峠の我が家
峠の我が家 2024年11月
大好きな岩松了の作・演出。いつものように淡々と、胸をざわつかせる会話劇。あからさまでなく、でも無視できない通奏低音のように、戦争の影が色濃くて不穏だ。仲野太賀、二階堂ふみ、柄本時生ほか盤石の布陣で、それぞれが抱える傷、孤独が際立つ。本多劇場中ほどで8000円。休憩無しの2時間強。
いつの時代とも知れない峠の一軒家。主人の佐伯(岩松)、気のいい息子・正継(柄本)と健気な妻・斗紀(二階堂)がホテルを営む。今は季節外れだけど、兄の戦友の家族に軍服を届けるという、謎めいた安藤(仲野)と兄嫁・静子(池津祥子)を泊める。2人を案内した実直な冨永(新名基浩)は近所の「道場」代表・中田(豊原功補)の部下。中田は佐伯一家の過去を心得ていて、閉塞をほぐそうとするようだけど…
ホテルのロビーのワンセットで、床にある触れると怪我するささくれが、それぞれが隠し持つトラウマのようで意味深だ。飼っている亀「スジバ」を襲う蛇を、稔が傘で刺した跡だという。亀とは、正継と結婚するはずだった斗紀の姉を奪った男、そして安藤の兄の投影なのか。復員したはずの兄の生死もなんだか定かでない。
一方、稔はかつて名士だったが環境汚染に関わり、正継はその罪滅ぼしのように毎朝、水質調査に出かけている。象徴的なウランガラスの緑の光、そして斗紀に引き留められてこんこんと眠る安藤の夢のなかの、ダンスシーンが幻想的だ。
真偽さだかでない語りが交錯するなか、今回ひっかかったのは、斗紀のこども時代のエピソード。姉は斗紀がいじめられるのを見ながら助けず、それを母にとがめられて「妹でなければ助けた」と言い返したという。戦争や核という大きな状況にあっても、人は小さな暮らしの延長線上にいて、歪さに気づかない、あるいは気づかないふりをしちゃう。意図しないゆえの罪深さ。佐伯が書き続けている嘘の日記もつながるかな。
いつもながら戯曲は難しいんだけど、洒落た美術(愛甲悦子)や、ときどき挟まる笑い、なんといっても手練れたちの演技に引き込まれました。大好きな仲野を観るのは岩松さんの2021年「いのち知らず」以来。相変わらずの色気です。2026年はいよいよ大河ドラマ! 二階堂の岩松作品出演は意外にも、2013年「不道徳教室」(女子高生役!)から2度目なんですねえ。30歳となり、透明感が増した感じで楽しみ~
ロビーには仲野さんご家族の姿も。
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