クラシックコンサート

ヴォクス・ルミニス

調布国際音楽祭2025 ヴォクス・ルミニス「Bach Dynasty~華麗なるバッハ一族の音楽」 2025年6月

オペラ好きの会でお話を聴いた鈴木優人さんがエグゼクティブ・プロデューサーを務める音楽祭へ。ベルギーの声楽アンサンブルの初来日公演だ。終始淡々と、天上から降り注ぐような古楽の調べにひたる希有な体験。音響の良い調布市文化会館たづくり・くすのきホール、中央上手寄りで8000円。休憩を挟んで2時間。

長身のリオネル・ムニエが歌手兼指揮でグループを率い、ソプラノ4人、アルト2人、テナー3人、バス2人が曲によって組み合わせや配置を変えながら、バロック時代の宗教音楽モテットなどを紡いでいく。ことさら張り上げることなく、声が響きあう完成度の高い合唱だ。それぞれ達者でソロも素敵だけれど。支えるのは控えめな鈴木さんのオルガンと、ブノワ・ヴァンデン・ベムデンのチェロみたいな古楽器ヴィオローネ。オルガンは前半後半で機材をチェンジしてましたね。
プログラムは中部ドイツでオルガン奏者や作曲家を輩出した、バッハ家の系譜をたどるもの。時代がくだるにつれ、パートが追いかけるフーガや繰り返しが徐々に複雑になって、曲も盛り上がっていくのが興味深かった。本編ラストは18世紀の大バッハ、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの長大なコラール! 西洋音楽の父。

アンコール前にはムニエさんが挨拶。鈴木さんはハーグ音楽院時代からの友人で、ヴォクス・ルミニス初期のCDにも参加したこと、パパ鈴木雅明とバッハ・コレギウム・ジャパンの録音に影響を受けてきた、と語って温かい拍手。アンコールでは17世紀のヨハン・ミヒャエル・バッハに戻り、メンバーが舞台上と客席三か所に分かれて歌唱。人生のはかなさ、来世の希望を歌って、ルター派では葬儀での演奏が多いとか。まさに教会のような空間でした~
以下、セットリストです。

ヨハン・バッハ(1604–1673、J.S.バッハの曽祖父、エアフルト系の始祖)
「われらの生は、影のごとし」「ふたたび心に安らぎを」
ヨハン・ミヒャエル・バッハ(1648–1694、アルンシュタット系のカントル=聖歌隊のリーダー=兼オルガニスト、J.S.バッハの母方の叔父で義父=娘のマリア・バルバラが最初の妻。深く敬愛していた)
「主よ、私はあなたの救いを待ち望みます」「愛する日よ、ようこそ」「さあ、私たちは新しい年に踏み出します」「持っているものをしっかり保て」
ヨハン・クリストフ・バッハ一世(1642–1703、J.S.バッハの父方の大叔父でオルガニスト、少年時代のJ.S.バッハを引き取った音楽的養育者)
「人よ、女より生まれし者」「あなたは恐れることはない」「愛する神よ、私たちを目覚めさせてください」
ヨハン・ルートヴィヒ・バッハ(1677–1731、マイニンゲン家系の遠縁で作曲家兼楽長、J.S.バッハがライプツィヒで作品を写譜・演奏)
「神の御子イエス・キリストの血」「これこそ私の喜び」
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685–1750、大バッハ)
「イエスよ、わが喜び」
アンコール:
ヨハン・ミヒャエル・バッハ「われらはこの世で70年の命」 

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エリーナ・ガランチャ・リサイタル

エリーナ・ガランチャ メゾソプラノ・リサイタル2025

2022年に続き、ラトビア出身のメゾ、ガランチャの来日リサイタルに足を運んだ。スケールが大きい歌唱と舞台映え、特にカルメンでの自在な表現力を堪能する。夫君でラトビア国立交響楽団芸術監督・カレル・マーク・チチョン指揮、新日本フィルハーモニー交響楽団。サントリーホール大ホール、中央あたりで2万8000円。休憩を挟んで2時間。テイト・コーポレーション企画招聘。

