オペラ

オルフェオとエウリディーチェ

オルフェオとエウリディーチェ  2022年5月

初体験のバロックオペラは、グルックによる1762年ウィーン初演作。このイタリア語版に一部、フランス語版(マリー・アントワネットの招き!で1774年にオペラ座初演)の曲を加えた上演です。新国立劇場としてバロック初挑戦の新制作。勅使川原三郎の能舞台を思わせる端正な演出、雄弁なコンテンポラリーダンスが、シンプルな曲調を引き立てて楽しめた。
古楽に詳しいという鈴木優人の指揮、東フィルはチェンバロ、シャリュモー(木管)、コルネット(金管)などを加えた小編成。男性客が目立ち、よく入った新国立劇場オペラハウス、かなり前のほうの上手寄りで2万4750円。休憩1回を挟んで2時間。

題材は吟遊詩人オルフェオが冥界から亡き妻を連れ出そうとするけど、禁をおかして振り返ってちゃって台無しになるという、ギリシャ神話の有名エピソード。というわけで登場人物はたった3人だ。オルフェオのローレンス・ザッゾ、米国出身のカウンターテナーが柔らかい高音で全編を牽引する。作曲当時はカストラートだったんですねえ。
3幕で妻エウリディーチェのヴァルダ・ウィルソン(豪出身で長身)と、円を描いて歩きながらの二重唱になると、女声2声ともまた違って、ソプラノの声の強さが際立つ。1幕後半とラストに登場して二人を救うアモーレは、昨春「夜鳴きうぐいす」で聴いた三宅理恵が可愛いく。まるでダースベーダーの黒装束の合唱が、羊飼いや復讐の女神として全体を支える。弦楽のバンダ、オルフェオが疲労する必殺ハープ、そして嵐を呼ぶシンバルがいいアクセントだ。

ダンサーが深い悲しみ、激しい闘いなどなど、時に歌手を凌駕するほどシーンを表現して、目が離せない。アーティスティックコラボレーター佐東利穂子と、キーウ出身(!)のアレクサンドル・リアブコ、高橋慈生、佐藤静佳。
美術は抽象的な白い盆や、褐色から白に変わる巨大なユリの花束(純粋の象徴?)で構成していて、スタイリッシュだ。衣装も小花を散りばめたりして優雅。照明の変化、水を表すダンサーの白い腕と水紋のちらつきなどが繊細でした~

バロックを代表するヘンデルなどのオペラはアリア合戦だったけれど、本作はそれを改革してドラマや感情表現に比重をおき、後世のワーグナーが評価したとか。ウィーンの女帝マリア・テレジアの好みもあって、フランス風にバレエを大きくフィーチャーしているそうです。なるほど~
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さまよえるオランダ人

さまよえるオランダ人  2022年2月

ご存じワーグナー楽劇の原点とされる名作。指揮と主要キャストが全員交代、しかも開演前にマリー役が降板して急遽、金子美香が袖で歌い、舞台上では再演演出の澤田康子が演技する、との説明が。この2年いろいろあり、つい昨日は文楽が開演直前に中止になったばかりだけど、これもまた初めてのパターンでびっくり。
でも後半、高水準の歌唱で大満足でした! イタリアのガエタノ・デスピノーサ指揮、東京交響楽団。新国立劇場オペラハウスのやや前、上手寄りで1万9800円。休憩をはさみ3時間弱。

なんといっても2幕、ゼンタのバラードから田崎尚美(二期会のソプラノ)が高音を響かせ、舞台を牽引。ぽっちゃりながら、アイドルに憧れてた幼さがでていて、楽しみだなあ。連られるようにオランダ人の河野鉄平(クリーブランド音楽院大出身のバス)が調子をあげ、目力鋭く渾身の演技。ふられ役エリックの城宏憲(二期会のテノール)も3幕のカヴァティーナなどで声が伸び、華やかさもあって、重唱はなかなかの迫力だ。財宝に目がくらんじゃう父ダートラントは安定の妻屋秀和(バス)。2幕の明るい糸紡ぎの合唱、3幕の迫力ある水夫の合唱も心地良い。

2015年にも観たマティアス・フォン・シュテークマンの演出は、舞台いっぱいに広がる不穏な赤い帆など、シンプルかつダイナミック。ラストでゼンタが幽霊船とともに沈んじゃった直後の、繊細なハープの美しさと、救われたのに絶望するしかないオランダ人の苦悶が余韻を残す。美術は堀尾幸男。ひびのこづえの衣装は、村娘の赤い靴下とかワンポイントが可愛い。

今回も屋外でコーヒーなどを出していました。さすがに寒かったけど!

