太郎」。本編、まずは柳亭小痴楽が「宮戸川・上」。「芸協がコンプラ委員会を作った。会長はいいかもしれないけど」と憤慨しつつ、「お花半七」として口演される馴れ初めを。帰りが遅れて家を閉め出された小網町の半七が、霊岸島の叔父宅へ向かうと、同じ目に遭った幼なじみのお花が強引についてきちゃう。半七が恐れた通り、「みなまで言うな、任せとけ」が口癖の叔父は二人が恋仲だと早合点し…。昭和のガキ大将が大人になったような小痴楽、下世話だけど愛嬌があって可笑しい。お花も叔母さんも強烈でした。
続いて兼好が「小痴楽は足立区の高校生になっちゃう」などと笑わせてから、「宮戸川(下・改作)」。本来、二人が夫婦になったのち、お花が行方不明になり、一年後、半七が乗り合わせた船頭が、かつて女をさらって宮戸川に捨てたと告白するというもの。まさかの夢オチなんだけど、救いようのない凄惨さで、兼好は今回、全く別のほんわかした新作に。半七の父親がお花との結婚をなかなか許さない、実は昔、お嬢さん育ちのお花の母親に振り回されたから…。楽屋では「できてない」と言っていたらしいけど、さすがに軽妙で拍手。

仲入後は柳家三三で「バック・トゥ・ザ・半ちゃん」。大好きな「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のストーリーを解説してから噺に入ると、なんと人間国宝(!)になった暴れん坊・白鳥に三三が稽古してもらっているという設定。叔父さんが堅物で半七についてきたお花を追い返しちゃうので、三三が筋が違うと突っ込むと、白鳥は「お前はただの行儀のいい中堅真打だな」。爆笑。その後、半七が父親兄弟とお花の母親の青春時代に紛れ込み、映画そっくりの展開に。前の演者のネタをいじったりして笑わせつつ、映画を踏まえた「落雷」オチまで見事な展開だ。複雑で、ちょっと凝りすぎな気もするけど。
3人のエンディングトークも。小痴楽が「三三は前の2人の噺に合わせて、稽古していた登場人物の名前や商売を細かく変えていた」と感心しきり。リアルならではの噺家の創造性と切磋琢磨。ハイレベルでした!

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落語「元犬」「黄金の大黒」「代書屋」「抜け雀」「蝦蟇の油」「雪の瀬川」

第八十九回大手町落語会  2025年2月

知人夫妻と産経新聞社主催の落語会。柳亭市馬、柳家権太楼のベテラン2人が休演となったものの、蓋を開ければ、売れっ子の春風亭一之輔が代打ち、柳家さん喬が2席と、変化のある贅沢なラインナップになった。日経ホール前のほう中央の良い席で4500円。仲入を挟みたっぷり3時間強。

前座は柳亭市助でお馴染み「元犬」をきっちりと。市馬一門の33歳、ちょっと暗めかな。続いて兄弟子の柳亭市童が、3月の真打昇進で松柳亭鶴枝を襲名する、披露興行のチケットを宜しく、と売り込んで「黄金の大黒」を歯切れ良く。
それを受けて桃月庵白酒が、二つ目の名は熟考するけれど、真打の襲名は適当、自分のときは志ん生が空いているよ、なんて言われて消去法で選んだ、入試シーズンは弟子入り希望が増える、きっちりしていると思った希望者がバイト優先でびっくりした、東大卒、イエール大卒もいる、履歴書はきちんとしていない方がいい、と振って「代書屋」(市童さんから2021年と同じ流れ)。前のほうで表情がよく見えたせいか、履歴書を頼みに来るトンチキ45歳と、呆れてブツブツ言う代書屋のキャラがひときわ、くっきりした印象だ。「その流れで雇ってくれるの?いい会社だね」「二度寝の恒夫」とか、リズムがよくて爆笑。巧いなあ。
続いて粋にさん喬さん登場。白酒がトンチキの名を若林恒夫(師匠・五街道雲助の本名)としていたのを、喬太郎がやったら許さん、かつて小さんの鞄持ちで2昼夜かけて釧路に行って、車での移動で…といった旅のマクラから鳥カゴ=駕籠が出てくる「抜け雀」。一之輔などで聴いたことがある、好きな演目だ。絵師が衝立を検分して「いい仕事をしておる」、朝日がさしてちゅんちゅん、とか、細部の軽みが味わい深い。本所育ちの76歳だもんなあ。

