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歌舞伎「壇浦兜軍記」「江島生島」「人情噺文七元結」

猿若祭二月大歌舞伎 夜の部 2025年2月

お馴染み、かつ変化に富んだ演目が並んだ歌舞伎見物。華やぐ歌舞伎座、花道近くで1万8000円。休憩2回で、たっぷり4時間。

まず端正な京都堀川御所のセットで、「壇浦兜軍記」から極付・坂東玉三郎の阿古屋。観るのは2015年、18年に続き3回目だけれど、琴、三味線、胡弓の三曲、特に胡弓がレベルアップしている印象だ。恐るべし人間国宝。昨年末に桐竹勘十郎、鶴澤勘太郎で堪能した文楽版が、磨き抜かれたソロなのに対し、歌舞伎版は下手に竹本、さらに三味線「班女」のくだりでは上段に長唄が加わるいわば協奏曲で、スケールがある。もちろん阿古屋の衣装もド派手。花道からの出で、捕手の中村橋吾さんと並んで決まったり、岩永の脅しを高らかに笑い飛ばしたり、も格好良い。
生締めの捌き役・重忠の菊之助は、さすがノーブル。赤っ面の岩永は中村種之助で、人形振りもきびきびと、赤く飛び上がったりチャレンジしていた。

休憩は席で「ひらい」の穴子などお弁当をつつき、大正期の長谷川時雨による長唄舞踊「江島生島」をしっとりと。大奥の中﨟・江島とのスキャンダルで、三宅島に流された実在の人気役者・生島新五郎(二世團十郎を育てたことで知られる)を描く。まず照明を落として生島(菊之助)の夢のシーン。桜舞う春の夜に船を浮かべ、江島(中村七之助がたおやかに)と小鼓をうったり盃をかわしたり睦まじい。しかし物悲しい舟唄で江島は忽然と、すっぽんから姿を消す。
ぱあっと明るくなって後半は現実の岸辺。夢から覚めても心ここにあらずの生島を、海女(一転おきゃんな七之助と中村芝のぶら)がからかって少しコミカル。やがて雨が落ちてくるなか、小間物売の旅商人(きびきびと中村萬太郎)が持っていた小袖を江島に見立てたり。哀れで美しかった。

鯛焼きの休憩を挟んで、ラストは眼目の中村屋ゆかり、榎戸賢治脚色「人情噺文七元結」。2010年に亡き勘三郎で観た左官の長兵衛を、中村勘九郎が温かく。力強さと、ちょっと影のある感じが印象的だなあ。幕開き「長兵衛内」は七之助の、思い切りのいいコメディエンヌぶりが際立ち、極貧も息苦しくない。角海老手代・藤助は中村山左衛門。回り舞台で一転、豪奢な「吉原角海老内証」になると、女房お駒の中村萬壽がどっしりと、さすがの存在感を示す。小じょく・お豆の中村秀之介(歌昇の次男)が相変らず可愛く、女郎で70代の尾上梅之助も元気。お久・勘太郎の娘役は、ちと厳しいけれど。
そしていよいよ「本所大川端」で勘九郎が、行きつ戻りつ、決して格好いい善人ではない長兵衛の、心根の優しさを存分に。手代・文七の中村鶴松もリズミカルに、息の合ったところを見せる。落語にある和泉屋の面白いくだりは端折って、ラストは「元の長兵衛内」。派手な夫婦喧嘩のなか、文七を伴って礼に訪れる和泉屋清兵衛を、中村芝翫がますます貫禄で。振り袖姿のお久を連れ帰る鳶頭・伊兵衛に、ご馳走の尾上松緑。江戸っ子が似合う人です。家主は手堅く片岡市蔵。ハッピーエンドで幕となりました~

お稲荷さんの「初午」にちなんで、売店の軒先などに面白い地口行灯。こういう季節感も歌舞伎の醍醐味。

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