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shining in the melody

咲耶pre. shining in the melody vol.13  2024年8月

尊敬する今角夏織さん出演のライブハウスへ。東新宿の「真昼の月 夜の太陽」で、3組、持ち時間40分ずつの約2時間。前売3500円+ドリンクとフードを頼むスタイル。

シンガーソングライターの咲耶さんが、照明オペレーターを務めるライブハウスで企画。スポット、ミラーボール、ステージ後方からの照明などが、さすが音楽にぴったりだ。しかも立派なグランドピアノがあって、なつおりは「キンモクセイの小路」「ピアノ」など、近頃の天候やシチュエーションにぴったりのセットリストでした~ もちろん名曲「つばさ」やカーペンターズのカバーも。

そしてトリのボランドール劇団が水準高くてトークも面白く、ゴスペル仲間と大盛り上がり! ボランドールは座長ボランドール(歌ひ手・ギタア)とオスカー(ベゑス・語り・脚本) のユニットで、ムーランルージュって言葉が思い浮かぶ派手衣装とアイメーク、マイクの薔薇飾りがインパクト大。オリジナルの「シャンソンロック」の演奏は確かだし、ゲストピアニストのメイコもめちゃ格好いい。いつもはギター、ドラムを加えたバンドスタイルだそうです。クラップなどあまりに聴衆のノリがよく、「十年以上やっているけど、はじめてだわ。大人だわ~」とのことでした。

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正三角関係

NODA・MAP第27回公演 正三角関係  2024年8月

また8月がやってきた。作・演出野田秀樹の新作は、秋にロンドン公演も予定し、長澤まさみら豪華キャスト、テープや映像を駆使した軽快なテンポで、時代をとらえ、かつ作者ならではの主題を強く訴える。人が人に危害を加えるとき、そこにためらいはないのか、神なき世界に罪は存在しないのか。元ジャニーズファンにとどまらず、幅広い芝居好きで満席の東京芸術劇場プレイハウス、中段下手端で1万2000円。休憩無しの2時間強。

下敷きはドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」。2次大戦末期、花火師の長男・唐松富太郎(松本潤)が父(竹中直人)殺害の嫌疑で裁判にのぞむ。物理学者の次男・威蕃(永山瑛太)、教会まかないの三男・在良(長澤)らが証言し、繰り返し富太郎と父の確執を再現する。2人が奪い合うのは、グルーシェニカと呼ばれる火薬、そして露出の多い奔放なグルーシェニカ(長澤が2役)。
そして2013年「MIWA」を思わせる圧倒的な無力感へなだれ込む。火薬の起爆剤がもたらす悲惨。それだけに皆で同じ空を見上げる花火、平和の幻影が胸に迫る。

もちろん3兄弟が、期待通りの求心力と運動量で舞台を牽引。特に長澤は「一粒の麦」を唱え、すぐ眠くなっちゃうピュアな在良と、妖艶なグルーシェニカを早替りで演じて鮮やかだ。すっかり貫禄の松本も、いつも時間に遅れてくる粗暴さの一方、屈折した生方莉奈(口跡の良い村岡希美)に不良の優しさをみせて魅力的。長身の永山はオッペンハイマーさながら、知性の歪みが際立つ。
戯曲にはいつになくロシアへの嫌悪がにじみ、残酷な裏事情を喋りすぎるロシア領事ウワサスキー夫人の池谷のぶえが、重要な舞台回し。東京から密命をおびてきた弁護人の野田秀樹(神父と2役)、対する検事(2役)の竹中は相変らずコミカルで強力だ。唐松家番頭で小松和重、キーマンの使用人・麝香で森田真和が存在感を示し、郵便配達員の兼光ほのかも張りのある声で目立っていた。

