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ねじまき鳥クロニクル

ねじまき鳥クロニクル  2023年11月

村上春樹が地下鉄サリン事件の時期に発表した長編は、壮絶な暴力、人間性の暗部を描いて衝撃だった。そのエポックメイキングな原作を、いままさに暴力のただなかにあるイスラエルのインバル・ピント&アミール・クリガーが演出。なんとも複雑な思いがする舞台です。
2013年に観た「100万回生きたねこ」のピントらしく、コンテンポラリーダンスで描く不思議世界は、スタイリッシュだけどダークで不穏。ソファの背や壁の隙間から、ヒトがわらわらとわいてきて、終始ぞわぞわする。先日の「無駄な抵抗」に続いて、負の感情が圧倒的で、個人的にはちょっとノリきれなかったかな。
2020年にコロナで中止となった公演のキャスト・スタッフが集結。クリガーの脚本をベースに「マームとジプシー」の藤田貴大が脚本・作詞を担い、時にコミカルな音楽は「あまちゃん」の大友良英。東京芸術劇場プレイハウス、前の方下手寄りで1万1800円。休憩を挟んで3時間。

成河が掌に火をつけてみせて、全編を暗示する「痛み」を語って、幕が開く。失業中の岡田トオル(成河と渡辺大知)はいなくなった飼い猫を探して、近所の空き家に迷い込み、不登校の少女・笠原メイ(門脇麦)と出会って「ねじまき鳥さん」と呼ばれる。妻クミコ(お馴染みマームの成田亜佑美)から、傲慢な兄・綿谷ノボル(ミュージカルの大貫勇輔)に猫探しを相談したと聞いて反発しながらも、ノボルに紹介された霊能者・加納マルタ・クレタ(宝塚の音くり寿)に会ってお告げを受けたり、間宮元中尉(吹越満)から旧満州モンゴル国境での陰惨な体験を告白されたりするうち、なぜかクミコが忽然と姿を消してしまう。黒幕はノボルなのか?
トオルは手がかりを求めて、空き家の涸れ井戸(深層心理?)に降り、異世界のホテルにたどり着く。そこで赤坂ナツメグ(銀粉蝶)・シナモン(松岡広大)から満州の動物園での惨状を聞き、妖艶な電話の女(クミコのもう一つの顔?)と会う。次々に奇妙な人物が投げかける謎の言葉が、過去からずっと、この世界に存在する理不尽な暴力、その象徴であるノボルを指し示す。ついにトオルはバッドを握り、ノボルとの対決へ…

ノボルとクミコの心が隔たると、二人の間のテーブルが伸びちゃったり、鏡に映る渡辺を成河が演じたり、印象的な仕掛けが満載だ。なかでも吹越が暗闇で逆さ吊りになったまま、淡々と告白を続ける身体能力に圧倒される。一方、終盤のポストカードのシーンで、金髪が伸びてアラベスク模様になっている麦ちゃんが可愛くて、ちょっとホッとする。このピュアさは貴重だなあ。
トオルを2人で演じ分ける意図はちょっとわかりにくかったけど、なにかにつけ受動的なトオルが渡辺で、闘いを決意するもう一つのトオルが成河なのかな。大詰めで成河が、とるにたらない平凡な日常を守るため、歪んだ世界のねじを巻き続けることを語って、さすがの存在感だ。渡辺は歌も含めて、ずいぶん成長している感じ。あと、いつもながら成田の声が素敵。

ロビーに知人の学者に遭遇。外はすっかり秋空。

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