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ドン・ジョヴァンニ

鈴木優人&バッハコレギウム・ジャパン「ドン・ジョバンニ」 2025年2月

指揮者・鈴木優人率いるバッハコレギウム・ジャパンを初めて鑑賞。ORCHARD PRODUCEのオーツアルト・オペラシリーズ第2弾で、大定番「ドン・ジョバンニ」のキャッチーな音楽を、客席1200に古楽器オケという、初演時代を思わせる環境で楽しむ。歌手陣が実力十分で華があり、贅沢な杉本博司の美術は端正で満足。めぐろパーシモンホール大ホール、2階前のほう中央で2万5000円。休憩を挟んで3時間半。

ラスト地獄落ちにつながる「18世紀にしては異様に劇的」な序曲と、衝撃的な騎士長殺しでスタート。構成は古典派らしく、主要人物それぞれにキャラクターに合った名アリアがあって盛り上がる。二幕の色っぽい晩餐シーンではお約束「フィガロ」の名曲(初演のプラハ聴衆へのサービス)が流れ、軽妙に笑いを誘う。

歌手ではタイトロールのスター、クリストフ・フィラー(オーストリアのバスバリトン)とレポレッロ平野和(2012年に新国立で同役を聴いたバスバリトン)が、声も演技も表情豊か。コメディセンスも抜群で姿もすらっとしていて、いいコンビだ。主人公を取り巻く3人の女性のひとり、騎士長の娘ドンナ・アンナは人気プリマドンナ森麻季(ソプラノ)で、特に2幕「むごい女ですって」など弱音までを繊細に。美形だし、50代とは思えません。ドン・オターヴィオの山本耕平(テノール)も、張りのある美声で格好良くて、目立っていた。
長身の騎士長ディングル・ヤンデル(英国出身のバスバリトン)はまさに地獄の底から響くようで迫力。バロックで知られるという太っちょカリーナ・ゴーヴァン(カナダ出身のソプラノ)が複雑なドンナ・エルヴィラ役で安定。小悪魔ツェルリーナにコロラトゥーラ・ソプラノ高橋維(ゆい)、その恋人マゼットにアイドルみたいな加耒(かく)徹(バリトン)。なんと平野、ゴーヴァン以外は初役だったそうで、みなさん水準が高いなあ。

2階席でオケがよく見えたのも面白かった。40数人規模で、中央にマエストロと辛川太一のチェンバロ2台。楽器はバルブ機能のピストンが無かったり、テオルポ(洋梨のようなマンドリン)が登場したり。音量が小さめなだけでなく、音程も通常より低いそうです。
事前の解説で、ジョバンニのアリアが心情より行動だということ、悔い改めない設定なのは当時、教会の権威が落ちていたこと、またフランス革命前夜を映して、1幕の宴会シーンでは皆が「自由万歳」と叫び、舞踏会では貴族のメヌエット、市民のコントルダンス、農民のドイツ舞曲が違和感なく同時進行すること…などを聞き、ロマン派へのブリッジという作品の位置づけに納得。

そして杉本によるセットは、法隆寺風エンタシスの柱4本とテーブルぐらいでシンプル。with G.B.Piraneseと銘打ち、モーツアルトと同時代18世紀の画家・建築家ピラネージが、古代ローマの遺跡を再現した細密版画を、巨大画像で背景に使用していてお洒落だった。メインビジュアルは16世紀に天正使節団が歓待されたローマ近郊・ヴィラファルネーゼの階段室を写した杉本作品とかで、時代を超えた日本と西欧の邂逅がテーマとか。
演出は飯塚励生。照影は客電を含めて微妙に変化、ときに歌手が客席バルコニーや通路で歌い、舞踏会でオケがぞろぞろ舞台上に移動するのも面白かった。

開幕前には1954年ザルツブルク音楽祭のフルトヴェングラー指揮を観ながら解説を伺い、終演後の懇親会で歌手の皆さんと交流しました!

