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反田恭平&ジャパン・ナショナル・オーケストラ

反田恭平&ジャパン・ナショナル・オーケストラ コンサートツアー2024  2024年2月

去年秋、大雨の中で聴いた東大寺奉納公演以来、五か月ぶりに反田恭平&JNO(ジャパン・ナショナル・オーケストラ)の コンサートへ。若さ溢れるオケと、指揮者・反田くんのオケへの愛情、キラキラしたピアノで幸せ一杯だ。ファンが集まった感じのサントリーホールのなんと3列目、指揮とピアノがよく見える上手寄りで8000円。休憩を挟んで2時間。
前半は意欲的に、まずラヴェルの組曲「クープランクの墓」(管弦楽版)。一次大戦で亡くなった友人6人の追悼がテーマだそうで、6曲の変化にメリハリがあり、木管が活躍。大がかりな舞台転換があって、2曲目は技巧派プーランクの「 ピアノと18の楽器のための舞踏協奏曲『オーバード』FP51a」は、なんとヴァイオリン不在でヴィオラがトップ。冒頭から響く金管楽器のファンファーレも重々しい。ピアノは上手側に鍵盤が向く配置になり、ティンパニとの激しい打楽器対決など手元がよく見えて面白かった。それにしても指揮とピアノ、忙しすぎ。

休憩を挟んで後半は、聴いて安心なモーツアルト。3曲目はお馴染み「歌劇『ドン・ジョヴァンニ』序曲 K.527」。舞台の華やかさと衝撃が目に浮かぶ。反田くんは将来オペラを指揮したいので序曲から勉強しているそうだ。いつか聴くぞ! また舞台転換があって、ラストはドラマティックに「 ピアノ協奏曲第20番ニ短調」。ピアノが中央、客席に背を向ける配置になり、今度は右側からじっくり。なんて美しい音楽。

アンコールもまずモーツァルトで、「クラリネット5重奏曲イ長調」2楽章。セットを下手に寄せ、JNOの5人が立って演奏。イタリア出身のクラリネット、ベヴェラリの表情が豊かで、和やかな空気が会場に満ちる。舞台上の椅子に座って見守る反田くんもいい。
そして反田くんがピアノソロで「シューマン(リスト編曲)献呈」を披露。シューマンが歌曲集「ミルテの花」で、妻クララに送ったシンプルな原曲を、リストが装飾たっぷりに編曲したという、超絶技巧が満載。音の粒が優しく、キラキラと立ち上って宝石箱のようでした~

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一中節「辰巳の四季」「お夏笠物狂」「小町少将道行」「唐崎心中」「小春髪結之段」

初世都一中没後300年記念 一中節演奏会 2024年2月

江戸三味線音楽の源流(古曲)、一中節のホール演奏会に初参加。初世一中は琴の八橋検校や竹本義太夫、近松、芭蕉、尾形光琳と同時代に生きた教養人だそうで、いろんな文化とのつながりが興味深い。都一中、了中以外の出演は女性で、演技はなくお辞儀も軽く、粛々と進むのがちょっと不思議。お弟子さんたちが集まった感じの紀尾井小ホール、自由席で5000円。休憩を挟んで2時間。

まず了中さんの明朗な解説があり、原点の「辰巳の四季」から。浄瑠璃は渋く一中。「春霞たなびきにけり久方の」と、いにしえの紀貫之の和歌に始まり、京の辰巳(南東)にある宇治の景観、「吸いつけ煙草、雲をふき」など住民の暮らしぶりを語る。終盤、一上がりになって「おさまる国こそ久しけれ」と結ぶ。スケールが大きいなあ。
いったん幕が降りて「お夏笠物狂」。浄瑠璃は一みき、一翠。箱入り娘お夏と手代清十郎の許されない恋ですね。文楽では1962年に「五十年忌歌念仏」笠物狂の段(舞踊)のみ復活されたそうで、2012年に聴いたことがある。義太夫と違って一中節では、古典文学全集にある近松の原文のまま、初世の曲を今も演奏しているそうです。「むかひ通るハ清十郎じゃないかいの 笠がよく似た菅の小笠が」「小舟つくりておなつをのせて 花の清十郎に櫓をおさしょへ」。誤って同僚を殺め、逃亡した清十郎を追って、町をさまようお夏。愚かさが哀れです。
一転、雅びになって「小町少将道行」。いい声の了中の浄瑠璃を、一中の三味線が支える。絶世の美女・小野小町に恋した深草少将が、百夜(ももよ)通いの九十九日目に力尽きで亡くなっちゃうという、世阿弥が能「卒塔婆小町」で描いた物語。「千載集」で和歌を確立した藤原俊成の幽玄体にも通じる、音の消えたあとの空白を楽しんでほしいと。高度過ぎ~

