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歌舞伎「大森彦七」「船弁慶」「高時」「紅葉狩」

七月大歌舞伎 昼の部 2025年7月

團十郎を座頭に、新歌舞伎十八番の四演目を一挙上演する意欲的な企画に足を運んだ。七世團十郎が構想、「劇聖」九世が完成させたという新十八番は、写実的な「活歴」とか能由来の舞踊とか、成田屋得意の荒唐無稽な荒事などとはまた違う。明治期に、時代の変化で消えかねなかった歌舞伎というエンタメを、生きながらえさせた工夫だったのかな。團十郎の鮮やかな変化2題と、シュールな「高時」が印象的だった。なかなかよく入った歌舞伎座、前のほう中央の良い席で2万円。休憩3回でたっぷり4時間。

 「大森彦七」はあの福地桜痴作、明治30(1897)年初演の活歴物だ。常磐津と竹本による舞踊劇でもあり、石川耕士補綴版で26年ぶりの上演とか。舞台は南北朝時代の松山街道。楠木正成の息女・千早姫(友右衛門の次男・大谷廣松が児太郞代役でひたむきに)が鬼の面をつけ、父を自害の追い込んだ大森彦七(市川右團次)を狙う。度量が大きい彦七は姫に正成の菊水の宝剣を返して逃がし、狂乱を装って追手を誤魔化す。
狂乱の体の舞踊、特にラストは馬も踊り、彦七が馬にまたがったまま花道を引っ込むのが爽快。右團次さんは武士らしいけど、ちょっとセリフが聞き取りづらいかな。

ランチ休憩のあとから三作は河竹黙阿弥作で、まず「船弁慶」。後方に長唄連中がずらりと並ぶ松羽目物で、能では2008年に観たもの。緩急のある構成に引き込まれる。團十郎が前シテ・静御前と後シテ・平知盛で存在感を発揮、特に静御前の能面風という白い化粧と金の烏帽子、色鮮やかな唐織の壺折が華やかで、客席からふうっと溜息が漏れる。
お馴染み大物浦。義経(りりしく中村虎之介、扇雀の息子で27歳)、弁慶(大活躍の右團次)と家臣(市川九團次、廣松、中村歌之助、研修出身の市川新十郎)が船出を待っており、都へ返される静が辛さを堪えて静かに「都名所」を舞い、烏帽子がことっと落ちる演出。続いて舟長(中村梅玉)と舟人(坂東巳之助、次男の中村福之助)が登場、間狂言風に船出を祝う「住吉踊り」をきびきびと。達者な動きに気分が変わって、いい。
武庫山からの風が吹き付けると演奏が激しくなり、いよいよ白い波模様の衣装、青い隈取りが恐ろしい知盛の霊が現われ、一行に襲いかかる。「其時義経少しも騒がず」、弁慶が数珠を摺って撃退。ラストは「幕外」となり、知盛が渦潮にのまれて廻りながら花道を引っ込む。切なくもダイナミック。九世の薫陶をうけ、六代目尾上菊五郎が磨き上げた演出なんですねえ。

休憩を挟んで「高時」。鎌倉14代、最後の執権・北条高時(巳之助)の横暴さ、愚かさを、竹本にのせて描くダークファンタジーだ。滅びゆく権力の虚しさ。
まず北条家門前で浪人・安達三郎(福之助)が高時の愛犬(名演)を打ちすえて縄にかかる導入があり、奥殿内へ。幕開け、出家姿の高時が横向きで、どんより柱に寄りかかっている珍しい演出だ。民を顧みず遊興に耽り、それでも楽しめない厭世感。愛妾(代役で市川笑三郎)相手に飲んだくれていて、三郎は死罪だとあっさり。家臣に「御当家二代の御命日」なのにと諭されて扇子を取り落とし、なんとか思いとどまる。
大薩摩が入って後半、がらりと雰囲気が変わって明かりが消え、不穏な雷鳴と稲妻。綱につかまって天狗8人が乱入し、ぴょんぴょんジャンプしちゃってアクロバティックだ。高時はすっかり誑かされ、田楽法師が来たと喜んで必死に舞い、宙づりにされたり逆立ちで持ち上げられたり、ヘロヘロ。舞の名手がぎこちなく踊るのも難しいだろうなあ。ラストは我に返り、長刀を抱えて悔しげに虚空を睨む。いやはや。

仕上げは一転、舞台いっぱいの紅葉が華やかな「紅葉狩」で理屈抜きに楽しむ。2008年に初めての南座で、玉三郎の前年初演作「信濃路紅葉鬼揃」(毛振り付!)に圧倒されたのが懐かしい。能を下敷きにした明治の作品のバリエーションだったんですね。團十郎が更科姫、実は戸隠山の鬼女。上手下手にシンプルな見台の常磐津と長唄、上方の御簾に房付見台の竹本と、三方掛け合いで贅沢だ。
前半は平維茂(貫禄の松本幸四郎)と家臣(廣松、愛嬌のある虎之介)が散策の途中、幔幕を張り巡らせた更科姫の一行に誘われる。團十郎の赤姫、やっぱり大柄で目立つなあ。呑気な家臣たちが明るく踊り、勧められるまま呑んだくれちゃう。姫は局(豪華代役の中村雀右衛門が重厚)との連舞や、曲芸的な二枚扇(頑張りました!)を披露。維茂も寝入ったのを見届け、恐ろしい本性を垣間見せるのがホラー的だ。
山神(市川新之助12歳が達者)が足拍子も軽やかに姫の正体を警告し、維茂が目覚めたところへ、鬼女が襲いかかる。鬼の逆立った茶髪、隈取り、キンキラのぶっ返りと、激しい立ち回りが派手。名刀・小烏丸に押され、巨大な松の枝に乗って、きまりました~

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