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文楽「妹背山婦女庭訓」

第230回文楽公演 第二部 2025年2月

今回の文楽公演は地下鉄後楽園駅直結の文京シビックホール。吉田和生文化功労者顕彰記念の通し狂言「妹背山婦女庭訓」で、十三鐘の悲劇を描く二部に足を運んだ。1999年からほぼ完全版が復活しているそうで、2019年以来の鑑賞。玉助が遣う、抑制の効いた芝六を堪能する。大ホールは立派だけど、クラシック向きで残響にちょっと違和感があったかな。前のほう中央で9000円。休憩1回で約2時間。

物語は導入の猿沢池の段で、入鹿謀反の報を受け、藤原淡海(簑紫郎が端正に)が盲目の天智帝(ねむりの源太、勘壽)を連れだす。休憩を挟み、鹿殺しの段で漁師・芝六と長男・三作(玉彦)が藤原鎌足の役に立とうと、爪の黒い牝鹿を射ちゃう。メリヤスの黙劇風で、緊張感がある。
ここから貧しい芝六の住居での、コミカルな展開に。小住太夫・清丈、芳穂太夫・錦糸のリレーが歯切れ良い。まず掛乞の段は官女たちの珍妙な服装、集金に来たコメ屋が団扇であおいで渡した書き出し(請求書)を、大納言(ファニーな端役)が和歌と思って読み上げる。万才の段ではぼろ家を御殿と偽り、芝六親子が雅楽代わりにべれべれ万才を披露。お囃子は望月太明蔵社中。

そしていよいよ芝六忠義の段へ。千歳太夫・富助がいつも通りの熱演だ。三作が父をかばい、鹿殺しの罪で興福寺の役人に引き立てられていく。明け六つに向けて緊迫感が高まるなか、芝六は天皇への忠心を証明しようと、なんと弟・杉松を手にかけちゃって、女房お雛(清十郎)の嘆くこと嘆くこと。いやはや。そこへ威風堂々、すべてを操る鎌足(孔明、玉也)が登場して怒濤の展開に。三作があわや石子詰めの刑というところで、土中から神鏡が発見されて助命され、戻ってくる。その鏡の威徳で、帝の目も見えるように。杉松を葬る十三鐘の悲しい由来とともに、入鹿討伐への決意がみなぎる幕切れでした~

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歌舞伎「壇浦兜軍記」「江島生島」「人情噺文七元結」

猿若祭二月大歌舞伎 夜の部 2025年2月

お馴染み、かつ変化に富んだ演目が並んだ歌舞伎見物。華やぐ歌舞伎座、花道近くで1万8000円。休憩2回で、たっぷり4時間。

まず端正な京都堀川御所のセットで、「壇浦兜軍記」から極付・坂東玉三郎の阿古屋。観るのは2015年、18年に続き3回目だけれど、琴、三味線、胡弓の三曲、特に胡弓がレベルアップしている印象だ。恐るべし人間国宝。昨年末に桐竹勘十郎、鶴澤勘太郎で堪能した文楽版が、磨き抜かれたソロなのに対し、歌舞伎版は下手に竹本、さらに三味線「班女」のくだりでは上段に長唄が加わるいわば協奏曲で、スケールがある。もちろん阿古屋の衣装もド派手。花道からの出で、捕手の中村橋吾さんと並んで決まったり、岩永の脅しを高らかに笑い飛ばしたり、も格好良い。
生締めの捌き役・重忠の菊之助は、さすがノーブル。赤っ面の岩永は中村種之助で、人形振りもきびきびと、赤く飛び上がったりチャレンジしていた。

