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岡本美枝ピアノリサイタル

岡本美枝ピアノリサイタル  2026年7月

クラシックつながりで知り合った岡本美枝さんのリサイタルへ。経歴が凄くて、高校卒業後、独エッセン・フォルクヴァンク芸大で学び、ベルリン交響楽団のソリストも務めたものの、帰国後は国際会議や外交の第一線で通訳として活躍。2024年に音楽活動を再開したというガッツの持ち主だ。小柄だけどまるきりアスリートで、演奏はとにかく毅然としてパワフル! 東京オペラシティリサイタルホールの全席自由で4000円。休憩を挟んで2時間弱。


前半はきらびやかな舞踏会風のスカルラッティと、たゆたうリズムに激しい起伏をのせたショパンの舟歌の間に、大曲ヴェートーベンのソナタ。休憩を挟んで後半は、美しいシューベルトのソナタをたっぷりと。渾身の演奏と思いきや、アンコールはちょっと悪戯っぽいユモレスケまでなんと3曲。最後の拍手にはもう弾かないよ、と鍵盤の蓋をしめる茶目っ気も。
ソナタ2曲は旧東独出身の名匠ペーター・レーゼルの得意レパートリーとのこと。美枝さんはレーゼルの信頼を得て、キングレコードによるドレスデンでのCD録音を支え、今も渡欧するとレッスンを受けているとか。そしてこの日のピアノはサー・アンドラーシュ・シフが1997年開館時に選定したベーゼンドルファー・インペリアル・モデル290。88鍵ではなく97鍵あって、追加の黒い低音部分が独特の倍音を生み、ピアノのロールスロイスと呼ばれるそうです。ほほ~
以下セットリストです。

スカルラッティ:ソナタ ニ長調 K491/L164
ベートーヴェン:ピアノソナタ 第31番 作品110 変イ長調
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 作品60
シューベルト:ピアノソナタ 第21番 D960 変ロ長調
アンコール
ブラームス:間奏曲 Op118-2
ショスタコーヴィチ:24プレリュードとフーガ Op87より第15番 プレリュード
シチェドリン:ユモレスケ

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歌舞伎「末広がり」「時今也桔梗旗揚」「御浜御殿綱豊卿」

七月大歌舞伎 昼の部Aプロ 2026年7月

また素晴らしい舞台を拝見しました。片岡仁左衛門が46年演じてきた綱豊卿で、情を踏まえつつ、一段高い視座で秩序を目指す大人物を存分に。この上品さ、格好良さ。松本幸四郎も初の大役・光秀、仁左衛門に相対する助右衛門と、大奮闘で頼もしい。歌舞伎座、なんと1階3列ほぼ中央のいい席で2万円。休憩2回を挟んでたっぷり4時間半。今観ることができて、歌舞伎友達に感謝感謝。

幕開けは狂言を題材にしたおおらかな松羽目もの「末広がり」。太郎冠者(中村隼人)が末広がりを扇のことと知らず、古傘を買い、しかも酔っ払って戻ってくる。大名(市川染五郎)が怒るので、機嫌をとろうと「傘をさすなら春日山」、続いて小舞を舞う。つられて大名も踊り出しちゃって、扇尽くしの連れ舞い、さらには大神楽の曲芸が飛び出し、楽しい1幕だ。染五郎は上品、隼人もはつらつ。後見は高麗屋の松本幸蔵と錦之助一門の中村隼之助。

