講談

2024年喝采尽くし

いろいろあった2024年。特筆したいのは幸運にも蒸せかえる新宿で、勘三郎やニナガワさんが求め続けたテント芝居「おちょこの傘もつメリー・ポピンズ」(中村勘九郎ら)、そして桜満開の季節に、日本最古の芝居小屋「こんぴら歌舞伎」(市川幸四郎ら)を体験できたこと。「場」全体の魅力という、舞台の原点に触れた気がした。
一方で世界の不穏を背景に、ウクライナとロシア出身の音楽家が力を合わせた新国立劇場オペラ「エフゲニ・オネーギン」のチャレンジに拍手。それぞれの手法で戦争や核の罪をえぐる野田秀樹「正三角形」、岩松了「峠の我が家」、ケラリーノ・サンドラヴィッチ「骨と軽蔑」、上村聡史「白衛軍」が胸に迫った。

歌舞伎は現役黄金コンビ・ニザタマによる歌舞伎座「於染久松」は別格として、急きょ駆けつけた市川團子の「ヤマトタケル」に、團子自身の人間ドラマが重なって圧倒された。その延長線で格好良かったのは、演劇で藤原竜也の「中村仲蔵」。團子同様、仲蔵と藤原の存在が見事にシンクロし、舞台に魅せられた者の宿命をひしひしと。

そのほか演劇では「う蝕」の横山拓也、木ノ下歌舞伎「三人吉三廓初買」の杉原邦生という気鋭のセンスに、次代への期待が膨らんだ。リアルならではの演出としては、白井晃「メディスン」のドラムや、倉持裕「帰れない男」の層になったセットに、心がざわついた。
俳優だと「正三角形」の長澤まさみ、「峠の我が家」の仲野太賀、二階堂ふみ、「う蝕」の坂東龍汰が楽しみかな。

文楽は引き続き、東京での劇場が定まらずに気の毒。でも「阿古屋」で、桐竹勘十郎、吉田玉助、鶴澤寛太郎の顔合わせの三曲がパワーを見せつけたし、ジブリアニメの背景を使った「曾根崎心中」をひっさげて米国公演を成功させて、頼もしいぞ!

音楽では、加藤和彦の足跡を描いた秀逸なドキュメンタリー映画「トノバン」をきっかけに、「黒船来航50周年」と銘打った高中正義のコンサートに足を運べて、感慨深かった。もちろん肩の力が抜けた感じで上質だった久保田利伸や、エルトン・ジョン作曲のミュージカル「ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~」(日本人キャスト)、クラシックでいつもニマニマしちゃう反田恭平&JNO、脇園彩のオールロッシーニのリサイタルも楽しかった~ 

このほか落語の柳家喬太郎、立川談春、講談の神田春陽は安定感。
2025年、社会も個人としても、舞台に浸れる有り難い環境が続くことを切に祈りつつ…

講談「天正三勇士」「蘇生の五平」「萱野三平」

神田春陽さんの恒例「春陽党大会」。満員のらくごカフェで2500円。まずは神田ようかんさんが折り目正しく「天正三勇士 出会い」。我慢太郎、怪力又兵衛、金剛兵衛と名乗る謎の浪人が次々カネの無心にきて、勝負する活劇。初めて聴いたけど、明治に牧野省三監督、尾上松之助主演の無声映画があるんですねえ。
神田春陽さんはびっくりの船旅の営業話から、まず「蘇生の五平」。これも初。明治中期の三面記事エピソードが元だそうで、テンポがよくてワイドショーのよう。五兵衛という植木屋が知人にのせられて暴飲し、気絶。死んだと勘違いされるが、葬式の間に蘇生し、巡査と家に戻るとそこには女房と見知らぬ若い男。巡査の入れ知恵で化けて出たふりをして驚かせ、間男は姦通罪に… 落語「お化け長屋」みたいで面白かった~
助演はお馴染みの活弁・坂本頼光。相変らずどこで見つけてくるのか、昭和初期の社内マナーを啓蒙するアニメ「太郎くんの汽車」と、「喧嘩安兵衛」で、切れ味良く前ふりも十分。

仲入後は春陽さんが余裕たっぷりに「赤穂義士伝 萱野三平」。文楽、歌舞伎でお馴染みの早野勘平のモデルだけど、こちらは実家に帰り、亡君浅野内匠頭への忠節、仇討ちを誓った仲間への義理と、事情を知らない父が薦める他家への仕官話との板挟みで進退極まり、壮絶な自刃を遂げる。大石内蔵助をして同志だと言わしめ、赤穂市の大石神社には義士四十七士と共に祀られているとか。格好よかったです!

