ミュージカル

レ・ミゼラブル

レ・ミゼラブル ファナルウイーク 2025年2月

この上ないお誘いで、建て替え閉場となる帝国劇場の大定番「レ・ミゼラブル」ファイナルウイークという歴史を画す公演へ。安定の演出はもちろん、歌手が高水準で素晴らしい。東宝ミュージカルの殿堂に別れを惜しむファンが集まった感じの、前の方やや上手寄りで1万9500円。休憩を挟んで3時間強。
カーテンコールでは主人公ジャン・バルジャン役の吉原光夫が「ファイナルでは特別なことをやります!」と呼びかけ、観客が立ち上がり、入口で配られた歌詞カードを手に「 民衆の歌(A la volonté du peuple)」を大合唱。キャノン砲で飛んできたテープには「Another Story Must Begin!」の文字が入っていました~ 指揮は若林裕治。

「レミゼ」は2015年にNYブロードウェイで観て以来、10年ぶり2回目。いわずとしれた美しい旋律を畳みかけて、心揺さぶられっぱなしだ。そして改めて思ったのは、隙間なくテンションが高い演目だということ。
19世紀前半のフランスの群像劇で、登場人物が次から次に、理不尽な差別や貧困を声の限りに訴える。生オケのオペラ形式で、セリフも歌だから、音に切れ目がない。主人公ジャンバルジャンは大詰め、最期を悟りすべてを告白してからは平穏を取り戻すものの、誰ひとり決して思い通りには生きられない。唯一のチャリ場、テナルディエ夫妻(森公美子、六角精児)のシーンも醜い強慾ぶり、そうせざるをえない社会の不条理が前面にでる。
照明は終始暗めで、バリケードなど大がかりな装置も古典的な印象。そこも含めて、40年超のロンドンはじめ、世界中のロングランに耐える骨太さというべきか。日本版は1987年の世界3カ国目・2言語目の上演以来、演出を手直ししつつ、リバイバルを繰り返してきたんですねえ。

この日のキャストでは、お馴染み吉原や森が安定感抜群。ジャベールの長身、石井一彰(東宝ミュージカルアカデミー1期生)、エポニーヌで声にアピール力があるルミーナら、若手も光っていた。ファンテーヌは木下晴香、コゼットは加藤梨里香、マリウスは中桐聖弥、アンジョルラスは小林唯。ガブローシュの小学3年、中井理人も達者です。

入口で観客全員に、帝劇ロゴ入りのミニバックを配布と、大盤振る舞いでした~

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SIX

SIX 来日版 2025年1月

2017年にケンブリッジ大の学生が初演したというミュージカルの、来日キャスト版に足を運んだ。全編、地下アイドルのライブ風で、シンプルなセットにキャッチーな楽曲とキラキラ衣装。しかも初体験のシングアロング回で、会場全体わーわー、ヒューヒュー盛り上がって、休憩無しの80分があっという間だった。オーディエンスは女性が圧倒的、リピーターが多いのか皆さん英語詞をよく覚えていた! トビー・マーロウ&ルーシー・モス脚本。EX THATER ROPPONGIの中段いい席で1万4000円。主催は梅田芸術劇場・フジテレビジョン。

シェイクスピア劇やオペラ、映画でお馴染み、暴君ヘンリー8世の6人の妻たちが、何故か現代のガールズグループを結成。センターを争って悲惨な身の上をアピールするうち、王=パートナーに定義されない、自身の価値に目覚めていく。正調ディズニー節とも言うべきポジティブさ、歴史知識を土台に、そのステレオタイプな理解をちゃかすメッセージ性がある。2022年トニー賞でオリジナル楽曲賞などを受賞。

キャスト6人とバンドだけだけど、テンポよくノンストップで歌って踊り、笑いもたっぷり。歴史的な離婚に怒る「No Way」のキャサリン・オブ・アラゴン役・太っちょミリー・ウィロウズや、マッチングアプリの肖像と違うと拒絶されちゃった「Get Down」のアナ・オブ・クレーヴス役・アフリカ系ハンナ・ヴィクトリア、恋愛遍歴に傷ついてきた「All You Wanna Do」のキャサリン・ハワード役・長身のリジー・エメリーがそれぞれ個性的。
王が贈ったという「グリーン・スリーブス」を織り込んだ「Don't Lose Ur Head」のアン・ブーリン役・エリン・サマーヘイズがキュートで、地味でも変らない愛を歌いあげる「Heart of Stone」のジェーン・シーモア役・リバティ・ストッター、ラストを知的に締める「I Don't Need Your Love」のキャサリン・パー役・イジー・フォームバイ=ジャクソンが、達者なバラードを披露。

