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骨と軽蔑

KERACROSS5 骨と軽蔑  2024年3月

作・演出ケラリーノ・サンドラヴィッチの新作を、宮沢りえ、鈴木杏、小池栄子と主役級がずらりの豪華キャストで。心にのしかかる内戦の爆撃音を背景に、チェーホフ風の、あくまで小さな個人同士の口げんかを描く。コミカルなファンタジーでいて、会話劇の底に絶えない対立の本質、壊れゆく世界を思わせ、周到だ。なんとかゲットした満席のシアタークリエ、中段で1万2500円。休憩を挟んでたっぷり3時間。

舞台はどこか外国、東西に分かれた内戦のさなか。男はみな戦闘に駆り出されている状況だけど、軍需で潤う屋敷はどこか他人事で、作家で夫の失踪に心を傷める姉マーゴ(宮沢りえ)、年の割に子供っぽい妹ドミー(鈴木杏)、アル中の母グルカ(峯村リエ)、ひょうひょうとした古参家政婦ネネ(犬山イヌコ)が暮らす。当主の父は寝たきりで登場せず、世話するのはもっぱら我が物顔の秘書兼愛人ソフィー(水川あさみ)だ。

実はずっと夫からマーゴに手紙が届いているんだけど、思いを寄せていたドミーが隠してしまい、マーゴは気づかないまま。「好きになったのは私が先だったのに」というドミーの心のよじれが切ない。そして雨の夜、熱烈なファンのナッツ・ブラウニー(小池栄子)が訪ねてきて、寂しいマーゴと心を通わせるものの、敏腕編集者ミロンガ(堀内敬子)が登場して打ち合わせを始めると、ナッツは疎外感を抱く…
父の死、家業の行き詰まり、マーゴの受賞、二転三転する手紙の真実。女たちの関係はじわじわ歪んでいく。悲劇を暗示する幕切れが鮮やか。

可愛い衣装をまとった手練れの女優7人が、それぞれの欠落と相互依存を演じて見事。小池は奇妙な訛りと勢いで存分に笑わせつつ、いいようのない孤独を表現して存在感を発揮。宮沢の持ち前の凜とした感じと、鈴木のいじらしさが冴え、その落差が効果的だ。狂言回しの犬山、自棄っぱち峯村、きびきびした堀内も期待通り。このキャストと渡り合った水川が、終盤の変わり身の早さをあっけらかんと見せて、なかなかよかった。

洋風建築のワンセット(美術は秋山光洋)と映像(上田大樹)が、いつもながらお洒落。庭と室内が混在しちゃうギャグや回転する納屋、イライラさせる虫など、舞台ならではの不条理感がケラワールドで、たまりません。

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