クラシックコンサート

JNOベートーヴェン「コリオラン」「交響曲第2番」「ピアノ協奏曲第5番」「ピアノ協奏曲第4番より第2楽章」

反田恭平 Japan National Orchestra 2024夏ツアー 2024年9月

ピアニスト反田恭平がプロデュースする楽しみなコンサート。若いソリスト集団がきびきびとして、客席も応援ムードで気持ちが良い。ステージ後方までよく入ったサントリーホール大ホール、前のほう上手寄りで8000円。休憩を挟み2時間。

プログラムはオールベートーヴェン。反田くん指揮で、まず序曲「コリオラン」作品62。30代半ばのベートーヴェンが、人気の悲劇に刺激を受けて作曲し、原作者に献呈したとか。ハ短調で重苦しく、ラストの繊細なピチカートが格好良い。
続いて交響曲第2番ニ長調作品36。弦楽器の膨らみから、木管の変化、第3楽章の力強いスケルツォを経て、複雑なリズムの終章へと、変化に富む。

休憩後はセンターにピアノをすえて、ピアノ協奏曲第五番変ホ長調「皇帝」作品73。反田くんの弾き振りは、華やかな技巧を披露しつつ、時折立ち上がりピアノに乗り出すように指揮していて、大忙しだ。フランス革命に騒然とするウィーンの地下室で、独奏とオケがアンサンブルする形式を生み出し、ロマン派以降の協奏曲につながったという。そんな合奏が盛り上がる第1楽章、穏やかな第2楽章、続いて第3楽章はピアノとオケがやりとりしながら、力強く加速していく。大拍手。
アンコールはピアノ協奏曲第4番ト長調作品58より、第2楽章Andante con motoでした~

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ブダペスト交響楽団「セビリアの理髪師」「リスト ピアノ協奏曲第1番」「チャイコフスキー 交響曲第5番」

ハンガリー・ブダペスト交響楽団 2024年6月

炎のマエストロ小林研一郎指揮、ピアノは2001年生まれ22歳の亀井聖矢(まさや)という期待のコンサート。年配のかたが多く温かい雰囲気の武蔵野市民文化会館大ホール、前の方の良い席で7000円。休憩を挟み2時間。

のっけからコバケンが、独特のとつとつとした口調で、50年にわたるオケとの縁を語る。30代になっていた1974年の第1回ブダペスト国際指揮者コンクールで、120曲の課題曲からベートーベンとロッシーニを引き当て、第一位となって飛躍したそうで、まずその「セヴィリアの理髪師序曲」を朗らかに。お馴染みヴァイオリンとヴィオラのユニゾンの第1主題が美しい。
続いてピアノを前方に移して、すらっとした亀井君が登場。技巧が華やかなリスト「ピアノ協奏曲第1番変ホ長調」を存分に。1楽章、弦楽器に続く導入からパワフルだ。楽器の応酬が美しい2楽章に続き、3楽章はトライアングルとの掛け合いを可愛く。そこから4楽章にかけて、アクションもどんどん大きくなり、ペダルを踏む足にも力がこもって盛り上がる。
拍手鳴り止まず、何やら話していたコバケンがバイオリンのかたと一緒に座っちゃったと思ったら、なんとピアノソロのアンコールで「ラ・カンパネラ」。力任せの感じもあったけど、たいしたスターぶりです。2022年に若手登竜門のロン・ティボー国際音楽コンクール第1位、飛び級の桐朋学園大をへて独カールスルーエ音楽大に在籍とのこと。精力的にツアーもこなす。伸び伸び活躍してほしいなあ。

休憩のあとは、こちらも民族風味がキャッチーなチャイコフスキー「交響曲第5番ホ短調」。1楽章でクラリネットが重々しい「運命の主題」を奏で、ポーランド民謡の旋律も。低弦に始まる2楽章はホルン、オーボエが美しい。ワルツの3楽章をへて、4楽章は「運命の主題」を軸にこれでもかと壮大に。コバケンは振り返り、客席後方を眺めちゃって、雄大な大地がみえるよう。ロシアは難しい情勢だけど、文化に罪は無いものね。
大拍手のあと、コバケン流で、とコメントして、ブラームス「ハンガリー舞曲」! ゆったりとした導入から徐々に熱を帯び、スカッと幕となりました~