講談「清水次郎長伝」

春陽党大会  2023年11月

古本まつりの片付け中の神保町で、恒例の「春陽党大会」。神田春陽は一段と啖呵に凄みが増した感じで頼もしい。助演にお馴染みの活辯師、坂本頼光を迎えて充実。神保町らくごカフェで2300円。中入りを挟んで2時間。

まず昨年入門の神田ようかんが、6月にも聴いた「島田虎之助」を爽やかに。剣の達人ら人物を凜と語るようになるのが楽しみ。
続いて春陽さん、日本シリーズのタイガースが気になって仕方ないながらも、浪曲の師匠のことなどを語りつつ、「清水次郎長伝」からお民の度胸。森の石松の短気で人の良い造形がたまりません。お話は金比羅参りで旧知の親分から香典百両を預かった石松が、遠州・都鳥の吉兵衛の一家に立ち寄り、カネを貸してしまう。この吉兵衛がとんでもない奴で…

中入り後は高座にスクリーンをしつらえて頼光さん。今夜は毒は控えめに、戦前のアニメ「空の桃太郎」(桃太郎一行が燃料を補給しつつ、戦闘機で南極へ)、モノクロの「弥次喜多岡崎猫退治」(大山でぶ子嬢と着ぐるみの猫が傑作)を調子よく。トンデモの展開に苦笑しつつ、こんな映画、どこから探してくるのかと感心しちゃう。客席でカンカラ三線の岡大介をお見かけしたな、と思ったら2曲唱って盛り上げてくれました~ 正蔵の内輪に加わり、昨年末から落語協会準会員なんですねえ。
春陽の後半は怒濤の展開。都鳥にだまされ、町はずれの閻魔堂で十人がかりで襲われた石松が、なんとか幼なじみ・小松村の七五郎の家へ転がり込む。都鳥が追ってくると聞いた七五郎は石松をかくまい、女房・お民に逃げるよう言い付けるが、「一緒に斬られたところでお前と心中したと思えば嬉しいものだ」とお民。格好良い! 現れた追っ手に夫婦して「石は来ていない」「疑うんなら家中、探してみな。出てこなければ黙っちゃいない」とすごんで、見事に追い返す。その後、石松はどうしてもひとりで浜松に行くと言って出発し…というところで、タイガース接戦の行方にやきもきしつつ、和やかにお開きになりました。

講談「島田虎之助」「浅妻船」「江島屋騒動」

噺小屋in池袋 水無月の独り看板 神田春陽 2023年6月

恒例の神田春陽さんの会へ。ドスのきいた実力派として、1972年から続くNHK講談大会にも出演し、余裕が増している感じ。熱心なファンが集まった感じの東京芸術劇場シアターウエスト、上手寄り前の方で3300円。中入りを挟んで2時間弱。

まず昨年入門したというお弟子の神田ようかんが、爽やかに「島田虎之助」。時は天保、島田が豊前から江戸に出てきて「幕末の剣聖」男谷(おたに)信友に入門する。小太り柔和な男谷を最初、たいしたことないと思ったのは浅はかで、実は底知れない腕なのに、誰にでも三本に一本は花を持たせる流儀だったという逸話だ。
続いて春陽さんで「浅妻船」。十年前くらいに2回、聴いたことがある。紀伊国屋文左衛門のおお座敷で、文人墨客が屛風を描くエピソードを絵奇妙に。風刺絵で三宅島へ流された絵師・英一蝶と、俳諧師・宝井其角の干物の友情エピソードでジンとさせる。安定感。

仲入後のゲストは中西レモンで「お七寺入り」。着物に安っぽいサングラス、丁寧な物言い。ひょうひょうと人を食った感じが怪しすぎ。「江州音頭」というを初めて聴きました。祭文が大衆化した近江発祥の大道芸で、河内音頭の兄貴分、浪曲の源流だそうです。ゆったりと扇子を構え、鈴とあがささんの太鼓のリズムにのって七七調。独特だなあ。
そして春陽さんが登場し、怪談の前に江州音頭は明るすぎるなあといいつつ、正直な商売をすべき、と圓朝作「江島屋騒動」。下総国・大貫村(香取郡)のお里に名主の息子と縁談がもちあがり、日がないので芝日影町(新橋)・江島屋で古着を求める。これがとんでもない「イカモノ」で、雨に濡れてズタズタになったため、笑われて婚礼も取りやめ、お里は片袖を残して利根川に身を投げる。
やがて江島屋の番頭・金兵衛が集金の途中、藤ヶ谷新田(柏市)で雪に見舞われ、一軒のあばら屋を頼ると、目の不自由な老婆が端切れを火鉢にくべており(怖い)、イカモノのせいで娘を亡くした怨念を語る。金兵衛が店に戻ると女将、小僧が相次いで亡くなり、土蔵に娘の幽霊が出て(怖い)、ついに主人の治右衛門は失明、土蔵の出火で店も失い… 陰惨です。正直が大事。

