オペラ

エレクトラ

エレクトラ  2026年7月

またすごい舞台に出会ってしまった。新国立劇場オペラの2025-26シーズン、ラストを飾るリヒャルト・シュトラウスの1909年初演作を新制作で。休憩無し1時間45分とコンパクトだけど、大編成のオケが不協和音の「エレクトラ和音」を含め、うねるように鳴り続いて演劇的。そんなオケを、タイトロールのアイレ・アッソーニ(エストニア出身のドラマティックソプラノ)はじめ女声3人が大迫力で圧倒して、聴衆に迫る。さらにヨハネス・エラートの演出が、全編エレクトラの悪夢をシュールに描く。参りました~ 芸術監督の大野和士指揮、東フィル。オペラハウスの中段S席、プログラムと解説会込みで3万2000円。

なにしろほぼ出ずっぱりのアッソーニが、前衛的な母クリテムネストラとの対決、スポットライトの中で感動が際立つ弟オレストとの再会、そしてラスト陶酔の「歓喜の踊り」まで、突出した声量、驚きの集中力で悠々と舞台を牽引。この難役を歌うのはなんと50回目だったとか。妹クリンテミス役のヘドヴィグ・ハウゲルド(ノルウェーのソプラノ)も負けない声量、かつ叙情的な独白などを可憐に。母クリテムネストラは日本を代表するメゾ藤村実穂子が、登場の「行列の動機」「宝石の動機」など広い音域で繊細な表現力を発揮する。新国では22年ぶりと上演機会が少ないのは、これを歌える歌手が少ないせいとか。なるほど。
弟オレストはエギルス・シリンス(ラトヴィアのバスバリトン)が安定。日本人キャストも第一線の主役級が揃い、母の愛人エギストは工藤和真(テノール)、エギストの養育者に斉木健詞(バス)、下僕に河野鉄平(バスバリトン)ら。 

物語はお馴染みのギリシャ悲劇だ。横暴な父王アガメムンンを殺した母への復讐というドロドロで、2017年に鵜山仁演出、高畑充希主演の演劇を観たときは、ちょっと苦手に感じたけれど、どうしてどうして。今回は紗幕を巧みに使ったエラートの演出で、あくまでエレクトラの目に映っている現実、その心象風景が鮮やかに現出する。サロメ同様、未熟でエキセントリックなヒロインの心理にフォーカスしていて引き込まれる。一方で説明は抑制し、弟や母、エレクトラ自身の生死さえ判然としないほど。エラートはバイオリニスト出身だからか、音楽との連携も巧み。
冒頭から後方の壁で、巨大なロングコートに帽子のシルエットがばたんと倒れ、死してなおすべてを支配するアガメムノンの存在感が強烈。オレストが復讐に向かうときはアガメムノンと同じ服装だし。だからこそエレクトラが幽閉された部屋が妙に可愛く、縫いぐるみやブランコ、古い公衆電話がゴタゴタ並んで、無垢な子供時代に閉じこもっている様子が切ない。ずっと舞台上にいて、見守るピエロや侍女たち。歌手の皆さんも大変です。母クリテムネストラが衣装を変え、業の深さをさらけ出す感じも巧い。大野さんはフランクフルト歌劇場でエラートと組んだことがあるんですねえ。


懇親会にはアッソーニさんらキャスト、そして大野マエストロもちょこっといらして、盛り上がりました!
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ウェルテル

ウェルテル  2026年5月

新国立劇場2025-26シーズン第3作は、ジュール・マスネのフランス文芸オペラ「ウェルテル」。ロッシーニのイメージが強い脇園彩(メゾ)のシャルロット挑戦を見届ける思い。抑制に抑制を重ねつつ、3幕「手紙の歌」の恋のときめき、「涙が出るままに」の輝きへと至って見事だ。妹ソフィーのライジングスター、砂田愛梨(ソプラノ)が好対照のはつらつとした造形で頼もしい。
ウクライナ出身のアンドリー・ユルケヴィチの指揮も歌手、東フィルとかみ合ってドラマチック。前の方のいい席、解説会とプログラム込みで2万8000円、休憩2回で3時間強。

