落語

落語「元犬」「黄金の大黒」「代書屋」「抜け雀」「蝦蟇の油」「雪の瀬川」

第八十九回大手町落語会  2025年2月

知人夫妻と産経新聞社主催の落語会。柳亭市馬、柳家権太楼のベテラン2人が休演となったものの、蓋を開ければ、売れっ子の春風亭一之輔が代打ち、柳家さん喬が2席と、変化のある贅沢なラインナップになった。日経ホール前のほう中央の良い席で4500円。仲入を挟みたっぷり3時間強。

前座は柳亭市助でお馴染み「元犬」をきっちりと。市馬一門の33歳、ちょっと暗めかな。続いて兄弟子の柳亭市童が、3月の真打昇進で松柳亭鶴枝を襲名する、披露興行のチケットを宜しく、と売り込んで「黄金の大黒」を歯切れ良く。
それを受けて桃月庵白酒が、二つ目の名は熟考するけれど、真打の襲名は適当、自分のときは志ん生が空いているよ、なんて言われて消去法で選んだ、入試シーズンは弟子入り希望が増える、きっちりしていると思った希望者がバイト優先でびっくりした、東大卒、イエール大卒もいる、履歴書はきちんとしていない方がいい、と振って「代書屋」(市童さんから2021年と同じ流れ)。前のほうで表情がよく見えたせいか、履歴書を頼みに来るトンチキ45歳と、呆れてブツブツ言う代書屋のキャラがひときわ、くっきりした印象だ。「その流れで雇ってくれるの?いい会社だね」「二度寝の恒夫」とか、リズムがよくて爆笑。巧いなあ。
続いて粋にさん喬さん登場。白酒がトンチキの名を若林恒夫(師匠・五街道雲助の本名)としていたのを、喬太郎がやったら許さん、かつて小さんの鞄持ちで2昼夜かけて釧路に行って、車での移動で…といった旅のマクラから鳥カゴ=駕籠が出てくる「抜け雀」。一之輔などで聴いたことがある、好きな演目だ。絵師が衝立を検分して「いい仕事をしておる」、朝日がさしてちゅんちゅん、とか、細部の軽みが味わい深い。本所育ちの76歳だもんなあ。

仲入を挟んで代打ちの一之輔。いつも以上にヨレヨレと出てきて、子供の受験が大高同時になるとは、結果的に夜の日本橋と同じ顔ぶれだ、市馬の休演の理由がわからない、市馬さんには前座のとき靴下をもらった恩がある、要らないやつだったのかな、などと語って「蝦蟇の油」。2015年にも聴いたけど、この日は途中で紙切りになっちゃって三味線が止らず、お囃子の岡田まい師匠、許して~とか、またまた爆笑。大道芸人の酔いっぷりもさすがです。
前半の最後あたりから音響が不調で、いったん幕を下ろして調整してから、トリは盟友で療養中の権太楼さんに代わり、さん喬2席目。マクラ無し、お辞儀さえそこそこに、いきなり吾妻橋のシーンで一気に空気が変わって人情噺「雪の瀬川」。大作「松葉屋瀬川」の後半で(落とし噺に改変したのが「橋場の雪」)、現在はさん喬さんの独壇場とか。季節もあるし、貴重な口演なんですねえ。
古河(こが)の大店の若旦那が、本の虫で少しは遊べと江戸の店に出されたが、絶世の美女の傾城・瀬川に夢中になって勘当されちゃう。あわや身投げというところへ、店にいた忠蔵が通りかかって長屋に連れ帰る。忠蔵は奉公人同士で駆け落ちして、麻布谷町でクズ屋をしていたのだ。花魁といえばすべてカネ次第のはずだが、「瀬川はそんな女じゃない」と言う若旦那を信じて幇間・吾朝に会うと、雨の日にきっと会いに行くと、まさかの瀬川からの返信。待ちに待ってようやく雨、それが雪にかわり、朝からそわそわ何度も時間を尋ねる若旦那。やがて…
それぞれのキャラを、丁寧に描く語り口が温かい。世間知らずだけど一途な若旦那。奉公人なのに「兄ちゃん」と呼んでくれたと、貧しいなかで面倒をみる忠蔵夫婦と、即座に応援する大家。瀬川が示す真心と、2人の恋路を思って廓抜けのリスクをおかす吾朝夫妻。そして終盤のシーンの美しさ。しんしんと積もる雪、サクッサクッと音がして、現われた瀬川は黒縮緬の頭巾、それをとると洗い髪に珠のかんざし。ハッピーエンドでさらっと終演となりました。
ちなみに元ネタは大岡政談だそうで、瀬川といえば大看板。五代目瀬川は鳥山検校(とりやまけんぎょう)のお妾になって洒落本に描かれ、六代目は北尾政演の浮世絵になって弓弦(ゆづる)御用達商人のお妾になったとか。

