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文楽「寿柱立万歳」「襲名披露口上」「和田合戦女舞鶴」「近頃河原の達引」

第228回文楽公演 Aプロ 2024年5月

THEATRE1010で2回目の文楽鑑賞。豊竹呂太夫改め11代目豊竹若太夫の襲名披露公演で、ロビーで記念撮影に応じてくれた。竹本座と並ぶ文楽の源流、豊竹座の祖という大名跡が57年ぶりに復活。祖父の10代目は豪放で「命がけの浄瑠璃」と讃えられ、初代国立劇場の開場記念で翁を語ったとか。喜寿の新11代目は地味めな印象だけど、若い頃は作家を目指したという知的な人物だと知りました。1月に咲太夫が鬼籍に入り、切場語りは3人とも無冠という世代交代期。せっかくのイベントだし、かけ声などもっと盛り上がってもいいなあ。前のほう中央の良い席で8000円。休憩3回でたっぷり4時間。

まず「寿柱立万歳」をコンパクトに。2017年の呂太夫襲名でもかかった賑やかな演目だ。簑太郎、文昇の三河万歳コンビが、「べっちゃらこ」「まっちゃらこ」と下世話に躍動する。咲寿太夫、亘太夫ら4丁3枚で。
短めの休憩のあと、口上。豊竹呂勢太夫が良い声で司会を務め、竹本錣太夫、竹澤團七、桐竹勘十郎が、先代の馬券の買い方だの、ブラジル公演でのビーチ通いだの、笑いをまじえて祝儀を述べる。後方に芳穂太夫、小住太夫らが神妙に。

休憩を挟んで、襲名披露の「和田合戦女舞鶴」から市川初陣の段を、渋く新・若太夫、清介で。初めて鑑賞したと思うけど、女武者の板額(初役の勘十郎)が愛児・市若丸(紋吉)を犠牲にしちゃう「先代萩」並みの悲劇で、こりゃ重いぞ~ 三味線にもっと切れがあるのが好みかな。
舞台は北条政子尼公(簑二郎)の館。なぜか謀反人の妻・網手(紋臣)と子・公暁丸(勘次郎)を匿っている。警護する板額は、将軍・実朝が差し向けた子供武者のひとり、初陣の市若丸を励ますものの、夫・与市(玉志)が結んだ兜の緒がほどけて、討ち死の暗示かと動揺する。伏線ですね。そこへ政子から、実は公暁丸は前将軍・頼家の遺児・善哉丸と知らされ、夫が市若丸を身代わりにするつもりなのだと悟る。
続く板額の葛藤。悲嘆なのに華麗な節回しが聴かせどころ。幼い市若丸の言葉に、「あの腹をや。腹を」と覚悟を決め、市若丸は逆臣の子だと芝居をうっちゃう。狙い通り、ショックを受けた市若丸は自害。板額、駆けつけた与市は、いまわのきわの愛児に真実を語り聞かせ、慟哭しつつ身代わりになった手柄を誉める。政子は善哉丸を出家させ、板額は市若丸の首を夫に渡す。あんまりだ~

再び休憩があって一転、明るい「近頃河原の達引」からまず堀川猿回しの段。住太夫や勘十郎、玉男で観てきた定番演目だ。前は迫力の織太夫、藤蔵、清公、切は錣太夫に安定の宗助、寛太郎。玉助の猿回し与次郎が、コミカルかつ正直者の愛すべきキャラクターで大活躍だ。
舞台は京・堀川、遊女おしゅん(清十郎)の貧しい実家。兄・与次郎と目の不自由な母(文司)は、戻された美しいおしゅん(清十郎)のところへ、指名手配中の若旦那・伝兵衛(一輔)がしのんできて心中するのでは、と警戒している。冒頭、母が指遣いを駆使して三味線を稽古したり(心中ものの「鳥辺山」)、帰宅した与次郎の猿2匹(勘介)が無心に動き回ったり、面白いシーンが続く。おしゅんは二人を安心させようと、伝兵衛への離縁状を書いてみせる。
その夜は師走十六夜の満月。おしゅんが門口に差した簪を目印に、案の定、伝兵衛が訪ねてきて、おしゅんがこっそり抜け出そうとする。気づいた与次郎と母がドタバタで笑わせた後、離縁状が書き置き(遺書)だったと判明。母は盲目、与次郎は無筆の哀しさが染みる。「そりゃ聞こえませぬ伝兵衛さん」というクドキで、おしゅんの思いを悟る老母。兄もプロ根性をみせ、賑やかな猿回しで妹と恋人を送り出す。
セット転換があり、34年ぶりの上演という道行涙の編笠。三輪太夫、小住太夫、團七ら4丁3枚が聴かせる。猿回しを装い、夜道を歩くおしゅんと伝兵衛は洛東・聖護院の森にたどり着く。上演はここまでだけど、その後、心中寸前に伝兵衛は無罪放免、おしゅんと夫婦になるハッピーエンドだそうです。堪能しました~

