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人形ぎらい

PARCO PURODUCE 2025 三谷文楽「人形ぎらい」 2025年8月

2012年「其礼成心中」以来、13年ぶりの三谷幸喜作・演出の文楽新作に足を運んだ。吉田一輔が監修を、鶴澤清介が作曲を担いつつ出演。舞台が終わり、楽屋の廊下に力なく並ぶあの人形たちが、夜になると喋りだし、悩み、嫉妬し、あろうことか逃走までしちゃうドタバタファンタジーだ。そうそう、生きているとしか思えないものね。そんな人形と、黒衣に徹した人形遣いの「共犯」ぶりが楽しい。
よく入ったPARCO劇場の、なんと最前列中央あたりで1万1000円。休憩無しの1時間40分。

冒頭は「鑓の権左重帷子(やりのごんざかさねのかたびら)」の数寄屋の段。仇役を演じる人形の陀羅助(一輔)は、艶っぽい人妻・老女形(玉翔)を慕い、相手役の鑓の名手・美貌の源太(玉佳)に嫉妬している。ところが大事な顔を鼠にかじられ、絶望した源太が舞台を放り出して出奔。陀羅助は連れ戻そうと下女・お福(桐竹紋秀)と劇場を飛び出して、大阪の街へ…

文楽人形には80種類ほどの首(かしら)があり、年齢や役柄で固定している。だから陀羅助は演目が違ってもずっと仇役、主役はない。そんなの損だ、「ルッキズムやないか!」と作者・近松門左衛門(吉田玉勢)に食ってかかっちゃて爆笑。俳優のニンというものの残酷さ。当て書きを得意とする三谷さんならではの発想かも。ちなみにタイトルはピュアな主人公が俗世間に背を向けるモリエール「人間ぎらい」にちなんでいるとか。

終盤の暴走シーンでは無茶なアクションも自由自在、人形ならではの大スペクタクルに。人形が左遣いに耳打ちしたり、舞台上に人形を置き去りにしたり、ありえない演出も満載でニマニマしちゃう。
床は上手、下手の上方をスライドするかたちで、竹本千歳太夫、豊竹呂勢太夫ら、鶴澤清介、清志郎、清丈らが、慣れないカタカナなどと格闘する。美術は堀尾幸男、首が引き立つ暗めの照明は服部基と盤石。

プログラムには、普段明らかにされない左遣い、足遣いの配役も掲載。そんなこんなで、舞台上のすべてに寄せる作者の愛情がにじむ本作。三谷さん、今年も大活躍です。「国宝」効果の歌舞伎ほどじゃないけれど、文楽への関心がひろがるといいな。

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落語「牛ほめ」「ちりとてちん」「大工調べ」「法事の茶」「お若伊之助」

特撰落語会 柳家喬太郎・柳家三三 二人会  2025年8月

熱心なファンでいっぱいの杉並公会堂で、恒例の日に3回の豪華二人会、その3回目に足を運んだ。前半は定番、後半はちょっと珍しい演目を2席ずつ。いつも安心して聴けるお二人です。中ほどの席で3900円。仲入を挟んで約2時間。

前座は小さんの孫弟子となる桂枝平が、メガネを外して「牛ほめ」を手堅く。
喬太郎の1席目は、師匠のさん喬などで何回か聴いている「ちりとてちん」。いつも聴いていて、笑いながらもウッてなる。続いて三三が「大工調べ」。お馴染み、棟梁のすかっとする啖呵に、「牛ほめ」をちらっと織り交ぜて巧い。

仲入後は三三から2席目は、初めて聴く「法事の茶」。男が隠居を訪ねると、インド土産の珍しい茶を出してくれる。焙じて湯を注ぐとあら不思議、茶碗の中に小さな梅の木がはえ、花が咲いて鶯が鳴く。感心して真似たら梅ではなく柳、その下に幽霊が現われちゃう。この幽霊が亡父に似ていて、ご隠居いわく「焙じ=法事が足りなかった」。お盆シーズンにぴったり。頭山みたいなファンタジーが目に浮かんで、ニコニコしちゃった。
トリは喬太郎で、圓朝の長編「お若伊之助(離魂病)」から第二話にあたる「一中節門付け」、第三話「品川発廿三時廿七分」。松本清張みたいなタイトルだけど、2023年に談春で聴いた、びっくりの異類婚姻譚が長編の第一話にあたり、今回はその続きだ。お若は双子を里子に出して出家していたが、一中節で門付けしていた伊之助と再会して焼けぼっくいに火が付き、駆け落ちを企てる。
伊之助の育ての親が住む神奈川宿まで、追っ手を恐れながらの逃避行。がぜんサスペンスになり、20時10分発の横浜方面行きに乗り遅れて、品川駅で火事に遭ってはぐれ、お若はごろつきの勘太につけ狙われるハメに。懸命に逃げたところで手を差し伸べた勘兵衛が、偶然にも勘太の親で… 道行でハラハラさせつつ、「ご都合主義でしょ、しょうがない、圓朝がつくったんだから」と笑いも。
さらに噺は続くんですねえ。いつもながら奇っ怪で因果な人の世。9月に全編ネタおろしの予定とか。喬太郎さん、古典発掘の力技でした~

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