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The Closet Revue

EPOCH MAN「The Closet Revue」 2026年4月

かつて虚構の劇団で観ていた小沢道成の新作に足を運んでみた。自らのアイデンティティを肯定し、他者もまた肯定することの苦痛と、そこはかとない希望をレビュー仕立てで描く。意欲作だけど、休憩無しの105分はちょっと長かったかな。若い女性が目立つザ・スズナリの中央あたりで8500円。

2023年「我ら宇宙の塵」で読売演劇大賞優秀作品賞をとった小沢は、脚本・演出に加え美術も担当する才人ぶり。会場を外階段からネオンで怪しげなショーパブに仕立て、開演前には狭いロビーでキラキラ衣装の踊り子たちが化粧している凝りようだ。

舞台はそのまま、誰もが自分をさらけ出せる店エデンのステージ。皓斗(阿部顕嵐)はオーナーでゲイのメルキーゼ(山崎一)に出演を申し出て、男性にひかれることで経験してきた葛藤を吐露する。しかし以前、舞台にたったヨナ坊(小沢)に何かあったらしく、メルキーゼは頑なに心を閉ざしていて… 理解が進んでカミングアウトできる時代だからこその、生きづらさ。

円形のカーテンレールを回し、メーンの俳優3人と踊り子(クローゼリム)4人(BOW、花島令、リンノスケ、神野幹暁)が、吊した衣装を次々にまとってはうち捨てていく趣向が面白い。7人で多数の人物を表現し、スピーディーに場面を転換。クローゼットに無理矢理しまい込んだ嫌な思い出や偏見をさらけ出すイメージか。

小沢は狂言回しも担い、身体表現、歌とも巧い。阿部が終盤、カミングアウトの先にあるものを問う熱演で、なかなかの存在感を示し、山崎がさすがの屈折ぶりでしっかり受け止める。音楽はオレノグラフィティ。


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ドン・ジョバンニ

ドン・ジョバンニ  2026年4月

東京文化会館の長期休館前ラストとなるオペラ公演、しかも指揮はリッカルド・ムーティ84歳、18年越しの日本における「ダ・ポンテ3部作」完結とあって、奮発してオペラを楽しむ。ほぼイタリア人で固めた歌手陣は、突出した人はいないけれど、バランスがよくて高水準。娘キアラ・ムーティ演出、トリノ王立歌劇場とパレルモ・マッシモ劇場の共同制作のプロダクションもお洒落だ。N響の長原幸太率いる東京春祭オーケストラ、珍しくオケピに入っている東京オペラシンガーズがまずまず健闘。現役閣僚!や財界人ら、よくはいった大ホール、見やすい上手寄りA席で4万6000円。30分の休憩を挟んで3時間半。

タイトロールのルカ・ミケレッティ(バリトン)は1幕「酒でみんな酔いつぶれるまで(シャンパンの歌)」など音色が幅広く、身勝手な自由人らしく演技も自在。貴婦人風ドンナ・アンナのマリア・グラツィア・スキアーヴォ(ソプラノ)が2幕「ひどい人ですって?」など繊細な声で魅了し、婚約者ドン・オッターヴィオのジョヴァンニ・サラ(テノール)も「恋人を慰めて」など、なかなかの技巧を披露していた。ベルエポック風ドンナ・エルヴィーラのマリアンジェラ・シチリア(ソプラノ)をまじえた1幕「気の毒な方よ、信用してはいけません」など、「古典派」たるモーツアルトらしい重唱が美しい。
従者レポレッロ はアレッサンドロ・ルオンゴ(バリトン)、はすっぱな1950年代風ツェルリーナは声が太めのフランチェスカ・ディ・サウロ(メゾ)、婚約者マゼットはひとりクロアチア人のレオン・コーシャヴィッチ(バリトン)、運命を握る騎士長はヴィットリオ・デ・カンポ(バス)。

ムーティ様はここぞという箇所では立ち上がり、「ロマン派」的な大詰め地獄落ちを存分に鳴らす。合唱含めすべてを掌握している印象で、2幕のジョバンニのセレナーデ「おいで窓辺に」では客席を振り返り、拍手にさえキューを出して驚く。マエストロがレチタティーヴォを重視するだけに、フォルテピアノはイタリア公演も担当したというアレッサンドロ・ベニーニで安定。