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脇園彩リサイタル

脇園彩メゾソプラノ・リサイタル 2024年3月

昨秋の「ノルマ」が見事だった脇園彩の、メゾらしいオールロッシーニのリサイタルへ。しかも代表作「セビリアの理髪師」など喜劇ではなく正歌劇(悲劇)を選び、ロールデビューの準備など、明確な意図を感じさせる知的なプログラムだ。リズミカルな歌曲は、名声と恋に彩られた作曲家の人生を掘り下げている感じかな。
後半ちょっと疲れた箇所もあったけど、まっすぐ響く芯の強い声と驚異的なアジリタ、長身で姉御っぽい魅力を堪能。まさに充実期に巡り会う幸運を思う。ピアノはコレペティトールとして著名劇場に関わり、著名歌手からの信頼も厚いというミケーレ・デリーア。紀尾井ホールの前のほう、中央の良い席で6000円。休憩を挟んで二時間。

幕開きはナポリ時代のオペラ「湖上の美人」から聡明なヒロイン、エレナ登場のアリア。2015年METで極め付けディドナートを聴いた夢心地が蘇る。ロッシーニが恋人イザベラ・コルブランを前提に書いたとか。脇園さん、はまり役です。
同時期の歌曲を挟み、オペラ「イングランドの女王エリザベッタ」冒頭の女王のアリアで技巧が炸裂。10月にパレルモのマッシモ劇場でロールデューするそうで、練り込み中ですね。ちなみにこのオペラの序曲は「セビリアの理髪師」序曲に転用されているとか。ロッシーニがオペラ引退後のパリ時代、私的サロンのために書いた「音楽の夜会」の楽しい歌曲のあと、前半ラスト「湖上の美人」のフィナーレは、2オクターブを超える音域とジェットコースターのような超絶技巧を堂々と。聴衆いやがおうにも盛り上がる。

休憩を挟んで後半は、珍しい歌劇「ビアンカとフェリエーロ」からズボン役の将軍ファッリエーロの凱旋のアリア。こちらは夏に、生地ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティバルでロールデビューを予定しているとのことで、またまた技巧満載。そして息つく暇なく「オテッロ」のデズデモーナの長大なアリアを、叙情たっぷりに。オペラ歌手だなあ。
いったんピアノソロとなり、ロッシーニが晩年、パリの自宅サロンなどで披露した小品集から。よく知られたオペラの旋律がオムニバスになっていて、題名を言いながら弾くスタイルが楽しい。大詰めはナポリ時代に戻って、歌劇「マホメット2世」から敵将への愛と祖国ベネツィア領ネグロポンテに対する義務に引き裂かれるヒロイン、アンナのアリア。オペラ終盤の高ぶる感情を、三連音で切々と。ラストは再び「ビアンカとファッリエーロ」から、クライマックスで死を覚悟したファッリエーロのアリア。めまぐるしい音の動きをドラマチックに聴かせました~
オペラは暗譜、歌曲は譜面台を置くスタイルでした。

これだけでも十分だけど、そこは脇園さん、アンコールもたっぷり。お待ちかね喜劇から定番「セビリアの理髪師」からロジーナのアリア、そして同時期の「イタリアのトルコ人」からヒロイン、ヒィオリッラ(ソプラノ!)のアリア。そして20世紀初頭の米国で、オペレッタやミュージカルでも活躍したハーバートを1曲。サービス精神あふれるエンタテナーぶりに感服しました。

ロッシーニは誕生日が1792年の2月29日。プログラムには「昨日は58回目の誕生日だった」と洒落た紹介も。ロビーでは同僚やエンタメ仲間と会いしました。
以下セットリストです。

