文楽

文楽「平家女護島」「曽根崎心中」「冥途の飛脚」

国立劇場開場50周年記念 第一九八回文楽公演  2017年2月

2017年最初の東京公演は開場50周年の続きで近松名作集! 近代劇の扉を開いた日本のシェイクスピア、近松作品の3本立てです。高い音楽性と、色っぽい人形を楽しむ。国立劇場小劇場で1部6000円。

まず初日に見どころ解説をきいてから、後ろのほうの席で第1部、第2部を鑑賞。1部は近松のなかでも、現存作が少ないという時代物から、「平家女護島(へいけにょごのしま)」だ。歌舞伎「俊寛」は、2010年に今は亡き勘三郎で観て、うらぶれた造形が強烈だった。今回は1986年復活の初段から、という意欲的な上演で、清盛との因縁や、俊寛が絶海の孤島に残る背景、そして時代物はファンタジー、実は女性が主役、という意味がよくわかった。
その珍しい六波羅の段は、安定の靖太夫、錦糸。京に残された俊寛の美しい妻あづまや(クールに一輔)が、権力者・清盛(横暴ぶりがスケール大きい幸助)に迫られて自害する悲劇。甥の武将・教経(玉佳)は、清盛になんとあづまやの首を突きつけて諌めちゃう。無茶なんだけど、迫力は満点。
ランチ休憩を挟んで、歌舞伎でお馴染み、鬼界が島の段。襲名を控えた英太夫、清介が三味線無しの「謡ガカリ」から重々しくスタート。過酷な孤島(今の鹿児島県硫黄島)暮らしで、俊寛(和生)は切継(パッチワーク)を着て、足はガリガリだ。流人仲間・成経(勘弥)と、薩摩弁まじりのセクシーな海女・千鳥(さすがいじらしさが際立つ簑助さん。ちょっと足は辛そう)の祝言が微笑ましい。赦免船到着からは期待、俊寛が帰れるかのハラハラ、取り残される千鳥のクドキと、変化に富む展開だ。俊寛は妻の死を知ったことで、上使を刺してまで若い夫婦の犠牲になり、残留を決断する。だが、いざ船を見送るときには「思い切っても凡夫心!」と、激しい孤独、未練に襲われる。人間存在の弱さ、運命の冷徹。深いですねえ。セットが回転して、切り立った崖を見せる演出が効果的。
舟路の道行より敷名の浦の段は一転、スペクタクルだ。充実の咲甫太夫、藤蔵以下5丁7枚で。赦免船が鞆の浦(福山)あたりに差し掛かり、俊寛を慕う怪力・有王丸(頼もしい玉勢)が千鳥に付きそう。厳島神社に向かう清盛が、後白河法皇を海に突き落とし、千鳥(簑紫郎)が颯爽と水連の技で救うものの、清盛は熊手!で千鳥を捕らえて踏み殺しちゃうという大暴れ。千鳥の怨霊が高熱で苦しむ清盛の末路を予感させて、幕となりました。珍しい段にはいろいろ工夫の余地があって面白そうだ。

第二部は、世話物というジャンルを作った「お初徳兵衛 曽根崎心中」。文楽で3回、歌舞伎で2回観ている定番だ。徳兵衛に玉男、お初に勘十郎と、当代随一のコンビで。特に勘十郎さんは情緒があって、艶めかしいなあ。導入の生玉社前の段は、明快に文字久太夫、宗助。お初がすでに死を予感しているところが凄い。
休憩後に眼目の天満屋の段を、唯一の切り場語り、咲太夫と燕三。声量は万全でない印象だけど、きめ細やかだ。プログラムによると国立劇場の文楽公演は、なんと咲太夫の襲名披露で幕を開けたとか。お初の大胆さ、九平次と床下の徳兵衛双方に語りかける立体的な緊迫感、小さな小さな白い足の色気。2人手に手を取って抜け出すサスペンスも。
続いて大詰め天神森の段。荻生徂徠が賞賛したという「この世の名残、夜も名残」に始まる道行を、津駒太夫、咲甫太夫らで。三味線の寛治、清志郎、寛太郎らが盛り上げました~ 徳兵衛がお初に刃を突きつけて幕。リアルでスピード感ある運び。
この日は初日とあってロビーで迎える技芸員さんはスーツ姿、客席には引退した嶋大夫さんの姿も。

1週間後に、残る第3部を鑑賞。2012年に和生、勘十郎で観た「梅川忠兵衛 冥途の飛脚」だ。横領事件をテーマに、人間の複雑さ、愚かさをえぐる世話物の傑作。
淡路町の段は、松香太夫の代演の咲甫太夫から、リズム感のある呂勢太夫と、華やかなリレー。飛脚・亀屋の養子で、お調子者の忠兵衛(味のある玉男)は、遊女梅川に入れあげ、友人・八右衛門(簑二郎)に渡す50両を使い込むが、しっかり者の養母・妙閑(文昇)の手前、鬢水入れを渡して誤魔化す。男気のある八右衛門は事情を飲み込み、いい加減な受取を書く。
背景が上方にはけて、灯りのともる町家を遠くに見る、夜の西横堀。忠兵衛が蔵屋敷に届ける300両を懐に、北の堂島か、南の廓かで惑う。理性を失う羽織落し。野良犬(勘介)が上手い!

