狂言「蚊相撲」「現物左衛門」「首引」
第四回野村太一郞狂言の会 2024年7月
知人に誘われて、若き狂言方の自主公演へ。まず太一郎さんが登場して、演目を解説してくれる。たまたま相撲が登場する3作だけど、むしろ共通項は、名乗りが定番の「このあたりの者でござる」ではないところだと。確かに個性的な演目ばかりで、楽しめた。観世能楽堂の中央いい席で8000円。休憩を挟んで約2時間。
夏らしい「蚊相撲」は大名を野村萬斎が演じ、冒頭からずずいっと乗り出してインパクト大。太郎冠者(声がいい高野和憲)に新しい召使いを探させる。3000人!という大風呂敷から1人になっちゃうあたり、テンポがいい。連れ帰ったのはなんと蚊の精(野村裕基)で、相撲が得意だというので、喜んだ大名が相手することになる。蚊は口先が尖った空吹面(うそふきめん、口笛を吹く顔だそうで、うそぶくに通じる)がコミカルで、いちいち割り箸を芯に紙で作った「くちばし」を付け、刺された大名はクラクラ。そこで大名は大きな団扇を持ち出し、蚊をきりきり舞いさせちゃう。なかなかのファンタジーアクションです。
休憩後は珍しく、登場人物が太一郎だけの「見物左衛門」。初演とのこと。伏見深草祭で友人を誘おうとするが振られ、ひとりで出かけていく。途中、九条の古御所で厩や御殿の押し絵(刺繍)を見物して、感心しきり。競馬(くらべうま)見物で落馬するさまに盛り上がり、華やかなのぼり出し(棹につけた飾り)を眺め、人だかりに近寄っていくと、そこは相撲の最中で、自分もとる羽目に。観る者の想像力が頼りの1人芝居は正直、難易度が高い印象だったけど、人垣をかき分けて前にでていくところとか、現代的な物見高さ、非日常の高揚、図々しいけど憎めない人物像は微笑ましい。
ラストは「首引」。伝説の暴れん坊・鎮西八郎為朝(にしては細身の中村修一)が西国から都へ上る道中、播磨・印南野(いなみの)で餓鬼(太一郎)に襲われる。鬼は恐ろしいんだけど子供には甘くて、姫鬼(内藤連)に喰い初めをさせるという。そこで為朝は姫との力比べで負けたら喰われてやると持ちかけ、恥ずかしがりでちょっと為朝を気に入ってしまった姫を、腕押し、すね押しで負かしちゃう。いやはや、可愛いらしいなあ。最後は首に綱をかけて引き合う勝負となり、気が気でない餓鬼が眷属(高野、松川美韻希、岡聡史)に加勢させるけれど、為朝はタイミングよく綱を外し、鬼を将棋倒しにして逃げ出す。子煩悩な餓鬼はまたまた憎めないキャラですね。
太一郎は贈八世野村万蔵(五世野村万之丞)の長男で、34歳。七世の長男である父が襲名直前、40代の若さで病没してしまい、名跡は叔父一家へ。自らは2017年に父の従弟・二世野村萬斎に師事し、テレビやネットにも積極的とのこと。松川は父の代から指導する茨城・筑西市の子供能楽保存会出身だそうで、頑張ってほしいものです。
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