文楽

文楽「三番叟」「双蝶々曲輪日記(引窓)」「卅三間堂棟由来」「日高川入相花王」

第217回文楽公演 第1部・第2部  2021年9月

燕三さん紫綬褒章、そして勘十郎さんがついに人間国宝という、おめでた続きの文楽東京公演に足を運んだ。人形じゃなきゃできないアクションシーンが多く、知人にも会えて、楽しかった〜 国立劇場小劇場で1部ごと7000円。

まず第1部を、中央あたりの席で。休憩を挟み2時間半。
幕開けは大好きな「寿式三番叟」。玉助・玉佳の次世代筆頭コンビが、国立劇場55周年を祝い、コロナ退散、天下泰平を祈る。錣太夫・吉穂太夫・小住太夫ら、藤蔵・勝平・友之助らの5丁5枚がリズミカル。

休憩のあと、文楽、歌舞伎(吉右衛門&菊之助)で1回ずつ観た「双蝶々曲輪日記」。まず難波裏喧嘩の段で、相撲取りで大柄の濡髪長五郎(玉志)が恩ある若旦那・与五郎と遊女・吾妻を救おうと、侍を手にかけちゃう。素手でやっつける残酷シーンも、人形だからコミカルだ。立ち回りは御簾内のメリヤス。
続いてお馴染み八幡里引窓の段を、靖太夫・錦糸、呂太夫・清介の丁寧、聴きやすいリレーで。スカイライトからの、冴え冴えした月明かりの詩情が目に浮かぶ。そしてラスト、登場人物それぞれの板挟みが解き放たれて、清々しい。なかでも南与兵衛(なんよへえ)を勘十郎さんが格好良く遣って、拍手! 老母に勘壽、女房おはやに勘彌と堅実。

ランチをとり、1時間後に第2部を、前方中央のいい席で。休憩を挟み2時間強。
メーンは「卅三間堂棟由来(むなぎのゆらい)」。後白河法皇が寺院建立の折、髑髏と柳を供養したことで頭痛が治った、との伝承をベースにした、平太郎住家より木遣音頭の段だ。切で咲太夫・燕三が渋く聴かせ、続く奥では音楽的な呂勢太夫・清治が盛り上げる。
メーンのストーリーは柳の化身・お柳(和生)による「鶴の恩返し」なんだけど、珍しく極悪人・和田四郎(玉助)が登場するロングバージョン。東京では16年ぶりとのことで、派手なアクションが満載で面白い。和田四郎って政争に絡む人物のはずだけど、このシーンではひたすら理不尽な強盗ですね。
お柳が夫・平太郎(簑二郎)と幼子みどり丸(勘次郎)に哀しい別れを告げたところへ、「心の鬼の和田四郎」がどかどか乗り込んできて、カネ目当てに老母を酷い目に遭わせちゃう。人形じゃなきゃできません。玉助さんに勢いがあり、見栄切りまくり。「烏文字」の熊野のお札で、鳥目が治った平太郎の逆襲も派手。
ほかにもお柳のシルエットが浮かんだかと思うと壁抜けしたり、家の中に柳の葉が舞ったり、ファンタジーが満載だ。みどり丸が泣く泣く柳を引いていく、美しい木遣りで幕。

締めくくりはこちらもお馴染み、「日高川入相花王(いりあいざくら)」からコンパクトな渡し場の段を、三輪太夫・咲寿太夫ら、団七らの5丁5枚で。
愛しい安珍を追ってきた清姫(清五郎)が、蛇体に変身して川を渡る。ラスト、ぱあっと舞台が明るく、桜満開になるのに、姫が相変わらず「角出しガブ」の恐ろしい形相で終わるのが、サービス精神たっぷり。堪能しました!