「サビを3回も歌ったし」と自慢したり、最後は「あと5分」「あと3分」と持ち時間を気にしながら、それぞれのソロのマッシュアップ「Megasix」を畳みかけたり。ビヨンセらポップアイコンの知識があったら、もっとパロディを楽しめたかな。多様性を意識しているとかで、バンドは女官の設定でした~

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2024年喝采尽くし

いろいろあった2024年。特筆したいのは幸運にも蒸せかえる新宿で、勘三郎やニナガワさんが求め続けたテント芝居「おちょこの傘もつメリー・ポピンズ」(中村勘九郎ら)、そして桜満開の季節に、日本最古の芝居小屋「こんぴら歌舞伎」(市川幸四郎ら)を体験できたこと。「場」全体の魅力という、舞台の原点に触れた気がした。
一方で世界の不穏を背景に、ウクライナとロシア出身の音楽家が力を合わせた新国立劇場オペラ「エフゲニ・オネーギン」のチャレンジに拍手。それぞれの手法で戦争や核の罪をえぐる野田秀樹「正三角形」、岩松了「峠の我が家」、ケラリーノ・サンドラヴィッチ「骨と軽蔑」、上村聡史「白衛軍」が胸に迫った。

歌舞伎は現役黄金コンビ・ニザタマによる歌舞伎座「於染久松」は別格として、急きょ駆けつけた市川團子の「ヤマトタケル」に、團子自身の人間ドラマが重なって圧倒された。その延長線で格好良かったのは、演劇で藤原竜也の「中村仲蔵」。團子同様、仲蔵と藤原の存在が見事にシンクロし、舞台に魅せられた者の宿命をひしひしと。

そのほか演劇では「う蝕」の横山拓也、木ノ下歌舞伎「三人吉三廓初買」の杉原邦生という気鋭のセンスに、次代への期待が膨らんだ。リアルならではの演出としては、白井晃「メディスン」のドラムや、倉持裕「帰れない男」の層になったセットに、心がざわついた。
俳優だと「正三角形」の長澤まさみ、「峠の我が家」の仲野太賀、二階堂ふみ、「う蝕」の坂東龍汰が楽しみかな。

文楽は引き続き、東京での劇場が定まらずに気の毒。でも「阿古屋」で、桐竹勘十郎、吉田玉助、鶴澤寛太郎の顔合わせの三曲がパワーを見せつけたし、ジブリアニメの背景を使った「曾根崎心中」をひっさげて米国公演を成功させて、頼もしいぞ!

音楽では、加藤和彦の足跡を描いた秀逸なドキュメンタリー映画「トノバン」をきっかけに、「黒船来航50周年」と銘打った高中正義のコンサートに足を運べて、感慨深かった。もちろん肩の力が抜けた感じで上質だった久保田利伸や、エルトン・ジョン作曲のミュージカル「ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~」(日本人キャスト)、クラシックでいつもニマニマしちゃう反田恭平&JNO、脇園彩のオールロッシーニのリサイタルも楽しかった~ 

このほか落語の柳家喬太郎、立川談春、講談の神田春陽は安定感。
2025年、社会も個人としても、舞台に浸れる有り難い環境が続くことを切に祈りつつ…

ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~


ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~  2024年8月

2000年のスティーブン・ダルドリー初監督映画を、2005年にエルトン・ジョン作曲でミュージカル化し、ローレンス・オリヴィエ賞、トニー賞を受賞。評判だった2017年初演日本版の、再々演に足を運んだ。期待通りの秀作。
まず子役ビリー、マイケルの堂々たる歌と踊りに大拍手。子供が未来の希望を体現するだけに、大人たちが味わう1984-85年炭鉱ストの挫折、取り残される者の寂しさがくっきりして、胸に迫る。舞台ならではの感興もあり、休憩を挟んで3時間10分がちっとも長くない。子供連れが賑やかな東京建物ブリリアホール(豊島区立芸術劇場)の前のほう、やや上手寄りの良い席で1万5500円。

