「修道女アンジェリカ」「子どもと魔法」
修道女アンジェリカ/子どもと魔法 2023年10月
新国立劇場オペラの2023/24シーズン幕開けは、プッチーニとラヴェルのダブルビル。「母と子」のテーマは通じる2作だけれど、作風はまるで違う。開幕にしては知名度が低く地味な演目かな、と思ったけど、変化に富んでいて楽しめた。沼尻竜典指揮の東京フィルハーモニー交響楽団が端正で、演出はお馴染み、お洒落な粟國淳。よく入った1Fセンターの、とても良い席で2万6730円。休憩を挟んで2時間半。
「修道女アンジェリカ」はモノトーンの静謐なセットで、鐘の音が印象的。閉鎖的で単調な修道院暮らしのなか、アンジェリカ(イタリアのソプラノ、キアーラ・イゾットン)のところへ、初めての来客がある。叔母の公爵夫人(フランス在住のメゾ、齊藤純子)が、妹の結婚が決まったので遺産を放棄せよ、と言いに来たのだ。7年前に未婚で出産し、家名を汚したことを責められても、アンジェリカは大人しくしているが、その息子は2年前に死んだと告げられて、ついに絶叫。ひとりになると絶望して毒をあおっちゃう。土壇場で自殺は大罪だと気がつき、合唱のなか、聖母マリアに慈悲を乞いながら息絶える。
マリアと息子が現れる奇跡をあえて明示せず、いまわのきわにアンジェリカがみる幻影とする悲しさ。公爵夫人が冷酷なようでいて、立ち去りがたさを見せるなど、それぞれの女性の葛藤を繊細に描く。プッチーニの晩年、「ジャンニ・スキッキ」などと並んで1918年にメトロポリタン歌劇場で初演された三部作のひとつで、宗教を題材にしつつ母の悲痛がリアルに迫ってくる。
大柄のイゾットンが出色。アリア「母もなしに」など圧倒的な声量でドラマチックに舞台を牽引し、大きい拍手を浴びてました。昨年、メトロポリタン歌劇場デビューも果たしたそうです。
「子どもと魔法」は一転、カラフルでキッチュなファンタジー。お母さん(齊藤純子)に小言を言われたやんちゃな男の子(フランスの若手ソプラノ、クロエ・ブリオ)が、周囲のものに当たり散らし、不思議が起きて反撃されちゃう。椅子や柱時計、お茶期器、暖炉の火、本の中のお姫様、算数、猫たち…。でも子どもが庭に出て、けがをしたリスを手当てする優しさをみせると、動物たちが家に連れ帰ってくれ、子どもが「ママ!」と呼んで幕となる。
曲は繰り返しのリズム感に加えて、モダンなラグタイム風、シャンソン風、さらにはオペラのパロディーと賑やかだ。東洋の茶器の歌詞では「ハラキリ、セッシュー」も飛び出しちゃう。1925年初演で評判をとったけど、その後のパリ公演では賛否両論だったとか。
映像を駆使した演出で、小柄なブリオが終始躍動し、チャーミング。河野鉄平(バスバリトン)や青地英幸(テノール)、三浦理恵(ソプラノ)らが、面白いかぶり物で次々登場し、齊藤はシルエットと声だけだけど、こちらでも存在感がありました。
客席には高校生らしい団体も。ホワイエには飯守泰次郎、ステファン・グールド追悼のパネルが。ワーグナーではずいぶん楽しませて頂きました…
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