休憩は席で「ひらい」の穴子などお弁当をつつき、大正期の長谷川時雨による長唄舞踊「江島生島」をしっとりと。大奥の中﨟・江島とのスキャンダルで、三宅島に流された実在の人気役者・生島新五郎(二世團十郎を育てたことで知られる)を描く。まず照明を落として生島(菊之助)の夢のシーン。桜舞う春の夜に船を浮かべ、江島(中村七之助がたおやかに)と小鼓をうったり盃をかわしたり睦まじい。しかし物悲しい舟唄で江島は忽然と、すっぽんから姿を消す。
ぱあっと明るくなって後半は現実の岸辺。夢から覚めても心ここにあらずの生島を、海女(一転おきゃんな七之助と中村芝のぶら)がからかって少しコミカル。やがて雨が落ちてくるなか、小間物売の旅商人(きびきびと中村萬太郎)が持っていた小袖を江島に見立てたり。哀れで美しかった。

鯛焼きの休憩を挟んで、ラストは眼目の中村屋ゆかり、榎戸賢治脚色「人情噺文七元結」。2010年に亡き勘三郎で観た左官の長兵衛を、中村勘九郎が温かく。力強さと、ちょっと影のある感じが印象的だなあ。幕開き「長兵衛内」は七之助の、思い切りのいいコメディエンヌぶりが際立ち、極貧も息苦しくない。角海老手代・藤助は中村山左衛門。回り舞台で一転、豪奢な「吉原角海老内証」になると、女房お駒の中村萬壽がどっしりと、さすがの存在感を示す。小じょく・お豆の中村秀之介(歌昇の次男)が相変らず可愛く、女郎で70代の尾上梅之助も元気。お久・勘太郎の娘役は、ちと厳しいけれど。
そしていよいよ「本所大川端」で勘九郎が、行きつ戻りつ、決して格好いい善人ではない長兵衛の、心根の優しさを存分に。手代・文七の中村鶴松もリズミカルに、息の合ったところを見せる。落語にある和泉屋の面白いくだりは端折って、ラストは「元の長兵衛内」。派手な夫婦喧嘩のなか、文七を伴って礼に訪れる和泉屋清兵衛を、中村芝翫がますます貫禄で。振り袖姿のお久を連れ帰る鳶頭・伊兵衛に、ご馳走の尾上松緑。江戸っ子が似合う人です。家主は手堅く片岡市蔵。ハッピーエンドで幕となりました~

お稲荷さんの「初午」にちなんで、売店の軒先などに面白い地口行灯。こういう季節感も歌舞伎の醍醐味。

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ポルノグラフィ/レイジ

ポルノグラフィPORNOGRAPHY/レイジRAGE   2025年2月

イギリス系アイルランド人で、オリヴィエ賞、トニー賞をとっているサイモン・スティーヴンスの戯曲をダブルビルで。演出は気鋭の桐山知也。これが世界の演劇の最前線というものか。脈絡のわかりにくいモノローグが続き、休憩を挟んで3時間強が正直辛かった。途中で帰る観客も。世田谷パブリックシアター・シアタートラムの上手寄り、後ろのほうで8000円。

2007年初演の「ポルノグラフィ」(小田島創志訳)は2005年7月のロンドン。五輪決定直直後の同時多発テロを描く群像劇だ。難解。7つのオムニバスで(上演順は自由とか)、子育てに奮闘するキャリアウーマンや女性教師につきまとう生徒、爆破実行犯ら、都市生活者それぞれの疎外、焦燥を畳みかける。地下鉄ホームの黄テープを張り巡らし、俳優がコの字舞台と前面の通路を歩き回って観客近くで訴えかけるのだけど… 「レイジ」(高田曜子訳)では後方に天井近くまでの鉄骨階段が出現、黄テープは規制線に。2015年大晦日のマンチェスターで、若者らや警官が動き回り、鬱憤やスマホ撮影の他人事感、差別、暴力が高まっていく。

膨大な台詞をこなす俳優11人は、みな大健闘。特に亀田佳明の知性が圧倒的だ。舞台中央に立ち、テロの犠牲者を番号であげていく長大なモノローグが染みる。ほかに土井ケイト、岡本玲、吉見一豊、竹下景子ら。

