エレクトラ
エレクトラ 2026年7月
またすごい舞台に出会ってしまった。新国立劇場オペラの2025-26シーズン、ラストを飾るリヒャルト・シュトラウスの1909年初演作を新制作で。休憩無し1時間45分とコンパクトだけど、大編成のオケが不協和音の「エレクトラ和音」を含め、うねるように鳴り続いて演劇的。そんなオケを、タイトロールのアイレ・アッソーニ(エストニア出身のドラマティックソプラノ)はじめ女声3人が大迫力で圧倒して、聴衆に迫る。さらにヨハネス・エラートの演出が、全編エレクトラの悪夢をシュールに描く。参りました~ 芸術監督の大野和士指揮、東フィル。オペラハウスの中段S席、プログラムと解説会込みで3万2000円。
なにしろほぼ出ずっぱりのアッソーニが、前衛的な母クリテムネストラとの対決、スポットライトの中で感動が際立つ弟オレストとの再会、そしてラスト陶酔の「歓喜の踊り」まで、突出した声量、驚きの集中力で悠々と舞台を牽引。この難役を歌うのはなんと50回目だったとか。妹クリンテミス役のヘドヴィグ・ハウゲルド(ノルウェーのソプラノ)も負けない声量、かつ叙情的な独白などを可憐に。母クリテムネストラは日本を代表するメゾ藤村実穂子が、登場の「行列の動機」「宝石の動機」など広い音域で繊細な表現力を発揮する。新国では22年ぶりと上演機会が少ないのは、これを歌える歌手が少ないせいとか。なるほど。
弟オレストはエギルス・シリンス(ラトヴィアのバスバリトン)が安定。日本人キャストも第一線の主役級が揃い、母の愛人エギストは工藤和真(テノール)、エギストの養育者に斉木健詞(バス)、下僕に河野鉄平(バスバリトン)ら。
物語はお馴染みのギリシャ悲劇だ。横暴な父王アガメムンンを殺した母への復讐というドロドロで、2017年に鵜山仁演出、高畑充希主演の演劇を観たときは、ちょっと苦手に感じたけれど、どうしてどうして。今回は紗幕を巧みに使ったエラートの演出で、あくまでエレクトラの目に映っている現実、その心象風景が鮮やかに現出する。サロメ同様、未熟でエキセントリックなヒロインの心理にフォーカスしていて引き込まれる。一方で説明は抑制し、弟や母、エレクトラ自身の生死さえ判然としないほど。エラートはバイオリニスト出身だからか、音楽との連携も巧み。
冒頭から後方の壁で、巨大なロングコートに帽子のシルエットがばたんと倒れ、死してなおすべてを支配するアガメムノンの存在感が強烈。オレストが復讐に向かうときはアガメムノンと同じ服装だし。だからこそエレクトラが幽閉された部屋が妙に可愛く、縫いぐるみやブランコ、古い公衆電話がゴタゴタ並んで、無垢な子供時代に閉じこもっている様子が切ない。ずっと舞台上にいて、見守るピエロや侍女たち。歌手の皆さんも大変です。母クリテムネストラが衣装を変え、業の深さをさらけ出す感じも巧い。大野さんはフランクフルト歌劇場でエラートと組んだことがあるんですねえ。



















