オペラ

スペードの女王

野村グループpresents マリインスキー・オペラ「スペードの女王」  2019年12月

3年ぶりのマリインスキー歌劇場、指揮はもちろん芸術総監督ワレリー・ゲルギエフだ。プーシキン原作の幻想的で屈折した悲劇を、美しいチャイコフスキー節(1890年初演)と確かな歌唱、スタイリッシュな演出で。東京文化会館大ホールの上手ウィングA席で3万6000円。休憩2回で4時間弱。

物語は18世紀末、エカテリーナ2世時代のサンクトペテルブルクを舞台に、士官ゲルマン(ウラディミール・ガルージン)の暗い情熱と破滅を描く。ゲルマンは可憐なリーザ(イリーナ・チュリロワ)が、かねて焦がれていた娘と知って、友人の婚約者なのに激しく言い寄っちゃう。一方で、カード賭博の必勝法「3枚の札」に取り憑かれ、その秘密を聞き出そうとリーザの祖母である伯爵夫人(アンナ・キクナーゼ)を脅し、なんと夫人はショック死! リーザはゲルマンの所業に絶望して運河に身を投げ、ゲルマンも賭けに負けて、夫人の亡霊とリーザに詫びながら息絶える。仮面舞踏会や幕間劇など、爛熟した宮廷文化と、人間の罪深さ、狂気が交錯して複雑だ。

歌手陣はチュリロワ(ソプラノ)が伸びやかで、第2場の女声デュエット「今はもう、夕べの刻」が美しく染みる。長椅子に横たわる姿も色っぽい。キクナーゼ(メゾ)はちょっと異様な存在感だ。老いてとぼとぼ歩きながら、華やかだった若い日々にとらわれていて哀切。期待したガルージン(テノール)は小柄だし、ベテランのせいか滑り出しは省力だったものの、徐々にエンジンをかけ、終幕「俺たちの人生とはなんだ?」などで熟達の表現を聴かせました。
初めて聴く演目で、カード賭博に馴染みがないせいもあり、ちょっと入り込みにくかったけど、アレクセイ・ステパニュク演出は重厚、かつ凝っていて目が離せない。冒頭と幕切れに、カードをもてあそぶ少年が登場して、運命を象徴。薄暗いステージに、荘厳な柱を自在に動かしてシーンを構築したり、白い彫刻たちが動き出しちゃう一方で、生きている人物が凍りついていたりして、現実感のなさが印象付けられる。
ロビーには財界人の姿も多く、オペラ公演らしかったです。

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ドン・パスクワーレ

ドン・パスクワーレ  2019年11月

新国立劇場のオペラは、残念ながら幕開け「エウゲニ・オネーギン」が台風で休演となり、今シーズン初の鑑賞。新国立初登場の演目で、大人っぽいコメディだ。ドニゼッティの甘く気品ある旋律と、一流歌手たちの古風で華麗なベルカントの競演で、明るい気分になりました! 新国初登場、ベルガモ生まれのコッラード・ロヴァーリス指揮、東京フィル。中央あたりのいい席で24300円。休憩を挟んで約2時間半。
ドン・パスクワーレといえば2010年にMETライブビューイングで、ネトレプコのはじけっぷりに大笑いした演目。最近でもダイジェスト映像に名場面として登場してますね。今回のノリーナ、当初予定のダニエル・ドゥ・ニースが降板しちゃったんだけど、代わった「ライジングスター」(大野和士芸術監督)ハスミック・トロシャン(アルメニア生まれのソプラノ)はとてもよかった~ 1幕「騎士はその眼差しに」など、超絶ハイトーンやアジリタなど技巧十分、しかも美形。賢さと快活さが備わってました。
対する男声陣2人は、ベテランで芸達者。タイトロールのロベルト・スカンディウッツィ(イタリアのバス)はお髭など貫禄十分で、滑稽になり過ぎず、医師マラテスタのビアジョ・ピッツーティ(イタリア・サレルモ出身のバリトン)も余裕たっぷり、格好良く仕掛け人を楽しんでいる感じ。大騒ぎの3幕「お嬢さん、そんなに急いでどこへお出かけ」や、早口が軽やかな「静かに、今すぐに」で実力を発揮してました。甥エルネストのマキシム・ミロノフ(ロシアのテノール)はちょっと弱かったけど、あなた任せなこの役には合ってたかな。
お話は伝統的な、身も蓋もないオペラ・ブッファだ。金持ち老人は自分が勧める縁談に見向きもしない甥に意地悪して、主治医(甥の親友)の妹(実は甥の恋人)との年の差婚に浮かれちゃう。これがとんだ罠で、散々に懲らしめられる。
イタリアの気鋭ステファノ・ヴィツィオーリの演出は、1994年スカラ座初演の名プロダクションとのことで、フランス第一帝政スタイルの衣装など伝統的ながら、シンプルで非常に洗練された印象だ。ドン・パスクワーレ邸は美術品や書物が並ぶ。演目の初演1843年はウィーン体制の崩壊寸前。ローマで台頭したブルジョワジーの、経済力を重んじる生真面目さがにじむ。だからこそタイトロールがただの笑いものにならず、余韻が膨らむんですね。ノリーナが乗り込んでからの混乱シーンでは、宝石、ドレスや台所のご馳走など惜しげなく小道具を散りばめ、使用人たちの動きもふんだんで楽しい。面白かったです!
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オテロ