ロビーには芸術監督の白井晃さん、犬丸治さんの姿も。

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引窓

市川高麗蔵・中村松江引窓に挑む  2025年2月

中村芝翫監修で、「新たな歌舞伎への挑戦」と銘打った試みの第2回に参加。長唄・囃子方の大木竹美(杵屋栄津美)・大木梨恵(望月初寿恵)母娘が2023年、飯田橋に開設した古典芸能専用の鶴めいホール、2階含め40席という至近距離でのリーディング公演だ。休憩を挟んで2時間。ちょっと高めの8000円。

役者がこしらえ無し、座ったままで、名場面の複数人物を演じ分ける、いわば素歌舞伎の企画で、今回は中村松江が堅実に濡髪と与兵衛、市川高麗蔵(初代白鸚の部屋子)が端正に母とお早。近さもあり、息遣いやそれぞれの個性が感じられて面白い。こういう稽古が華やかな歌舞伎舞台につながるんだなあ。
素といっても、主催で合同会社京枡屋舞台の三枡清次郎が義太夫を務め、イヤホンガイドのおくだ健太郎が割と頻繁にナレーション(解説)を入れるので飽きません。背景スクリーンにはセットの写真。

休憩を挟んで短いフリートークでは、松江が芝翫に濡髪をみてもらった、演じる機会が少ないので緊張した、高麗蔵が中村東蔵に母を教わり、これは生活劇ときいた、等々。石井康幸撮影の格好良いポートレートや稽古風景の写真販売も。
せっかくなのでもっと役者、観客同士の交流の仕掛けがあったら良かったかな。

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サザンオールスターズ LIVE TOUR 2025

サザンオールスターズ LIVE TOUR 2025「THANK YOU SO MUCH!!」 2025年2月

嬉しいことに当選して、サザンほぼ6年ぶりのライブ。10年ぶりのオリジナルアルバムに先立つ貴重な公演だ。個人的に、参加するのは桑田佳祐のソロで2021年以来、サザンは2015年「おいしい葡萄の旅」以来ほぼ10年ぶり。なんといってもデビュー半世紀に近い桑田さんの、衰え知らずのサービス精神と愛らしさに感動。
年齢高めのファンでぎっしりの、さいたまスーパーアリーナ。2階スタンドの下手寄りと遠めだったけど、名曲の数々に酔う一体感はもちろん、涙ものの初期ナンバーもあって楽しめた。1万1000円、2時間半。

いきなり1982年「逢いたさ見たさ病めるMy Mind」で、ぐっとつかまれる。ほかにも茅ヶ崎愛あふれる1979年「ラチエン通りのシスター」、もしかするとオールタイム・ベストかも、の1978年「別れ話は最後に」が嬉しい。
「知らない曲でごめんね」といいつつ、新しいアルバムからも数曲。先行シングルの「ジャンヌ・ダルクによろしく」「恋のブギウギナイト」でリズムにのり、被災地を想う「桜、ひらり」で感動。「神様からの贈り物」はスクリーンに往年のスターが次々映し出されて懐かしく、また、デビュー前の未発表曲だという「悲しみはブギの彼方に」には、後のサザンらしさが詰まっていて驚く。タイトルは1959年のアメリカ映画からとっていて、なんとマへリア・ジャクソンのGospelシーンもあるとか。ベタな昭和歌謡とブラックミュージックのグルーヴ。サザンの魅力の原点がここにあるのかも。いやホント、いてくれて有り難う。

