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おちょこの傘もつメリー・ポピンズ

新宿梁山泊第77回公演 おちょこの傘もつメリー・ポピンズ  2024年6月

5月4日に亡くなった唐十郎の、下世話でロマンティックな1976年初演作を、劇団代表の金守珍が演出。びっくりの豪華配役、新宿花園神社境内の特設紫テントというシチュエーションにひかれ、下手パイプ椅子の補助席4500円に、クッション代わりのタオル持参で。繁華街の騒音が聞こえてくるテント芝居、学園祭のような高揚感… 追悼の湿っぽさはなく、今や歴史となったアングラエネルギーの一端を楽しむ。休憩を挟んで2時間半。
客数は300弱か。前方が桟敷、後方はけっこう急勾配の狭い椅子席で、立ち見も含めぎっしり。キャスト・スタッフが順に誘導し、前説も担当。物販の手ぬぐいでバラシを手伝いに来て、などと笑わせる。客席にも演劇関係者が多そうな、親密な雰囲気だ。

舞台は雑然とした傘屋のワンセット。おちょこ(中村勘九郎)は修理を頼みにきた謎の女・石川カナ(寺島しのぶ)に恋をし、傘で空を飛んでほしくて試行錯誤している。手負いの居候・檜垣(豊川悦司)はかつて歌手のマネージャーをしていて、カナがその別れさせた隠し妻だと気づき、罪滅ぼしをしようとする…
格好つけた檜垣とカナが「芸能界」の歪みを漂わせ、ピュアな空想世界に住むおちょこと好対照。初演当時の演歌歌手と女性ファンのスキャンダルが素材だそうで、これはスターという太陽に隠れた日陰者、死にゆく檜垣がみた一瞬の追想なのか。失敗ばかりの人生だけど、あの世では破れた傘でバラの花咲く町へ飛んでいく、というファンタジーが切ない。
そんな物語を、カナにつきまとうトラック野郎(六平直政)、訳知り顔の後任マネージャー釜辺(風間杜夫)らが掻き回す。

冒頭から、一段高い上手の布団にもたれた豊川が、大仰に色気を振りまく。舞台を観るのは初めて。決して格好よくないし、声もボソボソだけど求心力があるなあ。対する勘九郎は飛んだり跳ねたり、見得を切ったり躍動。父勘三郎が19歳で赤テントを観て歌舞伎の原点を感じた、なんていう伝説も背負い、持ち前の哀しさを発揮する。
寺島は客席中央の通路から、ゆったりと登場。昨秋ついに歌舞伎座出演を果たして、肩の力が抜けた感じかな。後半でようやく出番となる風間が、おひねり飛びそうなギラギラ感で、いちばん拍手が大きい。お尻も出しちゃって、伸び伸びと舞台をさらう。今回のキャスティングのキーマンだという六平も、ジョウロで降らす雨を客席にまき散らしたりして楽しそう。ほかカバン持ちに金、鉄道員に藤田佳和、カナを追い詰める保健所長に松田洋治、犬殺しにのぐち和美。

猥雑だけど会話劇であり、ハムレットのドクロや、風車に向かうドンキホーテなど引用は知的。幕切れは後方の壁が開く屋体崩しと勘九郎のフライングというケレンで、おおいに盛り上がった。日常と地続きの非日常。かつて勘三郎がはしゃいだのも分かる気がする。
終演後、金が挨拶しようとして転び、急きょ椅子を持ち出す一幕も。客席には串田和美さんらしき姿がありました。

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