文楽

文楽「三番叟」「菅原伝授手習鑑」

第225回文楽公演 第一部 第二部 2023年9月

初代国立劇場での掉尾を飾る文楽公演は、極め付け「菅原伝授」。お馴染みの演目だけど、50年ぶりの珍しい段もあって、変化に富んでいる。

第一部は三段目、様式美溢れる車曳の段から。京・吉田神社前で、主君の政変に巻き込まれた三つ子が再会する。梅王丸の小住太夫らや宗助が牽引し、中盤でお待ちかね松王丸が登場。藤太夫が上手の舞台袖から「待てらう」と大音声で呼ばわって床にあがる演出、初めて観ました! もちろん人形は玉助が、偉丈夫ぶりを見せつける。記念の公演での大役、めでたい限りだ。牛車を破壊しちゃう時平の超人ぶりもまた楽しい。梅王丸は玉佳、桜丸は勘彌、時平は玉志。
短い休憩後、佐太村に移って茶筅酒の段、喧嘩の段、訴訟の段は芳穂太夫、錦糸らが安定し、桜丸切腹の段で千歳太夫、富助が奮闘。白太夫の勘十郎が鎮魂の鉦まで、さすがのきめ細かさ。桜丸妻の八重ちゃんが可愛い!一輔、グレードアップしてます。
休憩を挟んで四段目、珍しい天拝山の段。筑紫に流された人間国宝・玉男の丞相が、安楽寺に詣でる。牛や飛び梅の天神伝説を語ったり、「梅は飛び…」と詠んだり、すっかりうらぶれた雰囲気なんだけど、刺客の自白で時平の謀反がわかると形相一変。憤怒の形相は、陰陽師かと見まごう気迫だ。特殊かしら「丞相」だそうです。ここから人形ならではのド派手でスピーディーな演出。なんと梅の枝で刺客の首をはね、バチバチ火花を吐き、天拝山に駆け上がる。一天にわかにかき曇り、激しい毛振りの果てに雷神に変貌しちゃう。人から御霊(ごりょう)への飛躍というファンタジー。藤太夫、清友も熱演でした~

いったんロビーへ出て第二部。「寿式三番叟」は劇場57年の感謝と再開場への前途祈念で豪華に。例によって咲太夫の代役に織太夫が入り、呂太夫、錣太夫、千歳太夫、燕三、藤蔵ら7丁7枚がずらり。人形は勘十郎の翁が神々しく、三番叟は玉勢、簑紫郎が躍動。簑紫郎さん、色気が増した感じ。
20分の休憩後、「菅原伝授」の後半を一気に。4段目の北嵯峨の段はなんと1972年以来、51年ぶりの上演。何をやらせても子供っぽい八重ちゃんがこんなところで、丞相の御台所を守って命を落としていたとは衝撃。
舞台は京の外れに移って寺入りの段、寺子屋の段を、渋い呂太夫、清介から気合いの呂勢太夫、清治という安定のリレーで。百姓親子のそれぞれの情愛が滑稽ななかにも温かいから、後半の松王丸の悲劇が際立つんだなあ。よだれくりは勘介。
そしていよいよ玉助さんが、渾身の演技! 重苦しい駕籠での登場、緊迫マックスの首実検から、女房千代の覚悟をへて、クライマックス「笑いましたか、でかしおりました」の泣き笑い。なんと悲しいことか。白装束のいろは送りで幕。源蔵は玉也、女房戸浪は勘壽、千代は簑二郎。
大団円、大内転変の段も51年ぶりだそうで、あれよあれよの展開です。異常気象で不穏な都。時平が参内した菅秀才の一行をとらえようとすると、家来は雷にうたれてイチコロ。時平も蛇が変じた桜丸夫妻の亡霊に襲われちゃう。菅原家復興となり、めでたしめでたし。いやー、正義の怨念はづくづく怖いぞ。小住太夫と寛太郎が迫力たっぷり、ここから50年後への伝承を意識した復刻演奏で、素晴らしい。72年は技芸員制度ができた年だそうで、いろいろ苦しいけど文楽の未来を感じさせる、いい幕切れでした!

