« 2025年9月 | トップページ | 2025年11月 »
Bunkamura Production 2025 DISCOVER WORLD THEATRE vol.15 『リア王』 NINAGAWA MEMORIAL
知人夫妻をお誘いして、なんと大竹しのぶがシェイクスピア4大悲劇でタイトロールの老王!を演じる意欲的な舞台へ。2019年「罪と罰」、2021年「夜への長い旅路」、23年「アンナ・カレーニナ」と観てきたフィリップ・ブリーンが上演台本・演出で、シンプルかつダイナミック。大竹はじめ俳優陣も明晰で、人を知ること、愛を理解することの困難が胸に迫る。翻訳は木内宏昌。3階席だったけれど、休憩を挟んで3時間半が決して長くないのは驚き。Theater MILANO-Za。3階B列中央で1万3000円。
大竹はわざとらしくなく、権力者の横暴と老醜を見せつけ、とても小柄なおばさんにはみえません。中盤の嵐の放浪シーンで舞台いっぱい、大量の本水が降り、ちょっと久々に度肝を抜かれる。この荒技が、ずぶ濡れとなるリア、そしてその後のグロスター伯爵(気の毒すぎる山崎一)が噛みしめる苦い後悔を印象づけて鮮烈だ。
ふたりの老人を痛めつける悪役ふたりがまたよくて、悲劇を深める。姉ゴネリルの宮沢りえは、すらりとした立ち姿、持ち前の気品が際立ち、またグロスターの庶子エドマンドの成田凌は、膨大な台詞で色気を発散して大健闘。そして道化の勝村政信がニナガワ精神を発揮、ラップやダンスを繰り出して下世話にチャーミングに、人の愚かさを暴く。戯曲ではいつの間にかいなくなっちゃう役だけど、ラストでも印象的に登場してました。
ほかにコーディリアの生田絵梨花、嫡子エドガーで初舞台の鈴鹿央士が若々しく、ケントの横田栄司が安定。
登場人物はみな現代衣装で、なかでも軍人たちの迷彩服が、時代を映すメッセージを放つ。特にゴネリルの屋敷では、外人部隊風の粗暴な王の従者たちが、巨大な進軍する騎馬隊の絵画にスプレーで落書きし、大量の豪華な晩餐を食べ散らかして大混乱。ずっと舞台上にミュージシャン(ヴァイオリンの会田桃子、チェロの平井麻奈美、パーカッションの熊谷太輔)がいて、無調のような演奏と演技で不穏を醸し出すのも効果的だ。美術はマックス・ジョーンズ、音楽はパディ・カニーン。
シアターコクーン芸術監督だった蜷川幸雄、生誕90年を記念した上演。WOWOWの有料配信で復習しました~

Gen Hoshino presents MAD HOPE 2025年10月
星野源の6年ぶり、半年にわたるツアー。抽選に外れたり、当選したのに日程が合わなかったり、いろいろあった末、アジアツアーをへた追加公演最終日のKアリーナ横浜を、奇跡的にゲット。崖のような上層階を覚悟して入場してみたら、なんとアリーナ前のほう上手寄り、A3ブロック7列で、星野源が目の前に… 何が起こったのか。早めに着いてTシャツを着込んで、たっぷり3時間。シンプルなセットと照明の変化で、ひたすらお洒落でビートが効いていて、完成度の高いナンバーを堪能しました。
全国47都道府県、海外15都市でのライブビューイングも実施されていて、スペシャルな日だったけれど、妙な気負いはない。冒頭、自ら脚本を書いたというボイスドラマ(サル、カッパ、ヒトの会話。声優は宮野真守、種﨑敦美、安元洋貴)で「自分が存在する意味を見つけたってそこに幸せはない。地獄に落ちることはない、今ここが地獄だから」と言い切り、中央から白基調のパーカの星野がせり上がって「地獄でなぜ悪い」。2024年紅白で歌えなかった経緯もあるし、ただ音楽を楽しむというメッセージが明快。
