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景色のよい観光地

た組「景色のよい観光地」  2026年1月

1993年生まれ、加藤拓也が作・演出する約3年ぶりの劇団公演。いやー、怖かった。自分たちだけが楽しいことを知っている、自分たちはちょっとリスクをとっても大丈夫… ごくシンプルな舞台で、自分は特別だと思うこと、世の中には特別に得をしている人がいるに違いないと思うことの愚かしさをえぐり出して秀逸。
目を覆うような暴力に、脱力する笑いをまぶす独特の空気は癖になります。満席の東京芸術劇場シアターイースト、なんと最前列中央で4900円。休憩無しの1時間40分。

設定は箱根あたりの爽やかな山あいにある日本茶カフェ。カウンターとハイチェア数客のワンセットがお洒落だ。鍼灸師で店を運営する隆治(平原テツ)は、調理担当・健介(田村健太郎)の密かな趣味に惚れ込んでいる。それは山で毒きのこをとってきて食べること。禁断の味に、近くの旅館で働く前野(安達祐実)らも魅せられてエスカレートしていき…
饒舌な美味の表現は小説「BUTTER」にも通じる。少人数による緻密なセリフの応酬だけで、みるみる高まっちゃう狂気が秀逸だ。きのこではなく人間の無邪気な欲望こそが、よく回る毒。

田村が繊細さとプライドを表現して素晴らしい。まとわりつくような平原、知恵が回る安達の壊れっぷりが、いつもながら盤石。わざわざ東京から訪れて隆治に鍼をうってもらう宮口(宮﨑秋人)の、若手起業家っぽい造形も効いている。終盤、台湾から来て巻き添えをくう楊(やん)の吳静依がチャーミングで、脇役にいかにもなAIスピーカー。

ロビーに加藤氏。4月には別演目での台北公演も控えているだなあ。客席では芝居好きの知人に遭遇!

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高橋望「ゴルトベルク変奏曲」

ゴルトベルク変奏曲 高橋望によるバッハの世界  2025年1月

寒波襲来の週末に、秩父出身ピアニスト高橋望のライフワークであるJSバッハ「ゴルトベルク変奏曲」のリサイタルへ。18世紀ドイツバロックの精密な世界にひたる。冒頭と最後のアリア、第30変奏の32曲を2回ずつ、休憩無しの80分。よく入った端正な浜離宮朝日ホール、中段上手寄りで5000円。

前週に虎ノ門B-techJapanスタジオで20人ほどの勉強会があり、望さんの解説を聴いてから参加。ザクセン駐在ロシア大使だったカイザーリンク伯爵が眠れぬ夜に気を晴らせるよう、従者ゴルトベルク向けに書いて、ルイ金貨100枚が詰まった金杯を得たという1曲。1741年に自費出版したバッハ鍵盤音楽の集大成なんですねえ。
2022年の室内楽や23年のパイプオルガン版に比べると、ピアノ1台では正直、単調で眠気を誘うと危惧したけれど、どうしてどうして。通奏低音にのせて第3、第6…と3の倍数で繰り出されるカノンが、反行形を含めつつ、同度、2度…と広がっていく。譜を思い描きながら聴くと、なにやら設計図のようだ。作曲時は2段鍵盤を想定していたそうで、激しい左右の手の交差というテクニックも求められ、それでいて舞曲風、イタリアオペラ風、賛美歌風と表情も豊か。
5曲ずつのまとまりで進み、第16変奏の序曲前に静かなインターバルがありました。アンコールはシンフォニア第12番ト短調、そしてフランス組曲第5番ト長調よりアルマンド。

