文楽

浄瑠璃「阿古屋」

床だけコンサートⅡ  2017年9月

文楽の音楽を愉しむと題した、鶴澤燕三が中心の太夫・三味線のコンサートに行ってみた。年配ファンが多い大田区民プラザ、前の方中央で5000円。休憩を挟み2時間。

序章は雛壇前方に、燕三ら三味線陣7人が並んで演奏。文楽のいい節回しをつなぎ合わせて聴かせる趣向だ。
続いて全員でトーク。明るい豊竹呂勢太夫が司会の才能を発揮し、三味線陣では竹澤宗助、中堅の鶴澤清志郎、ダイエットに成功した清馗、若手の寛太郎、清公、そして燕三さん期待の燕二郎、さらに太夫陣で豊竹睦太夫、靖太夫に、テンポよく話を振っていく。大役の思い出、胡弓の弦が切れちゃったハプニングや、師匠のクセなどをコミカルに紹介して、親しみがわく。

休憩後は、まず短く「今昔時移流(いまはむかしうつりゆくとき)」。時をテーマに浄瑠璃を編曲したものだ。
そして素浄瑠璃「壇ノ浦兜軍記 阿古屋琴責の段」を1時間。呂勢太夫が筆頭で熱演し、睦太夫も聴きやすい。
そして燕三、宗助のリードで、燕二郎が重責の三曲を披露。冒頭の琴はちょっとバタバタしていたけれど、三味線になって落ち着き、大詰めの胡弓は滑らかな音色で、かなり達者でした!

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文楽「生写朝顔話」「玉藻前曦袂」

第二〇〇回文楽公演 2017年9月

昼夜で勘十郎さんが大活躍する9月公演。まず第一部は観る者をイライラさせる男女のすれ違い劇「生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)」。ヒロイン深雪の運命が見事なジェットコースターぶりだし、三味線や琴の音がキーになるのも洒落ていて、けっこう現代的に楽しめる。初日から盛況の国立劇場小劇場、上手寄り後ろの方で7000円。休憩2回をはさみ4時間半。

戯曲は天保3年初演、読本→歌舞伎→浄瑠璃と練り上げられたロマンスのようです。
宮城阿曽次郎(珍しく2枚目の吉田玉男)と深雪(吉田一輔)が恋に落ちる、発端の宇治川蛍狩りの段は、竹本小住太夫が朗々。楽しみだなあ。芸州(広島)の家老のお嬢様、深雪が大胆に押しまくり、阿曽次郎の格好良さを印象づける。確かに、女扇にさらさらと「朝顔の歌」(物語のテーマソング)を書きつけるやら、酔いどれ浪人をやっつけちゃうやら、わかりやすい王子様ぶりだ。
続く明石浦船別れの段は、安定の竹本津駒太夫、鶴澤寛治、琴で鶴澤燕二郎。月の夜、風待ちの船上で2人が再会、深雪の猛攻に阿曽次郎がこたえる。船頭の桐竹勘介が小芝居。しかし突然の大風で船が動き、再び離れ離れに。阿曽次郎の手に、深雪が投げた朝顔の扇だけが残るラストが切ない。

ランチ休憩の後、浜松小屋の段は、存在感を増す豊竹呂勢太夫を鶴澤清治が支える。阿曽次郎会いたさに家出した深雪は、浜松の街道筋で、なんと盲目の三味線弾きに落ちぶれている。この段だけ登場の御年84歳・吉田蓑助が、深雪の色気と哀れを表現して絶品だ。乳母・浅香(人間国宝になった吉田和生)と再会したのも束の間、浅香は悪漢と刺し違え、伏線となる守り刀を託して息絶える。

短い休憩の後はお楽しみ、チャリ場の嶋田宿笑い薬の段だ。豊竹咲太夫、鶴澤燕三という切場並みコンビが、体調十分とは言えないものの、技巧を発揮する。舞台は大井川岸の旅館。駒沢次郎左衛門(改名した阿曽次郎)を狙う悪臣の一味・萩の祐仙(桐竹勘十郎)が、しびれ薬を仕込むものの、宿の主人・徳右衛門(桐竹勘壽)の機転で逆に笑い薬を飲まされちゃう。その名も祐仙という、愛嬌たっぷりのカシラ(一つしかないそうです)で、丁寧に茶をたてる動きがまず楽しい。笑いが止まらなくなってからの悶絶は、右へ左への大騒ぎだ。
続く宿屋の段が本来のクライマックス。渋く豊竹呂太夫、竹澤團七、琴で鶴澤清公。細やかだけど、切なさは今ひとつか。宿の庭先で通称・朝顔、実は深雪(かわって豊松清十郎がなかなかの熱演)が、思い出の朝顔の歌を奏でる。後ろの座敷で、愛しい次郎左衛門がじっと見守っているのに気づかない。あー、なんてこと! 次郎左衛門は役目を優先し、主人に扇と目薬を託して出立しちゃう。
大詰め大井川の段は、次郎左衛門を追いかける深雪が、髪振り乱して激しいアクション。体を捻じったり、杭にすがりついたり。またまた一足遅れで川止めに遭い、絶望からあわや身投げ、というところで、実は浅香の父・徳右衛門の犠牲によって深雪の目が治り、先行きに希望が射して幕となりました~

後日、足を運んだ第二部は「玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)」。「いがみの権太」ばりの自己犠牲談、プラス猿之助風のケレンがたっぷりという、サービス精神満載の演目だ。中ほどのいい席で同じく7000円、休憩3回を挟み5時間弱。
能「殺生石」にもなった金毛九尾の妖狐伝説を、読本をもとに近松梅枝軒らが人形浄瑠璃に仕立て、1806年に初演。昭和49年に淡路人形座の曲も参考にしつつ復活し(玉藻前は初代玉男)、一昨年には大の狐好きの勘十郎さんが、大阪で演じて大当たりをとり、楽しみにしていた東京上演です。

