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ドン・ジョヴァンニ

鈴木優人&バッハコレギウム・ジャパン「ドン・ジョバンニ」 2025年2月

指揮者・鈴木優人率いるバッハコレギウム・ジャパンを初めて鑑賞。ORCHARD PRODUCEのオーツアルト・オペラシリーズ第2弾で、大定番「ドン・ジョバンニ」のキャッチーな音楽を、客席1200に古楽器オケという、初演時代を思わせる環境で楽しむ。歌手陣が実力十分で華があり、贅沢な杉本博司の美術は端正で満足。めぐろパーシモンホール大ホール、2階前のほう中央で2万5000円。休憩を挟んで3時間半。

ラスト地獄落ちにつながる「18世紀にしては異様に劇的」な序曲と、衝撃的な騎士長殺しでスタート。構成は古典派らしく、主要人物それぞれにキャラクターに合った名アリアがあって盛り上がる。二幕の色っぽい晩餐シーンではお約束「フィガロ」の名曲(初演のプラハ聴衆へのサービス)が流れ、軽妙に笑いを誘う。

歌手ではタイトロールのスター、クリストフ・フィラー(オーストリアのバスバリトン)とレポレッロ平野和(2012年に新国立で同役を聴いたバスバリトン)が、声も演技も表情豊か。コメディセンスも抜群で姿もすらっとしていて、いいコンビだ。主人公を取り巻く3人の女性のひとり、騎士長の娘ドンナ・アンナは人気プリマドンナ森麻季(ソプラノ)で、特に2幕「むごい女ですって」など弱音までを繊細に。美形だし、50代とは思えません。ドン・オターヴィオの山本耕平(テノール)も、張りのある美声で格好良くて、目立っていた。
長身の騎士長ディングル・ヤンデル(英国出身のバスバリトン)はまさに地獄の底から響くようで迫力。バロックで知られるという太っちょカリーナ・ゴーヴァン(カナダ出身のソプラノ)が複雑なドンナ・エルヴィラ役で安定。小悪魔ツェルリーナにコロラトゥーラ・ソプラノ高橋維(ゆい)、その恋人マゼットにアイドルみたいな加耒(かく)徹(バリトン)。なんと平野、ゴーヴァン以外は初役だったそうで、みなさん水準が高いなあ。

2階席でオケがよく見えたのも面白かった。40数人規模で、中央にマエストロと辛川太一のチェンバロ2台。楽器はバルブ機能のピストンが無かったり、テオルポ(マンドリン)が登場したり。音量が小さめなだけでなく、音程も通常より低いそうです。
事前の解説で、ジョバンニのアリアが心情より行動だということ、悔い改めない設定なのは当時、教会の権威が落ちていたこと、またフランス革命前夜を映して、1幕の宴会シーンでは皆が「自由万歳」と叫び、舞踏会では貴族のメヌエット、市民のコントルダンス、農民のドイツ舞曲が違和感なく同時進行すること…などを聞き、ロマン派へのブリッジという作品の位置づけに納得。

そして杉本によるセットは、法隆寺風エンタシスの柱4本とテーブルぐらいでシンプル。with G.B.Piraneseと銘打ち、モーツアルトと同時代18世紀の画家・建築家ピラネージが、古代ローマの遺跡を再現した細密版画を、巨大画像で背景に使用していてお洒落だった。メインビジュアルは16世紀に天正使節団が歓待されたローマ近郊・ヴィラファルネーゼの階段室を写した杉本作品とかで、時代を超えた日本と西欧の邂逅がテーマとか。
演出は飯塚励生。照影は客電を含めて微妙に変化、ときに歌手が客席バルコニーや通路で歌い、舞踏会でオケがぞろぞろ舞台上に移動するのも面白かった。

開幕前には1954年ザルツブルク音楽祭のフルトヴェングラー指揮を観ながら解説を伺い、終演後の懇親会で歌手の皆さんと交流しました!

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