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正三角関係

NODA・MAP第27回公演 正三角関係  2024年8月

また8月がやってきた。作・演出野田秀樹の新作は、秋にロンドン公演も予定し、長澤まさみら豪華キャスト、テープや映像を駆使した軽快なテンポで、時代をとらえ、かつ作者ならではの主題を強く訴える。人が人に危害を加えるとき、そこにためらいはないのか、神なき世界に罪は存在しないのか。元ジャニーズファンにとどまらず、幅広い芝居好きで満席の東京芸術劇場プレイハウス、中段下手端で1万2000円。休憩無しの2時間強。

下敷きはドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」。2次大戦末期、花火師の長男・唐松富太郎(松本潤)が父(竹中直人)殺害の嫌疑で裁判にのぞむ。物理学者の次男・威蕃(永山瑛太)、教会まかないの三男・在良(長澤)らが証言し、繰り返し富太郎と父の確執を再現する。2人が奪い合うのは、グルーシェニカと呼ばれる火薬、そして露出の多い奔放なグルーシェニカ(長澤が2役)。
そして2013年「MIWA」を思わせる圧倒的な無力感へなだれ込む。火薬の起爆剤がもたらす悲惨。それだけに皆で同じ空を見上げる花火、平和の幻影が胸に迫る。

もちろん3兄弟が、期待通りの求心力と運動量で舞台を牽引。特に長澤は「一粒の麦」を唱え、すぐ眠くなっちゃうピュアな在良と、妖艶なグルーシェニカを早替りで演じて鮮やかだ。すっかり貫禄の松本も、いつも時間に遅れてくる粗暴さの一方、屈折した生方莉奈(口跡の良い村岡希美)に不良の優しさをみせて魅力的。長身の永山はオッペンハイマーさながら、知性の歪みが際立つ。
戯曲にはいつになくロシアへの嫌悪がにじみ、残酷な裏事情を喋りすぎるロシア領事ウワサスキー夫人の池谷のぶえが、重要な舞台回し。東京から密命をおびてきた弁護人の野田秀樹(神父と2役)、対する検事(2役)の竹中は相変らずコミカルで強力だ。唐松家番頭で小松和重、キーマンの使用人・麝香で森田真和が存在感を示し、郵便配達員の兼光ほのかも張りのある声で目立っていた。

後方に横長の階段を置いただけのセットが、いつにも増して洗練され、俳優の動きでめまぐるしく場面を転換していく。縦横無尽の紙テープや銀テープ、花火を表す蜘蛛の糸、威蕃が夢中で書く数式の大写しや布の路面電車、階段に差し込まれた火薬の小箱などなどが面白い。アンサンブルは最後の晩餐を模したり、量子となって飛び回ったり。「神はなにしてはったん計画」とか、お馴染みの言葉遊びも。終盤、ちょっと停滞した気もしたけど、やっぱり舞台ならではの感興が満ちる。美術は堀尾幸男、衣装ひびのこづえ、音楽は原摩利彦、振付は井手茂太、映像は上田大樹と盤石。今の演劇の最高峰かもと、改めて。

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