前半のオケは馴染みのない曲も多かったけれど、定番「サムソンとデリラ」で徐々に高揚。後半はブルーのドレスから鮮やかな赤と黒に着替え、カルメン気分がぐっと盛り上がる。貴重なハバネラの初稿版に続き、色っぽさから悲劇までハイライトを悠々と。ステージを歩き回ったり、オーケストラの演奏中は下手寄りの椅子にいたり、演技も存分に披露してました。
ロビーではクラシック好きな知人たちに遭遇。
以下セットリストです。

グリンカ「ルスランとリュドミラ」序曲(オーケストラ)
チャイコフスキー「オルレアンの少女」より「さようなら、故郷の丘」
マスネ「タイース」より瞑想曲(オーケストラ)
サン=サーンス「サムソンとデリラ」より「あなたの声で心は開く」
同「バッカナール」(オーケストラ)
グノー「サバの女王」より「身分がなくても偉大な方」

スペインの3つのパソドブレ(オーケストラ)
~マルキーナ・ナロ「エスパーニャ・カーニ」、サンティアゴ・ロペ「ジローナ」、マヌエル・ペネーリャ「山猫」よりパソドプレ
ビゼー「カルメン」ハイライト
~ハバネラ初稿版
 前奏曲(オーケストラ)
 ハバネラ「恋とはいうことを聞かない鳥」
 第3幕への序奏(オーケストラ)
 セギディーリャ「セビーリャの城砦の近くに」
 第4幕への間奏曲(オーケストラ)
 カルタの歌「無駄ね、不吉な答えを避けようと」
 第2幕への間奏曲(オーケストラ)
 ボヘミアの歌「響きも鋭く」
アンコール:
ルぺルト・チャピ サルスエラ「セベデオの娘たち」より「カルセレラス」
アウグスティン・ララ「グラナダ」(チチョン アレンジ)
フランチェスコ・パオロ・トスティ&サルヴァトーレ・ディ・ジャコモ「マレキアーレ」

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ハビエル・カマレナ

ハビエル・カマレナ  2025年5月

21世紀の”キング・オブ・ハイC”日本初ソロコンサートと銘打った、メキシコ出身テノールの聴きに。メト・ライブビューイング映像「連隊の娘」のアンコールで知られる。2019年に聴いたフローレスのような煌びやかさとは違って、柔らかい声でごく普通に、するっと難曲を決めちゃう。よく入った東京オペラシティコンサートホール、表情がよく見える前の方下手寄りで1万8500円。休憩を挟み2時間強。

この日は前半に期待通り、「チェネレントラ」の超絶技巧のアジリタ、「連隊の娘」のハイC9回をたっぷり聴かせ、休憩を挟んで後半はお馴染み「ルチア」や「ウェルテル」のカヴァティーナを切々と。歌唱2曲ごとにオケ1曲の構成で、アンコール2曲は故郷メキシコの女性作曲家、そしてバスク生まれ作曲家のサルスエリから。
テノールというとあざとく押しまくるイメージだけれど、カマレナの表現はそのテクニックの割に素朴で含羞が漂って、むしろ拍子抜けするほど。お辞儀も丁寧。これからどんな役柄を歌っていくのかな。表情豊かな園田隆一郎の指揮、オケは東京フィルハーモニー交響楽団。クラリネットのアレッサンドロ・ベヴェラリも目立ってましたね。
ホワイエにはオペラ好きで知られる著名作家らの姿も。