ボクシングを習うビリー(クワトロキャストでこの日は春山嘉夢一)は、偶然クラシックバレエ教室のウィルキンソン先生(ダブルで安蘭けい)に才能を見いだされ、名門ロイヤルバレエのオーディションを目指す。でもお父さんジャッキー(ダブルで益岡徹)らは大反対で…

まず炭鉱町のマッチョな気風(なにせセリフは博多弁!)と、バレエのミスマッチが素朴に面白い。劇時間は1年にも及んだスト期間と一致していて、1幕の力強いSolidarityでは衝突する労働者、警官たちと、みるみる上達していくビリーのバレエ熱が交錯。石炭業の衰退は米ラストベルトにも似て抗い難いけど、階級社会だけに労働者の誇りは強烈だ。だから2幕でビリーを思い、なけなしの誇りを捨てようとするジャッキーと、カンパする仲間の姿が染みる。争議に敗れたのち、労働者たちが高らかに合唱するOnce We Were Kingsは、レミゼばりの感動です。

そんな1年の間のビリーの成長が、また素晴らしい。オーディション行きを禁じられたときのAngry Danceでは、タップで激情を表現。照明の影の演出も効果をあげる。2幕に至ると、オールダービリー(トリプルで元四季の永野亮比己)とSwan Lake Pas de Deux(マシュー・ボーンオマージュ!)で、夢のようなフライングを見せ、ちぐはぐだったオーディションの最後には、Electricityでなぜ踊るのか、内面の衝動を吐露。やがて亡くなった母への執着も乗り越えていく。健気だなあ。

脇も達者。特にビリーに恋する親友マイケル(クワトロで西山遙都)がコミカルで、いいアクセントだ。自分を解き放つExpressing Yourselfや、ラストでビリーを見送る姿の切ないこと。
ジャッキーの無骨なDeep into The Ground、ウィルキンソン先生のしみじみThe Letterも泣かせる。益岡はさすがの安定感。2021年「蜘蛛女のキス」以来の安蘭も、煙草スパスパで声が野太く、ダメ夫と寂れた町に縛られている哀愁を漂わせて格好良い。ちょっと認知症のおばあちゃんエトナ(ダブルで阿知波悟美)が笑いを誘いつつ、Grandma's Songがたくましくて拍手。スタイルもいいし。兄トニーはダブルの吉田広大。
フィナーレではみなチュチュ姿で登場して、ケッサクでした~

ダルドリーは「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」「めぐりあう時間たち」の監督で、2012年ロンドン五輪開閉会式のプロデューサー。しっかりしているはずです。脚本リー・ホール、振付ピーター・ダール、翻訳は常田景子。帰宅してから、2014年ミュージカル化10周年記念公演(歴代27人のビリーが一挙登場)をビデオでチェックしたら、かなり忠実でした。

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おとこたち

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ ミュージカル「おとこたち」  2023年3月

2014年に観た岩井秀人の佳作を、なんと自らミュージカルに仕立てて演出。歌謡曲やラップなど、耳馴染みのいい音楽は前野健太。失敗だらけの半生、横暴な父の存在など、お馴染み岩井節の身も蓋もない喜悲劇が果たしてミュージカルとして成立するのか、正直疑問だったんだけど、10年近くをへて、リフレイン「いつかは一人ぼっちになるらしい」に実感があり、一層シニカルだ。だからこそ、今回加わった歌とリズム、ふんだんな笑いがいいバランスを醸して、ダメがダメなりに生きていく愛おしさが胸に染みる。
大原櫻子、吉原光夫ら出演陣が粒ぞろいだ。プログラムで岩井がこの2人の2018年の秀作「ファン・ホーム」を観て、半径5メートルのミュージカルを発想したと語っていて、納得しちゃう。布やテープを使った演出も緻密。反応がいいPARCO劇場、前のほう上手寄りで1万1000円。休憩20分を挟んで2時間半。

