無駄な抵抗
無駄な抵抗 2023年11月
前川知大作・演出の新作は、踏みつけにされた者の苦悩と、立ち上がる決意を力強く描く。池谷のぶえ、松雪泰子の女優対決が素晴らしい。いつもの思考を刺激するSFではなく、個人が抱えるマイナスの感情がストレートに前面に出ていて、正直かなり辛かったけど。前川さん、作風を変えつつあるのかな… 演劇好きが集まった感じの世田谷パブリックシアター、前のほう上手端で8500円。休憩無しの2時間。
お馴染み土岐研一の美術は、古代劇場を思わせる石造り風、半円形の階段。なぜか電車が止まらなくなった駅前の広場という設定が、理不尽な運命を象徴する。
歯科医の芽衣(池谷)は級友だった桜(松雪)のカウンセリングを受け、かつての桜の予言に縛られて生きてきたと告白。徐々に父母や兄(盛隆二)との歪んだ関係、町の実力者で、入院中も探偵・佐久間(安井順平)を雇ってまで芽依を監視する伯父・吾郎の非道が明らかになり…
2019年「終わりのない」に続いて、今回はギリシャ悲劇「オイディプス王」に着想を得ている。ベタなドロドロ話が、様々な告発が続く現代の物語としてむしろ直裁過ぎて、観ていて息苦しかった。
傷を隠して地味に生きてきたけど、芯の強い池谷と、華やかでずけずけ踏み込みながら、凜として優しさもある松雪。二人の対照的なキャラ、緊迫したやりとりは素晴らしい。文句なしに巧いです。また、佐久間と組んで真相に近づいていく吾郎の孫を演じる穂志もえかが、細身で溌剌としていて、いい。初舞台で、海外ドラマにも出演しているとか。楽しみな女優さんが、また一人。
芽依をお得意とする運命のホスト渡邊圭祐(今年の「アンナ・カレーニナ」の恋人役ですね)、同じ施設出身の清水葉月(2022年「しびれ雲」もよかった)が、切なさと希望を表現して印象的。若い二人を見守る警備員の森下創、止らない電車に怒るカフェ店長の大窪人衛という劇団勢が、盤石な演技で状況を膨らます。そしてなんといっても、広場をウロウロするだけで「何もしない」大道芸人・浜田信也がさすがの存在感。
ホワイエには前川さんと、「終わりのない」の山田裕貴らしき姿も。
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