英国ロイヤル・オペラ 2019日本公演「オテロ」   2019年9月

パッパーノ指揮の引っ越し公演、最終日は巨匠ヴェルディの「オテロ」。繊細と迫力のメリハリ効いたオケ、高水準の歌手陣に、陰影の濃いスタイリッシュな演出があいまって、人間のどうしようもない弱さ、苦悩のドラマをくっきり描く。これぞシェイクスピア本場の演劇性というべきか。なんだか息を詰めて鑑賞する感じの東京文化会館、上手ウィングの最後列でA席3万3800円。休憩を挟み3時間強。
物語は言わずとしれた15世紀キプロス島における、ヴェネツィアの英雄オテロの転落劇。騎手ヤーゴの奸計にはまり、妻デズデモアの不貞を疑って、ついには手にかけちゃう。嫉妬が暴走する心理劇にとどまらず、世界の現状を考えると、差別意識の罪深さ、差別する側、される側双方に引き起こす心の歪みが迫ってきて、痛々しい。

歌手陣はベテラン揃いで、安定感抜群だ。タイトロールのグレゴリー・クンデ(米国出身のテノール)はなんと65歳!ながら、高音に張りがあってリリカル。1幕の甘い愛の2重唱「夜の深い闇に」、怒りを爆発させるヤーゴとの2重唱「神かけて誓う」、大詰めの絶唱「オテロの死」などで舞台を牽引。昨年のローマ歌劇場「マノン」のデ・グリューで聴いた人ですね。対する、気の毒すぎるデスデモナは初来日のフラチュヒ・バセンツ(アルメニアのソプラノ)。美形だし、4幕「アヴェ・マリア」の見事な弱音など、若々しい透明感に引き込まれた。
重要な悪役ヤーゴのジェラルド・フィンリー(モントリオール生まれのバス・バリトン)は、ただ者でない堂々の性格俳優ぶり。2幕「俺は生まれながらの悪魔だ=通称ヤーゴのクレド(信条)」を、不気味にスモークを吐き出す床にころがりつつ熱唱するなど、存在感が半端ない。利用されるカッシオのフレデリック・アンタウン(ケベック生まれのテノール)も、伸びやかな声と長身で目立ってました。
2009年新国立で「トーキョーリング」を観たキース・ウォーナーの演出(17年初演)は、クラシックな衣装ながら、シンプルな幾何学模様のセットに、照明の鮮やかな転換など、細部まで凝りまくり。なにしろ冒頭、あえてパッパーノを拍手で迎えず、いきなりヤーゴが白い仮面(善)を投げ捨て、黒(悪)を選ぶシーンで幕を開けるのだもの。その後も、鏡に異形のオテロを映し出したり、舞台後方にヤーゴをシルエットで不気味に登場させたり、深かった~