終了後、近くのイタリアンで60人規模の懇親会。望さんの才気、ファンを大事にする姿勢に感服! 多士済々、見事なマジックまで繰り出され賑やかでした~

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浅草歌舞伎「傾城反魂香」「男女道成寺」

新春浅草歌舞伎 第2部  2026年1月

観劇会に参加して、昨年から中村橋之助が座頭となり新鮮な花形公演へ。浅草寺にお参りしてから浅草公会堂に着くと、なんと当日になって、2月に襲名を控えた中村鶴松が理由不明のまま休演。急きょ中村莟玉が代役に立ち、第一部「藤娘」から第二部まで三演目出ずっぱりに。しかも初役の「吃又」おとくを立派に演じて、のちのち語り草になりそうな観劇となりました~ 中段やや上手寄りで9500円。休憩を挟んで三時間強。

急きょもろもろ確認があったからか、開場は遅れ気味。そんな緊張感もなんのその、お年玉年始ご挨拶の尾上近はゲラとのことで、いきなり笑っちゃったけれど、「床山さんまで一丸となって」と。
そして「傾城反魂香」。何回か観たなかでも、2012年平成中村座の片岡仁左衛門・中村勘三郎コンビの仲睦まじさが印象に残る演目だ。おとくは又平との対比で立て板に水を求められる役。莟玉はとてもぶっつけとは思えない安定感で大拍手! 修理之助の経験があるといっても出番は中盤までだし、つくづく歌舞伎役者恐るべし。造形はしっかり者というより、持ち前の可愛さが前面に出て、それもいい個性だった。対する又平の橋之助も誠実、生真面目な雰囲気が合っている。復活した中村橋吾が老け役・土佐将監を務めたのも嬉しい。

長めの休憩の後は「男女(めおと)道成寺」。映画「国宝」の「二人道成寺」同様、娘道成寺の書き替え作品で、舞台後方の長唄に加えて、下手の常磐津との掛け合いがひときわ華やかだ。
5月に辰之助襲名を控えた期待の左近は白拍子で登場するものの、「この辺りに住む」狂言師と露見。金の烏帽子がうまく落ちないアクシデントもありつつ、舞台袖に連行されるさまがコミカルだ。線の細さは否めないものの、もう一人の白拍子、莟玉ときびきび踊って美しい。
鮮やかな引き抜きを挟みつつ、羽根つき、毬つき、花笠、手ぬぐいと展開し、強力の橋之助、市川染五郎が花道から手ぬぐい捲きのサービス。この日もうひとつのびっくりで、なんと染五郎のサイドスローの直球をキャッチ! うきうきが最高潮となるなか、羯鼓(かっこ)、鈴太鼓から鐘の上できまって、幕となりました~ 

話題満載で歌舞伎好きの面々との懇親会も大盛り上がり。手ぬぐいは左近、莟玉連名の記念すべきお宝でした! ちなみに第一部で鶴松が予定していた「相生獅子」は、この日は中止で払い戻し対象となり、翌公演からは市川男寅が代演。
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インターネ島エクスプローラー

ヨーロッパ企画第44回公演 インターネ島エクスプローラー  2026年1月

上田誠作・演出の劇団公演に足を運んだ。雑誌「ムー」的トンデモ科学への偏愛をテーマに、いつもの脱力する笑いがたっぷり。終盤、壮大な人類愛さえ感じさせる怒濤の展開ながら、しょうもなさ感が横溢して憎めない。本多劇場の中段で8500円。休憩無しの2時間強。

大学冒険部出身、Google Earthでも見つからない人類未踏の「インターネ島」にとりつかれたハタノ(劇団新加入の金丸慎太郎)。ついに到達した島はしかし未踏でも何でもなく、一攫千金やら世紀の発見やらを狙うクセの強い人物が入り乱れていて…

今回はモアイが立ち並ぶ孤島のワンセット。「横スクロール」という演出に意表をつかれた。最初は正直、暗転をちょっと煩わしく感じたけれど、明るくなるたびの工夫がじわじわ笑える。探検家=Explorerにはじまる95世代的連想や、ぎゅっと詰まったインディジョーンズネタ等々も楽しい。