30分の休憩を挟んでいよいよ封印切の段を、切迫感ある千歳太夫・富助で。冒頭は茶屋で女郎たちが拳遊び。近松の浄瑠璃「三世相」を語る禿は、手が三味線にぴったりだ。訪れた八右衛門が友を思って「廓に近寄らせるな」と話す。それを立ち聞きした忠兵衛は逆上。梅川(清十郎さん、ちょっと辛そうかな)の懸命のクドキも虚しく、ついに公金に手を付けちゃう。じゃらじゃら小判の投げ合いがアナーキー。八右衛門が腕組みするシーンは左が一服。
続いて道行相合かごを、文字久太夫以下5丁5枚が1970年上演のバージョンで。小住太夫の声がよく通る。シーンは主役2人がすっきりと、野道を故郷大和に向かう。改作「傾城恋飛脚」の新口村への導入部分だが、歌舞伎バージョンと比べ衣装などが侘しくてリアル。駕籠を降り、雪が降りしきるなか、一枚の羽織を譲り合ったり、案山子の笠を拝借したりで、幕切れとなりました。

20170204_006

文楽「仮名手本忠臣蔵」

第一九七回文楽公演「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」 2016年12月

文楽2016年の締めくくりは、国立劇場開場50周年記念で忠臣蔵だ。競作となった3カ月連続の歌舞伎と違い、文楽は1日で一気に通しちゃう。強行軍を2日に分けて鑑賞した。歌舞伎より演出が簡素で、役者に頼らない分、高い緊張や無常感を堪能する。人形、三味線は安定、引き続き若手太夫の頑張りを応援。国立劇場小劇場で各7000円。

まず第一部は休憩2回で5時間半を、上手寄り後ろの方で。大序・鶴ケ岡兜改めの段、恋歌の段はテンポよく、対立の経緯がくっきりする。時節は2月。人形は黒衣で。
二段目・桃井館本蔵松切の段は睦太夫・錦糸。正義漢・若狭之助(幸助)の決意を加古川本蔵(勘十郎)が認めるけど、三段目・下馬先進物の段で本心が明らかになる。
腰元おかる文使いの段は聞きやすい三輪太夫・喜一朗。おかる(一輔)がよせばいいのに急いで手紙を届け、勘平(清十郎)を大胆に誘惑する。このコンビだと割と端正だけど。鷺坂伴内(代役で玉志)との入れかわり立ちかわりがコミカルだ。
畳が目に鮮やかな松の廊下に転じ、「喧嘩場」殿中刃傷の段を、重厚に津駒太夫・寛治。2段になった幅広のセットで、逃げる高師直(玉也)、激しく迫る塩谷判官(和生)がいったん引っ込んでまた走り出る、最後は追いすがる本蔵と上下に分かれる構図がダイナミックだ。そして裏門の段を丁寧に。

ランチ休憩の後、四段目はシックな花籠の段からで、呂勢太夫・宗助。「通さん場」塩谷判官切腹の段は、いよいよ切り場語り咲太夫・燕三。「未だ参上仕りませぬ」の緊張感が半端ない。ついに駆けつける由良助(玉男)。動揺する諸士たちは一人遣いだけど、頷きの仕掛けがあり、ツメではないそうだ。
城明渡しの段は広い舞台に由良助たった一人、浄瑠璃も「はったと睨んで」の一節だけなのに、スケールが大きい。書割のあおり返しで城が遠のいていく。格好いいなあ。

短い休憩を挟み五段目「濡れ合羽」山崎街道出合いの段は、むせ返るような夏の夜。小住太夫・寛太郎でフレッシュに。二つ玉の段は胡弓が入り、斧定九郎(簑紫郎)は歌舞伎の影響を受けた外見ながら、立ち回りの途中で煙管を吸ったり、トドメを刺したりして粗野な造形だ。
六段目身売りの段は世話の雰囲気に転じ、抑揚豊かに咲甫太夫・清志郎。一文字屋から来るのは剽軽な才兵衛(玉勢)だけなど、全体に歌舞伎よりシンプルだ。技巧が少ないだけに、勘平の追い詰められていくさまがリアル。早野勘平腹切の段は英太夫・團七。勘平の着替えは原、千崎が訪れてから。独り残される与市兵衛女房(代役で勘壽)が哀れだ。

翌日は第二部、休憩3回5時間を、下手寄りで。
豪華配役で七段目「茶屋場」祇園一力茶屋の段。季節は秋。セリフが凝っており、掛け合いで太夫がどんどん入れ替わって派手だ。由良助は前を咲太夫、後を英太夫がしっかりと。平右衛門の咲甫太夫ははじめ、下手の仮設の床で「無本」で語る非常に珍しいかたちだ。まさに駆けつけてくる感じ。咲甫さんと、遊女となったおかる呂勢太夫のやり取りは、楽しいけど、ちょっと力が入りすぎかなあ。三味線は前が清介、後が盤石の清治で、簾内では長唄も。
人形は紫の着物の由良助を玉男、平右衛門を勘十郎が軽やかに。おかるの簑助さんは2階から降りるのが大変そうで、気迫の演技。段切は平右衛門が九太夫を豪快に持ち上げる。映画「最後の忠臣蔵」の寺坂なんですねえ。

25分の休憩後、八段目・道行旅路の嫁入は三大道行の一つだとか。本蔵の後妻・戸無瀬(和生)と娘・小浪(勘弥)の旅は、富士山から琵琶湖へと移り変わる風景が広々としていて、戸無瀬がくゆらす煙管や、色っぽい話も大らか。遠くに赤い穂先が見える嫁入り行列との対比が鮮やかだ。