1,エロルド「ザンパ」序曲
2,グノー「ロメオとジュリエット」より「ああ、太陽よ昇れ」
3,ドニゼッティ「ラ・ファヴォリート」より「王の愛妾?…あれほど清らかな天使」
4,ロッシーニ「セビーリャの理髪師」序曲
5,ロッシーニ「チェネレントラ」より「必ず彼女を見つけ出す」
6,ドニゼッティ「連隊の娘」より「ああ友よ!なんと楽しい日!」
7,ヴェルディ「運命の力」序曲
8,ヴェルディ「十字軍のロンバルディア人」より「彼女の美しい心に」
9,ドニゼッティ「ランメルモールのルチア」より「わが祖先の墓よ」
10,マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲
11,マスネ「ウェルテル」より「春風よ、なぜ目覚めさせるのか」
12,チレーア「アルルの女」より「フェデリーコの嘆き」
アンコール:
13,マリア・グレベール「私の愛しい人」
14,パブロ・ソロサバル「港の居酒屋」より「そんなことはありえない」

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ムーティ指揮東京春祭

東京・春・音楽祭2025 リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ  2025年4月

初めての春祭、大看板となっている中堅・若手精鋭メンバーによるスペシャルオケの2日目。御年83才、ムーティ・マジックに酔いしれた。ラッキーにも上手前方の席から見ていると、指揮台にも後ろの手すりにももたれず、二時間弱。今更ながらオケって指揮で変わるんだなあ。いっぱいの東京文化会館で1万9000円。

ムーティさまは21年目を迎える春祭のうち、なんと11年も来日しているとか。今回はオール・イタリア・プログラム! 前半はお馴染みのオペラで、「ナブッコ」からトロンボーンが響き、感涙必至の定番「カヴェリア」でぐっと引き込む。ドラマティックな「運命の力」の金管、木管まで、歌心満載。たえずリズムを刻むのではなく、要所だけ膝も使って、ためたり引き出したり。これが情感というものか。

休憩後は初めて聴く演目で、「コンテンプラツィオーネ(瞑想)」(1878)はムーティーが是非、と推した選曲だとか。大指揮者トスカニーニが夭折したカタラーニを敬愛し、代表作から長女(ホロヴィッツ夫人の姉)をワリーと名付けたほどで、ムーティはそんなトスカーニの孫弟子にあたる。弦と、そこからの管とのやりとりが繊細だ。
「ローマの松」はローマ三部作のひとつで、4つの松の名所から都市の空気、歴史を感じさせる。滑り出しは市民公園となっているボルゲーゼ荘の木立で、遊ぶ子供が賑やか。カタコンブ(地下墓所)はフルート、トランペット、ホルンがローマ帝国に弾圧されたキリスト教徒の聖歌を聴かせる。続いてローマを一望するジャニコロの丘となり、クラリネットが静謐に、満月の光に浮かぶ帝国の栄光と衰退を表現。幕切れはローマ帝国の幹線アッピア街道となり、不気味な低音から長いクレッシェンドで、夜明けの霧の向こうから進軍するローマ軍が現われる。ラストは18人ものバンダのトランペットがアイーダばりに、勇壮なファンファーレを響かせて圧巻。
コンマスの郷古廉(N響第1コンマス)はじめ、オケがこのうえなく楽しそうなのもむべなるかな。実行委員長・鈴木幸一氏や財界人、ムーティ追っかけでウイーンまで行った知人に遭遇しました~
以下セットリストです。

ヴェルディ:歌劇「ナブッコ」序曲
マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲
レオンカヴァッロ:歌劇「道化師」間奏曲
ジョルダーノ:歌劇「フェドーラ」間奏曲
プッチーニ:歌劇「マノン・レスコー」間奏曲
ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲
カタラーニ:「コンテンプラツィオーネ」
レスピーギ:交響詩「ローマの松」

