オペラ

フィデリオ

2017/2018シーズンオペラ 開場20周年記念特別公演 フィデリオ  2018年6月

芸術監督4年の集大成で飯守泰次郎がタクトを振り、ワーグナーのひ孫、バイロイト音楽祭総監督のカタリーナ・ワーグナーが演出した話題の新制作。ラストの衝撃的かつ皮肉などんでん返しに、しばらく聴衆のざわめきがおさまらない、新国立劇場としては異例の展開だ。これがムジークテアター(音楽劇)というものか。
飯守リングを並走しきったステファン・グールド(アメリカのテノール)はじめ、歌手は高水準で、いろんな意味で鮮烈な舞台でした~ オケは東京交響楽団。男性客が目立つ新国立劇場オペラハウス、中央のいい席で2万4300円。休憩1回で3時間弱。
べーとーえ「レオノーレ」序曲第3番
「レオノーレ」序曲第3番
ベートーベン唯一のオペラ「フィデリオ」は、政敵に夫フロレスタン(グールド)を不当投獄された妻レオノーレ(ドイツのソプラノリカルダ・メルベート)が、男装して看守フィデリオと名乗り、決死の救出に向かうという、力強い愛と自由の物語だ。個人的には2008年ウィーン国立歌劇場の来日、小澤征爾指揮で聴き、2幕2場前の壮大な「レオノーレ序曲第三番」に喝采した記憶がある。
ところが今回は、序曲を聴くどころじゃない。なにしろ演奏の間、刑務所長ドン・ピツァロ(新国立初登場の長身のバリトン)が再会を果たした夫妻を刺し、地下牢の入り口をブロックで塞いじゃうシーンが展開するのだもの。やられました~
歌手陣ではなんといってもグールド。2幕で「神よ、ここはなんと暗いのか」を歌い始めると、その朗々ぶりで一気に次元が切り替わる。1幕では歌わないのに、ずっと地下牢にいて、壁にレオノーレの絵を描いていたし。フィデリオに一目惚れするマルツェリーネの石橋栄実(大阪音楽大教授のソプラノ)も、高音がよく響いて存在感たっぷり。看守長ロッコにお馴染み妻屋秀和(バス)、囚人1に片寄純也(二期会のテノール)。
セットはプロセニアム(開口部)いっぱいを使った、2階建て(1部3階建て)の監獄で、さらにセット全体がせり上がって、地下牢が現れる大掛かりなもの。無機質なセメントと青銅に、マルツェリーネの周囲だけが明るい。肖像画にスポットがあたったり、踊るマルツェリーネの人影が地下牢に投影するなど、照明が登場人物の屈託を表現して巧い。光と闇を強調するのは「新バイロイト様式」だそうです。
ドラマトゥルクのダニエル・ウェーバー(バイロイト制作部長)、美術のマルク・レーラーらカタリーナ組なのかな。
入り口前に売店が充実し、ロビーには飯守監督の軌跡をたどるパネル。2014年開幕の大作「パルジファル」、洒落た演出の「イェヌーファ」、フォークトさまの「ローエングリン」… お疲れ様でした! 尾崎元規理事長の姿も。