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2021喝采づくし

マスク着用、かけ声禁止は続くものの、関係者の熱意でステージがかなり復活した2021年。素晴らしい作品に出会えました。

個人的な白眉は、思い切って長野まで遠征しちゃったOfficial髭男dismのコンサート。期待通りの王道ロックバンドらしさに、蜷川さん風に言えば「売れている」者独特の勢いが加わって、ピュアな高揚感を満喫! 私はやっぱり配信よりライブだなあ、と実感。対照的に、名曲を誠実に、余裕たっぷりに聴かせる桑田佳祐コンサートも気持ちよかった。

並んで特筆すべきは、野田秀樹「フェイクスピア」かな。仮想体験の浅薄を撃つパワー溢れるメッセージが、高橋一生の抜群の説得力、そして演劇ならではの意表を突く身体表現を伴って、ストレートに胸に迫った。演劇ではほかにも、ケラさんの不条理劇「砂の女」が、まさに観ていて息が詰まっちゃう希有な体験だったし、栗山民也「母と暮らせば」は富田靖子演じる母に、問答無用で泣いた~ 岩松了さん「いのち知らず」、上村聡史「斬られの仙太」、渡辺謙の「ピサロ」…も記憶に残る。

古典に目を転じると吉右衛門、小三治の訃報という喪失感は大きい。けれど、だからこそ、今観るべき名演がたくさん。なかでも仁左衛門・玉三郎は語り継がれる話題作「桜姫」2カ月通しの衰えを見せない色気もさることながら、「土手のお六・鬼門の喜兵衛」をたっぷり演じた直後の一転、他愛ない「神田祭」の呼吸に目を見張った。
落語は喬太郎の、トスカに先立つ圓朝作「錦の舞衣」、さん喬渾身の長講「塩原多助一代記」で、ともに語りの高みを堪能。まさかの権太楼・さん喬リレー「文七元結」がご馳走でしたね~
文楽界はめでたくも勘十郎がついに人間国宝に! 与兵衛が格好よかった「引窓」は、私としては勘十郎さん仲良しの吉右衛門ゆかりのイメージがある演目で、今となっては二重に感慨深い。玉助さんが松王丸、師直でスケールの大きさを見せつけ、ますます楽しみ。

オペラ、ミュージカルは依然として来日が少ないので、物足りなさが否めない。それでも新国立劇場のオペラ「カルメン」「マイスタージンガー」は日本人キャストも高水準、演出にも工夫があって充実してた。ミュージカル「パレード」の舞台を埋め尽くす紙吹雪も鮮烈でしたね。
2022年、引き続きいい舞台を楽しんで、心豊かに過ごしたいです!

 

ニュルンベルクのマイスタージンガー

ニュルンベルグのマイスタージンガー  2021年11月

2019年7月の「トゥーランドット」が圧倒的スケールだった、東京文化会館との共同制作第2弾。2020年6月上演が延期、2021年8月の東京文化会館も中止の憂き目にあったプロダクションをようやく鑑賞できて、感慨ひとしお。30分の休憩2回を挟み6時間の長旅だけど、躍動感あるドタバタの中に新旧対立を鋭く描いて、だれることはない。
歌手は日本人含め高水準で、ワーグナーの呪縛をぶち壊す大胆な演出も楽しめた。大野和士指揮、東京都交響楽団が前奏曲から興奮を高めるのはワーグナーならでは。分厚い合唱は新国立劇場プラス二期会。新国立劇場オペラハウスの上手寄り前の方で2万9700円。

2017年に、なんとメータ指揮の来日公演で聴いた演目。シニカルな印象だったけど、今回は一転して明るさ、喜劇性が際立つ。
まず靴職人の親方ハンス・ザックスのトーマス・ヨハネス・マイヤー(ドイツのバリトン、ロールデビューとか)が、声も見た目も余裕たっぷりの押し出しで、エーファに対する複雑な愛情を陰影濃く表現。ちょい悪な態度や、終盤の虚しさも格好良い。突如現れた騎士ヴォルターのシュテファン・フィンケ(ドイツのテノール)は徐々に調子をあげ、無邪気に恋を語る。この2人にヒロイン、エーファの林正子(フランス在住のソプラノ)が、堂々と渡り合って素晴らしい。
権威を振りかざす恋敵ベックメッサーのアドリアン・エレート(ウィーン生まれのバリトン)と、お茶目な乳母マグダレーネの山下牧子(お馴染みのメゾ)が、見上げた喜劇役者ぶりで舞台を彩る。エレートは過剰なほどコミカル、でもどこか哀しい。徒弟ダーヴィットは4月「夜鳴きうぐいす」で光ってた伊藤達人(二期会のテノール)。輝く高音と可愛らしさを存分に発揮していて、楽しみです。端役・夜警の志村文彦(バスバリトン)が素晴らしい低音を聴かせた。

