陽気な幽霊
陽気な幽霊 2025年5月
英国の才人ノエル・カワードが戦時下の1941年に初演してヒット、1945年に「アラビアのロレンス」のデヴィッド・リーンが映画化し、2020年にも再映画化された大人のコメディを、寡作の熊林弘高がお洒落に演出。しょうもない作家チャールズ(田中圭)が若い妻ルース(門脇麦)と、病死した前妻エルヴィラの幽霊(若村麻由美)に挟まれて、散々に翻弄される。早船歌江子訳、ドラマターグは田丸一宏。
どうしても実生活の不倫騒動が重なっちゃうけど、田中はじめ俳優陣がみなチャーミングで、セリフの応酬も確か。笑いたっぷり、ドタバタのなかに、二度と会えない切なさ、それでも消えることのない大切な人への思いというものが、ジンと心に残る秀作だ。田中ファンが目立つシアタークリエの通路前、中央のいい席で1万2000円。休憩を挟んで3時間。
2階建てチャールズ邸のワンセットは、田舎の上流階級風(美術は二村周作)。ホームパーティーでもぴしっと盛装してます。紗幕の多用が非常に効果的で、特に滑り出し、エルヴィラの「気配」を顔写真の大写しで示していて意表をつかれる。思い出のレコードなど、小道具も切ない。
俳優陣はなんといっても、霊媒師マダム・アーカティの高畑淳子が脇ながら大暴れ。インチキ感満載だけどマイペースで妙に含蓄があって、大詰め、送っていくというチャールズを断って、いつも通り自転車で帰る、自分の道はわかっている、というセリフが格好良い。映画版では「恋におちたシェイクスピア」などの名優ジュディ・デンチが演じたんですねえ。
我が儘で浮気っぽい若村が、ひらひら衣装と七色の髪で色気を振りまき、対する生真面目な門脇は、ちょっと声が通りにくかったけど、ブロンドのボブと背伸びした感じ、拗ねモードが可愛い。2人を受け止めざるをえない田中は、シリアスだった「メディスン」とはうってかわって、すらっと細身、持ち前の愛嬌全開ではまり役。スキャンダルがもったいないなあ。ほかに友人の常識的な医師夫妻に、実生活でも夫婦の佐藤B作、あめくみちこ、ラストでキーパースンとなるドジなメイドに天野はな。
東宝のプロデューサー仁平知世が、10年ごしのラブコールで熊林演出を実現したとか。あえて喜劇にチャレンジしたというのも興味深かった。
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