夢遊病の女
夢遊病の女 2024年10月
新国立劇場2024/2025シーズンの開幕、しかもロッシーニ、ドニゼッティと並ぶ歌唱第一ベルカントの巨匠、ベッリーニを初上演とあって、解説付き鑑賞会に足を運んだ。7月に代役を引き受けたクラウディア・ムスキオ(イタリアのソプラノ)ら歌手陣が高水準で、オケも演出もバランスがよく、大満足。メランコリックで長い旋律、美しいレガートを堪能した~ 厳しいので知られるイタリアオペラの名匠マウリツィオ・ベニーニが指揮、東京フィルハーモニー交響楽団。休憩を挟んで3時間。中央やや上手寄りで29700円。
序曲はなく、のっけから舞台裏の合唱で引き込む。本作で合唱は終始、伴奏というより村人=世間を表現し、アリアと交互に場面を進めていく役割です。スイスを象徴するホルンが鳴り、小さな村はアミーナ(ムスキオ)とエルヴィーノ(イタリアのテノール、アントニーノ・シラグーザ)の結婚に湧いている。アミーナの大アリア「優しいお友達、今日は最高の日」、エルヴィーノとの無伴奏二重唱「僕はそよ風にも嫉妬する」が美しい。新領主ロドルフォ(バスの妻屋秀和)が身分を隠して訪れ、投宿した部屋にアミーナが迷い込む。ロドルフォは夢遊病と気づいて部屋を出るけれど、見つけた村人たちには病気の知識がなく、不実だと非難、エルヴィーノも動揺して結婚取りやめを宣言しちゃう。
2幕はエルヴィーノが元恋人のリーザ(ソプラノの伊藤晴)との結婚式へ向かうところへ、ロドルフォがアミーナの潔白を説く。村人たちも加わりワイワイ騒ぐなか、なんと高い水車小屋の屋根に夢遊状態のアミーナが現れる。同じ正気でないとはいえ、狂乱の場とは違ってリリカルなアリア「ああ、そんなに早く萎れるなんて」をたっぷりと。そのひたむきな愛に、エルヴィーノは疑いをとく。
初演の主役コンビが、広い音域のジュディッタ・パスタ、近代テノールの祖ジョヴァンニ・バッティスタ・ルビーニだったため、その技量を前提に難曲になったとか。特にアミーナの大アリアはベルカント・ソプラノの極北だそうだけど、1995年生まれとまだ20代のムスキオが、柔らかく伸びのある声、素晴らしい技巧で圧倒。見た目も美しく、これからが楽しみ~ もちろん60才のシラグーザも、聞く人を幸せにする明るさが衰え知らず。妻屋は余裕たっぷりのモテ役(実はアミーナの父?)がはまり、1幕「この心地よい場所には来たことがある」などを聴かせ、入浴シーンでは笑いも。アミーナの養母テレーザの谷口睦美(メゾ)は、マエストロ・ベニーニに「これまで共演した中でベストのテレーザ」と言われたそうです。凄い!
テアトロ・レアル、バルセロナ・リセウ大劇場、パレルモ・マッシモ劇場との共同制作。バルセロナの演劇一家に育ったバルバラ・リュックの演出は、幕開けの見事なモダンダンサーたちが、劇中でもアミーナの周囲で踊るユニークなもの。閉鎖的な村で育った貧しい孤児アミーナの抑圧、不安を視覚で強調していて、面白い。東京に先立つマドリード初演ではラストもショッキングだったけれど、今回は曲の印象を優先する指揮者の提案で修正したようです。
終演後の懇親会はいつもながら大盛り上がり。ムスキオは気さくで、ラストの高所での歌唱について「腰に命綱があって怖くない」とケロリ。一方、シラクーザは30年以上一線で活躍する秘訣を「レパートリーを守ること」、なんと来年「ラ・ボエーム」のロドルフォデビューだそうで「ようやくその時が来た」と。これぞ一流。
情報センターではベッリーニの自筆譜ファクシミリ(肉筆模写)、朽ちた梁を歩く演技で一世を風靡したジェニー・リンドの肖像など、貴重な展示がありました。
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