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METライブビューイング「ルイザ・ミラー」

METライブビューイング2017-18第9作「ルイザ・ミラー」 2018年5月

ヴェルディの割に、馴染みがない演目に足を運んでみた。中期「リゴレット」に先立つ1849年初演とあって、過渡的な作なのか、前半は満艦飾のベルカント、幕切れは浄瑠璃ばりの怒涛の人間ドラマと、てんこ盛り過ぎ。しかしそこはさすがのスター競演で、甘いメロディーとあいまって、聴くものを酔わす贅沢な舞台でした~ 
レヴァイン降板で指揮はフランスのベルトラン・ド・ビリーが手堅く。4月14日の上演。空いている東劇で3600円、休憩2回を挟み3時間半。
ストーリーは割とシンプルな、身分違いの恋の悲劇だ。敬虔な村娘ルイザ(ブルガリアのソプラノ、ソニア・ヨンチェヴァ)がそうと知らず、領主の息子ロドルフォ(ポーランド生まれのテノール、ピョートル・ベチャワ)と相思相愛に。裕福な未亡人(若手メゾのオレシア・ペトロヴァ)との縁組を画策する悪玉領主・ヴァルター伯爵(ロシアの大型バス、アレクサンダー・ヴィノグラドフ)は、ルイザの父ミラー(プラシド・ドミンゴ)を投獄する。
ルイザは伯爵の手下ヴルム(ウクライナ生まれのバスの新星、ディミトリ・ベロセルスキー)に脅されるまま、偽りの手紙をしたため、父の釈放を確かめると、激怒したロドルフォのもった毒をすすんであおっちゃう。その真心を知ったロドルフォは父の悪事を暴露し、ヴォルムを道連れにルイザのあとを追う。
高い技巧と容姿を兼ね備えた恋人ふたりが強力だ。今シーズンの「ノルマ」がよかったヨンチェヴァは、やや暗い個性が、「椿姫」の先駆といわれる犠牲的なヒロインに合う。2幕の名曲「神様、お許しください」などで、輝く高音を披露。ベチャワも苦悩ぶりがはまっており、幕切れのロマンチックなアリア「穏やかな夜」をたっぷりと。悪役の低音2人が人間の弱さ、屈折を表現し、珍しいバス2重唱は圧巻でした。
そしてなんといっても77歳のレジェンド、ドミンゴ。テノールとしてロドルフォを得意としていたけど、今回は堂々、バリトン役に挑戦して観客も大喝采。菊五郎さながらの別格感です。
エライジャ・モシンスキーの鉄板演出は、40年近く前にドミンゴが登板した伝説のプロダクションとか。のどかなチロルの村や、重厚な伯爵邸などが古典的で落ち着いている。案内役は華奢なテノールのA・R・コスタンゾ。ドミンゴへの尊敬があふれてましたね。
若手の起用が目立った今季のライブビューイングは結局、10作中4作を鑑賞しました。来季はネトレプコの「アイーダ」、ヴェストブルック&カウフマンで「西部の娘」、ダムラウ&フローレスで新演出「椿姫」等、大物復帰の印象だ。演目ではガランチャ&アラーニャの「サムソンとデリラ」、ネトレプコがずばり女優役という「アドリアーナ・ルクヴルール」が気になるかなあ。

METライブビューイング「コジ・ファン・トゥッテ」

METライブビューイング2017-18第8作「コジ・ファン・トゥッテ」  2018年5月
2008年にウィーン国立歌劇場の来日公演(ムーティ+フリットリ)で聴いたモーツァルトの恋愛喜劇。デスピーナにミュージカルスターのケリー・オハラ(オクラホマ出身のソプラノ)を迎え、設定を1950年代コニーアイランドに置き換えたイギリス人フェリム・アクダーモットの新演出がなんともキッチュ。
イングリッシュ・ナショナル・オペラとの共同制作
サンタモニカ生まれのデイヴィッド・ロバートソンは古典的な指揮。3月31日上演。イングリッシュ・ナショナル・オペラとの共同制作だそうです。東劇で3600円、休憩1回で3時間半。
恋人を試そうと、男2人が変装して互いのパートナーを口説くという、ありえないシチュエーション。それだけに、蛇使いなどちょっと気味悪い大道芸人らが活躍したり、カラフルなコーヒーカップや気球が躍動したり、カラフルな嘘くささがはまってる。
悪戯を仕掛けるフェルランドに長身で甘い美声のベン・プリス(アメリカのテノール)、グリエルモに野性的で表情豊かなアダム・ペラヘトカ(チェエコのバス・バリトン)、そしてお茶目な妹ドラベッラに色っぽいセレーナ・マルフィ(イタリアのメゾ)と、若手が健闘。堅物の姉フィオルディリージ、ひょろっとしたアマンダ・マジェスキー(シカゴのソプラノ)はやや影が薄かったか。
皮肉な策士ドン・アルフォンソで演技派クリストファー・モルトマン(イギリスのバリトン)、さらにモーテルの清掃係のオハラが加わって、モーツァルト節の多様なアンサンブルが心地よく響く。ダンスも盛りだくさんで、他愛ないハッピーエンドで幕となりました。
イングリッシュ・ナショナル・オペラとの共同制作。
イングリッシュ・ナショナル・オペラとの共同制作。
イングリッシュ・ナショナル・オペラとの共同制作。
案内役はシーズン開幕の「トスカ」がよかったディドナートで、主要キャストや大道芸人、次作に登場するヨンチェヴァにインタビュー。さらにゲルブ総裁が新音楽監督のヤニック・ネゼ=セガンと対談した特典映像も。3月の衝撃的なレヴァイン解雇で繰り上げ就任となったけれど、そんなことには引きずられず、1975年モントリオール生まれの若きマエストロは前向きでした~

