スリー・キングダムズ
スリー・キングダムズ 2025年12月
2020年「FORTUNE」、2022年「ハイゼンベルク」がよかった英サイモン・スティーブンスの2011年初演作を、2026年9月に演劇芸術監督就任を控える上村聡史のドライな演出で。難解ながらハードボイルド映画のように、貧困と薬物と暴力、不穏な空気が舞台を覆い、自己という存在の危うさが観る者に迫る。欧州が抱える東西格差の陰もさしてずっしり。翻訳はお馴染み小田島創志。推し活ぽくない観客が集まった感じの、新国立劇場中劇場の前の方いい席で7920円。休憩を挟んで3時間。
スコットランド・ヤードのストーン巡査部長(伊礼彼方)とリー警部(浅野雅博)は、ポルノ女優ヴェラの惨殺事件を捜査。人身売買組織の元締レバン(佐藤祐基)を密告したせいで見せしめにされたと読み、実行犯クラウス(坂本慶介)を追ってドイツの港町ハンブルクへ。さらに怪しい現地の刑事ドレスナー(伊達暁)に引きずられるように、ヴェラの出身地でレバンの根城だというエストニアの首都タリンへ。果たしてストーンは黒幕「ホワイト・バード」にたどり着くのか…
ミステリーなんだけど、何がわかって誰を追うのか、ずっと謎めいたまま。2月にダブルビルで観た「ポルノグラフィ」ほどではないものの、いつもながら説明が少ない戯曲で混乱する。とはいえ東に移動していくたび、社会の屈折と英語が通じないイライラはくっきり。移民女性の辛酸、外国刑事の野卑な振る舞いに対する豊かな側の差別意識と、そこに無自覚でいる者の罪深さ。初演は英語、ドイツ語、エストニア語、ロシア語が飛び交う舞台だったとか。なんてチャレンジング。
そして殺害動画に見入っちゃってから、ストーンは悪夢と現実の境が溶け、内面が崩壊していく。これが犯罪組織のむきだしの暴力よりも、じわじわと怖い。パートナーのキャロライン(夏子)、ハンブルクのホテルで部屋を訪ねてくる謎の女性シュテファニー(元宝塚の音月桂)とやりとりするうち、封印した罪の記憶に蝕まれていく。割り切れない後味で、全く違う話だけど、ちょっと映画「エンゼル・ハート」を思い出す虚しさ。
重苦しいなか、通訳シーンなどおちゃらけた浅野が達者な存在感を示し、対照的に伊達は不気味さが際立つ。伊礼は健闘だけど、この作品ではちょっと格好良すぎるかも。冒頭からタリンのトリックスター役まで歌を披露する音月が、透明感があってさすがだ。
無機質で傾いた壁が不安定な美術は杉浦充、人物のシルエットなどの鮮やかな照明は佐藤啓、印象的な音楽は「みんな鳥になって」「おどる夫婦」などの国広和毅。たまたま上演中に震度3の揺れ。
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