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「A Number 数」「What If If Only もしも もしせめて」

Bunkamura Production 2024/Discover World Theatre vol.14 「A Number 数」「What If If Only もしも もしせめて」 2024年9月

英国のキャリル・チャーチルによる2作を同時上演。生と死を巡る抽象的で鮮烈な戯曲を、2018年「民衆の敵」のジョナサン・マンビィがスタイリッシュに演出。不完全に途切れ、折り重なっていく台詞に緊張感があって、思考を揺さぶられる。美術・衣装はショーン・ホームズ版「リア王」も印象的だったポール・ウィルス、翻訳は広田敦郎。改装中のBunkamuraが企画製作し、世田谷パブリックシアター最前列で1万1000円。休憩を挟み2時間弱。

まず装置が斬新で引き込まれる。暗い鏡の空間にいくつもキューブが浮かび、蛍のような光や映像が投影される。そして中央の大きなキューブが持ち上がって、場面が出現していく。
2021年の最新作「What If If Only もしも もしせめて」は、上演時間25分の心に染みる短編。愛する人を失った某氏(大東駿介)が座り込む雑然としたキッチンに、妻の亡霊が、なんと年老いた姿(浅野和之)で現れる。マジックのような出現シーン、奇妙な金髪のかつらに笑っちゃうけれど、いわば能のシテ。悲嘆に暮れる某氏にとっては、あり得たはずの「未来」だ。だったらこの世界は、失った未来で溢れているのか? 声と光の超常現象の果ての、平凡過ぎる「現在」、しょぼしょぼトーストをかじる朝食に、一抹の希望が漂う。
さえない大東が深い孤独と悲しみを熱演。そのどうしようもない堂々巡りを、浅野がいつもながらの怪演で乾いたユーモアに昇華して見事だ。「幼き未来」はポピエルマレック健太朗。

休憩を挟んで、2002年初演の「A Number 数」はビターな味わい。赤いソファーの居間で、ソルター(堤真一)と息子バーナード(B2、瀬戸康史)が向き合っている。B2は自分がクローンで、しかも同じようなクローンが何人もいると知り、戸惑っている。ソルターが実の息子を失った悲しみのあまりクローンを求め、引き受けた病院が勝手にコピーを作ってしまった、と思っていたら、次のシーンで死んだはずのオリジナルのバーナード(B1、瀬戸)が現れ…
人生がうまくいかないからといって、果たして無かったことにできるのか。ソルターの思惑は最悪のかたちで破綻する。戯曲はその衝撃的な悲劇を、直接は描かない。崩壊のあと、それでも生きていくソルターが、クローンのもうひとりマイケル(瀬戸)と対話するだけだ。何を喜び、どう日々を過ごすのか。淡々と、徹底して噛み合わないやりとりが、ソルターの過ちを浮かび上がらせる。
人生は取り返しがつかない。でも、無かったことにしなくたって、たぶん小さな選択の積み重ねで、こんなにも多様な人生があり得る。残酷なお話なんだけど、幻想のような大勢のクローンたちの姿が、どこか爽快な後味を残す。
堤は父親の愛情深さから、道を踏み外した狂気、後悔と虚無へ、振幅の大きい演技に挑戦。瀬戸も3役を演じ分けて高水準だ。照明は勝栄次朗、映像は上田大樹、振付は黒田育世、山田うん。いい舞台です。

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