ニュルンベルク州立歌劇場総監督イェンス=ダニエル・ヘルツォークの演出は、2019年ザルツブルク・イースター音楽祭での初演し、ザクセン州立歌劇場に回ったもの。16世紀の実在のマイスターを主役とする物語を、現代の劇場(ドレスデンのゼンパーオーパーか)に置き換えた。靴工房が支配人室だったり、回り舞台でリアルにセット転換をみせたり。人生の裏表、「所詮はまがいもの」感が面白い。みなパリッとスーツなのに、2幕でリュートを抱えたベックメッサーがひとり、中世風かぼちゃズボンなのがギャグっぽい。
そして極め付け、ドイツ芸術礼賛で物議をかもしがちな幕切れを、エーファが見事に吹っ切って爽快だ。マイスターたちの写真の、見下すような表情は伏線だったのか! 次世代が駆けていく未来の明るさ。娘を賞品にしちゃう体制の身勝手や、窮屈な権威やジェンダーが崩壊し、立ち尽くすザックスの哀愁がまたいい。設定が劇場なだけに、大時代な(コロナで痛感!)オペラという芸術の再生をも予感させる。

長い休憩には屋外で軽食やスイーツを提供。頑張ってます。

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カルメン

カルメン 2021年7月

新国立劇場のシーズン締めくくりは、満足間違いなしのビゼー王道演目。ステファニー・ドゥストラック(フランスの長身メゾ)の貫禄のカルメン役者ぶりを堪能する。2019年「トゥーランドット」が衝撃だったアレックス・オリエの新演出が注目だったけど、現代日本への置き換えはさほど違和感がなかった。もともと戯曲が現代的だからかな。
表現力たっぷりの大野和士指揮、東京フィル。華やかな女性グループや若手を含め、賑わいが戻った感じが嬉しいオペラハウス、中央前の方の良い席で2万4750円。休憩30分をはさみ3時間。

ステファニーさまはパワー十分、「ハバネラ」こそタメ過ぎ?と思ったけど、魔性の女というより、自由と反骨を貫く明朗な女性像で、舞台を牽引する。ミニスカ、短パン、喧嘩や着替えの演技も堂々。くわえ煙草でギターをつま弾く姿、決まってるなあ。ドン・ホセ代役の切ない村上敏明(ジャンニ・スキッキで聴いた藤原歌劇団のテノール)、ミカエラのひたむき砂川涼子(同じく藤原のソプラノ、宮古島出身)が、それぞれ張りのある声で、存分に渡り合ってた。ワル仲間のダンカイロ町英和(バリトン)、フラスキータ森谷真理(ソプラノ、夜の女王をメトで歌ってる!)も目立ってましたね。
一方、エスカミーリョの太っちょアレクサンドル・ドゥハメル(バリトン)は「フランス最注目」というには弱かったかな。合唱は新国立劇場合唱団+びわ湖ホール声楽アンサンブル、TOKYO FM少年合唱団。

演出は冒頭から、鉄パイプの巨大セットが精神の牢獄を思わせる。カルメンはロックバンドのボーカル(エイミー・ワインハウスのイメージだとか)で、手持ちカメラでコンサートのステージ上や、警備にあたる警察官ドン・ホセを映し出す。怪しいライブハウス、ドラッグディーラーのアジトを経て、ラストは華やかなセレブが行き交うレッドカーペット。なぜかエスカミーリョだけ闘牛士姿だけど。カルメンが冒頭と同様、ホセに火を借りるシーン、洒落てるなあ。
ファンの群衆が終始、スマホカメラを構えているのが、スターの孤独を思わせました。プロダクションはびわ湖ホールでも上演。

今シーズン、新国立オペラの鑑賞は結局、10演目中3演目だけ。日本人キャストも高水準だけど、バランスが難しいのは否めない。来シーズンの完全復活を期待!
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ドン・カルロ

ドン・カルロ  2021年5月

2011年メト来日で堪能したヴェルディ円熟期の大作を、新国立劇場では初鑑賞。前の方のいい席で2万1780円。キャスト変更は致し方ないけど、ちょっと物足りなかったかな。主役級が5人必要で、上演至難の作品なんだなあと実感。指揮は2013年ナブッコ、2020年ラ・ボエームで聴いたパオロ・カリニャーニ、東京フィル。休憩1回を挟み3時間半。