老人が混濁する意識の中で、学生時代からの友人同士4人の、思い通りにならなかった60年をたどる。エピソードはほぼ初演通りの感じ。ユースケ・サンタマリアが自然体の前説から続けて、ぬるっと芝居に入り、心優しいクレーム対応の山田を切なく演じる。やり手営業マン・鈴木の吉原と、生活力もないのに不倫を続ける森田の橋本さとしが、しょうもない人生を圧巻の歌唱力で歌い上げちゃう。なにしろジャン・バルジャンだもんなあ。そして転落していくアイドル・津川の藤井隆が、鈴木を追い詰めていく息子役も兼ねて、飛び道具的な力量を見せつける。
森田の不倫相手・純子の大原が、期待通りの可憐さで際立つ。ソロ「自転車」の透明感は出色! 思えば初演は安藤聖だったんですねえ。森田の妻・良子の川上友里(はえぎわ)も存在感がある。

円盤が立体的に重なりスロープをなすセットに、雑然と椅子などを散らし、時の流れ、入れ替わり立ち替わりのシーンをうまく見せる(美術は秋山光洋)。ポールにかかる布や斜めのテーブル、また謎のテロップ状のテープが規制線に転じたりして、日常の歪みを表現。後方でミュージシャンの種石幸也、佐山こうたが演奏。 

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夜の女たち

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース ミュージカル「夜の女たち」  2022年9月

芸術監督・長塚圭史が「忘」と銘打ったメインシーズン幕開けに、1948年の溝口健二監督映画をミュージカル化(上演台本・演出)。なぜ溝口?なぜミュージカル?だし、何か結論めいたものがあるわけじゃないんだけど、しぶとい女たちが妙に痛快だ。2019年「桜姫」などでもコンビを組んでた荻野清子の、ジャズ調の音楽のせいか。ホール前の方のいい席で1万円。休憩を挟んで2時間半強。

終戦直後の大阪・釜ヶ崎。夫は戦地から戻らず、困窮のなかで幼子も死なせてしまった房子(江口のりこ)は、闇ブローカー栗山(大東駿介)の秘書兼愛人となるも裏切られ、自ら街娼へと身を落としていく。朝鮮半島からボロボロになって引き揚げてきた妹・夏子(前田敦子)は無軌道なダンサー暮らしで薬物に溺れ、義理の妹・久美子(井原六花)まで、たちの悪い少年・清(前田旺志郎)に欺されて…

千里山の婦人保護寮とか街娼のリンチとか、占領下の貧しさ、踏みつけられっぱなしの女たちは悲惨だし、なんとも古臭い。長塚にとっては南北や三好十郎を取り上げるのと同じ感覚かも(原作はなにしろ田中絹代主演)。
もっとも、あえてミュージカルにしたことでリアルさが薄れ、足を踏み出すしかないという、なけなしのパワーが印象的になった感じ。曲調は力強く、時にコミカルで、「反逆の夜」の5連符やリフレインが耳に残る。

江口は巧いものの、ミュージカルの主役、すべての男に復讐してやるという強烈なキャラにしては、飄々としてたかな。「パンドラの鐘」がよかった前田が期待通り、特徴ある声とすらりとした立ち姿で、はすっぱな存在感を発揮。「海王星(オンライン)」で目立ってた井原も可愛く、動きに切れがある。対する男性陣は引き立て役だけど、大東、前田がともに、なんとも暗くて切ない。北村有起哉は怪しい栗山の右腕と、善良な保護寮院長という対照的な役で舞台を推進する。やはり対照的な娼婦を斡旋しちゃう古着屋と、偽善的な教育婦人をこなす北村岳子が説得力抜群!と思ったら、四季出身なんですね~
セットは抽象的で、傾斜した床の市松模様が美しく、左右の袖にバンドが陣取る。美術は二村周作、バンマスは岸徹至。

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Singin’ in the Rain 雨に唄えば

Singin’ in the Rain 雨に唄えば 2022年2月

1952年ジーン・ケリーの名作映画を、忠実にミュージカル化したロンドン版。3回目の来日だ。1月の中止をへて、なんとか開幕。14トンという土砂降りの雨と、アダム・クーパーによる有名過ぎるタップはもちろん、バックステージものとしても痛快で、文句なしにニコニコしちゃう。
幅広い観客が集まった東急シアターオーブ、前のほう下手寄りで1万5000円。休憩を挟んで3時間半が、ちっとも長くない。作詞作曲は映画版のアーサー・フリード、ナシオ・ハーブ・ブラウン、演出はジョナサン・チャーチ。