短い休憩を挟んで九段目はまず端場・雪転がしの段。由良助が祇園から山科にご帰還。雪だるまの話が伏線となって、いよいよ格調高い三味線「雪おろし」から、難曲・山科閑居の段へ。千歳太夫・富助が大役を熱演し、後半は文字久太夫・藤蔵。
両家の因縁から、お石(簑二郎)と戸無瀬が緊張感あふれる対決。母娘があわや自害というところへ、本蔵(勘十郎)が虚無僧姿で現れる。悲しい尺八「鶴の巣ごもり(巣鶴鈴慕)」を聞かせ、すすんで力弥(玉佳)の槍にかかっちゃう怒涛の展開だ。決して忠ではなく娘のため、という心根、さらに判官の短慮を惜しむセリフが、江戸期の庶民の視線を感じさせて、感慨深い。この長編の主役、実は本蔵なのかも。重苦しいなか、由良助が雪持ち竹で雨戸を外してみせたり、力弥・小浪の祝言も。

10分の休憩後は、珍しい十段目・天河屋の段。なんと戦後4回目、国立での上演は18年ぶり2回目とか。堺にある深夜の店で、町人の義平(玉志)が由良助に試され、男気を示す。緊張が緩む感じ。
歌舞伎のような派手な立ち回りはなくて、いきなり十一段目・花水橋引揚の段へ。晴れた雪景色のなか、馬で若狭之助(幸助)が駆けつけ、扇を広げて祝う大団円が爽快だ。長時間で疲れたけど、充実してました!

20161203_001

20161203_009

 

ら文楽さろん

ら文楽さろん 2016年11月

番外編で、文楽ポータルサイト「楽文楽」主催の講座に初参加。池上実相寺の洒落た100帖の和室に椅子を並べるスタイルで、忘年会と合わせて5000円。
まずロビーで薩長同盟締結150年記念と銘打ち、山口・旭酒造のご存知「獺祭」、鹿児島からは大海酒販のすっきりした焼酎「大海」がふるまわれた。

本編は2018年に吉田玉助襲名が決まった吉田幸助さんをメーンに、お馴染み玉勢さん、伸び盛り玉路さんが登場。録音の浄瑠璃をバックに、まずめでたい「三番叟」からリズミカルな鈴ノ段、さらにお客さんを相手役にして「野崎村」を披露。珍しく女形。
休憩も挟みつつ、幸助さんのトークもたっぷりと。人形の着つけ方や12月公演「忠臣蔵」の粗筋、「うめだ文楽」の裏話…。なにより襲名にかける意気込みが伝わってきました!

終演後は長テーブルと座布団を並べて忘年会に。美味しいおでん、おむすびをつつきつつ、皆さんと和やかにおしゃべりして、抽選は外れちゃったけど、面白かったです。

「一谷嫩軍記」「寿式三番叟」

第一九六回文楽公演 第1部 第2部   2016年9月

古典芸能漬けのシルバーウイーク。まずは国立劇場小劇場へ。開場50周年記念と銘打った9月文楽公演は、並木宗輔が平家の滅びの美を描いた時代物「一谷嫩軍記」の通し狂言だ。
部分的には文楽で2回、歌舞伎で2回観たことがあり、特に團十郎さんの熊谷は忘れられないけど、通しは珍しいとのこと。勘十郎さんの熊谷を軸に、組討なども出て、改めて起伏に富む名作との印象を強くする。後ろの方、やや上手寄りで7000円。休憩2回を挟んで、たっぷり4時間半。

初日は第一部を観劇。初段、堀川御所の段は大夫は簾内、人形も黒衣姿だ。大将義経(幸助)が俊成の娘・菊の前(簑紫郎)に具申され、敵ながら平忠度の歌を千載集に入れることを許可し、2つの重要な命を下す。
続く敦盛出陣の段は、中の始太夫・団吾が聴きやすく、奥の文字久太夫・清介もなかなか安定。
舞台は福原の平経盛の館だ。まず息子・敦盛の許嫁である玉織姫(一輔が淡々と)が、連れ戻しに来た実父の使者をいきなり切り捨てちゃってびっくり。そして祝言の席で敦盛(和生)が、実は後白河院の落胤という秘密が明らかになる。経盛は止めるものの、敦盛は平家の一員として覚悟の出陣。馬にまたがった若武者姿が格好いい。ラストは母・藤の局(勘彌)たちが敵を蹴散らすアクションで、強い女性が痛快。また導入を観ると、平家側がのっけから敗戦を悟っていて、全編を無意味さが覆うニヒルな物語だということがよくわかる。

30分の休憩後は陣門の段から。一ノ谷の陣所で、直実の若い息子・小次郎直家(和生が2役)が、聞こえてくる笛の音に風雅を感じ、いっとき戦さを虚しく思う絶妙のフリ。先陣で手傷を負い、熊谷(堂々と勘十郎)が助け出す。
景色が開けて、須磨浦の段へ。敦盛を追ってきた玉織姫が、なんと横恋慕する平山武者所(玉佳)に斬られちゃう。
そしていよいよ素浄瑠璃でも取り上げられるという、組討の段。咲甫太夫・錦糸が音楽的で盛り上がる。馬で海に乗り入れた敦盛と熊谷(盤石の勘十郎)が一騎打ち。半分ぐらいの大きさの遠見の人形から、一瞬で通常の大きさに切り替わるスペクタクルが盛り上がる。その後、熊谷は平山が見ているため、逃がすことができず、ついに敦盛の首をはねる。これが実はすでに直家なんですね~ 車匿(しゃのく)童子を引用した、別れの悲痛。直実の、両のこぶしを目に当てて、のけぞって嘆く仕草が、豪快かつ胸に迫ります。

