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デッドマン・ウォーキング

METライブビューイング2023-24 デッドマン・ウォーキング 2023年12月

METライブビューイング新シーズンの幕開けは、なんと1995年ティム・ロビンス監督の映画で知られるノンフィクションだ。ジェイク・ヘギーによる2000年のオペラ化作品をMET初演で。2月の「めぐりあう時間たち」がよかったので足を運んだら期待以上、感動の名作でした。
粗野な死刑囚としっかり者の修道女に芽生える深い愛情を、映画音楽のような美しく分厚い響き、時にブルース調の切ないアリアで描く。米国を代表するメゾ、ジョイス・ディドナートが素晴らしく、幕切れのつぶやくような賛美歌「主はわたしたちを集めて」が染みた~ 音楽監督ヤニック・ネゼ=セガン指揮。10月21日の上演で、休憩を挟んで3時間半。椅子が新しくなった東劇で3700円。

舞台は1980年代の南部。シスター・ヘレンは文通するルイジアナ州立刑務所(アンゴラ)の死刑囚ジョセフ(ロサンゼルス出身のバスバリトン、ライアン・マキニー)と面会し、恩赦嘆願から刑執行まで支えていく。
イヴォ・ヴァン・ホーヴェの演出は、前奏曲中の映像で犯行を見せるもの。明示しないもののジョセフの犯行を前提に、自らの罪への恐怖、認め悔いることで得られる心の平穏に焦点を絞っていて、効果的だ。シスターが思わず車を飛ばしちゃって、背後のスクリーンにパトカーの映像が写り、シームレスに警官が現れるシーンが面白く、笑いを誘う。ローレンス・オリヴィエ賞やトニー賞を得たオランダ出身の才人とか。
ベッドやデスクなど装置はシンプル。全体に抽象的で、「真実があなたを自由にする」というテーマと主演ふたりの愛をくっきりと。深夜、教会で苦悩するヘレン、刑務所で腕立てするジョセフが交互に歌うシーンの映像も巧い。大詰め執行のシーンだけがやけに具体的で、ショッキングだったけど。なにせ関係者に公開されてるんだもの。ここは端的に、死刑制度への疑問を提示したのかな。

ディドナートがてきぱきしたおばちゃんから、弱々しさまで表現して、とにかく圧巻。簡素なグレーのワンピースに、すっぴんみたいだし! 対するマッチョなマキニーも大健闘。映画版のショーン・ペンが色っぽく、そりゃスーザン・サランドン惚れるよね、となっちゃうのと比べ、むしろ無骨でとっつきにくい印象なのが説得的だった。
初演でシスターを演じたというベテランメゾ、スーザン・グラハムがジョセフの母で登場して、存在感を発揮。貧しく愚かだけど、切実だ。ライブビューイングでずっと華やかな案内役だったのが信じられません。仲間のシスター・ローズ役、黒人ソプラノのラトニア・ムーアに愛嬌があり、被害者の父オーウェンのロッド・ギルフリー(バリトン)も、揺れる心理を表現していい声。

今季のライブビューイングは本作に続き、「マルコムX」、メキシコオペラと現代物3連発で、新しいファンを開拓する姿勢がくっきり。ゲルブ総裁、すっかりオネエで大人気ネゼ=セガンも、インタビューで今日的テーマを取り上げる意義を強調していた。ひるがえって歌舞伎はアニメ原作やCGのケレン全盛で、それも悪くないけれど、こんな深く大人っぽい表現にも挑戦してほしいものです。
お楽しみ特典映像で、NY州シンシン刑務所での特別公演のドキュメンタリーが流れたのにはびっくり。米国恐るべし。案内役はリアノン・ギデンズ。知らなかったけどフォーク・カントリー歌手で、今年、イスラム系奴隷の生涯を描いたオペラ「オマール」を共作してピュリッツァー賞を得た才媛なんですねえ。

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