ホフマン物語

ホフマン物語  2018年3月

2014年のリヨン歌劇場公演が面白かったオッフェンバック作品を鑑賞。ひたすら心地よく、耽美的な音楽に、演出もスタイリッシュで堪能。芸術家っていうのは、人間としてはダメダメでも愛すべき存在なんだなあ。
指揮はフランス音楽の正統派セバスティアン・ルラン(新国初登場)、東京フィル。日本人キャストが多いせいか、着物の女性や一人客も目立ち、ブラボーがガンガンかかってました。新国立劇場オペラハウス、2階最前列の中央で1万9440円。30分休憩2回で3時間半。

絶望する詩人ホフマンのディミトリー・コルチャック(ロシアの若手テノール)は、野性的で格好いい。徐々に調子を上げて、4幕「僕を魅了するものは」あたりを存分に。悪役4役の大柄トマス・コニエチュニー(ポーランド生まれのバス・バリトン、新国初登場)が、世界的ワーグナー歌手らしく、太い声がよく響いて圧巻。3幕で芸術のために命を落とすアントニアの砂川涼子(藤原歌劇団のソプラノ)も、「雉鳩は逃げた」などが伸びやかで、際立ってた。見た目も可愛いし。
2幕の完璧だけど命をもたないオランピア、安井陽子(17年のジークフリートでも観た二期会のソプラノ)は「人形の歌」で超絶技巧を披露。舞台回しニクラウス/ミューズのレナ・ベルキナ(ウクライナ出身のメゾ、13年フィガロのケルビーノで聴いたベルカントのスター)は3幕「見ろ、震える弓の下で」や、男の鏡像を奪う魔性の娼婦ジュリエッタ、横山恵子(二期会のソプラノ)と3幕で大好きな「舟歌(バルカロール)」を聴かせた。

幻想的な演出はパリ生まれ、フィリップ・アルロー。16年「アンドレア・シェニエ」同様、シンプルながら、傾斜と廻り舞台の階段を多用してダイナミックだ。特に3幕が出色。上方から運命の弦楽器が吊られ、不安がひしひし。アントニアとホフマンの熱愛2重唱「ああ、信じていました」では楽器に代わって花が満ち、不気味な男声3重唱「危険を避けるために」から照明で変化をつけていくのも巧い。再演演出は澤田康子。
1幕の酒場には賑やかにフレンチカンカンが登場。色彩も鮮やかで、2幕の蛍光色の緑は魔酒アブサンを思わせる。4幕は斜めの巨大ゴンドラを背景に、退廃的な酒とギャンブルに興じる人々を赤で表現。天井に映りこむ感じも面白かった。5幕ラストは倒れたホフマンを全員が見守り、「涙によってさらに偉大になる」と大合唱、アポテオーゼ(エーザー版)でした。