10分休憩を挟んで、冒頭で義経が発したもう一つの命令を追う林住家の段、通称「流しの枝」。本公演では41年ぶりだとか。中の睦太夫・清志郎が朗々とし、奥の千歳太夫・宗助が気合十分で聴かせます。
摂津にある、かつて菊の前の乳母だった林(和生さん大活躍)のあばら家で偶然、忠度(立派に玉男)と恋人・菊の前(可愛い蓑助さん)が再会。義経から短冊を結んだ山桜の枝を託された岡部六弥太(玉志)が訪ねてきて、忠度の作が詠み人知れずながら、千載集に入ることを伝える。思い残すことはないと、さっそうと覚悟の負け戦に向かう忠度。文武両道の人です。その右袖を、菊の前に与え、戦場で会おうという思慮深い六弥太。大人っぽい段でした!
20160917_015

そして翌日に第2部を鑑賞。今回は前のほう中央のいい席だ。休憩2回で4時間強。

幕開けは毎回楽しみな、五十周年を寿ぐ祝儀曲「寿式三番叟」。松の画を背景に、正面雛壇に津駒太夫、呂勢太夫、咲甫太夫ら、寛治、藤蔵、清志郎らの9丁9枚が、ずらり並んで壮観だ。
厳かに文昇の千歳、玉男の翁が舞ったあと、リズミカルな三味線に乗って、三番叟コンビが袖を振る揉の段、四方に種を蒔く鈴の段へ。今回は玉勢・簑紫郎。思えば2009年に勘十郎・玉男、2011年に幸助・一輔、さらに2013年には文昇・幸助で観たんだったよなあ。世代交代を感じます。

15分の休憩後、「一谷嫩軍記」の続きで三段目、弥陀六内の段から。御影の石屋・ 弥陀六の家へ、石塔を注文した謎の若者・実は敦盛(和生)が訪ねてきて、娘・小雪(紋臣)の思いを退け、笛を託す。
つづく脇ケ浜宝引の段は、お楽しみのチャリ場となり、咲太夫・燕三。病み上がりという咲さん、迫力には欠けるけど、唯一の切り場語りとあって軽妙さはさすがだ。「広島カープの赤」「玉男、そうそう玉織姫」とか、ジョークを連発!
弥陀六が建てた石塔のところへ、藤の局(勘彌)が追手から逃れてきて、小雪の持つ敦盛の青葉の笛を発見。百姓たち(ツメ人形がとても個性豊かだ)が、敦盛の最期を口々に語る。
藤の局を追って番場忠太、須股運平(お父さんの前名を継いだ簑太郎、カシラはひょうきんな鼻うごき)が現れ、百姓たちと揉み合って運平が死んじゃう。ちょっとお下劣な大騒ぎののち、源氏方への報告役をクジで決めることになり、庄屋孫作が引き当てる。段切れは忠臣蔵のパロディだそうで、茶目っ気満載なんだなあ。

30分の休憩を挟んで、一転シリアスに戻って熊谷桜の段。文楽では玉男さんの直実を観たことがある。まず須磨の熊谷の陣屋で直実の妻・相模(清十郎が抑制的に)が藤の局と再会し、敦盛の敵討ちを迫られ苦悩する。
そしていよいよ、義経の制札の意味が明らかになる熊谷陣屋の段。前は呂勢太夫・清治が精いっぱいの奮闘だ。後は英太夫・團七。巧いものの、祖父の前名・6代目呂太夫襲名が決まっただけに、もうひとつパワーが欲しいかな。
敦盛の墓参から戻った直実が、やけにピリピリしているのが意味深な伏線だ。相模、藤の局に敦盛の最期を語るくだりは、浄瑠璃らしくメロディアスで、母を思うセリフも深い。青葉の笛を弔うと、障子に敦盛の影が映り、形見の鎧が現れる展開が鮮やかだ。
そして直実が首桶を持ってくると、中央から颯爽と義経(幸助)が登場し、怒涛の首実検へ。制札を使った見得がなんとも大きい! 義経は弥陀六の正体を見抜いて、鎧櫃にひそむ敦盛を託す。熊谷が舞台中央で僧形を表し、「16年はひと昔」の名セリフ。つくづく無常です。
いやー、2日間、堪能しました!

20160917_004 20160918_001

文楽「絵本太閤記」

第一九五回文楽公演  2016年5月

5月の東京本公演は中堅が担う時代物「絵本太閤記」の半通し。歌舞伎「馬盥」で我慢の光秀を観たばかりだが、ちょうどその続きにあたる、主君を討った後の苦悩がメーン。なかなか複雑な造形です。国立劇場小劇場の中ほど、下手寄りで5900円。休憩を挟み3時間半。

まず本能寺の段は奥が咲甫太夫、宗助。光秀決起の報に、覚悟を決めた尾田春長(幸助さんが重々しく)が、勇ましい阿野の局に孫を託す。兄が光秀側についたため自害しちゃう腰元しのぶと、凛々しい蘭丸の恋が哀しい。