ロビーで文楽仲間に何人か遭遇し、脱力系の「文楽年鑑」を購入。

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文楽「夏祭浪花鑑」

第224回文楽公演 第3部 2023年5月

文楽初体験の知人たちを案内して、初代国立劇場さよなら公演シリーズへ。面白がってくれそうな第3部「夏祭浪花鑑」だ。小劇場の前の方いい席で8000円。休憩を挟んで3時間弱。

大阪南部の潮干狩りと参拝で賑わう住吉鳥居前の段から。侠客が達引を繰り広げて痛快。団七の勘十郎が文句なしの格好良さだ。対する一寸徳兵衛の玉助さん、大物になったなあ。三婦は玉也、お梶は簑二郎で安定。琴浦に紋秀。奥は三輪太夫・團七。
続く内本町道具屋の段は、大阪城の惣構(外堀)内で、武士、商人の人物像がくっきりする。咲寿太夫・寛太郎から、切は絞り出すような錣太夫・宗助。しょうもない磯之丞(清七)は清五郎、騙りをはたらく憎たらしい義平次に和生。

休憩を挟んでお楽しみ、高津神社の夏祭気分と侠気が横溢する釣船三婦内の段。切は呂太夫・清介、アトで亘太夫・友之助。徳兵衛女房お辰は勘彌が格好良く。三婦女房おつぎは勘壽。
いよいよ暗い長町裏の段となり、義平次に藤太夫、団七に織太夫と充実。三味線は清友。まとわりつくような蒸し暑さ、人形ならではのド迫力のアクション、緊迫のメリヤス。そして祭り囃子と若手太夫総出という「てうさ、ようさ」のかけ声、我を忘れる神輿! 

終演後は大勢で打ち上げへ。面白かったです~

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文楽「国性爺合戦」

第233回文楽公演 第2部 2023年2月

近松名作集と題した2月の第2部は、2015年に観た時代物「国性爺合戦」。変化に富んだ舞台が楽しい。前庭の梅が綺麗な国立劇場小劇場、前のほう中央で7000円。休憩を挟んで3時間弱。

荒唐無稽な千里が竹虎狩りの段から。床まで出張っちゃう着ぐるみの虎は、前回同様、勘介さんが生き生きと。15分の休憩後、楼門の段の後はこれも前回と同じ呂勢太夫、清治コンビで盤石。錦祥女(簑二郎)が再会した老一官(文司)の姿を鏡に映す構図がスケール大きく、ツメ人形の兵士の細かい演技も面白い。
続く甘輝館の段は錣太夫、宗助が渋く。玉助さんの甘輝が登場、まさに威風堂々で、拍手が大きい。明再興の理想と錦祥女、一官妻(和生)の思いが交錯してなかなか複雑です。そして大詰め、紅流しより獅子が城の段はお馴染み織太夫、藤蔵で、セット転換も激しくダイナミック。和藤内(玉佳)が城に躍り込み、あれよあれよの女性陣の自己犠牲をへて、甘輝とともに韃靼王征伐に立ち上がる。

売店には岩手・遠野麦酒ZUMONAの国立劇場さよなら記念クラフトビールが。なんか春だなあ。

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2022喝采づくし

いろいろあった2022年。エンタメを振り返ると、やっぱり特筆すべきはコンサートで、ドームを巨大ディスコに変えたブルーノ・マーズ、そして年末のピアノ一台の矢野顕子。全く違うジャンルだけど、どちらもライブのグルーブを存分に味わいました。

そしてようやく実現した、團十郎襲名の「助六」。いろいろ批判はあっても、この人ならではの祝祭感が嬉しかった。ほかに歌舞伎では「碇知盛」の菊之助、梅枝が頼もしく感じられ、初代国立劇場さよなら公演がスタートした文楽「奥州安達原」は玉男、勘十郎、玉助らが揃って充実してた。

