フタマツヅキ
フタマツヅキ 2026年8月
横山拓也の2021年初演作を、演劇集団円の内藤裕子が演出。コロナ下に春風亭一之輔の配信で観て爆笑した落語「初天神」をモチーフに、ひとりの芸人と家族の情愛を丁寧に描く秀作だ。中途半端なまま老いを迎えた自分に対する苦過ぎる嫌悪、それでも切り捨てられないものを、お馴染み近藤芳正がしみじみと演じて、じんとする。IMM THEATER、前のほう下手寄りで1万円。休憩無しの1時間45分。
狭い団地のふすまの向こうから、ボソボソと噺をさらう声が聞こえる。芸人の鹿野克(近藤)はピンの漫談でそこそこ人気だったが、何を思ったか40代で落語家に転じ、マクラばかりでものにならず、今はほぼ無職の捨て鉢な暮らし。妻・雅子(元宝塚の白羽ゆり)は健気に支え続けているが、息子・花楽(溝口琢矢)はそんな父母を嫌悪していて…
ダメダメなのにプライドはあって、何かというと格好つけちゃう克の屈折を、近藤が見事に造形。腐れ縁の沢渡(枝元萌)の厚意に甘えているくせに、せっかく弟弟子の茶ノ木(加藤虎ノ介)が落語の仕事に誘っても煮え切らない。雅子はなぜ見捨てないのか、そもそもなぜ克は落語を始めたのか。ふたりの出会いからの過去を、長身の辰巳雄大、佐久間麻由がカットバックで見せていく構成が秀逸だ。
心揺さぶる初天神のシーンをへて、両親を否定していた花楽がバイト仲間の由貴(元AKBの中野郁海)と新しい家族へ踏み出そうとする姿が染みる。
近藤の巧さはもちろん、溝口、辰巳、佐久間の若手が真摯で頼もしい。美術は乗峯雅寛。
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