導入の清水寺の段は掛け合い。明るい清水舞台を背景に、悪人・薄雲皇子(吉田玉也)の謀反の企てや、可憐な右大臣の娘・桂姫(吉田蓑二郎)と格好いい采女之助(うねめのすけ、吉田幸助)の恋を紹介する。
続く道春館の段が大曲で、奥は竹本千歳太夫・豊澤富助が張り切る。いい声だけど大詰めの絶叫が気になるかな。お話は、皇子の手先・鷲塚金藤次(こちらははまり役の吉田玉男が大きく)が、皇子を振った桂姫の首を出せと迫り、切髪の後室・萩の方(吉田和生、今度は拍手あり)が双六勝負で、実子の妹・初花姫(吉田文昇)を身代わりにしようとする。左右対称に位置する姉妹がお揃いで、華やかな赤い打掛から死を覚悟した白い打掛に着替えるのが、目に鮮やか。バックギャモンのような双六の、サイコロを振る仕草も面白い。
母、娘のクドキ、そして金藤次が桂姫を討ち、実は実父だったと告白するびっくりのモドリ。「こりゃ娘、父(てて)じゃわい」で拍手~

30分の休憩後はスペクタクルに転じ、神泉苑の段を、豊竹咲寿太夫・龍爾改め鶴澤友之助、奥は朗々と豊竹咲甫太夫・鶴澤清介。初花姫が玉藻前と名を改め(桐竹勘十郎)、帝の寵愛を独占しているが、妖狐に乗り移られ、皇子と結託して、なんと日本を魔界にしようと企てる。
この作品だけで使う特殊なかしら2種類が登場して、拍手。長い髪をさばくと同時に180度回転して、娘と狐が入れ替わる「両面」、そして娘の顔の前に、鬘の下から狐を出す「双面」だ。
続く廊下の段で玉藻前が全身から光を放ち、妖力を露わにする。タイトルの元になったシーンを照明とスモークで演出。

短い休憩があり、訴訟の段はチャリがかって、いい加減な皇子の無茶ぶりで、なんと裁判を任されちゃった傾城亀菊(吉田勘彌)が、借金の揉め事やら色恋沙汰やらを下世話、かつけっこう賢く裁いて笑わせる。
物語大詰めの祈りの段は、竹本文字久太夫・竹澤宗助。亀菊が自らを犠牲にして、神器・八咫(やた)の鏡を采女之助に渡し、皇子の謀反はあっけなく頓挫。玉藻前は最大の弱点・獅子王の剣を突きつけられて正体を現し、那須野が原へ飛び去る。勘十郎さん、見事な宙乗り!

ラストは宝塚のレビュー風に、ストーリーと関係ない舞踊となり、「七化け」で勘十郎さんが早替りを演じる。なんと左と足が5組控えていて、入れかわり立ちかわり支えるそうです。
退治されて石になった妖狐が、夜な夜な化けて出るという趣向。座頭、在所娘、雷、いなせな男、夜鷹、女郎、奴、狐とめまぐるしく人形をかえながら、それぞれの仕草を器用に演じ分ける。雲や草のセットをうまく使った素早い転換が目に楽しく、客席は沸きに沸く! 床も咲甫太夫ら5丁5枚で、鶴澤藤蔵さんら三味線も大暴れでした。地方に伝わる大衆性と、現代的なスピードの融合。あー、面白かった。

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文楽×落語「堀川」「蔵丁稚」

古似士の会~生喬!幸助!落語と文楽一本勝負!  2017年7月

本名が同じ「コニシマサユキ」という縁で、笑福亭生喬、吉田幸助によるコラボ企画が実現。分野は違えど正統古典同士、大阪ならではの柔軟な顔合わせが素晴らしく、手作り感満載の楽しい会だ。憧れの上方落語の定席・天満天神繁盛亭で、両分野のファンが集まって200席強がいっぱい。中入りをはさんで2時間半。

三番叟を取り入れた出囃子が鳴って、まずは対談「二人のコニシ」。生喬さんは2013年に亡くなった6代目笑福亭松喬のお弟子さん。幸助さんの結婚披露で司会を務め、びっくりの宝塚オスカル姿のまま、通路で待機していたとか、今回「主役」を務める中西らつ子画を元にした定吉カシラのツメ人形が、想定外の贅沢な衣装になったこととか、楽しいおしゃべり。
続いてお弟子さんの笑福亭生寿が、らつ子作の文楽紙芝居「新版歌祭文~野崎村の段」を披露。女形もいける高音、めりはりのある語り口が聴きやすい。
続いて生喬が、酒宴の失敗談などから「堀川」。長屋に住む2人の道楽息子、酒極道と喧嘩極道の無茶苦茶ぶり、それでも温かく面倒をみ続ける母の苦労を語る。初めて聴いたけど、難しい噺を、大工一家の朝の風景とか、テンポのいい語りと雑駁さで聴かせちゃう。レベル高いなあ。
ラストはダメ息子を起こしにくる猿回しが、浄瑠璃「近頃河原の達引」堀川猿廻しの段をパロディでたっぷりと。素養がなければできません。

中入り後に生寿が「とざいとーざい」を務め、いよいよ「蔵丁稚」。生喬が下手寄りに釈台を置き、歌舞伎好きの丁稚が蔵に入れられ、調子に乗って四段目を演じるところで照明が落ち、上手寄りに幸助登場。定吉は通常のツメとそう変わらないサイズだというけど、大きく見える。一人遣いのツメの限界に挑戦!とのことで、表情たっぷり。2人で合わせたのは2回だけとは、とても思えない完成度だ。我に返って明るくなるラストのみ、生寿が左に入って、おしゃもじを持つオチでした~ 見事。