・歌劇『湖上の美人』より「おお暁の光よ」
  ”O mattutini albori” from La donna del lago
・「ひどい女」 Beltà crudele
・「吟遊詩人」 Il Trovatore
・歌劇『イングランドの女王エリザベッタ』より「私の心にどれほど喜ばしいことか」
  ”Quant'è grato all'alma mia” from Elisabetta Regina d'Inghilterra
・「約束」 La promessa
・「誘い」 L'invito
・歌劇『湖上の美人』より「胸の想いは満ち溢れ」
  ”Tanti affetti in tal momento” from La donna del lago
・歌劇『ビアンカとファッリエーロ』より「アドリアのために剣を取るなら」
  ”Se per l'Adria il ferro strinsi” from Bianca e Falliero
・歌劇『オテッロ』より「柳の歌〜祈り」
  ”Canzone del salice〜Preghiera” from Otello
・『老いの過ち』第9巻より 「我が最期の旅のための行進曲と思い出」 (ピアノソロ)
  “Marche et Réminiscences pour mon dernier voyage” from Péchés de vieillesse
・歌劇『マホメット2世』より「神よこの危機のさなかに」
  “Giusto ciel in tal periglio” from Maometto II
・歌劇『ビアンカとファッリエーロ』より「お前は知らぬ、どんなにひどい打撃を」
  “Tu non sai qual colpo atroce” from Bianca e Falliero
【Encore】
・歌劇『セビリアの理髪師』より「今の歌声は」
  “Una voce poco fa” from Il Barbiere di Siviglia
・歌劇『イタリアのトルコ人』より「これより馬鹿げたことはないわ」
  “Non si dà follia maggiore” from Il Turco in Italia
・V.ハーバート:Art is calling for me

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反田恭平&ジャパン・ナショナル・オーケストラ

反田恭平&ジャパン・ナショナル・オーケストラ コンサートツアー2024  2024年2月

去年秋、大雨の中で聴いた東大寺奉納公演以来、五か月ぶりに反田恭平&JNO(ジャパン・ナショナル・オーケストラ)の コンサートへ。若さ溢れるオケと、指揮者・反田くんのオケへの愛情、キラキラしたピアノで幸せ一杯だ。ファンが集まった感じのサントリーホールのなんと3列目、指揮とピアノがよく見える上手寄りで8000円。休憩を挟んで2時間。
前半は意欲的に、まずラヴェルの組曲「クープランクの墓」(管弦楽版)。一次大戦で亡くなった友人6人の追悼がテーマだそうで、6曲の変化にメリハリがあり、木管が活躍。大がかりな舞台転換があって、2曲目は技巧派プーランクの「 ピアノと18の楽器のための舞踏協奏曲『オーバード』FP51a」は、なんとヴァイオリン不在でヴィオラがトップ。冒頭から響く金管楽器のファンファーレも重々しい。ピアノは上手側に鍵盤が向く配置になり、ティンパニとの激しい打楽器対決など手元がよく見えて面白かった。それにしても指揮とピアノ、忙しすぎ。

休憩を挟んで後半は、聴いて安心なモーツアルト。3曲目はお馴染み「歌劇『ドン・ジョヴァンニ』序曲 K.527」。舞台の華やかさと衝撃が目に浮かぶ。反田くんは将来オペラを指揮したいので序曲から勉強しているそうだ。いつか聴くぞ! また舞台転換があって、ラストはドラマティックに「 ピアノ協奏曲第20番ニ短調」。ピアノが中央、客席に背を向ける配置になり、今度は右側からじっくり。なんて美しい音楽。

アンコールもまずモーツァルトで、「クラリネット5重奏曲イ長調」2楽章。セットを下手に寄せ、JNOの5人が立って演奏。イタリア出身のクラリネット、ベヴェラリの表情が豊かで、和やかな空気が会場に満ちる。舞台上の椅子に座って見守る反田くんもいい。
そして反田くんがピアノソロで「シューマン(リスト編曲)献呈」を披露。シューマンが歌曲集「ミルテの花」で、妻クララに送ったシンプルな原曲を、リストが装飾たっぷりに編曲したという、超絶技巧が満載。音の粒が優しく、キラキラと立ち上って宝石箱のようでした~

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JNO東大寺奉納公演

東大寺開山良弁僧正1250年 御遠忌慶讃 東大寺奉納公演 2023年10月

奈良を拠点に、反田恭平が率いるJapan National Orchestora(株式会社!)が、自ら主催する公演。なんと東大寺大仏殿の前庭の野外特設会場で。雨天決行のところ、あいにくの土砂降りとなってしまい、2000人近い熱心な観客が、入口で記念品と共に配られたポンチョに身を包んで、滝行のように聴くというシチュエーション。野外用の貸し出し楽器を使ったとのこと。それでも雨音と同時に鐘の音が聞こえたりして、世界で活躍する若い音楽家たちのエネルギーと、雄大な古都の歴史を思う貴重な時間。2万円。