演目は2014年にMETライブビューイングのカウフマンで観て以来(いま思えばソフィーがオロペサ!)。第1幕の間奏曲「月の光」など旋律の美しさはもちろん、ブームだったというケルト吟遊詩人オシアンを引用したり、冒頭の夏からクリスマスへ子供たちの賛美歌が悲劇を暗示したり、知的で凝っている。
今回、悩めるタイトロールはNY出身で長身のリリックテノール、チャールズ・カストロノーヴォが初役で。カマレナやグリゴーロのリサイタルでも聴いた3幕「オシアンの歌(春風よ、何故私を目覚めさせるのか)」など、期待を裏切らず拍手。夫アルベールの須藤慎吾(バリトン)が格好良く締める。2幕「乾杯の歌」などの明るいジョアンとシュミットは駒田敏章(バリトン)、村上公太(テノール)。

3度目の再演となるパリ出身ニコラ・ジョエルの演出は、古典的で落ち着いたもの。背景の豊かな緑と湖、高台の眺望の映像が心地良い。
開幕前に恒例、加藤浩子さんの解説を伺う。1892年初演の本作にはオケの存在感などでワーグナー「トリスタンとイゾルデ」(1865年)の影響が強いとともに、ドビュッシー「ペレアスとメリザンド」(1902年)につながっていく心理ドラマでもあると。なるほど~ そして懇親会では須藤さんがピストルを渡すところの心理の掘り下げを、またイタリア人夫君といらした砂田さんがチャンスに備える意欲を聞かせてくれて、またまた大満足でした~
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ドン・ジョバンニ

ドン・ジョバンニ  2026年4月

東京文化会館の長期休館前ラストとなるオペラ公演、しかも指揮はリッカルド・ムーティ84歳、18年越しの日本における「ダ・ポンテ3部作」完結とあって、奮発してオペラを楽しむ。ほぼイタリア人で固めた歌手陣は、突出した人はいないけれど、バランスがよくて高水準。娘キアラ・ムーティ演出、トリノ王立歌劇場とパレルモ・マッシモ劇場の共同制作のプロダクションもお洒落だ。N響の長原幸太率いる東京春祭オーケストラ、珍しくオケピに入っている東京オペラシンガーズがまずまず健闘。現役閣僚!や財界人ら、よくはいった大ホール、見やすい上手寄りA席で4万6000円。30分の休憩を挟んで3時間半。

タイトロールのルカ・ミケレッティ(バリトン)は1幕「酒でみんな酔いつぶれるまで(シャンパンの歌)」など音色が幅広く、身勝手な自由人らしく演技も自在。貴婦人風ドンナ・アンナのマリア・グラツィア・スキアーヴォ(ソプラノ)が2幕「ひどい人ですって?」など繊細な声で魅了し、婚約者ドン・オッターヴィオのジョヴァンニ・サラ(テノール)も「恋人を慰めて」など、なかなかの技巧を披露していた。ベルエポック風ドンナ・エルヴィーラのマリアンジェラ・シチリア(ソプラノ)をまじえた1幕「気の毒な方よ、信用してはいけません」など、「古典派」たるモーツアルトらしい重唱が美しい。
従者レポレッロ はアレッサンドロ・ルオンゴ(バリトン)、はすっぱな1950年代風ツェルリーナは声が太めのフランチェスカ・ディ・サウロ(メゾ)、婚約者マゼットはひとりクロアチア人のレオン・コーシャヴィッチ(バリトン)、運命を握る騎士長はヴィットリオ・デ・カンポ(バス)。

ムーティ様はここぞという箇所では立ち上がり、「ロマン派」的な大詰め地獄落ちを存分に鳴らす。合唱含めすべてを掌握している印象で、2幕のジョバンニのセレナーデ「おいで窓辺に」では客席を振り返り、拍手にさえキューを出して驚く。マエストロがレチタティーヴォを重視するだけに、フォルテピアノはイタリア公演も担当したというアレッサンドロ・ベニーニで安定。

セットはシンプルで照明暗めだけど、崩れた宮殿の設定とのことで、怖いくらいのスロープ、しかも回り舞台でダイナミック。ジョバンニだけは欲望のままの意志ある人間だけど、それ以外の人物は操られているに過ぎないということか、下着姿のマリオネットで、上から吊された衣装を身につけて動き出し、ラストの六重唱「悪人の最後はこのとおり」で下着に戻っちゃう。マイムが20人いて、レポレッロの身も蓋もない「奥様、これが目録です(カタログの歌)」で多様な外見の女性12人が色気を振りまいたり、墓地の騎士長も重厚な石像ではなく吊された人形だったりも面白かった。

主催は日本舞台芸術振興会、東京・春・音楽祭実行委員会、日本経済新聞社。聴衆の顔ぶれが華やかなだけにロビーに活気があり、オペラ仲間とも遭遇。思えば東京文化会館では、リアルの迫力に驚嘆した2008年ムーティ×フリットリ「コシ」、2010年のパッパーノ×ネトレプコ「マノン」はじめ、ゲルギエフや小澤征爾、ノセダ、歌手ではグリゴーロ、ステファン・グールド、グルベローヴァ、フリットリ、パーペ…とたくさん堪能しました。さあ、また3年後に!

