講談

講談「貧乏業平」「潮来の遊び」

講談協会定席皐月  2017年5月

日本橋亭講談夜席へ。遅れて後半だけだったけど、1時間半でお得な1000円。

まず気風のいい女流の一龍斎貞寿。4月に真打に昇進したばかりだそうです。昨夜、ドアノブに目をぶつけた痛そうな話、でもネタはお岩さんじゃないです、と笑わせてから「貧乏業平」。出世する前、若き日の紀伊國屋文左衛門は美形だけど貧乏で、貧乏業平とあだ名されてた、その蔵から、骨董屋が安く古道具を仕入れるけれど、なかなか儲からない、といったお話。

続いてお目当ての本日の主任・神田春陽が登場。いつものように軽妙に語り始めて「潮来の遊び」。下総を舞台にした長~い侠客もの「天保水滸伝」の一部だけど、お話はまるきり落語「明烏」。飯岡助五郎の召し捕りを笹川繁蔵に内通した質屋・荒生(あらおい)の留吉の息子、留次郎が堅すぎるので、遊びに連れて行く…。これは普遍的な、憧れの展開ということかな。しつこ過ぎず、程よい色気。

講談「徳川天一坊」

講談「徳川天一坊」より「網代問答」 2017年1月

伝統芸能好きが集まる遅い新年会で、トークショーのあと神田春陽さん。聴くのは2回目の「網代問答」。

自称吉宗のご落胤・天一坊に、幕臣がすっかり丸め込まれている。ひとり大岡越前守が、なんと人相から!疑念を持ち、一味の参謀・山内伊賀亮を追及する。飴色網代蹴出しの駕籠の乗るのは、宮家の乗物なのでけしからん、等々。
いわゆる大岡裁きではなく、大岡の指摘を次々論破していく伊賀の、悪の魅力が眼目の名場面とのこと。ただ前回に比べて、今日は滑らかさが今ひとつだったかな~

よみらくご「寄合酒」「やぶのなか」「礒の鮑」「短命」「七段目」「宗悦殺し」

第9回よみらくご新春スペシャル~権太楼、成金に吠える~  2017年1月

気になっていた落語芸術協会二ツ目による人気ユニット「成金」に、主流派・落語協会のベテラン柳家権太楼がコメントする、盛りだくさんの会。若手の勢いが文句なしに楽しい。熱心なおじさんファンの掛け声が目立つ、よみうり大手町ホール、上手寄りやや後ろの方で3900円。中入りを挟み3時間弱。

開演に少し遅れて、若手5人が並んだトーク中に滑り込む。互いにプレッシャーをかけあったところで、トップバッターは82年生まれの春風亭昇也。自身は妻帯者で、師匠昇太を結婚させるミッションとかをハキハキ語り、「寄合酒」。町内の呑み会で、それぞれ肴を調達しようとするが、カネが無い。乾物屋を荒らし、空き地でとんだ拾い物。さらに贅沢な出汁を捨て、お燗番が肝心の酒を飲んじゃう。人物が多いせいか、やや説明調だけど、嫌味がなくて手堅い。
続いて81年生まれの瀧川鯉八。落語理論には3つあって、談志「業の肯定」、枝雀「緊張と緩和」、そして昇也(人は毎回違うらしい)「会話の妙」、この3つ目に逆らいます、と振って新作「やぶのなか」。新婚夫婦と妻の弟、その恋人の日常シーンの嚙み合わなさを、それぞれへのインタビュー形式で。
鯉昇さん門下とは思えないシュールな語り口で、個性は突出しているけど、私にはねちっこ過ぎるかなあ。
そして88年生まれ柳亭小痴楽。細身で髪がフワフワのイケメンだ。意外にイヤらしくスナック体験を語って、「礒の鮑」。隠居に作法を教わり、吉原に出掛けた与太郎がトンチンカンを繰り広げるオウム噺。若いのに崩れた色気がある。5代目痴楽の長男で恵まれながら、破門されたり二ツ目昇進直前に父を亡くしたりと逸話が多い人だそうで、やんちゃキャラに期待。
ここで権太楼が登場し、余裕の「短命」。ご隠居から「夫の命を縮めるいい女」の話を聞いた男が、家に帰って女房から茶碗を差し出され… 
ずいぶん前に志らくで聴いて、あまり印象に残らなかった噺だけど、この人にかかると間合い、適度な色っぽさが巧い。