オペラは新国立劇場で意欲作が多く、なかでもバロック初体験のグルック「オルフェオとエウリディーチェ」の、音楽、演出両方の端正さが忘れがたい。ともに読み替え演出のドビュッシー「ペレアスとメリザンド」、ヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」も洒落ていた。問題作「ボリス・ゴドゥノフ」は衝撃すぎたけど… クラシックの来日ではエリーナ・ガランチャの「カルメン」が格好良かった。

演劇は野田秀樹「パンドラの鐘」、トム・ストッパード「レオポルトシュタット」が、それぞれ今の国際情勢に通じるメッセージ性で突出していた。井上ひさし「紙屋町さくらホテル」やケラ「世界は笑う」の「表現すること」への情熱や、ともに2人芝居だった温かい「ハイゼンブルク」と不条理をねじ伏せる「建築家とアッシリア皇帝」、そして相変わらずひりつく会話劇の岩松了「クランク・イン!」などが心に残った。

語り芸のほうでは期せずして、喬太郎と三三で「品川心中」を聴き比べ。どちらも高水準。一之輔の脱力も引き続きいい。講談の春陽「津山の鬼吹雪」も聴きごたえがあった。

これからも、のんびりエンタメを楽しめる日々でありますよう。

文楽「絵本太功記」

第五四回文楽鑑賞教室 2022年12月

年末の文楽は鑑賞教室「絵本太功記」のBプロをチョイス。2016年に観た演目ですね。春長(信長)を討った後の、母さつき(清十郎)、子息十次郎(玉翔)が犠牲になっていく悲劇。玉助がスケール大きい光秀で楽しませる。国立劇場小劇場、前のほうやや下手寄りのいい席で4500円。

解説は簑太郎。休憩のあと、夕顔棚の段は聴きやすい碩太夫・錦吾。久吉(秀吉、勘市)が旅僧姿で現れる。続いて尼崎の段の前、小住太夫・錦糸が迫力たっぷりに聴かせる。十次郎の嫁・初菊の玉誉がなかなか可憐。玉助登場の格好良い見得に拍手でした~

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文楽「奥州安達原」

第221回文楽公演 第三部  2022年9月

2023年10月からの建て替えに向けて今月、「初代国立劇場さよなら公演」がスタート。その第三部は近松半二の変化に富んだ名作、かつ演者が揃って充実してた。拍手好きのお客さんもいたし。演目は文楽で2回、歌舞伎でも1回観ている「奥州安達原」。前九年の役で陸奥・安倍家を平定した八幡太郎・源義家と、独立国家を諦めない安倍貞任・宗任兄弟を描く大曲の、三・四段目です。小劇場の見やすい中央前寄りで7000円。休憩2回をはさみ3時間半。

端場(導入部)の朱雀堤の段は、太夫4人と清志郎、人形は黒衣姿です。京・七条河原で、盲目の物乞い袖萩と幼い娘・お君が父・平傔仗(けんじょう)と出くわす。よよと崩れる袖萩が、すでに哀れ。