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文楽「生写朝顔話」「摂州合邦辻」「契情倭荘子」

第216回文楽公演 第2部・第3部  2021年5月

コロナの影響で公演が短縮された間隙をぬい、久々にたっぷりと文楽三昧。嬉しかった。満員御礼の国立劇場小劇場で各部7000円。2部、3部ぶっ通しで5時間半。

まず2部「生写朝顔話」は2017年に観た、変化に富んでいて面白いこと間違いなしの演目。深雪・阿曽次郎のイライラするすれ違いと、明石浦に鮮やかに舞う金の扇やら、大荒れ大井川やらのスペクタクルで盛り上がる。物語の鍵となるのは朝顔の唱歌の詞章や、琴、三味線で、音楽劇らしい仕掛けも嬉しい。
宇治川蛍狩りの段は小住太夫・友之助ら。あられもなく色っぽいけど、人形だから嫌らしくないよね。続くダイナミックな明石浦船別れの段は、朗々とした織太夫らの掛け合いを清志郎ががっちり支える。チャリ場の笑い薬は、残念ながら今回はカット。15分の休憩を挟んで、眼目の宿屋の段へ。咲太夫・燕三が技巧たっぷり、名乗りたいのに名乗れない、そこはかとなく気づきながら霧が晴れない2人の切なさをじっくりと。琴は燕二郎。怒涛の大井川の段は、絶唱の靖太夫・錦糸で〆。
人形は主役・阿曽次郎の勘彌が凛々しく、悲劇のヒロイン・深雪の清十郎もはかなげで、危なげなし、でした。

入れ替えの1時間弱を、休憩所で腹ごしらえして過ごして、3部を鑑賞。まずお馴染み「摂州合邦辻」から合邦庵室の段。文楽では3回目だ。登場人物それぞれの複雑な思惑を語り分けるのが難しいらしい。特に玉手御前は二転三転だものね。睦太夫・勝平、錣太夫・宗助と手堅くリレーし、後は渋く呂太夫・清介。ラストはいつもながら、荒唐無稽な筋立てを、百万遍の非日常と大落シでねじ伏せちゃう。三味線の叩きつける叱咤が凄かった~
人形は合邦道心の玉也と、女房の勘壽の愛情に深みがある。玉手の和生は端正なだけに、浅香姫への嫉妬大暴れシーンなどアナーキーさがいまひとつか。俊徳丸の蓑紫郎さん、面落ちまで我慢の演技でしたね。

休憩15分のあと、打ち出しは「契情倭荘子(けいせいやまとぞうし)」から舞踊「蝶の道行」。初めてみたけど、これは異色作!
舞台は洋風パステルの花畑でファンタジック。主筋の身替りで命を落とし、蝶の化身となった恋人同士。なんとも可愛らしい衣装で、扇に飛び乗る人形ならではの振りもあって華やかなんだけど、ラスト「死出の山」で衣装が墨の模様にかわり、業火に狂い踊るというびっくりの展開だ。
床は織太夫、藤蔵以下、5丁5枚で飛ばしまくり、玉助・一輔が25分を躍動して、ヘトヘトの様子。派手で面白かったです!

ところで文楽では先月の大阪公演で突然、名女形・蓑助師匠が引退しちゃいました。81歳で、このところ足元がお辛そうだったとはいえ、ラストを見届けることがかなわず、ショック。でも、大病を乗り越えての、唯一無二の可憐さな舞台にただ感謝…

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文楽「吉田屋」「寺子屋」

第215回文楽公演 第二部  2021年2月

3部制の東京公演で、第1部が鶴澤清治文化功労者顕彰記念(文楽初!)だったけど、今回は第2部へ。中央前寄りのいい席で6400円。3時間。

「曲輪文章(ぶんしょうは一文字)」吉田屋の段は、楽しい「餅搗き」に続いて、メーンの太夫は掛け合いで。渋い咲太夫、朗々と織太夫、藤太夫ら5枚に、燕三、ツレ燕二郎と豪華だ。藤太夫さん、力が余ってたな。
仁左衛門・玉三郎で2回、文楽でも今度が2回目の演目。この脳天気な感じが大好きだ。餅つき、太神楽という暮れの賑やかな郭風情もいいし、伊左衛門(玉男)の零落しても若旦那らしい洒脱さ、可愛さ、ド派手な夕霧(清十郎)のクドキの真情も楽しめる。吉田屋女房の蓑助さんは高齢のため、大事をとって休演で寂しかったけど。