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METライブビューイング「トスカ」

METライブビューイング2017-18第4作「トスカ」  2018年2月

王道プッチーニの「トスカ」は、主役のカウフマンが早々に、オポライスが「個人的理由」で降板してしまい、指揮の大御所レヴァインがまさかのセクハラスキャンダルでNG、さらに敵役のブリン・ターフェルも喉の不調でと、主要メンバー総入れ替え、METでも例のない緊急事態。でも結果的には新鮮で、存分にドラマを楽しめる大満足の舞台でした! 公演自体がドラマチックだなあ。指揮はエマニュエル・ヴィヨームで1月27日の上演。新宿ピカデリーで3600円。休憩を挟み3時間。

なんと共にロールデビューというトスカのソニア・ヨンチェヴァ(ブルガリア生まれの花形ソプラノ)、カラヴァドッシのヴィットーリオ・グリゴーロ(イタリアのスターテノール)が、とにかく若々しく、緊張感があっていい。ヨンチェヴァはまっすぐで、まろやかな声。今シーズンのLVに3作も登場し、プログラムの表紙にも起用されてた。日程後半にはネトレプコがキャスティングされてたけれど、もはやヨンチェヴァが看板ということか。
そしてグリゴーロ! 高音にイタリアらしい張りがあって、ビジュアルと熱血演技が華やか。システィーナ礼拝堂聖歌隊にいた13歳のとき、パヴァロッティがカラヴァドッシを務めたローマ歌劇場で羊飼いを歌い、小さなパヴァロッティと呼ばれたそうです。以来27年目で憧れの役を堂々と。ポップスもこなす欲張りさんらしく、楽しみだな~
スカルピアのジェリコ・ルチッチ(セルビアのバリトン)は落ち着いて知的な造形。目つきで細かく演技してた。インタビューの淡々と「役になりきるだけ」という言葉に説得力がある。コミカルな堂守はパトリック・カルフィッツィ(バス・バリトン)。全編甘やかなアリアに加えて、いつになくライトモチーフが効いてた感じ。

新制作のデイヴィッド・マクヴィガー演出がまた格好いい。「女王3部作」同様、歴史を感じさせる重厚で美しいもの。インタビューで美術・衣装のJ・マクファーレンが語ってましたが、ローマで取材し、1800年当時のサン・アンドレア教会、パラッゾ・ファルネーゼ、サン・アンジェロ城を再現。ダイナミックな斜めのセットに、フレスコ画などを贅沢に。ちょっとしか映らない「デ・デウム」合唱隊の衣装に、相当コストをかけているとか。
案内役のイザベル・レナード(メゾ)も美人でスタイルがよかった。面白かったです!

METライブビューイング「ノルマ」

METライブビューイング2017-18第1作「ノルマ」  2017年11月

新シーズン開幕は初見のベッリーニ「ノルマ」。古臭くなりかねないベルカントオペラで、ベタな三角関係ものだけど、歌手、演出ともさすが充実していて、まさにドラマチック。タイトロールのソンドラ・ラドヴァノフスキー(アメリカのソプラノ)の抒情が深く、ネトレプコのオープニングに比べると地味かな~なんて思ってて、反省しました! イタリアのベテラン、カルロ・リッツィ指揮で上演は10月7日。休憩を挟み3時間半、東劇中央あたりで3600円。

物語はカエサルの頃の紀元前1世紀。ガリア(フランス)の気高い巫女ノルマは、支配者ローマ帝国の将軍ポッリオーネ(マルタ島出身のテノール、ジョセフ・カレーヤ)と禁断の恋に落ち、密かに子供までもうけていた。ところがポッリオーネはノルマの若い弟子アダルジーザ(お馴染みアメリカのメゾ、ジョイス・ディドナート)に心を移し、一緒にローマに帰ろうとする。2人の裏切りにノルマは激怒するが、結局は支配者と通じたことをガリアの人々に告白し、子供たちの助命と引き換えに自ら毅然と火刑台へ向かう。

