浄瑠璃

古典芸能フェス!

第九回常フェス特別公演「古典芸能フェス!」 3部 2026年2月

2023年秋に閉場した国立劇場のステージや楽屋を使って、浄瑠璃などを上演する面白い鑑賞会に足を運んだ。地下鉄駅からのアクセスやロビーなど、もはや懐かしい。けれども立派な外観から小劇場の客席まで、ほとんど変わっていなくて、なんとももったいない思いを強くする。公演は常磐津を中心に多彩な古典芸能がベテランから若手まで集結し、お祭りらしくて面白かった。4000円。

常磐津の無題の会が主催してきたというフェス形式を採用、正午スタートからの3部制で通しチケットもある。小劇場のステージ上と「国宝」ロケに登場した楽屋、ロビーの3カ所に椅子を並べて同時進行。聴衆は出入り自由で3カ所を移動しながら、気になる演目を楽しむ趣向だ。出演者も廊下をうろうろ、お馴染みと雑談したりして、とてもカジュアル。

まずはステージで大人数の定番「三番叟」。女流義太夫の竹本京之助、人間国宝・鶴澤津賀寿、常磐津の和英太夫、仲重太夫らの掛け合いを、邦楽囃子の鳳聲月晴(笛方・江戸里神楽若山社中)、望月大貴(太鼓)らがテンポ良く支える。
楽屋に移動して常磐津「俳諧師」を、浄瑠璃の仲重太夫、仲寿太夫、三味線の紫十郎、三都貴、都史で。四世歌右衛門初演だそうで、通人から見た江戸の景色、仮宅の遊郭風情が遊び気分たっぷり。洗面台が付いている畳の大部屋は、襖で仕切ってもギャラの取り分の会話が聞こえてきた、なんてエピソードも。
ロビーに移って地唄「黒髪」を生田流の谷藤愛美と大友美由奈、月晴でこぢんまりと。地歌は文楽や歌舞伎から独立した上方の古い舞踊曲で、中棹三味線(三絃)を使い、箏などとの合奏(三曲合奏)もあるとか。「黒髪」は雪の一夜、伊東祐親の娘・辰姫(大河ドラマの新垣結衣ですね)が髪を梳きながら、政子に譲った恋人・源頼朝を思い、時が移ろって白髪交じりになるという内容。誰もが知っている設定だったと実感。

ステージに戻ると義太夫「裏門」の後半。やはりドラマチックな義太夫は文楽で聴き慣れているし、忠臣蔵だしで好きだなあ。続いて日本舞踊の難曲「山姥」を篠塚瑞桜(ずいおう、京舞のベテラン)で。春から冬へ山を巡る鬼女を静かに描く。常磐津は浄瑠璃が仲重太夫、千寿太夫、仲寿太夫、三味線が都史、紫十郎、美寿郎。京舞は上方の座敷舞で能の影響が濃く、すり足での旋回が中心だそうです。
場面転換があり、がらりと雰囲気が変わって稲沢茉梨の津軽じょんがら節を導入に、お楽しみトークへ。児玉竜一演博館長、国立劇場の制作だった神山彰明大名誉教授、和英太夫が登場。音響が悪くて聞き取りにくかったのが残念だったけど、公営劇場のプログラム構成の考え方など裏話もちらりと。
そしてフィナーレは常磐津と長唄のスリリングな掛け合いで、お馴染み「道成寺」を華やかに。常磐津は仲重太夫ら、長唄は杵屋勝栄治、直光らがずらり並び、お囃子も大勢で緩急自在。三味線バトルもたっぷりで大いに盛り上がりました~

ロビーに大津の丸二果実店が出店していて、ドライフルーツ入りグラノーラバーを購入。下北の焙煎所atelier OHAGIもコーヒーを売っていたようです。
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2025年喝采づくし

2025年も素晴らしいライブパフォーマンスにたくさん出会えました。
なかでも頭抜けて凄いものを観た!聴いた!と圧倒されたのは、期せずして対照的なふたつ。クラシックの20代ふたり、クラウス・マケラ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団+アレクサンドル・カントロフ。そして御年81歳、「菅原伝授手習鑑」の15代目片岡仁左衛門による菅丞相。いや~、圧巻でした。