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リセット・オロペサ

旬の名歌手シリーズⅩⅢ リセット・オロペサ ソプラノ・コンサート 2025年4月

評判のニューオーリンズ生まれ、キューバ系の名花リセット・オロペサを聴く。細身の美人なのに響き渡る声量、当世屈指というコロラトゥーラの技巧、弱い高音もしっかり響いて安定感がある。難曲・長大なアリアばかりだったけど喜怒哀楽、自由自在。
気取らず愛嬌ある立ち居振る舞いや、聴衆それぞれに歌いかけるさまにも好感がもてる。P席に向かって後ろ向きに歌うとまろやかに聴こえるし、ラストはひざまずく演技も披露。これからもいろいろな役に挑戦するんだろうなあ。前半は黄色と黒、休憩を挟んで後半はシルバーのドレスが素敵。
指揮はベルガモ生まれのコッラード・ロヴァーリス。東フィルは新国オペラと掛け持ちのせいか、いまいちだったかな… そのせいか本編に全力投球ということか、アンコールは無し。NBS・日経主催。ちょっと空席もあったサントリーホール、大ホールの中ほどいい席で1万9000円。
以下セットリストです。

モーツァルト「後宮からの逃走」より〝どんな責め苦があろうとも〟
ロッシーニ「セミラーミデ」より序曲 (オーケストラ)
ベッリーニ「清教徒」より〝私は美しい乙女〟
ロッシーニ「ギヨーム・テル」より〝ついに遠のいてしまった〟~〝暗い森〟
マイアベーア「悪魔のロベール」より〝ロベール私の愛する人〟
ヴェルディ「シチリア島の夕べの祈り」より序曲(オーケストラ)
ヴェルディ「リゴレット」より〝慕わしい人の名は〟
グノー「ロメオとジュリエット」より〝私は夢に生きたい〟

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北斎とジャポニズムコンサート

北斎とジャポニズムコンサート  2025年3月

文化財のデジタル保存を手がけるNTTアートテクノロジーが主催、北斎作品の高精細画像を背景に、ジャポニズムに影響を受けたクラシックを聴くという企画に参加してみた。英国からオンライン登壇の藤倉大さんと案内役の演出家・宮城聰さんの、うちとけた対談が面白かった~ 藤倉さんは北斎の生涯をテーマに新作オペラを作曲中とか。はて、どんな作品になるのか。角田綱亮指揮、東京フィルハーモニー交響楽団。家族連れが目立ち和やかなオーチャードホール、2階前のほう。無料。休憩を挟んで2時間。

以前、浮世絵のレクチャーで、印象派の画家のみならず音楽にも影響を与えた、ドビュッシーがパリの仕事部屋の壁にご存知「神奈川沖浪裏」を飾っていた、と聞いてなんだか嬉しくなった。第一部ではやはり「浪裏」に着想を得た、ラヴェルの「洋上の小舟」で、翻弄される舟に身を任せる。ピアノ曲集「鏡」の第3曲をオケ版で。続くLEOの「箏協奏曲」は抽象的で難しかったけど。
休憩を挟んで同時代のビゼー「カルメン」前奏曲、そして無敵の「ハバネラ」を清水華澄が余裕たっぷりに。トークを挟んで吉田珠代が加わり、プッチーニ「蝶々夫人」から花の二重唱「桜の枝をゆすぶって」、お馴染み「ある晴れた日に」。〆は作曲家本人の希望で、楽譜初版の表紙に「浪裏」をデザインしたことで有名な真打ドビュッシーの交響曲「海」から「風と海の対話」でした。

ロビーには高精細データによるレプリカなど。

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反田恭平&JNOモーツアルト「交響曲第32番」モーツアルト「戴冠式」メンデルスゾーン「イタリア」モーツアルト「フィガロの結婚」

BMW Japan Presents 反田恭平&ジャパンナショナルオーケストラ コンサートツアー2025

雪、雹のなかクラシック通の友人を誘って大好きなJNOへ。サントリーホール大ホールで初めてのP席で、反田恭平君の弾き振り、オケを盛り上げる表情がよく見えました! Pとはラテン語ポディウム(指揮台)が由来だそうで、響きもよく、金管やティンパニが間近で新鮮だ。上手寄り前の方で8000円。休憩を挟んで2時間。

まずはモーツアルト「交響曲第32番」で、希代のヒットメーカーのスピード感を存分に。続いてピアノを中央に移動させ、モーツアルトのピアノ協奏曲第26番「戴冠式」。ロマン派を先取りしたといわれる華やかなピアノが、三楽章では軽快なロンドになって迫力たっぷりだ。なんとアンコールに「トルコ行進曲」。サービス精神たっぷりです。