中入り後は76年生まれ、おにぎり顔の桂宮治。家族持ちで30過ぎに入門したとかで、「師匠の後はやりにくい」「イケメンはイケメンなのに面白い、と言われるけど」と繰り返し、自信満々の前半組に比べて遠慮気味だ。「国立演芸場の隣」国立劇場での観劇の話題からお馴染み「七段目」。盛り上がるところで下座が入り、「初めてなんです~」と戸惑っちゃう。素直な明るさは、本日いちばん噺家らしいのでは。楽しみ。
トリは昨秋に聴いてびっくりした、お待ちかね講談・神田松之丞。眼鏡をはずし、83年生まれとは思えないふてぶてしさで「扇の的くらいで、と思ってたんだけど」とつぶやき、円朝の創作の経緯から、なんと「宗悦殺し」。喬太郎さんや講談・春陽さんで聴いたことがある。凄惨なシーンに引き込む力が凄い。ちょっと運びが重すぎるかなあ。

いったん下げた緞帳を開いて全員が並び、権太楼さんの講評。昇也には「昇太譲りの軽さがいい。下ネタをもっと軽く」、鯉八には「わかりません」と一言、小痴楽には「ネタはいくつ?」「7、80」「今のうちに200は覚えて、絞っていけ」と厳しく、宮治には「歌舞伎そんなに好きじゃないでしょ」とばっさり(実は「道灌」のつもりが、権太楼さんにけしかけられてチャレンジしたらしい)、「いや、だから芝居に走らないところがいい、そのままの勢いで」、そして松之丞には「評判通り巧いねえ、演芸界を背負ってく人」。師匠の温かさに触れ、手締めで幕となりました。

Rakugo


講談「木津の勘助」「浜野矩随」

講談協会定席 神無月 2016年10月

思い立って日本橋亭講談夜席へ。1800円。
宝井琴調「出世の富くじ」の途中から滑り込む。貧乏武士が年の瀬の湯島天神で富くじを買い、なんと千両をあてるが、賢い妻に諭され、くじを燃やしちゃう。それが評判を呼んでトントン出世。かつて助けた小僧と再会する、気持ちのいい話。くじを当てたときの喜びようやら、巷の噂の芸能ネタやら笑いが多く、いつもながら気風がよくて、格好いい。
中入り後は一龍斎貞友で「木津の勘助」。2年前に春陽さんで聴いた演目だ。ぽっちゃりして愛嬌がある。

主任はお目当ての神田春陽で、怪しいテレフォンカードと談志さん、伊香保のとんだお宝といったマクラから「浜野矩随(のりゆき)」。腰元彫り名人の息子なのに、なかなか腕が上がらない矩随が、いつも2朱で買ってくれる若狭屋にさんざんけなされて死を覚悟。しかし母から形見にと請われ、精魂込めて彫りあげた観音が傑作となり、若狭屋が50両の値をつける。その間に母が息子の身代わりにと自害する驚きの展開。矩随は悲嘆を乗り越え、名人となっていく。落語にもなっている演目ですね。退路を断って開眼する、芸に通じる壮絶な話を、テンポよく聴かせてくれました。

講談「北斎と遠山」「山内一豊」「大岡政談 徳川天一坊」

春陽党大会  2016年6月

神田春陽さんの講談の会。らくごカフェの受付でご本人が出迎るアットホームさが嬉しい。2000円。休憩を挟み2時間。

まず柳家さん喬門下の二ツ目・柳家やなぎが、電車移動で見かけた自転車のマクラから新作落語「自由が丘由来」。「うちは田園調布のセレブなんだから、上品に暮らせ」と言い張る親に対し、娘が「嘘よ、本当は等々力じゃない!しかも飛び地。最寄の武蔵中原から通いたい!」と憤懣をぶつける。馬鹿馬鹿しくて可笑しい。ちょっと緩急がわざとらしいかなあ。

続いて春陽さんが、2月に亡くなった神田陽司さんの思い出を語る。新作が得意だったこと、木戸銭「当日ライブドアの株価の倍」の会で受付を手伝った思い出、勧められて断ってきた新作を今夜はやってみようかな、という振りから「北斎と遠山」。大樽から富士を眺める「尾州不二見原」の大胆な構図の由来、反骨の北斎が浅草寺での即興イベントでおとがめを受け…と、なかなか面白いドラマでした。
続いて「特別出演」のコブトリーズとなり、誰かと思えば春陽・やなぎが並んで登場。初めて観る「茶番(ピン)」で、語源は大部屋役者の下手な即興劇というけど、ちゃんとした寄席の芸なんだなあ。五段目が定番だそうですが、今回は寿曽もののパロディーで、殿さまと家来の道行をギャグにしてました。

休憩を挟んで一龍斎貞鏡。8代目貞山の娘さんで、粋な感じの二ツ目。コブトリーズが鏡を揺らすので着替えに苦労した、などと笑わせてから、1月に春陽さんで聴いた「山内一豊」。さあ、ここからが修羅場ですよ、などと解説を入れつつメリハリが利いている。
トリは春陽さんで「大岡政談 徳川天一坊」。コブトリーズからうってかわって正統派。2014年の真打お披露目でも聴いた演目だけど、トントンとリズムがよく、迫力も備わっていい感じでした。面白かった!

