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りんごが落ちる

りんごが落ちる  2026年6月

新国立劇場の演劇芸術監督、小川絵梨子の任期最後のシリーズ企画「いま、ここにーー」で、2023年に「ガラパコスパコス」を観たノゾエ征爾(劇団はえぎわ)の新作へ。演出は金澤菜乃英(劇団青年座)。仕事、家族、心身の衰え… 誰もが抱える、思うようにならないあれこれや苦い後悔を、笑いをまじえて畳みかけていく。解決しなくてもとどのつまり、目の前の存在に向き合うしかない。そしてラストにほんのり、希望が浮かぶ。
見せ方はちょっと幻想的。俳優も皆、はきはきと長台詞をこなして巧い。いかんせん、ところどころ説明やギャグが平板な感じ。もうちょっと洒落たタッチが好みかな。中央前寄りで6545円、休憩無しの2時間。

壁などを省略したダイニングキッチンのワンセット(美術は池田ともゆき)。田端光太郎(文学座の浜田学)がレジ袋を提げて帰ってきて、食材を取り出した拍子にりんごがひとつ転げ落ちるけど、それに気づかないほど激しく落ち込んでいる。光太郎はベテラン俳優で、久々に舞台で主演しているのに、初日に台詞を忘れてしまい、ラスト10分が沈黙劇になってしまった。それでも食事を作らなければと、キッチンに立って…
大学演劇部の後輩で老舗社長の猿橋(ONEOR8の山口森広)、舞台の作・演出を務める若手の鴨川(ろりえの梅舟惟永)、隣の部屋の高齢女性・鶴野さん(大西多摩恵)、地元で開業を目指す妹・夢子(宮川安利)が次々現れ、テンポの良い会話を繰り広げ、光太郎の悩みが明らかになっていく。特に遠慮無く怒りをぶつける鴨川が、素っ頓狂だけど影響力を持つ演劇評論家とか、AI創作とか、舞台あるあるで存分に笑わせる。実際に調理していくライブ感を前面に出しつつ、人物の登場の仕方や猿橋の靴などの伏線も巧妙に。

あまり馴染みがない俳優陣だったけど、それぞれいい個性だ。梅舟のキレっぷりや、ちょっと不思議な大西の存在感が印象に残る。大西さん、無名塾1期生なんですねえ。

思えば最年少で就任した小川芸術監督は8年の間に、フルオーディションなどにチャレンジ。特に演出した2022年の「レオポルトシュタット」は、胸に迫る名作でした。一方、終盤のラインナップは現代演劇の最前線なのか、ちょっと理解しづらかったものも。11月からは上村聡史の第1シーズンとなる。これもまた楽しみ。
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髙橋望JSバッハ名曲集

髙橋望ピアノ・リサイタルVol.4 バッハ名曲集  2026年6月

別府に飛んで、ゴルトベルク変奏曲をライフワークとするピアニスト、髙橋望さんのリサイタル。お馴染みのメロディ満載のバッハ尽くしだ。ぎっしりの冨士屋一也百(はやなもも)ホールで、手元が見える下手寄り前のほうを確保する。歴史ある明治建築の落ち着いた空気と、名曲の豊かな色彩を味わう。自由席で5000円、休憩を挟んで2時間。
アンコールでは、長くバッハ作曲と思われていて実は別人の作品だったと語ってメヌエット。さらに、バッハは高名な眼科医ジョン・テイラーの手術が元で亡くなり、後年ヘンデルもテイラーの手術を受けたが失敗している、皆さん、健康に気をつけて、と笑わせてヘンデルのメヌエットを披露しました。
プログラムには望さんがペンネーム金山好で執筆した解説があって、フランス人マルシャンとの音楽試合のエピソードなどが面白い。本当に才人だなあ。主催のおかみ丼々和田による懇親パーティも楽しくて、贅沢なひととき。
以下セットリストです。

ゴルトベルク変奏曲よりアリア
主よ、人の望みの喜びよ
シンフォニア ト短調
パルティータ第1番 変ロ長調
イタリア協奏曲 へ長調
フランス組曲第5番 ト長調
G線上のアリア
半音階的幻想曲とフーガ 二短調
アンコール:
ペツォールト メヌエット ト長調
ヘンデル メヌエット ト短調
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Music Dialogue「ショパン ピアノとチェロのためのソナタ」「ブラームス ピアノ四重奏曲」

Music Dialogueディスカバリー・シリーズ 2026-27 Vol.1東京公演  2026年6月

室内楽で気鋭の音楽家を応援するMusic Dialogueの演奏会に足を運ぶ。3年ぶり2回目で、ヴィオラの大山平一郎芸術監督が指導する公開リハーサルにも参加。今回は弦とは異質のピアノが入り、バランスやテンポの作り方が一層興味深い。それぞれの個性と、厳しくも温かいコミュニケーションの現場。

メンバーはシリーズ初登場という進藤実優(ピアノ)。2025年ショパン国際ピアノ・コンクールのファイナリストで、パワフル、かつ気さくな印象。新MDアーティスト水野優也(チェロ)は2025年プラハの春国際音楽コンクール・チェロ部門でアジア人で初めて優勝しており、ひらめきを感じさせる。ジャパン・ナショナル・オーケストラのメンバーとしても活躍中。今回はふたりとも帰国直後だとか。これからが楽しみだ。そして緑のヘアカラーの石上真由子(ヴァイオリン)はテレビ出演も多く、頼もしい存在。
まず中目黒GTプラザホールのリハーサルで、ブラームスのピアノ四重奏曲第1番ト短調。シェーンベルクがオーケストラ版に編曲しているそうで、名曲。第3楽章の緩徐楽章を中心に、大平さんが自らも演奏しながら、ピアノと弦をまとめていく。音量というより密度、という表現は素人には正直、想像つかないけれど。字幕解説は酒井有彩(ピアノ)と音楽ライターの小室敬幸。
アンコールはブラームスのピアノ四重奏曲第3番第3楽章。休憩のあと、全員が質問に答えるセッションがあって2時間。ピアノとチェロの配置では目線が合わないけど、呼吸で合わせる、楽譜に記された指示は案外あいまいだったり、印刷間違いだったりする、などなど。パンフレットには楽譜のQR付き。2500円。

2日後に本番で、めぐろパーシモンホール小ホールへ。水野と進藤のデュオで、ショパンが生前最後に出版したピアノとチェロのためのソナタト短調。定住したパリで親友になったチェロ奏者オーギュスト・フランコムのために書いたとか。パンフレットの解説によるとフランコムの遺品にはピアノとヴァイオリンのためのソナタの断片が含まれていて、ピアノ一辺倒から新しい道に踏み出そうとしていたかも、と。享年39歳だものなあ。
休憩後はいよいよリハで聴いたブラームス。民族音楽風のモチーフが散りばめられ、第4楽章ジプシー風ロンドは一気呵成、情熱的で楽しい。全員でトークセッションもして終演。
客席には著名な国際政治学者の姿も。今回は名古屋公演も有り。また応援したいな。
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