2024年喝采尽くし

いろいろあった2024年。特筆したいのは幸運にも蒸せかえる新宿で、勘三郎やニナガワさんが求め続けたテント芝居「おちょこの傘もつメリー・ポピンズ」(中村勘九郎ら)、そして桜満開の季節に、日本最古の芝居小屋「こんぴら歌舞伎」(市川幸四郎ら)を体験できたこと。「場」全体の魅力という、舞台の原点に触れた気がした。
一方で世界の不穏を背景に、ウクライナとロシア出身の音楽家が力を合わせた新国立劇場オペラ「エフゲニ・オネーギン」のチャレンジに拍手。それぞれの手法で戦争や核の罪をえぐる野田秀樹「正三角形」、岩松了「峠の我が家」、ケラリーノ・サンドラヴィッチ「骨と軽蔑」、上村聡史「白衛軍」が胸に迫った。

歌舞伎は現役黄金コンビ・ニザタマによる歌舞伎座「於染久松」は別格として、急きょ駆けつけた市川團子の「ヤマトタケル」に、團子自身の人間ドラマが重なって圧倒された。その延長線で格好良かったのは、演劇で藤原竜也の「中村仲蔵」。團子同様、仲蔵と藤原の存在が見事にシンクロし、舞台に魅せられた者の宿命をひしひしと。

そのほか演劇では「う蝕」の横山拓也、木ノ下歌舞伎「三人吉三廓初買」の杉原邦生という気鋭のセンスに、次代への期待が膨らんだ。リアルならではの演出としては、白井晃「メディスン」のドラムや、倉持裕「帰れない男」の層になったセットに、心がざわついた。
俳優だと「正三角形」の長澤まさみ、「峠の我が家」の仲野太賀、二階堂ふみ、「う蝕」の坂東龍汰が楽しみかな。

文楽は引き続き、東京での劇場が定まらずに気の毒。でも「阿古屋」で、桐竹勘十郎、吉田玉助、鶴澤寛太郎の顔合わせの三曲がパワーを見せつけたし、ジブリアニメの背景を使った「曾根崎心中」をひっさげて米国公演を成功させて、頼もしいぞ!

音楽では、加藤和彦の足跡を描いた秀逸なドキュメンタリー映画「トノバン」をきっかけに、「黒船来航50周年」と銘打った高中正義のコンサートに足を運べて、感慨深かった。もちろん肩の力が抜けた感じで上質だった久保田利伸や、エルトン・ジョン作曲のミュージカル「ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~」(日本人キャスト)、クラシックでいつもニマニマしちゃう反田恭平&JNO、脇園彩のオールロッシーニのリサイタルも楽しかった~ 

このほか落語の柳家喬太郎、立川談春、講談の神田春陽は安定感。
2025年、社会も個人としても、舞台に浸れる有り難い環境が続くことを切に祈りつつ…

落語「錦の袈裟」「替り目」「ぞろぞろ」「雁風呂」

特撰落語会  2024年10月

安定感抜群のメンバーで、満足度が高い四人会。特にこの日は小遊三さんがチャーミングだったかなあ。杉並公会堂、前の方で4500円。昼夜2回の夜の部で、休憩を挟み2時間強。

前座は市馬門下の柳亭市助で「子ほめ」。はきはきしているけど、集中力続かず。柳家三三が登場したところで復活。余裕たっぷりに、だいぶ前に正蔵さんで聴いた「錦の袈裟」。職人たちが評判をとろうと、質屋の錦の下帯で吉原へ乗り込み、和尚の袈裟を借りて参加した与太郎がもてちゃう話。下品にならない案配が巧い。続いてベテラン三遊亭小遊三77歳で「替り目」。亭主が酔って人力車に乗ったのが自分の家の前、とバカバカしい導入から、女房との他愛ない口喧嘩へ。ベロベロなのに呑ませろ、つまみは食べちゃった、じゃあおでんを買いに行け、江戸っ子は焼き豆腐はヤキ、がんもどきはガンって言うんだ… 酔いどれの可愛げと世話女房ぶり、寄席でさらっと、という肩の力が抜けた風情がいいなあ。