休憩を挟んで鶴屋南北作「時今也桔梗旗揚」から本能寺馬盥の場、愛宕山連歌の場。2012年に決定版の中村吉右衛門、2016年にも尾上松緑の光秀で観た演目だ。今回は幸四郎が丁寧に、高麗屋、播磨屋の当たり役を継承する。満座のなかで妻・皐月(重厚な中村扇雀)の切髪を突きつけられる衝撃、ひとりになって無言のうちに謀反を決意する悲壮。大詰めでは闇に浮かぶ白装束の不気味さから一転、挙兵へと刀をかかげた見得で拍手。幸四郎さんの持ち味としては天下を狙う反逆者というより、いい人キャラだと思うけど、だからこそ説得力がある。
光秀を追い詰めるキーマン春永(信長)は尾上松也。おりしもタイミングがシンクロした大河ドラマ「豊臣兄弟」では、かつて弟の裏切りにあった信長のトラウマを描いていたけど、この日はひたすらパワハラ上司だ。それにしては憎々しさがちょっと軽めだったかな。大詰めで光秀に従う四王天但馬守がご馳走の市川團十郎で、出てきただけで舞台がぱあっと錦絵になるのがさすが。ほかに光秀妹・桔梗に中村米吉、森蘭丸に染五郎、光秀家臣・安田作兵衛に中村錦之助。けっこう目立つ力丸は研修出身で、扇雀門下の中村かなめ、腰元に中村梅乃さんを発見。

休憩のあと「元禄忠臣蔵」から「御浜御殿綱豊卿」。セリフ劇で、南北のあとだと地味かな、と思ったら大間違い。初めて観たけど、緻密な心理戦で全くだれない。真山青果作、昭和初期の1940年初演の新歌舞伎で、まず戯曲の綱豊の造形が、複雑でスケールが大きくて魅力的だ。のちに6代将軍家宣になる人物で、知的かつ洒脱。心情としては浅野家再興を願いながらも、道義を重視し、先代となる将軍綱吉と側用人柳沢吉保による裁断の誤りをただそうとする。そんな人物を仁左衛門が風格たっぷり、クリアに演じて素晴らしい。
第1幕・御浜御殿松の茶屋は現在の浜離宮での「お浜遊び」で、お伊勢参りに分したおいぬ某(中村陽喜、獅童の長男で9歳)が、綱豊にご報謝をねだって可愛い。
第2幕は御浜御殿綱豊卿御座の間から。アドバイザーの新井勘解由(白石、中村歌六がゆったりと)相手に綱豊が考えを明かす。正妻を通じて近衛関白家から浅野家再興の口添えを頼まれたけど、それより先に仇討ちを成就させたい… 将軍後継と警戒されるのが迷惑で、政治から距離をおく自分と、京都で放蕩している大石内蔵助の心理を重ねるくだりが、また深い。
続く御浜御殿入側お廊下で、招待客・上野介の顔を確かめようと、富森助右衛門(幸四郎)がもぐり込んでくる。隙見(見物)だけのつもりが、思いがけず綱豊に呼び出されちゃって、セットが御座の間に戻り、見どころの緊迫した台詞の応酬となる。綱豊はあの手この手で仇討ちする気があるのかを探ろうとし、助右衛門はとぼけながらも表情で訴える。幸四郎は不器用、一途なだけでなく、武士らしい気骨がにじんでいい。
大詰めは一転、非日常の空気となる御浜御殿能舞台の背面。ドラマチックで憎い演出だ。助右衛門が上野介を討ってしまおうと、槍を構えるところへ、煌びやかに鈴が鳴らして能装束の綱豊が登場。立ち回りの末、闇討ちでなく立派な討ち入りを、と諭して、端然と舞台へ向かう。身分の低い相手も水平に見つつ、威厳を示す。仁左衛門さん、所作も視線も美しい!しかも設定が能「望月」。シテ友房が主君の仇を討つため、仇に酒を飲ませ獅子の舞で油断させるシーンなんですねえ。
御祐筆・江島の片岡孝太郎が安定。助右衛門の妹で、綱豊の寵愛を受ける中臈お喜世(後の将軍家継の生母)の中村莟玉が、相変わらずの可愛さでした~ 

Bプロの綱豊卿は松也・隼人。ロビーには福地桜痴ゆかりの品の展示も。
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文楽「寿柱立万歳」「まちの灯」

