ワタシタチはモノガタリ
PARCO PRODUCE2024「ワタシタチはモノガタリ」 2024年9月
2月の「う蝕」が鮮烈だった1977年生まれ、鶴屋南北戯曲賞作家・横山拓也の、うってかわってファンタジックなラブコメディを、同世代の小山ゆうなが演出。緻密な構成と江口のりこ、松尾諭らの達者な演技で「人が人を理解する」ということを温かく表現し、ジンとくる。PARCO劇場の中段で1万2000円。休憩を挟んで2時間半。
しがないウェブライター肘森富子(江口のりこ)は、中学文芸部の同級生・藤本徳人(松尾諭)との15年にわたる文通をベースに妄想を膨らませ、携帯小説にして投稿。胸キュンの恋がバズり、評判に目をつけた人気女優・川見丁子(松岡茉優)が恋人の監督・間野ジョージ(入野自由)に映画化を持ちかける。小説と違って文芸編集者になった徳人に恋心などなく、真里奈(富山えり子)と結婚、娘もいて、著作権やプライバシー侵害を主張、シナリオ会議に乗り込む。納得のいく結末を巡って侃々諤々となるところへ、何故か小説世界のミコ(松岡が2役)、リヒト(千葉雄大)も乱入してきて…
SNSの伝播力は今風だけど、モデル小説のトラブルや、40代に差し掛かって世に出ようともがく富子の造形は、割に古典的。富子、徳人のネイティブ関西弁の言い合い、美化されたミコ、リヒトとのギャップが面白く、存分に笑っているうちに、繰り返される同じエピソードでの感じ方のズレにハッとする。誰でも覚えがある、避けようのないズレに気づいた時のやるせなさ、それでも自分を理解してくれる存在の貴重さ。個人的に編集者の役割に共感も… 脇筋と思えた不思議キャラの書家・ウンピョウ(千葉が2役)とジョージのエピソードも効いている。
大きな変形額縁と階段を使った虚実の転換が、お洒落で鮮やかだ。ポップな美術は乗峯雅寛。複雑でスピーディーな運びを、江口はじめ俳優陣がみな生き生きと、達者にこなし、なかでも松尾の余裕、チャーミングさに目を見張る。もはや大物感。松岡演じる丁子の高圧ぶりもはまっていた。ほかに文芸部顧問などに尾方宣久、富子の旧友などに橋爪未萌里。
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