気取らない聴衆サービスはさすが。左右のスクリーンに全曲、歌詞を映すから思う存分、歌えるし、入口で配られた色とりどりのサイリウムでもれなく演出に参加できるし。中盤のアコースティックコーナーでは「凄いいい曲思いついちゃった」と振ってImagineのイントロで笑わせ、ご当地・埼玉名物を替え歌で。ヤオコーも登場! 終盤はお約束、お色気ダンサーズが繰り出し、アンコールまでがっつり盛り上がりました~
入口ではスポンサー、ユニクロの商品券も配られてなんだかお得。以下セットリストです。

01. 逢いたさ見たさ病めるMy Mind
02. ジャンヌダルクによろしく
03. せつない胸に風が吹いてた
04. 愛する人とのすれ違い
05. 海
06. ラチエン通りのシスター
07. 神の島遥か国
08. 愛の言霊 ~Spiritual Message~
09. 桜、ひらり
10. 神様からの贈り物
11. 史上最恐のモンスター
12. 風のタイムマシンにのって
13. 別れ話は最後に
14. 埼玉のpeople(OR:ジョン・レノン「Imagine」)
15. ニッポンのヒール
16. 悲しみはブギの彼方に
17. ミツコとカンチ
18. 夢の宇宙旅行
19. ごめんね母さん
20. 恋のブギウギナイト
21. LOVE AFFAIR~秘密のデート
22. マチルダBABY
20. ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)
24. マンピーのG★SPOT
Encore:
25. Relay~社の詩
26. 希望の轍
27. 勝手にシンドバッド

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落語「元犬」「黄金の大黒」「代書屋」「抜け雀」「蝦蟇の油」「雪の瀬川」

第八十九回大手町落語会  2025年2月

知人夫妻と産経新聞社主催の落語会。柳亭市馬、柳家権太楼のベテラン2人が休演となったものの、蓋を開ければ、売れっ子の春風亭一之輔が代打ち、柳家さん喬が2席と、変化のある贅沢なラインナップになった。日経ホール前のほう中央の良い席で4500円。仲入を挟みたっぷり3時間強。

前座は柳亭市助でお馴染み「元犬」をきっちりと。市馬一門の33歳、ちょっと暗めかな。続いて兄弟子の柳亭市童が、3月の真打昇進で松柳亭鶴枝を襲名する、披露興行のチケットを宜しく、と売り込んで「黄金の大黒」を歯切れ良く。
それを受けて桃月庵白酒が、二つ目の名は熟考するけれど、真打の襲名は適当、自分のときは志ん生が空いているよ、なんて言われて消去法で選んだ、入試シーズンは弟子入り希望が増える、きっちりしていると思った希望者がバイト優先でびっくりした、東大卒、イエール大卒もいる、履歴書はきちんとしていない方がいい、と振って「代書屋」(市童さんから2021年と同じ流れ)。前のほうで表情がよく見えたせいか、履歴書を頼みに来るトンチキ45歳と、呆れてブツブツ言う代書屋のキャラがひときわ、くっきりした印象だ。「その流れで雇ってくれるの?いい会社だね」「二度寝の恒夫」とか、リズムがよくて爆笑。巧いなあ。
続いて粋にさん喬さん登場。白酒がトンチキの名を若林恒夫(師匠・五街道雲助の本名)としていたのを、喬太郎がやったら許さん、かつて小さんの鞄持ちで2昼夜かけて釧路に行って、車での移動で…といった旅のマクラから鳥カゴ=駕籠が出てくる「抜け雀」。一之輔などで聴いたことがある、好きな演目だ。絵師が衝立を検分して「いい仕事をしておる」、朝日がさしてちゅんちゅん、とか、細部の軽みが味わい深い。本所育ちの76歳だもんなあ。