仲入を挟んで代打ちの一之輔。いつも以上にヨレヨレと出てきて、子供の受験が大高同時になるとは、結果的に夜の日本橋と同じ顔ぶれだ、市馬の休演の理由がわからない、市馬さんには前座のとき靴下をもらった恩がある、要らないやつだったのかな、などと語って「蝦蟇の油」。2015年にも聴いたけど、この日は途中で紙切りになっちゃって三味線が止らず、お囃子の岡田まい師匠、許して~とか、またまた爆笑。大道芸人の酔いっぷりもさすがです。
前半の最後あたりから音響が不調で、いったん幕を下ろして調整してから、トリは盟友で療養中の権太楼さんに代わり、さん喬2席目。マクラ無し、お辞儀さえそこそこに、いきなり吾妻橋のシーンで一気に空気が変わって人情噺「雪の瀬川」。大作「松葉屋瀬川」の後半で(落とし噺に改変したのが「橋場の雪」)、現在はさん喬さんの独壇場とか。季節もあるし、貴重な口演なんですねえ。
古河(こが)の大店の若旦那が本の虫で、少しは遊べと江戸の店に出されたが、絶世の美女の傾城・瀬川に夢中になって勘当されちゃう。あわや身投げというところへ、文七元結よろしく、店にいた忠蔵が通りかかって長屋に連れ帰る。忠蔵は奉公人同士で駆け落ちして、麻布谷町でクズ屋をしていたのだ。花魁といえばすべてカネ次第のはずだけれど、「瀬川はそんな女じゃない」とピュアに断言する若旦那を信じて、幇間・吾朝に連絡を頼むと、瀬川からまさかの返信。「雨の日にきっと会いに行く」と。待ちに待ってようやく雨、それが雪にかわり、朝からそわそわ何度も時間を尋ねる若旦那。やがて…
それぞれのキャラを、丁寧に描く語り口が温かい。世間知らずだけど一途な若旦那。奉公人なのに「兄ちゃん」と呼んでくれたから貧しいのに若旦那の面倒をみる忠蔵夫婦の侠気。何の疑問もなく即座に応援する大家。瀬川が示す真心。2人の恋路を思って廓抜けのリスクをおかす吾朝夫婦… そしてなんと言っても終盤のシーンの美しさ。しんしんと積もる雪、サクッサクッと音がして、現われた瀬川は黒縮緬の頭巾姿、それをとると洗い髪に珠のかんざし。鮮やかだなあ。ハッピーエンドでさらっと終演となりました。
ちなみに元ネタは大岡政談だそうで、瀬川といえば大看板。大河ドラマに登場した五代目瀬川は鳥山検校(とりやまけんぎょう)のお妾になって洒落本に描かれ、六代目は北尾政演の浮世絵になって弓弦(ゆづる)御用達商人のお妾になったとか。ふむふむ。

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2024年喝采尽くし

いろいろあった2024年。特筆したいのは幸運にも蒸せかえる新宿で、勘三郎やニナガワさんが求め続けたテント芝居「おちょこの傘もつメリー・ポピンズ」(中村勘九郎ら)、そして桜満開の季節に、日本最古の芝居小屋「こんぴら歌舞伎」(市川幸四郎ら)を体験できたこと。「場」全体の魅力という、舞台の原点に触れた気がした。
一方で世界の不穏を背景に、ウクライナとロシア出身の音楽家が力を合わせた新国立劇場オペラ「エフゲニ・オネーギン」のチャレンジに拍手。それぞれの手法で戦争や核の罪をえぐる野田秀樹「正三角形」、岩松了「峠の我が家」、ケラリーノ・サンドラヴィッチ「骨と軽蔑」、上村聡史「白衛軍」が胸に迫った。