Bunraku Summer Festival  2026年7月

チャールズ・チャップリン監督・主演の名画「City Lights」(1931)を新作文楽に、と聞き、なんだか面白そうと大阪へ。幕末に舞台を移し、大坂特有の可笑しみと哀感を背景に、「本当に見えているということ」の意味をしみじみと描く。

喜劇だけれど、はみ出した場所から世間を眺め、批判するチャップリン節。そのクールさが、思うに任せない人生、愚かな庶民を容赦なく描く近松などと、どこか響きあう。アクロバティックな人形の動き、音楽劇特有のリズムも生かしていて、脚本・演出の大野和之(日本チャップリン協会会長)はじめスタッフ、キャストのチャレンジ精神に、脱帽するしかない。広々した大阪文楽劇場、中央の良い席で6000円。短めの休憩2回で2時間半。

幕開けは、これまで2度ほど見ているめでたい「寿柱立万歳」。豊竹睦太夫、竹澤團七以下5丁5枚で。三河万歳は吉田玉誉と玉翔がキビキビと。先日、とある会で声に出してみた「ソレ万歳楽でお悦びだ、アハハハ」が明るい。

休憩後はお楽しみ「まちの灯」、茶屋町大仏開眼供養のドタバタから。山高帽、どた靴の放浪紳士は「近頃河原達引」の猿回しキャラを取り入れ、風来坊の与次郎に。新作の首(かしら)「チャーリー」はお馴染みのちょび髭と、眉が下がる仕掛けが楽しい。
前半の床は豊竹希太夫、亘太夫、鶴澤清公、燕二郎が活躍する。与次郎(桐竹勘十郎)は天神橋で盲目の花売り、お花(吉田勘彌)に一目惚れ。泥酔状態で親しくなった道修町大文字屋の主人、吉田勘右衛門(吉田簑二郎)からカネを手に入れ、お花を助ける。橋から眺める水の都の夜景に風情があり、人形監修も務めた勘十郎が表情豊かだ。

休憩を挟んで後半の床は、補綴を務めた豊竹若太夫、作曲の鶴澤友之助。映画のボクシングシーンは法善寺の掛け相撲に移して、与次郎は巨体の横綱、太目山(吉田玉勢)にやっつけられる。勘十郎が存分に躍動。再び酔った勘右衛門が大金をくれて、なんとかお花に届けるものの、番頭藤八(吉田玉助がワルを小気味よく)に横取りされかけ、盗っ人として捕まっちゃう。

大詰は雰囲気が一転、明るい明治の世となり、お花の目も完治。運命の再会シーンの「今やっと、今やっと見えるようになりました」が染みる。友之助は両親がクラシック、ジャズの音楽家で自身、エレキベース、フラメンコギター、コントラバスを弾いていただけに、チャップリン作曲の洋楽をうまくアレンジしていて、感動が盛り上がりました~

ロビーには来日したチャップリンの四男ユージーンさん。資料室の展示ではスターウォーズのグローグー人形も。幅広いです。
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Bialystocks 日本武道館