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フィガロの結婚

Bunkamura Produce2026 モーツァルト・オペラ「フィガロの結婚」 2026年2月

加藤浩子さん主催の大盛況の鑑賞会で、昨年に続き鈴木優人&バッハ・コレギウム・ジャパンのオペラへ。満載のヒットメロディーとテンポのいい指揮、ピリオド楽器の響きはもちろん、歌唱・演技が揃った色気ある歌手陣、洒落た演出・美術も素晴らしく、軽快で人間くさくいモーツアルトを堪能する。休憩を挟んで3時間半強がちっとも長くない、贅沢な時間でした~ めぐろパーシモンホール大ホールの2F中央で2万9000円。

タイトロールの大西宇宙(バリトン)が大活躍。意外にも初役とか。豊かな声と茶目っ気、「寝とられ男の象徴」だというホルンとの掛け合いもコミカル。世界に羽ばたいてほしい! 利発でコケットリーなスザンナのジュディト・ファー(フランスのソプラノ)、堂々たる伯爵のダイエル・グートマン(オーストリア出身のバリトン)、自然児ケルビーノのオリヴィア・フェアミューレン(オランダ出身のメゾ)も、それぞれ再現部を自在に装飾して生き生きと。
伯爵夫人の森麻季(ソプラノ)が軽やかで切ない。2幕で時間がとまるような「愛の神様」、大詰めの赦しが感動的な「どこへ行ったのかしら」を歌いあげ、この気品と陰影が「ばらの騎士」につながるという事前解説に納得。2027年はオペラデビュー30周年なんですねえ。今回はフルバージョンとのことで、カットされることが多い4幕「雄山羊と雌山羊は仲がいい」でマルチェリーナの藤井麻美(メゾ)が、「まだ理性はそれほどに」でバジーリオ(弁護士)の新堂由暁(テノール)が、明るくなった客席を巻き込んで個性を発揮。
それぞれのキャラがはまっているから、てんやわんやの2幕フィナーレ、二重唱から七重唱に至る20分ものアンサンブルとかが生きるんだなあ。

古典劇「三単一」法則にのっとった密度濃いコメディを、ニューヨーク出身、飯塚励生が演出。設定を現代のホテルにし、回り舞台でドタバタを見せて秀逸。カーテンコールの拍手も大きかった。美術はなんと大建築家・隈研吾!(そういえば昨年は文楽でお見かけしたばかりの杉本博司だった)独特のシンプルな木組みが端正で、デザイナー丸山敬太によるピンクを基調にしたパステルカラーの衣装も映えていた。

事前に「ふと心が揺れる瞬間をとらえているところが個性的」といった解説を伺い、ホワイエには鈴木雅明パパ、園田隆一郎さん、財界人の姿も。終演後の交流会は優人マエストロ、大西さん、藤井さん、バルトロ氷見健一郎さん、新堂さんがチラリと顔を出してくれて、大いに盛り上がりました!

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2025年喝采づくし

2025年も素晴らしいライブパフォーマンスにたくさん出会えました。
なかでも頭抜けて凄いものを観た!聴いた!と圧倒されたのは、期せずして対照的なふたつ。クラシックの20代ふたり、クラウス・マケラ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団+アレクサンドル・カントロフ。そして御年81歳、「菅原伝授手習鑑」の15代目片岡仁左衛門による菅丞相。いや~、圧巻でした。