ジャンル別の演劇では、重厚なワジディ・ムワワド作・上村聡史演出「みんな鳥になって」の現代性、岩松了のスタイリッシュな「私を探さないで」での河合優実、蓬莱竜太「おどる夫婦」でのダンスが印象的だった。節目にもいろいろ立ち会えて、本公演に区切りをつけたイキウメ「ずれる」、大がかりな仕掛けは集大成としたケラリーノ・サンドロヴィッチ「最後のドン・キホーテ」、郷愁に終わらなかった東京サンシャインボーイズ復活公演「蒙古が襲来」がそれぞれ持ち味を発揮。ミュージカルでは閉場となる帝国劇場の「レ・ミゼラブル」ファイナルウイークも。
これからが楽しみなのは横山拓也「はぐらかしたり、もてなしたり」、加藤拓也「ここが海」。翻訳ものでは熊林弘高演出の古典的喜劇「陽気な幽霊」、サイモン・スティーブンス作・上村聡史演出の不穏過ぎる「スリー・キングダムズ」もよかった。

古典ではなんと言っても歌舞伎が、映画「国宝」で盛り上がって幸福な1年でしたね。ニザ様以外にも大イベント八代目尾上菊五郎・六代目菊之助襲名披露の極付「弁天娘」、南座に遠征した中村壱太郎「お染の五役」、次世代で鷹之資・染五郎の「棒しばり」や尾上右近の「春興鏡獅子」に拍手。中村莟玉、2026年に辰之助襲名を控える尾上左近も目立っていて期待大です。
文楽は人間国宝に加えてめでたく日本芸術院会員となった桐竹勘十郎が碇知盛、玉助が源九郎狐を遣った「義経千本桜」が素晴らしく、歌舞伎、テレビドラマでもフル回転した三谷幸喜の「人形ぎらい」も楽しかった。引き続き1年を通して、浄瑠璃の都一中さんにいろいろ教えて頂きました。
そして落語はさん喬「雪の瀬川」の粋と鮮やかさ、喬太郎「お若伊之助」の語り力。白談春はさすがに還暦目前で肩の力が抜けてきたかな。講談の春陽は落語から移した「御神酒徳利」にチャレンジ。どんどん格好良くなるなあ。

クラシックに目を転じると、オペラで加藤浩子さんのほろ酔いトークイベント立ち上げを手伝った、記念すべき年となりました。関係者の素顔、いろんな裏話を聴くのと並行して、舞台では「セビリアの理髪師」で世界のメゾ脇園彩、「ラ・ボエーム」でルチアーノ・ガンチを堪能。コンサートではマケラのほかにも、83歳リッカルド・ムーティ指揮・東京春祭オーケストラの圧倒的なイタリア魂に引き込まれ、リサイタルでリセット・オロペサ、”キング・オブ・ハイC” ハビエル・カマレナも聴けて満足。

ポップスではずっと聴きたかったファンクのCory Wongが文句なしに楽しく、星野源は奇跡的に6年ぶりツアー、追加公演最終日に行けて感動。貴重なサービス精神満載のサザンオールスターズ、Official髭男ismの爽快なスタジアム、相変わらずノリノリのEARTH WIND&FIRE+NILE RODGERS&CHICも充実していた。
ほかにもいろいろ、とても書き切れません。さあ、2026年も元気に定番、新機軸を楽しむぞ~

女義「仮名手本忠臣蔵」「増補忠臣蔵」

女流義太夫普及公演ぎだゆう座 2025年12月

竹本越孝を聴きに「12月恒例!忠臣蔵」に足を運ぶ。腹に響く武士の真心。お江戸上野広小路亭、靴をぬいで会場にあがるアットホームなスタイルで、事前の越孝さん情報でソックスを持参。開幕前に「みつばち」のハニー焼き。自由席で2000円。永谷商事共催。

「仮名手本忠臣蔵」の兜改めから本蔵松切までを聴かせてから、「増補中心蔵」本蔵下屋敷の段を越孝・鶴澤三寿々コンビで。文楽で聴いた、お馴染み「仮名手本」九段目・山科閑居の前日譚。素浄瑠璃でじっくりと。
若狭之助が悪役・伴左衛門の企みを見抜いて、びっくりの成敗。さらに由良之助に討たれる本蔵の覚悟を察し、袈裟尺八と高師直邸の絵図を授けちゃう。九段目の本蔵の登場シーンを種明かしする趣向だ。
若狭之助は仮名手本のとにかく短慮のイメージを覆し、「満足に思うぞよ」と度量を示して格好良い。一方の本蔵は深い後悔に生きた気の毒な印象だけど、この主君なら悔いはないかも、と思えてくる。
幕切れは妹・三千歳姫が寒山寺の旅愁を歌う漢詩にちなんだ曲を贈り、 一越断金(いちこつだんきん)、黄鐘鸞鏡 (おうしょうらんけい)と雅楽の音階を織り込んだ詞章となって、美しかったです。