繁盛亭はコンパクトな空間に、上方落語の歴史パネルやら春団治の人力車やら、さらに客席天井には名入り提灯がぎっしり並ぶ。サービス精神満載で、楽しかった。

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文楽「寿柱立万歳」「菅原伝授手習鑑」「加賀見山旧錦絵」

第一九九回文楽公演  2017年5月

英大夫改め六代豊竹呂太夫襲名披露の文楽公演で、ロビーには安倍首相夫妻らの花が並んで華やかだ。人形陣はもちろん、文字久太夫、千歳太夫らが充実。
まず第一部は大正期初演、常磐津節をベースにした、めでたい「寿柱立万歳(ことぶきはしらだてまんざい)」から。江戸にやってきた三河万歳コンビが、新築時に大黒柱を祀る「柱立」を真似て、賑やかに踊る。三輪太夫ら5丁5枚で。

短い休憩後、お馴染み「菅原伝授手習鑑」を茶筅酒の段から。コミカルだけど、3兄弟の妻が持参する祝いの品が後の展開を暗示する。喧嘩の段は咲寿太夫・龍爾。松王丸(玉男)と梅王丸(幸助)が米俵まで持ち出し、アクションたっぷり。続く訴訟の段では、勘当となる松王丸の複雑な心境がきめ細やかだ。
前半のハイライト、桜丸切腹の段は、文字久太夫・藤蔵が切々と。桜丸の簑助さんは動かず静かに、若者の悲痛な覚悟を存分に。老親・白太夫(玉也)が介錯に、鉦を鳴らして成仏を助けるという、豊かな音楽性が胸に響く。桜丸の妻・千代に勘十郎、梅王丸の妻・春に一輔。

ランチ休憩の後は口上。呂勢太夫の司会で津駒太夫、清治、勘十郎が笑いを交えつつ挨拶。
短い休憩を挟んで菅原伝授の後半を、呂勢太夫・清治の賑やかな寺入りの段から。続いていよいよ襲名披露狂言、身代わり劇の王道・寺子屋の段へ。前を新・呂太夫と清介で渋く。寺子屋主人・源蔵(和生)戸浪(観壽)夫婦と松王丸(スケール感のある玉男)・千代(きめ細かな勘十郎)夫妻の、息詰まる攻防だ。
大詰めは切り場語りの咲太夫・燕三で。体調万全ではないようだけど、さすがの説得力。白装束となった松王丸夫婦の、悲しくも流麗ないろは送りで幕となりました。

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1週間後に第二部の「加賀見山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)」。享保から寛延(1716~1751)の加賀騒動を題材に、歌舞伎を取り込んで、天保5年(1824)に現在のかたちになったそうです。初めて観たけど、変化に富んで面白かった!
前半は鳥井又助(かしらは松王丸と同じ文七。幸助がパワフルに)の、得意絶頂からどん底へ、ジェットコースターのような運命を描く。幕開きはアクションシーンの筑摩川の段。主人・求馬のためと信じて、又助が増水した川で勇敢に悪者を討ち、豪快に高笑い。御簾のメリヤスが盛り上がる。
続く又助住家の段は、中を咲甫太夫・清志郎で切なく。又助が重宝を買い戻せるようにと、妻・お大(清十郎)が健気にも身を売ることを決意し、心にもない愛想尽くしを言う悲劇だ。
奥は呂勢太夫・宗助が熱演。家老・安田庄司(文昇)の言葉で、実は騙されて主君を討ってしまったと知る又助。急転直下、なんと我が子を手にかけ、さらに自ら求馬(勘彌)に討たれ、お大も自害しちゃう。一家全滅の無茶苦茶な展開なんだけど、家老の理解で求馬の帰参がかない、身分の低い者の熱意と犠牲が実を結ぶ。意外に爽快だ。

休憩を挟んで、後半は女版・忠臣蔵。前半とは独立したエピソードだ。御殿女中のいざこざがテーマとあって、歌舞伎では宿下がり時期の3月上演が定番だったとか。
草履打ちの段は、津駒太夫らを寛治の三味線が支える。鶴岡八幡宮で、武家出身の局・岩藤(珍しくワル役の玉男)が中老・尾上(和生)を激しく苛める。ここですでに、尾上は自害を決意! 続く廊下の段は明朗に咲甫太夫・團七。腰元たちの噂話の後、岩藤が尾上の召使・お初(待ってました勘十郎)まで苛めちゃう。尾上が町人のくせに出世したせいと思いきや、実は尾上が叔父弾正と岩藤のお家乗っ取り計画を記した密書を握っており、手向かいさせて追放するのが狙い。お初は図らずもこの奸計を立ち聞きする。
そしていよいよ眼目の長局の段。緊迫かつ人情あふれる会話、クドキ、激情と振り幅大きい難曲を、千歳太夫・富助が懸命に。まず私室で沈み込みながら心中を明かさない頑固な尾上を、年少でも気丈なお初が懸命に励まし、諭す。1748年初演の忠臣蔵を持ち出し、歌舞伎より文楽と言ったりして面白い。お初がまめまめしく茶を煎じる間、尾上は「江戸冷泉」の節をバックに、書き置きをしたためる。細かい動き、小道具が多くて目が離せません。団扇の柄が折れ、扇がばらばらに! ついに尾上はお初に、遺恨の草履と書き置きを実家へ届けるよう言いつける。お初は塵手水で尾上を無事を祈り、いったん出掛け、ひとり残った尾上が先立つ不孝を切々と。
ここからは大掛かりなセット転換が連続する怒涛の展開だ。辻占や烏の声に胸騒ぎを覚えて文箱を開けたお初が、慌てて取って返すものの、尾上は仏間で自害しており、後の祭り。一転、激情を爆発させ、髪を振りほどき、無念の懐剣で軒先の藤の花を切り捨て、駆け出していく。格好いいなあ。
クライマックスの奥庭の段で、お初は気丈に岩藤を討ち果たす。雨、赤貝をすり合わすというカエルの声、そして傘を使った立ち回り。ラストにまたまた安田庄司登場。お初の訴えを認めて、スカッと幕となりました。
単なる陰湿な苛め話ではなく、登場する女性それぞれ自我が強くて、智恵とプライドが激突する。現代的なお話だなあ。