ジャンル別の演劇では、重厚なワジディ・ムワワド作・上村聡史演出「みんな鳥になって」の現代性、岩松了のスタイリッシュな「私を探さないで」での河合優実、蓬莱竜太「おどる夫婦」でのダンスが印象的だった。節目にもいろいろ立ち会えて、本公演に区切りをつけたイキウメ「ずれる」、大がかりな仕掛けは集大成としたケラリーノ・サンドロヴィッチ「最後のドン・キホーテ」、郷愁に終わらなかった東京サンシャインボーイズ復活公演「蒙古が襲来」がそれぞれ持ち味を発揮。ミュージカルでは閉場となる帝国劇場の「レ・ミゼラブル」ファイナルウイークも。
これからが楽しみなのは横山拓也「はぐらかしたり、もてなしたり」、加藤拓也「ここが海」。翻訳ものでは熊林弘高演出の古典的喜劇「陽気な幽霊」、サイモン・スティーブンス作・上村聡史演出の不穏過ぎる「スリー・キングダムズ」もよかった。

古典ではなんと言っても歌舞伎が、映画「国宝」で盛り上がって幸福な1年でしたね。ニザ様以外にも大イベント八代目尾上菊五郎・六代目菊之助襲名披露の極付「弁天娘」、南座に遠征した中村壱太郎「お染の五役」、次世代で鷹之資・染五郎の「棒しばり」や尾上右近の「春興鏡獅子」に拍手。中村莟玉、2026年に辰之助襲名を控える尾上左近も目立っていて期待大です。
文楽は人間国宝に加えてめでたく日本芸術院会員となった桐竹勘十郎が碇知盛、玉助が源九郎狐を遣った「義経千本桜」が素晴らしく、歌舞伎、テレビドラマでもフル回転した三谷幸喜の「人形ぎらい」も楽しかった。引き続き1年を通して、浄瑠璃の都一中さんにいろいろ教えて頂きました。
そして落語はさん喬「雪の瀬川」の粋と鮮やかさ、喬太郎「お若伊之助」の語り力。白談春はさすがに還暦目前で肩の力が抜けてきたかな。講談の春陽は落語から移した「御神酒徳利」にチャレンジ。どんどん格好良くなるなあ。

クラシックに目を転じると、オペラで加藤浩子さんのほろ酔いトークイベント立ち上げを手伝った、記念すべき年となりました。関係者の素顔、いろんな裏話を聴くのと並行して、舞台では「セビリアの理髪師」で世界のメゾ脇園彩、「ラ・ボエーム」でルチアーノ・ガンチを堪能。コンサートではマケラのほかにも、83歳リッカルド・ムーティ指揮・東京春祭オーケストラの圧倒的なイタリア魂に引き込まれ、リサイタルでリセット・オロペサ、”キング・オブ・ハイC” ハビエル・カマレナも聴けて満足。

ポップスではずっと聴きたかったファンクのCory Wongが文句なしに楽しく、星野源は奇跡的に6年ぶりツアー、追加公演最終日に行けて感動。貴重なサービス精神満載のサザンオールスターズ、Official髭男ismの爽快なスタジアム、相変わらずノリノリのEARTH WIND&FIRE+NILE RODGERS&CHICも充実していた。
ほかにもいろいろ、とても書き切れません。さあ、2026年も元気に定番、新機軸を楽しむぞ~

オルフェオとエウリディーチェ

オルフェオとエウリディーチェ  2025年12月

2022年の初バロックオペラ体験で、勅使河原三郎演出に感動したグルック。再演を加藤浩子さんの鑑賞会で。登場人物3人、休憩1回で2時間とコンパクトななかに、音とダンスと花の美が詰まっている。今回は園田隆一郎がタクトをとり、より深化した印象。東フィル。新国立劇場オペラハウス、ちょっと前寄り下手側で、解説・プログラム込み2万8000円。

歌手陣は亡き妻エウリディーチェの新星ベネデッタ・トーレ(イタリアのソプラノ)が、一途に夫に呼びかける三幕「なんて残酷な瞬間、ひどい運命」など、ニンフらしく瑞々しくて良い。なんとか妻を冥界から復活させようとするオルフェオは、初演のカストラートからサラ・ミンガルド(イタリアのアルト)になって柔らかく、まとまりがある。現在、真のアルトは数少ないそうで、終幕近い「エウリディーチェを失って」(悲しいけどハ長調)はオケと息が合ってドラマチック。夫婦を救う愛の神アモーレは躍進中の杉山由紀(メゾ)が魅力的に。そういえばソロが女声だけのオペラは初めてかも。
舞台上で黒子に徹する合唱は一幕「エウリディーチェよ、あなたの美しい霊魂が」から賛美歌を思わせる美しさ。1762年初演の本作は啓蒙思想を背景に、装飾的なアリアを抑えてドラマに比重を置いた「改革オペラ」で、オケも大活躍だ。園田さんがSNSで「オケ付きレチタティーヴォが多い。公演前に必ず楽屋で全てのレチタティーヴォを真剣に口ずさんでからピットに向かう」と書いてました。凄いな。