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一中節「唐崎心中」「道成寺」

一中節演奏会  2025年3月

いつも勉強になる古曲、一中節のホール演奏会へ。落ち着いた雰囲気の紀尾井小ホール、自由席で6000円。休憩を挟んで2時間ほど。

前半は「唐崎心中」を了中さんの聴きやすい浄瑠璃、一中さんの三味線で。まず一中さんがいつものようにユーモアをまじえつつ解説。近江八景とは江戸初期に近衛家当主が中国の瀟湘八景にならって発案したそうだけど、本作は元禄年間の少し後、遊女小稲と稲野屋半兵衛が唐崎の松のほとりで心中した事件が題材で、舞台となった近江八景を織り込んだのが特徴だ。八景といえば時代はくだって文政年間、5世一中の三味線方で一中節中興の祖ともいわれる菅野序遊が「吉原八景」を作曲、これが常磐津「廓八景」に受け継がれた。庶民に浸透し、芥川龍之介が書簡に「恋路の八景」を書いていて、その詞章が見事に三味線にのるのだと。なるほど~
改めて聴いてみると、広重の浮世絵で観る当時の姿や、一昨年秋に訪れた折の雨模様の湖が目に浮かんで美しい。大詰め「たましいもぬけから崎の ひとつ松にぞ着にける」と、雨風を受けた2人の放心したさまが印象的。

続いて後半の「道成寺」に先立ち、了中さんの明朗な解説。今回はプログラムに、了中さんの現代語意訳が併記されていてわかりやすい。道成寺といえば能の大曲で、さまざまな音曲になっている。明治期の都派では冒頭の住職と能力のやりとりから、シンプルながらほぼ忠実に能の流れをたどる。白拍子の舞の「月落ち鳥啼いて霜雪天に 満ち潮程なく此の寺の 江火の漁火」は漢詩「楓橋夜泊(ふうきょうやはく)」の引用で、孤独と鐘の音を連想させ、クライマックスの僧の祈りの「恒沙(ごうしゃ)の龍王」は、ガンジスの砂から転じて無数の龍王たちへの呼びかけだと。昔の人は教養があったんだなあ。
休憩を挟んでその「道成寺」を了中さんの浄瑠璃、一中さんの三味線に、楽中さんの上調子で。中盤「花の外には松ばかり」で三味線と掛け声の乱拍子から緊張感がぐんぐん高まり、白拍子の舞の「鐘尽くし」から鐘入り、祈りとダイナミック。蛇体がついに「猛火となりて失せにけり」と、自らの炎で消えちゃう圧巻の幕切れ。鮮やかで哀しい名作に、聴衆がふうっと溜息をついて幕となりました。

客席には常連の経済人や、なんと雀右衛門さんの姿も。

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義太夫「鎌倉三代記」「伊勢音頭恋寝刃」「妹背山婦女庭訓」

女流義太夫演奏会7月公演 2024年7月

お知り合いになった竹本越孝(こしこう)さんのご案内で、初の女流義太夫。いずれも文楽や歌舞伎でお馴染みの演目で、聴きやすい。三味線の抑揚がイマイチな気がしたけれど、太夫はなかなかの迫力。熱心なかけ声もかかるティアラこうとう小ホール、全席自由の中央あたりで4000円。休憩を挟んで2時間。

名優の当たり役と題したシリーズで、今回は六代目中村歌右衛門の姫、遊女、仲居、娘をとりあげる。まず演博招聘研究員の鈴木英一さんが、下手に登場して解説。なんと常磐津和英太夫として、このあと歌舞伎座に駆けつけて「裏表太閤記」(私も観たばかり!)に出演する、歌右衛門の思い出といえば舞台の裏に寝そべって悠々と煙草をふかしていた、火気厳禁だったけど…などなど、芸や演目の解説というより、漫談風で楽しい。
本編はまず「鎌倉三代記」三浦別れの段を、越孝さんと鶴澤駒治(鶴澤清介の預かり弟子)で。父の敵である三浦之助を慕い、その出陣を引き留める「三姫」のひとり・時姫、そして息子に会うまいとする病身の母を切々と。盛り上がりました~