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須川崇志コントラバスの会

須川崇志コントラバスの会 2024年5月

 三宿のロシア料理店サモワールで、須川崇志さんのコントラバス(ウッドベース)のソロを聴く。ほとんど即興で、パブロ・カザルス「鳥の歌」やスタンダードも交えつつ、リズムがあるような無いような、メロディーがあるような無いような。これがジャズ心なのかな。チェロも弾く人で、ボウを手に取ると人が語るよう。木製のカエルやジャラジャラで音を変化させたり、遊び心が楽しい。20~30人サイズでなんとも贅沢な夜。
お人柄も気さくてお洒落で、魅力的だ。バークリー音大を卒業後、ニューヨークで菊地雅章氏に師事し、帰国後は日野皓正クインテットに参加していた人なんですねえ。今はいろんなグループや平家物語の舞台、音楽祭で活躍しつつ、Banksia Trio(ピアノの林正樹、ドラムでBlueGiantでも叩いていた石若駿)を主宰とのことで、最新の2023年「MASKS」を購入しました~

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メディスン

Medicine メディスン  2024年5月

ダブリン育ちで注目の劇作家、エンダ・ウォルシュの2021年の最新作「Medicineメディスン」を、手練れの芸術監督、白井晃の演出で。弱い者、欠けている者は見なかったことにしたい。誰しも思い当たる後ろめたさを容赦なく突きつけ、みていて苦しくなる。俳優3人の健闘に加え、後方のブースに陣取る荒井康太のドラムが、ズンズン心を揺さぶる。演劇好きが集まった感じのシアタートラム、後ろのほう上手寄りで7500円。休憩なしの濃密な1時間40分。

何か施設の一室。説明はなく、雑然とした閉鎖空間にパジャマ姿のジョン(田中圭)が入ってくる。そこへ老人の扮装の女優メアリー(奈緒)、ロブスターの着ぐるみのメアリー2(富山えり子)、ドラム奏者(荒井)がやってくる。どうやら「治療」のため、ジョンの半生の手記を「上演」するらしい。
メアリーたちは売れない役者で、次々に衣装を替えてシーンを再現、荒井が効果音を担当。古いディスコナンバーで弾けるし、俳優あるあるの笑えるエピソードもふんだん。けれどジョンの告白は、孤独で辛い。父母や級友に冷たくされ、教会で追い詰められ、声がうるさいと施設に留め置かれ、淡い恋は…  姿を見せずに監視していて、役者とジョンを操る「質問者」の声(近藤公園)が怖い。美術は二村周作。

段取りが多く、テンポの速い緻密な芝居だ。意味不明の突風とか、ト書きも相当細かいらしい。
それをこなした俳優陣が高水準で、なにより、格好悪くて弱っちい田中がはまり役。挑戦しているなあ。ジョンを理解していく奈緒のピュアな存在感に、一筋の救いがあり、効率的にバイトをこなす富山との対照が効果的だ。
荒井はなんでも出身地・青ヶ島の伝統太鼓の名手で、カメルーンで修業したとか。映画「オッペンハイマー」ばりに、音の力を見せつける。ほかに声だけで有川マコトや小林勝也ら。

ロマンティックな映画で、ミュージカル版も観た「ONCE ダブリンの街角で」の脚本家とは思えないヘビーさでした~ 最後列に白井さんの姿も。

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