短い休憩を挟み、打って変わって悲劇のご存知「菅原伝授手習鑑」四段目。寺入りの段に続けて、寺子屋の段。折り目正しい呂太夫・清介から、体当たりの藤太夫・清友というリレーで安定。
意外に文楽で観るのは2回目。松王丸の玉助が大熱演で、観ている方もぐっと力が入る。とにかく駕籠から出てきた瞬間の、見上げるような大きさからして圧倒的で、若々しい。「笑いましたか」、しどころの泣き落としで小さく拍手。源蔵(玉也)の苦悩、我が子を犠牲にする千代(蓑二郎)の悲嘆もきめ細かく、白装束になってのいろは送りの音楽性まで、重厚でした!

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2020喝采づくし

2020年はコロナ禍でエンタメが激減したけれど、振り返ると例年の半分くらいは鑑賞できていて、関係者の努力に感謝。

なんといっても今となっては夢のようだった、1月のQUEEN+ADAM LAMBERT THE RHAPSODY TOUR! お馴染みのキャッチーな楽曲、演出もキンキラで文句なしに樂しかった~

世界が一転したコロナ後は、伝統芸能の災厄を鎮めるという要素が、胸に響いた。特に歌舞伎の、再開後初だった8月猿之助「吉野山」や、年末の玉三郎&菊之助「日本振袖始 」のケレン。ベテランの健在もことのほか嬉しく、仁左衛門「石切梶原」の茶目っ気、吉右衛門「俊寛」の虚無を堪能した。ベテランといえば11月の狂言「法師ケ母」で、90歳近い万作さんの鍛錬に脱帽。「茸」も面白かったし。
文楽は2月の勧進帳で玉助さん初役の富樫、9月にはハッピーエンドの「壺坂観音霊験記」が楽しかったな。
落語は三三の説得力ある「柳田格之進」、正蔵さんのダークサイド「藁人形」、志の輔の爆笑「茶の湯」など。

演劇では、再開間もない7月の「殺意 ストリップショウ」の鈴木杏が、人間の滑稽さをえぐり出す一人芝居をピュアに演じきって圧巻だった。10月には鵜山仁演出のシェイクスピア史劇最終作「リチャード二世」で、岡本健一が描く人間の愚かさに引き込まれた。
対照的に、三谷幸喜「23階の笑い」は笑いと哀愁に徹して、喜劇人の心意気がひしひし。ケラリーノ・サンドロヴィッチ&緒川たまき「ベイジルタウンの女神」も、変わらないお洒落なケラ節が染みた。
大好きな岩松了さんの2人朗読劇「そして春になった」、安定の前川知大「迷子の時間」なども秀作。なんだか劇作家・長田育恵に縁があり、「ゲルニカ」「幸福論~隅田川」が印象的だった。

一方、海外からの歌手・オケが壊滅したオペラは、すっかりお預けに。滑り込みで2月の来日ミュージカル「CHESS」は、大人っぽくて良かった。 
番外編として、コロナ禍ならではの配信へのチャレンジもいろいろと。4月の一之輔10日連続生配信では、「団子屋政談」「笠碁」など、巧さと同時に、持ち前の愛らしさや寄席を維持したい思いが伝わっていた。5月のStayHomeWeek最終日には、三谷幸喜の名作「12人の優しい日本人」の読み合わせで、会議の戯曲を会議ツールで見せるという、この時期ならではのセンスが光ってた。
2021年の復活を祈って…

文楽「桂川連理柵」

令和2年12月文楽公演 第二部  2020年12月

締めくくり中堅主体の本公演は、年の差心中の世話物。鶴澤清馗のコロナ感染、豊竹咲寿太夫も濃厚接触認定による中止を乗り越えての上演となった。国立劇場小劇場の前の方中央で4500円。休憩なしの1時間半。