カーテンコールは最終日のお約束、オケも全員ステージに登場。キラキラ紙吹雪が舞って、上品な幕切れでした。客席には財界人も大勢。

ファウスト

英国ロイヤル・オペラ2019日本公演「ファウスト」   2019年9月

2015年以来のロイヤル来日は、グノーによる流麗な旋律ながら、人の醜さを突きつけるビターな演目だ。期待のグリゴーロら歌手の存在感を満喫すると同時に、やっぱり就任17年というアントニオ・パッパーノ指揮、オケの安定感が抜群だったかな。財界人が目立つ東京文化会館大ホール、上手寄りウイングの観やすい席で5万2000円。休憩1回を挟み3時間半強。

タイトロールは昨年のリサイタルが楽しかったヴィットリオ・グリゴーロ(イタリアのテノール)。「この清らかな住まい」など、高音が期待通りに軽々と張りがある。加えてよぼよぼから若返るシーン、情熱的な告白など、きびきびと大げさな演技が目を引く。
メフィストフェレスは2008年のウィーン、前回2015年のロイヤルでドン・ジョバンニを聴いたイルデブランド・ダルカンジェロ(イタリアのバリトン)。対照的に、太い声と長身の威圧感、野性的でちょっとコミカルなのがいい。石像のふりしてて動き出しちゃうし。
一瞬でファウストと恋に落ちるものの捨てられ、兄に責められて狂気に至る散々なマルグリートは、初来日のレイチェル・ウィリス=ソレンセン(米国出身のソプラノ)。当初予定のヨンチェヴァが「レパートリーから外した」と降板しちゃったのは残念だったけど、技巧を駆使した「宝石の歌」などで可憐さ、生真面目さを表現。METでフィガロの伯爵夫人を演じてるし、30代だけどデンマーク人と結婚して子供もいるとか。ファウストとの決闘に倒れる兄ヴァランタン、ステファン・デグー(バリトン)も伸びやか。「武器を捨てよう」など合唱も活躍。

演出がクセモノ。手掛けたのはMETの女王3部作などでお馴染み、デイヴィッド・マクヴィカーだ。特に後半、エグいバレエで人間の暗部を見せつける。初演時の1870年代パリという設定で、第2帝政末期の退廃が色濃い。マルグリートはなんと実在したキャバレー「地獄」のウェイトレスで、寂しい裏通りに暮らす。メフィストフェレスの手下たちは妖しい蜘蛛ダンスで、民衆にお札をばらまく「金の子牛の歌」ではキリスト像が倒れちゃうし、カンカンガールと学生が淫らにたわむれる。
ファウストは後悔に苛まれて、こともあろうに薬物に走っちゃうし、ついに錯乱するワルプルギスの夜のバレエは、メフィストフェレスがティアラで女装し、妊婦や傷だらけのヴァランタンも登場して、目をそむけたくなるほどグロテスク。だからこそ、舞台下手にそびえるパイプオルガンの壮麗(スーツ姿の天使がマルグリートを見下ろす)や、幕切れ迫力の3重唱とマルグリートの救済が印象的でした。