続く妙心寺の段は光秀の苦悩が語られて、起伏がある。奥はリズミカルに呂勢太夫、錦糸。京都の古刹の、龍の襖絵が立派なひと間だ。
母さつき(玉也)は息子の不忠を許せず、ひとり家出してしまい、残された光秀(額に傷のあるかしらで、玉志)は思い余って衝立に辞世の句を書きつけて自害しかかる。しかし家臣・田島頭(玉佳)と息子・十次郎(勘彌さんが凛々しい)に止められて迷いを振り切り、真柴久吉との闘いを決意。将軍任命を受けるため、馬にまたがり決然と宮中へ向かう。

休憩後、いよいよ悲劇の夕顔棚の段。尼ヶ崎にあるさつきのわび住まいで、幕開けは近隣の人々がお経を唱える穏やかなシーン。睦太夫、清友のメリヤスが滑らかだ。初陣の挨拶に来た十次郎の覚悟を察し、さつきは嫁・初菊(一輔が可憐)との祝言を勧める。

大詰め尼ヶ崎の段で、十次郎は戦場へ。光秀が忍んできて、風呂を借りている旅の僧、実は久吉(勘市)を竹槍で襲うが、なんと身代わりとなったさつきを刺してしまう。苦しい息の下から、なお逆賊の非を説く母。おまけに十次郎が瀕死の姿で戻って闘いの劣勢を伝え、退却を促す。光秀は一徹な性格で、我慢の末に暴虐な主君を討ったのに、母、息子を失い、追い詰められていく。ついに号泣する「大落とし」。
藤蔵、清介の三味線が威風堂々、ダイナミックにドラマを盛り上げる。文字久太夫、津駒太夫は熱演だけど、ちょっと迫力不足かなあ。
段切りは一転、動きのある展開となり、セットが横移動して光秀が木の上から敵勢を確認。初菊は尼ヶ崎につながる尼僧の姿に、さらに久吉が格好いい武者の装束になって登場し、光秀と山崎での対決を約束して幕となりました。

開幕前に貴重なバックステージツアーの機会があり、なんと鑑賞教室「曽根崎心中」の大詰めを裏から覗き見ました。緊張した~
ロビーでは熊本・大分地震の募金活動をしていて、大阪に続き清十郎さん、お初と記念撮影。ケネディ米駐日大使も来ていて募金してました!

20160522_039

文楽「妹背山婦女庭訓」

第一四二回文楽公演 2016年4月

7年ぶりに本場大阪の国立文楽劇場に遠征した。以前より席がゆったりしていい。お目当ては春日大社第六十次式年造替に合わせた、通し狂言「妹背山婦女庭訓」、特に山の段! 人形遣いの人間国宝・吉田文雀が引退しちゃうし、太夫切り場語り・咲太夫の病気休演も重なって、引き続き厳しい状況だけど、だからこそ次世代を応援する気分。中央前のほうのいい席で6000円、。

演目はお馴染み近松半二らによる時代物で、雄大な大和地方の四季を舞台に、豪傑笑いの国崩し・蘇我入鹿と藤原鎌足・淡海親子の攻防を描く。とはいえメーンは決して権力者ではなく、巻き込まれちゃう無力な人々の悲劇、というところはお約束だ。

2日に分けて、まず第二部から。二段目・四段目で構成する、休憩2回を挟み5時間の長丁場だ。鹿殺しの段から掛乞の段、万歳の段まではコミカル。鎌足の旧臣で、今は猟師の芝六(玉男)の粗末な暮らしと、匿われている天智帝(勘寿)らの高貴さとのギャップで楽しませる。
そして前半の山場、芝六忠義の段へ。英太夫・宗助がとても聴きやすい。神鹿殺しの石子詰・十三鐘の伝説をベースに、互いを思い合う芝六と賢い倅三作(玉翔)の情感が胸に迫る。弟・杉松があまりに憐れだけど。

後半はお馴染み、ジェラシー娘お三輪ちゃんの犠牲談。七夕の杉酒屋の段は、咲大夫に替わって咲甫太夫・燕三、道行恋苧環は津駒太夫以下5丁5枚を寛治、寛太郎らが締める。以下は2013年にも鑑賞した場面だ。コミカルで豪胆な鱶七上使の段の文字久太夫・清志郎は、笑いをもっと盛り上げてほしいかな。
そして姫戻りの段からクライマックス金殿の段へ。津駒太夫・団七は安定感がある。官女(玉誉ら)にいたぶられるお三輪(技巧が光る勘十郎)が、気の毒でいたたまれない。でも鱶七(豪快に玉也)に刺されてからは、淡海(クールな清十郎)への愛を貫いて犠牲になるドラマチックな展開だ。陰ですべてを操る鎌足が頼朝のような存在で、歴史の非情を象徴。庶民はただ目の前の人に真心を尽くすのみだ。常に左右に位置する玄蕃に幸助、弥藤次に玉佳。

2日目の第一部は初段、三段目を中心に、久我之助(格好いい勘十郎)と雛鳥(簑紫郎)の悲恋が語る。ちょうど千秋楽の大入りで、休憩2回で4時間半。
まず小松原の段で若い2人がひとめで恋に落ちる。腰元の下世話なけしかけぶりが可笑しい。雪が舞う蝦夷子館の段では、めどの方(文昇)の犠牲で蝦夷子(玉志)が自害するものの、息子・入鹿(玉輝)のスケールの大きい悪党ぶりが明らかになっちゃう。傲慢入鹿の金ぴか衣装がいっそ爽快。
淡海(清十郎)が忠誠を示して天智帝(勘壽)を禁裏から救い出す猿沢池の段、謀反を起こした入鹿が、大判事(玉男)と定高(和生)に味方につくようプレッシャーをかけ、帝派の決起を聞いても悠々と馬で去る太宰館の段をへて、いよいよ念願の妹山背山の段へ。

