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「妹背山婦女庭訓」

10月歌舞伎公演 通し狂言「妹背山婦女庭訓」 第二部  2023年10月

初代国立劇場さよなら特別公演のラストは、エキセントリックなキャラばかり(プログラムの大島真寿美さんの解説より)の大定番「妹背山婦女庭訓」の後半。揃い踏みの大詰めに、これまでの感謝と新生国立劇場に向けた期待がこもって感慨深かった。それだけに御大・菊五郎さんの休演が残念だったけど。本館大劇場のやや後ろ上手寄りで1万4000円。休憩2回を挟み3時間半。

序幕は布留の社頭の場「道行恋苧環」で、日本画のような舞踊から後半、子供っぽい恋のバタバタが笑いを誘う。近松半二ものとして、軽快な竹本連中の安定ぶりが嬉しい。季節らしい紅葉のセットに、俳優陣は次代を背負うメンバーが揃う。橘姫の米吉が以前よりほっそりした感じで、優しくて、いい赤姫ぶり。モテモテ求女(実ハ藤原淡海)の梅枝はノーブルで謎めいているけど、やっぱり女方のほうが光るな。セットが明るくなって、元女を追いかけるお三輪の菊之助登場。この2人と並ぶと、ちょっと貫禄が多めか。

休憩でお弁当をつつき、いよいよお三輪の悲劇となる二幕目・三笠山御殿の場。入鹿の歌六は声に張りがあって、怪物というより生き生きした造形が面白い。鱶七(実ハ金輪五郎)の芝翫は金襴の武将姿に転じ、長袴を引き裂いてかついで引っ込んじゃったり、相変わらず芝居ならではの奇想が、おおらかでいい。謎の登場人物、豆腐買おむらの時蔵が余裕たっぷりだ。玄蕃に彦三郎、弥藤太は萬太郎。
短い休憩を挟んで大詰・三笠山奥殿の場。十握の宝剣が龍に変じるところがちょっとチープだけど、最後はまた紅葉いっぱいの入鹿誅伐の場となって、アクロバティックな立ち回りが痛快だ。菊之助による采女(うねめ)局の八咫鏡が威力を発揮し、代役・時蔵の鎌足が焼鎌をふるってあれよあれよ。上演は稀だけど、入鹿のラスボスぶり、物語がいきなり大状況に転じる「セカイ系」のストーリーは現代的です(再び大島真寿美)。大判事は権十郎。芝翫が劇場の未来への期待を語って、大団円となりました。

偶然にも隣に座ったお年寄が、国立劇場の設計・監修に当たったかた、御年93歳!で、「閉場前に観ておきたくてね」と。花道の位置、全自動の回り舞台・スッポンに抵抗した旧世代俳優とのバトルなど、楽しく思い出を聴かせて頂きました~
プログラムには役者たちが、国立劇場への思いを綴った色紙を寄せていて、どれも個性的で面白い。東蔵の「企画の若々しさ」とか、9月に亡くなった猿翁のどでかい「感謝」とか、右近のお茶目なびゃんびゃん麺(56画)や七之助の「バイバイ」とか、丑之助(菊之助の息子)の几帳面な安徳帝の絵、対照的に眞秀(寺島しのぶの息子)の不思議な赤い草木の絵とか。

思えば、個人的には2003年の志の輔さんから始まり、文楽鑑賞でずいぶん通った劇場です。軸は住太夫さん、簑助さんから最近は玉助さんになりました。歌舞伎ではなんといっても2012年、先代團十郎の熊谷が忘れられないし、2016年開場50年の3ヵ月連続忠臣蔵通しが見応えたっぷりだった。2019年に菊五郎さんの正月公演初日を体験して、格好良い吹き抜けのロビーで、めでたい鏡開きを見物したのは、文句なしに楽しかったなあ。この年は菊之助&梅枝の関扉も良かったし、2020年コロナ初期の大変な状況で、文珍さんを聴いたのも、今となっては懐かしい… ずいぶん先になりそうだけど、新開場を楽しみに。それまで厳しいだろうけど、伝統芸能を応援するぞ~

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