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夢の泪

こまつ座第149回公演「夢の泪」  2024年4月

井上ひさし「東京裁判三部作」の2003年初演作を、定番の栗山民也演出で。庶民の戦争責任を鋭く問う「重喜劇」が、今だからこそ強いメッセージを放つ。紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAの、前のほう下手寄りで8800円。休憩を挟んで3時間。

敗戦翌年の春、新橋の弁護士事務所。セット後方の紗幕に空いた焼け焦げの穴が、焦土と化した東京を象徴する(美術は長田佳代子)。菊治(ラサール石井)は浮気癖があり、優秀な妻の秋子(秋山菜津子)に見放されかかってオロオロしている。そんな折、秋子がなんと東京裁判で、松岡洋右の弁護人補佐に指名される。いったいどこで日本は道を誤ったのか、自らの手で明らかにしなければならない。強い使命感で臨む苦労と、その挫折が、救いようのない曖昧さを突きつける。
一方、歌の所有権争いを持ち込む占領軍将校クラブの歌手、ナンシー(ヨーロッパ企画の藤谷理子)とチェリー(板垣桃子)は実は被爆者。娘・永子(「ガラパコスパコス」などの瀬戸さおり)が思いを寄せる若い組長代理・片岡(前田旺志郎)は朝鮮人、米軍法務大尉のビル小笠原(「レオポルトシュタット」などの土屋佑壱)は日系人と、それぞれにいわば見捨てられた存在であり、しかもその問題は今も解決していない。終盤、ナンシーらの「桜の歌」の真実がわかったとき、一庶民の無念と望郷が観る者の心を震わす。

テーマは重いんだけど、歌と笑いもふんだん。石井が金勘定に忙しい俗物・菊治の造形をくっきりと描き、対する秋山はいつもながら凜と。歌の巧い瀬戸、前田のコンビに透明感があり、藤谷らはがちゃがちゃと賑やかで、いいリズムだ。事務所を手伝うベテラン竹上の久保酎吉と、夜学生・田中の粕谷吉洋が安定感を発揮、土屋の米国人っぽさが巧かった。ピアノはお馴染み朴勝哲。

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