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2022喝采づくし

いろいろあった2022年。エンタメを振り返ると、やっぱり特筆すべきはコンサートで、ドームを巨大ディスコに変えたブルーノ・マーズ、そして年末のピアノ一台の矢野顕子。全く違うジャンルだけど、どちらもライブのグルーブを存分に味わいました。

そしてようやく実現した、團十郎襲名の「助六」。いろいろ批判はあっても、この人ならではの祝祭感が嬉しかった。ほかに歌舞伎では「碇知盛」の菊之助、梅枝が頼もしく感じられ、初代国立劇場さよなら公演がスタートした文楽「奥州安達原」は玉男、勘十郎、玉助らが揃って充実してた。

オペラは新国立劇場で意欲作が多く、なかでもバロック初体験のグルック「オルフェオとエウリディーチェ」の、音楽、演出両方の端正さが忘れがたい。ともに読み替え演出のドビュッシー「ペレアスとメリザンド」、ヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」も洒落ていた。問題作「ボリス・ゴドゥノフ」は衝撃すぎたけど… クラシックの来日ではエリーナ・ガランチャの「カルメン」が格好良かった。

演劇は野田秀樹「パンドラの鐘」、トム・ストッパード「レオポルトシュタット」が、それぞれ今の国際情勢に通じるメッセージ性で突出していた。井上ひさし「紙屋町さくらホテル」やケラ「世界は笑う」の「表現すること」への情熱や、ともに2人芝居だった温かい「ハイゼンブルク」と不条理をねじ伏せる「建築家とアッシリア皇帝」、そして相変わらずひりつく会話劇の岩松了「クランク・イン!」などが心に残った。

語り芸のほうでは期せずして、喬太郎と三三で「品川心中」を聴き比べ。どちらも高水準。一之輔の脱力も引き続きいい。講談の春陽「津山の鬼吹雪」も聴きごたえがあった。

これからも、のんびりエンタメを楽しめる日々でありますよう。

春陽「お歌合わせ」「木津の勘助」「津山の鬼吹雪」

噺小屋in池袋 卯月の独り看板 神田春陽 2022年4月

神田春陽の東京芸術劇場の会は4回目。声の勢いに磨きがかかって聴き応えがある。シアターウエスト最前列で3300円。仲入を挟み2時間。

開演前のオープニングアクトはお馴染み、岡大介のカンカラ三線。明るく皮肉をきかせて盛り上げる。開口一番は昨夏に続いて神田鯉花が「柳沢昇進録」から「お歌合わせ」。吉保が弥太郎と称していた頃、妻・お染が綱吉の生母・桂昌院に気に入られる顛末だ。「船を山に上げよ」とのお題に、「富士映す田子の浦たの夕暮れに船漕ぎ寄する雲の上まで」と即吟するくだりが鮮やか。
続いて春陽さんで、コロナで発熱してるとき琴調さんから電話がかかってきて、などと笑わせてお得意「木津の勘助」。真の侠客・勘助の啖呵が一段と迫力を増して、いい感じ。

仲入り後はゲストで、仲良しの活動弁士・坂本頼光が登場。弁士は後輩でも劇団民芸出身だったりする、最近20代の後輩ができて、などと振ってから現存する1932年の無声映画「国士無双」。伊丹万作監督のナンセンス時代劇で、偽物なのにやたら強い片岡千恵蔵が格好良い。そしてびっくりの実写版「赤頭巾」。頭巾は白いし、狼役の犬はじゃれてるだけだし、いやー貴重すぎ。
ラストは春陽さんで「津山の鬼吹雪」。山本周五郎の短編を自ら脚色したそうです。浪人ふたりが食うに困って山賊を働こうとし、やさ男の秋津男之助にやり込められる。男之助はふたりを連れて道場破りに行き、たたかう前に「参りました」と言ってカネをせしめるけど、実は凄く強くて、津山の村瀬騎兵衞の道場で美人の娘を襲った浪人・微塵組を蹴散らしちゃう。のちに剣豪として名をなしたという、コミカルで爽やかで、講談らしかった!