歌舞伎は現役黄金コンビ・ニザタマによる歌舞伎座「於染久松」は別格として、急きょ駆けつけた市川團子の「ヤマトタケル」に、團子自身の人間ドラマが重なって圧倒された。その延長線で格好良かったのは、演劇で藤原竜也の「中村仲蔵」。團子同様、仲蔵と藤原の存在が見事にシンクロし、舞台に魅せられた者の宿命をひしひしと。

そのほか演劇では「う蝕」の横山拓也、木ノ下歌舞伎「三人吉三廓初買」の杉原邦生という気鋭のセンスに、次代への期待が膨らんだ。リアルならではの演出としては、白井晃「メディスン」のドラムや、倉持裕「帰れない男」の層になったセットに、心がざわついた。
俳優だと「正三角形」の長澤まさみ、「峠の我が家」の仲野太賀、二階堂ふみ、「う蝕」の坂東龍汰が楽しみかな。

文楽は引き続き、東京での劇場が定まらずに気の毒。でも「阿古屋」で、桐竹勘十郎、吉田玉助、鶴澤寛太郎の顔合わせの三曲がパワーを見せつけたし、ジブリアニメの背景を使った「曾根崎心中」をひっさげて米国公演を成功させて、頼もしいぞ!

音楽では、加藤和彦の足跡を描いた秀逸なドキュメンタリー映画「トノバン」をきっかけに、「黒船来航50周年」と銘打った高中正義のコンサートに足を運べて、感慨深かった。もちろん肩の力が抜けた感じで上質だった久保田利伸や、エルトン・ジョン作曲のミュージカル「ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~」(日本人キャスト)、クラシックでいつもニマニマしちゃう反田恭平&JNO、脇園彩のオールロッシーニのリサイタルも楽しかった~ 

このほか落語の柳家喬太郎、立川談春、講談の神田春陽は安定感。
2025年、社会も個人としても、舞台に浸れる有り難い環境が続くことを切に祈りつつ…

落語「錦の袈裟」「替り目」「ぞろぞろ」「雁風呂」

特撰落語会  2024年10月

安定感抜群のメンバーで、満足度が高い四人会。特にこの日は小遊三さんがチャーミングだったかなあ。杉並公会堂、前の方で4500円。昼夜2回の夜の部で、休憩を挟み2時間強。

前座は市馬門下の柳亭市助で「子ほめ」。はきはきしているけど、集中力続かず。柳家三三が登場したところで復活。余裕たっぷりに、だいぶ前に正蔵さんで聴いた「錦の袈裟」。職人たちが評判をとろうと、質屋の錦の下帯で吉原へ乗り込み、和尚の袈裟を借りて参加した与太郎がもてちゃう話。下品にならない案配が巧い。続いてベテラン三遊亭小遊三77歳で「替り目」。亭主が酔って人力車に乗ったのが自分の家の前、とバカバカしい導入から、女房との他愛ない口喧嘩へ。ベロベロなのに呑ませろ、つまみは食べちゃった、じゃあおでんを買いに行け、江戸っ子は焼き豆腐はヤキ、がんもどきはガンって言うんだ… 酔いどれの可愛げと世話女房ぶり、寄席でさらっと、という肩の力が抜けた風情がいいなあ。

仲入後は柳家花緑で、小さん話やディスレクシア話から、2020年に志の輔らくごで聴いた「ぞろぞろ」。わらじが次々出てくるシュールな発想とめでたさが気持ちいい。トリは桂文珍。見台はなしで、駄洒落や神戸知事の時事ネタと、相変らず程よい皮肉っぽさで笑わせてから「雁風呂」。水戸黄門一行が掛川の茶屋で昼食をとり、見事な屏風絵が土佐派将監光信の筆とみるが、松に鶴でなく雁がねの意味がわからず、居合わせた上方商人と供に絵解きをさせる。函館の「一木(ひとき)の松」と言って、渡り鳥が松の根元に柴を落とし、またくわえて帰る、地元の者が残った柴で供養の風呂を焚き、旅人の疲れを癒やすのだ…との解説で、黄門様が感心して名を問うと、米市を興し町人の分を超えると闕所処分(財産没収)になった豪商・淀屋辰五郎の倅で、柳沢美濃守に貸した三千両を受け取りに行くと… 珍しい知的な噺で、悠々とした語り口が絶妙でした~