講談「山内一豊の妻」

山内一豊の妻  2016年1月

伝統芸能好きが集まる恒例新年会で、神田春陽さんの講談を聴く。「新年の抱負で『現状維持』って言ったら叱られたので、今年は変えます。『来年は頑張る』」と笑わせ、「大河ドラマになっている真田もののリクエストが多いんだけど、あえて違う題材で、新年らしくめでたい出世もの」という振りから「山内一豊の妻」別名「出世の馬揃え」へ。

信長の配下で岐阜にいたころの話。300文持って、誕生日祝いの肴を買いに出かけ、馬市で名馬を見つけたが、金2枚でとうてい支払えない。それを聞いた賢夫人が、母に持たされた鏡の裏から、金3枚を取り出して渡し、馬を手に入れる。実は山内家に縁があった馬喰もついてきて、屋敷を馬小屋と間違えちゃうギャグも。やがて信長が催す流鏑馬で、天・地・人の的を見事に射抜き、出世街道に踏み出していく、というお話。

ちょっとリズムの悪いところがあったけど、声に張りがあり、明るくて良かったです。

浪曲「山の名刀」「大井川乗り切り」

通う火曜亭  2015年11月

落語、講談ときて、ついに浪曲初体験。会場は田原町にほど近い日本浪曲協会の大広間だ。といっても協会の建物は、雑居ビルの谷間にある単なる民家にしか見えず、広間は親戚が集まる居間といったイメージ。奥の金屏風の上に、なんと孫文が「雲右衛門君」に送った「桃中軒」の額がかかる。スケールが大きいんだか小さいんだか。1500円。

床に並べた2、30のパイプ椅子が、意外に幅広い老若男女で埋まり、演台正面の席に陣取る。前座は富士実子で、結い上げた髪が色っぽい。
演目は講談「善悪二葉の松」を脚色したという、「山の名刀」だ。孝行者が木曽山中で山賊の家に迷い込み、カネを巻き上げられる。唯一持ち帰った刀が思いがけず高値で売れ、正直に代金を届けに戻るあたりは「井戸の茶碗」のようであり、実は生き別れの兄とわかった山賊が罪を悔い、いきなり自害しちゃうあたりは、文楽でお馴染みモドリであり。浪曲は明治後期かに興隆した演芸だけど、古典の流れを感じますねぇ。

続いて眼目の玉川奈々福が登場。三味線出身の変わり種で、はきはきと明るく、啖呵のテンポが良い。上手の衝立を外して、2席をつとめるベテラン曲師・澤村豊子さんの居候話などで笑わせつつ、「体力がいる演目です」と振って、「曲垣と度々平~大井川乗り切り」。武芸講談「寛永三馬術」の一部をアレンジしたそうです。
最前列で聴くと鼓膜が痛いような大音声に、まずびっくり。立ったまま身振り手振りで勢いをつけつつ、節(ほぼ演歌)を朗々と歌う。歌があるから落語より女性に合っているかも。
前半は丸亀生駒家出身の浪人・曲垣平九郎と中間・度々平が、江戸に向かう途中で空腹に苦しむくだりで笑わせる。後半はいよいよ、困っている親子を助けようと、濁流渦巻く大井川に乗り入れていくスペクタクル。度々平の正体は、曲垣の馬術を盗もうとする3名人のひとり、向井蔵人。曲垣はその企みを見破りながらも、技と力を駆使して救い出す。古臭いんだけど、「おぬし、やるな?」というプロ同士の気脈と、ワンピースみたいな超人ぶりが普遍的だ。

1時間ちょっとで終わると、聴衆自らその場に長テーブルと座布団を並べて茶話会へ。持ち込みの日本酒や稲荷寿司、みかんも配られ、和やかに語り合う。遠方から通うディープなファン、やはり浪曲デビューの女性、若い尺八奏者、手持ちカメラでドキュメンタリーを撮影している監督と、メンバーは多彩。80歳近い豊子師匠が、小柄で可愛かったです。

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「荒大名の茶の湯」「赤垣源蔵徳利の別れ」

HIDE講談の夕べ  2015年10月

花園神社の真裏、新宿ゴールデン街にあるHIDE(ハイド)で、神田春陽さんの講談を聴く。こぢんまりしたバーが満席だ。ワンドリンク付き2000円。

マクラもそこそこに「難波戦記」から「荒大名の茶の湯」。笑えて汚くて、講談にはこんなギャグ話もあるんだ、とびっくり。秀吉の死後、本多正信が福島正則、池田輝政、浅野幸長、黒田長政、加藤嘉明といった武将の面々(名前を言うのが大変)を茶の湯に招くが、みな荒くれ者で作法には疎い。唯一心得がある細川忠興を真似するものの、碗を回すほどに無茶苦茶になっていく。加藤清正に至っては長い顎髭が、びっしょり茶に漬かっちゃう始末。
大坂夏の陣から400年、2016年には真田幸村が三谷大河の主人公にもなるとあって、勉強してみたい題材。今回はまるきり落語のシーンだったけど、それぞれ登場人物のキャラもたってるし、聴きごたえある演目なんだろうな。