まずショパン「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ作品22」の協奏曲バージョン。反田氏の祈りのようなピアノソロから、ホルンのファンファーレで、民族舞曲ポロネーズに至る展開がダイナミック。ロシア支配下のポーランドを思う曲だものなあ。オーボエの荒木奏美らが活躍。奉納ということで、大仏に向けてピアノを配置していた。
休憩を挟んで後半は、ブラームス「交響曲第1番ハ短調 作品68」。ブラームスが偉大なベートーヴェンを意識したか、完成に20年をかけたという最初の交響曲。ホルン、テューバ、ファゴットが多めの編成で、短調から長調に至る雄大な演奏。岡本誠司は果敢にコンマスソロ。

開演前には二月堂まで足を運び、文楽でお馴染み、初代別当の伝説で知られる良弁杉も観ました~

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Music Dialogue「モーツァルト弦楽五重奏曲第5番」「ブラームス弦楽録重奏曲第2番」

Music Dialogue ディスカバリー・シリーズ2022-2023 vol.3  2023年3月

対話を通じて室内楽を楽しみ、若手音楽家を応援する一般社団法人Music Dialogueの演奏会に、足を運んでみた。ヴィオラの大山平一郎芸術監督が指導し、事前にリハーサル初日が拝聴できて、聴衆も支援者ら少人数。解釈を合わせ表現を練っていく過程、なにより演奏家の息づかいが近しく感じられて、とても面白かった。

まず公開リハーサルで中目黒GTプラザホールへ。2000円、休憩を挟んで2時間強。
モーツァルト晩年の弦楽五重奏曲第5番ニ長調、冒頭のチェロが印象的な第一楽章から。ベートーベン以前の繊細な強弱や、「コク」のある音を丁寧に。第4楽章はロッシーニのオペラっぽく、第一ヴァイオリンが躍動。最後に第3楽章のメヌエットで踊る。第一ヴァイオリンは篠原悠那が可愛く伸び伸びと、第2が長身で落ち着いた感じの枝並千花、もうひとりのヴィオラが初対面だというちょっとやんちゃっぽい山本周、全体を締めるチェロは真面目そうな矢部優典。
背後のスクリーンで、ブラームスで加わるチェロの加藤文枝と、ライターの小室敬幸がリアルタイムで、大山氏のコメントなどを解説。聴衆もsli.doで書き込める仕組みに工夫がある。終了後の短い座談会で大山氏の暖かい人柄に触れ、桐朋学園では舞踊の講義があったといったお話も。

わずか3日後、築地本願寺2Fの講堂で本番。4000円、休憩を挟んで2時間強。格(ごう)天井や奥の扉(開演前にお坊さんが開けたら仏像が!)、掛け軸と洋風照明や重厚なカーテンの取り合わせが独特の雰囲気です。小さいステージをぐるり取り囲むスタイルで、貴族の館もかくや、という親密さが嬉しい。
まずリハーサルで聴いたモーツァルト、2曲目はブラームス弦楽録重奏曲第2番ト長調。雄大で恋人アガーテにまつわる音型で知られる第1楽章から、ロマ風の第2楽章をへて、軽やか、穏やかな終幕へ。ステージが近いので、かつて聴いた小澤国際室内楽アカデミー奥志賀などに比べ、格段に奏者の運動量、表現の迫力が感じられて楽しめた。終了後にまた座談会。合わせることの難しさと楽しみ。頑張ってほしいです!

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バッハ名曲演奏会

IDホールディングスPresents ニューイヤーバッハ名曲演奏会 2023年2月

2回目のニューイヤーでバロックに浸る。初めてサントリーホールの壮大なパイプオルガンを聴くことができ、大感激でした~ 大ホール、前のほう中央のいい席で。

まず国内外で活躍する大木麻理さんのオルガンソロで。のっけからお馴染みトッカータとフーガで、5898本ものパイプが鳴る鳴る。4段手鍵盤と足鍵盤を駆使しての超絶技巧は、相当な重労働だ。さらにトランペットの斎藤秀範さんが加わって、荘厳かつ素朴に。
休憩後は昨年も聴いたブランデンブルク協奏曲から。2本のヴィオラを軸に合奏が楽しい6番、各3本のヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが生き生きと合奏する3番。そして西山まりえさんのチェンバロ協奏曲となる5番。リーダーの崎谷直人さんは神奈川フィルハーモニー管弦楽団の前ソロコンサートマスターで、ウェールズ弦楽四重奏団などで活躍しているそうです。
ほかいろいろな組み合わせで登場するのは、フルート、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ビオラ・ダ・ガンバ。若手から新日本フィル、神奈川フィル、N響の奏者、古楽コンサートをプロデュースするベテランまで多彩です。
以下プログラムです。