仲入後は柳家花緑で、小さん話やディスレクシア話から、2020年に志の輔らくごで聴いた「ぞろぞろ」。わらじが次々出てくるシュールな発想とめでたさが気持ちいい。トリは桂文珍。見台はなしで、駄洒落や神戸知事の時事ネタと、相変らず程よい皮肉っぽさで笑わせてから「雁風呂」。水戸黄門一行が掛川の茶屋で昼食をとり、見事な屏風絵が土佐派将監光信の筆とみるが、松に鶴でなく雁がねの意味がわからず、居合わせた上方商人と供に絵解きをさせる。函館の「一木(ひとき)の松」と言って、渡り鳥が松の根元に柴を落とし、またくわえて帰る、地元の者が残った柴で供養の風呂を焚き、旅人の疲れを癒やすのだ…との解説で、黄門様が感心して名を問うと、米市を興し町人の分を超えると闕所処分(財産没収)になった豪商・淀屋辰五郎の倅で、柳沢美濃守に貸した三千両を受け取りに行くと… 珍しい知的な噺で、悠々とした語り口が絶妙でした~

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落語「英会話」「夢の酒」「高砂や」「松曳き」

よってたかって秋らくご'24 21世紀スペシャル寄席ONEDAY  2024年9月

秋と言っても残暑厳しいなか、ホール落語で気分転換。手練れ揃いのなか、この日は特に、声のいい白酒さんにパワーがあった。よく入った久々の銀座ブロッサム、やや後ろの上手寄りで4300円。仲入を挟み2時間。

開口一番は三遊亭ぐんまで、ぐんまちゃんステテコとかから「荒茶」。家康方の本多正信が、豊臣方の顔と髭で1㍍の加藤清正、福島正則、池田輝政、浅野幸長、黒田長政、加藤嘉明、細川忠興を茶に招くが、細川以外は心得がなくて… 三遊亭白鳥門下の二つ目で、ゆったりペース。
続いて2年半ぶりの三遊亭萬橘。がちゃがちゃした口調だけど、以前の印象ほど癖は強くないかも。浴衣を着ていて日本人みたいと言われる、自分は人気がなくて観客8人、一之輔と一緒だと800人、神頼みしようと娘と伊勢参りに出かけたら、線状降水帯発生で散々…と、動きたっぷりの愚痴も明るく「英会話」へ。知ったかぶりの父親が子供の英語テストをみてやるが、駄洒落みたいでめちゃくちゃ。相変らずの下から目線ながら、割と古典的なアプローチで軽みがあった。
そして見台を出して、早々に柳家喬太郎。ぐんまは師匠と違って誰が喋ってるかわかる、萬橘はにっぽり館もやって偉くて、なぜ人気が無いのかな、あ、下品だからか、今日は昼も三三、萬橘と一緒、楽屋弁当も一緒だった、歌武蔵兄貴は27歳年下の奥さんもらって元気で、あ、自分も下品だった、などと笑わせて、古典「夢の酒」。若旦那が夢で会う向島の色っぽいご新造の仕草が、さすがの巧さ! 焼き餅を焼く女房・お花の極端な未熟が際だって、可愛げがある。悠々とした感じ、いいなあ。

仲入後は飄々と柳家三三。少しふっくらしたかな? 後半は上品に、とマクラは短めに「高砂や」。2020年にも三三さんで聴いたネタで、安定感。
トリは6月にも聴いた桃月庵白酒。立川流法人化、残る円楽一門はどうするか…と毒をまじえつつのマクラで、下手袖から当の一門の萬橘が顔を出しちゃって爆笑。ネタはお初の「松曳き」。殿様が築山の赤松を移したいと言い出し、家老の三太夫が植木屋を呼ぶ。三太夫へ国元から「姉上死去」の書状が届き、殿様の姉と勘違いし…と筋はシンプルなんだけど、殿様、三太夫がよりによって、ともに大の粗忽者。全編、言い間違い、早とちりの応酬に笑いっぱなしだ。餅は餅屋と植木屋を呼ぶのに「餅屋、餅屋!」とか。ん?いやいや、という呼吸が絶妙でノリがよい。植木屋のなんでも「お~奉る」の早口もさらっと超絶技巧だし、古典を新鮮に聴かせる。高水準でした~

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談春「景清」「妲己のお百」

芸歴40周年記念興行 立川談春独演会これから  2024年7月

毎月、東京2回、大阪1回で24回、決して十八番ではなくその先を目指して、と銘打った独演会シリーズ。珍しい演目をたっぷりと。相変らず幅広い落語好きで、ほぼ満員の有楽町ホールの、やや後方、下手寄りで5000円。仲入を挟んで2時間強。

