歌舞伎「彦山権現誓助剣」
国立劇場新春歌舞伎公演 通し狂言「彦山権現誓助剣」 2025年1月
浅草と並んで初春気分が横溢する音羽屋一座の歌舞伎へ。初台の新国立劇場での開催となって2年目。初日は開演前に獅子舞付き! 舞台から降りてお客さんの頭を噛み、ご祝儀をもらう厄払いも。振る舞い酒など劇場全体が正月仕様だった国立劇場に比べると、だいぶ大人しいけれど、やっぱりウキウキする。
本編は明るい義太夫狂言で、こどもたちまで俳優各世代が集い、客席も巻き込んで大家族新年会の趣きだ。いよいよ菊五郎襲名を控える尾上菊之助はもちろん、敵役の坂東彦三郎らが安定。襲名間もない中村時蔵は美しく、コミカルな味もいける。終盤ではずらり並んだ次々代を担う御曹司たちがとにかく可愛くて、菊五郎じいじは目尻を下げっぱなし。めでたいなあ。花道が短くL字になっているのはびっくりの中劇場、前の方の上手寄りで1万4000円。休憩2回で4時間半。
演目は恒例の通しで 「彦山権現誓助剣(ひこさんごんげんちかいのすけだち)」。2009年に吉右衛門、2020年に仁左衛門で「毛谷村」を観た朗らかな作品を、発端から大詰めまでたっぷりと。秀吉の九州攻めを背景にした、痛快な仇討ちもので、なんといっても腕っ節が強く気が優しい六助のキャラが魅力的だ。天明6(1786)年に文楽で初演、妹背山以来のヒットとなったとか。
発端で新たに彦山権現山中の場が加わった。舞台は豊前・豊後・筑前にまたがる、のどかな霊山。八重垣流指南の吉岡一味斎(中村又五郎)が、親孝行で、侍が仕留めた鳥を逃がしちゃう六助(菊之助)の人柄を認め、剣術の奥義を授ける。
序幕の郡家場外の場は原作に無く、江戸時代中村座の台帳をもとに復活したそうです。周防の国、時は端午の節句。御前試合の負けを恨んだ京極内匠(彦三郎)が、一味斎を銃で闇討ちするシーンを見せる。続く一味斎屋敷の場で、娘・お園(時蔵)が一味斎の妻・お幸(上村吉弥)に、酔態を装う「シの字尽くし」で父の死を知らせる悲嘆。覚悟を試す上使・衣川弥三左衛門(河原崎権十郎)の槍を見事に留め、仇討ちのお墨付きを得る。女武道も、懐の深い上使も格好良いぞ。
短い休憩を挟んで二幕目は、舞台が暗くなり、光秀最期の地にちなむ小栗栖(おぐるす)瓢箪棚の場。変化に富んで面白い。まず惣嫁(そうか、上方の夜鷹)たちの軽妙さから一転して、忠臣・友平(中村萬太郎)が妹・お菊の最期を語って、無念の切腹。そして蛙が鳴くなか、内匠が怪しい父・光秀の亡霊(又五郎)から小田春永の名剣・蛙丸を授かるスペクタクル。さらには仇と知ったお園がなんと鎖鎌で打ちかかり、派手な立ち回りに。瓢箪がばらばら落ちたり、不安定な棚の上で渡り合ったり、ついには装置が崩れて時蔵がごろごろ!
長めの休憩のあとは、お馴染みの三幕目。杉坂墓所の場で六助が、微塵弾正と変名した内匠に八百長を約束。また偶然、内匠一味に追われる幼いお菊の子・弥三松(八の字眉が可愛く、8歳だけど達者な秀之介・歌昇の次男)を預かる。続く六助住家の場は上手に椿、下手に梅で清々しい。弾正に眉間を割られてもへいこらしてやり、懸命に玩具で弥三松をあやす六助、人が良すぎます。虚無僧姿で現れたお園が切々と苦難を語るクドキ、女武道としおらしさのミックスを生き生きと。後半、弾正の悪事を知った六助が怒りのあまり、庭石を踏んでめり込ませちゃって拍手~
大詰・久吉本陣の場は、ぱあっと視界が開けてお楽しみ。知勇兼備の大将・久吉(菊五郎)が、坂東楽善、萬太郎、市村竹松らを従えて堂々サポート。一行が本懐を遂げる。若武者(坂東亀三郎・彦三郎の長男、菊五郎襲名を控える尾上丑之助、背が伸びた尾上眞秀、中村梅枝、中村種太郎・歌昇の長男)が居並んで、お正月の手ぬぐいをまき、渡り台詞できまり、背景には朝日が輝く。これぞ大団円でした~
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