休憩を挟んでメンデルスゾーン交響曲第4番「イタリア」。明るい街角から素朴な巡礼の歌、土臭いホルンの響きをへてナポリの舞曲サルタレッロへと、表情豊かに。最後はお馴染みモーツアルト「フィガロの結婚」の序曲で伸び伸び。トランペットとティンパニが活躍しました~
アンコールで反田君はコントラバスの脇にちょこんと腰掛け、JNOメンバーがメンデルスゾーン「弦楽八重奏曲」より第4楽章を披露。瑞々しくて、これからも応援したい。
開幕前にはロビーでモーツアルト「クラリネット五重奏曲」も。

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2024年喝采尽くし

いろいろあった2024年。特筆したいのは幸運にも蒸せかえる新宿で、勘三郎やニナガワさんが求め続けたテント芝居「おちょこの傘もつメリー・ポピンズ」(中村勘九郎ら)、そして桜満開の季節に、日本最古の芝居小屋「こんぴら歌舞伎」(市川幸四郎ら)を体験できたこと。「場」全体の魅力という、舞台の原点に触れた気がした。
一方で世界の不穏を背景に、ウクライナとロシア出身の音楽家が力を合わせた新国立劇場オペラ「エフゲニ・オネーギン」のチャレンジに拍手。それぞれの手法で戦争や核の罪をえぐる野田秀樹「正三角形」、岩松了「峠の我が家」、ケラリーノ・サンドラヴィッチ「骨と軽蔑」、上村聡史「白衛軍」が胸に迫った。

歌舞伎は現役黄金コンビ・ニザタマによる歌舞伎座「於染久松」は別格として、急きょ駆けつけた市川團子の「ヤマトタケル」に、團子自身の人間ドラマが重なって圧倒された。その延長線で格好良かったのは、演劇で藤原竜也の「中村仲蔵」。團子同様、仲蔵と藤原の存在が見事にシンクロし、舞台に魅せられた者の宿命をひしひしと。

そのほか演劇では「う蝕」の横山拓也、木ノ下歌舞伎「三人吉三廓初買」の杉原邦生という気鋭のセンスに、次代への期待が膨らんだ。リアルならではの演出としては、白井晃「メディスン」のドラムや、倉持裕「帰れない男」の層になったセットに、心がざわついた。
俳優だと「正三角形」の長澤まさみ、「峠の我が家」の仲野太賀、二階堂ふみ、「う蝕」の坂東龍汰が楽しみかな。

文楽は引き続き、東京での劇場が定まらずに気の毒。でも「阿古屋」で、桐竹勘十郎、吉田玉助、鶴澤寛太郎の顔合わせの三曲がパワーを見せつけたし、ジブリアニメの背景を使った「曾根崎心中」をひっさげて米国公演を成功させて、頼もしいぞ!

音楽では、加藤和彦の足跡を描いた秀逸なドキュメンタリー映画「トノバン」をきっかけに、「黒船来航50周年」と銘打った高中正義のコンサートに足を運べて、感慨深かった。もちろん肩の力が抜けた感じで上質だった久保田利伸や、エルトン・ジョン作曲のミュージカル「ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~」(日本人キャスト)、クラシックでいつもニマニマしちゃう反田恭平&JNO、脇園彩のオールロッシーニのリサイタルも楽しかった~ 

このほか落語の柳家喬太郎、立川談春、講談の神田春陽は安定感。
2025年、社会も個人としても、舞台に浸れる有り難い環境が続くことを切に祈りつつ…

JNOベートーヴェン「コリオラン」「交響曲第2番」「ピアノ協奏曲第5番」「ピアノ協奏曲第4番より第2楽章」

反田恭平 Japan National Orchestra 2024夏ツアー 2024年9月

ピアニスト反田恭平がプロデュースする楽しみなコンサート。若いソリスト集団がきびきびとして、客席も応援ムードで気持ちが良い。ステージ後方までよく入ったサントリーホール大ホール、前のほう上手寄りで8000円。休憩を挟み2時間。