屏風に座布団の高座に、いきなり師匠が登場。今日は予定の2席が笑いがないので、と言って「お楽しみ」は落語ではなくトーク。投稿しちゃダメ、そこは信頼があるから、と念押ししつつ、出演作の経緯や思惑違いや、役者への尊敬、志ん朝の思い出など。自意識だらけで斜に構えていて、でも細やかで愛嬌が漂う。ますます談志さん色が強まっているような。
いったん引っ込んでから「景清」。眼を患っている木彫り職人・定次郎、腕を見込んでいる旦那が聞けば、赤坂の日朝さま(円通寺)に願を掛けたが、満願の日に隣りでお参りしている女性の髪と白粉のにおいにふらふらとなり、仏罰てきめん、なんで俺を試すんだ、お前の世話になるか、と啖呵を切った、もう按摩になるという。旦那に諦めるなとなだめられて、きっと日朝が廻状まわしていると渋りつつ、今度は上野の観音さま(清水観音堂)に通うが、満願の日も目は開かず、やいカンコウ、と悪態をつく。俺はいいよ、年取ったおふくろが苦労して縞の着物を用意してくれて…というところで、ほろり。すると帰り道で雷にうたれ、目が開く。怖がって先に帰ってしまった旦那を脅かしに行き、お礼参りに徹夜で掘った観音を見せる。いい腕だ、さすが、あたしが目をつけただけのことはある、いや旦那、目をつけたのは観音さまだ。
元は上方落語で、歌舞伎荒事でお馴染み、頼朝襲撃と平家再興に失敗した武将・景清が、源氏の世を見るまいと京・清水寺に両眼を納めた、というエピソードに基づく。けんかっ早い定の造形、絶望や母への思いが、なんとも魅力的だ。

中入り後は夏らしく、講談ものの怪談「妲己のお百」。深川の売れっ子芸者・小さんが門付けする母娘を家にあげると、母はかつて端唄で名を馳せた峰吉だった。峰吉に出養生を世話して、娘およしを預かる。ところが小さん、実はお百という名で悪事を重ねてきた希代の毒婦で、およしを売り飛ばしてしまう。戻った峰吉が日々会いたがるのに閉口して、昔馴染みの小悪党・重兵衛に殺しを依頼。重兵衛は綾瀬に行く途中の土手で峰吉を手にかけ、深川へととって返すものの、駕籠は何故か蔵前に向かったり、千住に行ったり。はて恐ろしき執念じゃなあ。
妲己とは紀元前11世紀・殷王の寵姫で、鳥羽上皇を惑わせた玉藻前はその生まれ変わりとか。お百は18世紀半ばの秋田騒動をモデルにした講談に登場、黙阿弥が歌舞伎にもしている。美人で頭が良くて贅沢で、次々ターゲットを変えながら悪事を繰り返す。さすが迫真の語り、特に殺しをなんとも思わない小さんの造形がくっきり。殺しのシーンなどで照明を落とす演出もあって、ホントに怖かったです!
幕を開け直して、手締めとなりました。

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好二郎「真田小僧」「もう半分」

第五回サモワール落語会 2024年7月

 お馴染みになりつつあるロシア料理店で、今回は落語の会。大好きな三遊亭兼好さんの弟子で、二つ目の33歳。はきはきと聴きやすい好青年だ。

まず「真田小僧」。さん喬さんや談春さんで聴いたことがある前座噺。お小遣いをせしめる子供が、生意気で可愛い。
2席目は夏らしく「もう半分」。数年前に古今亭志ん輔で聴いた怪談だ。うって変わって謎の老人が実にいじましく、忘れ物のお金をせしめてしまった夫婦の子供に乗り移っちゃうところも凄まじくて、めちゃ怖かった~

終演後に各テーブルを回ってくれて懇親。神田伯山の襲名披露で各地に同行し、笛を担当したとか。噺家さんらしくて、期待ですね。
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落語「がまの油」「親子酒」「厩火事」「おせつ徳三郎」