仲入を挟んで代打ちの一之輔。いつも以上にヨレヨレと出てきて、子供の受験が大高同時になるとは、結果的に夜の日本橋と同じ顔ぶれだ、市馬の休演の理由がわからない、市馬さんには前座のとき靴下をもらった恩がある、要らないやつだったのかな、などと語って「蝦蟇の油」。2015年にも聴いたけど、この日は途中で紙切りになっちゃって三味線が止らず、お囃子の岡田まい師匠、許して~とか、またまた爆笑。大道芸人の酔いっぷりもさすがです。
前半の最後あたりから音響が不調で、いったん幕を下ろして調整してから、トリは盟友で療養中の権太楼さんに代わり、さん喬2席目。マクラ無し、お辞儀さえそこそこに、いきなり吾妻橋のシーンで一気に空気が変わって人情噺「雪の瀬川」。大作「松葉屋瀬川」の後半で(落とし噺に改変したのが「橋場の雪」)、現在はさん喬さんの独壇場とか。季節もあるし、貴重な口演なんですねえ。
古河(こが)の大店の若旦那が、本の虫で少しは遊べと江戸の店に出されたが、絶世の美女の傾城・瀬川に夢中になって勘当されちゃう。あわや身投げというところへ、文七元結いよろしく、店にいた忠蔵が通りかかって長屋に連れ帰る。忠蔵は奉公人同士で駆け落ちして、麻布谷町でクズ屋をしていたのだ。花魁といえばすべてカネ次第のはずだけれど、「瀬川はそんな女じゃない」とピュアに断言する若旦那を信じて、幇間・吾朝に会うと、まさかの瀬川からの返信。雨の日にきっと会いに行くと。待ちに待ってようやく雨、それが雪にかわり、朝からそわそわ何度も時間を尋ねる若旦那。やがて…
それぞれのキャラを、丁寧に描く語り口が温かい。世間知らずだけど一途な若旦那。奉公人なのに「兄ちゃん」と呼んでくれたと、貧しいなかで若旦那の面倒をみる忠蔵夫婦の侠気と、何の疑問も無く、即座に応援する大家。瀬川が示す真心、2人の恋路を守って廓抜けのリスクをおかす吾朝夫婦… そしてなんと言っても終盤のシーンが美しい。しんしんと積もる雪、サクッサクッと音がして、現われた瀬川は黒縮緬の頭巾姿、それをとると洗い髪に珠のかんざし。鮮やかだなあ。ハッピーエンドでさらっと終演となりました。
ちなみに元ネタは大岡政談だそうで、瀬川といえば大看板。五代目瀬川は鳥山検校(とりやまけんぎょう)のお妾になって洒落本に描かれ、六代目は北尾政演の浮世絵になって弓弦(ゆづる)御用達商人のお妾になったとか。ふむふむ。

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Maroon5

Maroon5 Asia2025  2025年2月

キャッチーなヒット曲にひかれてLA出身マルーン5の来日ドーム3daysへ。なんと7時オンタイムにドンと客電が落ち、ほぼノンストップ。メンバー6人でコーラスやブラス、ダンサーは無し、MC控えめ。メドレーを多用してヒットナンバーを惜しみなく、がしがし畳みかける。演出はバリライトの変化と最後の銀テープぐらいだけど、5万人が立ちっぱなしで大盛り上がり、一体となってシンプルなロックサウンドを満喫した。客層若めの東京ドーム1塁側、前の方のSS席で1万5800円。休憩無しの2時間弱。

フロントマンのアダム・レヴィーンが張り出したステージを走り、お馴染みのハイトーンで全編をひっぱる。全身タトゥーの外見とは裏腹に、あざとさとは無縁。アピールといえば「Lucky Strike」などのコール&レスポンス、「Sunday Morning」などのサビでシンガロンを促すくらい。地元ドジャーズのユニフォームを着ていて、背には漢字で「大谷翔平」、キーボードのPJモートンもWBC時の大谷のユニフォームだけど、格別それには触れずじまい。MCでは20年以上の応援に感謝して、LA大火災を嘆くでもない。ギターのジェイムズ・ヴァレンタインはちょっと前に出るけれど、ギターのジェシー・カーマイケル、ベースのサム・ファラーに至ってはひたすら演奏! でも満足度は高いんだなあ。