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落語「英会話」「夢の酒」「高砂や」「松曳き」

よってたかって秋らくご'24 21世紀スペシャル寄席ONEDAY  2024年9月

秋と言っても残暑厳しいなか、ホール落語で気分転換。手練れ揃いのなか、この日は特に、声のいい白酒さんにパワーがあった。よく入った久々の銀座ブロッサム、やや後ろの上手寄りで4300円。仲入を挟み2時間。

開口一番は三遊亭ぐんまで、ぐんまちゃんステテコとかから「荒茶」。家康方の本多正信が、豊臣方の顔と髭で1㍍の加藤清正、福島正則、池田輝政、浅野幸長、黒田長政、加藤嘉明、細川忠興を茶に招くが、細川以外は心得がなくて… 三遊亭白鳥門下の二つ目で、ゆったりペース。
続いて2年半ぶりの三遊亭萬橘。がちゃがちゃした口調だけど、以前の印象ほど癖は強くないかも。浴衣を着ていて日本人みたいと言われる、自分は人気がなくて観客8人、一之輔と一緒だと800人、神頼みしようと娘と伊勢参りに出かけたら、線状降水帯発生で散々…と、動きたっぷりの愚痴も明るく「英会話」へ。知ったかぶりの父親が子供の英語テストをみてやるが、駄洒落みたいでめちゃくちゃ。相変らずの下から目線ながら、割と古典的なアプローチで軽みがあった。
そして見台を出して、早々に柳家喬太郎。ぐんまは師匠と違って誰が喋ってるかわかる、萬橘はにっぽり館もやって偉くて、なぜ人気が無いのかな、あ、下品だからか、今日は昼も三三、萬橘と一緒、楽屋弁当も一緒だった、歌武蔵兄貴は27歳年下の奥さんもらって元気で、あ、自分も下品だった、などと笑わせて、古典「夢の酒」。若旦那が夢で会う向島の色っぽいご新造の仕草が、さすがの巧さ! 焼き餅を焼く女房・お花の極端な未熟が際だって、可愛げがある。悠々とした感じ、いいなあ。

仲入後は飄々と柳家三三。少しふっくらしたかな? 後半は上品に、とマクラは短めに「高砂や」。2020年にも三三さんで聴いたネタで、安定感。
トリは6月にも聴いた桃月庵白酒。立川流法人化、残る円楽一門はどうするか…と毒をまじえつつのマクラで、下手袖から当の一門の萬橘が顔を出しちゃって爆笑。ネタはお初の「松曳き」。殿様が築山の赤松を移したいと言い出し、家老の三太夫が植木屋を呼ぶ。三太夫へ国元から「姉上死去」の書状が届き、殿様の姉と勘違いし…と筋はシンプルなんだけど、殿様、三太夫がよりによって、ともに大の粗忽者。全編、言い間違い、早とちりの応酬に笑いっぱなしだ。餅は餅屋と植木屋を呼ぶのに「餅屋、餅屋!」とか。ん?いやいや、という呼吸が絶妙でノリがよい。植木屋のなんでも「お~奉る」の早口もさらっと超絶技巧だし、古典を新鮮に聴かせる。高水準でした~

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談春「景清」「妲己のお百」

芸歴40周年記念興行 立川談春独演会これから  2024年7月

毎月、東京2回、大阪1回で24回、決して十八番ではなくその先を目指して、と銘打った独演会シリーズ。珍しい演目をたっぷりと。相変らず幅広い落語好きで、ほぼ満員の有楽町ホールの、やや後方、下手寄りで5000円。仲入を挟んで2時間強。