休憩の後、一中さん登場。装束は京都明福寺に残る初世の絵姿に似せてみた、浄瑠璃と三味線の丁々発止は、俵屋宗達の金銀泥の鶴の上に、本阿弥光悦が和歌を「散らし書き」した重文「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」のようなもの、YOASOBIは母音が聴きやすく古典に通じる…と相変わらず縦横無尽です。そして「小いな半兵衛唐崎心中」。浄瑠璃は静岡在住で保存会員(重文の構成員ですね)の一桜で、70代と思えない重厚さがさすが。三味線は一中がリードし、邦楽一家で清元・長唄の名取でもある一志朗と。昨秋に旅行した琵琶湖畔の近江八景を織り込んでいて、流麗。漱石「三四郎」にも登場する曲なんですねえ。
ラストは「小春髪結之段」。浄瑠璃は一すみ(イサム・ノグチやクラシックの細川俊夫と交流があり、チェロのヨーヨー・マと共演したこともある琴奏者、川村京子さん)、三味線はもちろん一中。名作「心中天の網島」の一場面で、近松が初世のために書き下ろしたのでは、とのこと。文楽では3回観ていて、「時雨の炬燵」で身をひく妻おさんが印象的な演目だけど、このシーンは遊女・小春が主人公。毎日髪を結っているお綱が、無言のうちに紙屋治兵衛と心中する決意を察して、それとなく諭す。「かならずあんじてくだんすな」と、色っぽくも緊張感が漂う。

知人がデザインしているプログラムの、詞章の文字が素敵。「シンポジオン」シリーズで会うかたがた、金融界大物ご夫妻の姿も。

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中村仲蔵

Sky presents 中村仲蔵〜歌舞伎王国 下剋上異聞〜   2024年2月

落語で知られる中村仲蔵の出世譚を、源孝志脚本、蓬莱竜太演出で。藤原竜也が演じることにとりつかれた仲蔵を描ききり、自身とリアルに重なって圧巻だ。新たな代表作の予感。初めての東京建物ブリリアホール(豊島区立芸術文化劇場)、中段で1万3800円。休憩を挟んで3時間。

2022年末に源の脚本、中村勘九郎主演で話題だったNHKドラマ「中村仲蔵 出世階段」をベースにしているが、仲蔵の復帰を後押しする妻を省略。そのことで楽屋なぶり(いじめ)を跳ね返す、仲蔵自身の「面白い芝居がしたい」という情熱に的が絞られて効果的だ。
藤原は冒頭、セリがあがって第一声から、もう目が離せない存在感を発揮。ドロドロの人間関係のなかでみせる、あっと驚くイノシシの熱演がリアル。「外郎売」の言い立ても頑張っていた。あげく立作者・金井三笑の今井朋彦が稽古で灰皿を投げちゃう、まさかの蜷川オマージュも。

仲蔵にめをかける大物・四代目市川團十郎の高嶋政宏が貫禄たっぷり。伝説となった忠臣蔵五幕目、斧定九郎のヒントを与える酒井新左衛門は市原隼人で、独特の大時代さが題材にはまっていた。三味線にもチャレンジ。オペラ座の怪人よろしく、奈落に潜むお稲荷さんの化身・コン太夫の池田成志は、相変わらず自在の演技で絶妙の舞台回しだ。ほかに兄弟弟子の中村伝蔵(のちの二代目市川八百蔵)に浅香航大、ライバル瀬川錦次(のちの四代目松本幸四郎)に古河耕史、稲荷町役者に植本純米ら。

三階建てのセットで、名題、名題下などの身分制度を象徴。美術は伊藤雅子。振付は中村流八代目家元の中村梅彌(七代目芝翫の長女、現在の勘九郎は甥)だけど、群舞になると形が揃わないのは致し方ないか。歌舞伎指導はお馴染み中村いてう。四代目團十郎が革新者だったとか、上方へ移る三笑に付き従うのがのちの鶴屋南北(斉藤莉生)とか、歌舞伎歴史ネタも面白かった。

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クイーン+アダム・ランバート

QUEEN+ADAM LAMBERT THE RHAPSODY TOUR  2024年2月

ブライアン・メイの心臓手術やパンデミックを乗り越え、ツアー最終公演の日本ドーム・ツアーに参戦。次々畳みかけるキャッチーなナンバー、わき上がる大合唱。バンドも聴衆も、東京ドームいっぱいのスケールで「ご機嫌」が満ちるって凄いこと。頑張ってゲットしたアリーナの下手、割と前のC5ブロック3列で、歌い踊りました~ 2万5000円、たっぷり2時間強。