まず六角堂の段を、小住太夫が咲寿の分もこなし、亘太夫のほか、清馗に替わり鶴澤清志郎が登板。しっかり者のお絹(一輔)が丁稚長吉(清五郎)を言いくるめる。
続く帯屋の段は織太夫、燕三の安定のチャリ場から、藤太夫、清友にリレー。継母おとせ(玉佳)と義弟・儀兵衛(蓑紫郎)のノリノリの長右衛門(文司)いじめ、お絹の痛快な逆襲、長吉の可笑しみ、そして老父・繁斎(玉助)の切々とした苦言を存分に。父と妻の善意に触れても、幼いお半(蓑二郎)ののっぴきならない決意を知って、長右衛門は悲しい宿命をたどる…

嶋大夫さん、勘十郎さんや玉男さんで2度観ているけど、やっぱり変化に富んで面白かったです。激動の1年、お疲れでした!

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文楽「二人禿」「芦屋道満大内鑑」

文楽鑑賞教室  2020年12月

鑑賞教室は景事と時代物をバランス良く。国立劇場小劇場、前の方中央で4100円。休憩無しの1時間40分。
この日はAプロで、まず靖太夫、團吾らで賑やかに「二人禿」。京島原の遊郭で、振袖姿の禿二人(足付き)が恋文の使いの愚痴やら、羽つき、鞠つきやらで過ごす。玉翔、蓑太郎は可愛らしさが今ひとつかな。

亘太夫、頼もしい寛太郎の解説を挟み、「芦屋道満大内鑑」から葛の葉子別れの段。安倍晴明の母・葛の葉が実は白狐という異類婚姻譚。ファンタジーだなあ。三人遣いの始まりの演目でもあるそうです。豊竹咲寿太夫のコロナ濃厚接触者認定により、中は竹本小住太夫、野澤勝平コンビが登板、奥で9月に療養から復活した呂勢太夫と富助。まだ本調子ではないかも。
物語は阿倍野にある保名(玉也)の家で、妻・葛の葉(勘十郎)が機織りするところへ、本物の葛の葉姫(紋秀)と老父母(玉志、紋臣)が訪ねてくる。瓜二つの姫の交錯が面白い。葛の葉は可愛い安倍童子(玉路)をおいて去ることを決意。勘十郎さんが得意の狐への变化で、躍動する。襖いっぱいに書かれた「恋しくばたづね来て見よ」の歌が切ない。面白かった~
ロビーには清治さん文化功労者認定のお知らせが。めでたい。

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文楽「壺坂観音霊験記」

文楽令和2年 第四部 文楽入門  2020年9月

2月以来、本当に久々の文楽公演。初日の後半と、鑑賞するはずだった2日目がスタッフの発熱ということで急遽休演になるハプニングがあったものの、別の日に振り替えてもらって無事、第四部の文楽入門に足を運んだ。ブランクを乗り越え、伝統の継承を祈る気持ち。
国立劇場小劇場は市松模様の客席はもちろん、太夫が語る床の近くの席はすべて販売対象外。ソーシャルディスタンスの目印が足袋のイラストで可愛い。床本もついた簡単なパンフを無料配布していた。前のほう、上手寄りの席で4500円。1時間。

