ずれる
イキウメ「ずれる」 2025年5月
年2回ペースの本公演に区切りをつけると公表したイキウメ。作・演出の前川知大は、今回も目に見えない不思議を現出させつつ、現代人の病に迫り、この先の進化を予感させる。客演無しで、看板劇団員5人の個性とクオリティが際立ち、この座組がしばらくみられないとすると、とても残念だ。シアタートラムの前の方で7500円。休憩無しの2時間強。
多聞市にある豪邸リビングのワンセット。小山田輝(安井順平)は地元企業の2代目で、何不自由ない暮らしだが、精神が不安定で社会性に乏しい15才下の弟・春(大窪人衛)が心配の種。春は過激な環境活動家、佐久間(盛隆二)を家に引き入れて、何を企んでいるのやら。てきぱきした秘書兼家政夫の山鳥(浜田信也)、気で治すという伝説の整体師・時枝(森下創)もなにやら不審。隣接する金輪町の豪雨以来、熊や猪が出没するとか、近所のシベリアンハスキーが凶暴化するとかの状況があいまって、不穏が高まっていく…
特殊能力の幽体離脱を使って、動物を操るテロリズム。ペットを愛玩するとか真面目に働くとか、疑問の余地無いことに思えるけれど、少し考えれば何が正解なのか、わからなくなる。テーマは深刻。ただ、イヤな感じはしない。脱力する笑いも多く、信じることに一抹の希望が宿る。
相変わらず怪しさ色っぽさが突出する浜田、年齢不詳で底知れない大窪、仙人みたいな森下を、どんどん追い詰められちゃう安井が束ねる。実は盛が一番振り幅が大きくて、今回は暴走と知性が表裏一体でした。
天井に水紋が揺らめく土岐研一の美術、美しい佐藤啓の照明、遠吠えなどが不気味な青木タクヘイの音響も見事。旗揚げから22年、前川は読売演劇大賞の最優秀演出家にもなった。また観たいなあ。
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