セットはシンプルで照明暗めだけど、崩れた宮殿の設定とのことで、怖いくらいのスロープ、しかも回り舞台でダイナミック。ジョバンニだけは欲望のままの意志ある人間だけど、それ以外の人物は操られているに過ぎないということか、下着姿のマリオネットで、上から吊された衣装を身につけて動き出し、ラストの六重唱「悪人の最後はこのとおり」で下着に戻っちゃう。マイムが20人いて、レポレッロの身も蓋もない「奥様、これが目録です(カタログの歌)」で多様な外見の女性12人が色気を振りまいたり、墓地の騎士長も重厚な石像ではなく吊された人形だったりも面白かった。

主催は日本舞台芸術振興会、東京・春・音楽祭実行委員会、日本経済新聞社。聴衆の顔ぶれが華やかなだけにロビーに活気があり、オペラ仲間とも遭遇。思えば東京文化会館では、リアルの迫力に驚嘆した2008年ムーティ×フリットリ「コシ」、2010年のパッパーノ×ネトレプコ「マノン」はじめ、ゲルギエフや小澤征爾、ノセダ、歌手ではグリゴーロ、ステファン・グールド、グルベローヴァ、フリットリ、パーペ…とたくさん堪能しました。さあ、また3年後に!

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華氏マイナス320゜

NODA・MAP第28回公演 華氏マイナス320° 2026年4月

2024年の長澤まさみらの「正三角形」も鮮烈だった野田秀樹作・演出のNODA・MAP。2年ぶりの新作にめでたく当選し、足を運んだ。AIで一層加速する科学技術に対する危惧をストレートに訴える戯曲で、リアルな命の躍動を突きつける圧巻のラストシーンに、見事にもっていかれた。私たちは果たして、それぞれの生の豊かさを理解しているだろうか。このパワーは2021年の傑作「フェイクスピア」に匹敵するかも。
野田さん70歳、重く挑戦的なテーマと興行を両立させる情熱は衰えていません。いつもながら深津絵里ら豪華キャストも盤石で、休憩無しの2時間20分がちっとも長くない。幅広い観客が集まった東京芸術劇場プレイハウス、前の方で1万3000円。

冒頭、阿部サダヲがナレーターを務め、アンサンブルのMISAKIが「目立つ」手話通訳として前に立つ象徴的なシーンから幕が開く。そこは考古学の発掘現場。製薬会社の支援でバイオテクノロジーを研究する窮理(きゅうり)教授(深津絵里)が、助手タスケテ(阿部)の骨の共鳴を頼りに、師匠ドクター骨伝道(橋爪功)と競いながら「天使たちの骨」の謎を追う。

ブレヒト幕を左右に移動させる素早い場面転換が秀逸。「悪魔で天使」のメフィスト(広瀬すず)とともに、時空は中世の怪しげな研究室、そして古代の洞窟へと飛翔していく。


イメージの奔流が科学への過信、現代人の傲慢を浮かび上がらせる。悪魔の力で若返ろうとするファウスト(橋爪)、少女ジーンズ(広瀬)が売り込む「クレオパトラの受精卵」、品種の偏りが招いたアイルランドのジャガイモ飢饉… 異天使(遺伝子)たちを誘い出すハーメルンの笛吹き男(大倉孝二)は実在の事件をベースに、コミュニケーションがとれないという決めつけの身勝手さ、残虐をあぶり出す。ディストピア小説「華氏451度」を連想させるタイトルは、生殖医療の凍結保存で使う液体窒素の沸点にちなむそうです。

