ここが海
ここが海 2025年10月
楽しみにしている加藤拓也作・演出。いつもながら繊細に、人が人をわかりたい、受け入れたいとするのに、思うに任せない焦燥を描く佳作だ。難しい芝居だと思うけれど、橋本淳、黒木華がとんでもなく高水準にナチュラルで、じんわり涙する。アミューズクリエイティブスタジオ企画・製作。秋祭りで賑わう三茶、シアタートラムの前のほう下手寄りで1万1500円。休憩無しの1時間40分。
ライターの岳人(橋本)、友理(黒木)夫妻は、ノマドスタイルで日本各地のホテルを転々としながら、取材・執筆している。ネット高校で学ぶ娘・真琴(中田青渚、せいな)をまじえ、友理の誕生日祝いに出かけようとしたある日、岳人は友理から「性別を変更する」と告白される…
夫婦は同業で社会意識が高く、会話の密度も濃い。繰り返し「え、なんでそうなるの」と指摘し合いながら、なんとか互いを尊重し、つながりを維持しようともがく。トランスジェンダーを中心にすえつつ、表現される感情はそれだけではない。1人ひとり、そして夫婦、父娘、母娘それぞれの関係も変化して多面的だ。
橋本、黒木の巧さはもちろん、中田がはつらつとしていい。海辺のリゾート、雪振りしきるロッジという設定のお洒落さや、中田が菓子の包みをソファの隙間に押し込んじゃったりするギャグで、ひりつくテーマが重くなり過ぎない。
それにしても2023年「いつぞやは」でも観た加藤・橋本コンビは盤石だなあ。タイトルは序盤で橋本が、水槽の魚に囲まれるからアクアショップは苦手、と言ったことに通じるのか。想定外の「海」に放り込まれてからも、人生は続いていくのだ。
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