元ネタのギリシャ神話は、現存する世界最古のオペラの題材になったほどポピュラーで、19世紀にはオッフェンバックがパロディ「地獄のオルフェ(天国と地獄)」を書いている。本作では依頼主マリア・テレジアの意をくんでハッピーエンドにアレンジ。のちに娘マリー・アントワネットの招きでパリ版も書いており、二幕の冒頭や「精霊の踊り」など舞曲が多いのはフランス流とのこと。なるほど。
踊りといえば初演同様、アーティスティックコラボレーター佐東利穂子率いるモダンダンスが盤石だ(ダンサーはウクライナ、オーストリア、スペイン出身)。勅使河原演出としては改めて、シーンを表わす花の表現も秀逸で、一幕の墓碑、二幕の暗い地獄の洞窟、その後の白い野原、ドレスの飾りなど溜息が出る。勅使河原さん、再演では珍しくずっと稽古場で演技をつけたそうで、カテコにも登場。キリッとした立ち姿が際だってました。

終演後は園田さんを囲む懇親会へ。10月のイベントに続いて最後まで付き合ってくださり、ますますファンになっちゃう。帰宅後、加藤さんに教わったパリ・オペラ座ピナ・バウシュ演出版を配信でちらっと。歌手とダンサーが文楽よろしく、ふたり1組でそれぞれのキャラクターを表現するのが面白い。もちろん振付、ダンサーは高水準。ヘンゲルブロック指揮。オペラはつくづく贅沢な総合芸術で、いろんな発想が可能。それだけに実現するハードルの高さを思うと、鑑賞できるのは幸せだなあ。
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ラ・ボエーム

ラ・ボエーム  2025年10月

新国立劇場2025/2026シーズンの幕開けは、鉄板プッチーニ。とろけるような美しい旋律で、気持ちよく泣く。明朗テノールのルチアーノ・ガンチ(ローマ出身)はじめ、歌手は粒ぞろいで息もピッタリ。7月にお話を聴いた粟國淳さんのプロダクションも、なんと上演8回目という大定番で、私が観るのは2020年コロナ直前以来。照明の変化などが端正で、わちゃわちゃする若者の微笑ましさと、悲恋のドラマが際立つ。
指揮はイタリアオペラを知り尽くしたと言われるパオロ・オルミがじっくりと。オケは東フィル。オペラハウスの下手中段で、解説会・プログラム込み28000円。1幕ほぼ30分とテンポよく、休憩2回で3時間。

詩人ロドルフォのガンチは期待通り、まさに今が旬。第一声からガツンとハリがあり、甘く輝かしく、コロンとした体型とあいまって、これぞテノールだ。2026年も来日予定がありそうで楽しみ。対するグリゼット(お針子)ミミのマリーナ・コスタ=ジャクソン(ラスベガス出身)はドラマティックな歌声、派手な顔だちで存在感がある。注目のソプラノで、3姉妹みなオペラ歌手とか。親友の画家マルチェッロはマッシモ・カヴァレッティ(ルッカ出身のバリトン)。大柄&髭、安定感抜群で演技もきめ細かい。2013年スカラ座引っ越し公演のファルスタッフで、フォードを演じた人なんですねえ。その恋人ムゼッタの伊藤晴(いとう・はれ、「夢遊病の女」で聴いた藤原歌劇団のソプラノ)も堂々、2幕ははすっぱに弾けて、4幕は優しくしっとり。
哲学者コッリーネは痩身アンドレア・ペレグリーニ(パルマのバス)で、「古い外套よ」が泣けた~ ほかにいずれもバリトンで、音楽家ショナールは駒田敏章、大家ベノアは志村文彦、パトロンの議員アルチンドロは晴雅彦。新国の合唱団と世田谷ジュニア合唱団が2幕に活躍し、指導は冨平恭平。