Bialystocks 日本武道館  2026年7月

楽しみにしていたビアリストックスの単独公演。2019年結成で初の日本武道館だけど、全く気負い無く、2時間半近くほぼMC無し! メンバーの
甫木元空 (Vocals)が期待通りの高音で歌いまくり、菊池剛 (Keyboards)のジャズっぽいピアノが格好良く。演出はライティングぐらいで、色鮮やか、時にサーチライトのように客席を照らす。人気でステージ後方まで開放した360°レイアウト、1万人規模だけど、親密なライブハウスのような雰囲気がまたいい。スタンド席9500円。
2人が東扉からアリーナを通ってステージに上がり、初っ端から「Upon You」「頬杖」がポップ、爽やか。ブルージーな「憧れの人生」、ボコーダーがお洒落な「Thank You」をへて、フォークっぽい「あいもかわらず」ではメンバーが並んで階段にすわり、プラグレスで息を合わせる。放課後みたいな景色が切ないな~
中盤は赤い照明で鮮烈に「Kids」、幻想的なスモークの「Branches」、そして「日々の手触り」で甫木元がランプを手にドラマチックに絶唱。「
All Too Soon」はピアノを軸にしたハイレベルなジャズセッション、コミカルな「コーラ」から「I Don't Have a Pen 」で盛り上がり、大詰めアンセムめいた「夜よ」に「ごはん」の一節を重ねて、本編ラストは壮大な「Everyday」で紙吹雪が舞う。
アンコールでようやくMCらしいMCがあり、「今日が何かの始まりでも終わりでもない 」と格好良く。アルバムとライブの告知があって、「差し色」「Nevermore」で弾けました。サポートは朝田拓馬 (Guitar)、越智俊介 (Bass)、小山田和正 (Drums)、市原ひかり (Trumpet)、オオノリュータロー (Background Vocals)。
以下セトリです。

1,Upon you
2,一瞬
3,聞かせて
4,頬杖
5,憧れの人生
6,灯台
7,花束
8,Over Now
9,Thank you
10,あいもかわらず
11,言伝
12,Kids
13,Branches
14,日々の手触り
15,All To Soon
16,コーラ・バナナ・ミュージック
17,I don't have a pen
18,幸せのまわり道
19,光のあと
20,夜よ
21,Everyday
アンコール
22,差し色
23,Nevermore
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スーパー歌舞伎「もののけ姫」

スーパー歌舞伎「もののけ姫」 2026年7月

三世市川猿之助がスーパー歌舞伎を創始して40年。孫の市川團子22歳が頼もしく継承し、新たな名作となった。2019年「風の谷のナウシカ」もよかった丹羽圭子、戸部和久コンビの脚本は、予想以上に1997年公開の原作に忠実。文明が抱える罪、異なる種同士の逃れがたい衝突や差別、それでも恨みの克服を強く願い、身をていして「ともに生きよう」と訴えていくこと… 宮崎駿が提示した哲学的なテーマを緊張感をもって描き、休憩を挟んで3時間半強が長くない。新橋演舞場、前の方中央のいい席で1万7000円。歌舞伎友達に感謝!

アシタカ(團子)はタタリ神を倒した呪いでエミシ村を追われ、相棒ヤックルと西に向かう。文明の象徴であるタタラ場を率いるエボシ御前(中村時蔵)と、野生の神モロの君(市川笑三郎)、もののけ姫サン(中村壱太郎)の戦いに巻き込まれ、重症を負うが、森のシシ神(團子が2役)に救われて、森と人がともに生きる道を目指そうとする。しかしタタラ場を襲う鎮西の乙事主(市川中車)や、シシ神の首を侍に差し出して生き残ろうとするエボシ御前、ジコ坊(市川猿弥)らが入り乱れて…

横内謙介の上演台本・演出は必要以上に映像に頼らず、幻想的な森、活力あふれるタタラ場から、大詰めシシ神=ディダラボッチの秀逸な造形まで、スピーディーで、センスが光る。俳優2人で奮闘する馬など伝統技法を生かしつつ、久石譲のオリジナルを生かした現代的な音楽、歌舞伎外から俳優を招くアクロバットといった、歌舞伎を超える見せ方に引き込まれる。立師は市川猿四郎、美術は金井勇一郎、煌びやかな衣装は桜井久美。最後は客席も、大量のキラキラと葉っぱの紙吹雪に埋もれました~

長身の團子がシシ神の宙乗りまで、伸びやかに躍動し、時蔵が凜とクールではまり役。壱太郎は原作の野性味には欠けるものの、丁寧な演技でぶっきらぼうなセリフに持ち前の情感を醸しだす。曲者の猿弥、重厚な笑三郎(アニメでは美輪明宏だものなあ)はじめ澤瀉屋一門が盤石で、甲六・トキ夫婦に市川青虎、笑也、ゴンザは門之助。猩々の翁でなんと96歳の寿猿さんもお元気! 格好良い猿紫は早替りの吹き替えだったのかな。コダマの子役たちがめちゃくちゃ可愛かった。

猿翁没後、初めての新作スーパー歌舞伎。團子は大河ドラマで森蘭丸も演じたばかり。これから楽しみ〜 壱太郎さんから劇中に登場するビーフジャーキーのおすそ分けも。感謝!