冒頭に亘太夫の淀みない解説があり、「壺坂観音霊験記」。西国三十三所六番札所の壷阪寺(奈良県高取町)が舞台で、初演は明治12年。初めて見るけど、登場するのはほぼ夫婦だけとシンプルながら、文楽には珍しくハッピーエンドでスカッとする。沢市の地唄、本堂でのご詠歌と、音楽が変化に富んでいて飽きさせないし、幕切れに人形が全身で弾けさす喜びに、舞台再開の思いも重なって爽快だ。
床は前「沢市内」が聴きやすい靖太夫、錦糸がきびきび。後「山の段」は宗助の豊かな三味線にのせて、錣大夫が情感をこめる。ツレは燕二郎。
座頭沢市(玉助)は病気の引け目から、毎日明け方に家を抜け出す妻お里(清十郎)の浮気を疑う。実は夫の眼が治るよう、観音様に通っていたと明かされるものの、それほど祈願しても治らないなら、と沢市の落胆は深まる。屈折していじけた心情が、なんだか現代的だなあ。「三つ違いの兄様と…」の有名なお里の嘆きで、幼馴染とそのまま結婚したお里のごくごく限定された日常、だからこその素朴な思いを切々と表現。三味線や針仕事の、細かい人形の動きも絶妙だ。
セットが変わって夜の山道。お里に励まされて寺を訪れた沢市は、ひとりこもって祈願する、とお里を帰す。ところが祈願どころか、自分がいないほうがお里のため、と谷に身を投げちゃう。胸騒ぎに、慌てて引き返してきたお里も、残された杖、沢市の亡骸を見つけて後を追う。すると雲間から光が差し、岩陰から眩しいキンキラ観音さま(勘介)が登場、感心な二人の寿命を伸ばす、と宣言するびっくりの展開。夜明けの鐘とともに、夫婦は息を吹き返し、なんと眼も治って喜び合う。

大ヒットして、浪曲にもなった演目なんですねえ。別の部では呂勢太夫が療養から1年ぶりに復帰。休演した咲太夫も後半、出演したそうで、まずは一安心です。黒衣ちゃんマスクがお茶目で、思わず購入。
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文楽「新版歌祭文」「傾城反魂香」「傾城恋飛脚」「鳴響安宅新関」

第210回文楽公演  2020年2月

2020年初の文楽東京公演はお馴染みの演目が並んだ。まず第2部を鑑賞。歌舞伎とは違った、独特の愛嬌と音楽性を楽しむ。竹本津駒太夫改め六代目錣太夫の襲名披露ということで、開演前のロビーでご本人から、プログラムにサインを頂きました。80年ぶりの名跡復活なんですねえ。国立劇場小劇場で6400円。
近松半二「新版歌祭文」野崎村の段は、端場「あいたし小助」から。床が充実で、前は朗々と聞きやすい織太夫・清治、切は渋く緻密な咲太夫・燕三。人形は前半はコミカルなドタバタで、おみつ(蓑二郎)は祝言の支度でウキウキしたかと思うと、現れたお染(清五郎)に激しく嫉妬、一方の久松(玉助)はお染が気になって養父・久作(勘壽がどっしり)にメチャクチャな灸をすえちゃう。そんな子供っぽいおみつが後半で一転、髪をおろす決断が健気だ。悲劇なのに、段切れはツレの燕二郎が入って華やかな演奏となる。この作劇が鮮やかだなあ。

休憩後は襲名披露狂言の「傾城反魂香」土佐将監閑居の段。珍しく床での口上で、呂太夫さんがまさかの「おいど」エピソードで笑わせる。新・錣さんが生真面目な雰囲気だけに可笑しい。舞台は奥で、主役の錣太夫・宗助登場し、ツレで勘太郎ちゃんが加わる。名を求める実直な又平(勘十郎)のお話は、錣さんに重なる、というチョイスかな。2012年にキング住太夫さんで聴いているだけに、ちょっと物足りない気がしたものの、終盤になって又平が突如、早口言葉をしゃべっちゃうテンポの良さ、明るさがいい。妻のおとくは清十郎、土佐将監に玉也、奥方に文昇とベテランが並び、修理之介は玉勢。

1週おいて第3部も、前のほう中央のいい席で、6400円。「傾城恋飛脚」新口村の段は、奥を手堅く呂太夫、清介で。文楽だけでも4回目の鑑賞だけど、席が良かったせいか、格子越しの邂逅が運命を感じさせる秀逸なセットで、梅川(勘彌)のかいがいしさ、父孫右衛門(玉也)の悲哀が際立つ。ラストは能をベースにした「平沙の善知鳥血の涙、長き親子の別れには」の絶唱、激しい撥、凍てつく雪、そして孫右衛門は羽織を頭からかぶっちゃう。ドラマだなあ。忠兵衛は玉佳。