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文楽「平家女護島」「曽根崎心中」「冥途の飛脚」

国立劇場開場50周年記念 第一九八回文楽公演  2017年2月

2017年最初の東京公演は開場50周年の続きで近松名作集! 近代劇の扉を開いた日本のシェイクスピア、近松作品の3本立てです。高い音楽性と、色っぽい人形を楽しむ。国立劇場小劇場で1部6000円。

まず初日に見どころ解説をきいてから、後ろのほうの席で第1部、第2部を鑑賞。1部は近松のなかでも、現存作が少ないという時代物から、「平家女護島(へいけにょごのしま)」だ。歌舞伎「俊寛」は、2010年に今は亡き勘三郎で観て、うらぶれた造形が強烈だった。今回は1986年復活の初段から、という意欲的な上演で、清盛との因縁や、俊寛が絶海の孤島に残る背景、そして時代物はファンタジー、実は女性が主役、という意味がよくわかった。
その珍しい六波羅の段は、安定の靖太夫、錦糸。京に残された俊寛の美しい妻あづまや(クールに一輔)が、権力者・清盛(横暴ぶりがスケール大きい幸助)に迫られて自害する悲劇。甥の武将・教経(玉佳)は、清盛になんとあづまやの首を突きつけて諌めちゃう。無茶なんだけど、迫力は満点。
ランチ休憩を挟んで、歌舞伎でお馴染み、鬼界が島の段。襲名を控えた英太夫、清介が三味線無しの「謡ガカリ」から重々しくスタート。過酷な孤島(今の鹿児島県硫黄島)暮らしで、俊寛(和生)は切継(パッチワーク)を着て、足はガリガリだ。流人仲間・成経(勘弥)と、薩摩弁まじりのセクシーな海女・千鳥(さすがいじらしさが際立つ簑助さん。ちょっと足は辛そう)の祝言が微笑ましい。赦免船到着からは期待、俊寛が帰れるかのハラハラ、取り残される千鳥のクドキと、変化に富む展開だ。俊寛は妻の死を知ったことで、上使を刺してまで若い夫婦の犠牲になり、残留を決断する。だが、いざ船を見送るときには「思い切っても凡夫心!」と、激しい孤独、未練に襲われる。人間存在の弱さ、運命の冷徹。深いですねえ。セットが回転して、切り立った崖を見せる演出が効果的。
舟路の道行より敷名の浦の段は一転、スペクタクルだ。充実の咲甫太夫、藤蔵以下5丁7枚で。赦免船が鞆の浦(福山)あたりに差し掛かり、俊寛を慕う怪力・有王丸(頼もしい玉勢)が千鳥に付きそう。厳島神社に向かう清盛が、後白河法皇を海に突き落とし、千鳥(簑紫郎)が颯爽と水連の技で救うものの、清盛は熊手!で千鳥を捕らえて踏み殺しちゃうという大暴れ。千鳥の怨霊が高熱で苦しむ清盛の末路を予感させて、幕となりました。珍しい段にはいろいろ工夫の余地があって面白そうだ。

第二部は、世話物というジャンルを作った「お初徳兵衛 曽根崎心中」。文楽で3回、歌舞伎で2回観ている定番だ。徳兵衛に玉男、お初に勘十郎と、当代随一のコンビで。特に勘十郎さんは情緒があって、艶めかしいなあ。導入の生玉社前の段は、明快に文字久太夫、宗助。お初がすでに死を予感しているところが凄い。
休憩後に眼目の天満屋の段を、唯一の切り場語り、咲太夫と燕三。声量は万全でない印象だけど、きめ細やかだ。プログラムによると国立劇場の文楽公演は、なんと咲太夫の襲名披露で幕を開けたとか。お初の大胆さ、九平次と床下の徳兵衛双方に語りかける立体的な緊迫感、小さな小さな白い足の色気。2人手に手を取って抜け出すサスペンスも。
続いて大詰め天神森の段。荻生徂徠が賞賛したという「この世の名残、夜も名残」に始まる道行を、津駒太夫、咲甫太夫らで。三味線の寛治、清志郎、寛太郎らが盛り上げました~ 徳兵衛がお初に刃を突きつけて幕。リアルでスピード感ある運び。
この日は初日とあってロビーで迎える技芸員さんはスーツ姿、客席には引退した嶋大夫さんの姿も。

1週間後に、残る第3部を鑑賞。2012年に和生、勘十郎で観た「梅川忠兵衛 冥途の飛脚」だ。横領事件をテーマに、人間の複雑さ、愚かさをえぐる世話物の傑作。
淡路町の段は、松香太夫の代演の咲甫太夫から、リズム感のある呂勢太夫と、華やかなリレー。飛脚・亀屋の養子で、お調子者の忠兵衛(味のある玉男)は、遊女梅川に入れあげ、友人・八右衛門(簑二郎)に渡す50両を使い込むが、しっかり者の養母・妙閑(文昇)の手前、鬢水入れを渡して誤魔化す。男気のある八右衛門は事情を飲み込み、いい加減な受取を書く。
背景が上方にはけて、灯りのともる町家を遠くに見る、夜の西横堀。忠兵衛が蔵屋敷に届ける300両を懐に、北の堂島か、南の廓かで惑う。理性を失う羽織落し。野良犬(勘介)が上手い!