トッカータとフーガ ニ短調
「目覚めよと呼ぶ声あり」
カンタータ156番「わが片足すでに墓穴に入りぬ」 第1曲シンフォニア
カンタータ「楽しき狩りこそわが悦び」第9曲「羊は安らかに草を食み」
カンタータ「神の時こそいと良き時」より第1曲「ソナティナ」
小フーガ ト短調
協奏曲第4番 ハ長調
ブランデンブルク協奏曲
 第6番 変ロ長調
 第3番 ト長調
 第5番 ニ長調

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2022喝采づくし

いろいろあった2022年。エンタメを振り返ると、やっぱり特筆すべきはコンサートで、ドームを巨大ディスコに変えたブルーノ・マーズ、そして年末のピアノ一台の矢野顕子。全く違うジャンルだけど、どちらもライブのグルーブを存分に味わいました。

そしてようやく実現した、團十郎襲名の「助六」。いろいろ批判はあっても、この人ならではの祝祭感が嬉しかった。ほかに歌舞伎では「碇知盛」の菊之助、梅枝が頼もしく感じられ、初代国立劇場さよなら公演がスタートした文楽「奥州安達原」は玉男、勘十郎、玉助らが揃って充実してた。

オペラは新国立劇場で意欲作が多く、なかでもバロック初体験のグルック「オルフェオとエウリディーチェ」の、音楽、演出両方の端正さが忘れがたい。ともに読み替え演出のドビュッシー「ペレアスとメリザンド」、ヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」も洒落ていた。問題作「ボリス・ゴドゥノフ」は衝撃すぎたけど… クラシックの来日ではエリーナ・ガランチャの「カルメン」が格好良かった。

演劇は野田秀樹「パンドラの鐘」、トム・ストッパード「レオポルトシュタット」が、それぞれ今の国際情勢に通じるメッセージ性で突出していた。井上ひさし「紙屋町さくらホテル」やケラ「世界は笑う」の「表現すること」への情熱や、ともに2人芝居だった温かい「ハイゼンブルク」と不条理をねじ伏せる「建築家とアッシリア皇帝」、そして相変わらずひりつく会話劇の岩松了「クランク・イン!」などが心に残った。

語り芸のほうでは期せずして、喬太郎と三三で「品川心中」を聴き比べ。どちらも高水準。一之輔の脱力も引き続きいい。講談の春陽「津山の鬼吹雪」も聴きごたえがあった。

これからも、のんびりエンタメを楽しめる日々でありますよう。

エリーナ・ガランチャ リサイタル

エリーナ・ガランチャ リサイタル2022  2022年6月

2020年から2度延期になったラトヴィア出身、大物メゾがついに降臨。ホールを支配する圧巻の声量、脅威の技巧、多彩な選曲の表現力を堪能する。長身で美形、かつサバサバした印象で気持ちいい。ピアノはエディンバラ生まれのお茶目おじさんマルコム・マルティノー。すみだトリフォニーホール大ホール、かなり前のほうで1万7000円。休憩を挟んで2時間半。

第一部は白ドレスにキラキラショールで、内省的なブラームス歌曲を7曲。最初は初めてのホールで残響が強いかと思ったけど、「永遠の愛について」で、娘が語る強い愛で徐々に盛り上がって安心。ベルリオーズ「ファウストの劫罰」から、マルグリートがファウストを思う「燃える恋の思いに」で一気にドラマチックに。ピアノソロでドビュッシー「月の光」を挟み、お待ちかねサン・サーンス「サムソンとデリラ」より「あなたの声で心は開く」。2018年METライブビューイングで聴いた甘~いアリア。演技も交えつつ、半音階と高音がなんとも気持ちいい。そして少し珍しいグノー「サバの女王」より「身分がなくても偉大な方」で休憩へ。