休憩を挟んで敷妙使者の段からのセットは、立派な天皇の弟の御殿になる。床は貫禄が付いてきた竹本小住太夫と鶴澤清丈。安倍兄弟に弟宮と十握の剣を奪われた傳役(もりやく)の傔仗(文司)・浜夕(勘彌休演で簑二郎)老夫妻には切腹が迫っている。妹娘・敷妙(清五郎)、夫の智将・八幡太郎義家(玉佳)はその責任を問う、苦しい板挟みの立場だ。
続く矢の根の段が、緊迫感があってスピーディー。白旗に血で書き付ける和歌、矢の根の投げ合い、そして白梅の謎かけを、織太夫と藤蔵がメロディアスに。義家は曲者・南兵衛(野性的な玉助さんが格好良い)を宗任とにらんで詮議し、冷徹な勅使・桂中納言則氏(我慢の玉男)が加わる。
お待ちかね袖萩祭文の段は、呂勢太夫と、お年をめして一層的確な感じの清治。雪がちらつき、父の苦境を案じるも、勘当の身で拒絶される姉娘・袖萩(名人・勘十郎)、健気なお君ちゃん(勘次郎)が「この垣一重が鉄(くろがね)の」と、何度観ても泣かせます。「エエ親なればこそ子なればこそ」… かつての袖萩の過ちの相手が貞任だったと判明して、父娘はいよいよ追い詰められちゃう。
続く貞任物語の段で一転、派手な展開となり、おおいに盛り上がる。床は熱演の切場語り、錣太夫と宗助だ。義家がなぜか宗任を逃がし、秘密を呑み込んだ傔仗と父を討ちたくない袖萩が、同時に自害という悲劇に。そこへ陣鉦太鼓が響いていきなり軍記物となり、則氏がモコモコ王子の髪型の貞任に変じる見顕しで、会場がどよめく。宗任も小団七からねじり鉢巻きの大団七に転じて、右へ左へ豪壮な振付。「奥州に押したて押し立て!」 2人のパワーとスケールが映えます。ラストは義家とお約束、他日の決戦を誓う。

短い休憩の後、舞台は一転、明るい野外となり、珍しい道行千里の岩田帯を、錦糸ら5丁5枚で。義家の家臣・志賀崎生駒之助(いきり!の簑紫郎)と傾城恋絹(紋臣)が薬売りに身をやつし、弟宮探索のため奥州へ向かう。

文楽仲間の皆さんのほか、かつての上司とも久々に会えました。ロビーには日付が入る、足踏み式スタンプが登場。
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文楽「義経千本桜」

文楽座命名一五〇年 第220回文楽公演 第一部  2022年5月

2月のまさかの直前休演を挟み、昨年末以来の文楽鑑賞。間違いのない忠信・勘十郎さんの狐を堪能する。ダイナミック、かつ繊細です。床の呂勢→織も充実。国立劇場小劇場、中央前の方の良い席で7000円。休憩2回を挟み3時間弱。

豊竹咲太夫文化功労者顕彰記念と銘打った公演だけど、主役の咲さんは病気休演。導入の「伏見稲荷の段」から義経の玉助さんが、我慢の演技で立派だ。静御前は簑二郎、大団七の弁慶は文哉。ドロドロの太鼓をバックに、勘十郎さんの白狐が登場、そして耳動き孔明の忠信へ早替りして文句なしの大拍手。
短い休憩を挟んで華やかに「道行初音旅」。お祝いらしく段幕から紅白だ。桜の装束の錣太夫、織太夫、宗助ら5丁5枚がずらりと並び、忠信は八島の戦物語から、「山越え」で静の投げた扇を見事にキャッチ!

休憩20分のあと、いよいよ「川連法眼館の段」。呂勢太夫・錦糸から、奥は代演で大熱演の織太夫・燕三のリレーで、聴き応えがある。本物の忠信は文司。忠信が狐言葉で親への思慕を語り、兄と対立してしまった義経が、その深い情に理解を示す。メリヤスをバックに、お待ちかね宙乗りで幕となりました~

切り場語りが3人誕生し、盛り上げていってほしいものです。

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2021喝采づくし

マスク着用、かけ声禁止は続くものの、関係者の熱意でステージがかなり復活した2021年。素晴らしい作品に出会えました。

個人的な白眉は、思い切って長野まで遠征しちゃったOfficial髭男dismのコンサート。期待通りの王道ロックバンドらしさに、蜷川さん風に言えば「売れている」者独特の勢いが加わって、ピュアな高揚感を満喫! 私はやっぱり配信よりライブだなあ、と実感。対照的に、名曲を誠実に、余裕たっぷりに聴かせる桑田佳祐コンサートも気持ちよかった。