仲入を挟んで「伊勢音頭恋寝刃」油屋の段を渋く竹本土佐子(豊竹嶋太夫門人)、鶴澤三寿々(さんすず)で。遊女・お紺は恋しい福岡貢のため、別れを切り出す。その真意を知らずに激怒する貢を、遣り手の万野がいたぶる。登場人物が多くて難しいけれど、お馴染み万野の意地悪さなどを存分に。
ラストは大曲「妹背山婦女庭訓」金殿の段を、ベテラン竹本綾之助(嶋太夫門人)、鶴澤津賀花(つがはな、鶴澤燕三に師事)で。何度聴いても可哀想過ぎる、お三輪がいじめられちゃうくだり。綾之助さんの体調がいまいちだったのか、ちょっと省略してました。

女流義太夫って明治期には、寄席に出てアイドル的な人気を博し、志賀直哉や高浜虚子もファンだったんですねえ。

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一中節「辰巳の四季」「お夏笠物狂」「小町少将道行」「唐崎心中」「小春髪結之段」

初世都一中没後300年記念 一中節演奏会 2024年2月

江戸三味線音楽の源流(古曲)、一中節のホール演奏会に初参加。初世一中は琴の八橋検校や竹本義太夫、近松、芭蕉、尾形光琳と同時代に生きた教養人だそうで、いろんな文化とのつながりが興味深い。都一中、了中以外の出演は女性で、演技はなくお辞儀も軽く、粛々と進むのがちょっと不思議。お弟子さんたちが集まった感じの紀尾井小ホール、自由席で5000円。休憩を挟んで2時間。

まず了中さんの明朗な解説があり、原点の「辰巳の四季」から。浄瑠璃は渋く一中。「春霞たなびきにけり久方の」と、いにしえの紀貫之の和歌に始まり、京の辰巳(南東)にある宇治の景観、「吸いつけ煙草、雲をふき」など住民の暮らしぶりを語る。終盤、一上がりになって「おさまる国こそ久しけれ」と結ぶ。スケールが大きいなあ。
いったん幕が降りて「お夏笠物狂」。浄瑠璃は一みき、一翠。箱入り娘お夏と手代清十郎の許されない恋ですね。文楽では1962年に「五十年忌歌念仏」笠物狂の段(舞踊)のみ復活されたそうで、2012年に聴いたことがある。義太夫と違って一中節では、古典文学全集にある近松の原文のまま、初世の曲を今も演奏しているそうです。「むかひ通るハ清十郎じゃないかいの 笠がよく似た菅の小笠が」「小舟つくりておなつをのせて 花の清十郎に櫓をおさしょへ」。誤って同僚を殺め、逃亡した清十郎を追って、町をさまようお夏。愚かさが哀れです。
一転、雅びになって「小町少将道行」。いい声の了中の浄瑠璃を、一中の三味線が支える。絶世の美女・小野小町に恋した深草少将が、百夜(ももよ)通いの九十九日目に力尽きで亡くなっちゃうという、世阿弥が能「卒塔婆小町」で描いた物語。「千載集」で和歌を確立した藤原俊成の幽玄体にも通じる、音の消えたあとの空白を楽しんでほしいと。高度過ぎ~

休憩の後、一中さん登場。装束は京都明福寺に残る初世の絵姿に似せてみた、浄瑠璃と三味線の丁々発止は、俵屋宗達の金銀泥の鶴の上に、本阿弥光悦が和歌を「散らし書き」した重文「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」のようなもの、YOASOBIは母音が聴きやすく古典に通じる…と相変わらず縦横無尽です。そして「小いな半兵衛唐崎心中」。浄瑠璃は静岡在住で保存会員(重文の構成員ですね)の一桜で、70代と思えない重厚さがさすが。三味線は一中がリードし、邦楽一家で清元・長唄の名取でもある一志朗と。昨秋に旅行した琵琶湖畔の近江八景を織り込んでいて、流麗。漱石「三四郎」にも登場する曲なんですねえ。
ラストは「小春髪結之段」。浄瑠璃は一すみ(イサム・ノグチやクラシックの細川俊夫と交流があり、チェロのヨーヨー・マと共演したこともある琴奏者、川村京子さん)、三味線はもちろん一中。名作「心中天の網島」の一場面で、近松が初世のために書き下ろしたのでは、とのこと。文楽では3回観ていて、「時雨の炬燵」で身をひく妻おさんが印象的な演目だけど、このシーンは遊女・小春が主人公。毎日髪を結っているお綱が、無言のうちに紙屋治兵衛と心中する決意を察して、それとなく諭す。「かならずあんじてくだんすな」と、色っぽくも緊張感が漂う。