 

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ヴィンセント・オン

ヴィンセント・オン ピアノ・リサイタル 2026年7月

ピアニスト体験シリーズで、マレーシア生まれのヴィンセント・オン君へ。2025年秋のショパンコンクールで5位に入賞した、小柄な25歳。クリアで朗々、真面目な感じで好感が持てる。真央君の繊細と比べると発展途上国の印象かな。東京オペラシティコンサートホール、ステージを見下ろす下手バルコニーのA席で5000円。三井住友信託銀行プレゼンツ、ジャパン・アーツ主催。
ピアニストでもあったショパンが24の調すべて使った「24の前奏曲」は、2月の来日でも弾いたそうで、テンポよく生き生きと、即興性を漂わせつつ。大好きな「雨だれ」に浸る。休憩後に温かく、変化に富んだメンデルスゾーンと、ドラマティックなプロコフィエフ。アンコールも幅広く3曲。
ピアノはシゲルカワイ。ロビーでクラシック好きのご夫婦とおしゃべり。野村不動産HDからの花も。
以下セットリストです。

ショパン:24の前奏曲Op28
メンデルスゾーン:無言歌集第8巻Op.102
プロコフィエフ:ピアノソナタ第8番 変ロ長調Op.84「戦争ソナタ」
アンコール
モーツァルト:ピアノソナタ第4番K282より第1楽章アダージョ
カプースチン:8つの演奏会用エチュードOp.40より第1番プレリュード
シューマン:幻想小曲集Op.12より第1曲「夕べに」
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エレクトラ

エレクトラ  2026年7月

またすごい舞台に出会ってしまった。新国立劇場オペラの2025-26シーズン、ラストを飾るリヒャルト・シュトラウスの1909年初演作を新制作で。休憩無し1時間45分とコンパクトだけど、大編成のオケが不協和音の「エレクトラ和音」を含め、うねるように鳴り続いて演劇的。そんなオケを、タイトロールのアイレ・アッソーニ(エストニア出身のドラマティックソプラノ)はじめ女声3人が大迫力で圧倒して、聴衆に迫る。さらにヨハネス・エラートの演出が、全編エレクトラの悪夢をシュールに描く。参りました~ 芸術監督の大野和士指揮、東フィル。オペラハウスの中段S席、プログラムと解説会込みで3万2000円。

なにしろほぼ出ずっぱりのアッソーニが、前衛的な母クリテムネストラとの対決、スポットライトの中で感動が際立つ弟オレストとの再会、そしてラスト陶酔の「歓喜の踊り」まで、突出した声量、驚きの集中力で悠々と舞台を牽引。この難役を歌うのはなんと50回目だったとか。妹クリンテミス役のヘドヴィグ・ハウゲルド(ノルウェーのソプラノ)も負けない声量、かつ叙情的な独白などを可憐に。母クリテムネストラは日本を代表するメゾ藤村実穂子が、登場の「行列の動機」「宝石の動機」など広い音域で繊細な表現力を発揮する。新国では22年ぶりと上演機会が少ないのは、これを歌える歌手が少ないせいとか。なるほど。
弟オレストはエギルス・シリンス(ラトヴィアのバスバリトン)が安定。日本人キャストも第一線の主役級が揃い、母の愛人エギストは工藤和真(テノール)、エギストの養育者に斉木健詞(バス)、下僕に河野鉄平(バスバリトン)ら。 