ラドヴァノフスキーはさすがのスケール、きめ細かさだ。カラスの十八番というハードルが高い演目だけど、ゆったりしたアルペジオからの「清らかな女神」などがなめらか。誇りや母の苦悩も存分に聴かせる。なにしろ「ロベルト・デヴェリュー」のエリザベス1世だもんなあ。
対する「マリア・ストゥアルダ」のディドナートも、1幕後半から2幕のノルマとの2重唱で、対立から絆の回復へ至る過程が染み入る。幕間のインタビューでは「同じ旋律を歌っているのに、2人の心理が違うところが魅力」とコメント。相変わらず知的です。歌わない冒頭や幕切れにも舞台上に現れて、ノルマへの献身を示す演出でした。
長身カレーヤは冒頭の「ハイC」など、輝かく高音はもちろん中低音もこなす。つくづく身勝手なダメ男ながら、堂々と武将らしい造形だ。旬のテノールですねえ。この3人でほぼ歌いっぱなしなんだけど、大詰めは荒ぶるガリア民衆の壮大な合唱が加わって、大いに盛り上がる。続く「陽光の音楽」など、最新の楽譜の研究成果で、従来より長いバージョンらしい。ノルマの父オロヴェーゾはイギリスのバス、マシュー・ローズ。

物語はしょうもない愛憎劇と思わせつつ、支配・被支配の関係や民衆の蜂起を抑えるノルマの苦衷、女同士の友情なんかも絡んで、けっこう複雑。初演は1831年。19世紀ロマン派の扉を開いた作品だそうです。
加えて今回は「女王3部作」のデイヴィット・マクヴィカーの演出で、ガリア社会の軸であるドルイド教の自然崇拝が基調になっている。ドルイドとはケルトの祭司だそうで、スコットランド出身のマクヴィカーは幕間で「自分のルーツにもある」と語ってました。
こういう異文化を「遅れた存在」と見てしまうかどうかが、物語のポイントになっている。ノルマ登場の1場は神秘的なオークの森で、2場でダイナミックに舞台全体がせり上がり、木の根に守られたノルマの住居が現れる仕掛け。照明を落とし、黒やグレーを基調にした素朴なセットに、巫女が使う蝋燭や火刑台の炎にインパクトがあった。

案内役はお腹が大きいスザンナ・フィリップス、2月の「ラ・ボエーム」にはぎりぎり間に合うとか。冒頭でお約束のゲルブ総裁も。

神々の黄昏

神々の黄昏  2017年10月

開場20周年の記念イヤーとなる、新国立劇場オペラ2017/2018シーズン。幕開けは、もちろん芸術監督・飯守泰次郎指揮で、ワーグナー「ニーベルングの指環」だ。この新制作シリーズも第3日でついに完結。45分、35分の休憩を挟み6時間もの長尺で、問答無用の壮大かつ甘美な音楽にどっぷり浸る。「英雄」「角笛」「歓呼」「ヴァルハル」「愛による救済」など、次々に耳馴染みの示導動機が響いて、ヒットメドレーの趣きも嬉しい。オペラパレス中段、まさかの最前列真ん中という超贅沢な席で2万4300円。

歌手は安定。特に宿命の女・ブリュンヒルデのペトラ・ラング(ドイツのソプラノ)は、振幅が大きく迫力があった。2016年にウィーン日本公演の「ワルキューレ」、新国立の「ローエングリン」(メゾだった)と、よく聴いた人。愛に生き、陰謀によって裏切られ、毅然と英雄を葬って世界を崩壊させ、そしてラストに再生を示す。この長い物語の主役は、ブリュンヒルデなんだなあと納得しちゃう。
愚かにもブリュンヒルデを裏切る英雄ジークフリート、4作完走のステファン・グールド(アメリカのテノール)は無邪気な造形だ。やや抑えめながら、弱音がしっかり響くあたり、貫禄がある。一回り大きくなったかな? そして指輪=権力を求めて2人を追い詰めるアルベリヒの息子ハーゲン、アルベルト・ペーゼンドルファー(オーストリアのバス)が、屈折を見事に表現。劇的な低音、大柄でスケール感も十分とあって、カーテンコールの拍手が大きかった。得な役ですね。
それとは知らずジークフリートを横取りするギーヒビ家の姫・グートルーネの安藤赴美子(ソプラノ)は、戸惑いが前面に出て、姿も良くて健闘。当主で兄・グンターのアントン・ケレミチェフ(ブルガリアのバリトン)は引き気味か。ブリュンヒルデを諌めに来る戦乙女ヴァルトラウテはヴァルトラウト・マイヤー(ドイツのメゾ)、アルベリヒは小柄な島村武男。