並んで特筆すべきは、野田秀樹「フェイクスピア」かな。仮想体験の浅薄を撃つパワー溢れるメッセージが、高橋一生の抜群の説得力、そして演劇ならではの意表を突く身体表現を伴って、ストレートに胸に迫った。演劇ではほかにも、ケラさんの不条理劇「砂の女」が、まさに観ていて息が詰まっちゃう希有な体験だったし、栗山民也「母と暮らせば」は富田靖子演じる母に、問答無用で泣いた~ 岩松了さん「いのち知らず」、上村聡史「斬られの仙太」、渡辺謙の「ピサロ」…も記憶に残る。

古典に目を転じると吉右衛門、小三治の訃報という喪失感は大きい。けれど、だからこそ、今観るべき名演がたくさん。なかでも仁左衛門・玉三郎は語り継がれる話題作「桜姫」2カ月通しの衰えを見せない色気もさることながら、「土手のお六・鬼門の喜兵衛」をたっぷり演じた直後の一転、他愛ない「神田祭」の呼吸に目を見張った。
落語は喬太郎の、トスカに先立つ圓朝作「錦の舞衣」、さん喬渾身の長講「塩原多助一代記」で、ともに語りの高みを堪能。まさかの権太楼・さん喬リレー「文七元結」がご馳走でしたね~
文楽界はめでたくも勘十郎がついに人間国宝に! 与兵衛が格好よかった「引窓」は、私としては勘十郎さん仲良しの吉右衛門ゆかりのイメージがある演目で、今となっては二重に感慨深い。玉助さんが松王丸、師直でスケールの大きさを見せつけ、ますます楽しみ。

オペラ、ミュージカルは依然として来日が少ないので、物足りなさが否めない。それでも新国立劇場のオペラ「カルメン」「マイスタージンガー」は日本人キャストも高水準、演出にも工夫があって充実してた。ミュージカル「パレード」の舞台を埋め尽くす紙吹雪も鮮烈でしたね。
2022年、引き続きいい舞台を楽しんで、心豊かに過ごしたいです!

 

文楽「仮名手本忠臣蔵」

第218回文楽公演 国立劇場開場55周年記念  2021年12月

師走といえば「仮名手本忠臣蔵」で、入りは上々、知人も多い。二、三、四段目の刃傷、切腹のくだりに、八段目の道行を合わせた変則上演だ。満場静まりかえる緊張感が心地良い。国立劇場小劇場、前のほう中央のいい席で6500円。休憩2回を挟み3時間。

桃井館本蔵松切の段からで、朗々と小住太夫、清𠀋。下馬先進物の段に続き、おかる勘平を大胆に省略して、殿中刃傷の段は聴きやすい靖太夫、錦糸。ヒール高師直の玉助が威風堂々、一段と柄が大きいのが新鮮だ。文楽ならではの豪快な高笑いが、悪の華を鮮烈に。ともに短慮の殿様・若狭助は玉佳、判官は簑二郎、悲劇の補佐役・加古川本蔵は勘市。
休憩のあと塩谷判官切腹の段は、渾身の織太夫を燕三がサポート。粛々と儀式が進み、床は無音となる「待ち合わせ」の演出で、ピーンと空気が張り詰める。ハラハラする力弥は簑太郎、じらしまくって駆けつける由良之助は玉志。諸士はツメ人形なのに、かなり演技するのが面白い。続く城明け渡しの段は、書き割りの変化で城が遠くなっていくのがダイナミック。
短い休憩を挟んで、道行旅路の嫁入は呂勢太夫、清志郎以下5丁5枚による、東海道の地名を織り込んだ舞踊だ。いきなり物語が進んで、清十郎の戸無瀬と簑紫郎の小浪が、やむにやまれず山科へ向かうシーン。簑紫郎が可憐で、これから女形をしょってたつ人だと感じさせる。観ているほうは大変な悲劇が待ち受けるのを知っているんだけど、大詰で琵琶湖に至り、ぱあっと視界が開けるのが、古典らしくていい。コンパクトながら、堪能しました!