後方に横長の階段を置いただけのセットが、いつにも増して洗練され、俳優の動きでめまぐるしく場面を転換していく。縦横無尽の紙テープや銀テープ、花火を表す蜘蛛の糸、威蕃が夢中で書く数式の大写しや布の路面電車、階段に差し込まれた火薬の小箱などなどが面白い。アンサンブルは最後の晩餐を模したり、量子となって飛び回ったり。「神はなにしてはったん計画」とか、お馴染みの言葉遊びも。終盤、ちょっと停滞した気もしたけど、やっぱり舞台ならではの感興が満ちる。美術は堀尾幸男、衣装ひびのこづえ、音楽は原摩利彦、振付は井手茂太、映像は上田大樹と盤石。今の演劇の最高峰かもと、改めて。

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狐花

八月納涼歌舞伎 第三部 2024年8月

真夏の一夜を怖い歌舞伎で、としゃれ込んで話題の新作「狐花(きつねばな)葉不見冥府路行(はもみずにあのゆおのみちゆき)」。京極夏彦初の書き下ろし脚本、今井豊茂演出・補綴。凄惨な事件の連鎖、怪異を生むのは観る者の心理で、怖いのは生きている人間のほう、という主題はわかる一方、全体に説明が多くて、まったりとした運び。舞台一面、毒々しい曼珠沙華は印象的だけど、ケレンなど歌舞伎らしさはなし。ここは演劇的な感興が欲しい。こうしてみると南北、黙阿弥の凄さがわかるような。歌舞伎座中ほどの花道手前で1万6000円。休憩を挟んで3時間強。

時代は江戸末期、百鬼夜行シリーズの憑き物落とし(陰陽師)中禅寺秋彦の曾祖父、中禪寺洲齋(じゅうさい、松本幸四郎)が探偵役だ。一幕目は発端で、25年前の神職・信田家への押し込み・放火と美人の奥方・美冬(市川笑三郎)の拉致シーン。そして曼珠沙華が闇に浮かぶ荼枳尼天(だきにてん、貴狐天皇)の荒れ社前で、清明紋の洲齋と狐面の男(中村七之助)が問答をかわす。んー、抽象的。
そして公共事業で財をなした、いかにも悪者の作事奉行・上月監物(中村勘九郎)の屋敷。曼珠沙華柄の小袖の男の出現に、家臣・的場佐平次(市川染五郎)と辰巳屋(片岡亀蔵)、近江屋(市川猿弥)が、かつての悪事の露見を恐れている。並行して、奥女中・お葉(七之助が2役)と近江屋の娘(坂東新悟)、辰巳屋の娘(扇雀の息子、中村虎之介)は、結託して殺したはずの浮気男・萩之介の亡霊におびえている。すると案の定、辰巳屋と近江屋に萩之介が現れ、錯乱した娘たちがそれぞれ父を殺めちゃう。いやはや。

お弁当休憩を挟んで、二幕目はさらに悲惨です。冒頭と同じ社前で、中禪寺がなんとか狐面の男を止めようとするシーンがあり、上月家へ。的場の依頼で一連の事件を探っていた中禪寺は、萩之介がお葉に化けて娘たちを操り、何らかの復讐をした、次の狙いは上月家だと指摘。監物は慌てず、警護のため娘・雪乃(米吉)を屋敷内の牢に入れる。
そこへ萩乃介登場。この牢は25年前、監物が辰巳屋らと美冬を閉じ込めた因縁の場所、自分は失意の美冬が産んだ雪乃の双子の兄で、放下師や陰間茶屋に売られてきて…と語り、共に監物への復讐を決意。とんでもないと的場が2人を討ったところへ、監物が到着して、いきなり不忠者!と的場を斬り捨てちゃう。あれれ。駆けつけた中禪寺は瀕死の萩之介に、実は兄だと明かして悲しみに暮れる…
後日、監物を訪ねた中禪寺は25年前の押し込みについて、美冬だけでなく信田家の隠し財産を手に入れて成り上がった、しかし生き残ったあなたはなんと孤独なことか、と告げて…