30分の休憩を挟んでいよいよ封印切の段を、切迫感ある千歳太夫・富助で。冒頭は茶屋で女郎たちが拳遊び。近松の浄瑠璃「三世相」を語る禿は、手が三味線にぴったりだ。訪れた八右衛門が友を思って「廓に近寄らせるな」と話す。それを立ち聞きした忠兵衛は逆上。梅川(清十郎さん、ちょっと辛そうかな)の懸命のクドキも虚しく、ついに公金に手を付けちゃう。じゃらじゃら小判の投げ合いがアナーキー。八右衛門が腕組みするシーンは左が一服。
続いて道行相合かごを、文字久太夫以下5丁5枚が1970年上演のバージョンで。小住太夫の声がよく通る。シーンは主役2人がすっきりと、野道を故郷大和に向かう。改作「傾城恋飛脚」の新口村への導入部分だが、歌舞伎バージョンと比べ衣装などが侘しくてリアル。駕籠を降り、雪が降りしきるなか、一枚の羽織を譲り合ったり、案山子の笠を拝借したりで、幕切れとなりました。

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文楽「仮名手本忠臣蔵」

第一九七回文楽公演「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」 2016年12月

文楽2016年の締めくくりは、国立劇場開場50周年記念で忠臣蔵だ。競作となった3カ月連続の歌舞伎と違い、文楽は1日で一気に通しちゃう。強行軍を2日に分けて鑑賞した。歌舞伎より演出が簡素で、役者に頼らない分、高い緊張や無常感を堪能する。人形、三味線は安定、引き続き若手太夫の頑張りを応援。国立劇場小劇場で各7000円。

まず第一部は休憩2回で5時間半を、上手寄り後ろの方で。大序・鶴ケ岡兜改めの段、恋歌の段はテンポよく、対立の経緯がくっきりする。時節は2月。人形は黒衣で。
二段目・桃井館本蔵松切の段は睦太夫・錦糸。正義漢・若狭之助(幸助)の決意を加古川本蔵(勘十郎)が認めるけど、三段目・下馬先進物の段で本心が明らかになる。
腰元おかる文使いの段は聞きやすい三輪太夫・喜一朗。おかる(一輔)がよせばいいのに急いで手紙を届け、勘平(清十郎)を大胆に誘惑する。このコンビだと割と端正だけど。鷺坂伴内(代役で玉志)との入れかわり立ちかわりがコミカルだ。
畳が目に鮮やかな松の廊下に転じ、「喧嘩場」殿中刃傷の段を、重厚に津駒太夫・寛治。2段になった幅広のセットで、逃げる高師直(玉也)、激しく迫る塩谷判官(和生)がいったん引っ込んでまた走り出る、最後は追いすがる本蔵と上下に分かれる構図がダイナミックだ。そして裏門の段を丁寧に。

ランチ休憩の後、四段目はシックな花籠の段からで、呂勢太夫・宗助。「通さん場」塩谷判官切腹の段は、いよいよ切り場語り咲太夫・燕三。「未だ参上仕りませぬ」の緊張感が半端ない。ついに駆けつける由良助(玉男)。動揺する諸士たちは一人遣いだけど、頷きの仕掛けがあり、ツメではないそうだ。
城明渡しの段は広い舞台に由良助たった一人、浄瑠璃も「はったと睨んで」の一節だけなのに、スケールが大きい。書割のあおり返しで城が遠のいていく。格好いいなあ。

短い休憩を挟み五段目「濡れ合羽」山崎街道出合いの段は、むせ返るような夏の夜。小住太夫・寛太郎でフレッシュに。二つ玉の段は胡弓が入り、斧定九郎(簑紫郎)は歌舞伎の影響を受けた外見ながら、立ち回りの途中で煙管を吸ったり、トドメを刺したりして粗野な造形だ。
六段目身売りの段は世話の雰囲気に転じ、抑揚豊かに咲甫太夫・清志郎。一文字屋から来るのは剽軽な才兵衛(玉勢)だけなど、全体に歌舞伎よりシンプルだ。技巧が少ないだけに、勘平の追い詰められていくさまがリアル。早野勘平腹切の段は英太夫・團七。勘平の着替えは原、千崎が訪れてから。独り残される与市兵衛女房(代役で勘壽)が哀れだ。

翌日は第二部、休憩3回5時間を、下手寄りで。
豪華配役で七段目「茶屋場」祇園一力茶屋の段。季節は秋。セリフが凝っており、掛け合いで太夫がどんどん入れ替わって派手だ。由良助は前を咲太夫、後を英太夫がしっかりと。平右衛門の咲甫太夫ははじめ、下手の仮設の床で「無本」で語る非常に珍しいかたちだ。まさに駆けつけてくる感じ。咲甫さんと、遊女となったおかる呂勢太夫のやり取りは、楽しいけど、ちょっと力が入りすぎかなあ。三味線は前が清介、後が盤石の清治で、簾内では長唄も。
人形は紫の着物の由良助を玉男、平右衛門を勘十郎が軽やかに。おかるの簑助さんは2階から降りるのが大変そうで、気迫の演技。段切は平右衛門が九太夫を豪快に持ち上げる。映画「最後の忠臣蔵」の寺坂なんですねえ。

25分の休憩後、八段目・道行旅路の嫁入は三大道行の一つだとか。本蔵の後妻・戸無瀬(和生)と娘・小浪(勘弥)の旅は、富士山から琵琶湖へと移り変わる風景が広々としていて、戸無瀬がくゆらす煙管や、色っぽい話も大らか。遠くに赤い穂先が見える嫁入り行列との対比が鮮やかだ。

短い休憩を挟んで九段目はまず端場・雪転がしの段。由良助が祇園から山科にご帰還。雪だるまの話が伏線となって、いよいよ格調高い三味線「雪おろし」から、難曲・山科閑居の段へ。千歳太夫・富助が大役を熱演し、後半は文字久太夫・藤蔵。
両家の因縁から、お石(簑二郎)と戸無瀬が緊張感あふれる対決。母娘があわや自害というところへ、本蔵(勘十郎)が虚無僧姿で現れる。悲しい尺八「鶴の巣ごもり(巣鶴鈴慕)」を聞かせ、すすんで力弥(玉佳)の槍にかかっちゃう怒涛の展開だ。決して忠ではなく娘のため、という心根、さらに判官の短慮を惜しむセリフが、江戸期の庶民の視線を感じさせて、感慨深い。この長編の主役、実は本蔵なのかも。重苦しいなか、由良助が雪持ち竹で雨戸を外してみせたり、力弥・小浪の祝言も。

10分の休憩後は、珍しい十段目・天河屋の段。なんと戦後4回目、国立での上演は18年ぶり2回目とか。堺にある深夜の店で、町人の義平(玉志)が由良助に試され、男気を示す。緊張が緩む感じ。
歌舞伎のような派手な立ち回りはなくて、いきなり十一段目・花水橋引揚の段へ。晴れた雪景色のなか、馬で若狭之助(幸助)が駆けつけ、扇を広げて祝う大団円が爽快だ。長時間で疲れたけど、充実してました!

