ヤマトタケル
スーパー歌舞伎 三代猿之助四十八撰の内 ヤマトタケル 2024年3月
立師・市川猿四郎さんのワークショップに触発されて、澤瀉屋渾身の舞台へ。戯曲の含蓄、ダイナミックなエンタメ性、そしてあっぱれ市川團子自身のドラマも重なって、有名なラストの宙乗り飛翔シーンにぐっときた。休憩2回を挟み4時間強の大作だけど、たるみは無い。新橋演舞場、前のほう正面のいい席で1万6500円。
1995年の祖父・猿翁と、2012年の伯父・猿之助襲名・團子初舞台の映像を、ざっと予習してからの観劇。映像でも十分面白かったけど、リアルだから伝わってくるものが、さらに大きい。
演目はいわずとしれた記紀の日本武尊伝説をベースに、哲学者・梅原猛が書き下ろして1986年に初演、本公演で上演1000回を迎えた。主役のタケルは第12代景行天皇の皇子というから、実在したとすれば4世紀ごろか。誤って双子の兄を殺して父に疎まれ、過酷な熊襲、さらには蝦夷の平定を命じられる。超人的な戦果をあげるも、切望した大和への帰還を目前にして、滋賀・伊吹山で倒れてしまう。
単なる英雄譚ではない。私たちが生きる現在は古代からの地続きであり、鉄とコメ=先進性に対する反発や、進んでいるがゆえの傲慢が身を滅ぼすというメッセージは、普遍的だ。それでも革新へと突き進まずにはいられない、亡き猿翁の強烈な自負も横溢。ちょうど読んでいる古代史小説にも連想がつながって、深い。
演出は隈取りや附け、早替り、ぶっかえりなど歌舞伎の妙味がたっぷりだ。加えて1幕熊襲の国での、二階建てセットで樽をぶんぶん投げちゃうアクロバットや、2幕焼津の、京劇にヒントを得たという旗を使った火の表現がスペクタクル。宝塚もびっくりのキンキラ衣装にはうっとり。装置は朝倉摂、耳に残る曲は長沢勝俊、浄瑠璃は鶴澤清治だったんですねえ。
キャストはなんといっても、タイトロールの市川團子に引き込まれた。いま二十才、未熟だからこそのエネルギーと、まっすぐに父を求めて報われない切なさが義経を思わせる。ボロボロになっていく最期に至っては、アメリカンニューシネマのよう。相棒タケヒコの中村福之助と手下ヘタルベの歌之助兄弟、そしてヒロイン兄橘姫・弟橘姫の中村米吉も、若さが伸びやかだ。もちろん叔母・倭姫の市川笑三郎、熊襲兄タケルの市川猿弥ら脇は盤石。市川中車の帝は、宿縁を乗り越えて息子を支える経緯を思わずにはいらない、凄い役です。老大臣・市川寿猿はなんと93歳、初演以来38年全公演に出演してきたとか。そして猿四郎さんは蝦夷・相模の国造ヤイレポでした。
團子の猿之助襲名が楽しみになりました~
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