カーテンコールは暗い物語から一転、グリゴーロがおおはしゃぎ。もっと幕を上げたそうで、微笑ましかった~

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トゥーランドット

トゥーランドット  2019年7月

新国立劇場オペラのシーズン締めくくりは、2年がかりで初めて東京文化会館と共同制作する「オペラ夏の祭典」。スケール大きく、聴き応え、見応え十分の舞台です。芸術監督の大野和士が指揮し、オケはなんと音楽監督を務めるバルセロナ交響楽団を招聘。2階席前の方で、大掛かりなセットもつぶさに。2万9160円。休憩2回を挟んで約3時間。
歌手は高水準で、タイトロールはワーグナーでお馴染みイレーネ・テオリン(スウェーデン出身のソプラノ)。期待通りの迫力だ。カラフのテオドール・イリンカイ(ルーマニアの若手テノール)も伸び伸びとして、負けてない。そして何といっても、英国を本拠とするリューの中村恵理が、可憐なだけでない芯の強さを好演。アルトゥム皇帝の持木弘ら、日本人キャストもいいバランスだ。
言わずと知れたプッチーニの美しい旋律に対し、演出は刺激的。バルセロナ五輪開幕式を手掛けたアレックス・オリエは、まずステージいっぱいに、モノトーンの巨大なインド階段井戸を組み立てた。民衆が底辺で蠢くなか、天上から姫と皇帝が、巨大宇宙船で上空から降りてくるスペクタクル。支配と抑圧、階層の分断がくっきりする。タタールを追われた王子カラフの、王位への執着も強烈だ。
冒頭ではなぜ姫が残酷になったのか、その根っこのトラウマを見せる。そのうえでラストを通常のおとぎ話から、大胆に読み替え。確かにプッチーニの絶筆を書き足したとあって、リューが犠牲になり、姫が改心しちゃうハッピーエンドだと、ご都合主義は否めない。今回はリューが倒れた後も舞台上に残り、決して改心しない誇り高い姫の、究極のプロテストで幕を閉じる。悲劇なんだけど、納得感はあったかな。
分厚い合唱は、新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部、びわ湖ホール声楽アンサンブル。児童合唱はTOKYO FM少年合唱団。贅沢~

終演後、6倍の確率をかいくぐってバックステージツアーに参加できました。巨大セットの迫力を堪能。テオリン様が各幕の冒頭から、狭い宇宙船で待機しているというのは驚きでした。

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運命の力

英国ロイヤル・オペラ・ハウスシネマシーズン2018/2019 運命の力 2019年5月

初めてロイヤルオペラのライブビューイングを鑑賞。今シーズン随一の話題作、ヴェルディ✕ネトレプコ✕カウフマンという豪華ステージを堪能する。3月初日で、指揮は来日を控える音楽監督アントニオ・パッパーノ。METのようにバックステージインタビューとか臨場感たっぷりの演出はないけれど、幕間にパッパーノがピアノを弾く解説ビデオが挟まったりして、勉強になる。「ヴェルディは信心深かった」とのこと。
いろんな素晴らしい公演が楽しめて、ライブビューイングも進化しているなあ。公園沿いで絶好のロケーションのTOHOシネマズ日比谷、スクリーン1のゆったり革張りのPボックスシートで6000円。休憩2回で4時間20分は、さすがに長いけど。
演目は2015年に新国立劇場で鑑賞。震災で一度中止になったという感慨もあり、華麗という言葉がぴったりの旋律に酔った記憶がある。今回もお馴染みの序曲から、運命を暗示する3連音、切なくうねるバラードなど、キャッチーでスケール大きい旋律が盛りだくさんだ。パッパーノが人物の移り変わる心理を、くっきりと聴かせる。
歌手は役にぴったり。まず圧巻は、初役というレオノーラのネトレプコ! 駆け落ちに失敗、恋人アルヴァーロが誤って父を撃ち殺す悲劇から修道院に隠棲。運命の再会を果たすも、ラストは兄ドン・カルロに討たれちゃう散々なヒロインだ。終盤は白髪交じりになりつつ、柔らかく貫禄ある声で魂の救済を求めるアリアを存分に聴かせます。
アルヴァーロのカウフマンがまた、持ち前の暗さ、悲しさが合って、一段とスケールアップした印象。戦場で、また修道院で、一度は友となったドン・カルロとの決闘に追い込まれ、またしても殺してしまう。レオノーラを抱いてのラストは、まさにドラマチック。一方、復讐にとりつかれたドン・カルロのルドヴィク・テジエも、カウフマンとの声の応酬で白熱。フランス出身、最高峰のヴェルディ・バリトンだそうで、悲劇のキーマンらしいクセのある存在感だ。
脇は2人のイタリア人バスで、修道院長はお馴染みフルラネットで安定。修道士のコルベットは唯一コミカルな演技で変化をつけていた。そして冒頭に殺されちゃう父・侯爵の1940年生まれの大ベテラン、ロバート・ロイドで、大きな拍手を浴びてました。
クリストフ・ロイの演出(オランダ国立劇場と共同制作)は、舞台を18世紀から20世紀前半に置き換えてお洒落、かつわかりやすい。特に序曲で、兄妹の子供時代を加えたのが独創的だ。厳格な父、遊んでばかりの兄、そして可愛い弟の不慮の死が、兄に強い劣等感を植え付けたという解釈で、後の執念深さの伏線になる仕掛け。父の死の映像を繰り返し投影して、レオノーラを追い詰めていく工夫もあった。3幕の戦場以外は、侯爵家や教会を一セットのアレンジで描き、シンプルながら閉塞感が強い。ドイツ出身でローレンス・オリヴィエ賞受賞者、新国立の「イエヌーファ」もシャープだったなあ。

