ドン・ジョバンニ
ドン・ジョバンニ 2026年4月
東京文化会館の長期休館前ラストとなるオペラ公演、しかも指揮はリッカルド・ムーティ84歳、18年越しの日本における「ダ・ポンテ3部作」完結とあって、奮発してオペラを楽しむ。ほぼイタリア人で固めた歌手陣は、突出した人はいないけれど、バランスがよくて高水準。娘キアラ・ムーティ演出、トリノ王立歌劇場とパレルモ・マッシモ劇場の共同制作のプロダクションもお洒落だ。N響の長原幸太率いる東京春祭オーケストラ、珍しくオケピに入っている東京オペラシンガーズがまずまず健闘。現役閣僚!や財界人ら、よくはいった大ホール、見やすい上手寄りA席で4万6000円。30分の休憩を挟んで3時間半。
タイトロールのルカ・ミケレッティ(バリトン)は1幕「酒でみんな酔いつぶれるまで(シャンパンの歌)」など音色が幅広く、身勝手な自由人らしく演技も自在。貴婦人風ドンナ・アンナのマリア・グラツィア・スキアーヴォ(ソプラノ)が2幕「ひどい人ですって?」など繊細な声で魅了し、婚約者ドン・オッターヴィオのジョヴァンニ・サラ(テノール)も「恋人を慰めて」など、なかなかの技巧を披露していた。ベルエポック風ドンナ・エルヴィーラのマリアンジェラ・シチリア(ソプラノ)をまじえた1幕「気の毒な方よ、信用してはいけません」など、「古典派」たるモーツアルトらしい重唱が美しい。
従者レポレッロ はアレッサンドロ・ルオンゴ(バリトン)、はすっぱな1950年代風ツェルリーナは声が太めのフランチェスカ・ディ・サウロ(メゾ)、婚約者マゼットはひとりクロアチア人のレオン・コーシャヴィッチ(バリトン)、運命を握る騎士長はヴィットリオ・デ・カンポ(バス)。
ムーティ様はここぞという箇所では立ち上がり、「ロマン派」的な大詰め地獄落ちを存分に鳴らす。合唱含めすべてを掌握している印象で、2幕のジョバンニのセレナーデ「おいで窓辺に」では客席を振り返り、拍手にさえキューを出して驚く。マエストロがレチタティーヴォを重視するだけに、フォルテピアノはイタリア公演も担当したというアレッサンドロ・ベニーニで安定。
セットはシンプルで照明暗めだけど、崩れた宮殿の設定とのことで、怖いくらいのスロープ、しかも回り舞台でダイナミック。ジョバンニだけは欲望のままの意志ある人間だけど、それ以外の人物は操られているに過ぎないということか、下着姿のマリオネットで、上から吊された衣装を身につけて動き出し、ラストの六重唱「悪人の最後はこのとおり」で下着に戻っちゃう。マイムが20人いて、レポレッロの身も蓋もない「奥様、これが目録です(カタログの歌)」で多様な外見の女性12人が色気を振りまいたり、墓地の騎士長も重厚な石像ではなく吊された人形だったりも面白かった。
主催は日本舞台芸術振興会、東京・春・音楽祭実行委員会、日本経済新聞社。聴衆の顔ぶれが華やかなだけにロビーに活気があり、オペラ仲間とも遭遇。思えば東京文化会館では、リアルの迫力に驚嘆した2008年ムーティ×フリットリ「コシ」、2010年のパッパーノ×ネトレプコ「マノン」はじめ、ゲルギエフや小澤征爾、ノセダ、歌手ではグリゴーロ、ステファン・グールド、グルベローヴァ、フリットリ、パーペ…とたくさん堪能しました。さあ、また3年後に!
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