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春陽「海賊退治」「河村瑞賢」「長唄 勧進帳」「四谷怪談」

噺小屋in池袋 葉月の独り看板 夜の部 2021年8月

昼の部に続いて、夜の部は三回目の神田春陽さん。けっこう集まったシアターウエスト、昼にもまして前の方中央のいい席で3100円。定刻前から盛り上がってたっぷり3時間。

なんとオープニングアクトに、お馴染みカンカラ三味線の岡大介。40過ぎと思えない朗らかさがいい。酒場の窮地を嘆き、五輪やコロナ対策を皮肉りつつ、三波春夫「大東京音頭」、原点「スーダラ節」、自作の酒呑み歌などを伸び伸びと。本も出版とのこと、何よりです。
続いて前座は神田鯉花(りか)。松鯉さんのお弟子、ちょっと不思議ちゃんの雰囲気。おもむろに眼鏡をとって笹野名槍(めいそう)伝から「海賊退治」。興福寺発祥で山縣有朋も習得した宝蔵院流槍術の達人、若き笹野権三郎が船上で大立ち回りを繰り広げる。何が何やら。
いよいよ春陽さん登場。ワクチンはあっという間、などと愉快なマクラから、今日の四谷怪談はお岩さんが出てこない、前半は怖くないけど夏の話でと「河村瑞賢」。無一文で江戸に出て、車引の親方のところへ転がり込み、なんとお盆のお供え物を引き取って漬物などにして儲けちゃう。ゆったり上方言葉の大物感、文句言いつつ面倒をみる車引の人情、暑い夏の風情がいい。「法華以外は南無阿弥陀仏で」というくだりが偶然、昼の部とつながる面白さも。のちに材木商、廻船で成功した豪商で、大阪の治水工事・安治川(中之島の下流ですね)を指揮した人だそうです。

中入り後、幕が上がると杵屋浅吉。長髪でちょっとサーファー風、訥々とした口調ながら、明晰な解説を交えつつ長唄「勧進帳」ダイジェストを。歌舞伎舞台が目に浮かんで面白かった。佐門会家元七代目杵屋佐吉の長男、母方の祖父が木村功さんなんですねえ。なんてハイレベルなゲスト!
ラストに春陽さんが再登場。浅吉さんが入り口のテロ対策にひっかからなくて良かった、いつもの夏なら「キジバス」で怪談を口演する、お祓いに行って夫婦喧嘩を聞かされ…と笑わせ、歌舞伎の南北作「東海道四谷怪談」は当時の事件を複数取り入れていて、長屋の舞台は雑司ヶ谷、講談バージョンは元ネタのひとつ「四谷雑談集」に近い、と解説し、眼目の四谷怪談から発端の「於岩様誕生」へ。
田宮又左衛門の一人娘おつなは、病気のために醜く婿のなり手がいない。ある寒い日、なんと父が奉公人・伝助を「娘の部屋は暖かいぞ」とけしかけ、叔父のところへ身を寄せて所帯をもつ。なんだかコメディだな…と油断してたら、後半は凄く怖くなる。気のいい伝助が、トンデモ武士が発作的にひき起こした金貸し夫妻の殺しに巻き込まれ…と、お岩さん誕生につながる因果を語る。病気による差別とか、天井から…とか、実に陰惨で、春陽さん、凄みあり過ぎです。怪談はいつも、怖いのは幽霊なんかじゃなく人間なんだよね。ぶるぶるっ。
いやー、盛りだくさんでした!

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講談「山中鹿之助 」「河内山宗俊」「復讐奇談安積沼 」

春陽党大会2021・夏  2021年7月

ちょっと久々の神田春陽さん。知人にも久々遭遇の神保町らくごカフェ、予約で2300円。

前座は神田伊織で「山中鹿之助」から「清水寺の見染」を勉強。後の山陰の麒麟児が修行中の若き日、京で公家のお姫様と出会う。端正、はきはき。
続いて神田春陽が登場すると、がらっと雰囲気が変わる。ワクチン話で笑わせてから、歌舞伎でもお馴染み天保六歌撰を解説して「河内山宗俊」の「丸利の強請」。悠々とした口調から、悪を悪とも思わない大者感が伝わってくる。