1920年代、ドン(クーパー)とリナ(貫禄のジェニー・ゲイナー)は無声映画のスターカップルと思われてるけど、ドンにその気はなく、駆け出し女優のキャシー(シャーロット・グーチが可愛い)と恋に落ちる。トーキー初期、悪声のスターを吹き替えるという苦肉のドタバタが可笑しい。またドンは俳優として実は自信がなく、キャシーの才能を認めて成功を願うところが気持ちいい。

古風なダンスシーン、キラキラ銀幕スターの華やかさ、キャシーの気の強さ、「失敗したらボードヴィルに戻るさ」という相棒コズモ(小太りのロス・マクラーレン)の脳天気さ。明るい心でいれば、雨も歓迎という人生観が舞台に溢れる。
前方5列は水しぶきが飛んでくるので、黄色いポンチョ付きのハッピーレインシートでした~ オンラインでトレーナー5500円を来場者の20%割引で購入。

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2021喝采づくし

マスク着用、かけ声禁止は続くものの、関係者の熱意でステージがかなり復活した2021年。素晴らしい作品に出会えました。

個人的な白眉は、思い切って長野まで遠征しちゃったOfficial髭男dismのコンサート。期待通りの王道ロックバンドらしさに、蜷川さん風に言えば「売れている」者独特の勢いが加わって、ピュアな高揚感を満喫! 私はやっぱり配信よりライブだなあ、と実感。対照的に、名曲を誠実に、余裕たっぷりに聴かせる桑田佳祐コンサートも気持ちよかった。

並んで特筆すべきは、野田秀樹「フェイクスピア」かな。仮想体験の浅薄を撃つパワー溢れるメッセージが、高橋一生の抜群の説得力、そして演劇ならではの意表を突く身体表現を伴って、ストレートに胸に迫った。演劇ではほかにも、ケラさんの不条理劇「砂の女」が、まさに観ていて息が詰まっちゃう希有な体験だったし、栗山民也「母と暮らせば」は富田靖子演じる母に、問答無用で泣いた~ 岩松了さん「いのち知らず」、上村聡史「斬られの仙太」、渡辺謙の「ピサロ」…も記憶に残る。

古典に目を転じると吉右衛門、小三治の訃報という喪失感は大きい。けれど、だからこそ、今観るべき名演がたくさん。なかでも仁左衛門・玉三郎は語り継がれる話題作「桜姫」2カ月通しの衰えを見せない色気もさることながら、「土手のお六・鬼門の喜兵衛」をたっぷり演じた直後の一転、他愛ない「神田祭」の呼吸に目を見張った。
落語は喬太郎の、トスカに先立つ圓朝作「錦の舞衣」、さん喬渾身の長講「塩原多助一代記」で、ともに語りの高みを堪能。まさかの権太楼・さん喬リレー「文七元結」がご馳走でしたね~
文楽界はめでたくも勘十郎がついに人間国宝に! 与兵衛が格好よかった「引窓」は、私としては勘十郎さん仲良しの吉右衛門ゆかりのイメージがある演目で、今となっては二重に感慨深い。玉助さんが松王丸、師直でスケールの大きさを見せつけ、ますます楽しみ。

オペラ、ミュージカルは依然として来日が少ないので、物足りなさが否めない。それでも新国立劇場のオペラ「カルメン」「マイスタージンガー」は日本人キャストも高水準、演出にも工夫があって充実してた。ミュージカル「パレード」の舞台を埋め尽くす紙吹雪も鮮烈でしたね。
2022年、引き続きいい舞台を楽しんで、心豊かに過ごしたいです!