第38回COREDO落語会  2024年6月

久しぶりに山本益博主宰の落語会で、豪華メンバーを楽しむ。満席の日本橋三井ホール、ちょっと見づらい中ほどの上手寄りで5500円。仲入を挟んで2時間強。

いつも通り、まず山本さんが下手に登場して挨拶。のっけから16人抜きの真打昇進から間もない三遊亭わん𠀋が登場。圓丈門下の41歳だ。「がまの油」を、通販番組の要素をまじえて、もはや新作。ハキハキと聴きやすく、楽しみな噺家のひとりだな。
続いて桃月庵白酒。「トリがまだ来ていない」と笑わせ、長めの冴えたマクラから「親子酒」。父、息子が互いに禁酒の約束を破っちゃう。したたかに酔った二人の可愛げが、さすがです。
さらに三遊亭兼好が「トリがまだ来ていない」と畳みかけ、「あんなに長く悪口は話せない」ととぼけつつ、やっぱり長めのマクラから「厩火事」。髪結いをしている女房の、文句を言いつつ遊び人の旦那が好きな感じ、巧いなあ。

仲入を挟んで無事、柳家喬太郎が登場。「おせつ徳三郎 」。以前、正蔵さんで聴いた前半「花見小僧」、後半「刀屋」を通しで。大店の旦那と番頭が丁稚から、娘おせつと手代・徳三郎の馴れ初めとなった花見の様子を聴き出す前半は、滑稽に。後半、暇を出された徳三郎がおせつの祝言に殴り込もうとして、刀屋の主人がこんこんと説教する。結局、逃げ出した二人が大川に身を投げるが「お材木(お題目)」で助かる、というところを、桜のように散っていくサゲに。哀しくも鮮やかでした。

落語「新聞記事」「えーっとここは」「ガマの油」「壺算」「粗忽の釘」

よってたかって新春らくご’24 21世紀スペシャル寄席ONE DAY夜の部  2024年1月

雪は避けられ、先輩ご夫婦をお誘いして、年始恒例の落語会。落語好きが集まった感じの有楽町よみうりホール、2F最前列で4300円。遠かったけど見通しはよく、充実のメンバーで楽しめた。中入りを挟んで約2時間半。

前座は瀧川はち水鯉(はちみり)で「新聞記事」。天ぷら屋の竹さんが襲われた記事をトンチンカンに吹聴して、「犯人はあげられた」。鯉朝さん門下(カツベンの頼光さんも!)で、丸顔ではきはき。
続いて柳家喬太郎は、銀座に有名チェーン店があるのは違和感あるな~と振ってから、案の定の新作で「えーっとここは」。上司と部下が商談帰りにカフェに入り、「前はここ、何だったけ」に始まり、オムライスはトロッか論争などの世代間ギャップで存分に笑わせてから、謎の店主がどんどんサービスしてくれて、店の裏に出たらなんと…と妄想炸裂。昨年のネタおろしからオチが変わっているそうで、相変らず自由でいいな。
続いて春風亭一之輔。正月は寄席があって忙しすぎ、前に出る林家ペーの歌が凄くて、と愚痴っぽいマクラから「ガマの油」。お約束の言い立てで拍手をもらって御礼、この口上を覚えなら他の噺5作は覚えられる、しかも口上の間は笑いが無くてハイリスクローリターン、と笑いをとり、暴走気味に酔っ払って失敗しちゃって… 上手です。

中入りを挟んで三遊亭兼好が朗らかに。お正月に高級ホテルの落語会で出演したら、宿泊客の家族連れが贅沢で、この「よってたかって」ではたいてい中継ぎ、前半ふたりが好き勝手やった後、トリにつなげる役目だなあ、と苦笑しつつ「壺算」。欺される側の、気どって電卓たたきながらアレ?て感じが可愛くて好き。
トリは柳家三三で軽妙な「粗忽の釘」 。飄々と笑わせながら、前3人のネタを自在に拾い、まさかの壺算落ち。いまや貫禄さえ漂います。見事!
皆さん高水準で、超売れっ子で、たいしたものです。

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志の輔「送別会」「モモリン」「しじみ売り」

志の輔らくご in PARCO2024 2024年1月

正月恒例・立川志の輔1ヵ月公演。今年は古稀の節目、しかも北陸・富山出身とあって、例年と比べても思いがこもる。PARCO劇場の後ろの方で7500円。休憩を挟み3時間。

