« 高中正義TAKANAKA SUPER LIVE 2024黒船来航50周年 | トップページ | 天保十二年のシェイクスピア »

モンスター

モンスター  2024年12月

年も押し詰まって、うっかり、凄まじい舞台を観てしまった。英ダンカン・マクミランが2005年に書いた「モンスター」を日本初演。歪んだ存在、歪み行く存在のどん詰まり感を、演出・美術の杉原邦生が音と光で容赦なく畳みかけてショッキング。高田曜子訳。演劇好きが集まった感じの新国立劇場小劇場、前のほうで9800円。休憩を挟んで2時間半。意欲的な企画製作は、阿佐ヶ谷スパイダースが母体のゴーチ・ブラザーズだ。

補助教員に転職したてのトム(風間俊介)は、反社会的でクラスから隔離されたダリル(松岡広大)を担当。1対1で向き合うがコミュニケーションは成り立たず、責任転嫁ばかりの少年の祖母リタ(那須佐代子)とも噛み合わなくて、ひとり追い詰められていく。恋人ジョディ(笠松はる)の妊娠を機に結婚するものの…
荒廃した家族の孤立、残虐な情報を溢れさすメディア、あこぎなビジネスへの悔恨、専門家と呼ばれる人々の頼りなさ、連鎖する育児放棄の予感… これでもかという社会の病理。冒頭で赤いパーカのダリルが客席通路を歩いてきて舞台に上がり、ラストの墓地からはトムが客席に降りて捌けていく。これは誰の隣りにもあって、決して異常なことではない。

上演中ずっと何か音が鳴っていて、観る者をじわじわ苛立たせる演出が凄い。ときに激しい照明、そして場面転換で机の上のものを乱暴に払い落とすのも、いちいちドキリとする。流行のイマーシブとかプロジェクションマッピングとかが無くても、気持ちを引きずり回され、それだけに、物語の救いのなさがずっしり重くて、後を引く。演劇って凄い。

松岡広大が緊張感ある膨大なセリフを繰り出し、少年の粗暴、焦燥を繊細に表現して圧巻。2020年「迷子の時間」のガルシア、2023年「ねじまき鳥クロニクル」のシナモンと、たまたまかもしれないけど謎めいた役に挑んでいる印象で、ますます楽しみだ。
ロビーには松尾スズキさんの姿も。

Dsc_4723

« 高中正義TAKANAKA SUPER LIVE 2024黒船来航50周年 | トップページ | 天保十二年のシェイクスピア »

演劇」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 高中正義TAKANAKA SUPER LIVE 2024黒船来航50周年 | トップページ | 天保十二年のシェイクスピア »