休憩後はお楽しみ「鳴響安宅新関」勧進帳の段。思えば文楽では2014年、キング住太夫引退興行のときに観て以来。今回は玉助さん初役の富樫に大注目。終盤、松羽目が持ち上がって、広々した海辺の松となってからの、「富樫の晴れやかさ」が印象的だ。大詰めで義経が笠をとって挨拶して、初めて富樫は義経と確信するけど見逃す、というのが正解だけど、場面転換ですでに「義経であっても」という気持ちが感じられる気がする。
もちろん、晴れやかさはそこに至るまでの、厳しいせめぎ合いがあってこそ。弁慶は極めつけ玉男がハードワーク。左の大活躍・玉佳、足の玉路も出遣いなので、動きの激しさが如実にわかる。床は太夫7人三味線7挺であふれんばかり。弁慶の藤太夫が大熱演、富樫の織太夫が朗々と歌い上げ、藤蔵、清志郎らが受けて立つ大合奏。充実してました。

劇場の前庭は梅が盛り。いい香りでした。

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文楽「一谷嫩軍記」

第209回文楽公演  2019年12月

12月恒例、中堅を応援する公演に足を運ぶ。並木宗輔の遺作「一谷嫩軍記」で、いよいよ玉助さんが大役・直実とあって感慨深い。太夫は引き続き、奮起を期待。国立劇場小劇場、中央の前の方で6400円。休憩を挟んで4時間半。
「熊谷陣屋」は歌舞伎で数回、文楽でも2回観たことがあるけど、今回は「陣門の段」からの上演で、経緯がよくわかる。冒頭の直実が手傷を負った一子・小次郎(一輔)を救出するところで、敦盛と入れ替わるんですねえ。敦盛のフィアンセ玉織姫が、横恋慕した平山の手にかかっちゃう「須磨浦の段」をへて、「組内の段」。謡ガカリに始まる厳かさのなかに、直実が敦盛、実は身代わりの我が子を討つという、悲壮なシーンだ。小さい人形が遠方の人物を表すといった仕掛けも面白い。
「熊谷桜の段」で制札のフリがあり、いよいよクライマックス「熊谷陣屋の段」へ。二人の母、石屋、実は因縁ある平家の武将が登場し、ジェットコースターのように事態が展開していく。変転するそれぞれの運命が、まさに無常。玉助さん大活躍です。織太夫・燕三、靖太夫・錦糸のリレーで、さすがに安定し、人形も相模に勘彌、藤の局に蓑二郎、義経に玉佳となかなか見ごたえがあった。
伝承の敦盛塚や制札、青葉の笛が、須磨に現存しているというのも興味深いです。いつか見たいもんですね。ロビーでは勘十郎さんらが、台風19号被害への義援金を募ってました。