ブライアン76歳、ロジャー74歳(1981年モントリオールでのティンパニソロ映像との競演も!)とは思えない演奏に、2020年と比べて格段に自信に満ちた、アダムの突き抜けるボーカルがステージを牽引する。個人的には今回、A Kind of Magicがご機嫌だった。
加えてお馴染みのキラキラ宮殿セットにとどまらず、文明批評も込められた演出と選曲が、止らない進化を感じさせる。導入とラストのロボット「フランク」の巨大映像とRadio Ga Gaは、AI時代の人間性喪失を思わせ、中盤の宇宙空間に浮かぶギターソロ「さくらさくら」「新世界より(遠き山に日は落ちて)」から、ライブでは1986年以来というIs This the World We Created…?では、ひび割れた地球で温暖化の危機を明示。問題意識がクリアだからこそ、その克服を信じるような、ラストのWe Are the Championsが力強く響く。
もちろんBicycle Raceのド派手バイクからI Was Born To Love Youの高揚感や、12弦アコースティックギターの音色に、お約束のフレディの映像が切ないLove of My Lifeから、アダムも歌うTEO TORIATTE、ブライアンの漢字「和」「一期一会」Tシャツと、日本愛も忘れません。ファンが掲げるメンバーの似顔絵を、アダムが紹介しちゃう一幕も。
クイーンファンの友人との反省会も大盛り上がりでした~ 以下セットリストです。

1. Machines (Or 'Back to Humans') / Radio Ga Ga
2. Hammer to Fall
3. Fat Bottomed Girls
4. Another One Bites the Dust
5. I'm in Love With My Car
6. Bicycle Race
7. I was Born to Love You
8. I Want It All
9. Love of My Life
10. TEO TORIATTE (Let Us Cling Together)
11. Drum Solo
12. Under Pressure
13. Tie Your Mother Down
14. Crazy Little Thing Called Love
15. You Take My Breath Away~Who Wants to Live Forever
16. Guitar Solo
17. Is This the World We Created…?
18. A Kind of Magic
19. Don't Stop Me Now
20. Somebody to Love
21. The Show Must Go On
22. Bohemian Rhapsody
アンコール:
23.Ay-Oh
24. We Will Rock You
25. Machines (Or 'Back to Humans') / Radio Ga Ga
26. We Are the Champions

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う蝕

う蝕  2024年2月

次代を担う横山拓也の新作を、瀬戸山美咲が演出。すべての「生き残ってしまった者」の悔恨、迷い、祈りを丁寧に描く。年初の能登半島地震で、上演には悩みがあったという。難しいんだけど、よく練られていて、観る者の想像力を揺さぶる佳作となった。
岩松了さんの2018年「三人姉妹はホントにモスクワに行きたがっているのか?」以来、舞台2回目という坂東龍汰が、まっすぐなチャーミングさで不思議世界を牽引する。シアタートラムの中段で7500円。休憩無しの1時間45分。

舞台は離島「コノ島」。瓦礫らしき段ボールが散乱している。謎の激烈な陥没「う蝕(虫歯)」に襲われ、遺体安置所や避難所も沈んでしまい、全島避難指示が出ているのだ。しかし3人の歯科医が残って、犠牲者の身元を確認中。移住者の梶田(新納慎也)、本土から派遣された加茂(近藤公園)と加茂を慕う若い木頭(坂東)だ。そこへ胡散臭い役所の佐々木﨑(相島一之)、木頭と同期のボンボン剣持(綱啓永)が加わり、謎の白衣の男・久留米(正名僕蔵)も現れて「ここにいるべきではない人間がいる」と言い出し…

災害というリアルな不条理。いきなりボコっと近藤の足が地面にはまって、背中がぞくっとする。ユーモアをまじえつつ、噛み合わない会話や視線、途中の暗転などがミステリーをはらみ、引き込まれる。堀尾幸男の美術や不穏な音響、計算された照明の変化が秀逸だ。終盤でなんとか状況がわかってきたとき、島の社と香り高い沈丁花が象徴する鎮魂の思いが胸に染み入る。

戯曲、演出はとにかく緻密。役者陣がそれによく応えただけでなく、新納をはじめ、それぞれに切なさを漂わせて魅力的だ。いつか横山自身の演出で再演を観てみたいかも。

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文楽「2人三番叟」「仮名手本忠臣蔵」

第257回文楽公演 第一部  2024年2月

国立劇場閉場後の文楽本公演は、日本青年館ホールから。中央のいい席で7000円。立地がよく、客席もきれいだ。ロビーは狭め。名作と景事(舞踊)1本すつの3部制で、1部は2時間強。コンパクトで負担が少ないけど、ちょっと物足りない気もする。