ロングヘアの幸四郎はちょっと斜に構えた感じが、すべてを心得ている憑き物落としらしく、最近めっきり線が太くなった染五郎も安定。年増っぽい新悟と、趣里を思わせる風貌の虎之介のびっくりの身勝手さ、対照的に辰巳屋番頭・中村橋之助の切なさがいい。勘九郎は悪の権化に徹していたけど、スケール感はもうひとつか。
私は観ていないんだけど、納涼でよくかかったコメディ弥次喜多シリーズは杉原邦生、戸部和久、猿之助と脚本・演出が充実してたんですねえ。舞台って難しい。幸四郎さんは名だたる芝居好きで、よくわかっているはず。足を運びやすい遅い時間の上演、空席があったのは天候のせいでしょう。ガンバレ。

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ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~


ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~  2024年8月

2000年のスティーブン・ダルドリー初監督映画を、2005年にエルトン・ジョン作曲でミュージカル化し、ローレンス・オリヴィエ賞、トニー賞を受賞。評判だった2017年初演日本版の、再々演に足を運んだ。期待通りの秀作。
まず子役ビリー、マイケルの堂々たる歌と踊りに大拍手。子供が未来の希望を体現するだけに、大人たちが味わう1984-85年炭鉱ストの挫折、取り残される者の寂しさがくっきりして、胸に迫る。舞台ならではの感興もあり、休憩を挟んで3時間10分がちっとも長くない。子供連れが賑やかな東京建物ブリリアホール(豊島区立芸術劇場)の前のほう、やや上手寄りの良い席で1万5500円。

ボクシングを習うビリー(クワトロキャストでこの日は春山嘉夢一)は、偶然クラシックバレエ教室のウィルキンソン先生(ダブルで安蘭けい)に才能を見いだされ、名門ロイヤルバレエのオーディションを目指す。でもお父さんジャッキー(ダブルで益岡徹)らは大反対で…

まず炭鉱町のマッチョな気風(なにせセリフは博多弁!)と、バレエのミスマッチが素朴に面白い。劇時間は1年にも及んだスト期間と一致していて、1幕の力強いSolidarityでは衝突する労働者、警官たちと、みるみる上達していくビリーのバレエ熱が交錯。石炭業の衰退は米ラストベルトにも似て抗い難いけど、階級社会だけに労働者の誇りは強烈だ。だから2幕でビリーを思い、なけなしの誇りを捨てようとするジャッキーと、カンパする仲間の姿が染みる。争議に敗れたのち、労働者たちが高らかに合唱するOnce We Were Kingsは、レミゼばりの感動です。

そんな1年の間のビリーの成長が、また素晴らしい。オーディション行きを禁じられたときのAngry Danceでは、タップで激情を表現。照明の影の演出も効果をあげる。2幕に至ると、オールダービリー(トリプルで元四季の永野亮比己)とSwan Lake Pas de Deux(マシュー・ボーンオマージュ!)で、夢のようなフライングを見せ、ちぐはぐだったオーディションの最後には、Electricityでなぜ踊るのか、内面の衝動を吐露。やがて亡くなった母への執着も乗り越えていく。健気だなあ。

脇も達者。特にビリーに恋する親友マイケル(クワトロで西山遙都)がコミカルで、いいアクセントだ。自分を解き放つExpressing Yourselfや、ラストでビリーを見送る姿の切ないこと。
ジャッキーの無骨なDeep into The Ground、ウィルキンソン先生のしみじみThe Letterも泣かせる。益岡はさすがの安定感。2021年「蜘蛛女のキス」以来の安蘭も、煙草スパスパで声が野太く、ダメ夫と寂れた町に縛られている哀愁を漂わせて格好良い。ちょっと認知症のおばあちゃんエトナ(ダブルで阿知波悟美)が笑いを誘いつつ、Grandma's Songがたくましくて拍手。スタイルもいいし。兄トニーはダブルの吉田広大。
フィナーレではみなチュチュ姿で登場して、ケッサクでした~