季節は華やかな春。中央に蛇行して奥行きのある吉野川、上手に大判事の館、下手に定高の館。床も異例なことに左右にあって、交互に語っていくバトル形式だ。対立する人物を視覚的に表し、なんとも豪華でダイナミックです。川を渡る雛飾りを嫁入り道具に、首になっての祝言というのは無茶なんだけど、人形ならではの表現と音楽性でカタルシスがある。
物語は大判事と定高が、それぞれ入鹿に息子の久我之助、娘の雛鳥を差し出せと迫られ、悩んだ末に死なせちゃう。親2人の意図が暗黙のうちに一致し、川を挟んで桜の枝をやり取り。領地を巡る長い対立の克服というより、邪悪な権力者・入鹿にいったんは従いかけながら、勇気を出して良心に従う印象だ。特に定高の芯の強さったら。
決断させたのは若い子世代なわけで、決して受け身でなく、宿命的な恋を貫いて死を覚悟する。ありがちな親の忠義の犠牲とかではないんですねえ。よくロミオとジュリエットに例えられるけど、未熟ゆえの暴走ではなく、抗えない時代のうねりのなかで意志を通す強さが感じられる。
床は背山が西風の勇壮バージョンで、大判事の千歳太夫、文字久太夫が飛ばしまくり、藤蔵、富助があおる。妹山が東風の華やかバージョンで、呂勢太夫、咲甫太夫、清介を、ベテラン清治がリードしていく。琴に清公。1文字ずつの割台詞など、火花散らす熱演に緊張感があって盛り上がる。ラストはちょっと絶叫調だったかな。
人形は雛鳥だけ交代して、お待ちかね簑助さんが登場。可憐で情感たっぷりだ。足はだいぶ辛そうだったけど。

幕間にラッキーにも山の段を舞台見学。ちょっと吉野川の波を動かしちゃったりして、盛りだくさんでした! ロビーでは勘十郎さんらが震災救援の募金活動も。

20160423_05320160424_019 20160424_068 20160423_060_2 20160424_008_2

文楽「靭猿」「信州川中島合戦」「桜鍔恨鮫鞘」「関取千両幟」

第一九四回文楽公演 第一部 第二部  2016年2月

2日連続で足を運んだ国立劇場小劇場。人間国宝に指定されたばかりの8代目豊竹嶋大夫引退公演とあって、掛け声が多くて盛り上がる。充実した人形陣、若手台頭の三味線陣に支えられ、咲甫大夫、文字久大夫が奮起した感じだ。3部制の1、2部を連続で計6時間は、さすがに疲れたけど。それぞれ前の方、やや下手寄りのいい席で5900円。

幕開けは申年にちなんだ、松羽目の明るい舞踊「靭猿」。もとは近松門左衛門作品の劇中劇だそうです。2014年に歌舞伎の三津五郎さん復活公演で観た演目で、感慨深い。
大名が猿曳を見かけ、靭(矢を携帯する容器)に皮を所望するが、健気な猿の芸を観て諦め、皆でめでたく舞う。床は竹本三輪大夫以下、鶴澤清友以下5丁5枚。人形は大名が文司、猿曳が勘壽。蓑次の猿の仕草が、コミカルで可愛い。

ランチ休憩の後、近松69歳の作「信州川中島合戦」。なんとかして武田方の軍師・山本勘介を獲得しようとする上杉輝虎(後の謙信)と、家臣や家族のせめぎ合いが重厚な時代物だ。
プログラムの解説によると、原作の姿が残っている作だそうで、特に後段は昭和48年復活以来、引退したキング住大夫しか手掛けなかったという。確かに古風だし、大詰めは動きが少ないけど、そこまでの輝虎、越路のせめぎ合いはダイナミックで意外に面白かった。

まず輝虎配膳の段は、奥の咲甫大夫、清介が朗々と。輝虎(玉也)と執権・直江山城守(大河ドラマになった兼続ですね。幸助さんが格好良く)は、勘介を口説く目的で、直江の妻・唐衣(一輔)が勘介の妹という縁を利用。勘介の老母・越路(和生)と妻・お勝(簑二郎)を居城に招く。
輝虎自ら烏帽子姿で給仕する奇手に出るものの、気が強い越路がきっぱり拒絶し、短気な輝虎が刀を抜く事態に。言葉の不自由なお勝が、必死に琴にのせて宥める。ドラマチックです。琴は清公。

続く直江屋敷の段は文字久大夫、藤蔵が好調で嬉しい。母急病というお勝の手紙に、勘介(堂々と玉男)が駆けつけるが、真っ赤な嘘。勘介が激怒するものの、実は手紙は唐衣の偽装。共に体に不自由を抱える悲しい夫婦は、やがて互いを思いやる。
唐衣とお勝が対決していると、越路がなんと刀の上に身を投げ出す。このへんから時代物お約束の、怒涛の無茶な展開に。ことを収めようと、自らを犠牲にした越路に感銘した輝虎、勘介が髪を落とし、さらに輝虎が「武田に塩を送る」と宣言して、幕となりました。