幕開けは睦太夫・勝平ら4丁3枚で、賑やかに「二人三番叟」。紋吉、玉翔の人形は発展途上かな。
休憩後に「仮名手本忠臣蔵」から、悲劇的な五段目・六段目。小住太夫の山崎街道出合いの段から、希太夫・團七に藤之亮の胡弓が入る二つ玉の段へ。定九郎は簑紫郎。
身売りの段は織太夫・藤蔵で、テンポ良く音楽的に。おかるは紋臣、一文字屋才兵衛は簑一郎で安定感がある。
眼目の早野勘平腹切りの段は、呂太夫・清介でじっくりと。玉助が動きを押さえた勘平を、折り目正しく力演。驚き、疑念、怒りと、どんどん逆上していく与市兵衛女房の簑二郎とのやりとりに、緊迫感がある。

1月に咲太夫が亡くなり、切り場語りは3人になった文楽一座。頑張ってほしいです。ロビーでは能登半島地震の募金も。
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エウゲニ・オネーギン

エウゲニ・オネーギン 2024年2月

プーシキン原作、チャイコフスキー作曲「オネーギン」で、流麗な音の世界に酔う。リアル鑑賞は2016年、ゲルギエフ指揮のマリインスキー以来。そして今回は、溌剌とした指揮者ヴァレンティン・ウリューピン、タイトロールのユーリ・ユルチュク(バリトン)らがなんとウクライナ出身、ヒロイン・タチヤーナのエカテリーナ・シウリーナ(ソプラノ)ら主要キャストはロシア出身! 盤石の日本人キャスト、東京交響楽団とで作り上げた画期的な舞台で、感慨深い。いまここにある平和。満員の新国立劇場オペラハウス、中段上手寄りのいい席で31000円(解説会、プログラム込み)。休憩1回で3時間強。

若く長身のウリューピンの指揮が、繊細かつ活気があって、弦楽器が甘く切なく、ここぞというところでクラリネットやホルンが際立つ。お馴染みの舞踏会は、タチアーナ家は軍楽隊のワルツ、ポロネーズで素朴に、ペテルブルクで大使を迎えた公爵家ではポロネーズ、エコセーズで都会的。
歌手はそれぞれにアリアを存分に聴かせる。まず目立ったのはライバル・レンスキーのヴィクトル・アンティペンコ(テノール)。声量がピカイチで、2幕オネーギンとの決闘前の「どこへ行ってしまったのだろう」が伸びやか。もう1人のライバル、グレーミン公爵のアレクサンドル・ツィムバリュク(バス)も美声で、3幕でちょこっと出てきて「恋に年齢は関係ない」をたっぷりと。得な役だなあ。対するユルチュクはちょっと押され気味だったけど、個人的にはそこがキャラに合っていて、長身イケメンでもあり、3幕「間違いなく僕は恋をしている」など、説得力があった。
女声陣はなんといってもシウリーナがリリカルで、お馴染み1幕の長大な「手紙の場」や、がらりと貴婦人になった幕切れオネーギンとの二重唱「幸せはすぐそばにあったのに」を表情豊かに歌いきり、妹オリガ役アンナ・ゴリチョーワ(メゾ)の深い声と、いい対照だ。母ラーリナの郷家暁子(メゾ)ら日本人も大活躍。

ドミトリー・ベルトマンの演出は古典的な装置だけど凝っていて、2019年オープニングの初演映像と比べても面白かった。ご一緒したオペラ仲間が「ふぞろいの林檎たちだね」とおっしゃっていた通り、すれ違う男女4人の愚かさ、皮肉屋オネーギンが最も未熟という青春の皮肉が、くっきり伝わる。ロシアと言えばジャムとばかり冒頭、タチヤーナ家に所狭しと自家製ジャムの壺が並び、舞踏会シーンで激昂したレンスキーをなだめようと、オリガが空しくジャムを差し出しちゃったり、決闘シーンで自棄になったオネーギンが、ろくにレンスキーを見もせずに発砲したり。
新国立劇場合唱団が相変わらずのクオリティなうえ、振付も達者にこなす。舞踏会の客全員でオネーギンを一瞥するところとか、ダンサー顔負けの表現力だ。

鑑賞前に加藤浩子さんの解説を伺い、終演後は立会人ザレツキー役のヴィタリ・ユシュマノフさん、郷家さん、さらにご主人で格好良いバスバリトンの河野鉄平さんをお迎えして懇親会も。充実していました!

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