フィレンツェの悲劇/ジャンニ・スキッキ

フィレンツェの悲劇/ジャンニ・スキッキ 2019年4月

新国立劇場は今シーズンから1年おきに上演するというダブルビルの新制作。今回はフィレンツェつながりで、ほぼ同時期の作品ながら対照的な曲調の組み合わせで、変化に富む。珍しい演目だし、日本人キャストも充実していて満足~ 沼尻竜典指揮、東京フィル。休憩を挟んで2時間半とコンパクトです。
古都の町並みを描いた紗幕から、まず1917年初演の「フィレンツェの悲劇」。キャストは3人、一夜の心理劇だ。オスカー・ワイルド原作、世紀末ウィーンで活躍した作曲家とあって、緊迫と退廃が漂う。
なにしろ老商人シモーネ(ロシアのベテラン・バリトン、セルゲイ・レイフェルクス)が旅から戻り、若い妻ビアンカ(齊藤純子、仏ボルドーを拠点とする長身ソプラノ)が浮気相手グイード(ロシアのテノール、ヴゼウォロド・グリヴノフ)といるのに出くわす。激しい猜疑と嫉妬にかられつつ、大公の息子であるグイードにへつらい、高価な衣装を売り込んだり宴に誘ったり。糸紡ぎ部屋に追いやられたビアンカは、隙をみてグイードと甘く愛を語らい、夫殺害をけしかける。ついに男同士が決闘に至り、シモーネが意外にもグイードを絞め殺すと、なんとビアンカは一転、夫にしなだれかかっちゃう。2人で愛を歌うトンデモで幕切れ。
なんといってもオケの聴きごたえが抜群。事前のオペラトークによると「薔薇の騎士」などリヒャルト・シュトラウスの影響を強く受けているそうで、ワーグナーっぽさもあって、分厚くゴージャス。初ツェムリンスキーだったけど、シェーンベルクの師匠、マーラーの奥さんの元カレという重要人物なんですねえ。
歌手は不気味かつパワフルに歌いまくるレイフェルクスに、齊藤さんが負けてなかった。粟國淳演出はルネッサンス期の設定ながら、館が崩れかかった不穏なセットでシャープ。

休憩後はがらりと雰囲気が変わって、プッチーニの1918年メト初演のドタバタ喜劇「ジャンニ・スキッキ」。叙情たっぷりの名アリア「私のお父さん」はお馴染みだけど、オペラとしての上演は貴重な機会です。
フィレンツェの町並みは舞台後方に移動し、巨大で雑然とした書き物机の上で右往左往するキッチュな演出に。登場人物たちの卑小さを際立たせて効果的だ。遺言状が巨大だし。衣装などは1950年代の設定。さすが粟國さん、イタリア育ちのセンスが光る。
お話は大富豪ドナーティの死の直後。集まった親戚たちは追悼そっちのけで遺言状を探し、遺産が全額修道院行きと知って愕然とする。若いリヌッチョ(村上敏明、藤原のテノール)は伯母ツィータ(ドイツ中心に活動するメゾ、寺谷千枝子)にラウレッタ(「ホフマン物語」で聴いたソプラノ、砂川涼子)との結婚を認めさせようと一計を案じ、ラウレッタの父ジャンニ(カルロス・アルバレス、スペイン出身、2012年ウィーンオペラで聴いた世界的バリトン)を頼る。ジャンニは田舎者と馬鹿にされてヘソを曲げるものの、ラウレッタに「結婚できないならベッキオ橋から身を投げる!」と懇願されて悪だくみを承諾(あの美しい旋律がこんな内容だったとは…) 大胆にもドナーティがまだ生きていると装って公証人を騙し、強欲な親戚たちも出し抜いて、まんまと多額の遺産をせしめる。
上演わずか1時間だけど、日本人歌手演じる親戚たちの騒々しい掛け合い、重唱がテンポよく、愉快。そのなかでアルバレスがさすがに渋く、存在感を発揮していい対比だ。「さらばフィレンツェ」など短いアリアも聴かせます。曲調は後年のミュージカルへの影響を見受けられるらしい。
ジャンニは身勝手な悪党だけど、これも若い二人の愛のためと語り、幕切れはあっけらかんと爽やかでした~
前日の演劇と続けて、知人のエコノミストに遭遇。幕間では通路にいた粟國さんに、思わず称賛を送っちゃいました。全席になんとエアウィーヴのクションを導入。工夫してます。
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小澤征爾音楽塾「カルメン」

