歌舞伎「當年祝春駒」「歌舞伎絶対続魂」
吉例顔見世大歌舞伎 夜の部 2025年11月
顔見世で、三谷幸喜作・演出の三谷かぶき三作目の初日に。ノンストップの笑いで歌舞伎俳優のコメディセンスを存分に引き出し、舞台人のほろ苦さ、心意気をみせる手腕はさすが。松本幸四郎、片岡愛之助、中村獅童という鉄板トリオはもちろん、次世代の中村莟玉、市川染五郎、中村鶴松、急きょ代役の橋之助らが生き生きして頼もしい。知人のおかげで10列中央の特等席で2万円、35分の幕間を挟んで3時間。
幕開けは長唄舞踊「当年祝春駒(あたるとしいわうはるこま)」を短く。正月興行大詰「対面」の前に付けた曲がベースだ。門付け芸人・春駒に身をやつした曽我十郎(中村橋之助)、五郎兄弟(元気に中村萬太郎)が、小林朝比奈(扇雀の息子の中村虎之介)の手引きで工藤館を訪れ、「めでたやめでたや 春の始の春駒なんぞは」と祐経(中村歌六)に踊りを披露。「女のよれる黒髪に」と大磯の虎(下げ髪の中村米吉が華やか)らのクドキに続き、「淡竹(はちく)の竹馬 先のけ先のけ」と賑やかに。
休憩後は「歌舞伎絶対続魂(ショウ・マスト・ゴー・オン)幕を閉めるな」。ベースは東京サンシャインボーイズが1991年に初演、数々のトラブルに見舞われながら「マクベス」をやり抜くバックステージ群像劇の傑作だ。ドラマ化、再演をへてコロナ禍の2022年には戯曲さながら、三谷が代演に次ぐ代演で乗り切り、テレビ中継での観劇でさえハラハラした。
歌舞伎版の設定は延享年間、伊勢の芝居小屋。座付作者・冬五郎(幸四郎)、頭取・三保右衛門(中村鴈治郎)、座元・半蔵(愛之助)らが忙しく準備する。演目は前年に大阪の人形浄瑠璃で大当たりをとった傑作「義経千本桜」の「四の切」。無断で歌舞伎化したら、よりによって原作者の竹田出雲(市川男女蔵)と弟子の半二(鶴松)が観に来ることに。しかも看板役者で忠信役・小平次(獅童)は泥酔、静御前のいせ菊(ごつ過ぎる坂東彌十郎が伸び伸びと)はアゴが外れていて、若手の赤福(中村歌之助)は自信喪失。そのうえ義経役のスター虎尾(染五郎)は馴染みの遊女(なかなか粋な坂東新悟)を出せとごり押し、いせ菊はキーとなる小道具の鼓を取り違え…
幸四郎の必死さ、愛之助のちゃらんぽらん、獅童の飛び道具ぶりが見事な当て書きだ。危機を救う五十鈴の苔玉に華があって素晴らしく、今回は意地悪な鶴松にも存在感。染五郎が見習い番吉との2役で大活躍だ。早替りで拍手を待つケレンがあればもっといいかも。
現代劇から骨つぎ玄福の浅野和之が期待通りの怪演で、真面目な大道具方の阿南健治とともに爆笑を誘う。飄々とした鴈治郎が歌舞伎らしい重しとなり、出番を削られたあやめの市川高麗蔵、そもそもお呼びでないベテラン琴左衛門の松本白鸚(座ったまま)が大物ながら役者の業を醸し出す。
バックステージものだけど、大詰めは回り舞台で表の劇中劇になだれ込み、さすがの爆発力。2025年のエンタメを代表する映画「国宝」の小ネタも散りばめ、大拍手でした~
開幕前にはホワイエを歩く三谷さんが観客から声をかけられ、客席にはサッカー日本代表監督の森保一さんの姿も。