それにしても1896年初演、19世紀パリの青春物語は不朽の名作だと再確認。貧しくても夢がある若者たちの未熟さ、仲の良さと、別れの悲しみのコントラストにもっていかれる。トランペットが印象的な「カフェ・モミュス」などの動機や、名アリア「冷たい手を」「私の名はミミ」「私が街を歩くと」の旋律がそこここに。
そして演出が曲の魅力を存分に引き出す。イブのカルチェラタンの賑わいでは、粟国さんが「機械仕掛けより味わいがある」と言っていたように人力でセットを移動。アンフェール関門に降りしきる雪は、オケもしんしんと凍えそう。余談だけど後ろの席に初オペラらしい学生たちがいて、1・2幕後は「予想の3倍の長さだ」と音を上げかかっていたのが、ラストには「面白かった」と。よかったよかった。

また今回、事前にグリゼットの解説があり、勉強になった。いわく地方出身で独り暮らしする若い女性労働者全般を指し、やがてキャバレーの踊り子にもなった、1905年初演「メリー・ウィドウ」には貴族の奥方たちがキャバレー「マキシム」でグリゼットに扮して騒ぐシーンがある、その源氏名はドドとかジュジュとか同じ音を重ねる習慣があった、と。それでミミなんだ!と今更ながら納得。プッチーニとほぼ同時代のルノワールは母、妻がお針子で、よくグリゼットを描き、プルーストが「ルノワールの女性たち」と呼んだ、代表作「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」は当時の風俗を描いていて、ボヘミアンやグリゼットが集まる2幕に通じる、とも。なるほどー

カーテンコールではガンチがまさかの動画自撮り! お楽しみ終演後の懇親会は、なんとマエストロと主要キャストが勢揃いで、びっくり。皆さん仲がよさそうで、しゃべって呑んで食べて、めちゃくちゃ楽しかったです~

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セビリアの理髪師

セビリアの理髪師  2025年6月

2023年びわ湖ホール「ノルマ」、2024年のリサイタルが素晴らしかった世界のメゾ脇園彩さん目当てで、加藤浩子さん主催の「セビリアの理髪師」観劇会に参加。ロッシーニの名作(1816年ローマ初演)なのに、意外にもリアル鑑賞は初めての演目だ。伸び伸びした脇園さんはもちろん、超絶技巧満載の大アリアやドタバタ喜劇を堪能する。まさに音の快楽。指揮はベルガモ生まれのコッラード・ロヴァーリス、東フィル。平日午後でも盛況の新国立劇場オペラハウス、前寄りやや下手で28000円(解説会・プログラム代込み)。30分の休憩1回で3時間強。

若き大貴族アルマヴィーヴァ伯爵(米国の小柄な黒人テノール、ローレンス・ブラウンリー)と、後見人バルトロ(イタリアのバリトン、ジュリオ・マストロトータロ)宅で籠の鳥になっているロジーナ(脇園)。ふたりの恋路を助けようと理髪師フィガロ(イタリアのバリトン、ロベルト・カンディア)が活躍する。伯爵は身分を隠して学生リンドーロと名乗っており、しかもバルトロ宅に入り込もうと仕官や音楽教師に変装して大混乱だ。変装はイタリアの伝統的な民衆劇でお決まりの展開で、傲慢な老人(バルトロ)、利発な若い女性(ロジーナ)というキャラも定番、「ロッシーニは歌舞伎」という事前解説に納得。

長身の脇園さんは2幕「激しく燃え上がる恋心=歌の稽古のアリア」など、積極的でチャーミングなロジーナを表現して期待以上だ。バレエダンサーみたいに足を上げちゃう演技まで。ほか歌手はみなさん粒揃いで、カンディアが1幕「俺は街の何でも屋」からノリノリ、早口もこなす。俗物の音楽教師ドン・バジリオのバス妻屋秀和はもちろん安定。ブラウンリーは序盤は抑えめだったけれど、どんどん調子を上げ、2幕大詰めの10分もの大アリア「もう、やめるのだ」で大拍手に。伯爵役がこのアリア(初演のマヌエル・ガルシアの技量を生かしたもの)を歌えるかが上演のポイントとなり、省略しないか問い合わせもあるとのこと。「歌合戦」ロッシーニの醍醐味ですね。
全編の軽快さは、ベルカントを得意とするマエストロ・ロヴァーリスの腕もありそう。白髪・知的なおじさまで、終演後の懇親会ではオケの編成で弦楽器を少なめにしたと。管が際立ってリズミカルだった印象。カーテンコールではクラリネットのアレッサンドロ・ベヴェラリとも握手してました~