「朝までやるよ」とおどけながら、大好きな色気っぽい「Ain't Nobody Know」から、ご機嫌な「Pop Virus」の流れが最高。ラップのMC.Waka(オードリーの若林正恭)もビデオで書き下ろしリリックを披露。ニューアルバム「Gen」からミラーボールきらきらの「Eden」などを挟み、「人生を変えた2曲」と紹介して「恋」「SUN」を連発、ちょこっと恋ダンスのサービスも。
ビデオで赤えんぴつ(バナナマンのフォークデュオ)が「OBEN ふんばれ」トーク、おげん作で微妙に格好良い「色えんぴつ」を歌ったあと、星野は自転車でセンターステージへ。アコースティックギター弾き語りで1stフルアルバムから可愛い「子供」、ずしんと「暗闇」。細野晴臣、亡き初代ディレクター東榮一への感謝を語って「くせのうた」。「悪いことは重なるなあ」… 満員の2万人が静まりかえる美しい時間。
インターバル映像で「The Shower」インストバージョンにのせ、今までのPVを振り返る。いやーホント、いてくれてよかったよ。舞台に戻って赤い照明、重量級の「Sayonara」、スモークのなかギターバトルの「Mad Hope」、「Star」、ドラムソロから「2」でYounjiのビデオをまじえつつ、聴衆を巻き込んでがんがん盛り上がる。ボイスドラマと「助けてー!ドラえも~んー!!」のコールも楽しく、「喉がほこりっぽい」と言いながらも難曲「創造」で存分に疾走し、「星野源のライブにはアンコールがあります」と笑わせてから、思い切り「HalloSong」で本編終了。
再びボイスドラマでサルたちが「すべては消える。だから今このどうでもいい一瞬を楽しむんだ」と語り、アンコールはお約束、盟友ニセ明が黒ジャージで。今年リリースした、まさかのメジャーデビュー曲「Fake」はビデオでハマ・オカモト(ウソノ晴臣)、宮野真守(アイドル雅マモル)、上白石萌音(マネ)が登場。アジアツアーの面白エピソードをしゃべり、爽快に「WeekEnd」をカバー。ニセさんがこんなに面白いと思わなかったな!
そして「構成・星野源」に至る長いエンドロール後、着替えていよいよ〆のMC。「この6年、本当にいろんなことがあって心からうんざりして。音楽を作っているときだけは楽しかった」の吐露は、コロナのことか社会状況かプライベートなのか、痛々しいほど。こんなに才能があるってどんな人生なのか。「これからもたくさん音楽を聴いてください。あなたがどん底にいるとき、僕はそこにいるから」と語って、名曲「Eureka」でしみじみエンディング。「ラララ」のシンガロングが染みた~
バンドは長岡亮介(ギター)をバンマスに、三浦淳悟(ベース)、伊吹文裕(ドラム)、櫻田泰啓(キーボード)とストリングス(美央、伊能修、二木美里、村中俊之)、ホーン(武嶋聡、佐瀬悠輔、池本茂貴)。特効テープを2回ともゲットしちゃったりして大満足。でも最後の深ーいお辞儀と「さようなら」に、しばらく音楽はお休みということかなー、星野ファンというより音楽ファンというこの空気は貴重なのになー、と妙に感慨に浸りました。
以下セットリストです。
1,地獄でなぜ悪い
2,化物
3,喜劇
4,Ain't Nobody Know
5,Pop Virus feat. MC.waka
6,Eden
7,不思議
8,恋
9,SUN
赤えんぴつからのビデオメッセージ
10,子供
11,暗闇
12,くせのうた
When did you get into Gen Hoshino?