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文楽「心中天網島」「嬢景清八嶋日記」「艷容女舞衣」

第208回文楽公演  2019年9月

豊竹咲太夫の人間国宝認定が話題の文楽公演。第一部、第二部とも蒸し暑さの残る半蔵門、国立劇場小劇場で7300円。勘十郎、玉男ら充実の人形陣が引っ張り、千歳太夫、藤太夫、呂勢太夫、織太夫が初役も含めて奮闘する。
まずは初日の第一部、咲太夫が著書も出している得意の「心中天網島」を、下手寄り後ろの方で。
言わずと知れた近松晩年の名作だ。2013年に観たときも感じたけど、夫の愛人を思って、なんとか心中を止めようとする妻の悲劇が、不条理でクールなほど。そして勘十郎さんの遣う人形がとにかく情けなくて、もう仁左衛門にしか見えないという、なかなか稀有な体験をしました!
導入の北新地河庄の段は軽快な「口三味線」のあと、奥を呂勢太夫・清治で華やかに。「魂抜けてとぼとぼうかうか」現れた治兵衛(勘十郎)が、小春(和生)に愛想尽かしされたと誤解してからの、怒りやら後悔やら未練やら、心理描写が複雑できめ細やか。ヤケッパチで弱くて浅はか、だからこそ切ないんだなあ。一方、治兵衛を生かそうとする小春の真意を悟って、すべてを飲み込む兄・孫右衛門(玉男)がでかい。
休憩を挟んで、天満紙屋内の段は後半が渋く呂太夫・團七。女房おさん(勘彌)が、小春の身請け情報で立腹するものの、自害の覚悟を察して一転、治兵衛に対抗身請けを迫っちゃう。「箪笥をひらりととび八丈」の着物尽くしに、切迫感と悲哀がある。続く大和屋の段でいよいよ咲太夫・燕三。声は細くなっちゃったけど情感たっぷりだ。案じる兄と倅を、物陰から見送る治兵衛。どうして引き返せないのか。
そんな悲劇でも、ラストは音楽的になるのが文楽の凄いところ。道行名残の橋づくしは、5丁5枚の床と大掛かりなセットで締めました。

翌2日目の第二部は、前の方中央のいい席で。
初めて観る「嬢景清八嶋日記(むすめかげきよやしまにっき)」が悲劇性たっぷりで、聴き応え、見応え十分だ。「景清もの」なのに勇猛ではなく、頼朝暗殺に失敗して両目を失い、零落してからの後日談で、一見「俊寛」風。けれど侘しさや焦燥よりも、時代に翻弄される運命の非情が迫ってくる。
冒頭の花菱屋の段は軽妙。駿河国手越宿、今の静岡市にある賑やかな遊女屋が舞台で、立端場というのだそうです。計算高く、コミカルな女房(文昇)が魅力的だ。機嫌を損ねてふて寝しちゃったりして、癖の強さはまるでレ・ミゼラブルのテナルディエ夫人。でも結局は、信心深い主人(玉輝)とともに、身売りしてきた景清の娘・糸滝(蓑紫郎)にほだされ、二歳で生き別れた父・景清の元へと送り出す。織太夫・清介がテンポよく。
眼目の日向嶋の段は宮崎県の海辺に飛び、さいはてのイメージか。千歳太夫・富助がいつも通りの熱演だ。女性・子供の発声はもう一歩だけど。謡曲を意識して、舞台前方の手摺は珍しい青竹。義太夫屈指の大曲とのことで、重厚な謡ガカリや狂言ガカリがまじる。
ひっそり重盛を弔う景清(玉男)は、平家の英雄のプライドと、いまや物乞いという寂寥が交錯して、なんとも複雑。糸滝(可愛い簑助)になかなか会おうとしないもどかしさ、娘と知ってからの激しい慟哭、身売りまでさせちゃった現実を突きつけられてからの価値観の崩壊と、振れ幅が大きい。主君清盛は非道、敵だった頼朝に仁義があるというこの世の矛盾。この役にしか使わないという赤い目のかしら「景清」に迫力がある。ラストは解き放たれたように、鎌倉の隠し目付の勧めで上洛の船に乗り、位牌を海に流しちゃう。救いと無情。

休憩のあと、 最後は再び心中もので、お馴染み「艶容女舞衣」。酒屋の段は前で藤太夫・清友、奥は津駒太夫・藤蔵。茜屋を舞台に、愛人・三勝(手堅く一輔)が幼子を託し、出奔した夫の半七を思い続ける妻お園(清十郎)、お園を拒絶する舅半兵衛(玉志)が痛切だ。
大詰めは道行霜夜の千日。東京では1975年以来で、珍しい上演だ。焼場、獄門台と実に陰惨なシチュエーションで、半七(玉助が色っぽく)と三勝が死を選ぶ。水掛不動で知られる法善寺(千日念仏から千日寺とも)あたりなんですね。盛りだくさんでした~


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