歌舞伎「彦山権現誓助剣」「春興鏡獅子」「無筆の出世」
四月大歌舞伎 夜の部 2025年4月
講談師の登場が話題の夜の部に足を運んだところ、それも面白かったけど、なんといても尾上右近の舞踊に引き込まれた。歌舞伎の継承に期待が持てる気分。変化に富んだ演目の並びもよかった。歌舞伎座、前のほう中央のいい席で1万8千円。休憩2回で3時間半。
まずは定番の「彦山権現誓助剣」から杉坂墓所と毛谷村。2009年の吉右衛門、2020年の仁左衛門ときて、今年お正月には菊五郎襲名を控えた菊之助で観たヒーロー六助だが、今回は幸四郎の偶数日(奇数日は仁左衛門)をチョイス。初役の際、吉右衛門さんに教わったとかで、剛直さがなかなか。得な女武道のお園で片岡孝太郎がはまっていた。敵役の微塵弾正に中村歌六、母お幸は人間国宝・中村東蔵、孫の弥三松は可愛い中村秀之介(歌昇の息子、7才)。
お弁当休憩の後、「春興鏡獅子」を意外に初めて拝見。こちらも人気の石橋物の長唄所作事だ。9世市川團十郎が依頼して、福地桜痴作、三世杵屋正治郎作曲で明治26(1893)年に初演、後に新歌舞伎十八番に加わった。小姓弥生と獅子の精は6代目尾上菊五郎の当たり役。ひ孫にあたる今年32才の尾上右近は幼いときから映像を見て憧れ、自主公演で研鑽を重ねて本興行初役を射止めたという。
舞台は江戸城の大奥。新年の「お鏡曳き」の余興で弥生が踊る。「牡丹の花びらのように」だそうで、川崎音頭の手踊りから茶袱紗や塗扇、二枚扇を使って、また時鳥を目で追う振りなどが可憐。獅子頭を手にすると魂が宿って蝶と戯れはじめ、いったん花道を引っ込む。
胡蝶の精でともに12才の坂東亀三郎(彦三郎の息子、市村羽左衛門のひ孫)と尾上眞秀が登場。杵屋勝四郎(唄)・巳太郎(三味線)以下の長唄にのり、バチを使う鞨鼓や鈴太鼓で可愛く花に戯れる。迫力ある大薩摩で雰囲気が一転、お能同様に囃子方の激しい乱序となり、花道から獅子の精が登場して勇壮な狂いをみせる。深山ではなく、将軍家の眼前に現われた千代田城の獅子だ。毛振りをただ振り回すのではなく、勢いのなかで表情をかえてみせるのが凄い。細部まで探究しているさまが伝わる。歌舞伎座上演を飛び級と受け止め、手獅子と弥生の衣装を新調したとか。その気合いやよし。
短い休憩を挟んで「無筆の出世」は、講談の人間国宝・神田松鯉(伯山の師匠)の口演を竹柴潤一が脚色した新作。名も無い庶民・治助(尾上松緑)が無筆である負い目のバネに、努力と「仇を恩で返す」生き方で幕府の要職にまで出世するサクセスストーリー。松緑が取り組む講談シリーズ第三弾だ。実直さが松緑にぴったりだし、場面ごとに紗幕前で松鯉本人が導入していく新しい演出が面白い。
幕開けは夏の隅田川。治助が主人の手紙を川に落とし、紺屋職人の久蔵(坂東亀蔵がきっぷよく)が乾かしてくれる。その折、内容を目にした大徳寺の住職・日栄(播磨屋の中村吉之丞が安定)が「手紙を届けたら試し切りにされる」とんでもない内容だと教えて、治助を寺男にする。時は移り紅葉の季節。日栄の碁仲間、祐筆の夏目左内(市川中車)が気の利く治助を気に入って中間に雇いいれる。そして冬。夜な夜な砂箱で必死に字を学ぶ治助の努力に感じいって、左内自ら字や学問を教えるようになる感動のシーン。妻の藤(市川笑三郎)もこれを励ます。
それから30年。四書五経を習得した治助は侍になり、左内の跡を継いで祐筆、ついには勘定方奉行にまで出世しちゃう。とある春の日、屋敷の花見にかつての主人・佐々与左衛門(中村鴈治郎)を招く。すると床の間に因縁の手紙が! 与左衛門は動揺、酔っ払っていたとはいえ酷いことをしたと詫び、切腹しかかるが…
もとは松鯉が古書店で12世田辺南鶴の速記本をみつけ、復活した演目とか。大詰め、与左衛門が生きてきた長い後悔の人生と、二人の関係性は単なる美談に終わらせず、もっと深める余地がありそう。講談師が一月通して歌舞伎座に出るのは初だそうで、講談ファンでもある私としては定番化に期待します~
« 鎌塚氏、震えあがる | トップページ | リセット・オロペサ »
「歌舞伎」カテゴリの記事
- 歌舞伎「女暫」「鬼次拍子舞」「女殺油地獄」(2026.01.04)
- 2025年喝采づくし(2025.12.31)
- 顔見世「醍醐の花見」「一條大蔵譚」「玉兎」「鷺娘」「平家女護島」(2025.12.21)
- 歌舞伎「當年祝春駒」「歌舞伎絶対続魂」(2025.11.02)
- 歌舞伎「菅原伝授手習鑑」(2025.09.15)



コメント