日本人キャストの奮闘は嬉しかった。なんといってもドイツ在住の高田智宏(バリトン)が、親友ロドリーゴを高潔に歌って突出。得な役だしね。王妃エリザベッタの小林厚子(藤原歌劇団のソプラノ)も尻上がりで、終幕の「世の虚しさを知る人」が伸びやかだった。苦悩する父王・フィリッポ二世の妻屋秀和(バス)は安定だけど、パーペの陰影ほどではなかったかな。肝心のタイトロールのジュゼッペ・ジパリ(アルバニア出身のテノール)が残念ながらパンチ不足。敵役エボリ公女のアンナ・マキア・キウリ(ベテランのメゾ)も、高音など力任せの感じが否めず。

定番のマルコ・アルトゥーロ・ナレッリ(チューリヒ出身)のプロダクションは、モノトーン主体の重厚なもの。巨大な四角いグレーの塊を動かし、照明も陰影も駆使して、十字架の抑圧を表現。異端者の火刑シーンが、スペクタクルなんだけど赤々とリアルで怖かった~ このシーンで舞台を横切る天よりの声、光岡暁恵(藤原歌劇団、ソプラノ)は美しいけど。

日本が初参加し、渋沢栄一が随行した1967年パリ万博に合わせ、オペラ座の依頼で作曲・上演されたんですねえ。大がかりな舞台構成と、自由への情熱が近代的だと再認識。

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夜鳴きうぐいす/イオランタ

夜鳴きうぐいす/イオランタ  2021年4月

なんと1年2カ月ぶりのオペラは、初鑑賞のロシアオペラ2作を意欲的なダブルビルで。日本人キャストを敬遠してオペラから足が遠のいちゃってたけど、やっぱり生の分厚いオケと、歌声の振動は映像に代えがたい。特に「イオランタ」ヒロインの意志の力に感動。
安定感ある高関健指揮、東京フィル。スカラ座などで活躍するヤニス・コッコスが、パリからリモートで演出したとのこと。新国立劇場オペラハウス、前の方中央で2万4750円。休憩を挟んで3時間強。

後半がお楽しみ、チャイコフスキーの「イオランタ」。華やかな旋律が美しい。
15世紀の南仏の城では姫イオランタ(素晴らしい大隅智佳子、ソプラノ)が、生来の盲目を自覚せず、乳母(山下)らに囲まれて穏やかに暮らしている。異国の名医(日本を拠点にしているヴィタリ・ユシュマノフ、バリトン)は父王ルネ(安定の妻屋秀和、バス)に、姫が切望すれば治癒できると告げる。婚約者ロベルト公爵(井上大聞、バリトン)と友人ヴォデモン伯爵(内山信吾、テノール)が迷い込み、恋に落ちたヴォデモンは姫に光の素晴らしさを教える。父は激怒するものの、いよいよ治療を決断し、治らなければヴォデモンに責任をとらせると宣言。ロベルトが実は恋人がいると告白しちゃう笑いのあと、姫は恋人と自らの希望のため治療に耐えて、めでたく快癒。皆で喜びを歌い上げる。

以前、ライブビューイングのネトレプコ姫に感動した演目。チャイコフスキー節が魅惑的で、特に中盤、イオランタとヴォデモンの二重唱は、愛情とイオランタの自立心が同時に高まって、実に甘美だ。大隅の存在感、戸惑いから解き放たれていくエネルギーが抜群。内山の不調は残念だったけど。井上が短いながら、ハリのある高音を聞かせ、ラストの合唱も晴れやかで、大いに盛り上がった。
幻想的な装置で、上手奥に白い大階段を配置。姫が視覚に目覚めるシーンで、後方に雄大な自然の景観が展開して素晴らしい。終幕の希望は、照明で鮮やかに表現していた。

前半の「夜鳴きうぐいす」はイーゴリ・ストラヴィンスキーの曲が現代的なので、正直、苦手だったかな。アンデルセン「ナイチンゲール」が原作のメルヘンで、中国の皇帝(ずんぐり古川健一、バリトン)が日本人(!)が献上した機械の鳥を重用して死神にとりつかれるが、戻ってきた夜鳴きうぐいす(三宅理恵、ソプラノ)の優しい歌で快復する。
タイトロールの三宅が、ブランコに乗ったりして可憐。さえずりに模したコロラトゥーラを存分に披露する。うぐいすを宮殿に連れていく料理人は針生美智子(ソプラノ)、怪しい死神は山下牧子(メゾ)。冒頭とラストに登場する漁師の伊藤達人(テノール)が朗々としていい。
ステージは切り絵のような森の夜明けから、音楽が不協和音に満ちる王宮では、カラフルかつポップに転じて鮮やか。