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ら文楽さろん

ら文楽さろん 2016年11月

番外編で、文楽ポータルサイト「楽文楽」主催の講座に初参加。池上実相寺の洒落た100帖の和室に椅子を並べるスタイルで、忘年会と合わせて5000円。
まずロビーで薩長同盟締結150年記念と銘打ち、山口・旭酒造のご存知「獺祭」、鹿児島からは大海酒販のすっきりした焼酎「大海」がふるまわれた。

本編は2018年に吉田玉助襲名が決まった吉田幸助さんをメーンに、お馴染み玉勢さん、伸び盛り玉路さんが登場。録音の浄瑠璃をバックに、まずめでたい「三番叟」からリズミカルな鈴ノ段、さらにお客さんを相手役にして「野崎村」を披露。珍しく女形。
休憩も挟みつつ、幸助さんのトークもたっぷりと。人形の着つけ方や12月公演「忠臣蔵」の粗筋、「うめだ文楽」の裏話…。なにより襲名にかける意気込みが伝わってきました!

終演後は長テーブルと座布団を並べて忘年会に。美味しいおでん、おむすびをつつきつつ、皆さんと和やかにおしゃべりして、抽選は外れちゃったけど、面白かったです。

「一谷嫩軍記」「寿式三番叟」

第一九六回文楽公演 第1部 第2部   2016年9月

古典芸能漬けのシルバーウイーク。まずは国立劇場小劇場へ。開場50周年記念と銘打った9月文楽公演は、並木宗輔が平家の滅びの美を描いた時代物「一谷嫩軍記」の通し狂言だ。
部分的には文楽で2回、歌舞伎で2回観たことがあり、特に團十郎さんの熊谷は忘れられないけど、通しは珍しいとのこと。勘十郎さんの熊谷を軸に、組討なども出て、改めて起伏に富む名作との印象を強くする。後ろの方、やや上手寄りで7000円。休憩2回を挟んで、たっぷり4時間半。

初日は第一部を観劇。初段、堀川御所の段は大夫は簾内、人形も黒衣姿だ。大将義経(幸助)が俊成の娘・菊の前(簑紫郎)に具申され、敵ながら平忠度の歌を千載集に入れることを許可し、2つの重要な命を下す。
続く敦盛出陣の段は、中の始太夫・団吾が聴きやすく、奥の文字久太夫・清介もなかなか安定。
舞台は福原の平経盛の館だ。まず息子・敦盛の許嫁である玉織姫(一輔が淡々と)が、連れ戻しに来た実父の使者をいきなり切り捨てちゃってびっくり。そして祝言の席で敦盛(和生)が、実は後白河院の落胤という秘密が明らかになる。経盛は止めるものの、敦盛は平家の一員として覚悟の出陣。馬にまたがった若武者姿が格好いい。ラストは母・藤の局(勘彌)たちが敵を蹴散らすアクションで、強い女性が痛快。また導入を観ると、平家側がのっけから敗戦を悟っていて、全編を無意味さが覆うニヒルな物語だということがよくわかる。

30分の休憩後は陣門の段から。一ノ谷の陣所で、直実の若い息子・小次郎直家(和生が2役)が、聞こえてくる笛の音に風雅を感じ、いっとき戦さを虚しく思う絶妙のフリ。先陣で手傷を負い、熊谷(堂々と勘十郎)が助け出す。
景色が開けて、須磨浦の段へ。敦盛を追ってきた玉織姫が、なんと横恋慕する平山武者所(玉佳)に斬られちゃう。
そしていよいよ素浄瑠璃でも取り上げられるという、組討の段。咲甫太夫・錦糸が音楽的で盛り上がる。馬で海に乗り入れた敦盛と熊谷(盤石の勘十郎)が一騎打ち。半分ぐらいの大きさの遠見の人形から、一瞬で通常の大きさに切り替わるスペクタクルが盛り上がる。その後、熊谷は平山が見ているため、逃がすことができず、ついに敦盛の首をはねる。これが実はすでに直家なんですね~ 車匿(しゃのく)童子を引用した、別れの悲痛。直実の、両のこぶしを目に当てて、のけぞって嘆く仕草が、豪快かつ胸に迫ります。

10分休憩を挟んで、冒頭で義経が発したもう一つの命令を追う林住家の段、通称「流しの枝」。本公演では41年ぶりだとか。中の睦太夫・清志郎が朗々とし、奥の千歳太夫・宗助が気合十分で聴かせます。
摂津にある、かつて菊の前の乳母だった林(和生さん大活躍)のあばら家で偶然、忠度(立派に玉男)と恋人・菊の前(可愛い蓑助さん)が再会。義経から短冊を結んだ山桜の枝を託された岡部六弥太(玉志)が訪ねてきて、忠度の作が詠み人知れずながら、千載集に入ることを伝える。思い残すことはないと、さっそうと覚悟の負け戦に向かう忠度。文武両道の人です。その右袖を、菊の前に与え、戦場で会おうという思慮深い六弥太。大人っぽい段でした!
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そして翌日に第2部を鑑賞。今回は前のほう中央のいい席だ。休憩2回で4時間強。