物語はお馴染みのギリシャ悲劇だ。横暴な父王アガメムンンを殺した母への復讐というドロドロで、2017年に鵜山仁演出、高畑充希主演の演劇を観たときは、ちょっと苦手に感じたけれど、どうしてどうして。今回は紗幕を巧みに使ったエラートの演出で、あくまでエレクトラの目に映っている現実、その心象風景が鮮やかに現出する。サロメ同様、未熟でエキセントリックなヒロインの心理にフォーカスしていて引き込まれる。一方で説明は抑制し、弟や母、エレクトラ自身の生死さえ判然としないほど。エラートはバイオリニスト出身だからか、音楽との連携も巧み。
冒頭から後方の壁で、巨大なロングコートに帽子のシルエットがばたんと倒れ、死してなおすべてを支配するアガメムノンの存在感が強烈。オレストが復讐に向かうときはアガメムノンと同じ服装だし。だからこそエレクトラが幽閉された部屋が妙に可愛く、縫いぐるみやブランコ、古い公衆電話がゴタゴタ並んで、無垢な子供時代に閉じこもっている様子が切ない。ずっと舞台上にいて、見守るピエロや侍女たち。歌手の皆さんも大変です。母クリテムネストラが衣装を変え、業の深さをさらけ出す感じも巧い。大野さんはフランクフルト歌劇場でエラートと組んだことがあるんですねえ。


懇親会にはアッソーニさんらキャスト、そして大野マエストロもちょこっといらして、盛り上がりました!
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わたしの書、頁を図る

紀伊國屋書店創業100周年記念公演「わたしの書、頁を図る」  2026年7月

4月「The Closet Revue」に続いて、気鋭の小沢道成作・演出・美術による音楽劇に足を運ぶ。見えている一面で人物像を決めつけちゃうことの愚かさ、誰の人生も未完の小説、というラストはエモーショナルに響く。オレノグラフィティの曲もいいんだけど、中盤の勝ち組、負け組をめぐる激しいやりとりなどがどうにも平板で、休憩無しの2時間弱がちょっと長く感じたかな。紀伊國屋ホールの中ほどで1万2500円。

床や低い棚に、雑然と本が平積みされたワンセット。図書館の設定だけど古本屋のようだ。点在する椅子に腰掛けて、売れない役者風の佐藤(木ノ下歌舞伎でお馴染み坂口涼太郎)、失業中らしき財前(元劇団四季の中井智彦)、家事から逃避する主婦風の飯島(大人計画の猫背椿)、不登校中学生の奏那(光蔦なづな)が、黙々と本を開いている。地味な職員の柳沢町子(55歳にして舞台初主演の木村多江)はそれぞれの選ぶ本から勝手に、自分と同じような孤独で冴えない人たちと思い込んでいたが、訪れた岸口慶太(味方良介)が思いがけず、町子の日常を自主映画に撮りたいと言い出し、周囲を巻き込んだことで、意外な素顔が明らかになっていき…

本のタイトルを並べ立て、いかにもな人物像に結びつけてニヤリとさせるあたりが巧い。全員が歌はもちろん、楽器を演奏する(坂口はサックス、中井がフルート、猫背は大太鼓)演出も意外性がある。岸口の言動にもう少し説得力が欲しかったかな。本がテーマだけに、プログラムは文庫本で、オリジナルカバーもつく凝りよう。
俳優陣では24歳の光蔦が瑞々しく、坂口はいつもの身体能力を発揮し、仕事ができる嫌な奴を存分に。誠実な中井がさすがの声量だ。ミュージカルの野獣役で知られた人なんですねえ。熱演の木村は大詰め、自らのトラウマをぶちまけるくだりが見せ場だけど、爆発力はいまひとつか。ロビーに木村宛の花がずらりと並んで、活躍のほどはよくわかる。