小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩⅦビゼー:歌劇「カルメン」  2019年3月
春めいた休日、若手による懸命なオケと合唱団を応援しに、小澤塾の千秋楽に足を運んだ。今回は残念ながら、83才となる塾長/音楽監督の小澤さんが、直前に急性気管支炎に倒れて降板しちゃったけれど、リエージュ王立フィル音楽監督のクリスティアン・アルミンクが、全編の指揮を溌剌と。お馴染みオペラ界屈指のヒットパレードと、水準の高い歌手陣、メト首席演出家デイヴィッド・ニースの演出という本格的舞台を楽しむ。東京文化会館大ホール、前の方やや上手寄りで2万5000円。休憩2回で3時間半。
タイトロールの美形サンドラ・ピクス・エディ(メゾ)は演技力が高く、4幕の純白のドレス姿が圧巻。許嫁ミカエラのケイトリン・リンチ(ソプラノ)が抒情豊かで目立っていた。頼りないドン・ホセがはまり役のチャド・シェルトン(テノール)も、尻上がりに高音の輝きを増す。日本人キャストも密輸商人レメンダードの太っちょ大槻孝志(テノール)が存在感を示してた。ほかに闘牛士エスカミーリョはエドワード・パークス(バリトン)、上官ズニガはジェフリー・ベルアン(バス)。
アジア各地から集まったという総勢60人からのオケは、堂々たる演奏ぶり。京都市少年合唱団が可愛いかった。
そして2回めのカーテンコールに小澤さんが登場! ちょっと足元がトボトボしていたけど、満場のスタンディングオベーションで感謝を伝えました~ 来年は「こうもり」だそうです。小澤さん、どうぞお元気で!
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タンホイザー

タンホイザー      2019年2月

ワーグナーの中期作は、序曲「巡礼の合唱」のテーマからいきなりドラマチック。少しくらい眠くたって、音に浸れば幸せになれるのが、この巨匠の凄いところ。歌手、合唱が高水準で、2013年にも観たハンス・ペーター=レーマンの演出も端正。イスラエル出身のベテラン、アッシャー・フィッシュの指揮はちょっとまったりした印象で、ピットいっぱいの東京交響楽団も出だしの管あたりが不安定な気がしたけど、徐々に調子を上げていた。要所要所のクラリネットが印象的。新国立劇場オペラハウス、オケがみえる2階中央の最前列で2万4300円。休憩2回で4時間強。

なんといってもエリーザベトのリエネ・キンチャ(ラトヴィア生まれのソプラノ)が、3幕「祈り」など柔らかい声と気品ある佇まいで舞台を牽引。対するタイトロールのトルステン・ケール(ドイツのヘルデンテノール)は太っちょだけど、大詰めの「ローマ語り」で圧巻の迫力を披露。
対照的に長身細身の親友ヴォルフラム、ローマン・トレーケル(ドイツのバリトン)は抑制がきき、「夕星の歌」の哀愁が際立つ。色気過剰なヴェーヌスのアレクサンドラ・ペーターザマー(ドイツのメゾ)、領主ヘルマンの人気者・妻屋秀和(バス)が安定し、ほかに小柄な牧童の吉原圭子(2017年のジークフリートで小鳥役だったソプラノ)、騎士ピーテロルフの萩原潤(2016年のローエングリンで伝令だったバリトン)が声がよく通って目立ってた。