幕開けは毎回楽しみな、五十周年を寿ぐ祝儀曲「寿式三番叟」。松の画を背景に、正面雛壇に津駒太夫、呂勢太夫、咲甫太夫ら、寛治、藤蔵、清志郎らの9丁9枚が、ずらり並んで壮観だ。
厳かに文昇の千歳、玉男の翁が舞ったあと、リズミカルな三味線に乗って、三番叟コンビが袖を振る揉の段、四方に種を蒔く鈴の段へ。今回は玉勢・簑紫郎。思えば2009年に勘十郎・玉男、2011年に幸助・一輔、さらに2013年には文昇・幸助で観たんだったよなあ。世代交代を感じます。

15分の休憩後、「一谷嫩軍記」の続きで三段目、弥陀六内の段から。御影の石屋・ 弥陀六の家へ、石塔を注文した謎の若者・実は敦盛(和生)が訪ねてきて、娘・小雪(紋臣)の思いを退け、笛を託す。
つづく脇ケ浜宝引の段は、お楽しみのチャリ場となり、咲太夫・燕三。病み上がりという咲さん、迫力には欠けるけど、唯一の切り場語りとあって軽妙さはさすがだ。「広島カープの赤」「玉男、そうそう玉織姫」とか、ジョークを連発!
弥陀六が建てた石塔のところへ、藤の局(勘彌)が追手から逃れてきて、小雪の持つ敦盛の青葉の笛を発見。百姓たち(ツメ人形がとても個性豊かだ)が、敦盛の最期を口々に語る。
藤の局を追って番場忠太、須股運平(お父さんの前名を継いだ簑太郎、カシラはひょうきんな鼻うごき)が現れ、百姓たちと揉み合って運平が死んじゃう。ちょっとお下劣な大騒ぎののち、源氏方への報告役をクジで決めることになり、庄屋孫作が引き当てる。段切れは忠臣蔵のパロディだそうで、茶目っ気満載なんだなあ。

30分の休憩を挟んで、一転シリアスに戻って熊谷桜の段。文楽では玉男さんの直実を観たことがある。まず須磨の熊谷の陣屋で直実の妻・相模(清十郎が抑制的に)が藤の局と再会し、敦盛の敵討ちを迫られ苦悩する。
そしていよいよ、義経の制札の意味が明らかになる熊谷陣屋の段。前は呂勢太夫・清治が精いっぱいの奮闘だ。後は英太夫・團七。巧いものの、祖父の前名・6代目呂太夫襲名が決まっただけに、もうひとつパワーが欲しいかな。
敦盛の墓参から戻った直実が、やけにピリピリしているのが意味深な伏線だ。相模、藤の局に敦盛の最期を語るくだりは、浄瑠璃らしくメロディアスで、母を思うセリフも深い。青葉の笛を弔うと、障子に敦盛の影が映り、形見の鎧が現れる展開が鮮やかだ。
そして直実が首桶を持ってくると、中央から颯爽と義経(幸助)が登場し、怒涛の首実検へ。制札を使った見得がなんとも大きい! 義経は弥陀六の正体を見抜いて、鎧櫃にひそむ敦盛を託す。熊谷が舞台中央で僧形を表し、「16年はひと昔」の名セリフ。つくづく無常です。
いやー、2日間、堪能しました!

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文楽「絵本太閤記」

第一九五回文楽公演  2016年5月

5月の東京本公演は中堅が担う時代物「絵本太閤記」の半通し。歌舞伎「馬盥」で我慢の光秀を観たばかりだが、ちょうどその続きにあたる、主君を討った後の苦悩がメーン。なかなか複雑な造形です。国立劇場小劇場の中ほど、下手寄りで5900円。休憩を挟み3時間半。

まず本能寺の段は奥が咲甫太夫、宗助。光秀決起の報に、覚悟を決めた尾田春長(幸助さんが重々しく)が、勇ましい阿野の局に孫を託す。兄が光秀側についたため自害しちゃう腰元しのぶと、凛々しい蘭丸の恋が哀しい。

続く妙心寺の段は光秀の苦悩が語られて、起伏がある。奥はリズミカルに呂勢太夫、錦糸。京都の古刹の、龍の襖絵が立派なひと間だ。
母さつき(玉也)は息子の不忠を許せず、ひとり家出してしまい、残された光秀(額に傷のあるかしらで、玉志)は思い余って衝立に辞世の句を書きつけて自害しかかる。しかし家臣・田島頭(玉佳)と息子・十次郎(勘彌さんが凛々しい)に止められて迷いを振り切り、真柴久吉との闘いを決意。将軍任命を受けるため、馬にまたがり決然と宮中へ向かう。

休憩後、いよいよ悲劇の夕顔棚の段。尼ヶ崎にあるさつきのわび住まいで、幕開けは近隣の人々がお経を唱える穏やかなシーン。睦太夫、清友のメリヤスが滑らかだ。初陣の挨拶に来た十次郎の覚悟を察し、さつきは嫁・初菊(一輔が可憐)との祝言を勧める。

大詰め尼ヶ崎の段で、十次郎は戦場へ。光秀が忍んできて、風呂を借りている旅の僧、実は久吉(勘市)を竹槍で襲うが、なんと身代わりとなったさつきを刺してしまう。苦しい息の下から、なお逆賊の非を説く母。おまけに十次郎が瀕死の姿で戻って闘いの劣勢を伝え、退却を促す。光秀は一徹な性格で、我慢の末に暴虐な主君を討ったのに、母、息子を失い、追い詰められていく。ついに号泣する「大落とし」。
藤蔵、清介の三味線が威風堂々、ダイナミックにドラマを盛り上げる。文字久太夫、津駒太夫は熱演だけど、ちょっと迫力不足かなあ。
段切りは一転、動きのある展開となり、セットが横移動して光秀が木の上から敵勢を確認。初菊は尼ヶ崎につながる尼僧の姿に、さらに久吉が格好いい武者の装束になって登場し、光秀と山崎での対決を約束して幕となりました。

開幕前に貴重なバックステージツアーの機会があり、なんと鑑賞教室「曽根崎心中」の大詰めを裏から覗き見ました。緊張した~
ロビーでは熊本・大分地震の募金活動をしていて、大阪に続き清十郎さん、お初と記念撮影。ケネディ米駐日大使も来ていて募金してました!