 

蜘蛛女のキス

蜘蛛女のキス  2021年11月

アルゼンチン作家マヌエル・プイグの原作を「キャバレー」「シカゴ」のジョン・カンダー&フレッド・エブがミュージカル化。トニー賞受賞の1992年版で、劇団チョコレートケーキの日澤雄介としてはミュージカル初演出だ。人間性の抑圧、マイノリティーの葛藤、そして命を賭した選択という複雑なテーマを、キッチュかつきらびやかに描く濃厚な演目。それだけに、もうちょっと俳優陣に怪しさが欲しかったかな~
東京芸術劇場プレイハウス、バルコニー上手で1万3500円。休憩を挟んで3時間。企画制作ホリプロ。

ファシズム下、拷問が横行する南米の牢獄。ゲイのモリーナ(石丸幹二)は政治犯バレンティン(村井良大)と同室になり、憧れのハリウッド映画と大女優オーロラ(元宝塚の安蘭けい)を熱く語る。何もかも対照的な2人だけど、次第に心が通いあう。しかし所長(鶴見辰吾、木場勝己の代役)は病気の母親(香寿たつき)を材料にモリーナに圧力をかけ、恋人マルタ(小南満佑子)へのバレンティンの伝言を教えるよう迫り…

嫌な臭いがしそうな牢獄の暗さと、オーロラ登場シーンのラテンなキラキラ感、このギャップが凄い。オーロラとは過酷な現実をしばし忘れさせる、なけなしの救いであり、残酷なモルヒネがもたらす混濁であり、また演じた「蜘蛛女」が死を、すなわち悲劇の行き着く先を象徴する。壮絶です。
二村周作の美術、佐々木真喜子の照明で陰影もくっきり。村井と小南の歌唱が伸び伸びしてた。演劇だったら佐々木蔵之介とかで観てみたいかも。

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パリのアメリカ人

松竹ブロードウェイシネマ「パリのアメリカ人」 2021年10月

番外編で2015年NYで観たミュージカル「An American in Paris」の映画化を鑑賞。本物のバレエダンサーならではの、重力を感じさせない流麗なダンスと、お洒落な美術が素晴らしくて、来日を心待ちにしてたけど、スクリーンでも十分楽しめた! 東劇で3000円、休憩無しの2時間。

懐かしいブロードウェイ・プロダクションによる、2018年のLDNウェストエンド公演(Dominion Theatre)を撮影したもの。NY観劇時と同じ、主人公ジェリー・マリガン役のロバート・フェアチャイルド、リズ役のリャーン・コープの2人が、ジョージ・ガーシュウィンの名曲にのって自在に歌い、踊るのが、まず感激だ。これだけのレベルのキャストは、なかなかいないかもと再認識。
ほかの主要キャストはLDN版で、恋敵アンリ・ボーレル役のハイドゥン・オークリーが堂々とミュージカルらしく、またパトロン、マイロ・ダヴェンポートのゾーイ・レイニーにすらっとして色気がある。友人のピアニスト、アダム・ホックバーグのデイヴィッド・シードン=ヤングは達者な演技派ぶり。

華麗な演出・振付はクリストファー・ウィールドン。NY観劇時の席は見切れ気味だったので、ディズニー版「アラジン」等のボブ・クローリーによるスタイリッシュな美術・衣装を、大スクリーンで存分に楽しめたのが収穫だ。舞台中央にぽつんと置いたピアノから始まり、解放を象徴する巨大なフランス国旗、プロジェクションマッピングを駆使して流れるように転換する洒落たパリの街並み、そして忘れがたい俯瞰で表現する川岸、などなど。アンリの空想で展開するキラキラ豪華ショーとか、終盤、圧巻の長尺ダンスシーンを彩る現代美術風のセットは、スケールが大きくて美しい。

さらに字幕のおかげで、ラ・ボエーム風王道ラブストーリーというだけでない、戯曲の深みも味わった(台本クレイグ・ルーカス)。アメリカ人のジェリーとアダムはパリを解放した側であり、解放された側、すなわち暮らしを蹂躙されながらレジスタンスを支援してきたアンリたちの苦衷をわかっていない。そのジェリーとアダムも、心身に従軍の傷を負っている… アダムがアンリに「リズの気持ちはわかってるんだろ」と諭すところや、マイロが身をひいてリズを励ますシーンに、しみじみ哀愁が漂う。
帰ってアマゾンプライムで、1951年の映画版「巴里のアメリカ人」(ヴィンセント・エミリ監督、ジーン・ケリー主演)を復習。映画版と比べても舞台版は、現代アメリカを意識していて深かったのね。ちょっとシニカルなマイロとアダムが、フランス気質をからかうような台詞が、客席によく受けていて、そのへんはロンドンらしかったのかな。

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