30分の入れ替えを挟んで、第二部はまず世話物「桜鍔恨鮫鞘(さくらつばうらみのさめざや)」から鰻谷の段。東京では45年ぶりだとか。縁切り物で、地味なんだけど、切の咲大夫、燕三が哀感たっぷりで、さすがの説得力だ。
女房・お妻(勘十郎さんが、昨日とうって変わって色っぽく)と母(簑一郎)は、夫・古手屋八郎兵衛(和生が手堅い)のため金を工面すべく、こともあろうに八郎兵衛を縁切りして香具屋弥兵衛(いやらしく勘市)を、持参金付で婿に迎えようとする。そうとは知らない八郎兵衛は、屈辱と娘・お半(玉誉がなかなかきめ細かい演技)を追い出す仕打ちに激高し、お妻と母を斬ってしまう。幼いお半が、無筆のお妻から託された書き置きを語るところが悲しい。

短い休憩後、いよいよ引退披露狂言の「関取千両幟(せきとりせんりょうのぼり)」となる。まず床に嶋大夫と寛治が並び、呂勢大夫が「心細い限り」と挨拶してから、猪名川内より相撲場の段。2013年に呂勢さんらで聴いた娯楽作だ。

嶋大夫は女房おとわ一役をしみじみと。引退にしては出番が少なく、物足りないけれど、英大夫、津国大夫、呂勢大夫、始大夫、睦大夫、芳穂大夫と大勢の一門が、入れ替わり立ち代わり登場して華やかだ。
お話は夫婦もの。人気力士の猪名川(一部に続いて玉男)が200両の工面を迫られるところへ、ライバル鉄ケ嶽(文司)から「魚心あれば水心」と八百長をもちかけられて悩む。おとわ(待ってました、簑助)が髪を梳くシーンと、クドキが情愛深い。胡弓は錦吾。
いったん床が寛太郎くん一人となり、呂勢さんの紹介で、寛治さんの家伝統の櫓太鼓曲弾きを披露。コミカルでアクロバティックなパフォーマンスに加え、よく通る掛け声が頼もしいぞ!

セットが変わり、大詰め取り組みの三味線は宗助。なんと鉄ケ嶽が琴バウアーが披露する大サービス! 「200両進上」の声に、猪名川は無事勝ちを納めるが、そのために身を売ったおとわが駕籠で去っていく。嶋大夫さんが深々と頭を下げて幕を閉じました。いや~、盛りだくさんでした。

文楽「義経千本桜」

第一九四回文楽公演 第三部  2016年2月

3部制の初日に足を運んだ。悲劇の武将、平知盛を桐竹勘十郎さんが遣う。ちょっと空席がある国立劇場小劇場の、中央あたりで5900円。休憩を挟んで3時間弱。

お馴染み義経千本桜からまず二段目、動きがあって迫力満点の渡海屋・大物浦の段。知盛を現・玉男で観た豪快な印象が強いけど、勘十郎さんも庶民の銀平から白い鎧姿に変わって登場するシーンとか、品があって格好いい。白柄の長刀をぶんぶん振り回し、でかい碇を持ち上げ、ためにためた団七走り、そしてもちろんラストの入水! つくづく体力のいる役だなあ。
対照的に典侍局の豊松清十郎はクールで、抑制が効き過ぎと思えるほど。きらびやかな衣装に変わってから、覚悟を決め、舞台いっぱいに白い布を敷いて海へ向かうシーンが悲しくも美しい。ほかに安徳天皇が勘次郎、相模五郎が玉佳、義経が玉輝。
床は靖太夫・宗助、睦大夫・錦糸、千歳大夫・富助のリレーだ。途中、激しい波音などでは御簾裏からの三味線合奏が3回入る。みな声はよく出ていたけれど、能「船弁慶」の詞章を引用するなど、格調高い曲だけに、もっと味わいが欲しい、と思っちゃいました。

休憩後は四段目、踊りの道行初音旅。通称吉野山ですね。紅白の幕が落ちると桜いっぱいで、前段からがらりと変わって華やかだ。床は竹澤団七、鶴澤清志郎以下5丁の太棹三味線が並んでリズミカル。大夫も津駒大夫、芳穂大夫以下5枚。
人形は静御前が文昇、忠信、実は源九郎狐は白髪の勘彌。狐が犬みたいに耳の後ろを掻いていたかと思うと、遣い手の衣装も忠信に早替りして、桜の後ろからドーンと登場。鼓と鎧で義経を思い、雁と燕の舞、軍物語、そしてかなりのスピードでの扇投げ渡しと、趣向が多い。旅装に戻って幕となりました。

文楽「奥州安達原」「紅葉狩」

第一九三回文楽公演  2015年12月

年末恒例、中堅主体の公演に足を運んだ。よく入った国立劇場小劇場、下手寄り後ろの方で5900円。人間国宝になったばかりの豊竹嶋大夫の引退が発表され、大夫の厳しさが続く文楽を今こそ応援!という気分だ。人形陣の充実、三味線の盤石さが頼もしい。休憩を挟んで3時間半。