カーテンコールでは下手にモニターを持ち出して、リモートで演出チームも登場。この公演を実現した苦労がしのばれました~

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Nightly Opera Streams: Lucia di Lammermoor

Lucia di Lammermoor  2020年5月

番外編のNETオペラのストリーミングで、ドニゼッティ「ランメルモールのルチア」を鑑賞。2017年に新国立劇場で聴いたほか、METのライブビューイングでデセイ版、ネトレプコ版でそれぞれ聴いたことがある、超絶技巧の演目だ。

今回の配信はオペラファンチョイスの1982年版。タイトルロールのジョーン・サザーランドはベルカントに光をあて、パヴァロッティを見い出したオペラ界の功労者で、なかでもルチアは1959年コベントガーデン公演で注目された代表作とのこと。知らなかったなあ。指揮はもちろんリチャード・ボニング。パートナーとしてサザーランドにコロラトゥーラを勧めた人とのことです。

サザーランドはオーストリア出身のソプラノ。身長170センチ台でごついし、たぶん最盛期の美声ではないんだろうけど、貫禄の強靭さが素晴らしい。恋人エドガルドは、やはりルチアを得意としたというアルフレード・クラウス・トルヒージョ(スペインのテノール)で年齢を感じさせない華麗さ。ふたりとももう故人です。そして兄エンリーコはパブロ・エルバイラ(プエルトリコのバリトン)。演出は手堅いブルース・ドンネル。

英国ロイヤル・オペラ・ハウス 椿姫

Royal Opera House's #OurHouseToYourHouse series  La traviata   2020年5月

番外編のストリーミングで、英国ロイヤル・オペラの「椿姫」を鑑賞。情感豊かなヴィオレッタのルネ・フレミングはじめ、スター揃いのキャストにアントニオ・パッパーノのドラマティックな指揮の組み合わせで、名場面の連続、捨てるところのない舞台だ。

アルフレードのジョセフ・カレヤ(ジョゼフ・カリージャ)が伸び伸び。陰影ある父ジェロモンのトーマス・ハンプソンは、先日のフィレンツェ歌劇場のガラ・コンサートに登場してましたね。演出がこれまたリチャード・エア、1994年初演の人気プロダクションだそうで、奇をてらわず、しかしヴィオレッタ宅の絵画や書物といった細部の作り込みや、ダイナミックなカジノのバレエシーンなど隙なく美しい。

エウゲニ・オネーギン

巣ごもりシアター エウゲニ・オネーギン   2020年4月

誠に残念ながら、コロナ対応でライブ公演はすべてキャンセルなので、備忘録として映像鑑賞を記録します。
まずは2019年オープニングで、台風のため公演が中止になったチャイコフスキー「エウゲニ・オネーギン」を、新国立劇場のオンライン配信「巣ごもりシアター」で。アンドリー・ユルケヴィチ指揮、東京フィル。

2013年のMETライブビューイング、2016年のマリインスキー・オペラの来日公演で聴いた演目だ。METのネトレプコ、グヴィエチェン、ベチャワのゴールデントリオが、記憶に強く残っている。

今回、キャストはロシア出身で固めていて、タチヤーナのエフゲニア・ムラーヴェワ(サンクトペテルブルク生まれのソプラノ)が気品もあって良かった。タイトルロールのワシリー・ラデューク(バリトン)は徐々に調子を上げ、レンスキーのパーヴェル・コルガーティン(テノール)はやや軽いけど、のびのび。グレーミン公爵のアレクセイ・ティホミーロフ(バス)が堂々として情緒もあって、拍手が多かった。

モスクワのヘリコンオペラの芸術監督ドミトリー・ベルトマン演出の新制作。妹オリガ(ロシアや東欧で活躍するメゾ、鳥本弥生)は冒頭、フリフリのピンクドレスでコミカルだけど、幼く未熟な設定を象徴的に表現。大詰めでは一転、大人になったタチヤーナが、美しい真っ赤なドレスを脱ぎ捨て、哀しい心情を吐露するのがドラマチックだ。合唱がストップモーションなどで達者に、心ない世間を表す。演劇だなあ。

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