ダルドリーは「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」「めぐりあう時間たち」の監督で、2012年ロンドン五輪開閉会式のプロデューサー。しっかりしているはずです。脚本リー・ホール、振付ピーター・ダール、翻訳は常田景子。帰宅してから、2014年ミュージカル化10周年記念公演(歴代27人のビリーが一挙登場)をビデオでチェックしたら、かなり忠実でした。

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破門フェデリコ

PARCO PRODUCE2024 破門フェデリコ~くたばれ!十字軍~ 2024年8月

NHK「プロフェッショナル」などのディレクター阿部修英作、劇団座敷童子の東憲司演出。13世紀神聖ローマ皇帝フェデリコ(フリードリヒ2世)の類い希な知性と権威をものともしない決断を通じて、戦争の終わらせ方を描く。主演・佐々木蔵之介のユニットTeam申の企画で、時代をとらえた意欲作だ。演出も鮮やかなんだけど、戯曲の説明調が残念だったかな。元ジャニファンで一杯のPARCO劇場、かなり前のほう中央の良い席で1万2000円。休憩を挟んで3時間弱。

フェデリコ(佐々木)はバチカンに命じられた十字軍遠征を、なんだかんだと先延ばしした挙げ句、アイユーブ朝スルタン、アル=カーミル(安定の栗原英雄)と書簡をやりとりして、エルサレムの分割統治にこぎつけ、悲惨な十字軍の終結を実現する。数カ国語を操り、数学や薬学などイスラム文明を貪欲に吸収するフェデリコの英明と、理解者カーミルとの間に大人の友情が芽生えるさまが痛快だ。
しかし教皇グレゴリウス(六角精児)は激怒してフェデリコを3回も破門。権威におののく息子のドイツ王ハインリヒ(上田竜也)が、こともあろうに父に反乱を起こして、幽閉される。このあたりから物語は史実を離れ、陰鬱になっていく。フェデリコは教皇との対立が深まり、カーミル暗殺を契機に、ついにバチカンへ兵を向けるが、ハインリヒが身をていして制止。ようやく父子の心が通じあったのに、ハインリヒは教皇の腹心・司教ベナリーボ(劇団柿喰う客の田中穂先)に討たれて…

可動式の巨大な柱、階段に、布や照明の変化でダイナミックに舞台を構成。演劇集団円の石原由宇らが「新しき言葉のコドモ」から十字軍兵士、温泉の湯まで、群舞で表現して雄弁だ。贈り物のゾウやキリンを木枠で表現するのも洒落ていた。美術は竹邊奈津子、ステージングは東京五輪開閉会式総合振付の平原慎太郎。
佐々木が相変わらずの人を食った感じで、舞台をぐいぐい牽引。六角とふたり、笑いもいい呼吸だ。侍女イザベルの那須凜が、本作の大きなテーマである知の継承者「まことの王」探しを担って、野太い存在感を発揮していた。いわずとしれた那須佐代子の次女で、都立富士出身、青年座在籍の30歳。楽しみな女優さんです。上田は大詰めの長大なラップ&ダンスなどで健闘。階段上の暗殺シーンでは、田中の身体能力に目を見張った。

プログラムを読むと、企画の発端は阿部と佐々木が、イタリア南部の世界遺産カステル・デル・モンテ城を取材したことだとか。城はフェデリコが大好きな八角形を組み合わせて建築、ユーロ硬貨に刻印されているというのも象徴的だ。八角形はエルサレムのイスラム聖地・岩のドームや紫禁城、法隆寺夢殿などにも通じるそうで、ほかにもフェデリコのびっくりエピソードが満載。18世紀啓蒙思想を先取りした「早すぎた天才」だたんですね。面白いんだけど、どうしてもお勉強要素が先に立ち、父子の相克とかはちょっと消化不良だったかな。

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