屏風に座布団の高座に、いきなり師匠が登場。今日は予定の2席が笑いがないので、と言って「お楽しみ」は落語ではなくトーク。投稿しちゃダメ、そこは信頼があるから、と念押ししつつ、出演作の経緯や思惑違いや、役者への尊敬、志ん朝の思い出など。自意識だらけで斜に構えていて、でも細やかで愛嬌が漂う。ますます談志さん色が強まっているような。
いったん引っ込んでから「景清」。眼を患っている木彫り職人・定次郎、腕を見込んでいる旦那が聞けば、赤坂の日朝さま(円通寺)に願を掛けたが、満願の日に隣りでお参りしている女性の髪と白粉のにおいにふらふらとなり、仏罰てきめん、なんで俺を試すんだ、お前の世話になるか、と啖呵を切った、もう按摩になるという。旦那に諦めるなとなだめられて、きっと日朝が廻状まわしていると渋りつつ、今度は上野の観音さま(清水観音堂)に通うが、満願の日も目は開かず、やいカンコウ、と悪態をつく。俺はいいよ、年取ったおふくろが苦労して縞の着物を用意してくれて…というところで、ほろり。すると帰り道で雷にうたれ、目が開く。怖がって先に帰ってしまった旦那を脅かしに行き、お礼参りに徹夜で掘った観音を見せる。いい腕だ、さすが、あたしが目をつけただけのことはある、いや旦那、目をつけたのは観音さまだ。
元は上方落語で、歌舞伎荒事でお馴染み、頼朝襲撃と平家再興に失敗した武将・景清が、源氏の世を見るまいと京・清水寺に両眼を納めた、というエピソードに基づく。けんかっ早い定の造形、絶望や母への思いが、なんとも魅力的だ。

中入り後は夏らしく、講談ものの怪談「妲己のお百」。深川の売れっ子芸者・小さんが門付けする母娘を家にあげると、母はかつて端唄で名を馳せた峰吉だった。峰吉に出養生を世話して、娘およしを預かる。ところが小さん、実はお百という名で悪事を重ねてきた希代の毒婦で、およしを売り飛ばしてしまう。戻った峰吉が日々会いたがるのに閉口して、昔馴染みの小悪党・重兵衛に殺しを依頼。重兵衛は綾瀬に行く途中の土手で峰吉を手にかけ、深川へととって返すものの、駕籠は何故か蔵前に向かったり、千住に行ったり。はて恐ろしき執念じゃなあ。
妲己とは紀元前11世紀・殷王の寵姫で、鳥羽上皇を惑わせた玉藻前はその生まれ変わりとか。お百は18世紀半ばの秋田騒動をモデルにした講談に登場、黙阿弥が歌舞伎にもしている。美人で頭が良くて贅沢で、次々ターゲットを変えながら悪事を繰り返す。さすが迫真の語り、特に殺しをなんとも思わない小さんの造形がくっきり。殺しのシーンなどで照明を落とす演出もあって、ホントに怖かったです!
幕を開け直して、手締めとなりました。

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好二郎「真田小僧」「もう半分」

第五回サモワール落語会 2024年7月

 お馴染みになりつつあるロシア料理店で、今回は落語の会。大好きな三遊亭兼好さんの弟子で、二つ目の33歳。はきはきと聴きやすい好青年だ。

まず「真田小僧」。さん喬さんや談春さんで聴いたことがある前座噺。お小遣いをせしめる子供が、生意気で可愛い。
2席目は夏らしく「もう半分」。数年前に古今亭志ん輔で聴いた怪談だ。うって変わって謎の老人が実にいじましく、忘れ物のお金をせしめてしまった夫婦の子供に乗り移っちゃうところも凄まじくて、めちゃ怖かった~

終演後に各テーブルを回ってくれて懇親。神田伯山の襲名披露で各地に同行し、笛を担当したとか。噺家さんらしくて、期待ですね。
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