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文楽「妹背山婦女庭訓」

第一四二回文楽公演 2016年4月

7年ぶりに本場大阪の国立文楽劇場に遠征した。以前より席がゆったりしていい。お目当ては春日大社第六十次式年造替に合わせた、通し狂言「妹背山婦女庭訓」、特に山の段! 人形遣いの人間国宝・吉田文雀が引退しちゃうし、太夫切り場語り・咲太夫の病気休演も重なって、引き続き厳しい状況だけど、だからこそ次世代を応援する気分。中央前のほうのいい席で6000円、。

演目はお馴染み近松半二らによる時代物で、雄大な大和地方の四季を舞台に、豪傑笑いの国崩し・蘇我入鹿と藤原鎌足・淡海親子の攻防を描く。とはいえメーンは決して権力者ではなく、巻き込まれちゃう無力な人々の悲劇、というところはお約束だ。

2日に分けて、まず第二部から。二段目・四段目で構成する、休憩2回を挟み5時間の長丁場だ。鹿殺しの段から掛乞の段、万歳の段まではコミカル。鎌足の旧臣で、今は猟師の芝六(玉男)の粗末な暮らしと、匿われている天智帝(勘寿)らの高貴さとのギャップで楽しませる。
そして前半の山場、芝六忠義の段へ。英太夫・宗助がとても聴きやすい。神鹿殺しの石子詰・十三鐘の伝説をベースに、互いを思い合う芝六と賢い倅三作(玉翔)の情感が胸に迫る。弟・杉松があまりに憐れだけど。

後半はお馴染み、ジェラシー娘お三輪ちゃんの犠牲談。七夕の杉酒屋の段は、咲大夫に替わって咲甫太夫・燕三、道行恋苧環は津駒太夫以下5丁5枚を寛治、寛太郎らが締める。以下は2013年にも鑑賞した場面だ。コミカルで豪胆な鱶七上使の段の文字久太夫・清志郎は、笑いをもっと盛り上げてほしいかな。
そして姫戻りの段からクライマックス金殿の段へ。津駒太夫・団七は安定感がある。官女(玉誉ら)にいたぶられるお三輪(技巧が光る勘十郎)が、気の毒でいたたまれない。でも鱶七(豪快に玉也)に刺されてからは、淡海(クールな清十郎)への愛を貫いて犠牲になるドラマチックな展開だ。陰ですべてを操る鎌足が頼朝のような存在で、歴史の非情を象徴。庶民はただ目の前の人に真心を尽くすのみだ。常に左右に位置する玄蕃に幸助、弥藤次に玉佳。

2日目の第一部は初段、三段目を中心に、久我之助(格好いい勘十郎)と雛鳥(簑紫郎)の悲恋が語る。ちょうど千秋楽の大入りで、休憩2回で4時間半。
まず小松原の段で若い2人がひとめで恋に落ちる。腰元の下世話なけしかけぶりが可笑しい。雪が舞う蝦夷子館の段では、めどの方(文昇)の犠牲で蝦夷子(玉志)が自害するものの、息子・入鹿(玉輝)のスケールの大きい悪党ぶりが明らかになっちゃう。傲慢入鹿の金ぴか衣装がいっそ爽快。
淡海(清十郎)が忠誠を示して天智帝(勘壽)を禁裏から救い出す猿沢池の段、謀反を起こした入鹿が、大判事(玉男)と定高(和生)に味方につくようプレッシャーをかけ、帝派の決起を聞いても悠々と馬で去る太宰館の段をへて、いよいよ念願の妹山背山の段へ。

季節は華やかな春。中央に蛇行して奥行きのある吉野川、上手に大判事の館、下手に定高の館。床も異例なことに左右にあって、交互に語っていくバトル形式だ。対立する人物を視覚的に表し、なんとも豪華でダイナミックです。川を渡る雛飾りを嫁入り道具に、首になっての祝言というのは無茶なんだけど、人形ならではの表現と音楽性でカタルシスがある。
物語は大判事と定高が、それぞれ入鹿に息子の久我之助、娘の雛鳥を差し出せと迫られ、悩んだ末に死なせちゃう。親2人の意図が暗黙のうちに一致し、川を挟んで桜の枝をやり取り。領地を巡る長い対立の克服というより、邪悪な権力者・入鹿にいったんは従いかけながら、勇気を出して良心に従う印象だ。特に定高の芯の強さったら。
決断させたのは若い子世代なわけで、決して受け身でなく、宿命的な恋を貫いて死を覚悟する。ありがちな親の忠義の犠牲とかではないんですねえ。よくロミオとジュリエットに例えられるけど、未熟ゆえの暴走ではなく、抗えない時代のうねりのなかで意志を通す強さが感じられる。
床は背山が西風の勇壮バージョンで、大判事の千歳太夫、文字久太夫が飛ばしまくり、藤蔵、富助があおる。妹山が東風の華やかバージョンで、呂勢太夫、咲甫太夫、清介を、ベテラン清治がリードしていく。琴に清公。1文字ずつの割台詞など、火花散らす熱演に緊張感があって盛り上がる。ラストはちょっと絶叫調だったかな。
人形は雛鳥だけ交代して、お待ちかね簑助さんが登場。可憐で情感たっぷりだ。足はだいぶ辛そうだったけど。

幕間にラッキーにも山の段を舞台見学。ちょっと吉野川の波を動かしちゃったりして、盛りだくさんでした! ロビーでは勘十郎さんらが震災救援の募金活動も。

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