プログラムはオールベートーヴェン。反田くん指揮で、まず序曲「コリオラン」作品62。30代半ばのベートーヴェンが、人気の悲劇に刺激を受けて作曲し、原作者に献呈したとか。ハ短調で重苦しく、ラストの繊細なピチカートが格好良い。
続いて交響曲第2番ニ長調作品36。弦楽器の膨らみから、木管の変化、第3楽章の力強いスケルツォを経て、複雑なリズムの終章へと、変化に富む。

休憩後はセンターにピアノをすえて、ピアノ協奏曲第五番変ホ長調「皇帝」作品73。反田くんの弾き振りは、華やかな技巧を披露しつつ、時折立ち上がりピアノに乗り出すように指揮していて、大忙しだ。フランス革命に騒然とするウィーンの地下室で、独奏とオケがアンサンブルする形式を生み出し、ロマン派以降の協奏曲につながったという。そんな合奏が盛り上がる第1楽章、穏やかな第2楽章、続いて第3楽章はピアノとオケがやりとりしながら、力強く加速していく。大拍手。
アンコールはピアノ協奏曲第4番ト長調作品58より、第2楽章Andante con motoでした~

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ブダペスト交響楽団「セビリアの理髪師」「リスト ピアノ協奏曲第1番」「チャイコフスキー 交響曲第5番」

ハンガリー・ブダペスト交響楽団 2024年6月

炎のマエストロ小林研一郎指揮、ピアノは2001年生まれ22歳の亀井聖矢(まさや)という期待のコンサート。年配のかたが多く温かい雰囲気の武蔵野市民文化会館大ホール、前の方の良い席で7000円。休憩を挟み2時間。

のっけからコバケンが、独特のとつとつとした口調で、50年にわたるオケとの縁を語る。30代になっていた1974年の第1回ブダペスト国際指揮者コンクールで、120曲の課題曲からベートーベンとロッシーニを引き当て、第一位となって飛躍したそうで、まずその「セヴィリアの理髪師序曲」を朗らかに。お馴染みヴァイオリンとヴィオラのユニゾンの第1主題が美しい。
続いてピアノを前方に移して、すらっとした亀井君が登場。技巧が華やかなリスト「ピアノ協奏曲第1番変ホ長調」を存分に。1楽章、弦楽器に続く導入からパワフルだ。楽器の応酬が美しい2楽章に続き、3楽章はトライアングルとの掛け合いを可愛く。そこから4楽章にかけて、アクションもどんどん大きくなり、ペダルを踏む足にも力がこもって盛り上がる。
拍手鳴り止まず、何やら話していたコバケンがバイオリンのかたと一緒に座っちゃったと思ったら、なんとピアノソロのアンコールで「ラ・カンパネラ」。力任せの感じもあったけど、たいしたスターぶりです。2022年に若手登竜門のロン・ティボー国際音楽コンクール第1位、飛び級の桐朋学園大をへて独カールスルーエ音楽大に在籍とのこと。精力的にツアーもこなす。伸び伸び活躍してほしいなあ。

休憩のあとは、こちらも民族風味がキャッチーなチャイコフスキー「交響曲第5番ホ短調」。1楽章でクラリネットが重々しい「運命の主題」を奏で、ポーランド民謡の旋律も。低弦に始まる2楽章はホルン、オーボエが美しい。ワルツの3楽章をへて、4楽章は「運命の主題」を軸にこれでもかと壮大に。コバケンは振り返り、客席後方を眺めちゃって、雄大な大地がみえるよう。ロシアは難しい情勢だけど、文化に罪は無いものね。
大拍手のあと、コバケン流で、とコメントして、ブラームス「ハンガリー舞曲」! ゆったりとした導入から徐々に熱を帯び、スカッと幕となりました~

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