13,Sayonara
14,Mad Hope feat. Louis Cole, Sam Gendel,Sam Wilkes
15,Star
16,2 feat. Lee Youngji
17,ドラえもん
18,Melody
19,創造
20,異世界混合大舞踏会
21,Hello Song
アンコール #1:
22,Fake by ニセ明
23,Week End by ニセ明
アンコール #2:
24,Eureka

M&Oplaysプロデュース 私を探さないで 2025年10月
大好きな岩松了作・演出の新作はぐっとスタイリッシュ。幻想的なセットに、いつまでも忘れられない記憶の断片が息づく。あの言葉は果たしてどんな意味だったのか、自分は何を言えばよかったのか、少女を見つけることができるのか… 失踪した少女を演じる河合優実が、すらっとした立ち姿、つかみ所のない軽やかさで魅力的だ。いっぱいの本多劇場、中央のいい席で8500円。休憩無しの2時間。
婚約を機に海辺の町に帰ってきたアキオ(活地了)が、高校時代の教師で今は作家となった大城(小泉今日子)と十年ぶりに再会。大城の朗読会の準備が進むなか、彼らの前にずっと行方不明のままの三沢晶(河合)が姿を現わして、互いに言わずにきた言葉があふれ出す…
町から船でほど近いところに無人島があって、町そっくりのもう一つの町が、廃墟となって取り残されている。そんなパラレルワールドめいた設定が想像をかきたてる。時空がゆがみ、10年前のワンシーンが今そこで再現されても不思議はない。抽象的な壁やカーテンを動かして、本土の町と島、現在と過去とをシームレスにつなげていく。意味深な二つのグラスや、ラストの堤防でぱあっと視界が開けるのもお洒落。美術は愛甲悦子。
近くにいる人より離れている人の方が「存在」している、出会いできちんと名乗ってくれたから特別な人になった… いつもながら独特のセリフのそこここに引き込まれる。スマホのアラームや呼び出し音が、言いかけた言葉をたびたび遮るじれったさも効果的。こんな緻密な戯曲を2カ月で書いちゃうなんて。
岩松作品ではお馴染み、勝地が堂々の主演ぶり。17歳の時から大人びていた一方で、それゆえ大城と晶に翻弄される戸惑い、繊細さがいい。お馴染み小泉は、とても教師にはおさまらないだろう個性、そんな自分を持て余して後悔だらけ、という切なさが盤石。2024年「メディスン」などの達者な富山えり子が、大城の助手役で関係をかき回し、狂言回しの岩松さんは、まさかのそっくり兄弟2役で笑いをとる。アキオのクラスメートに篠原悠伸と、24年「峠の我が家」などの新名基浩。
客席には宮沢氷魚さん、23年「カモメよ、そこから銀座は見えるか?」の黒島結菜さんの姿も。
ここが海 2025年10月
楽しみにしている加藤拓也作・演出。いつもながら繊細に、人が人をわかりたい、受け入れたいとするのに、思うに任せない焦燥を描く佳作だ。難しい芝居だと思うけれど、橋本淳、黒木華がとんでもなく高水準にナチュラルで、じんわり涙する。アミューズクリエイティブスタジオ企画・製作。秋祭りで賑わう三茶、シアタートラムの前のほう下手寄りで1万1500円。休憩無しの1時間40分。
ライターの岳人(橋本)、友理(黒木)夫妻は、ノマドスタイルで日本各地のホテルを転々としながら、取材・執筆している。ネット高校で学ぶ娘・真琴(中田青渚、せいな)をまじえ、友理の誕生日祝いに出かけようとしたある日、岳人は友理から「性別を変更する」と告白される…
夫婦は同業で社会意識が高く、会話の密度も濃い。繰り返し「え、なんでそうなるの」と指摘し合いながら、なんとか互いを尊重し、つながりを維持しようともがく。トランスジェンダーを中心にすえつつ、表現される感情はそれだけではない。1人ひとり、そして夫婦、父娘、母娘それぞれの関係も変化して多面的だ。
橋本、黒木の巧さはもちろん、中田がはつらつとしていい。海辺のリゾート、雪振りしきるロッジという設定のお洒落さや、中田が菓子の包みをソファの隙間に押し込んじゃったりするギャグで、ひりつくテーマが重くなり過ぎない。