2幕結婚式から登場する合唱は、新国立劇場に二期会が合流。ピットを埋め尽くすオケは、珍しく読売日本交響楽団。初めて聴いたけど、管をはじめとして、ちょっと不安定だったか。
飯守さんが選んだゲッツ・フリードリヒの演出は4作を通じ、あくまで音が主役のシンプルさを貫いた。照明を落とし、青く光る管の水面や、LEDの炎、背景の巨大な円盤に映し出される空などが美しい。ギービヒ家に点在する丸いレンズで、歌手の顔を拡大する仕掛けが、暗く膨らんだ自我を思わせ知的でした。
運営財団の著名財界人、元外交官らがいらしてました~

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バイエルン「少年の不思議な角笛」「ワルキューレ」

第15回記念NHK音楽祭2017 バイエルン国立管弦楽団  2017年10月

ワーグナーのお膝元バイエルン国立管弦楽団を引き連れ、音楽総監督キリル・ペトレンコが初来日。1972年ロシア生まれ、2019年からベルリン・フィルの首席指揮者就任が決まっている。しかも美声のクラウス・フロリアン・フォークト(ドイツのテノール)が登場し、圧巻のドラマを満喫した。
この座組のオペラ公演はなんと平日昼間だったため、なんとか1日限りのコンサートに駆けつけた次第。おひとり様ワグネリアンが目立つNHKホール、1F後ろのほうA席で2万円。休憩を挟んで3時間弱。

まずマティアス・ゲルネ(ドイツのバリトン)が登場し、マーラーの歌曲集「少年の不思議な角笛」から7曲を。軽妙な恋の歌などをへて、少年鼓手の死に至る。打楽器が活躍。
休憩後、いよいよワーグナー楽劇「ワルキューレ」第1幕。ピュアなジークムントにフォークト、双子の妹ながら運命の恋に落ちる情熱的なジークリンデに、エレーナ・パンクラトヴァ(堂々たるロシアのソプラノ)。それぞれの身の上話(クドキですね)をしっかり聴かせ、幕切れの愛の2重唱へと、ぐんぐん盛り上がる。夫フンディングのゲオルク・ツェッペンフェルト(ドイツのバス)もドレスデン国立歌劇場の宮廷歌手とあって、豊かな表現だ。
小柄なペトレンコは激しいアクションで、きめ細かく起伏を表現。演奏会形式だけに演出に気を取られず、声の魅力を存分に楽しめて、贅沢な時間でした~
ホワイエでは知人のエコノミストらに遭遇。

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トスカ

パレルモ・マッシモ劇場「トスカ」  2017年6月

2010年ロイヤルオペラ来日の際には、キャンセルになったアンジェラ・ゲオルギュー(ルーマニアのソプラノ)聴きたさに、主演舞台に足を運んだ。演目はずばり、ディーバ役の「トスカ」! シチリアの劇場ゆえか、素朴かつ保守的な味わいで、キャッチーなプッチーニ節をストレートに楽しめた。ジャンルカ・マルティネンギ指揮。オーチャードホール中段上手寄りで3万8000円。休憩2回を挟み3時間強。主催はコンサート・ドアーズ。