開演時、俳優陣が舞台上で黙読し始めたのに、なかなか客電が落ちないな~と思っていたら、客席通路に小沢が現れ、早口で「遅れていますがもうすぐ始まります、今のうちにスマホを切って」と喋るハプニング。お年寄りの観客の着席を待っていたのかも。優しいね。
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ユーミンThe Wormhole Tour

Yumi Matsutoya The Wormhole Tour 2025-26  2026年7月

松任谷由実40枚目のアルバム「Wormhole/Yumi AraI」をひっさげ、昨年11月から今年末まで続く全72公演ものホールツアー第2期で、東京国際フォーラムへ。ユーミンのライブは3年ぶり。映像を駆使し、時空を超える雄大、スタイリッシュな演出で、「昔の自分に会いに行く」というストーリーを描く。手痛い失敗もあったし、心身は衰えた。けれど若かった日は愛おしく、そう思えるなら今を肯定できる… 胸がキュンとしちゃう表現力は、さすがユーミンだ。ホールAの1F中央、観やすいS席で1万1000円。休憩無しの2時間強。

オープニングは電子世界をくぐり抜けるような映像から、紗幕に広がる夕暮れの丘の美しさに、まず溜息。中央の階段にチェックのシャツとワイドジーンズのユーミンが座り、「ジャコビニ彗星の日」から時間旅行が始まる。新アルバムの曲が多めだけれど、大詰めでは上手からスライドさせたピアノに向かい、大定番の「ベルベット・イースター」「ひこうき雲」を弾き語り。力強いボーカルから始まる「SWEET DREAMS」や「時をかける少女」で盛り上がり、「静かなまぼろし」の「昔の恋をなつかしく思うのは今の自分が幸せだからこそ」、そして名曲「ダンスのように抱き寄せたい」の「あなたに会えてよかった」に泣きました~

新アルバムではAIで過去の歌声をコラージュしたけど、今日はAIは無し!と元気にMC。動きも結構あって、後方の円形セットのセリで上下したり、客席通路から登場しちゃったり。衣装替えは夜の女王みたいなドレスで聴衆をどよめかせたかと思うと、キャプテンハットとミリタリー調パンツ、ゴールドのヘアバンドと白いドレスへと忙しい。ドームでの花火のような派手な演出はないし、72歳相応の衰えは否めなくても、アンコールではお約束スタンディングで踊っちゃう。ダブルアンコール「卒業写真」まで、満足度は十分だ。
アンコールで冒頭のカジュアルな衣装に戻り、旅の終わりを思わせるのが洒落ていた。バンド・スタッフ紹介は、それぞれ幼少期の写真を見せるのも微笑ましい。「烏揚羽」のあとのMCでは女性ダンサーが貞子みたい、と笑いも。2度ほどステージを横切ったアンドロイドは謎だったけど。

バンドはいつものように武部聡志(キーボード)が音楽監督を務め、
原治武(ドラム)、遠山哲朗(ギター)、浜崎賢太(ベース)、小林香織(コーラス・サックス・フルート・アコーディオン)、佐々木詩織(コーラス・マンドリン・パーカッション)、今井マサキ(コーラス・ギター)。ダンサーは中西夢乃。早めに着いてTシャツなどを購入。この日はWOWOWのカメラが入ってました。放送が楽しみ。
以下セットリストです。

1,ジャコビニ彗星の日
2,不思議な体験
3DARK MOON
4,キャサリン
5,星の物語
6SWEET DREAMS
7Nobody Else
8,文通
9.ひとつの恋が終るとき
10,静かなまぼろし
11,岩礁のきらめき
12,天までとどけ
13,烏揚羽
14,ずっとそばに
15,かんらん車
16,小鳥曜日
17CINNAMON
18,ベルベット・イースター
19、ひこうき雲
20,時をかける少女
21,ダンスのように抱き寄せたい
22,そして誰もいなくなった
アンコール
23,やさしさに包まれたなら
2414番目の月
25DESTINY
26,卒業写真

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