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う蝕

う蝕  2024年2月

次代を担う横山拓也の新作を、瀬戸山美咲が演出。すべての「生き残ってしまった者」の悔恨、迷い、祈りを丁寧に描く。年初の能登半島地震で、上演には悩みがあったという。難しいんだけど、よく練られていて、観る者の想像力を揺さぶる佳作となった。
岩松了さんの2018年「三人姉妹はホントにモスクワに行きたがっているのか?」以来、舞台2回目という坂東龍汰が、まっすぐなチャーミングさで不思議世界を牽引する。シアタートラムの中段で7500円。休憩無しの1時間45分。

舞台は離島「コノ島」。瓦礫らしき段ボールが散乱している。謎の激烈な陥没「う蝕(虫歯)」に襲われ、遺体安置所や避難所も沈んでしまい、全島避難指示が出ているのだ。しかし3人の歯科医が残って、犠牲者の身元を確認中。移住者の梶田(新納慎也)、本土から派遣された加茂(近藤公園)と加茂を慕う若い木頭(坂東)だ。そこへ胡散臭い役所の佐々木﨑(相島一之)、木頭と同期のボンボン剣持(綱啓永)が加わり、謎の白衣の男・久留米(正名僕蔵)も現れて「ここにいるべきではない人間がいる」と言い出し…

災害というリアルな不条理。いきなりボコっと近藤の足が地面にはまって、背中がぞくっとする。ユーモアをまじえつつ、噛み合わない会話や視線、途中の暗転などがミステリーをはらみ、引き込まれる。堀尾幸男の美術や不穏な音響、計算された照明の変化が秀逸だ。終盤でなんとか状況がわかってきたとき、島の社と香り高い沈丁花が象徴する鎮魂の思いが胸に染み入る。

戯曲、演出はとにかく緻密。役者陣がそれによく応えただけでなく、新納をはじめ、それぞれに切なさを漂わせて魅力的だ。いつか横山自身の演出で再演を観てみたいかも。

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