ゲオルギューは貫禄たっぷりで、色っぽいというよりピュアな印象。2幕「歌に生き、恋に生き」はもちろん、警視総監スカルピアをめった刺しにするシーンのなりふり構わない必死さ! 恋人カヴァラドッシのマルチェッロ・ジョルダーニ(シチリア生まれのテノール)も引けを取らず、お馴染み1幕「妙なる調和」、3幕「星は光りぬ」と、テノールらしい高音を存分に聴かせる。スカルピアのセバスティアン・カターナ(ルーマニアのバリトン)は悪役としては淡泊めだけど、1幕「行け、トスカ」などが安定。脇役まで隙が無く、なかでも堂守パオロ・オレッキア(ローマ生まれのバリトン)の声が良く響いて、拍手が大きかった。
アルゼンチン出身マリオ・ポンティッジャの演出は、1幕の教会のドーム天井、2幕スカルピアの居室の壁を埋める絵画などが、ゴージャスながら古典らしく、落ち着いて鑑賞できる。3幕は遠くにサンピエトロ大聖堂の丸屋根をのぞんで、旅情を誘うスタイルでした。

ホワイエにゆとりがあっていい雰囲気。客席には経済人の姿も。

ジークフリート

ジークフリート  2017年6月

新国立2016/2017シーズンの締めくくりは、もちろん飯守泰次郎音楽監督のワーグナー愛に溢れる指揮で、楽劇「ニーベルングの指環」第2日「ジークフリート」だ。男性客が多い新国立劇場オペラハウス、1階通路から2列目、中央の絶好の席で2万4300円。なんと45分の休憩2回を挟み、6時間弱! 東京交響楽団。

2010年のトーキョーリング、2011年のMETライブビューイングから久々に、この大作シリーズにチャレンジした。やっぱり12年の中断をへて作曲されたという、3幕ラストの長大な2重唱が圧巻。やんちゃ放題のイノベーター、ジークフリートが炎を踏み越え、運命の女ブリュンヒルデと恋に落ちて、初めて世界を認識し、恐れを知る。
ハープ6台など、ピットいっぱいのオケを向こうに回し、ウィーン国立劇場2016年公演などでお馴染みのヘルデンテノール、ステファン・グールド(アメリカ)が押しまくる。それをリカルダ・メルベート(ドイツのソプラノ)が堂々と迎え撃って、息をつかせない。幕切れで槍とか鎧とか、すべてをブン投げちゃうのが爽快だ。

巨漢グールドは出だし抑え気味だったけど、きちんと調子をあげ、1幕「鍛冶の歌」は朗々。ティンパニの不穏な「悪魔の音階」から始まる2幕も、ホルン1本と弱い弦楽で始まる「森のささやき」が、自然の美しさを思わせて優美だ。
さすらい人の渋いグリア・グリムスレイ(アメリカのバスバリトン)が、1幕から惜しみなく声量を披露。ハットが似合う姿の良さもあり、袖でブリュンヒルデ登場を見届けてから、去る演出に余韻がある。3幕で地底から現れるエルダのクリスタ・マイヤー(バイロイト常連のアルト)も存在感たっぷりだ。ミーメは演技派アンドレアル・コンラッド(ベルリン宮廷歌手のキャラクター・テノール)だ。
飯守さんならではの、シリーズを通じたキャスティングは本当に充実している。森の小鳥は5羽もいて、鵜木絵里、吉原圭子、安井陽子、九嶋香奈枝+バレエ。衣装がセクシー過ぎ。

故ゲッツ・フリードリヒ演出、フィンランド国立歌劇場のプロダクションは照明暗め、かなりシンプルだけどダイナミック。1幕は斜めの2階部分と木々の縦の組み合わせ。2幕のファフナー大蛇は空気で膨らむスタイルで、何故か手がある。3幕1場は舞台いっぱいの大ゼリ、赤と黄緑の照明が深遠で印象的。火の山は勾配のある、つややかな四角い床でした。

長尺とあって、入り口外まで使って、カレーやジークフリート弁当など飲食、およびグッズの売り場を充実させており、感心。椅子もたっぷりあって工夫してました。客席には赤川次郎さんらしき姿も。

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