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一中節「辰巳の四季」「お夏笠物狂」「小町少将道行」「唐崎心中」「小春髪結之段」

初世都一中没後300年記念 一中節演奏会 2024年2月

江戸三味線音楽の源流(古曲)、一中節のホール演奏会に初参加。初世一中は琴の八橋検校や竹本義太夫、近松、芭蕉、尾形光琳と同時代に生きた教養人だそうで、いろんな文化とのつながりが興味深い。都一中、了中以外の出演は女性で、演技はなくお辞儀も軽く、粛々と進むのがちょっと不思議。お弟子さんたちが集まった感じの紀尾井小ホール、自由席で5000円。休憩を挟んで2時間。

まず了中さんの明朗な解説があり、原点の「辰巳の四季」から。浄瑠璃は渋く一中。「春霞たなびきにけり久方の」と、いにしえの紀貫之の和歌に始まり、京の辰巳(南東)にある宇治の景観、「吸いつけ煙草、雲をふき」など住民の暮らしぶりを語る。終盤、一上がりになって「おさまる国こそ久しけれ」と結ぶ。スケールが大きいなあ。
いったん幕が降りて「お夏笠物狂」。浄瑠璃は一みき、一翠。箱入り娘お夏と手代清十郎の許されない恋ですね。文楽では1962年に「五十年忌歌念仏」笠物狂の段(舞踊)のみ復活されたそうで、2012年に聴いたことがある。義太夫と違って一中節では、古典文学全集にある近松の原文のまま、初世の曲を今も演奏しているそうです。「むかひ通るハ清十郎じゃないかいの 笠がよく似た菅の小笠が」「小舟つくりておなつをのせて 花の清十郎に櫓をおさしょへ」。誤って同僚を殺め、逃亡した清十郎を追って、町をさまようお夏。愚かさが哀れです。
一転、雅びになって「小町少将道行」。いい声の了中の浄瑠璃を、一中の三味線が支える。絶世の美女・小野小町に恋した深草少将が、百夜(ももよ)通いの九十九日目に力尽きで亡くなっちゃうという、世阿弥が能「卒塔婆小町」で描いた物語。「千載集」で和歌を確立した藤原俊成の幽玄体にも通じる、音の消えたあとの空白を楽しんでほしいと。高度過ぎ~

休憩の後、一中さん登場。装束は京都明福寺に残る初世の絵姿に似せてみた、浄瑠璃と三味線の丁々発止は、俵屋宗達の金銀泥の鶴の上に、本阿弥光悦が和歌を「散らし書き」した重文「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」のようなもの、YOASOBIは母音が聴きやすく古典に通じる…と相変わらず縦横無尽です。そして「小いな半兵衛唐崎心中」。浄瑠璃は静岡在住で保存会員(重文の構成員ですね)の一桜で、70代と思えない重厚さがさすが。三味線は一中がリードし、邦楽一家で清元・長唄の名取でもある一志朗と。昨秋に旅行した琵琶湖畔の近江八景を織り込んでいて、流麗。漱石「三四郎」にも登場する曲なんですねえ。
ラストは「小春髪結之段」。浄瑠璃は一すみ(イサム・ノグチやクラシックの細川俊夫と交流があり、チェロのヨーヨー・マと共演したこともある琴奏者、川村京子さん)、三味線はもちろん一中。名作「心中天の網島」の一場面で、近松が初世のために書き下ろしたのでは、とのこと。文楽では3回観ていて、「時雨の炬燵」で身をひく妻おさんが印象的な演目だけど、このシーンは遊女・小春が主人公。毎日髪を結っているお綱が、無言のうちに紙屋治兵衛と心中する決意を察して、それとなく諭す。「かならずあんじてくだんすな」と、色っぽくも緊張感が漂う。

知人がデザインしているプログラムの、詞章の文字が素敵。「シンポジオン」シリーズで会うかたがた、金融界大物ご夫妻の姿も。

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