知人がデザインしているプログラムの、詞章の文字が素敵。「シンポジオン」シリーズで会うかたがた、金融界大物ご夫妻の姿も。

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一中節「姫が瀧四季の山めぐり」「道行三度笠」

第九回都了中の会  2024年1月

 一中節都派家元、都了中の会に初参加。伸びやかな浄瑠璃、都一中の優雅な中棹三味線、そして楽しい解説を堪能する。加賀料理の赤坂浅田で、座敷に一部座椅子、椅子を置いての80人ほど参加の演奏会。終演後の会食を含め2万円。
能の山姥ものをベースにした「姫が瀧四季の山めぐり」は、没後300年という初世都一中の詞章、先代一中(11世)の作曲。都で山姥を題材に舞っていた遊女が、善光寺詣の山中で日が暮れ、女に宿を貸してもらうと、それが本物の山姥で… 山の四季と、めぐりめぐっていく生死の表現が美しい。
休憩の後は「道行三度笠」。ご存じ近松門左衛門「冥途の飛脚」から、死罪を覚悟した梅川・忠兵衛が新口村へと落ちていくくだりで、初世の弟子の都半中、のちの宮古路豊後掾(みやこじ・ぶんごのじょう)の作曲。郭の相合炬燵といったたとえの色っぽさと、藤井寺、富田林から竹内峠へ、追い詰められた嘆きが交錯する。三度笠って渡世人のイメージだけど、江戸・京都・大阪を月3で回る三度飛脚がかぶっていたんですねえ。

一中節は江戸浄瑠璃の源流で、京の僧侶だった初世が還俗して、座敷芸として始めたもの。歌舞伎舞台に進出して人気を博し、稽古事となって江戸で大流行した。落語にも登場します。弟子の宮古路豊後掾が独立して豊後節を興し、宮古路文字太夫が常磐津節を、さらに一派の宮古路加賀太夫が新内節を、清元延寿太夫が清元節を興したというから、まさに音曲のルーツ。豊後掾はあまりに扇情的な芸風で吉宗に弾圧されたとか、髻を高く結う「文金風」を流行らせたファッションリーダーだったとか、逸話も豊富だ。
お父上の一中さんの博覧強記には驚くけど、了中さんもなかなかどうして。「私はアメリカ合衆国大統領の資質を完璧に備えている。第1に抜群の記憶力、第2に、えーと何だっけ」とレーガンお得意のつかみネタから、一中節と演目を解説。言霊がもたらす幸せをうたった柿本人麻呂「しきしまの大和の国は 言霊の 幸(さき)わう国ぞ ま幸(さき)くありこそ」を引用したり、大倉喜八郎から贈られた見台を紹介したり。飛鳥から江戸、明治まで、なにせ邦楽の世界は深いです!

演奏会で歌舞伎・文楽友達とおしゃべりし、地下の掘りごたつ式の座敷に移って、希望者15人ほどの食事会も。充実してました~

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一中節「松羽衣」「姫が瀧四季の山めぐり」

一中節「松羽衣」「姫が瀧四季の山めぐり」の会  2016年11月

縁あって重要無形文化財、一中節を聴きに。当代12世一中さんと尾上墨雪さんによる会だ。すがすがしい国立能楽堂能舞台の上手寄り正面、前のほうで5000円。休憩をはさんで1時間強。

まず謡曲にちなみ、5世作曲による「松羽衣」。女性陣の一桜、一光、一菊が並んで浄瑠璃、三味線は一中さん、楽中、勝中。三保の松原の天女は可憐にお嬢さんの尾上紫、漁師伯龍が墨雪さん。
休憩後は11世復曲の「姫が瀧四季の山めぐり―山姥―」。墨雪さんが四季折々自然とたわむれ、徐々に年老いていく女を舞う。息子さんの了中さんが浄瑠璃。一中節は三味線と浄瑠璃、両方手掛けるとか。扇面は朝倉摂。シンプルな舞台に、一本確かな筋が通っていて、伝統芸能のベースの一つを観る思いです。

一中節は中棹で優雅。京都発祥、江戸で大流行し、常磐津など三味線音楽の源流となったそうだ。当代は歌舞伎座の常磐津立三味線(主席奏者)も経験。また墨雪さんは6代目菊五郎が創立した日本舞踊・尾上流の先代家元とあって、客席には大物の女優さん、綺麗どころや経済人の姿も。出口ではお二人がお客さんをお見送り。華やかですねえ。

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