メーンの演目は源義家に滅ぼされ、再興を目指す安倍貞任・宗任兄弟を描いた「奥州安達原」。2011年末に観て、勘十郎さんの袖萩に感動した演目の、後半部分です。人間関係が複雑なのでストーリーについていくのが大変だけど、シーンには変化があって面白い。
まず朱雀堤の段は明朗な咲甫大夫、宗助。京都七条の小屋で、物乞いをしている盲目の袖萩と幼い娘が偶然、父・平儀仗(けんじょう)と再会する。人形は黒衣姿でした。
セット転換があって、環の宮明御殿(たまきのみやあきごてん)の段。4組リレーの床のうち、千歳大夫・富助が聴きやすい。導入の通称「敷妙使者」は妹娘の敷妙が、夫・義家の使いとして上座に座り、父・儀仗(文司)に環の宮失踪の責任を問う。父娘双方の辛い心情をじっくりと。
続く「矢の根」は一転して、勇ましい武士の対決だ。義家(玉佳)、そして白梅の枝を手にした粋な桂中納言則氏(玉志)が、奥州で捕えた南兵衛(幸助)を詮議する。いわくつきの白旗に矢尻で和歌を書いたり、矢尻を投げ合ったり、アクションが派手で格好いい。幸助さん、ぴったりの役だなあ。
そしていよいよ「袖萩祭文」。おりしも雪がちらつき、姉娘・袖萩(清十郎)は枝折戸の外で寒さに震えながら、三味線をつま弾き、父を思う。哀れだけど気丈。清十郎は勘十郎さんに比べると淡々としてるけど、いつもながら端正だ。あれよあれよで儀仗も袖萩も自害しちゃって、則氏、実は貞任が6年ぶりに再会した妻の死を悲しむ。
大詰めは南兵衛、実は宗任と共に、勇壮な武将姿に変身した安倍兄弟が、義家と後の闘いを約束して別れる。敗者の兄弟に思い入れつつも、義家の人物の大きさが印象的です。

長めの休憩のあとは「紅葉狩」。能が有名だけど、歌舞伎をもとにした舞踊だそうです。幕が開くと、一面の紅葉が目に鮮やかだ。
床は5丁5枚で、呂勢大夫、芳穂大夫らを、錦糸、龍爾、寛太郎らがしっかり支ええ、琴2面もこなす。前半の美しい更科姫、後半の鬼女は勘彌で、扇のアクロバットや立ち回りも安定してます。対峙する平維茂の一輔が凛々しい。

終演後は忘年会になだれこみ、宗任の人形を間近で見せてもらいました。でっかい! 福引でカレンダーもゲットして大満足。来年も楽しませて頂きます!

006 019

文楽「面売り」「鎌倉三代記」「伊勢音頭恋寝刃」

第一九二回文楽公演 第一部  2015年9月

プログラムの大夫の部が、上段に新・人間国宝の嶋大夫と切り場語りの咲大夫が並ぶレイアウトに変わり、世代交代を感じさせる文楽公演。千秋楽に足を運んだ。いつになく掛け声の多い国立劇場小劇場、上手寄り前の方のいい席で6700円。休憩2回で4時間半。

幕開けは明るい舞踊「面売り」。床は寛太郎ちゃんら5挺に、三輪大夫以下4枚の変則で。大道芸人・おしゃべり案山子(玉佳)のリズミカルな講釈にのせ、面売り娘(勘彌)が天狗、おかめなどの面を付け替えながら楽しく踊る。

休憩10分を挟み、大坂夏の陣400年にちなんだ時代物「鎌倉三代記」。思えば2008年に文楽初体験で観た演目だ。もう7年もたつんだなあ。
物語は鎌倉方(=徳川方)で三姫のひとつ時姫と、京方(=豊臣方)の三浦之助の、戦さに翻弄される悲恋。歌舞伎では魁春、梅玉の古風な味わいが良かった覚えがある。
導入は希大夫で短い局使者の段、通称「ほととぎす」。米洗ひの段は呂勢大夫、宗助。酒好きなおらち(達者な紋壽)が、きんきら振袖の時姫(清十郎が淡々と品よく)にコメの磨ぎ方を教えるシーンが滑稽だ。
三浦之助母別れの段は津駒大夫とベテラン寛治。幸助さんの格好いい三浦之助が、母の見舞いに駆けつけるものの、母(勘壽)は会うことを許さない。時姫が切々ととりすがる。
そして高綱物語の段は、英大夫、清介が情感がこもって聴きやすい。時姫がいよいよ愛する夫のため、父・時政を討つことを決意。井戸から登場した佐々木高綱(でっかく玉男)がすべて計略だと語る。事情を知った母の自己犠牲の後、高綱が木に登り、それぞれ戦いに向かう。なんとも非情だなあ。

30分のランチ休憩の後、一転、世話物の「伊勢音頭恋寝刃(こいのねたば)」。こちらは2009年に観たことがある。実際の事件を素材に、歌舞伎を文楽に移した夏狂言だ。
古市油屋の段は公演当初の病気休演から復帰した咲大夫が、燕三との鉄壁コンビでたっぷりと。複雑な人間関係も、巧みにさばく。
舞台は精進落としで賑わう伊勢。わけあって名刀の折紙を探す下級神官の福岡貢(初役の和生)を助けようと、女郎お紺(簑助が抜群にけなげで可愛い)は悪党の岩次(玉志)とかりそめの祝言をあげる。知らずに激怒する貢を、いじわるな仲居・万野(勘十郎がこちらも初役を生き生きと)が、ねちねち追い詰めちゃう。初めはコミカル、そして徐々に緊迫感が高まるあたりが床、人形とも見事だ。
大詰め奥庭十人斬りの段では、咲甫太夫、錦糸が疾走。貢が怒りにまかせて、廓の人々を斬っていく。陰惨にならない演出が人形ならではだ。
変化があって楽しめました!

024

025

より以前の記事一覧