原作は1775年初演、ボーマルシェの戯曲で、フランス革命(1789~1799年)前夜、機知と才覚で大貴族を助けるフィガロが人気を博したとか。今回のウイーン生まれヨーゼフ・E・ケップリンガーの演出は2005年制作で、実に6回目の上演。時代を18世紀から、戯曲と同じ革命前ということで1960年代フランコ独裁政権下のスペインに移している。2階建てバルトロ宅のワンセットで、伯爵がちゃっかりもぐり込んでロジーナといちゃつくとか、下世話なシーンが各部屋で同時進行し、照明や家具もカラフルで楽しい。バルトロ家の女中ベルタ(メゾの加納悦子)はなんと娼館経営という設定。

懇親会では搭乗までのわずかな時間に、脇園さんが顔を出してくれ、出演していないバリトン大西宇宙さんも飛び入り友情参加してマエストロと話し込んだりして、盛り上がりました!

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フィデリオ

METライブビューイング2024-25 フィデリオ 2025年4月

久々のMETライブビューイングをオペラ好き仲間の鑑賞会で。シーズン第5作はライブビューイング初登場のベートーヴェン「フィデリオ」だ。2008年に小澤征爾指揮、デボラ・ヴォイド主演のウィーン国立歌劇場の来日で、また2018年に新国立劇場20周年記念公演のカタリーナ・ワーグナーによる衝撃演出で観た、いろいろと印象深い演目。新国は飯守泰次郎指揮、フロレスタンはその後、急死しちゃったステファン・グールドだったなあ。
そして今回、豪華な歌手陣と合唱、ベートーヴェンらしい勧善懲悪と成長のドラマを満喫する。ヘルシンキ出身で現代音楽も得意なスザンナ・マルッキ指揮。東劇の中央あたり、20人以上の団体割引で3200円。休憩を挟んで3時間。

全編がこれぞベートーヴェン、歌手も交響楽の一部という印象で、ロマン派の香り。1幕ラストの合唱「おお、なんという喜び」、そしてフィナーレの大合唱「万歳、この日この時」の高揚感は、20年後の第九の先駆けといえそう。同時に「魔笛」に影響を受けた「教養小説」であり、セリフで進行する軽快な歌芝居でもある。
フランス革命の16年後に初演しており、激動の時代に無実の者の救出という正義のテーマは、切実だったのだろう。これがベートーヴェンの唯一のオペラになったのは、娯楽作品に興味がなかったからとかで、不道徳なものは書けない、「フィガロの結婚」は嫌いと言っていたらしい。英雄的なレオノーレは理想の女性なのかな。

なんといってもお目当てのレオノーレ役、リーゼ・ダーヴィトセン(ノルウェー出身のソプラノ)が期待通りだった。注目のドラマティックソプラノで、身長188㌢、アスリートのような骨格。声量と強さがあり、かつ柔らかくて朗らか。1幕「悪者よ、どこへ急ぐのか~来たれ、希望よ」など高音の輝き、ドスの効いた野太さがいい。なんと双子を妊娠中で、梯子を登ったりしてびっくり。この公演後に産休に入り、復帰後は「トリスタンとイゾルデ」が決まっているとか。
相手役フロレスタンの新星デイヴィッド・バット・フィリップはイギリスのリリック・テノール。2幕、いきなり高音で至難の「おお、ここはなんと暗いのだ!」を聴かせ、繊細さも併せ持つ。リーゼとロンドンの同演目で共演していて、息もぴったり。
リアリストの看守ロッコはお馴染みドレスデン生まれの名バス、ルネ・パーペ。声は衰えたかもしれないけど、墓掘りに迷いを見せる二重唱など、人間味のある演技がさすがだ。悪役ドン・ピツァロのトーマス・コニスチュニー(ポーランド出身のバス・バリトン)も今が全盛期の演技派で、メリハリある美声で1幕「ああ、今こそチャンスだ!」など屈折を表現していた。ほかに若いカップルで瑞々しいイン・ファン、マグヌス・ディートリヒ。

プロダクションは2000年制作、ドイツのユルゲン・フリム(1941-2023)演出版で、メトでは5回目の再演。時代を20世紀前半、フランコ独裁政権時代のスペインにして、ファシズムの恐怖を身近に現出させる。とはいえ読み替えのわかりにくさはなく、舞台を縦横いっぱいに活用し、何層の積み重なる監獄、地下牢への高い梯子がダイナミック。大詰めで監獄の壁が上がって広がる青い空が美しい。