続けて2席目は、お馴染み「義士銘々伝」から「赤垣源蔵徳利の別れ」。素浄瑠璃や、別の講談師さんで聴いたことがある感動ストーリーだ。
源蔵の酒呑みぶりなどはさらっと語って、羽織を留守の兄に見立てて盃を交わすあたり、泣かせます。翌朝、討ち入りの知らせを聞いた兄が、駆けつけたいけど主家に迷惑がかかっては、と思いとどまるあたり、切ないなあ。
面白かったです。

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「真景累ケ淵」より「宗悦殺し」

「真景累ケ淵」より「宗悦殺し」  2015年8月

昨年に続いて、古典芸能好きの集まり・古遊座で、神田春陽さんの蝋燭怪談。今年は物語の発端「宗悦殺し」で、同じ春陽さんの講談や、喬太郎さんの落語でも聴いたくだりだ。暮れゆく青山スパイラルのラウンジで、和蝋燭1本の灯りに頼る江戸の雰囲気を味わう。30分強。

酒癖の悪い深見新左衛門が座頭の宗悦を斬り、下男・三吉を巻き込む。淡々としたなかに長大な巡る因果につながる、人の罪深さを感じさせる。
前後に座元・東雲喜光さんをまじえた解説があり、妖怪と幽霊の違い(化け物は?)、落語、講談、歌舞伎のヨコのつながりなどを聴く。

講談「名月若松城」「次郎長と伯山」「鋳掛松」「横谷宗珉」

日本橋亭 講談夜席 2015年5月

昨年真打に昇進した神田春陽が、定席でトリをつとめる夜席に、1席目の途中から滑り込んだ。お馴染みが集まった感じのお江戸日本橋亭、自由席で1800円。中入りをはさみ2時間45分。

2席目は神田山緑で「名月若松城」。戦国武将・蒲生氏郷は、岩石城で西村権四郎に救われたことをなかなか認めない。西村も主君をたてちゃえばいいものを、真実をまげず、とうとう会津若松の城中で相撲をとって投げ飛ばしてしまう。どこか稚気が漂う主従の物語を、はきはきと。
続いてベテラン一龍斎貞心で「次郎長と伯山」。ずばり、明治期に八町荒らしと呼ばれた伝説の講談師の人情話だけに、爽やかだ。次郎長と交流があり、その伝記を提供したのに、落ちぶれて熱海にいた松廼家京伝を、次郎長伝で人気を博した伯山が支援する。感謝した京伝は、やがて幽霊となって伯山の高座に客を呼んだという。巻き舌で気風のいい伯山の造形が、いかにも講談らしい。

短い中入り後は、お待ちかね宝井琴調さん。差し入れの泡盛でいい気分、と言いながら、調子よく「鋳掛松」。ラストにちょっともたついたけど、絶品です。
お話は堺利彦が大正期に書いたといい、格差の不条理を描く社会派講談だ。時は天保年間、鋳掛屋の息子・松五郎は頭が働き過ぎて、奉公先から戻されちゃうほど。そんな才能あふれる若者が、ある夏の日、両国橋の上からどこぞの若旦那が贅沢に遊ぶ船を眺めて、この世の不公平に思い至り、ぱあっと商売道具を川へ投げ捨てる。フランス映画のワンシーンみたいに鮮やかだなあ。その後、鋳掛松は盗賊になって破滅。黙阿弥が白波ものにしているそうです。

トリは待ってました春陽さん。体調不良から復活してラーメンを食べたこと、先日の成田山の巨大牛蒡のことなど、つらつらと話してから「橫谷宗珉」。
腰元彫(刀剣装飾の彫金)職人・
宗三郎は、師匠の橫谷宗珉に破門され、紀州に流れ着く。旅籠の主人の眼力に感服、居ついて仕事を始め、殿様から注文を受けるまでになったが、酒を呑んでばかり。しかし、ついに主人の忠告をいれ、滝に打たれて素晴らしい作品を彫り上げる。
後の名人・
一龍斎橫谷宗珉の若き日というわけで、芸術がテーマだけに味わい深く、テンポもいい。ちょっと落語っぽかったかな。初代の宗珉は英一蝶と交流があったり、落語「金明竹」に出てきたりするそうです。面白かった!