構成は練った印象。「Harder to Breathe」前のマット・フリンのドラムソロ、「Sunday Morning」のイントロのPJモートンのキーボード、「This Love」のアダムのギターソロなんかはご馳走だ。PJモートンのファンクなソロ楽曲「Heavy」がいいアクセント。アンコールではアダムとジェイムズふたりで、アコギで「Lost Stars」。「She Will Be loved」の途中からメンバーがどんと合流し、MVの女性たちの映像をバックに「Girls Like You」。張り出したステージの真横にいる観客にアダムが笑顔で歌いかけ始めたとおもったら、奥さんのベハティ・プリンスルーと三番目のお子さんだったんですねえ。いいライブでした!

開演前にはDJ演奏。売店でアダム夫妻がオーナーの、ピンクのテキーラCALIROSA(カリロサ)のハイボールをゲットして楽しみました~
以下セットリストです。

1,Animals
2,One More Night
3,This Love
4,Stereo Hearts
5,Harder To Breathe
6,Lucky Strike
7,Sunday Morning
8,Payphone
9,What Lovers Do
10,Makes Me Wonder
11,I Wanna Be Your Lover
12,Heavy
13,Maps
14,Memories
15,Don't Wanna Know
16,Love Somebody
17,Moves Like Jagger
アンコール:
18,She Will Be Loved
19,Girls Like You
20,Sugar

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レ・ミゼラブル

レ・ミゼラブル ファナルウイーク 2025年2月

この上ないお誘いで、建て替え閉場となる帝国劇場の大定番「レ・ミゼラブル」ファイナルウイークという歴史を画す公演へ。安定の演出はもちろん、歌手が高水準で素晴らしい。東宝ミュージカルの殿堂に別れを惜しむファンが集まった感じの、前の方やや上手寄りで1万9500円。休憩を挟んで3時間強。
カーテンコールでは主人公ジャン・バルジャン役の吉原光夫が「ファイナルでは特別なことをやります!」と呼びかけ、観客が立ち上がり、入口で配られた歌詞カードを手に「 民衆の歌(A la volonté du peuple)」を大合唱。キャノン砲で飛んできたテープには「Another Story Must Begin!」の文字が入っていました~ 指揮は若林裕治。

「レミゼ」は2015年にNYブロードウェイで観て以来、10年ぶり2回目。いわずとしれた美しい旋律を畳みかけて、心揺さぶられっぱなしだ。そして改めて思ったのは、隙間なくテンションが高い演目だということ。
19世紀前半のフランスの群像劇で、登場人物が次から次に、理不尽な差別や貧困を声の限りに訴える。生オケのオペラ形式で、セリフも歌だから、音に切れ目がない。主人公ジャンバルジャンは大詰め、最期を悟りすべてを告白してからは平穏を取り戻すものの、誰ひとり決して思い通りには生きられない。唯一のチャリ場、テナルディエ夫妻(森公美子、六角精児)のシーンも醜い強慾ぶり、そうせざるをえない社会の不条理が前面にでる。
照明は終始暗めで、バリケードなど大がかりな装置も古典的な印象。そこも含めて、40年超のロンドンはじめ、世界中のロングランに耐える骨太さというべきか。日本版は1987年の世界3カ国目・2言語目の上演以来、演出を手直ししつつ、リバイバルを繰り返してきたんですねえ。

この日のキャストでは、お馴染み吉原や森が安定感抜群。ジャベールの長身、石井一彰(東宝ミュージカルアカデミー1期生)、エポニーヌで声にアピール力があるルミーナら、若手も光っていた。ファンテーヌは木下晴香、コゼットは加藤梨里香、マリウスは中桐聖弥、アンジョルラスは小林唯。ガブローシュの小学3年、中井理人も達者です。

入口で観客全員に、帝劇ロゴ入りのミニバックを配布と、大盤振る舞いでした~

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