それにしても2023年「いつぞやは」でも観た加藤・橋本コンビは盤石だなあ。タイトルは序盤で橋本が、水槽の魚に囲まれるからアクアショップは苦手、と言ったことに通じるのか。想定外の「海」に放り込まれてからも、人生は続いていくのだ。
ラ・ボエーム 2025年10月
新国立劇場2025/2026シーズンの幕開けは、鉄板プッチーニ。とろけるような美しい旋律で、気持ちよく泣く。明朗テノールのルチアーノ・ガンチ(ローマ出身)はじめ、歌手は粒ぞろいで息もピッタリ。7月にお話を聴いた粟國淳さんのプロダクションも、なんと上演8回目という大定番で、私が観るのは2020年コロナ直前以来。照明の変化などが端正で、わちゃわちゃする若者の微笑ましさと、悲恋のドラマが際立つ。
指揮はイタリアオペラを知り尽くしたと言われるパオロ・オルミがじっくりと。オケは東フィル。オペラハウスの下手中段で、解説会・プログラム込み28000円。1幕ほぼ30分とテンポよく、休憩2回で3時間。
詩人ロドルフォのガンチは期待通り、まさに今が旬。第一声からガツンとハリがあり、甘く輝かしく、コロンとした体型とあいまって、これぞテノールだ。2026年も来日予定がありそうで楽しみ。対するグリゼット(お針子)ミミのマリーナ・コスタ=ジャクソン(ラスベガス出身)はドラマティックな歌声、派手な顔だちで存在感がある。注目のソプラノで、3姉妹みなオペラ歌手とか。親友の画家マルチェッロはマッシモ・カヴァレッティ(ルッカ出身のバリトン)。大柄&髭、安定感抜群で演技もきめ細かい。2013年スカラ座引っ越し公演のファルスタッフで、フォードを演じた人なんですねえ。その恋人ムゼッタの伊藤晴(いとう・はれ、「夢遊病の女」で聴いた藤原歌劇団のソプラノ)も堂々、2幕ははすっぱに弾けて、4幕は優しくしっとり。
哲学者コッリーネは痩身アンドレア・ペレグリーニ(パルマのバス)で、「古い外套よ」が泣けた~ ほかにいずれもバリトンで、音楽家ショナールは駒田敏章、大家ベノアは志村文彦、パトロンの議員アルチンドロは晴雅彦。新国の合唱団と世田谷ジュニア合唱団が2幕に活躍し、指導は冨平恭平。
それにしても1896年初演、19世紀パリの青春物語は不朽の名作だと再確認。貧しくても夢がある若者たちの未熟さ、仲の良さと、別れの悲しみのコントラストにもっていかれる。トランペットが印象的な「カフェ・モミュス」などの動機や、名アリア「冷たい手を」「私の名はミミ」「私が街を歩くと」の旋律がそこここに。
そして演出が曲の魅力を存分に引き出す。イブのカルチェラタンの賑わいでは、粟国さんが「機械仕掛けより味わいがある」と言っていたように人力でセットを移動。アンフェール関門に降りしきる雪は、オケもしんしんと凍えそう。余談だけど後ろの席に初オペラらしい学生たちがいて、1・2幕後は「予想の3倍の長さだ」と音を上げかかっていたのが、ラストには「面白かった」と。よかったよかった。
また今回、事前にグリゼットの解説があり、勉強になった。いわく地方出身で独り暮らしする若い女性労働者全般を指し、やがてキャバレーの踊り子にもなった、1905年初演「メリー・ウィドウ」には貴族の奥方たちがキャバレー「マキシム」でグリゼットに扮して騒ぐシーンがある、その源氏名はドドとかジュジュとか同じ音を重ねる習慣があった、と。それでミミなんだ!と今更ながら納得。プッチーニとほぼ同時代のルノワールは母、妻がお針子で、よくグリゼットを描き、プルーストが「ルノワールの女性たち」と呼んだ、代表作「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」は当時の風俗を描いていて、ボヘミアンやグリゼットが集まる2幕に通じる、とも。なるほどー
カーテンコールではガンチがまさかの動画自撮り! お楽しみ終演後の懇親会は、なんとマエストロと主要キャストが勢揃いで、びっくり。皆さん仲がよさそうで、しゃべって呑んで食べて、めちゃくちゃ楽しかったです~