一中節「唐崎心中」「道成寺」
一中節演奏会 2025年3月
いつも勉強になる古曲、一中節のホール演奏会へ。落ち着いた雰囲気の紀尾井小ホール、自由席で6000円。休憩を挟んで2時間ほど。
前半は「唐崎心中」を了中さんの聴きやすい浄瑠璃、一中さんの三味線で。まず一中さんがいつものようにユーモアをまじえつつ解説。近江八景とは江戸初期に近衛家当主が中国の瀟湘八景にならって発案したそうだけど、本作は元禄年間の少し後、遊女小稲と稲野屋半兵衛が唐崎の松のほとりで心中した事件が題材で、舞台となった近江八景を織り込んだのが特徴だ。八景といえば時代はくだって文政年間、5世一中の三味線方で一中節中興の祖ともいわれる菅野序遊が「吉原八景」を作曲、これが常磐津「廓八景」に受け継がれた。庶民に浸透し、芥川龍之介が書簡に「恋路の八景」を書いていて、その詞章が見事に三味線にのるのだと。なるほど~
改めて聴いてみると、広重の浮世絵で観る当時の姿や、一昨年秋に訪れた折の雨模様の湖が目に浮かんで美しい。大詰め「たましいもぬけから崎の ひとつ松にぞ着にける」と、雨風を受けた2人の放心したさまが印象的。
続いて後半の「道成寺」に先立ち、了中さんの明朗な解説。今回はプログラムに、了中さんの現代語意訳が併記されていてわかりやすい。道成寺といえば能の大曲で、さまざまな音曲になっている。明治期の都派では冒頭の住職と能力のやりとりから、シンプルながらほぼ忠実に能の流れをたどる。白拍子の舞の「月落ち鳥啼いて霜雪天に 満ち潮程なく此の寺の 江火の漁火」は漢詩「楓橋夜泊(ふうきょうやはく)」の引用で、孤独と鐘の音を連想させ、クライマックスの僧の祈りの「恒沙(ごうしゃ)の龍王」は、ガンジスの砂から転じて無数の龍王たちへの呼びかけだと。昔の人は教養があったんだなあ。
休憩を挟んでその「道成寺」を了中さんの浄瑠璃、一中さんの三味線に、楽中さんの上調子で。中盤「花の外には松ばかり」で三味線と掛け声の乱拍子から緊張感がぐんぐん高まり、白拍子の舞の「鐘尽くし」から鐘入り、祈りとダイナミック。蛇体がついに「猛火となりて失せにけり」と、自らの炎で消えちゃう圧巻の幕切れ。鮮やかで哀しい名作に、聴衆がふうっと溜息をついて幕となりました。
客席には常連の経済人や、なんと雀右衛門さんの姿も。
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