なんといってもお馴染み森田真和ら、アンサンブル16人の身体表現が素晴らしい。息を合わせて骨格やトンネルをかたちづくり、やがて鮮烈なラストへとなだれ込む。凜とした深津、躍動する広瀬が爽やかに舞台を牽引し、「自分は科学に助けられた」と吐露する阿部は持ち前の切なさ全開だ。
橋爪、表無助手の野田はもちろん手練れだし、大倉は阿部と見つめ合っちゃったり、「折衷案(セツアン)の善人」の駄洒落を繰り返したり、独特の間合いで抜群の存在感を示す。「神より高いところに住んでいる」製薬会社会長に高田聖子、弟に橋本さとしという配役は贅沢過ぎ。裏ヶ有助手の川上友里(はえぎわ)はドラマ「シナントロープ」の関西弁のおばちゃんなんですねえ。

猛スピードで展開する物語のなかで、取り残された電話ボックスにかかってくる、大事なことを伝えようとする声が妙に印象的だ。美術は堀尾幸男、衣装はひびのこづえ、音楽は原摩利彦、振付は井手茂太。7月にはロンドン公演も。

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ナルキッソスの怒り

ナルキッソスの怒り  2026年4月

いやー、また凄い芝居を観てしまった。ウルグアイ出身、パリで活動する作家セルヒオ・ブランコの2015年初演作。翻訳の狩屋浩子と成河、藤田俊太郎が1年かけて日本語の上演台本を練り上げ、藤田が演出。

見えているものの何が実で、何が虚なのか。近頃のAI論議がかすむほどの、足下がぐらつく存在の不確かさ。それをライブで、全編ひとりで見せてしまう成河の演劇モンスターぶり! 休憩無しの2時間があっという間の、希有な演劇体験だ。東京芸術劇場シアターイーストの中央当たりで8800円。主催・製作はエイベックス・ライブ・クリエイティヴとシーエイティプロデユース。

開演前、客席前方の通路に成河が出てきて、愛想良くお決まりの注意事項を呼びかける。そのまま舞台に上がると、セルヒオとは友だちで、来日したとき一緒に温泉に行ったりした、ある日、電話がかかってきてこの戯曲の日本上演を依頼された、と語って、すっと芝居に入る。
物語は作家セルヒオが、学会でスロベニアの首都リュブリャナを訪れたときの出来事。ホテルの部屋に、出会い系サイトで知った美青年イゴールを呼び、情事に溺れる。そして深夜ひとりになって、カーペットや壁に残る赤黒い染みに気づく。かつてこの228号室で何があったのか。

ナルキッソスとはギリシャ神話に登場する美少年。水面に映った自分の虚像に恋をして、命を落としちゃう。劇中で繰り返されるイメージは観ること、手でなでること。でも、それで果たして実像を認識していると言えるのか? 観客は身の毛もよだつ展開にのけぞり、やがてあっけにとられる。成河のブログによると「ただただ、どっひゃー、となるえんげき」。

どっひゃー、を成立させるのは、成河の高水準の知性と身体能力、集中力あってこそだろう。成河自身、物語を語るセルヒオ、物語のなかのセルヒオ…と二重三重のメタ構造を自在に行き来して破綻がない。驚異的なことをやってのけているのに、独特の愛嬌と茶目っ気を失わないのがまた魅力だ。
セットは最小限で、ポプラの森や博物館の骨格標本を抽象的な映像で表現。自己の危うさという点では、昨年末に観た「スリー・キングダムズ」をちょっと思い出したけれど、あのいかにも不穏なタリンの街の空気と違って、本作は中欧リュブリャナの美しさに言及していて、ほっとする。美術は原田愛。

ロビーではなんと歌舞伎みたいに舞台写真を売っていて、1枚だけネタバレを含むからとカバーする演出。凝っているなあ。成河も藤田もまだ40代。これからますます楽しみです。

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粛々と運針

iaku「粛々と運針」  2026年4月

昨夏の「はぐらかしたり、もてなしたり」もよかった横山拓也の2017年初演作を、上田一軒の演出で。話してみないとわからないということ、だからこそ話そうとすることの尊さが、じんわりと染みる。持ち前の緻密な会話劇を役者が丁寧に描き出していて、美術も秀逸な佳作だ。三鷹市芸術文化センター星のホール、前の方中央あたりの良い席で4500円。休憩無しの1時間半。

ふたり×2組の対話劇。1組は子供をもたないと合意していた若い夫婦(佐々木ヤス子、中山義紘)で、妻は仕事を頑張っているけれど、ある日妊娠の気配に気づく。もう1組はニートで相変わらず実家暮らしの兄(花戸祐介)と、結婚して家を出たしっかり者の弟(鈴鹿通儀)。余命宣告を受けた母を見舞ったら、病室に思いがけず恋人らしき男性がきていて、相談して尊厳死を選ぶことにしたと伝えられる。さて、2組の選択は?