そして印象的だったのは、挨拶した総裁19年目のピーター・ゲルブの静かな怒りと覚悟。政治的な理由での拘束や解放といった本作のテーマについて「、「まさに今の世界が必要としている作品。そういう意味で完璧」と言い切っていた。

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ドン・ジョヴァンニ

鈴木優人&バッハコレギウム・ジャパン「ドン・ジョバンニ」 2025年2月

指揮者・鈴木優人率いるバッハコレギウム・ジャパンを初めて鑑賞。ORCHARD PRODUCEのオーツアルト・オペラシリーズ第2弾で、大定番「ドン・ジョバンニ」のキャッチーな音楽を、客席1200に古楽器オケという、初演時代を思わせる環境で楽しむ。歌手陣が実力十分で華があり、贅沢な杉本博司の美術は端正で満足。めぐろパーシモンホール大ホール、2階前のほう中央で2万5000円。休憩を挟んで3時間半。

ラスト地獄落ちにつながる「18世紀にしては異様に劇的」な序曲と、衝撃的な騎士長殺しでスタート。構成は古典派らしく、主要人物それぞれにキャラクターに合った名アリアがあって盛り上がる。二幕の色っぽい晩餐シーンではお約束「フィガロ」の名曲(初演のプラハ聴衆へのサービス)が流れ、軽妙に笑いを誘う。

歌手ではタイトロールのスター、クリストフ・フィラー(オーストリアのバスバリトン)とレポレッロ平野和(2012年に新国立で同役を聴いたバスバリトン)が、声も演技も表情豊か。コメディセンスも抜群で姿もすらっとしていて、いいコンビだ。主人公を取り巻く3人の女性のひとり、騎士長の娘ドンナ・アンナは人気プリマドンナ森麻季(ソプラノ)で、特に2幕「むごい女ですって」など弱音までを繊細に。美形だし、50代とは思えません。ドン・オターヴィオの山本耕平(テノール)も、張りのある美声で格好良くて、目立っていた。
長身の騎士長ディングル・ヤンデル(英国出身のバスバリトン)はまさに地獄の底から響くようで迫力。バロックで知られるという太っちょカリーナ・ゴーヴァン(カナダ出身のソプラノ)が複雑なドンナ・エルヴィラ役で安定。小悪魔ツェルリーナにコロラトゥーラ・ソプラノ高橋維(ゆい)、その恋人マゼットにアイドルみたいな加耒(かく)徹(バリトン)。なんと平野、ゴーヴァン以外は初役だったそうで、みなさん水準が高いなあ。

2階席でオケがよく見えたのも面白かった。40数人規模で、中央にマエストロと辛川太一のチェンバロ2台。楽器はバルブ機能のピストンが無かったり、テオルポ(洋梨のようなマンドリン)が登場したり。音量が小さめなだけでなく、音程も通常より低いそうです。
事前の解説で、ジョバンニのアリアが心情より行動だということ、悔い改めない設定なのは当時、教会の権威が落ちていたこと、またフランス革命前夜を映して、1幕の宴会シーンでは皆が「自由万歳」と叫び、舞踏会では貴族のメヌエット、市民のコントルダンス、農民のドイツ舞曲が違和感なく同時進行すること…などを聞き、ロマン派へのブリッジという作品の位置づけに納得。

そして杉本によるセットは、法隆寺風エンタシスの柱4本とテーブルぐらいでシンプル。with G.B.Piraneseと銘打ち、モーツアルトと同時代18世紀の画家・建築家ピラネージが、古代ローマの遺跡を再現した細密版画を、巨大画像で背景に使用していてお洒落だった。メインビジュアルは16世紀に天正使節団が歓待されたローマ近郊・ヴィラファルネーゼの階段室を写した杉本作品とかで、時代を超えた日本と西欧の邂逅がテーマとか。
演出は飯塚励生。照影は客電を含めて微妙に変化、ときに歌手が客席バルコニーや通路で歌い、舞踏会でオケがぞろぞろ舞台上に移動するのも面白かった。

開幕前には1954年ザルツブルク音楽祭のフルトヴェングラー指揮を観ながら解説を伺い、終演後の懇親会で歌手の皆さんと交流しました!

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