第二部は黒ドレスとチュールに衣装替えし、チャイコフスキー「オルレアンの少女」よりジャンヌ・ダルクが悲壮感をただよわせつつ使命を歌いあげる「さようなら、故郷の丘」でスタート。迫力。ロシアものに転じ、ラフマニノフの歌曲4曲のあと、ピアノソロで温かいアルベニス「タンゴ ニ長調」。そして本編ラストは、表情豊かにサルスエリを怒濤の3曲。17世紀スペインで生まれた、台詞と舞踊を含むオペラなんですね。以前カウフマンがレハールを固め打ちしたみたいに、得意のレパートリーらしく、どんどんのってきて聴いてるほうもニコニコ。まずバルビエリ「ラバピエスの小理髪師」から「パロマの歌」をリズミカルに。土着的で陽気。続いて軍楽隊長ルペルト・チャピ「エル・バルキレロ」から「とても深いとき」で、深い低音、圧巻の高音の飛躍が凄い。最後はチャピ「セベデオの娘たち」から「とらわれし人の歌」を情熱たっぷりに。大詰め、超絶技巧の転がしで、芝居っけ十分に会場をぐるり見渡して大拍手。

スペイン気分がみなぎり、客席に期待が満ちたところでアンコールへ。「これでしょ?」って感じで、待ってましたビゼー「ハバネラ」。ウインク付き姐さん感満載。そしてまさかのプッチーニ「私のお父さん」マスカーニ「ママも知るとおり」チレアのアリアやラフマニノフの歌曲を、「もう無いわよ」とか笑わせながら、楽々と披露する大サービス。素晴らしかったです!

ホールはステージ後ろ平面にパイプオルガンが陣取る、面白い設計。ホワイエは狭かったかな。先輩夫妻に遭遇。

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ブランデンブルク協奏曲

IDホールディングスPresents ニューイヤーコンサート ブランデンブルク協奏曲全曲演奏会 2022年1月

2022年の幕開けはなんと2年も前、フローレス以来のサントリーホール。JSバッハが1721年ブランデンブルク=シュヴェート辺境伯に献呈した、10人前後の合奏シリーズです。バロックって縁が薄いけど、実はどこかで聞いたことがある、延々おっかけっこが続くメロディーが心地良い。珍しい古楽器が次々登場、楽章の間に移動したりも面白く、全く飽きなかった。大ホール中央の良い席で、休憩を挟み約2時間。

ほとんど立って演奏するのが、まず新鮮だ。ヴァイオリンとオーボエが掛け合いする第1番から、細いホルン、コルノ・ダ・カッチャに目が釘付けになる。音色は牧歌的だけど、すごーく難しそう。チビのヴィオリーノ・ピッコロやファゴットも活躍し、メヌエットに浸る。バスもヴィオローネという古楽器。続いて第4番は、素朴な縦笛のリコーダーがちょっともの悲しくて、なかなかの表現力。前半ラストは弦楽だけになって第3番。いかにもバッハという感じ。何故か避暑地の朝の雨が目に浮かぶ。第2楽章ラストにカデンツァ。
休憩を挟んで、出だしからお馴染みの第5番。横笛のフラウト・トラヴェンソが登場して、優しい音色を聞かせる。通奏低音役のチェンバロに珍しく長いソロがあって、1719年にケーテンの宮廷におねだりしたチェンバロのお披露目だったとか。これがピアノ協奏曲につながるわけだけど、こうして聴くとピアノの抑揚がいかに素晴らしいかを思いますね。続いてまた弦楽だけ、しかもヴィオラ以下、中低音メンバーだけでふくよかな第6番。今度はヴィオラ・ダ・ガンバが二人。チェロより小型で、見た目はちょっと無骨、でも音は優しい。古楽器って概して音量が小さいのかも。ラストは再び大勢でてきて、テンポの良い第2番。コルノ、オーボエ、リコーダー、ヴァイオリンのソロがつながって、空間に広がっていく。
アンコールはまさにバッハ、美しい「G線上のアリア」でした。

演奏家はゲストにヴァイオリン・ヴィオラの豊嶋泰嗣(新日本フィルのコンマス)を迎え、コルノはにこやか福川伸陽。ヴァイオリン・ヴィオラで長身の原田陽、太っちょ丸山韶、リコーダーの宇治川朝政が目立ってたかな。

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