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文楽「三番叟」「双蝶々曲輪日記(引窓)」「卅三間堂棟由来」「日高川入相花王」

第217回文楽公演 第1部・第2部  2021年9月

燕三さん紫綬褒章、そして勘十郎さんがついに人間国宝という、おめでた続きの文楽東京公演に足を運んだ。人形じゃなきゃできないアクションシーンが多く、知人にも会えて、楽しかった〜 国立劇場小劇場で1部ごと7000円。

まず第1部を、中央あたりの席で。休憩を挟み2時間半。
幕開けは大好きな「寿式三番叟」。玉助・玉佳の次世代筆頭コンビが、国立劇場55周年を祝い、コロナ退散、天下泰平を祈る。錣太夫・吉穂太夫・小住太夫ら、藤蔵・勝平・友之助らの5丁5枚がリズミカル。

休憩のあと、文楽、歌舞伎(吉右衛門&菊之助)で1回ずつ観た「双蝶々曲輪日記」。まず難波裏喧嘩の段で、相撲取りで大柄の濡髪長五郎(玉志)が恩ある若旦那・与五郎と遊女・吾妻を救おうと、侍を手にかけちゃう。素手でやっつける残酷シーンも、人形だからコミカルだ。立ち回りは御簾内のメリヤス。
続いてお馴染み八幡里引窓の段を、靖太夫・錦糸、呂太夫・清介の丁寧、聴きやすいリレーで。スカイライトからの、冴え冴えした月明かりの詩情が目に浮かぶ。そしてラスト、登場人物それぞれの板挟みが解き放たれて、清々しい。なかでも南与兵衛(なんよへえ)を勘十郎さんが格好良く遣って、拍手! 老母に勘壽、女房おはやに勘彌と堅実。

ランチをとり、1時間後に第2部を、前方中央のいい席で。休憩を挟み2時間強。
メーンは「卅三間堂棟由来(むなぎのゆらい)」。後白河法皇が寺院建立の折、髑髏と柳を供養したことで頭痛が治った、との伝承をベースにした、平太郎住家より木遣音頭の段だ。切で咲太夫・燕三が渋く聴かせ、続く奥では音楽的な呂勢太夫・清治が盛り上げる。
メーンのストーリーは柳の化身・お柳(和生)による「鶴の恩返し」なんだけど、珍しく極悪人・和田四郎(玉助)が登場するロングバージョン。東京では16年ぶりとのことで、派手なアクションが満載で面白い。和田四郎って政争に絡む人物のはずだけど、このシーンではひたすら理不尽な強盗ですね。
お柳が夫・平太郎(簑二郎)と幼子みどり丸(勘次郎)に哀しい別れを告げたところへ、「心の鬼の和田四郎」がどかどか乗り込んできて、カネ目当てに老母を酷い目に遭わせちゃう。人形じゃなきゃできません。玉助さんに勢いがあり、見栄切りまくり。「烏文字」の熊野のお札で、鳥目が治った平太郎の逆襲も派手。
ほかにもお柳のシルエットが浮かんだかと思うと壁抜けしたり、家の中に柳の葉が舞ったり、ファンタジーが満載だ。みどり丸が泣く泣く柳を引いていく、美しい木遣りで幕。

締めくくりはこちらもお馴染み、「日高川入相花王(いりあいざくら)」からコンパクトな渡し場の段を、三輪太夫・咲寿太夫ら、団七らの5丁5枚で。
愛しい安珍を追ってきた清姫(清五郎)が、蛇体に変身して川を渡る。ラスト、ぱあっと舞台が明るく、桜満開になるのに、姫が相変わらず「角出しガブ」の恐ろしい形相で終わるのが、サービス精神たっぷり。堪能しました!

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