開演前、公演滑り出しなのに「千秋楽です」のアナウンスがあり、登場した師匠が「お客さんにとってはそうだと思って」と解説。まずは能登の被災地へ皆の拍手でエールを送る。
年齢を意識してか、新作「送別会」から。ネタおろしなのかな。定年の日に同期ふたりが、初任給で呑んだ思い出の蕎麦屋へ。シュールな造形ではなく、誰しもうなずく昭和あるある、いかにも神田あたりの蕎麦屋あるあるが軽妙だ。すとんとサゲて、映像は「これ、まだ持っていますか?」。
続いて2014年のパルコ初演でも聴いた「モモリン」。大事な全国中継の日に、人気ゆるキャラ衣装が脱げなくなっちゃった市長。威張った人格とほんわか外見のギャップ、追い詰められ感が生む笑いは、何度聴いても鉄板だ。「ギリギリ当選の」と畳みかけるギャグが冴える。終わって、毎年独演会をしている縁だというくまモンが登場、先ほどの映像で「まだ持っていますよ」という観客に、ハイタッチのサービス。仕草が絶妙に可愛い。

中入り後は舞台を暗くして、古典「しじみ売り」をじっくりと。初めてかと思ったら2010年、正蔵さんで短いバージョンを聴いたことがあった。義賊・鼠小僧次郎吉が手下と呑んでいると、少年が蜆を売りに来る。不憫に思って全部買って川へ放させ、さらにカネを与えようとするが、少年は受け取らない。訳を聞くと、売れっ子芸者だった姉が駆け落ちした旅先で、見知らぬ親分に難儀を救われたはいいが、そのとき貰ったのが御金蔵破りの小判だと見破られて…
凍てつく朝、辛いあかぎれの手、しっかり者の少年の健気さ、粋な親分と人情のぬくもり。師匠は志ん生版と違って、手下の身代わりでなく親分自ら重い決断をさせる。世の非情に憤る一方で、自分の罪にも向き合う。きれいな涙だけで終わらせない深い演出に、ぐっと引き込まれた。江戸情緒の下座が入るものの、ひな祭りとか合唱団とかの派手な演出はなし。語りのパワーで、どこか原点回帰を思わせる高座でした。美術は堀尾幸男。
いつもの三本で締め。千社札シールのお土産付きでした~
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2023年喝采尽くし

2023年は遠出したエンタメが充実しました!
なんといっても11月のボローニャ歌劇場「ノルマ」。ドラマティックな歌唱と演奏、初のびわ湖ホールの素晴らしい景観と、脇園彩さんらが来てくれた懇親会まで、めちゃくちゃ楽しかった。
そして夏の内子座文楽。勘十郎、玉男、和生と人間国宝揃い踏みの鏡割りに始まり、座頭沢市に玉助で「壺坂観音霊験記」。書き割りが倒れちゃったりして、手作りの芝居小屋感も満喫した。
番外編で、反田恭平率いるJapan National Orchestoraの東大寺奉納公演も。大仏前の野外特設会場で、あいにくの土砂降りとなったけど、貴重な経験でした~

伝統芸能では残念ながら国立劇場が閉場となり、掉尾を飾る文楽は極め付け「菅原伝授」。藤太夫が舞台袖から「待てらう」と呼ばわり、偉丈夫・松王丸の玉助が登場して拍手。記念の公演での大役、めでたい限り。
歌舞伎は定番「妹背山婦女庭訓」の後半で菊之助、梅枝、米吉が並び、芝翫が未来への期待を語って感慨深かった。思いがけず隣に劇場の設計・監修に当たったかた(御年93歳!)が座られ、おしゃべりしちゃう思い出も。ほかに4月の歌舞伎座では、毎公演一世一代の感があるニザタマコンビの「切られ与三」を堪能。
落語はコロナ明けを実感した5月浅草の談春「お若伊之助」、小春志真打昇進披露で面倒をみる一之輔「加賀の千代」が印象的だった。講談は日本シリーズにやきもきしつつの春陽「清水次郎長伝」が面白かった。

世界で暗い話題が続くなか、演劇は戦争の大義を問うデイヴィッド・へイグ「My Boy Jack」を上村聡史が演出、重く響く名作だった。前川知大「人魂を届けに」はローンオフェンダーの絶望とそれを受け止める覚悟が鮮烈で、新たな代表作に。新鋭では加藤拓也「いつぞやは」が、亡き友への思いを淡々とスタイリッシュにつづり、橋本淳ら俳優陣も高水準だった。安定のこまつ座、NODA・MAP、阿佐ヶ谷スパイダース、岩松了さん、そして四半世紀ぶり三谷幸喜演出の「笑の大学」も。

コンサートは35周年エレカシの、不動のライブハウス感がさすがだった~ もちろんユーミン、ドリカムも満喫。
いろいろ先の見えない2024年だけど、どうかひとつでも多く、ワクワクの舞台に出会えますように!

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