いずれも命に関わる問いだけに、それぞれ激しく動揺し、惑う。思いをぶつけ合ううち、普段は口にしてこなかった本音、価値観のずれがこぼれてくる。背後の階段上で、2組を見守る白い衣装の女性(林英世)と子供(鄭梨花)=縫う人は天使なのか、ちくちく運針するのは命の時間を刻んでいるのか。
難しいテーマだけど、対話は全く理屈っぽくなく、リアルで、ときに笑いを含む。夫婦と子供は関西弁。離れているはずの2組の応酬が、終盤に交錯しだして、普遍性をはらんでいくのが秀逸だ。戯曲も演出も丁寧で、決してすっきり結論が出るわけではないけれど、互いを思いやる優しさが温かい余韻を残す。


でずっぱりの役者陣はみな達者で、なかでも花戸のダメさ加減がチャーミングだ。セットは抽象的でシンプル。上方に浮いていた輪がやがて2組を囲うように動くのも印象的だ。美術は柴田隆弘。上田一軒は2009年以降、iakuの公演に演出やドラマトゥルクとして参加しているそうで、細かく磨き上げたのかな。
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新宿発8時15分

シス・カンパニー公演「新宿発8時15分」  2026年4月

三谷幸喜作・演出、荻野清子音楽と鉄板コンビの傑作ミュージカル。朝のカマタマ線が事故で止まり、再開するまでの1時間40分をリアルタイム、ノンストップで描く。対策に奔走するプロフェッショナルたち、車内や駅で足止めをくう乗客、沿線の人々、それぞれの事情。誰しも覚えがあるアタフタで存分に笑わせ、ハッピーエンドと思いきや、ラストでぐっとくる。誰しも誰かを助けている、だから今を大切に。憎いなあ。

天海祐希はじめ豪華キャスト15人が、なんと100役以上をスピーディーに、無理なく演じ分け、しかも各々きっちり見せ場がある。当て書き群像劇の名手と、それに応える芸達者たちに拍手。奇跡的にチケットの抽選にあたって知人たちとご一緒できたのはよかったものの、席は2階下手端。前席の女性が乗りだし気味で視界をふさがれたのは残念… 日本青年館ホールで1万2000円。


袖に控えてどんどん衣装を替えていく役者のなかでも、天海は惜しげもなく9役の八面六臂、なんとトラック運転手まで! これぞスター。そんな天海の輸送指令センター長と、いいコンビの警察交通課主任はシルビア・グラブ。ラストの「こんな話をしてあげる」がさすがの説得力だ。オーディションに向かう役者の尾上松也も、「ゴドーを待ちながら」を歌い上げて頼もしいエンタテイナーぶり。亀!にも変身。

三谷組常連たちも存分に個性を発揮。生放送に急ぐニュースキャスター香取慎吾の身勝手さ、終始飄々とした浅野和之、ヒトクセある地質学者の新納慎也、横文字連発の気取ったビジネスマン今井朋彦、右往左往する車掌ウエンツ瑛士…と、期待通りだ。

「京王線の区間準急は快速より速いのか?」といった笑いはたっぷり。亀を助ける乗客の連携プレーも傑作で、見どころ満載でした。よく思いつくなあ。

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サボテンの微笑み

ケムリ研究室No.5「サボテンの微笑み」  2026年4月

ケラリーノ・サンドロヴィッチと緒川たまきの演劇ユニット、ケムリ研究室。これまで観たコメディ「ベイジルタウンの女神」、不条理劇「砂の女」と違った、古い邦画の空気がしみじみ味わい深い。閉じた空間で、もたれ合って生きる兄妹の小さな波乱と哀感をビターに。シアタートラム中央のいい席で1万2000円、休憩を挟んで3時間強。