物語は中世チューリンゲンを舞台に、騎士タンホイザーの彷徨と救済を描く。酔わせる序曲とともに、せり上がる巨大アクリル柱と照明に引き込まれる。続く1幕「バッカナール」のバレエは、背景に投影される映像も印象的。禁断の地ヴェーヌスベルクに「居続け」していたタンホイザーがマリアと叫んだ途端、照明が爽やかなヴァルトブルクに転じ、親友ヴォルフラムのとりなしで宮廷に復帰がかなう。
2幕で両思いの姫エリーザベトと再会するものの、壮大な「入場の合唱」、そしてハープが活躍する歌合戦で、ヴェーヌスを讃えちゃって非難轟々。エリーザベトが命を救うが、ローマへと贖罪の旅に出る羽目に。
3幕は「恩寵の動機」(ドレスデン・アーメン)が厳粛さを盛り上げる。結局、タンホイザーは教皇の許しを得られず、絶望して戻るが、一転、エリーザベトの自己犠牲で救済へと至る。「罪と罰」と違って命は果てちゃうけど。巡礼たちの合唱と、奇跡の杖に集まっていく動きが美しく、宗教を理解してなくても、問答無用で感動が押し寄せる。まさに音楽の力を堪能しました~

ホワイエにはインスタ用のパネルが登場。工夫しているなあ。来シーズンのラインナップが発表になって、バロックとか楽しみです。加藤浩子さんの姿をお見かけしました。

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METライブビューイング「サムソンとデリラ」

METライブビューイング2018-19第2作「サムソンとデリラ」 2018年11月

ネゼ=セガンが音楽監督に就任したシーズン。組曲「動物の謝肉祭(瀕死の白鳥など)」で知られるサン=サーンスの、1877年初演作を聴く。ワーグナーに影響を受けたという重層的なドラマを、エリーナ・ガランチャ(ラトヴィア出身のメゾ)&ロベルト・アラーニャ(イタリアのテノール)の黄金コンビが見事に。特に濃密な2幕が素晴らしい。指揮はイギリスのベテラン、マーク・エルダー。休憩2回を挟み3時間半。東劇で3600円。
お話は旧約聖書「士師記」のガザの英雄サムソンの物語。支配者ペリシテ人に反撃するが、ソレクの谷で美女デリラの誘惑に負け、怪力の秘密を明かしてしまう。捕らわれるものの、捨て身の祈りでペリシテ人とダゴンの神殿を道連れにする。
とにかく美形ガランチャが最強だ。宗教色の強い戯曲を、リアルで命がけの恋愛ドラマにしちゃう。デリラはサムソンを真実愛しており、民族や信仰から奪い返すという解釈。2幕の名アリア「あなたの声に心は開く」が、後半はサムソンも加わってとろけるよう。ハープとクラリネットが美メロだし、妖艶な緑のネグリジェだし。1幕はビヨンセばりに大階段から登場し、3幕でもサムソンへの思いを伺わせる視線の演技に説得力があった。
もちろんアラーニャも安定の二枚目。ヘブライの長老、ディミトリ・ベルセルスキー(ウクライナのバス)が深い声。敵役の大祭司はロラン・ナウリ(フランスのバスバリトン、デセイの旦那さんらしい)で幕間インタビューがお茶目だった。
全体にはスペクタクルの間に緊迫の心理劇が挟まっており、1幕ヘブライ民衆のチャント風合唱から3幕「勝利のバッカナール(酒宴の踊り)」のバレエまで、要素詰め込みすぎ。トニー賞受賞者ダルコ・トレズニヤックの新演出は、エキゾチックなアーチやレース模様の壁、ゴージャスな原色キラキラ衣装で歌手を盛り上げていた。ラストは巨大神を崩すのではなく、強い照明で視界から消す工夫。紗幕の手形がよくわからなかったけど。
案内役はスーザン・グラハムで、ガランチャと「メゾはズボンが多いからね~」と意気投合して面白かった。

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