仲入り後はゲストの三遊亭天どん。3代目三遊亭圓丈の門下。初めて拝見したけど、ふにゃふにゃして不思議な雰囲気だ。張り扇、釈台をぎこちなく使い「今日は講談を聞けたから満足」「真景累ヶ淵とかやるけど、名前忘れちゃうんだよね」(六代目三遊亭圓生の孫弟子!)と脱力のマクラから、夏らしく?経営不振のお化け屋敷の新作。リニューアル担当がお化け役を相手に、「昭和の会社あるある」を繰り出して笑わせる。
最後は再び春陽さん。昨秋に神田明神のイベントで、児玉竜一早大教授の「デジタル妖怪引幕」解説とともに読んだエピソードを語り、コハダだけに回転寿司話で笑わせてから、本日の眼目「復讐奇談安積沼(あさかのぬま)」の「木幡小平次」。これは怖かった! 北斎「百物語」にも登場する幽霊役者の小平次が、旦那の二代目団十郎をしくじって旅回りに出ているところ、女房の密通相手の悪党兄弟に郡山・安積沼へ突き落とされて落命。「本物」の幽霊となって江戸に舞い戻る。山東京伝の原作を「桜姫」の大南北が歌舞伎化、映画や小説にもなってるんですねえ。殺しシーンの陰惨さもさることながら、いとも軽く殺すことにしちゃう悪党たちの刹那感が凄まじい。ゾクゾクしました~

鈴本「新版三十石」「つる」「初天神」「洒落将棋」

令和三年正月初席・吉例落語協会初顔見世特別講演「新春爆笑特別興行」第三部 2021年1月

初笑いで、けっこう入っている上野鈴本演芸場へ。人気者・ベテランの豪華メンバー、めでたい色物も楽しい。中央あたりで3500円。短い仲入りを挟み、3時間半たっぷり。

三増紋之助の干支の牛が登場する曲独楽に始まり、柳家小平太「代脈」、柳亭燕路「狸の札(狸の恩返し)」、笑組の漫才と古風なリレー。お楽しみ宝井琴調の講談「堀部安兵衛と浅野内匠頭の出会い」はなんとも豪快で格好いい。古今亭志ん橋(志ん朝門下)の「親子三人馬鹿」は与太郎家族が竿で星を落とそうとするという場面がファンタジー。ギター・ペペ桜井&リコーダー・のだゆきの「春の海」でびっくりし、桃月庵白酒は「新版三十石」がさすがの安定感。ひどい訛りの浪曲師が「石松三十石舟」を語る。志ん生「夕立勘五郎」を師匠・五街道雲助がアレンジしたそうです。白酒には熱心なファンがいますね。柳家小里ん(小さん門下)「親子酒」、粋な柳家小菊の粋曲を挟み、お待ちかね柳家権太楼が「つる」。いつもながらチャーミングだなあ。

仲入り後は太神楽社中の初春らしい寿獅子があり、春風亭一朝がお馴染み「初天神」を短めに。この噺にしては上品かな。続いて江戸家小猫が鷹だのヌーだのシマウマだの、いつものマニアな鳴き真似を朗らかに。そしていよいよ柳家喬太郎。なんと「つる」のウルトラマンジャックバージョンで大爆笑。紙切り林家正楽の見事な獅子舞やヌーを挟んで、トリは柳家三三が、都知事要請で「初天神」は禁演になっている、世の中何があるかわからない、まさか寄席でウルトラマンとは、などと笑わせて「洒落将棋」。「浮世床」の煙管と鬢付の悪戯部分で、圓生バージョンらしいです。バカバカしくも、夢中で悪戯に気づかない2人のリズムが絶妙。面白かったです!

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講談「天保六花撰」「牡丹燈籠」

春陽党大会 2020年7月

本当に久々のエンタメで、そろりと神田春陽さんの講談独演会へ。席少なめの神保町らくごカフェで。2300円。
前座は田辺凌天で、「寛永宮本武蔵伝ーー吉岡治太夫」。京に道場を開いた達人・吉岡治太夫の門弟、商家の清十郎が、ひょんなことから別の道場で勝負して卑劣な目に遭い、治太夫が乗り込んでいく。田辺凌鶴のお弟子さん、リズムがまだまだかな。
師匠が登場して、期待通り反骨の前フリから、予告していた「天保六花撰ーー丸利の強請」。神田橋で出会った暗闇の丑松に金を無心された河内山宗俊が、日本橋・丸屋利兵衛の店で煙草入れを誂えたいと言って、珊瑚樹の緒締めをくすねたうえ、疑いをかけられたと凄んで、まんまと100両をせしめちゃう。やっぱりピカレスクは痛快。

仲入り後は塩原庭村(杵屋三七郎)で、長唄と三味線。さらさらとお座敷遊びの雰囲気だ。季節感豊かで、いい。
後半の師匠は、季節の定番「牡丹燈籠ーーお札はがし」。萩原新三郎が白翁堂勇斎からお露は幽霊だと知らされ、お札で幽霊封じをするものの、隣の伴蔵・お峰夫婦が…というくだりですね。安定。


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