昭和3年、東京郊外の洋館のワンセット(美術は秋山光洋)。引きこもりつつも親の遺産で何不自由なく、温室で花を育てて暮らす学(赤堀雅秋)と、そんな兄を世話する地味な空子(緒川)のもとへ、別れ話の渦中にある友人の日之出(瀬戸康史)とマユミ(瀬戸さおり)、そして流行作家の鳥羽(萩原聖人)が訪ねてくる。学はマユミへの、空子は鳥羽への、子供っぽい恋心が空回りして…

設定は岸田國士の短編「温室の前」がヒントとか。名作「キネマと恋人」「しびれ雲」でも引き込まれた緒川のセリフ回し、今回は上品な「にいさま」「あいすいません」連発で、ハイカラさんの和装と相まって何とも可愛い。一方の赤堀は、武骨な外見に似合わず内気で、気が利かない造形が絶妙だ。ふたりとも勝手に舞い上がったり拗ねたり、不器用過ぎ。幸せになってほしいんだけどなあ。緻密な会話の間合い、壊れた蓄音機の洋楽がいいアクセント。
キャストはみな魅力的。兄妹を振り回す鈍感、身勝手な浮気男とお洒落モダンガールの夫妻を、瀬戸兄妹が演じるのが面白い。知的で唯一、世間慣れした萩原の洞察が、実は最も酷な感じも巧いな。時折現れる父の幽霊にムーンライダーズの鈴木慶一。孤独の遠因である、捨てられない悲しみの象徴なのか。かき回し役の花屋は清水伸。ガラス戸の向こうの温室を浮かび上がらせる照明もお洒落。

ケムリ研究室の次作は2027年秋とのこと。楽しみです。



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落語「のめる」「出世の石段」「たらちね」「心眼」「猫の皿」「百年目」

第94回大手町落語会 2026年4月

柳家さん喬、柳家権太楼のお二人がそろう会は久しぶり。なにしろ2025年前半はがんで療養していた権太楼さんは2022年以来で、高座姿を見られるだけで感激だ。日経ホールの後ろのほうで4500円、中入りを挟んで2時間。

まず柳亭市助が「のめる」。「詰まらない」「のめる」の口癖を封印したふたりが、口にしたら罰金と約束して… とんとんと。そして講談の田辺いちかが「寛永三馬術」から「曲垣平九郎 出世の階段」。馬術の名人が愛宕山の急階段を上り下りして、家光に梅を届ける。賑やかだ。
続いて三遊亭萬橘が、まくらで中座しちゃう客に、どうせ両ベテランがお目当てでしょ、と拗ねてみせたりしてから「たらちね」。粗忽な長屋の八五郎が、お嬢様育ちで言葉が丁寧すぎる女房を迎える。噛み合わないやりとりに爆笑。萬橘は2019年から何回か聴いていて、だんだんマイルド、可愛らしくなり、いい感じだ。
前半最後がお待ちかねの権太楼。体調が悪くて直前の寄席を休んだ、今日は10分くらいで、とつぶやきながら、2018年にも聴いた「心眼」。爆発的な愛嬌はなく、咳き込んだりしてハラハラしたけど、語るうちに力が戻ってたっぷりと。噺はイケメンの按摩が妻の献身あって目があくが、その妻が不細工と知って…という怖い展開ののち、夢から覚める。人が背負う宿命の苦み、だからこそ大切なもの。先日、正蔵さんが語っていた、生きているだけで楽しいと思うこと。ご自身の境遇もあいまって余韻が深い。

仲入後は明るく三遊亭兼好。「権太楼師匠、意気揚々と引き揚げて行きました。皆さんご安心を」と聴衆を気遣って、飄々と「猫の皿」。この軽み、好きだなあ。トリはさん喬で悠々と「百年目」。やはり旦那の品はこのひとならではでした~ 粒揃いのメンバーを楽しんだけど、やっぱりホールの後ろの方だと臨場感は今ひとつかな。

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