私の初ヨーロッパ企画だった2014年「ビルのゲーツ」(秀逸)ですでに客演していた金丸慎太郎が、のっけから長大な独白などをこなして余裕の座頭だ。島で出会う宝探しのヒラタケ・石田剛太、ラウ・土佐和成、教授・永野宗典らは安定感たっぷり。客演のふたり、冒険エリートでゴープロ命のキクチ・金子大地、元妻で考古学者になったエマ・呉城久美も生き生きしている。原住民に溶け込んで暮らすナオミ・藤谷理子、海賊の諏訪雅、角田貴志、中川晴樹が、まさかまさかの飛び道具ぶりを存分に発揮してました~

最後にやっぱり、出演陣一同が横一列で挨拶し、グッズを売り込みむ。この小劇団感もたまりません。

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歌舞伎「女暫」「鬼次拍子舞」「女殺油地獄」

寿新春大歌舞伎  2026年1月

2026年芝居始めは歌舞伎座、夜の部へ。浮き立つお正月気分はやっぱり歌舞伎座ならでは。中村七之助、松本幸四郎が健闘して嬉しい。ロビーで浄瑠璃の師匠にばったり、新年のご挨拶をしたり。前のほう中央のいい席で2万円。休憩2回で4時間強。

祝祭感あふれる北野天満宮社頭の「女暫」から。2015年に坂東玉三郎で観て以来だ。義仲愛妾の巴御前は颯爽と七之助。特徴ある声がよく目立って、役に合っている。ド派手な扮装、素の役者になっちゃう女鯰(坂東新悟)や、ラスト幕外で六方を教える舞台番(ご馳走で幸四郎)とのコミカルなやりとりが大らかで、文句なく痛快だ。15年ではそれぞれ七之助、中村吉右衛門だったんだなあ。
敵方は国崩し・頼朝弟の範頼にどっしり中村芝翫、雲斎に坂東巳之助、赤っ面腹出し成田五郎に大きく坂東亀蔵。いいもん方は義高にノーブル中村錦之助、紅梅姫に市川笑也、木曽公綱に中村松江。茶後見をなんと市川寿猿95歳!が危なげなく。大薩摩連中の三味線でまたまた鳥羽屋里松。

短い休憩の後は古風な長唄舞踊「鬼次拍子舞」。拍子舞とはリズムに合わせて、唄うように台詞をいいながら踊るものとか。尾上松緑、ベテラン中村萬壽が安定。
舞台は洛北の森で一面の紅葉が綺麗。山樵(やまがつ)に姿をやつした加茂明神帰りの平家の武将・長田太郎兼光と、敦盛遺愛の青葉の笛(須磨寺に実在!)を探る白拍子が、虫尽くしや手踊りを繰り広げ、ラストはぶっ返りで華やかでした。

休憩でお弁当をつつき、3演目目は雰囲気が一変して、近松の竹本名作「女殺油地獄」。今回は幸四郎が与兵衛のAプロで。2011年の染五郎時代に片岡仁左右衛門直伝で観て以来。2009年にシネマ歌舞伎で観た、前歌舞伎座さよなら公演の凄みある仁左衛門とはタイプが違うけれど、甘えん坊、見栄っ張りで短慮のダメぶり、怪しい目つき、かつ、いっぱいいっぱいな感じに磨きがかかった。
つくづく気の毒なお吉のAプロは、こちらも片岡孝太郎直伝の新悟。年をとるにつれ長身・細さが気にならなくなり、世話焼きの隣のおばちゃんの造形がいい。客席が慣れていないのか凄惨なシーンに息をのんでしまったけど、見せ場の海老反りでも健闘。母おさわにはベテラン中村梅花(七代目芝翫の部屋子)、妹おかちに澤村宗之助(九代目澤村宗十郎の部屋子)、実直な隣の七左衛門に錦之助。複雑な父・徳兵衛の中村歌六はもちろん巧いけど、最近ちょっと声が辛い。通りかかる小栗錦左衛門で松本白鵬(この演目は初!)がなんと駕籠のままスライド。残念ながら8日以降は休演となりました… 2011年のお吉は猿之助(当時亀治郎)だったんだなあ。
今の中核を感じる、なかなか充実の初春でした~
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